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入門講座抄録 - UMIN大学病院医療情報ネットワーク
入門講座 1 (撮影):一般 10月15日(金) 8:30 1 9:20 第1会場(大ホール) X 線の発生 医療法人邦友会 小田原循環器病院 宮﨑 茂 はじめに X 線管による X 線の発生は、陰極で発生させた熱 電子を高電圧で加速し陽極(ターゲット)に衝突さ ガラスバルブ コバールリング (硬質ガラス) (鉄合金ガラス接合) ターゲット ベアリング 陽極軸 せて X 線を発生させる。ターゲットから発生する X 線強度は I = K × V × I × Z (I:X 線強度、V:管 電圧、I:管電流、Z:物質の原子番号、K:定数)で表 2 される。X 線写真撮影において、X 線が被写体を透 過して得られる写真効果(radiographic effect:RE) n と撮影条件の関係は、 RE ∝ V × 2I × s (V:管電圧、 d I:管電流、s:撮影時間、d:撮影距離) で表される。 陽極回転子 ステム 集束電極 焦点軌道 焦点 (導入線) フィラメント X線 陰極スリーブ Fig.1 回転陽極 X 線管の構造 ターゲットは材質にタングステンが使用され、焦 1970 年前後の X 線発生装置は、制御盤に表示さ 点荒れを防止する目的で、レニウムまたは鉄を添加 れた管電圧、管電流および撮影時間の値と実際に発 した合金が用いられる。また、ターゲットの熱容量 生された X 線出力の値とは、かなりの隔たりがあっ を大きくするのに、モリブデンおよびグラファイト たので、理に適った撮影条件に対応した X 線撮影は を張り合わせたターゲットがある。 至難であった。しかし、現在の X 線発生装置は高精 また、X線管の大容量化に伴いベアリングの代わ 度の X 線制御が可能となったので、制御盤上の表示 りに液体金属を用いた、液体金属潤滑動軸受けX線 値にあった X 線出力が可能となり、理論に合った撮 管などが開発されX線CT、循環器用X線管として 影が可能となった。 使用されている。 1.X 線源装置 2.X線高電圧装置 X 線源装置は X 線管装置と X 線可動絞りを組み合 X 線管に供給する電気エネルギーの発生と制御の わせたものをいう。X 線管には、固定陽極 X 線管と 構成要素を組み合わせた X 線高電圧装置には、2 ピ 回転陽極 X 線管があり、X 線管装置は X 線管を防電 ーク形、12 ピーク形、定電圧形およびインバータ式 撃・防護形 X 線管容器に封入したものをいう。ここ などがあるがここでは、インバータ式 X 線高電圧装 では、回転陽極 X 線管について説明する。回転陽極 置について解説する。 X 線管の構造を Fig.1 に示す。 インバータ式 X 線高電圧装置は、X 線照射中に直 一般的な X 線管は陽極、陰極およびガラスバルブ 流電力を交流電力に変換して必要な高電圧を得る X から成り立つが、大容量 X 線管は、ガラスバルブの 線高電圧装置で、インバータの種類には、方形波形 代わりに金属を用いた金属外囲器 X 線管が多い。陽 と共振形がある。 極はターゲットの他に陽極を回転させるロータ(陽 極回転子) 、アノードシャフト(陽極軸)ベアリング 2.1 方形波形インバータ式 X 線高電圧装置 などから構成される。陽極は内部にある 2 個のベア 本装置の回路の一例を Fig.2 に示す。方形波形イ リングとアノードシャフトで支えられ、その先端に ンバータは、直流電圧をスイッチングして方形波の 傘状のタングステン板が取り付けられ、モリブデン 出力波形を得る方式である。 管電圧制御は、チョ の支軸によって回転子に固定されている。 ッパ・フィルタと呼ばれる直流電圧可変回路 (DC-DC コンバータ)とインバータ回路によって 入門講座 1 (撮影):一般 10月15日(金) 8:30 1 9:20 第1会場(大ホール) 行われる。チョッパ・フィルタ回路は直流電圧を変 れる。チョッパ・フィルタ回路を持たないので、装置 化させインバータ回路の入力電圧を設定管電圧に対 を小形軽量化できる。X 線照射中の管電圧は、高電 して正確に制御する。インバータ回路は直流電圧を 圧変圧器内の分圧器を通じて制御回路にフィードバ スイッチングし高電圧発生装置で昇圧しX 線管に高 ックされ常に設定管電圧と等しくなるように制御さ 電圧を印加する。この方式では、チョッパ・フィルタ れる。 とインバータの 2 回路が必要なため、機器の構成が 高電圧発生装置 AC-DCコンバータ 整流回路 Q1 電源 C1 X 線装置に必要な広範囲の撮影条件に対し正確に動 Q2 D1 D2 Q3 作する特徴がある。X 線照射中の管電圧は、高電圧 L D4 加熱 回路 インバータ駆動回路 ックされ、 チョッパ・フィルタ回路およびインバータ 計測 信号 撮影信号 回路が常に設定管電圧に保たれるように動作する。 撮影条件 撮影信号 kV,mA AC-DCコンバータ 整流回路 DC-DCコンバータ ブリッジインバータ チョッパ フィルタ L Q C1 Q2 Q3 Q4 チョッパ駆動回路 加熱 回路 インバータ駆動回路 計測 信号 PWM 撮影信号 撮影信号 kV,mA 電源電圧波形 CPU 制御回路 比較器 管電流設定信号 整流波形 フィルタ波形 チョッパ波形 一次 電圧波形 比較器 管電圧設定信号 管電流設定信号 電源電圧波形 インバータ 出力電圧波形 一次電流波形 二次電流波形 管電圧波形 Fig.3 共振形インバータ式 X 線高電圧装置 管電流制御回路および照射時間の制御は、方形波 形インバータ式で前述した内容と変わらない。 終わりに、この入門講座では、X 線の線質および 比較器 管電圧設定信号 CPU 制御回路 比較器 整流波形 管電流検出器 C D 撮影条件 分圧器 X線管 電源 Q1 高電圧発生装置 高電圧 整流回路 変圧器 管電流検出器 分圧器 C Q4 D3 発生装置内の分圧器を通じて制御回路にフィードバ 高電圧 整流回路 変圧器 X線管 複雑になりコストやサイズ的な面で不利であるが、 ブリッジインバータ X 線の発生に必要な X 線管について、一般的な X 線 管から最近の大容量 X 線管(金属外囲器 X 線管、液 体金属潤滑軸受け X 線管)の構造および動作特性に 管電圧波形 高電圧波形 Fig.2 方形波形インバータ式 X 線高電圧装置 ついて、インバータ式 X 線高電圧装置では、X 線出 力の各因子(管電圧、管電流、照射時間)の制御方 法などについて具体的に解説する。 管電流制御回路は通常インバータ制御を用いた半 導体交流加熱方式が用いられ、X 線管の管電流特性 に対応した非線形形制御が可能となった。 照射時間は、タイマ回路からの信号で、チョッパ・ フィルタとインバータの駆動回路を制御して行なわ れる。インバータ駆動周波数は数十 kHz と高周波化 され、管電圧の立ち上がり時間および遮断の遅れ時 間は極短く、高精度化されている。 2.2 共振形インバータ式 X 線高電圧装置 本装置の回路の一例を Fig.3 に示す。本装置は、 高電圧変圧器のL と共振コンデンサ C を用いた共振 現象を利用したもので、出力波形は正弦波となり、 そのときの共振周波数は となる。 この方式はスイッ チング素子の損失が少なく、サイリスタの強制消弧 回路が不要という特長がある。管電圧の制御は、イ ンバータの駆動周波数およびパルス幅を変えて、直 流から交流変換する際に出力電圧を制御して行なわ 略歴(プロフィール) 1949 年 1 月 1 日生まれ 1970 年 3 月 東京都立診療エックス線技師養成所 専攻科卒業 1970 年 4 月 東邦大学医学部付属大橋病院勤務 2003 年 4 月 東邦大学医学部附属大森病院勤務 2009 年 4 月 小田原循環器病院 勤務 入門講座 2 (医療情報) 10月15日(金) 8:30 1 9:20 第2会場(萩) システム構築の基礎(PACS) 東北大学病院 診療技術部放射線部門・メディカル IT センター 坂本 博 【はじめに】 ージメントサイクルのひとつで Plan(計画)→ Do 電子化された医用画像は、この 20 年の間にデ・ (実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の 4 段 ファクト・スタンダードとなった DICOM 規格によ 階を繰り返すことで品質の維持向上を図る目的があ ってシステム間の相互接続が容易となった。近年の る。さらに、プロジェクト調達マネジメントの観点 フ ィ ル ム レ ス 時 代 に 至 っ て は 、 ま さ に PACS からは、購入・取得計画を行うステップで WBS (Picture Archiving and Communication System) (Work Breakdown Structure)の手法を用い成果 が放射線部門業務の基幹的インフラとして機能して 物をできるだけ細かい単位に分解し階層的に構造化 いるのではないだろうか。さらに病院情報システム することが求められる。 (PMBOK ガイド第 3 版) の一部となった PACS の良し悪しが、病院全体の診 療放射線業務の質に依存する場合も少なくない。本 入門講座では、システム構築の基礎として PACS の 構築方法や課題について、最近の傾向も踏まえなが ら解説を行う。PACS に興味のある会員諸氏、これ から導入を予定している施設、リプレイスを検討し ている医療機関まで、本講座が会員の一助となれば 幸いである。 【PACS の機能と役割】 PDCA サイクル概念図 この手法は、PACS 構築においても次のように考 初期の PACS は、モダリティから発生する画像を えることができる。従来の業務および PACS 導入後 保管することが最大の役割であり、 “=DICOM 画像 に加わる業務、そのすべてをワークフローとしてド サーバ”といった意味合いが強かった。その後、 キュメント化を行い「見える化」する。さらに細分 Viewer としての機能が充実し、最近では、ストレー 化した PACS の機能と照合し、ワークフローと機能 ジの大型化が進み大容量の Thin slice、 Volume data 範囲の方向性を明確に示す。これがシステム構築の 画像も容易に保管可能である。従来、独立型の高価 第一ステップであり、最も重要な作業となる。 な専用 WS(Work Station)で行われていた多断面 の再構成画像や 3D 画像処理技術を備える機能や、 【要求仕様と費用対効果】 レポート作成管理など、PACS は複合的に様々な機 PACS の機能と範囲が決定すれば、如何に効率的 能を有するシステムへと進化している。さらに、フ に無駄なく要求仕様に反映させるかが課題となる。 ィルムレス化によって「検像」の機能や「可搬型媒 サーバ,ハードディスクの構成,ストレージ容量,高精 体の作成、画像取込」の機能も合わせて導入するな 細モニタの性能と台数等の具体的な数値情報に加え、 ど、情報連携や運用も複雑化する傾向にある。以上 バックアップ処理,保守に関しても考慮する必要が から PACS の構築では、どのような機能を導入し構 ある。費用対効果を上げるためには、部分的に過剰 築するかを明確にすることが重要な課題となる。 投資や非効率的な構造にならないように注意し、シ ステムリソースの有効利用を行うことが課題である。 【業務分析とワークフローの「見える化」 】 また、シームレスな運用実現のためには、ネットワ 一般的なシステム構築の場合は、PDCA サイクル ークインフラの整備も合わせて行う必要もあり予算 が重要視される。PDCA サイクルとは典型的なマネ と調達の範囲のバランスを見極めることが重要とな 入門講座 2 (医療情報) 10月15日(金) 8:30 1 9:20 第2会場(萩) 安全管理に関するガイドライン第 4.1 版」 (厚労省) る。 加えて 1 点バランスで重要なのは、要求仕様を作 や「画像情報の確定に関するガイドライン」 (JSRT) 成する構成員と組織である。PACS の機能と範囲に は、運用の指針+システム構築のための参考書とし 合わせた最適な構成員の選出は必須事項と考える。 て大いに有効である。 【デジタル画像と DICOM の基礎知識】 【まとめ】 PACS 構築では、専門的な知識として画像保存・ ひと昔前の PACS 構築では、ベンダが提供する箱 管理の基礎的な項目は理解しておきたい。モダリテ 物システムを導入する場合が多かった。しかし、現 ィ別のデジタル画像の画像容量の計算に始まり、 代 PACS では多目的、多用途で様々な機能が要求さ DICOM の基本である SCU (Service Class User), れ、システムの導入・構築は一筋縄では無い。マル SCP (Service Class Provider), SOP (Service チベンダの多機能の PACS 構築であればなおさらで Object Pair) 等 の 用 語 に 加 え Storage, Query/ ある。地道で時間と労力を要する作業を繰り返し業 Retrieve, Storage Commitment, MWM(Modality 務の「見える化」を行い、ワークフロー、システム Worklist Management ) ,MPPS ( Modality 機能を階層的に分解し構造化をする。その上で予算 Performed Procedure Step)といったサービスクラ 内での最終的なシステム到達点と必要な機能を明確 スに至るまで理解しておく必要がある。さらに要求 にすること。それが、失敗しないシステム構築の近 仕様書の作成や稼働後の管理のためには、DICOM 道であると考えている。 規 格 の 適 合 性 宣 言 書 : CS (Conformance Statement)を読める知識も必要になるだろう。 【HIS,RIS 連携と標準化】 現代 PACS は、単独で稼働するというケースは少 数派で、HIS,RIS 等の関連システムと患者プロファ イル情報、オーダ情報、タイムスタンプなど情報連 携を取りながら稼働する場合が一般的である。そこ には、どの施設でも共通して使えるような標準的な 情報連携の仕組みが存在する。例えば HIS から RIS への撮影依頼情報の連携、RIS からモダリティへの 患者情報の連携、モダリティから PACS への画像連 携といったフローがそれにあたる。この共通部分の システム連携の仕組みを標準ガイドラインとして提 案する活動が IHE(Integrating the Healthcare Enterprise)である。例えば IHE の通常業務ワーク フローに関するガイドラインが多くの施設で採用す ることになれば関連する連携の仕組みについて費用 削減の可能性も期待できる。 【ルール作りとガイドラインの利用】 実際の業務分析、要求仕様書作成、構築作業の過 程では運用ルールが曖昧な点や情報の扱いが不明確 など、従来、気が付かなかった問題も浮上する。こ の点はシステム構築後に何らかの不具合が生じる場 合も少なくない。個人情報、責任所在、相互運用性、 安全管理、真正性の確保など「医療情報システムの 略歴(プロフィール) 1967 年 06 月 宮城県仙台市生まれ 1995 年 03 月 東北大学医療技術短期大学部卒業 1995 年 04 月 東北大学病院放射線部勤務 2007 年 04 月 同 メディカル IT センター兼務 2010 年 03 月 東北大学医学系研究科保健学専攻 画像診断学分野修士課程修了 役 職 2003 年 04 月 東北大学病院放射線部主任 2007 年 04 月 JSRT 医療情報分科会委員 2009 年 04 月 JSRT 医療情報関連小委員会委員 入門講座 3 (撮影): CT 10月15日(金) 8:30 1 9:20 第3会場(橘) CT 造影剤に関する基礎知識 県立静岡がんセンター 中屋 良宏 【はじめに】 【検査前におこなうべきこと】 近年 X 線 CT 装置は飛躍的進歩を遂げているとは いえ、その分解能は CT 造影剤を必要としないレベ ルには達してはいない。 そのため現在も CT 検査に CT 造影剤は必要不可 欠な医薬品となっている。 CT 造影剤は、血管もしくは細胞の間質に侵入し 組織間の X 線吸収値に差をつけ、臓器の鑑別や腫瘍 1.インフォームド・コンセント 4) 検査内容の説明と検査の必要性、造影剤投与時の 一般的な症状、検査に伴う合併症・副作用発生率、 リスクファクター5)などの説明をおこない、検査に 対する同意書を取得する。 2.問診 アレルギー歴、検査経験と副作用歴、現在使用中 の浸潤範囲の把握、腫瘍などの推測のために使用さ の薬剤、妊娠の有無などの確認をおこなう。 れる。このときの造影剤の拡張のスピードや停滞の 3.検査実施前の事前準備 程度はそれぞれの臓器や組織、腫瘍の特性により異 なり、造影剤の CT 値に影響を与える要因はさまざ まに存在する 1)ため、十分な人体の循環動態の理解 2)が必要となる。 また、CT 造影剤はその薬理作用として、浸透圧 毒性、化学毒性、アレルギー様作用のあることが知 救急に備えた医療機器・医薬品の確認および被験 者の健康状態を把握する。 4.緊急時の院内応援体制の整備 マニュアルの作成、連絡体制、医療従事者の役割 分担の整備をおこなうこととともに、定期的な訓練 を必要とする。 られ、人体に有害が物質であることから、その対処 法も十分理解しておく必要がある。 【検査の実施】 ここでは、臨床現場で造影剤を使用した CT 検査を 1.目的疾患に適合した検査方法の選択 安全かつ適正に実施するために必要な基礎的な知識 について解説する。 TDC の理解(造影効果)6)、注入方法、撮影時間、 撮影タイミング、造影剤量 7) 、撮影時相などを判断 する。 【造影剤の特徴】 1.造影剤の開発 2.注入時のポイント 嘔吐の有無、顔色の変化、呼吸の状態など、被験 1918 年のヨウ化ナトリウムを用いた初の血管造影 者を良く観察する。 以降、1970 年代には非イオン性造影剤、1980 年に 3.副作用 は非イオン性ダイマー型造影剤が開発された。その 即時性副作用と遅発性副作用について理解すると 開発の歴史とともにその造影剤の特徴について説明 ともに、軽度(吐き気、かゆみ)から中等度(嘔吐、 する。 失神発作) 、重度(ショック、心停止)に至る各々の 2.造影剤の物理・化学的性質 副作用について、その処置法 8)を把握することが重 造影剤ごとに浸透圧、粘稠度、親水性が異なり、 これらは人体に悪影響を及ぼす重要な因子となる。 3.造影剤の必要性 要である。 4.血管外漏出 原因を究明するとともに、防止するために器具の 造影剤を投与することは、 疾患の有無 (存在診断) 、 選択や注入時の穿刺部位や圧力計の観察が重要であ 疾患の種類(質的診断) 、疾患の進行度(進行度診断) る。また血管外漏出時に最適な対処をおこなうため を判断する 3)上で必要である。 の処置法を理解しておく必要がある。 入門講座 3 (撮影): CT 10月15日(金) 8:30 1 9:20 第3会場(橘) 【検査後におこなうべきこと】 参考文献 1.検査後の指導 1) 市川智章編著:CT 造影理論,医学書院,2004. 2) 中屋良宏:よりよい検査のための読影講座 水分の摂取の必要性や遅発性副作用の可能性と対 -CT・MRI 編-(肝臓 CT 検査),日本放射線技 処法の説明をおこなうことが必要である。 術学会,68-77,2008. 【造影剤腎症について】 3) 疾患への Helical CT の応用 -造影検査の特徴 1.定義 ヨード造影剤投与後 3 日以内に起こる急性の腎機 能障害をいう。 について-,日独医報 38(3) , 1993. 4) 2.血清クレアチニン値と e GFR 比例関係にはない 関口隆三,中屋良宏,森山紀之,ほか:肝臓・膵臓 適 正 使 用 推 進 ガ イ ド FAQ,MEDICAL VIEW,2010. 9)。血清クレアチニン値が低い ほどクレアチニン 0.1 刻みに対する e GFR の変動は 早川克己,鳴海善文,桑鶴良平,林宏光:造影剤の 5) Morcos SK, Thomsen HS, Webb JAW: 大きくなる。 Contrast-media-induced nephrotoxicity: A 3.ビグアノイド系糖尿病薬 contsensus Radiology, 9:1602-1613,1999. 塩酸メトホルミン、塩酸ブホルミンなどの中止が 必要である。 report.European 6) 中屋良宏:臨床に役立つ消化器立体画像のつく 4.予防 りかた(竜祟正編集)-造影方法と撮影方法-,医 十分な輸液が重要である。 学図書出版,23-28,2005. 5.治療法 7) 急性腎不全と同様の治療法が必要となる。 八町淳,石田智一,山口功,中屋良宏 : 造影剤使 用量適正化への取り組みとその展望.Curie 座 談会,1-10,2002. 【まとめ】 8) CT 造影検査は、臨床的に価値のある画像を取得 するために、体内動態や疾患の特徴を良く理解して 目的にあった注入および撮影をおこなうことが重要 隈崎達夫,他:造影剤副作用対策ハンドブック, 第一三共株式会社,2009. 9) 笠原正登:造影剤腎症-造影剤が腎臓に及ぼす影 響とその対策-,Rad Fan ,Vol.8 No.1, 2010. である。 さらに CT 造影剤は人体に有害であるため、安全 かつ有効に使用することが必要となる。 CT 装置の進歩とともに造影剤を使用しない新た な装置の開発や人体に無害な造影剤の開発が望まれ るところではあるが、現状は CT 造影剤の基礎知識 を身につけて安全に業務を遂行していただくことが 望まれる。 略歴(プロフィール) 1959 年 2 月 12 生まれ 職歴 国立療養所松戸病院 国立がんセンター東病院 県立静岡がんセンター 入門講座 4 (医療安全1) 10月15日(金) 8:30 1 9:20 第5会場(桜2) 医療機器の精度管理術と安全管理術 社団法人 日本画像医療システム工業会 安全性委員会 平出 博一 1.はじめに 医療の安全安心に対する関心・要求は急速に高ま りつつある。患者に安全安心に受診していただき、 予定通りの診療目的が達成されるためには、装置の 導入計画、受け入れ、運用開始後の各段階で種々の アクションが求められる。 ここでは、汎用 X 線透視診断装置を例として導入 から運用までの安全のポイントを紹介する。 2.安全の考え方 図1 ハインリッヒの法則 「安全」とは、 「リスクを許容可能なレベルまで低 減させること」と言われている。 安全問題でしばしば引用される「ハインリッヒの 法則」に一部手を加えたものを図1に示す。 3.装置導入計画時のポイント 汎用X 線透視診断装置導入に際しての検討項目例 を示す。 この図は「重大事故」から「不安全・不安定な状 ・ 電源設備 態」までを各階層毎の比率で示したもので、リスク ・ 空調設備 を低減させるためには実際に発生した事故のみでな ・ 施設内ネットワークへの接続 く、 「ヒヤリ・ハット事例」や「ヒヤリ・ハット事例」 ・ 装置本体と周辺機器の配置と設置スペース の温床である「不安全・不安定な状態」に関する情 ・ 床の耐過重 報まで収集して、PDCA(Plan-Do-Check-Action) ・ 撮影室全周の遮へい 活動を行うことで、 「不安全・不安定な状態」を極力 ・ 監視窓の位置と大きさ 排除することによりリスクを低減できると考えられ ・ 装置搬入時の搬入口と搬入路 ている。 ・ ケーブルダクト・ピットの位置と大きさ 電源設備を例に挙げれば、導入計画時に装置が必 要とする適切な電力設備とアース(接地)設備を用 例えば、電源設備では、近年空調設備を始め、各 意するよう計画(Plan)して準備(Do)し、受け入れ時 種の設備や装置で電力の制御用にインバータと呼ば は所定の設備となっていることを確認(Check)して、 れる部品の使用が増加していることに伴い、瞬間的 電源電圧が時々降下するようなことがあれば設備を に電源電圧が規定値以下に降下する可能性が従来よ 改善(Action)する。 り増加し、その結果、パソコン系が断続的に処理続 PDCA の結果、例えば「不安全・不安定な状態」 行不能状態(ハングアップ)となり、撮影した画像 が 3000 件あったとして、この状態を 1/10 の 300 件 データが利用できなくなって再撮影に至ること等が にすれば、予想される事故発生件数は、30 件から 3 考えられる。 件に減少できる、という考え方である。 DICOM を含む各種の施設内ネットワークとの接 続では、画像データの転送速度や格納容量のみなら ず、付帯情報を含めて、データの消失や混在等を防 ぐためにも装置のネットワーク上の管理名の重複等 に留意が必要である。また、データの保存方法・周 入門講座 4 (医療安全1) 期にも留意が必要である。 10月15日(金) 8:30 1 9:20 第5会場(桜2) 終業時は、次回使用時のことを配慮して、装置を 所定の状態に戻すことと、感染症対策として清潔状 4.装置受け入れ時のポイント 態を維持する清掃も重要である。 業者による設置作業が完了した後、提供される各 定期点検は、装置の安全性や有効性を維持するた 種文書・データ等を確認し、適宜自ら動作や特性を めには非常に重要なものとなる。業者に委託して行 確認する際の項目例を示す。 うことをお奨めするが、その結果の確認及び装置の ・ 周辺機器を含む装置構成 設定が所定の状態に戻っていることの確認は必須で ・ 添付文書記載内容の確認 ある。また、定期的に交換する部品等についても留 ・ 安全事項記載内容の確認 意が必要である。 ・ 業者が実施した試験内容の確認 ・ 動作確認 理後の確認作業が適切であったかを確認する必要が ・ X 線特性確認 ある。また、定期点検時と同様、修理完了後、装置 ・ 画像確認 の設定が所定の状態に戻っていることの確認も必要 ・ 画像データ等転送動作確認 である。 また、添付文書に基づいて装置の[使用上の注意事 修理時は、業者による故障原因究明と処置及び修 6.おわりに 項]中の「禁忌・禁止」 、 「重要な基本的注意」 、 「相互 多岐にわたる安全管理項目のポイントを、短時間 作用」 、[保守点検に係る事項]等を確認することは特 で、かつ、一装置の例のみで紹介するが、日常業務 に重要である。 の中で装置をより安全な状態で使用していただく一 さらに、装置と踏み台等備品との干渉の可能性、 助となれば幸甚である。 立ち入り制限区域の表示、緊急停止機能動作の確認 も重要である。 5.運用開始後のポイント 添付文書に示された内容に従って、以下の点検等 を実施する。 ・ 日常点検(始業時・使用中・終業時) ・ 定期点検 ・ 修理時 始業時の点検としては、機構動作確認と透視・撮 影動作確認がある。 汎用 X 線透視診断装置の機構動作としては、肩当 て・握り棒・踏み台等の固定にガタ等の異常がない か、圧迫筒の動作や透視台各部動作時に異常音がな いか、近接操作卓等との干渉はないか等の確認が重 要である。 透視・撮影動作確認としては、エラー等の発生が なく、期待される画像が得られ、その画像が的確に 格納されることの確認が重要である。 使用中は、患者の状態観察に加えて、エラーが発 生した場合、患者等の安全を確保した後、修理作業 を迅速かつ的確にさせるためにも、エラー状態の記 録が重要である。 略歴(プロフィール) 1953 年 6 月 東京生まれ 1977 年 3 月 武蔵工業大学電気工学科卒業 1977 年 4 月 日立メディコ入社 2004 年 4 月 日本放射線技術学会 安全対策小委員会参画 役 職 2006 年 4 月 薬事情報管理部 部長 2010 年 6 月 日本画像医療システム工業会 安全性委員会 委員長 入門講座 5 (計測) 10月15日(金) 8:30 1 9:20 第6会場(白橿1) 放射線量と単位1-放射線場の強さ- 産業技術総合研究所 田中 隆宏 放射線の強度を測定する、といった場合、強度と は何かを正しく認識しなければならない。放射線場 対するフルエンスの分布を積分した値となる。エネ ルギーフルエンスの単位は、J/m2 である。 の強さ(フルエンスなど)のことなのか、放射線場に エネルギーフルエンスを知るためには、放射線粒 置かれた物質に対する影響量としての強度(照射線 子数のエネルギー分布であるエネルギースペクトル 量、吸収線量など)なのか、あるいは、人体に対す を測定しなければならない。スペクトル計測では Si る影響量としての強度(線量当量など)なのか、と や Ge に代表される半導体検出器が利用される。半 いうことを測定する人がきちんと理解しておくこと 導体検出器では、放射線と半導体との相互作用によ が線量計測では重要となる。本講演では、放射線場 り半導体中に生成された電子-空孔対の数を測定す の強度であるフルエンスなどの基本量ならびに吸収 ることによりスペクトルを求めている。 一見すると、 線量などの放射線の物質への影響量を中心に概説す 半導体検出器で測定されたスペクトル(の縦軸)が放 る。 射線粒子数であるように思われる(自動的に補正さ 先ず、放射線は光子や電子など、粒子であること れる場合もある)。しかし厳密には、半導体検出器で を認識しなければならない。放射線の存在する空間 測定しているのはあくまで半導体との相互作用によ を放射線場という。 この放射線場の強度を考える際、 って生じた電荷である。放射線粒子数を正確に求め 放射線の粒子数が多くあるほど放射線場の強度が強 るためには、半導体素子中(検出器中)での放射線の いということは容易に想像がつく。放射線場中の放 振る舞い(相互作用)を正確に把握しなければならず、 射線の粒子数を議論する際、単位面積や単位時間当 厳密に求めるのは非常に難しい。以上が放射線場の たりなど、規格化するものが無ければ、大小関係が 強度に関する主な量である。 議論できる量にはならない。そこで、放射線場の強 さて、放射線を計測するといった場合、フルエン 度を表わす量としてフルエンスが利用されている。 スなどの放射線場の強度の測定を指すことは少なく、 簡単に表現すると、フルエンスとは、 『単位断面積を 線量計測を指すことが多い。放射線を医学や産業で もつ球内を通過する放射線の粒子数』として定義さ 利用する際には放射線の物質に対する照射効果を利 れる。これは球面フルエンスとも呼ばれる。一般に 用しており、放射線場の強さよりも物質に対する影 放射線は平行ビームであるとは限らないため、球面 響量が重要視されるからである(他にも、スペクトル フルエンスが使われることが多い。また、平行ビー 計測が実験室レベルで行うような大掛かりな測定で ムを議論する際には、放射線のビーム軸に対して垂 あるという理由もある)。当然、放射線場の強度から、 直な単位断面積を通過する放射線の粒子数として定 物質に対する影響量を求めることは可能ではあるが、 義される平面フルエンスという量を用いることがあ 直接測定することがほとんどである。この物質に対 る。球面、平面フルエンスともに単位は 1/m2 であ する放射線の影響量の指標として線量があり、線量 る。 計によって計測される。 次に、放射線はエネルギーを持っているというこ 線量は、フルエンスなどの放射線場の強度とは異 とを考えなければならない。上述のフルエンスは放 なり、放射線の存在のみでは定義できず、相互作用 射線の粒子数に着目した量であるのに対して、エネ 物質が存在(もしくは仮定)することによって初めて ルギーに着目したエネルギーフルエンスを導入する。 定義することができる。 このエネルギーフルエンスは、 『単位断面積を有する 光子にのみ定義される線量として、照射線量があ 球内を通過する放射線のエネルギー』として定義さ る。照射線量は、放射線が空気を電離することに基 れる。換言すると、全領域で放射線のエネルギーに づいた量である。照射線量の定義は、 『X 線やγ線な 入門講座 5 (計測) どの光子によって単位質量の空気中からの放出電子 と陽電子が、完全に停止するまでに生成する正また は負の全ての電荷の絶対値』 として定義されている。 照射線量の単位は、C/kg であり、以前は R(レント ゲン)という単位が使われていた。 次に電荷を持たない中性の放射線(光子、中性子な ど)に対して定義される線量として、カーマ(kerma) がある。カーマは、Kinetic Energy Released per unit Mass の頭文字を表わしている。カーマは相互 作用物質に応じて定義することができるため、カー マには物質名が付記される。一般的には、空気を相 互作用物質として用いることが多く、その場合は、 空気カーマとなる。カーマは、 『間接電離性の中性粒 子線が単位質量中の物質で生成した二次荷電粒子の 初期運動エネルギーの総和』 として定義されている。 従って、単位は J/kg(=Gy)となる。照射線量・カー マともに、放射線によって生成される二次電子に着 目している点では共通している。両者の根本的な違 いは、生成イオンの電荷量か、(二次電子の)エネル ギーのどちらで表現するのかにある(ただし、二次電 子による制動放射の扱いの違いがあるので、厳密に は両者は一致しない)。 吸収線量は、全ての放射線・物質に対して定義す ることができる。吸収線量の定義は、単位質量の物 質に沈積する放射線のエネルギーである。吸収線量 もカーマと同様に、物質名を付記する必要があり、 主に用いられるのは、水吸収線量である。吸収線量 という場合、暗に水吸収線量を指すことが多いが、 厳密には物質名を付記しなければならない。 単位は、 カーマと同様に J/kg(=Gy)である。治療や滅菌など、 放射線照射による効果を定量的に議論する際に水吸 収線量が用いられ、重要な役割を果たしている。 以上のような、フルエンス等の放射線場の強度の 定義や測定方法、また、線量の定義などについての 詳細を解説する。 略歴(プロフィール) 1980 年 5 月 生まれ 2008 年 3 月 博士課程修了 博士(理学) 2008 年 4 月 産業技術総合研究所勤務(現職) 10月15日(金) 8:30 1 9:20 第6会場(白橿1) 入門講座 6 (医療安全2) 10月15日(金) 13:30 1 14:10 第5会場(桜2) 「現場のスタッフが取り組む医療安全管理術とは」 ~ 医療人間工学的アプローチによる安全確保 ~ 公益社団法人 地域医療振興協会 医療安全推進室長 佐藤 幸光 1.はじめに 近年、 「安全の質」 ・ 「技術の質」 ・ 「サービスの質」 ・患者接遇の検証 *D(処置・改善) などの3つの質に裏付けされた「医療の質」が問わ ・安全管理レベルの向上 れているなかで、ヒューマン・エラーに起因して生 ・安全意識・行動の向上 じた事例や医療機器類の誤動作並びに不整備による ・顧客満足度の向上 システムエラー、各部門間での連携不足による多重 検査の事例など、さまざまな状況下でのインシデン トやアクシデントの発生事例が放射線部門において も散見されている。 日々の放射線診療業務において円滑な業務運営と 質の向上を図るためには、放射線部門の安全管理責 任体制などを明確にしておく必要があり、放射線の 取扱いや管理、放射線機器などの安全利用のために さまざまな法的規制を 受けているなかで、安全管 理に対する価値観を部門スタッフ間で共有し、総意 を持って推進していくことが重要である。 日常の放射線業務の安全確保を図り、医療安全を いかに推進していけばいいのか、医療人間工学的ア 図1 PDCA サイクルと安全管理の流れ プローチからの安全確保も含めて、現場のスタッフ に対する医療安全管理技術のコツを紹介する。 3.安全管理のための事故未然防止の方策 (エラープルーフ化を中心に) 2.放射線部門の PDCA サイクルによる安全管理 の流れ 放射線部門の安全管理の流れを図1に示す。 細心の注意を払い、確かな技術を駆使して日常業 務を遂行しても、思いもよらないヒューマン・エラ ーを起こしたり、機器類の突然の不具合によってイ *P(計画) ンシデント・アクシデント事例を引き起こしてしま ・部門の運営方針・目標・計画の明確化 うことがある。事故未然防止の方策の一つとして、 ・責任者と役割りの明確化 エラープルーフ化があり、これを例に取り上げて紹 ・安全管理体制の構築 介する。 *D(実施・実践) エラープルーフ化とは、ポカヨケ、バカヨケ、フ ・医療安全行動の実践 ールプルーフなど、呼び方がさまざまであるが、作 ・業務の質向上の実践 業プロセスを変えられないのであれば、作業を構成 ・患者接遇の実践 しているもう一つの要素である作業方法を一工夫す *C(点検・評価) ることにより、人の特性に見合った作業を作りあげ ・医療安全管理行動の検証 ようというものである。たとえば、作業で使用する ・品質管理行動の検証 設備・機器、作業指示票の様式、物の形状や色並び 入門講座 6 (医療安全2) に作業手順などを改善することで、ヒューマン・エ 【参考文献】 ラーを起こしにくい、たとえ起こしたとしても大事 1) に至らないようにしておく工夫を構築しておくこと が大切である。代表例を示す。 作業工程で使用する補助具の選択を間違えな いように、棚の色分けをする。 * 「医療安全に活かす医療人間工学」:佐藤幸 光・佐藤久美子 医療科学社,2007 2) (例) * 10月15日(金) 13:30 1 14:10 第5会場(桜2) 「診療放射線業務の医療安全テキスト」 :天内 廣・佐藤幸光他 3) 文光堂,2009 「未然防止とRCA 」:中條武志 日本規格 協会,2010 間違った位置に挿入しようとしても入らない ような形状にする。 * 指示の聞き違いが生じないように、口頭指示に 頼るのではなく、より確実な文書や設備による 指示に置き換えておく。 * 情報の伝達エラーが発生しないように、複数で 作業を行なわず、一人で作業する。 4.医療人間工学的アプローチによる安全確保 医療人間工学とは、病院におけるさまざまなシス テムや医療機器類の製品、日常のルーチンワークと 仕事環境を人間の身体的・精神的にかかわる状況に うまく適合させて、人間に最も適合した機械・器具 装置の設計制作や医療現場の配置などを合理化して、 作業環境条件の整備と最適化を図るための実践科学 である。 この医療人間工学が放射線部門における業務のな かでどのように活用していくことができるのか、ハ ード・ソフト・システム・ヒューマンの視点から医 療人間工学の概要について紹介する。 5.おわりに 安全管理を実践していくうえで、放射線部門のス タッフ一人ひとりが医療安全を推進していくという 確固たる責務と自覚を持ち、自律的に実践していく 態度の醸成が必須である。部門スタッフ間で相互に 啓発しあい、チームモニタが機能する組織集団を形 成することが強く望まれるところである。 限られた時間での講演となるが、放射線部門におけ る医療安全管理に役立つエッセンスを絞り込んで要 点を示し、医療安全管理術を身につけていただくた めのコツをご教授できればと考えている。 略 歴(プロフィール) 昭和 24 年 北海道生まれ 昭和 47 年 東京電子専門学校卒業(1回生) 昭和 57 年 東京理科大学Ⅱ部物理学科卒業 平成 7 年 東京大学医学部研究生満期退学 平成 18 年 日本大学グローバル・ビジネス研究科修了 (ヘルス&ソーシャル・ケアコース) 昭和 47 年 診療放射線技師免許証 昭和 53 年 第1種放射線取扱主任者免許状 昭和 57 年 中学校・高等学校教員免許状(理科) 平成 9 年 博士(医学) 取得(東京大学) 平成 18 年 修士(経営学)取得(日本大学) 昭和 47 年 東京女子医科大学附属病院 昭和 50 年 日本大学医学部附属板橋病院 平成 19 年 公益社団法人 地域医療振興協会 医療安全推進室長 学会等役職 平成 19 年~(社)日本放射線技術学会 学術委員・医療安全対策小委員長 平成 22 年~ NPO 放射線安全フォーラム 理事 入門講座 7 (放射線治療) 10月16日(土) 8:30 1 9:20 第1会場(大ホール) IGRT の QA/QC 仙台総合放射線クリニック 三津谷 正俊 2000 年初め, 国内において治療室設置型の北海道 大学病院の RTRT システム,リニアック搭載型の東 以下が,ガイドラインの中の IGRT 施行における 物理・技術的 QA/QC の項目である. 北大学病院の DFFP システムなどの本格的な IGRT (Image Guided Radiation Therapy:画像誘導放射 【IGRT の QA 項目】 線治療)装置が開発され,海外の学会等で紹介された. a) レーザー照準器の位置精度に関する項目 近年,これに触発されたかのように,IGRT 機器が b) 位置照合装置の位置精度に関する項目 次々に市販化され,全世界で急速に IGRT が普及し c) 位置照合装置の座標整合性に関する項目 つつある. d) 接触防止インターロックに関する項目 国内では,2010 年 4 月,IGRT が保険収載された e) 位置照合装置の画質に関する項目 ことを受けて,3 学術団体の協議によるガイドライ f) 被ばく線量に関する項目 ン(画像誘導放射線治療臨床導入のためのガイドラ g) 位置照合解析ソフトウェアに関する項目 イン)が示されたところである. h) 治療寝台移動の位置精度に関する項目 i) 位置照合装置の通信の信頼性に関する項目 IGRT の最大の利点は,IGRT 機器を用いた照射 位置精度の向上によって PTV マージンを縮小し, 周囲正常組織の障害を低減できることである.最新 本講座において対象とする IGRT 機器は,国内で の装置はオンラインの照射位置照合により,統計誤 最も普及している KV-IGRT 機器に限定させていた 差と偶発誤差の両者を同時に補正できる.ただし, だき,上記の物理・技術的 QA/QC の項目に基づい 照射位置照合装置によって得られる位置補正量の算 て,市販の QA ツールを用いた客観的な解析および 出結果には,照合装置の照合誤差が含まれるため, 評価法を紹介する.本講座が各施設の IMRT の 照合座標系と照射座標系の幾何学的位置誤差が最小 QA/QC プログラムの作成や見直しの手助けになれ となるようにコミッショニングと QA/QC を実施す ば,幸いである. る必要がある. IGRT ガイドラインの注釈には,「強度変調放射線 治療や定位放射線治療を行う上で IGRT を実施する 場合には,各座標(照合座標系と照射座標系)中心 間の一致度の精度は 1mm 以内とするべきである.」 との記載がある. 治療法に限らず, システムとして, これ以下の精度で品質管理されていなければ, IGRT で照射位置照合を行う意義が失われることに なる. 略歴(プロフィール) 1963 年 12 月 青森県生まれ 1985 年 4 月 東北大学病院勤務 2010 年 4 月 仙台総合放射線クリニック勤務 《 m e m o 》 入門講座 8 (画像工学) 10月16日(土) 8:30 1 9:20 第2会場(萩) X 線画像の入出力特性とコントラスト 山口大学医学部附属病院 放射線部 上田 克彦 1.はじめに き D=log(10/1)=1 となり、透過率は 1/10 であり、 放射線画像の特性を考えるとき、入出力特性、解 写真濃度 D=1.0 となる。また透過率 1/100、1/1000 像特性、ノイズ特性が最も重要な特性として知られ のとき、写真濃度 D=2.0、3.0 となり、透過率の逆 ている。今回の入門講座では入出力特性の概要につ 数の対数をとったものなることがわかる。 いて説明する。放射線画像において画像のコントラ Fig.2 に増感紙フィルムシステムの特性曲線の特 ストはアナログ画像では、大きく考えるとフィルム 徴を示す。特性曲線の形状はシグモイド形であり、 コントラストと被写体コントラストのふたつの影響 非線形である。特性曲線からフィルムのフィルムコ を受けると考えてよいが、 ディジタル画像おいては、 ントラスト(グラジエント)やラチチュードを求め 画像処理によって最終的に表示される画像コントラ ることができる。解像特性を知るための MTF ストは随時変化できることが知られている。 この他、 (modulation transfer function)やノイズ評価に用い ディジタル画像機器では、機器を構成する様々なコ る Wiener Spectrum 測定時の有効露光量変換(写 ンポーネントの特性によって最終画像に影響を与え 真濃度を X 線強度に変換)に用いられる。 ることが知られている。 2.増感紙フィルムシステム(アナログ)の入出力 特性 増感紙フィルムシステムの入出力特性はフィルム の特性曲線によって表現される。フィルムの特性曲 線はセンシトメトリの基礎を築いたイギリスの F.Hurter と V.Driffield の頭文字をとって、H&D 曲線とも呼ばれる。 Fig.1 に増感紙フィルムシステム(アナログ)の 特性曲線の 1 例を示す。 Fig.2 増感紙フィルムシステムの特性曲線の特徴 また、同一フィルムにて異なる増感紙を用いた感 度測定法(スプリットスクリーン法)にて相対感度 を求めることができる。感度の高い増感紙は左側に 感度の低い増感紙は右側に表わされる。 3.ディジタルシステムの入出力特性 デ ィ ジ タ ル シ ス テ ム は 、 大 き く 分 け て CR Fig.1 増感紙フィルムシステムの特性曲線 (computed radiography) の よ う に IP(imaging plate)の輝尽発光をレーザーでスキャンする読取る 特性曲線の横軸は相対露光量を常用対数で、縦軸 には写真濃度が表わされる。写真濃度 D は、 D=logI0/It ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(1) 式(1)で定義される。例えば、I0=10,It=1 のと システムと、FPD (flat panel detector)のように X 線量や蛍光量をデータとして取得するふたつシステ ムがあり、用いるアンプによって特性が大きく異な っていることが知られている。 入門講座 8 (画像工学) 10月16日(土) 8:30 1 9:20 第2会場(萩) また、X 線が検出器に入射し、画像として表示さ れるまでに、多くの処理コンポーネントが存在し、 各コンポーネントへの入出力特性を知ることも重要 である。最終画像観察時には診断に適正な諧調に処 理され表示される。 3-1 CR の入出力特性 Fig.3 に CR の入出力特性の 1 例を示す。これは 横軸に相対露光量を常用対数で表現し、縦軸には画 像データとして保存されるディジタル値を示してい る。多くの CR システムはログアンプを用いている ために横軸が常用対数のときに直線に近い形状で表 わされる。 Fig.4 FPD システムの入出力特性の 1 例 4.おわりに 日本放射線技術学会画像分科会では、ディジタル 画像評価法を学習するための DR セミナーを開催し、 入出力特性、解像特性、ノイズ特性について講義・ 演習を行っている。 本原稿の内容の一部および図は大阪市立大学病院 岸本健治先生著の日本放射線技術学会雑誌第 65 巻 第 7 号 985-991 基礎講座ディジタルラジオグラフィ の物理的画像評価法-入出力特性-から引用させてい ただいております。 Fig.3 CR の入出力特性の 1 例 3-2 FPD システムの入出力特性 Fig.4 に FPD システムの入出力特性の 1 例を 示す。リニアアンプを用いている FPD システムに おいては、横軸に対数をとらない表示のときに、入 出力特性は直線で表わされる。 略歴(プロフィール) 上田克彦 51 歳 山口大学病院診療放射線技師長 日本放射線技術学会活動 2005 年 4 月 画像分科会委員 2007 年 4 月 中国四国部会担当理事など 2010 年 4 月 国際シンポジウム実行委員長 (2011 年 10 月 29 日神戸国際会議場にて開催) 入門講座 9 (撮影):MR 10月16日(土) 8:30 1 9:20 第3会場(橘) 中枢神経 MRI 検査入門 秋田県立脳血管研究センター 豊嶋 英仁 1) “読影の補助”が放射線技師の業務に明記 らフローボイドとして描出される低信号の血管まで、 最近、平成 22 年 4 月 30 日付け厚労省医政局長名 画素値の広いヒストグラムを有する。そして梗塞巣 で発出された「医療スタッフの協働・連携によるチ は脳実質に比べて高信号、またヘモジデリンが沈着 ーム医療の推進について」の中で、現行制度下にお する出血巣周囲や陳旧性微小出血は低信号として描 ける放射線技師の業務として「①画像診断における 出されるために、適切な WW・WL 設定は容易では 読影の補助を行うこと。 」 、 「②放射線検査等に関する ない。その簡便法として、経験的であるが白質灰白 説明・相談を行うこと。 」が明記された。形態、機能、 質コントラストに加えて血管周囲腔を明瞭に表示す 代謝などの多くの生体情報を測定できる MRI 検査 ることが適切な WW・WL 設定になることを提案す には、項目①は必需である。検査オーダーの内容を る。図 1 では、白質内を走行する血管周囲腔(白矢 理解し、病変が画像のどこに描出されているのか、 印)が明瞭に表示された WW・WL 設定により、散 病変の描出を向上させるためには何のシーケンスを 在する梗塞巣と微少出血(黒矢印)が確認できる。 用いればよいのか、アーチファクトではないのか 等々、読影しながらMRI検査を実施することが大 切である。 2)中枢神経 MRI 検査の基本 2-1)スライス位置の再現性 脳は大脳、小脳、中脳、橋、延髄に大別され、解 剖学的に複雑な構成をしている。たとえ小さな梗塞 巣でも、発症部位によっては重篤な症状を生じる場 合がある。治療方針や治療効果の判定のためのフォ ローアップ検査では、スライス位置の再現性が重要 であり、基準点、基準線、基準面、スライス厚、ギ ャップの設定には十分に気を配る姿勢が大事である。 DWI は急性期梗塞例やクロイツフェルト・ヤコブ 病の診断には有用なシーケンスである。病変部を再 現性の良い高信号域として描出するために 2-2)適切なウィンドウ幅・レベルの設定 ASIST-Japan では、b0 像の正常視床部に関心領域 フィルムレス化に伴ってフィルムプリントを行わ を設定して信号強度を計測し、 その値を WW とし、 なくなると、適切なウィンドウ幅・レベル(WW・ その1/2を WL とする方法を提案している。我々 WL)設定の意識が薄くなってきませんか。そうな の検討では、この方法は、熟練者が設定する WW・ ると、病変の見落としや画質の劣化に気がつかなく WL とほぼ一致する値が得られ、初心者にとって なります。スキャン後には適切な WW・WL で読影 DWI の WW・WL 設定に慣れるのによい方法と思 する習慣を続けることが大事です。脳神経では白質 われる。 灰白質のコントラストを良好にすることが WW・ WL 設定の目安であるが、シーケンスの特徴を捉え てさらに適切化することが必要である。ここでは T2W と拡散強調像(DWI)について紹介する。 多くの情報を含む T2W は、高信号な脳脊髄液か 3)現在使用されている主なシーケンス 現在、中枢神経 MRI 検査に使用されている代表 的なシーケンスや手法を目的別に以下に示す。メー カにより多少ネーミングが異なる。3T-MRI が稼働 入門講座 9 (撮影):MR し、以前より項目が増えてきており、講座では自験 例をもとに紹介する。 10月16日(土) 8:30 1 9:20 第3会場(橘) 脳出血やクモ膜下出血の診断には CT が最も有用 であるが、MRI が最初の検査になった場合にはどう 形態情報;T1w、T2w、FLAIR、T2star、Pdw、 するか。DWI、T2star および T2w の組み合わせで 3D(MPRAGE、CISS、SPACE) 、… 血腫の存在が確認でき、MRA により出血源の動脈 血管情報;MRA(3D-TOF、PC、MRDSA) 、磁 瘤や異常血管の有無を確認できる。クモ膜下出血の 化率強調像 描出には FLAIR が有用であるが、検査総時間の短 拡散情報;DWI、DTI(FA、tractgraphy) 縮のためには省略して、直ちに CT を施行して治療 灌流情報;DSC、ASL 方針を決めたほうが有益と思われる。以上から急性 脳機能情報;fMRI 期脳卒中疑例では、DWI、T2star、T2W、MRA の 代謝情報;MRS 組み合わせを第一選択として、当センターでは実施 している。検査総時間を 10~15 分で終了するよう 症例に応じてどのシーケンスを組み合わせること に各シーケンスパラメータの調整が大事である。 が有用なのか、治療方針を含めて理解しておくこと が必要である。 例えば、 急性期脳卒中例ではどうか? 超急性期脳梗塞例では、梗塞巣の確認のために DWI、 4)話題;磁化率強調像の有用性 我々が行っている MRI を用いた脳循環動態に関 血管情報の確認のために MRA、閉塞部位の血栓の する研究を紹介する。脳血管が狭窄や閉塞により灌 描出のために T2star、 形態情報の確認のために T2w 流圧が低下するとその先の領域が虚血になり、その の組み合わせが必要であろう。発症 1 時間左中大脳 代償作用として自動調節機能が働いて毛細血管網が 動脈閉塞例を示す。 (図2)DWI と T2W から左側 拡張する。虚血が高度化すると自動調節機能が破綻 島部が新鮮梗塞巣、後頭葉は亜急性期梗塞巣(図2 して脳梗塞に陥るため、そうなる前の中程度な虚血 (a)矢印)であり、T2star から閉塞部に血栓(図2 (b) (貧困灌流)状態が治療できる病態であり、その状 矢印)が認められる。ここまでで塞栓性脳血管障害 態を容易に検出することが求められている。脳に供 の診断がつき、直ちに血栓溶解療法の治療が検討さ 給された酸化ヘモグロビンは神経活動に使用される れた。 と磁性体の性質を有する還元ヘモグロビンとなり、 静脈に流出する。貧困灌流域では拡張した血管網~ 静脈に還元ヘモグロビンが充満するため、磁化率強 調像で検出できる可能性がある。従来、ポジトロン CT で施行されてきた貧困灌流域の評価について磁 化率強調像をもとにして検討した研究成果を講座に て紹介する。 略歴(プロフィール) 1981 年 3 月 東北大学医療技術短期大学部卒業 1981 年 4 月 仙台循環器病センター 勤務 1983 年 3 月 秋田県立脳血管研究センター 勤務 1997 年 鈴鹿医療科学大学 社会人科目等履修生 役 職 2008 年 4 月 秋田県立脳血管研究センター 放射線科診療部技師長 資 格 1983 年 第一種放射線取扱主任者 1999 年 保健衛生学士 2006 年 日本磁気共鳴専門技術者 入門講座 10 (核医学) 10月16日(土) 8:30 1 9:20 第5会場(桜2) SPECT における減弱補正 北海道大学大学院保健科学研究院 久保 直樹 -はじめに- がある.一方,頭部では線減弱係数を1種類だけの SPECT の E は Emission つまり放出の意味であ 均一な吸収体としてもそれなりの減弱補正の効果は る.被検者に投与された放射性医薬品からはガンマ 期待できる.輪郭の決定は改めて検査されることは 線が放出されるが,それらをカメラで検出する.そ なく,Emission のデータ(放射性医薬品が分布し して断層像を作製し生体の機能情報を得ることがで ているところは吸収体でもある)から推定されるこ きる.放出されたガンマ線はカメラに届くまでに人 とが多い. 体を通過しなければならない.その際,人体を構成 している物質と相互作用を起こすことがある.これ 2) 不均一吸収体 により本来カメラに届くべきガンマ線が届かなくな 次に線減弱係数を1種類だけではなく数種類用意 ってしまう.この相互作用にはガンマ線自体が消滅 (例えば空気,水,骨など)する方法もある.これ してしまう場合,あるいはガンマ線の飛来する方向 らの線減弱係数の輪郭は MRI 画像あるいは X 線 CT が変わることでコリメータの孔を通過できなくなる (低線量で CT 値のばらつきが大きい場合)などか 場合がある.本来検出されるべきガンマ線が届かな らの画像情報をセグメンテーション(区域分け)し いため,その放射能は実際より低く見積もられるこ て当てはめていく. とになる.これが SPECT における減弱の影響であ る. その他として,真実に近い線減弱係数の分布を測 定する方法がある.これには X 線 CT を使用する方 法,外部にガンマ線を放出する線源を配置して吸収 -減弱補正とは- 体を実測する方法(外部線源法)などがある.外部 減弱により低く見積もられるのであるから,真実 線源法の場合はこの線源の放射能が月日と共に減衰 に近づけるために,その減弱による効果を補正する していくため更新が必要であり,ランニングコスト ことが考えられる.これは減弱に応じて値を持ち上 がかかる. げることに相当する. -減弱補正の方法- -吸収体の求め方- 1) 前補正 減弱補正を行うためには,まず吸収体(ガンマ線 前述のようにガンマ線はカメラに届くまでに減弱さ を減弱させる物質の分布)の情報が必要になる.な れている.SPECT とは投影データから断層像を再 ぜならば物質がガンマ線を減弱させる程度(線減弱 構成するが,すでにこの投影データが減弱の影響を 係数)と,その物質をガンマ線が通過する距離で減 受けていることになる.そこでこの投影データの値 弱の程度が推定されるからである. を減弱に応じて持ち上げる方法が考えられる.当然 ガンマ線が通過する距離で減弱の程度は変わってく 1) 均一吸収体 る.体の表在に放射性医薬品があればほとんど減弱 簡便かつ従来から使用されている方法に体内の線 されることはない.一方線源からカメラまでの距離 減弱係数を1種類だけとするものがある.大抵は人 が大きいつまり深い位置にあれば減弱の効果は大き 体で1番多い物質である水と等価とする.このこと い. しかし投影データのままでは深さの情報がない. で体輪郭を決定するだけで吸収体を求めることがで そこで対向する投影データの平均をとる.これはあ きる.しかし胸部のような場合では肺野(つまりほ る方向で体の表在に放射性医薬品があった場合その ぼ空気に近い場合)も水とすることにはかなり無理 対向する方向においては一番深い距離に相当するた 入門講座 10 (核医学) 10月16日(土) 8:30 1 9:20 第5会場(桜2) め,平均によりある程度相殺されるからである.そ をしないほうが結果が安定する(検査の度に結果が して体を横切る端から端までの距離と線減弱係数か 異ならない)場合もあるという報告も見られる.こ ら減弱を推定し持ち上げることで補正が行われる. れは輪郭を決定する際 Emission の投影データから SPECT において再構成を重要なそして中心となる 推定されるため適切な輪郭とならない場合も存在す 処理と考えた場合,この補正は再構成の前に行われ るからである.また心筋 SPECT において減弱補正 る.すなわち前補正における減弱補正ということに することでアーチファクトが発生する場合も報告さ なる. れている.X 線 CT で吸収体を測定した場合は輪郭 や線減弱係数もほぼ適切に近いものが得られる.し 2) 後補正 まず減弱されたままの投影データで再構成を行う. かし心臓自身拍動しており呼吸による移動の影響も 大きい.X 線 CT 撮影時に呼吸と止めた場合,自由 このことで,ある放射性医薬品とカメラまでの深さ 呼吸下で撮像した SPECT とは位置がずれてしまう. が推察出来る.この深さと線減弱係数から減弱の程 このことでアーチファクトが発生する.ただしどち 度が推察できる.ただし既に再構成された断層像で らの報告も決して減弱補正で必ず不適切になると述 あるため投影方向すべての影響を受けている.その べている訳ではないが,やはり減弱補正をおこなう ため深さと線減弱係数は投影方向分すべてを考慮す 場合は注意が必要である.そして減弱補正により適 ることで行われる.これは SPECT 再構成のあとで 切な画像(つまり患者さんの治療へ役立つなど患者 行われるので後処理における減弱補正ということに さんのためになるデータ)へ到達できた場合は,よ なる. り一層医療へ貢献できるということになる. 最後に,SPECT に与える減弱補正の効果という 3) 再構成に組み込まれた補正 SPECT の再構成方法に逐次近似法というものが 点からも,やはり原理を熟知した者が画像を提供す べきということが言える. ある.まず適当に断層像を仮定する.そして各方向 に投影を行う.この算出された投影データとカメラ で収集された実測投影データが一致した場合,この 断層像の仮定は正しいといえる.逆に違っていた場 合,収集された投影データと等しくなるように仮定 した断層像に係数をかけて変更し先程と同じ事を繰 り返す.このような再構成法を逐次近似法という. 仮定した断層像から投影データを作る際,カメラの 任意の1画素に検出される確率というものが考慮さ れる.この検出確率に減弱の影響を組み入れること で,断層像を再構成しながら減弱補正を同時に行う ことが可能となる.この場合仮定した断層像から投 影データを作るのでカメラまでの深さは事前に判明 していることになる. -減弱補正は行うべきなのかどうか- 減弱補正を行わない選択肢も存在している.なぜ ならば完璧な補正を行うのが困難であり補正の効果 がより良い検査に結びつかない場合もあるからであ る.脳血流 SPECT において統計学的画像解析がよ く行われる.これは正常な人々の放射性医薬品の分 布を基にしてそれからどの程度低下 (あるいは亢進) しているかを見ることになるが,その際,減弱補正 略歴(プロフィール) 平成 20 年 4 月 北海道大学大学院保健科学研究院勤務 資 格 平成 14 年 12 月 博士(医学) (北海道大学,第 6022 号) 平成 18 年 10 月 核医学専門技師(認定番号 124) 入門講座 11 (放射線防護) 10月16日(土) 8:30 1 9:20 第6会場(白橿1) よくわかる関係法令 日本医科大学多摩永山病院 笹沼 和智 今日の医療において、放射線は疾病の診断や治療 た法律で、放射性同位元素および放射線発生装置の に欠かせないものとして日常の診療に広く利用され 使用、放射性同位元素の販売の業、放射性同位元素 ている。医療の現場で放射線診療に携わる我々は、 または放射性同位元素によって汚染された物の廃棄 その安全管理において重要な責務を担っている。今 の業に関する規制、および放射線取扱主任者に関し 回、 「よくわかる関係法令」として放射線安全管理に て規定している。 関する法令として下記の関係法令についてその概要 を説明する。 3)医療法 医療法は 1948 年に制定され、その目的は「医療 ◇ 原子力基本法 を受ける者による医療に関する適切な選択を支援す ◇ 放射線障害防止法 るために必要な事項、医療の安全を確保するために ◇ 医療法 必要な事項、病院、診療所及び助産所の開設及び管 ◇ 労働安全衛生法 理に関し必要な事項並びにこれらの施設の整備並び ◇ 作業環境測定法 に医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携 ◇ 診療放射線技師法 を推進するために必要な事項を定めること等により、 医療を受ける者の利益の保護及び良質かつ適切な医 1.各法令の目的ならびに概要 療を効率的に提供する体制の確保を図り、もつて国 1)原子力基本法 民の健康の保持に寄与することを目的とする。 」 とさ 原子力基本法は 1955 年に制定され、その目的は、 れ、病院・診療所・助産所の開設・管理・整備の方 「原子力の研究、開発及び利用を推進することによ 法などを定める。医療機関に関する法律であり、医 って、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術 師等の各資格の責務や職能などは、医師法等の各医 の進歩と産業の振興とを図り、もって人類社会の福 療資格を規定している。 祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的と する。 」とされ、原子力の研究開発および利用が、平 また、医療法施行規則には放射線設備に関する下 記の規定がある。 和の目的に限られること、および民主、自主、公開 エックス線装置の届出 の原則によって行われるべきことを明らかにすると 変更等の届出 ともに、原子力委員会・原子力安全委員会および原 エックス線診療室 子力開発機関の設置、核燃料物質、原子炉等に関す 管理区域 る管理の基本的事項等、原子力開発に係る基本的事 敷地の境界等における防護 項について規定している。 放射線診療従事者等の被ばく防止 患者の被ばく防止 2)放射線障害防止法 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関す 放射線障害が発生するおそれのある場所の測 定 る法律として 1957 年に制定され、原子力基本法に 基づき、放射線や放射性同位元素、放射線発生装置 4)労働安全衛生法 の使用や放射性同位元素によって汚染されたものの この法律は 1972 年に制定され、労働基準法(昭 廃棄などを規制することによって、放射線障害を防 和 22 年法律第 49 号)と相まって、労働災害の防止 止し、公共の安全を確保することを目的に制定され のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及 入門講座 11 (放射線防護) 10月16日(土) 8:30 1 9:20 第6会場(白橿1) び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関 して照射(撮影を含み、照射機器又は放射性同位元 する総合的計画的な対策を推進することにより職場 素を人体内に挿入して行なうものを除く。 ) すること における労働者の安全と健康を確保するとともに、 を業とする者と定義されている。 快適な職場環境の形成を促進することを目的として 制定された。 放射線安全のための包括的な法律には放射線障害 2.当日は、診療放射線技師が通常業務で関わるこ れらの法律を体系的に分かりやすく解説する。 防止法があるが、100 万電子ボルト未満のエックス 線についてはその適用範囲外である。したがって、 100 万電子ボルト未満のエックス線を使用する場合 は、労働安全衛生法及び電離放射線障害防止規則に より運用する。 電離放射線障害防止規則 放射線障害防止の基本原則として事業者は、労働 者が電離放射線を受けることをできるだけ少なくす るように努めなければならないとされ、下記の規定 がある。 管理区域の明示等 施設等における線量の限度 放射線業務従事者の被ばく限度 線量当量率等 5)作業環境測定法 この法律は 1975 年に制定され、労働安全衛生法 (昭和 47 年法律第 57 号)と相まって、作業環境の 測定に関し作業環境測定士の資格及び作業環境測定 機関等について必要な事項を定めることにより、適 正な作業環境を確保し、もつて職場における労働者 の健康を保持することを目的としている。 作業環境測定とは、作業環境管理を進めるための 前提となる、作業環境中に有害な因子がどの程度存 在し、その作業環境で働く労働者がこれらの有害な 因子にどの程度さらされているかを把握することで あり、放射線業務を行う管理区域は電離則 54 条に おいて外部放射線による線量当量率の測定が義務付 けられている。 6)診療放射線技師法 この法律は、診療エックス線技師法として昭和 26 年に法律第 226 号として制定され、診療放射線技師 の資格を定めるとともに、その業務が適正に運用さ れるように規律し、もつて医療及び公衆衛生の普及 及び向上に寄与することを目的とされている。 また、 診療放射線技師とは、 厚生労働大臣の免許を受けて、 医師又は歯科医師の指示の下に、放射線を人体に対 略歴(プロフィール) 1963 年 12 月 4 日生まれ 1986 年 3 月 中央医療技術専門学校卒業 1986 年 4 月 北里大学東病院勤務 1993 年 6 月 日本医科大学多摩永山病院勤務 役 職 2004 年 4 月 日本放射線公衆安全学会 理事 資 格 1986 年 07 月 診療放射線技師免許 1997 年 04 月 第 1 種放射線取扱主任者免許