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PACS 環境における患者情報誤入力の危険性と対策
PACS 環 境 に お け る 患 者 情 報 誤 入 力 の 危 険 性 と 対 策 近藤 啓介 医 療 画 像 を デ ジ タ ル 化 し て ネ ッ ト ワ ー ク に て 保 存 ・ 管 理 す る Pi cture Archiving and Communication System ( PACS )が 普 及 し て き て い る 。 PACS 環 境 下 に お い て 、 大 量 の デ ジ タ ル画像を有効に活用するためには、撮影した患者の画像が正しい場所に保存されることが 重 要 で あ る 。 し か し 、 患 者 の ID 番 号 や 氏 名 な ど の 患 者 情 報 の 誤 入 力 が 起 こ れ ば 、 撮 影 し た 画像は、間違った患者の電子フォルダに保存されることになる。このようなファイリング ミスの発生実態や危険性を示し、対応策のひとつとして患者自動認識システムを紹介する 1. 緒 言 し 、患 者 の 取 り 違 え や 患 者 ID の 誤 入 力 な 1994 年 に 厚 生 省 か ら「 エ ッ ク ス 線 写 真 な どによって、正しく保存されないという どの光磁気ディスク等への保存について」 現 象 が 存 在 す る 。 例 え ば 、 Fig.2 -1 に 示 す の通知があり、X線、CT、MRIなどの ように、A さんを撮影したときに患者情 医療画像をデジタル化してネットワークに 報を誤って入力して B さんと認識された て 保 存 ・ 管 理 す る Picture Archiving and 場 合 を 考 え る 。A さ ん を 撮 影 し た 画 像 は 、 Communication System ( PACS ) が 普 及 し て B さんの画像として画像サーバに転送さ き て い る 。PACS 環 境 下 に お い て 、大 量 の デ れ保存される。B さんの診察時には、画 ジタル画像を有効に活用するためには、撮 像サーバから誤って保存された A さんの 影した患者の画像が正しい場所に保存され 画像が出力(表示・印刷)されて医師に る こ と が 重 要 で あ る 。 し か し 、 患 者 の ID 提示される。その結果、誤診などの医療 番号や氏名などの患者情報の誤入力が起こ ミスや事故につながると考えられる。こ れば、撮影した画像は、間違った患者の電 のように画像サーバに誤って他人の画像 子フォルダに保存されることになる。この が 保 存 さ れ る こ と を「 フ ァ イ リ ン グ ミ ス 」 ようなファイリングミスの発生実態や危険 と呼ぶ。 性を紹介する。また、その対応策にはコン ピュータシステムなどの客観的な判断が有 効である。対応策のひとつとして、現在研 究開発している患者自動認識システムの手 法 [1]∼ [4]に つ い て 紹 介 す る 。 2. 画像情報の誤保存の危険性 2.1. 画像情報の誤保存の発生状況 PACS 環 境 で は 患 者 ID を 基 に 画 像 サ ー Fig .2-1 バへ画像情報を転送し保存される。しか 2.2. ファイリングミスの発生 医療現場における患者取り違え状況 次に患者を認識する手法について説明す る。現在画像と過去画像に対して、以下に 示 す (a )∼ (d )の 処 理 を 行 う 。(b)の 前 処 理 を し な い 場 合 を 手 法 1、 前 処 理 を す る 場 合 を 手 法 2 と す る 。( Fig.3-1 参 照 ) (a) 画像サイズの変更 Bilinier interpolation 法 に よ り 画 像 サ イ ズ を 64× 64 に 変 更 す る 。こ れ は 、計 算 時 間 を 短 く す る た め で あ り 、64×64 ま で 縮 小しても認識率の精度はほとんど変わらな いことを確認している。 (b) (a) 画像サイズの変 (b) 前処理 前処理(エッジ強調+平滑化処理) 現 在 画 像 と 過 去 画 像 に 対 し て Sobel filter を 用 い て 、 64 × 64 の 画 像 に エ ッ ジ 強調処理を行う。次式にオペレータと計算 式を示す。 f = f x2 + f y2 ª−1 ° « ° f x = «− 2 °° «¬ − 1 ® ª1 ° ° fy = « 0 « ° «¬− 1 °¯ … (1) 0 1º 0 2»» »¼ 0 1 2 1º 0 0 »» − 2 − 1»¼ … (2) 次に、エッジ強調処理におけるノイズを減 らすために平滑化処理を行う。オペレータ を次式に示す。 ª1 1 1º 1« f s : «1 1 1»» 9 «¬1 1 1»¼ 画 像 処 理 の 流 れ を Fig.3-2 に 示 す 。 … (3) Fig.3-2 画像処理手順 (c) 相 互 相 関 係 数 の 計 算 取 り 出 し て 相 関 値 の 計 算 を 行 う 。 合 計 64 現在画像と過去画像の類似度を相互相関係 組の画像の相関値の中から最大の相関値を 数(相関値)によって計算する。以下に計 とる移動画像を求める。 算 式 を 記 述 す る 。 現 在 画 像 を A、 過 去 画 像 次に平行移動で最大の相関値となった平 を B、 2 つ の 画 像 の 相 関 値 を C と す る 。 現 行移動画像に対して回転の補正を行う。画 在画像と過去画像のマトリックスサイズは 像 の 重 心 を 回 転 軸 と し て 、現 在 画 像 を -5 度 a ・ b は各画像のピク セル値の平均値、 σA・ σBは各画像の標準 か ら +5 度 ま で 1 度 毎 に 回 転 さ せ 、過 去 画 像 偏差を示す。 算 を 行 う 。合 計 11 組 の 中 で 最 大 の 相 関 値 を i, j で あ る 。 こ こ で 、 C= 1 IJ J I ¦¦ {A(i, j ) − a }{B(i, j ) − b } σ Aσ B j =1 i =1 a= b= 1 IJ 1 IJ J J … (5) I … (6) 4. 結果 れている肺ガンの集団検診で撮影した 1000 人 の 被 験 者 に つ い て の 現 在 画 像 1000 j =1 i =1 I 枚 と 過 去 画 像 1000 枚 の 胸 部 X 線 写 真 を 利 2 ¦¦ {A(i, j ) − a } j =1 i =1 … (7) IJ I として決定する。 本研究で用いた画像は、岩手県で実施さ ¦¦ B(i, j ) J σB = … (4) j =1 i =1 J σA = 求め、これを現在画像と過去画像の相関値 I ¦¦ A(i, j ) と重なった部分の画像に対して相関値の計 2 IJ て 撮 影 し た も の で 、 画 像 サ イ ズ は 176 0 × 1760 ( ピ ク セ ル サ イ ズ 0.2m m )、 階 調 数 は ¦¦ {B(i, j ) − b } j =1 i =1 用 し た 。 こ の 画 像 は 車 載 型 FCR 装 置 を 用 い … (8) 1024 階 調( 10 ビ ッ ト )で あ る 。こ の 画 像 デ ータベースを基に、同一患者の現在画像と 過 去 画 像 の 組 み 合 わ せ 1000 組 ( 同 じ 患 者 相 関 値 は 、-1.0 か ら +1.0 の 値 を と り 、ま っ 1000 組 )と 、わ ざ と 現 在 画 像 と 過 去 画 像 が た く 同 じ 画 像 の 場 合 に は 最 大 値 の +1. 0 の 異 な る 患 者 に な る よ う に 作 成 し た 1000 組 値となる。 ( 異 な る 患 者 1000 組 )を 作 成 し 、比 較・ 検 討した。 (d) 補 正 同 じ 患 者 1000 組 か ら 計 算 し た 相 関 値 の 現在画像と過去画像を比較すると、撮影 ヒ ス ト グ ラ ム と 、異 な る 患 者 1000 組 か ら 計 時のポジショニングの違いや肺の含気量の 算 し た 相 関 値 の ヒ ス ト グ ラ ム を 違いにより、同じ患者の現在画像と過去画 Fig.4-1,4-2 に 示 す 。 像であっても、相関値は低く計算される。 そこで、2つの補正処理を行う。 同じ患者のヒストグラムと異なる患者の ヒストグラムは比較的よく分離している。 最初に、画像の平行移動に対する補正で そこで、これらのヒストグラムに対してし あ る 。移 動 量 は 画 像 全 体 の 8 分 の 1 と す る 。 きい値を設定し、2 枚の画像から計算した 現在画像を x および y 方向に 1 ピクセル毎 相関値がこのしきい値より大きければ同じ に平行移動し、画像の重なった部分だけを 患者と判別し、逆にこのしきい値より小さ して正しく警告を発した。しかし、正しい 謝いたします。 患 者 に も 誤 っ て 26 人 に も 警 告 を 発 し て い る。このシステムでは判別できなかった 3 References 人に対しては手法 1 と手法 2 を組み合わせ [1] 近 藤 啓 介 、 杜 下 淳 次 、 桂 川 茂 彦 、 ることにより、1 名は判別が可能になるこ 土 井 邦 雄 、「 胸 部 単 純 X 線 写 真 に お け る エ とが確認された。 ッジ強調画像を利用した患者自動認識法の 臨床現場においても患者自動認識システ ムは有効に動作することが確認されたが、 更なる認識率向上が必要である。 開 発 」、日 本 放 射 線 技 術 学 会 、第 59 巻 第 10 号 pp1277-1284、 2003. [2] 近 藤 彦,土井 6. 結語 啓 介 ,杜 下 淳 次 ,桂 川 茂 邦雄,“ソーベルフィルタに よるエッジ強調画像を用いた胸部単純 X 患者取り違えが発生している報告を紹介 線写真に対する患者自動認識の精度の向 し、その対策のひとつとしてコンピュータ 上 ” , 電 子 情 報 通 信 学 会 信 学 技 報 MI による客観的な判断が有効であることから、 2002、 pp107-110, 2002 . その方法として患者自動認識システムを研 究した。 認識手法は相互相関係数を利用してしき [3]Keisuke Kondo, Junji Morishita, Shigehiko Katsuragawa, Kunio Doi, “ Improvement of an automated patient い値により患者の判別を行う。また、前処 recognition method 理をしない手法 1 とエッジ強調処理をする radiographs using 手法2を提案し、2つの手法を組み合わせ images” , International Congress and ることにより、患者認識システムの性能を Exhibition 大幅に改善することが示された。 Radiology and Surgery ( CARS 2 002 ) , 本システムによって、患者の間違いなど for chest edge-enhanced Computer Assisted pp1032, 2002. に よ る 医 療 ミ ス が 発 生 し な い よ う に PACS [4] J. Morishita, S. Katsuragawa, K. のシステムに組み込まれるよう、更なる研 Kondo and K. Doi,“ An automated patient 究開発に努めたい。 recognition method based on an image matching technique using previous chest 7. 謝辞 患者自動認識システムの開発に協力して い た だ き ま し た 、 土 井 邦 雄 ( シ カ ゴ 大 学 )、 桂 川 茂 彦( 熊 本 大 学 )、杜 下 淳 次 先 生( 九 州 大学)に感謝いたします。 また、臨床テストに御協力いただきまし た、産業医大放射線科・放射線部の,小田 叙弘先生,渡辺秀幸先生,岡崎浩子先生, 中田 元教授,藤本啓司先生,村上誠一先 生,三菱スペースソフトウェアの崎様に感 radiographs in the picture archiving and communication system environment”, Med. Phys. 28(6), pp.1093-1097, 2001. [5] 西 谷 弘 、“ な ん と 病 院 の 患 者 さ ん の 三 分 の 一 に 同 姓 同 名 ! ”、日 本 ラ ジ オ ロ ジ ー 協 会広報誌「ラジオロジー」, 2004 No.2 、 pp .5 、