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紋章の比較研究

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紋章の比較研究
紋章の比較研究
ComparativeStudieson且eraldry
奥平
志づ江
縄 で 家 紋 を屋 判(ヤ ーバ ン)と 云 うの は紋 章 を
第 一章
は じめ に
印 判 と して用 い た か らで あ ろ う。 又,単 純 な紋
章 は,秘 密 組織 の会 員 や罪 人 を識 別 す る た めの
紋 章 は紋 様(図 柄)で 表 わ した章(し
る し)
烙 印,入 墨紋 に も利 用 さ れ る。
で あ り,言 い替 えれ ば シ ンボ ル マ ー ク(標 章)
で あ る 。 シ ンボル の 対 象 は人 又 は そ の集 団 で あ
り,個 人 か ら国,国 際機 関 ま で紋 章 で象徴 され
る。
紋 様 は文 字 よ り古 く,象 形 文 字 の 原形 で あ り,
森 羅 万 象 す べ て が そ の モ チ ー フ に な る。天 地 紋,
動 植 物,器 物 等 を単独 に象 っ た もの,文 字 を図
案 化 した もの,そ の組 合 せ な ど多種 多様 で あ る。
紋 様 は衣服 や 身近 な器 物,鏡,刀
盾 等 の 武器 や,旗,幟,馬
剣,兜,鎧,
具,乗 物,建 築 物,
更 に は証書,記 章,貨 幣,勲 章,商 標(ブ
ラン
ド,ト レー ドマ ー ク)等 に識 別 の 目 的 で表 示 さ
れ る。
日本古 来 の紋 章 を 「家紋 」 又 は 厂紋 ど こ ろ」
と も言 う。 ヨー ロ ッパ の紋 章 学 者 は ヨー ロ ッパ
古 来 の紋 章(ト
完全紋章
ーナ メ ン ト紋 章 学 の規 定 を満 足
す る 完 全 紋 章)を
正 し い 紋 章(英
語では
HERALDRY,BLAZON,ARMORIAL
,
BEARINGS,FAMILYCREST)と
して,そ
れ 以 外 の 紋 章(EMBLEM,BADGE,SYMBOL,TRADEMARK)と
区 別 して い る。文 字
の普 及 しなか った 頃 は,紋 章 と印 章 の 区別 が な
か っ た。後 に,識 別 の 目的 で紋 章 を,認 証 効 果
の た め に は印 章 を と使 い分 け る よ う にな っ て か
ら も,紋 章 の 図柄 を印章 に,印 章 の 文字 を紋 章
に採 り入 れ た よ うで あ る。 聖 刻 文 字 を楕 円 で囲
っ た古代 エ ジ プ トの ツ タ ン カ ー メ ン王(紀 元 前
14世 紀)の
ツ タ ン カ ー メ ンの 印 章
印章 は紋 章 を兼 ね た もの で あ り,沖
一28一
紋章 の比較研究
用 は一 般庶 民 に も拡 が り,第 二次 世 界 大 戦 後,
紋 章 は,地 域,時 代 の社 会 体 制 と工 芸 技 術 の
水 準 に応 じて発 展 した もの で,日 本 で は仏 教 を
都 市,会 社 等 の紋 章 や商 標 類 の使 用 も ヨー ロ ッ
中心 と す る大 陸文 化 が伝 来 した6世 紀 頃(大 和
パ 並 み に多 くな っ た。
朝 時代)に 彫 像,仏 具 の 工 芸 品 に施 され た紋 様
日本 と ヨー ロ ッパ の古 来 の紋 章 は今 日 の紋 章
を選 ん で器 物 に表 示 した こ と,中 国 で は紀 元 前
文 化 の二 大 源 流 と言 え る。 両 者 は 時 と所 を別 に
11世 紀 の周 の 時代 に,着 衣 の 色 と紋 様,数
して 無 関係 に発 生 した もの で あ る が,長 い 間,
によ
って,着 用者 の 身分,階 級 を識 別 した こ と,西
洋 の 東 西 にお い て,華 麗 な紋 章文 化 の花 を咲 か
洋 で は12世 紀 の十 字 軍 の遠 征 の 頃 に,武 器,馬
せ たの で あ る。最 近 見 られ る諸種 の紋 章 の 図象
具 等 に印 した 色,紋 様 に よ って 軍 団,宗 派 を識
は,日 本 と ヨー ロ ッパ の 古 来 の紋 章 を ベ ー ス と
別 した こ とが 紋 章 の発 展 を促 した よ うで あ る。
して デザ イ ン され た も のが 多 い 。
したが って,両 者 の歴 史 的 背景 と代 表 的 な 図
紋 章 は,先 用 と専用 特 権 に よ っ て識 別 の 目的 を
果 し,着 用 者 又 は表 示 す る器 物 の 家 系,所 属,
象 を比 較 して,諸 種 の紋 章 を観察 す れ ば,二 者
出所(ル
の特 質 と紋 章文 化 の流 れ を理 解 す る こと が で き
ー ツ),権 威 を誇 示 す る こと に役 立 ち,
商 品 に表 示 す る こ と に よっ て,装 飾,信 用,宣
る。 要 約 す れ ば ヨー ロ ッパ の 紋章 は,武 器 特 に
伝 の効 果 と独 占販 売 の利 益 を生 む な ど,紋 章 の
盾 をベ ース と して展 開 した派 手 な 図象 で,金 属
効 用 は大 き い 。特 異 な例 で あ る が,中 世 の ヨー
的 な硬 い感 じで あ る が,こ れ に反 し,日 本 の紋
ロ ッパ で,フ
リー メ ー ソ ン と呼 ば れ る熟 練 石 工
章 は主 に植 物,花 弁 等 の図 柄 を丸,四 角,菱 形
の秘 密 結 社 の会 員 が,国 境 を越 え て工 事 に参 加
の枠 内 に浮 き出 させ た優 美 で 柔 か い感 じの も の
す る場 合 に,秘 密 に登 録 され た紋 章 を身 分 証 明
が多 い。 華麗 な感 じは共 通 して い る が,感 覚 的
書 の 代 りに提 示 して フ リーパ ス で き た こと も知
な相 異 点 が そ の ま ま両 者 の 紋 章文 化 の特 質 で あ
られて い る。
る と考 え る。
家紋 は個 人紋 をベ ー ス に して作 られ る の が普
第二章
逋 で あ り,個 人 紋 が その まま の形 で,或 は原 型
+α(改
日本の家紋
変)で 直系,傍 系 の子 孫 に継 承 され る
1.歴
場 合 に,こ れ を家 紋 と言 う。紋 章 の使 用 が王 候
貴 族 に始 ま っ た こと は,発 生 した 時代 と地 域 の
史 的 背景
紋 章 が 広 く使 わ れ る よ う に なっ た の は平 安 時
隔 た りに 関係 な く共 通 の 現 象 で あ る が,そ の後
代 の末 頃(12世 紀)で
あ る。 当 時 の 公家 達 は そ
の 発 展 に は差異 が見 られ る。紋 章 が シ ンボ ル の
の家 紋 を乗 物(牛 車)や 調 度 品 に つ け,各 家 庭
対 象 と運 命 を共 に す るの は当 然 で あ り,武 装 の
の専 用 と して,自 他 共 に認 め合 っ た。 武 士 は戦
近 代 化 が ヨー ロ ッパ 古 来 の 紋章 の衰 退 を招 き,
い の折 に,味 方 の 目印 と して旗 や 幕 に家 紋 をつ
中 国 や エ ジ プ トで,王 室 の 滅亡 と と も に紋 章 が
けた が,鎌 倉 幕府 以 後 は,合 戦 の 度 に使 用 され,
断 絶 した こ とは,こ れ を物 語 る もの で あ る。 又,
家紋 の利 用 は急 速 に拡 ま っ た。 武 士 の 働 き振 り
社 会体 制 の民 主 化 に と もな う政 治,経 済 活 動 の
は,そ の家 紋 に よ って 明 らか に され,論 功 行 賞
活 性 化 が 標 章類 の発 展 を促 し,今 日 の紋 章 文 化
に も役 立 っ た もの で あ る。室 町 時 代 に は家 紋 の
が 形成 され た こと も事 実 で あ る 。
種 類 も殖 え,様 々 な変 種 も見 られ る。 天 皇 が 信
ヨー ロ ッパ で は,13.14世
紀 に市 民 権 が 大 幅
任 厚 い下 臣 に,贈 る家 紋 を下 賜紋 と言 い,武 士
に認 め られ て か ら,登 録 印 章 と 同 じ図 象 の 市民
の子 孫 は,そ れ を名誉 と して永 く受 継 い だ と言
紋 章 が 普 及 した 。 日本 で は始 め か ら紋 章 の 法 的
わ れ る。 亀 山 天 皇 以 来,徳 川 時 代 ま で 皇 室 が
規 制 が な か っ た た め に,江 戸期 以 降,家 紋 の使
代 々 の将 軍 に菊,桐 紋 を下 贈 す るの が 通 例 で あ
29
研
究 紀
要
第28集
っ たが徳 川 家 康 は皇 室 御 下 贈 の 菊紋 を辞 退 した 。
合,藤 等 の植 物,孔 雀,お
家 康 が葵 紋 を専 用 と し,同 一 紋 の使 用 を厳 禁 し
馬,蝶,と
た こ とは,葵 紋 の絶 大 な効 果 を意 図 した為 で あ
等 の 器物 を図案 化 した単 独 又 は組 合 せ の 図柄 で,
ろ う。豊 臣秀 吉 は下 賜 さ れ た桐 紋 を大 阪城 に も
これ に丸 とか 四角 を加 え た り,一 部 を省 略 し た
印 して,そ
り し て約7000種 以 上 に殖 え て い る 。庶 民 が 農 具,
の 権 威 をPRし,家
来 に も広 く分
しど り,雁,獅
子,
ん ぼ等 の動 物,楽 器,食 器,矢 羽 根
け与 え た の で,桐 紋 は普 及 した 。江 戸 時 代 は平
下駄,傘,提
和 が続 き,生 活 に も余 裕 が 出 来 た た め,家 紋 は
た 家 紋 に は実 用 的 で 簡 略 な 図柄 が用 い られ た 。
益 々装 飾 的 傾 向 を もつ よ う にな っ た 。始 め は武
又,武 士 が戦 争 で 旗 や 幟 に表 示 して遠 くか ら味
士 が 身分 と威 儀 を正 す た め に裃 に 目 印 と して用
方 を 識別 す る た め に も適 当 な 図柄 と色 が選 ばれ
い る程 度 で あ っ たが,輪 郭 を飾 り,紋 様 を加 え,
た 。 次 に最 も よ く知 られ た家 紋 の代 表 的 な 図柄
優 美 な デザ イ ン を考 案 して,替 紋 を作 り,非 公
を示 す 。
灯,木 材,牛 馬,船 の帆 等 に印 し
式 の場 合 に は これ を用 い た。替 紋 を作 っ た場 合
(1)菊 紋
に,元 の 紋 を定紋(じ
鎌 倉 期 の始 め,後 鳥羽 上 皇 は,衣 服 か ら調 度
ょ う もん)と 云 う。
定 紋 は,幕 府 に 届 けて,妄
りに変 更 す る こ と
品,懐 紙,車,刀
剣 類 に至 る ま で菊紋 を付 け ら
は許 され なか った の で,こ れ を正 紋 又 は本紋 と
れ た の で,朝 臣 の 人 々 は こ の紋 の 使 用 を遠 慮 し,
も言 い,旗 や 幕 に も印 した の で,武 功 の紋 と も
後 深 川,亀 山 の二 上 皇,御 宇 田 天 皇 も これ を受
呼 ん だ。 此 の 頃 に は,一 般 の庶 民 も武 士 に做 っ
け継 い だ ため に,菊 紋 は天 皇 家 の 御紋 とな っ た。
て 家 紋 を使 う よ うに な っ た 。彼 等 は家格,苗 字
後 醍 醐 天 皇 が楠 正 成 に賜 わ っ たの は菊 水紋 で あ
(明 治3年,平
る。
民 に苗 字 は許 され た)も 無 か っ
た か ら,歌 舞伎 役 者 や遊 女 な どが称 号 と共 に用
い た紋 を真 似 た り して,安 易 な気 持 ちで 家紋 を
作 り,装 飾 的感 覚 で,こ れ を誇 りに した 。幕 府
も こ れ を咎 め ず,「 葵 の 御 紋 」 以 外 は殊 更 に拘
束 しな か っ た 。想 思 の男 女 が,双 方 の家 紋 を組
天皇家
十六菊
高松宮家
菊水
合 わ せ て作 っ た比 翼 紋 は此 の 時 代 に生 ま れ た。
加 賀 紋(色 付 きの 紋),伊 達 紋(文 字,絵 入 り),
鹿 の子 紋(絞
り染)な
ど も考 案 され て,江 戸 の
イキ
(2)桐 紋
ダ テ
遊 人 た ち は 「粋 」 と 「伊 達」 振 りを誇 っ た もの
桐 は鳳 凰 の棲 む尊 い木 と して 信仰 され た。 桐
で あ る。 明 治 に な っ て幕 藩 体 制 が 崩 れ た た め に
紋 は菊 紋 と同様 に天 皇 家 の御 紋 と して,臣 下 は
紋 章 の 効用 は薄 れ,洋 服 の着 用 が殖 え る と共 に
使 用 出来 なか った が,後 醍 醐 天 皇 が建 武 の新 政
家 紋 の使 用 も減 っ た 。第 二 次 世 界大 戦 以 後,家
に武 功 の あ った 足利 尊 氏 に桐 紋 を下賜 され,尊
族,世
氏 は更 に下 臣 に分 け与 え た の で,江 戸 期 に は多
襲 の 制度 は失 わ れ たが,最 近,雛 人 形 や
五 月 人形 に,婚 礼 の衣 裳 や家 具 等 に家 紋 復 活 の
くの大 名,幕 臣 が桐 紋 を用 い た。
兆 しを見 る こと が で き る 。
2.主
な 図象
家紋 の基 本 的 パ タ ー ン は,菱 形,三 角,亀 甲,
縞,格 子,波 形 等 の 幾何 学 的模 様,雲,霞,日
月 等 の天 文,山,川,海,岩
ん,蓮,ぶ
石 等 の 地 文,ぼ た
五三桐
ど う,ざ くろ,菊,松,竹,梅,百
一3
.0一
五七桐
上杉桐
紋章 の比較研究
オモダカ
(6)沢 瀉 紋
(3)葵 紋
クワ イ
戦 国 時 代 に は松 平,伊 奈,島
オ モ ダ カ は食 用 にす る慈姑 を 図案 化 した も の
田 の諸 氏 が葵 紋
で,武 将 は 「オモ ダ カ勝 草 」 と の縁 起 を かつ い
を用 い て い た が,い つ れ も賀茂 神 社 の神 主,
で,こ れ を家 紋 に した 。
氏 子 で あ っ た。 江 戸 期 に入 り葵紋 は徳 川 家 一
門 の 占用 紋 と して定 着 した。
沢瀉鶴
徳川 葵
尾州三っ 葵
向 う沢瀉
丸 に立 ち沢瀉
本 多立 ち葵
(7)菱 紋
(4)藤
菱 紋 様 は正 倉 院御 物 の 織 物 に も見 られ る古 い
紋
藤 紋 は藤 原 氏 の 家 紋 で,そ の流 れ を くむ 内藤
一 族 の下 紋 は 「下 り藤 紋」 で あ る が,那 須 藤 紋,
図柄 で,衣 服 の紋 様 に も多 く用 い ら れ た。 これ
加藤 藤 紋 は 「
上 り藤 紋 」 で あ る。 ζの外 に花 藤
用 い た紋)な
紋,枝 藤 紋,藤
臣 に も分 け与 え たの で菱 紋 は拡 ま っ た 。
に胡 蝶 紋,桐,杏
葉 を加 え た 合
か ら複 雑 な割 菱,唐 花 菱,武 田 菱(武
どの 図柄 も生 れ,多
田信 玄 の
くの大 名 が家
成 紋 もあ る。特 に三 河 地 方 に は藤 紋 が 多 く,熊
野 神 社 の 神 宮 鈴 木 一族 の家 紋 も藤 紋 で あ る。
大内菱
上 り藤
安藤藤
下 り藤
内藤藤
(8)十
四っ 花菱
武田菱
字紋,轡 紋
高 山,中 川,池 田氏 な どの キ リ シ タ ン大 名 が
(5)梅
十 字 紋 を用 い た。十 字 紋 は久 留 子 紋 と も言 い,
と梅 鉢 紋
梅 は色 と香 りの良 さで 昔 ヵ・ら好 ま れ,菅 原 道
島津 氏 も始 め は これ を用 い た が,江 戸 期 に幕府
真 公 とも縁 が深 いの で,天 満 宮 は梅 紋 を神 社 紋
が キ リス ト教 を禁 制 した た め 「丸 に十 字 久 留 子
と して い る 。又,氏 子 の筒 井,平 氏 の家 紋 で も
紋 」 に 変 え た 。 轡 紋 は,馬
ある。
輪 の 形 を と っ た も の で,大
クツ ワ
の 口 に含 ま せ る口
草,後
藤,久
諸氏が用いた。
梅
尻合 わせ
梅鉢
加賀梅鉢
轡
三つ梅
一31一
三つ捻 じ轡
丸に十字
久留子
保 田の
研
究 紀 要
第28集
(9)木 瓜 紋
カ
木 瓜紋 は案 紋 と も言 う。案 は鳥 の 巣 を意 味 す
る。 案 の紋 様 は平 安 朝 時 代 の 織 物 や絵 巻 物 な ど
に も見 え 美 しい の で こ れ を用 い た大 名 も多 い 。
徳 大 寺,織 田,遊 佐,秋 本,熊 谷,朝 倉,大 平,
日蓮宗橘
違橘
橘
向橘
池 田 の 諸 氏 の 家紋 で あ る。
(12)牡 丹 紋
牡 丹 は 中 国 を代 表 す る花 で 「百 花 の王 」 「富
貴 花 」 な ど と言 われ,日 本 に渡 来 したの は奈 良
朝 の 頃 と い わ れ る。 牡丹 紋 は近 衛,九 条 家,鷹
木瓜
丸 に木瓜
竪木 瓜
司,灘 波 氏 の紋 所 で,菊,桐
紋 に次 い で格 式 の
高 い紋 と評 価 され て い る。又,興 福 寺,大 乗 寺,
00)巴 紋
本 願 寺,総 持 寺 な どの 寺 院紋 で も あ る。
巴 は勾 玉(マ
ガ タマ)の 形 で子 孫 繁 栄 を意 味
し,神 社 仏 閣 の 紋 と して 多 く用 い られ て い る 。
又,渦 巻 か ら流 水 の 意 をと っ て,防 火 の マ ジナ
イ と して も使 われ た。 巴 は 日本 ばか りで な く十
字 や卍(マ
ン ジ)と 共 に古 代 人 に共 通 した信 仰
の紋 様 で あ る。
枝牡丹
伊達牡丹
(13)竹,笹,雀
杏 葉牡 丹
鷹司牡丹
紋
竹 と笹 は 元 来 慶 祝 に 用 い ら れ る 。 竹,笹
紋 は 勧 修 寺,甘
渦巻 き巴
右二っ 巴
右一つ巴
露 寺,清
閑 寺,梅
中 御 門 家 な ど の 紋 で あ る 。 又,上
上,山
口,桜
井,新
小 路,坊
杉,伊
に雀
城,
達,最
井 氏 等 も これ を家紋 に した。
(11)橘 紋
橘 は蜜柑 の野 生 種 で奈 良 時 代 に は貴 族 の庭 に
植 え られ,「 左 近 の桜 と右 近 の橘 」 の風 景 は平
安 時代 に も続 い た。 タチ バ ナ紋 は橘 氏 の代表 家
紋 で あ り,藤 原 氏 に も あ る。 厂見 聞 諸 家 紋 」 に
は薬 師 寺,小 野 氏 の紋 章 と して記 載 され ,戦 国
丸 に篠付 き
切 り竹笹
上杉笹
仙 台笹
勧修寺笹
時代 に は柴 田 氏,徳 川 時 代 に は井 伊,久 世,黒
田,松 平 の 諸 氏 と90余 家 の旗 本 が橘 紋 を用 い た
リン ドウ
(14)竜 胆 紋
と伝 え られ る。 日蓮 宗 寺 院 に用 い て い る 「
井筒
リ ン ドウ は高 山 の 山頂 で も見 られ る可憐 な紫
に橘 」 の 紋 は 日蓮 が井 伊 氏 と 同 じ系 累 で あ る こ
色 の花 で あ る。 葉 が笹 に似 て い るの で 「
笹 リン
と を示 す もの と思 わ れ る 。
ドウ」 と も言 うが,笹 と は別 の リン ドウ科 の多
年 草 で,中 国 で はそ の根 が 竜 の 胆 の よう に苦 い
一32一
紋章の比較研究
㈹
の で 竜 胆 と い う 。 「笹 リ ン ドウ」 は 村 上 源 氏 の
銭紋
トモ ヒラ
永 楽 銭 は永 楽 を願 うの 意 で,六 連 銭 は仏 教 の
紋 章 で,村 上 天 皇 の 皇子,具 平 親 王 に始 ま る 。
徳 川 時 代 に な って,中 院,六 条,岩 倉,千 種,
六 道(地 獄,餓 鬼,畜 生,修 羅,人 間,天 上)
東 久 世,久 世,植 松 氏 等 が リ ン ドウ紋 を用 い た 。
を意 昧 す る 。六 道 の 衆 生 を救 済 して も ら うの で
アツ ミ
又,宇
多天 皇 の皇 子 敦 美親 王 の子 孫 で あ る五 辻,
六連 銭 の形 に な っ た。真 田,浦 野,阿 部,海 野,
庭 田,綾 小 路,大 原,慈 光 寺,清 和 源 氏,藤 原
八 島,八 木,小 野 氏 等,信 濃 を 中心 と した滋 野
氏 の家 紋 も リ ン ドウ紋 で あ る。
氏 の一 族 が銭 紋 を用 い た 。
栖 鳳竜胆
㈲
慈光寺竜胆
杏葉 竜胆
寛 永銭
永楽通宝
六連銭
柏紋
柏 餅 を包 む柏 の 葉 は神 に供 え る食 器 と して も
3.沖
縄 の家 紋
ウラ ベ
使 用 さ れ た こ と か ら,公
井,萩
原,山
内,蜂
沖 縄 で は1429年(室
家 の ト部 氏 と 吉 田,藤
須 賀,中
川,牧
野氏が用い
た。
町 時 代)佐 敷 の 豪族 尚 巴
志 が郡 島 を統 一 して 琉 球王 国 を形 成 し,そ の後
第 二 尚真 王 は諸 制 度 を整 え,文 化 振興 に も力 を
つ く した 。当 時 の 首 里王 家 で用 い られ た織 物,
什 器 類 に 巴 の家 紋 が 見 られ る 。
三柏
㈹
三柏
抱柏
蝶紋
蝶 は美 しさ故 に,洋 の 東 西 を 問 わ ず紋 様 に選
ばれ た 。動 物 紋 の 中 で 最 も多 く,そ のバ リエ ー
朱塗凰鳳 沈金 曲入れ
桜 に二つ 巴模様 びん がた風 呂敷(麻)
シ ョ ンは素 晴 ら しい。 平 家 の代 表 家 紋 で西 洞 院,
平松,長 谷,交 野,石 井 の 公 家 が用 い,戦 国 時
代 にな る と関,伊 勢,織 田,池 田 の諸 氏 も用 い
沖縄 で は家 紋 を屋 判(ヤ ー バ ン)と い う。家
た 。細 緻,優 美 な揚 葉 蝶 の 紋 は,平 家 以 外 に も
判 は王 族 や 地 頭 職(本 土 の庄 屋 に 当 る人),島
ひ ろま った 。
長(し ま お さ,宮 古 島 で は豊 見親 とい う)等 の
士 族 に限 られ て お り,一 般 庶民 に は用 い られ な
か った よ うで あ る。 意 外 な こ と に,石 垣 島 か ら
船 で20分 程 の竹 富 島 で 数 多 くの 屋 判 を見 付 け る
こ とが 出来 た 。竹 富 島 の 屋 判 は,文 字 の 普及 し
なか っ た頃 に,士 族 か ら人 々 に与 え られ た も の
揚羽蝶
揚羽蝶
月形蝶
で,織 物 上手 の人 に は,表 彰 の 意 味 を以 っ て糸
一33一
研 究 紀
車 の屋 判 が,又,美
要
第28集
人 の系 統 の家 に は愛 と美 を
章 の構 成 は,兜 飾 り,兜 布 を含 む も の(完 全 紋
意 味 す る唇 の形 を した屋 判 が与 え られ た。 この
章 〉 と して規 定 され た装飾 性 の強 い トー ナ メ ン
種 の屋 判 は何 れ も南 国 的 で素 朴 な楽 しさ を感 じ
る。
ト紋 章 に変 っ た。 トーナ メ ン トの初 期(12∼13
世 紀)に,場
内整 理 や,伝 令,呼
び 出 しで監 督
官 の手 伝 い を した身 分 の低 い使 い走 りが,ト ー
ナ メ ン トに先 立 っ て行 な わ れ た兜 シ ョー で,出
場 騎 士 の 紋 章 を 調 査 して 出場 資 格 を 審 査 し,
トー ナ メ ン トの記 録,報 告 書 の提 出,紋 章 系 譜
(紋章 集)の 作 成 等 の責 任 と権 限 をヤ 手 に掌 握
す る紋 章 官(HERALD)の
唇の屋判
糸車の屋判
頃(14世 紀)に,ト
地 位 に登 りつ め た
ーナ メ ン ト紋 章 学 は確 立 し,
ヨー ロ ッパ の紋 章 文 化 は最 も華 や か に開 花 した。
又,ト
ラ ンペ ッ トを合 図 に,紋 章 官 が声 高 らか
に トー ナ メ ン ト出 場 騎 士 を 呼 出 して,そ の 紋 章
ブ ラ ゼ ン
に つ い て 説 明 し た の で,ド
イ ツ 語 のBLASEN
(ラ ッ パ を 吹 く の 意)が
フ ラ ン ス 語 の
ブ ラ ゾ ン
BLAZON(紋
章 又 は紋 章 説 明 の 意)に
プ
レ ズ
な り,
ン
更 に 英 語 のBLAZON(紋
章 の意)に 変 った と
言 わ れ る 。又 その 他 の 国 の紋 章 の語 源 に は ドイ
ツ語 が 多 く,紋 章 の 図 象 が殆 ん ど盾 をベ ース に
して デザ イ ンされ て い る こと ば,ヨ ー ロ ッパ の
紋 章 の流 れ を示 す もの で あ る。 武器 の 発達 に と
もな う武 装 の変 化 は,当 然 トー ナ メ ン トに影 響
主 な屋判 の例(竹 富島)
し,16世 紀 に そ の終 局 を迎 え る。 古来 の紋 章 も,
トー ナ メ ン トと運 命 を共 に して 衰退 し,紋 章 官
は,遂 に,そ の職 務 を紋 章 官 庁 に譲 っ た 。一 方,
第 三 章Lヨ
12世 紀 末 には,身 分 の低 い市民 階級 の 間 に も,
ー ロ ッパ の 紋 章
印章 の必 要 性 か ら,印 章 に用 い る図象 と同 じ紋
1.歴
史 的 背景
章 を所 有 す る もの が多 くな った 。 これ が市 民 紋
ヨー ロ ッパ の紋 章 の主 流 は ドイ ツ帝 国 の 紋 章
(WAPPEN)で
あ る。12世 紀 の 中 頃,十 字軍
章 の始 ま りで あ る 。14世 紀 に は市民 の権 利 は一
段 と認 め られ,紋 章 の 所 有(登 録,証
明)も 義
が 敵,味 方 の 識別 の た め に,武 装 騎 士 の 装 い の
務 づ け られ,市 民 意 識 も一層 高揚 した た め,手
中 で 最 も見 易 く,彩 色 を施 し易 い所 と して 盾 を
工 業 者 の紋 章,農 民 紋 章,聖 職 者 の紋 章,そ
選 び,そ れ に紋 様 を描 い たの が,ヨ ー ロ ッパ の
他,団 体,自 治 体(州,市,町)の
紋 章 の始 ま りで,戦 士 の紋 章 と も言 われ る。 そ
い で 発 生 し,古 来 の 紋 章 と 同 時 期(14∼16世
の後,ト
紀)に
ー ナ メ ン ト(王 室 と貴 族 社 会 の ス ポ ー
の
紋 章 も相 次
そ の全 盛 期 を迎 え,そ の後 も続 い た。 然
ツ大 会 と して,王 の御 前 で催 され た騎 馬 戦)の
し18世 紀 末 期 の フ ラ ンス革 命 以 来,一 般 市 民 の
回 を重 ね る度 に,騎 士 の紋 章 は華 や か さ を加 え,
紋 章 に対 す る関 心 は薄 れ て,紋 章 の 衰 退 期 に入
表 示 部 位 も盾 か ら兜,鎧,馬
る。19世 紀 末 に は美術,工 芸 の振 興 に と もな う
衣 へ と拡 が り,紋
一34一
〆
紋章の比較研究
美 意 識 の 向上 と と も に,紋 章 に対 す る関心 は再
び高 ま り,紋 章 文 化 の再 生 期 を迎 え る。20世 紀
に な って,実 利 主 義 的 な思 想 が 台 頭 し,特 に第
二 次 世 界 大戦 後 は 自治 体,商 工 業 者 の紋 章 は急
激 に増加 し,宣 伝,広 告 的 な コマ ー シ ャル の紋
章 時 代 に入 った 。 ヨー ロ ッパ の 紋 章,特 に 古来
の紋 章,自 治体 の紋 章 等 の図 象 を色 抜 きで 理解
す る こ と は 困 難 で あ る が,こ
(単色)で
ブ ラ ンデ ン ブ ル グ州 紋 章
こで はモ ノクロ
ドイツ民主共和国
その い くつ か を紹 介 す る。
2.ヨ
ー ロ ッパ の 国 々 の紋 章
(1)ド
イ ツ連 邦 共和 国
(3)イ
ギ リス
伝 統 的 意 識 の強 い 国 だ けで あ って,今
西 ドイ ツ は第 二 次 世界 大 戦 後,11の
日で も
紋 章 の公 的 機 関 に よる管 理 と紋 章 登 録 の義 務 及
新 しい連
邦 州 で構 成 さ れて い るが,そ れ ぞ れ の州,都 市
び法 律 に よ る紋 章 の保 護 が 行 な わ れ て い る 。又,
等 の 自治 体 の紋 章 や,一 族 の紋 章 に は,今 で も
紋 章 の モ チ ー フの豊 富 さ にお い て イギ リス を凌
中世 の紋 章 全 盛 時 代 の 歴史 的紋 章 の モ チ ー フ を
ぐ国 はな い と言 わ れ る。 ス コ ッ トラ ン ドの紋 章
採 用 して い る も のが 多 い。
は,独 自の紋 章 機 関 で 管 理 され,相 続 した家 紋
も含 め て,す べ て登 録 の 義務 が あ る 。又,識 別
容 易 な紋 章 バ ッジ と ター タ ン ・チ ェ ック の紋 様
との組 合 せ は,ス コ ッ トラ ン ド独 特 の もの で あ
る。
ミュ ンヘ ン市 章(小
紋 章)
5マ ル ク硬 貨
イギ リ ス王 室
ミュ ンヘ ン市 章(大
(2)ド
紋 章)
イツ 民 主共 和 国
東 ドイ ツ は伝統 的 な紋 章 の形 式 を放棄 し,ソ
ビエ ト連 邦 の 革 命 的 な紋 章 の型 式 に な ら って 各
タ ー タ ンチ ェ ッ ク と紋 章
種 の紋 章 を定 めて い るが,昔 の町,共 同 体,一
族 の家 紋 等 に対 す る関 心 が最 近 高 ま っ て き た と
言われる。
一35一
研 究
ス コ ッ トラ ン ド氏 族 首 長 の 紋 章
(4)フ
紀 要
第28集
ウ ェ ー ル ズ皇 子 の バ ッチ
ランス
フ ラ ンス で は紋 章 は装 飾 品 並 み に扱 わ れ て,
古 来 の紋 章 に対 す る関 心 は非 常 に薄 れ た と言 わ
れ る 。然 し,18世 紀 以 前 の フ ラ ンス 王 の紋 章 の
華 麗 さ は他 に類 が な い。 特 にル イ14世 の豪 華 な
標 章,記 章(王 位 を表 す),全 面 に 装飾 を施 し
た紋 章 マ ン トや紋 章 幕 は見 事 で あ る 。
フ ラ ンス 王 室 紋 章1790年
フ ラ ン スの紋 章 は現 在 で も半 円形 の盾 をベ ー
ス に した シル トハ ウ プ トの 紋 章 が殆 ん ど で あ る。
紋 様 の モ チ ー フに は フ ラ ンス王 の紋 章 に現 れ た
「十 字」 と 「
百 合 」 が 多 い 。又 完 全 紋 章 の 兜飾
り と兜布 の替 りに,羽 根 付 きの帽 子(ト
ー ク)
が 用 い られ た 。
(5)ス
イス
ス イ ス人 は世 界 中 で最 も紋 章 好 き だ と言 わ れ
'るだ け あ
っ て個 人紋,自 治 体 の紋 章 等 す べ て が
表 現 力 に とみ,明 確 で簡 潔 な も のが 多 い。又,
紋 章 を構 成 す る兜 の 替 りに,自 由 の シ ンボ ル で
あ る ウ ィ リア ム ・テ ル 帽 が多 く用 い られ て い る。
ス イ ス の民 家,建 築 物 は今 で も個 人 や 団体 の紋
章 で 飾 られ て い る もの が多 い。
フ ェ ラ ン ド市 の 紋 章
チ ュ ー リ ッ ヒの 紋 章
(6)イ
伯爵,地 主 の紋章
タ リヤ
数 多 くの 都市 国家,小 国 家 の権 力 闘争 と歴 代
トー ク帽
の教 皇 や枢 機 郷 達 の豪 華 趣 味 の 故 に,過 去 の紋
一36一
紋章の比較研究
章 の発 展 が促 さ れ た よ うで あ る。 イ タ リア紋 章
(8)オ
の 図象 に は,神 話 か らモ チ ー フ をと っ た もの が
オ ラ ン ダは,ス イス,イ ギ リス と並 ん で紋 章
多 く見 られ る。 又,イ
タ リア 程,紋
ランダ
章管理 の
に関心 の深 い国 で あ るが,他 の 国 々 の影 響 を強
ル ーズ な国 はな い と言 わ れ,同 一 紋 又 は類 似 の
く受 けた歴 史 を持 つ 国 だ けに,紋 章 に も余 り特
簡 単 な紋 章 や 外 国 の紋 章 に酷 似 した もの も多 い 。
色 は見 られ な い。 貴族 の紋 章 は,現 在 も公 的 に
ア ーモ ン ド型 や楕 円形 の小 円楯 に党 派 章 を取 り
登 録 し保 護 され て い る が,市 民 の紋 章 は全 く保
入 れ た紋 章 は イ タ リア の紋 章 の特 色 で あ る。
護 を受 け な い。 オ ラ ンダ紋 章 に よ く見 られ る単
頭 或 い は双 頭 の 鷲 の 図 象 は,神 聖 ロー マ 帝 国
へ の所 属 を暗 示 し,奇 形 の小 鳥 等 の 図象 は フ ラ
ンス の古 来 の紋 章 に由 来 す る と 言 わ れ る 。
近 代の紋章
15世 紀 の 盾
ア ム ス テ ル ダム
金地 に黒 の
市紋章
双頭 ワシ
(9)ベ
ク ロ ウ タ鳥
ル ギー
オ ラ ン ダ 王 国 か ら 分 離 独 立(1830年)し
で あ る か ら,そ
の 紋 章 に は オ ラ ン ダ 同 様,ヨ
ロ ッパ の 多 くの 国 々 の 影 響 が 見 ら れ る 。
オ
ユ リの紋章
古代ローマ人の盾
ゲン ト市 の紋章
(7)ス ペ イン,ポ ル トガル
スペ イ ン とポ ル トガ ル の紋 章 は,フ ラ ンス の
流 れ を引 く もの で,多 紋 地,半 円 形 の盾 に描 か
れ た もの が 多 い,ポ ル トガル はス ペ イ ンに比 べ
て 簡 単 な の が特 徴 で あ る。 そ の 図象 の 多 くは,
ム ー ア人 の圧 政 か らの 解放 の喜 び を表 現 して い
る と言 わ れ る。
バルセロナ市の紋章
ベルギー王家の紋章
一37一
た国
ー
研 究
⑩
紀 要
第28集
(12)ス
デ ンマ ー ク
デ ンマ ー クの紋 章 は最 も ドイ ツの 影響 を受 け,
エ ーデ ン
ス エ ー デ ン の 紋 章 は,ド
イ ツ系 の 移 民 に よっ
特 異 性 は あ ま りない 。 そ の図 象 に は塔,建 築 物,
て 普 及,発
展 し た も の で,ド
イ ツ の 紋 章 に做 っ
人 間 をモ チ ー フ に した もの が多 く,新 しい も の
た も の が多 い。 その特 色 は 国家 色 の 青 と黒 と白
に は航 海 と漁 業 の 図象 も見 られ る 。
を 用 い た コ ン トラ ス トの 強 い 紋 様 と 大 鹿 の よ う
な 自 然 界 の 際 だ っ た モ チ ー フ,そ
して ポ ス タ ー
的 な簡 潔 な形 と色 で あ る。
ヘ ル シ ン ガー 市 の紋 章
ス カー ゲ ン 市 の紋 章
リテ ィ ン ゴ市 紋 章
(13)フ
ィン ラ ン ド
フ ィ ン ラ ン ドは,1809年
る ま で,ス
1917年
に ロ シヤ に征 服 され
エ ー デ ン 帝 国 の 一 部 で あ っ た た め,
そ の 紋 章 は,ス
1634年 金 貨
オ ス タ ー ズ ン ド市 紋 章
エ ー デ ン と殆 ん ど 同 様 で あ る が,
に 独 立 を 戦 い と る ま で,ロ
シヤ の 影 響 は
あ ま り見 う れ な い 。 自 治 体 の 紋 章 に は 簡 素 で 卓
越 し た 独 特 の も の が 多 く,最
近 と くに注 目を浴
び て い る。
(11)ノ ル ウ エ ー
デ ン マ ー ク と 同 一 の 連 合 王 国 を 形 成 して い た
(1380∼1814年)の
ぞ,そ
の紋 掌 は デ ンマ ー ク
と同 一 形式 の も の が多 い。 農民 紋 章 は この 国の
典 形 的 な も の と 言 わ れ る 。 又,紋
章 の 継 承 と新
紋 採 用 は 一 切 自 由 で,誰
時 で も,好
で も,何
な 紋 章 を 選 び 変 え る こ と が 出 来,紋
通 念,定
き
章 に関 す る
ク リス トウナ 市 紋 章(森
と湖)
説 が な い。
(14)ポ ー ラ ン ド
ポ ー ラ ン ドの紋 章 は他 の 国 々 と全 然 関係 の な
い 独 自の もの で あ っ た と言 われ る。 この 国 で紋
章 を 所 有 す る者 は 大 部 分 が 貴 族 で,彼 等 は200
位 の グル ー プ に属 し,各 グ ル ー プ は共 通 の紋 章
(ワ ッペ ン)を 所 有 し,氏 族 と は無 関 係 の 場合
が 多 か った 。紋 章 の図 象 は,抽 象 的,幾 何 学 的
ヴ ィ ツキ ン ガ ー市 の紋 章
の 紋 様 の も の ばか りで あ っ'たが14世 紀 に,西
ヨー ロ ッパ と交 流 してか らは,蹄 鉄,矢 等 の 具
一38一
紋章 の比較研究
体 的,現 実 的 な紋 様 も見 られ る よ うに な っ た 。
(16)バ ル カ ン 諸 国
石 工 組 合 の秘 密 結 社(フ
数 世 紀 の 問,ト
リー メ ー ソ ン)の 紋 章
ル コの 支 配 下 に あ っ たバ ル カ
も,ポ ー ラ ン ド独 特 の 図象 の もの で あ った と推
ン 諸 国(ル
測 され る。社 会 主 義 国家 で,古 い伝統 的 な紋 章
ユ ー ゴ ス ラ ビヤ)は19世
ー マ ニ ヤ,ブ
を所 有 し続 けて い る こと は注 目 に値 す る。
る が,ブ
ル ガ リ ヤ,ギ
紀 に,そ
ル ガ リヤ 以 外 は 西 ヨ ー ロ ッ パ の 紋 章 に
類 す る も の は 殆 ん ど 見 ら れ ず,ギ
て,ソ
リ シ ャ,
れ ぞ れ独 立 す
リ シヤ を 除 い
ビエ ト連 邦 を 模 範 と す る 社 会 主 義 人 民 共
和 国 の 国章 を所 有 す る よ うに な っ た 。
竜 の勲章 ブルガ リヤ
ポ ー ラ ン ドの ヘ ル プ
ギリシアの戦 斗盾
㈹
チ ェ コ ス ロバ キ ヤ
第 一 次 世 界 大 戦 後(1918年
〉 に独 立 国 家 と し
て誕 生 したチ ェ コス ロバ キ ヤ共 和 国 で は,昔 日
第四章
諸種の紋章
の支 配 権 の シ ン ボル で あ るパ プ ス ブル グ家 や,
オ ー ス トリヤ皇 帝 の紋 章 を連 想 させ る図 象 の も
の は,す べ て都 市,建 物 か ら除 か れ たが,ド
イ
次 に古 来 の紋 章 以 外 の各 種 の 紋 章 類 と最 近 の
標 章 類 を次 に例 示 す る 。
ツや オ ー ス トリヤ の 紋 章 の特 質 と ボ ー,ラン ド,
トル コ風 の モ チ ー フか らな る古 来 の紋 様 が切 手
等 に見 られ る。
市民紋章
紋 章記念切手
一39一
研
究 紀 要
第28集
手 工業 者の紋 章
ロ ン ドン市
農民 印章,紋 章
広島県
秋 田県
松坂市
茅ヶ崎市
地方 自治体 の紋 章
聖職 者 の紋章
It
紋章の比較研究
第五章
むすび
日本 の紋 章 と西 洋 の紋 章 の特 徴 は紋 章 が生 れ
育 っ た環 境 条 件 の 相 異 か ら生 じた もの で あ る 。
大 陸 に お け る異 教 徒,異 民 族 間 の絶 え ま な き戦
い と 島 国 で の同 一 民 族 間 の 勢 力争 い,物 質 文 明
の進 度 の差 に よ る武 装 の 差異,キ
リス ト教 文 化
と仏 教 文 化 を背 景 とす る思想,表
現法 の相 異 が
紋 章 の 図柄,色,表
示 法 の 差異 とな って現 わ れ
た もの で あ ろ う 。言 い替 えれ ば,異 質 の文 化 が,
夫 々 の紋 章 を生 み,風 俗 即 ち生 活様 式(衣,食,
住)を 作 っ た も の で あ ろ う。 カ ラ フル で 豪華 な
西 洋 の 紋 章 に比 べ,日 本 の紋 章 は単 色 で 簡素 な
もの が 多 く,恰 も油 性 ペ イ ン トで 描 いた 洋画 と
墨 絵 の 日本 画 を比 較 す る よ う な感 じで あ る。 西
洋 の紋 章 は盾,洋 服,洋 品 類 にマ ッチ す る もの
で,和 服 に洋風 の紋,洋 酒 の ラベ ル に和 風 の 紋
章 で は コ ーデ ネ イ トしな い 。 日本 の紋 章 も西 洋
の そ れ も,「 人 と物 の顔 」 で あ り,着 用 す る 人
或 い は表 示 され る物 の性 格,身 分,出 所(ル
ー
ツ)を 語 る もの で あ る。紋 様 は文 化 交 流 と 自 由
化 が進 む に したが って,混 合 し,類 似 し,多 用
化 して きた 。又,紋 章 利 用 の ウエ イ トも,社 会
体 制 の 民 主 化 と産 業 形 態 の 近 代 化 にと も な っ て,
家 紋 か ら組織 の紋 章,商 標 類 へ と移 っ て き た も
の で あ る。 物 事 に は功 罪 の両 面 が ある よ うに,
紋 章 も利 用 の 仕 方 で メ リ ッ ト,デ メ リ ッ トを生
ず る も の で あ る。 美 しい紋 章 の下 で 連 帯 感,愛
社 精 神 を育 て て結 束 し,協 力 す る場 合 は,輝 か
しい成 果 を も た らす で あ ろ う。又,入 賞 の順 位,
功 績 の 等級,階 級 を美 しい紋 様,色,材
質の標
章 で 識 別 す る こと は好 ま しい。然 しバ ッチ,勲
章 等 を権 力 の維 持,権 威 の 誇 示 に利 用 した り,
商 標 権 に よ って競 走 相 手 を締 め 出 して利 権 を独
り占 めす る こ とは,機 会 均 等 と独 占禁 止 を標 榜
す る 自 由化 と民 主化 の波 に逆 行 す る こと に も な
る 。著 作 権 や 特 許権 の よう に,創 始,原 作 の オ
リジ ナ リテ ィを公 的 に保 護 す る こ との必 要性 は
一41一
研
究 紀
要
第28集
理 解 出来 るが,管 理 社 会 が 自由 な社 会 活 動 を規
参考文献
制 して権 力 の温 床 とな る恐 れ もあ る ので は な い
1)家
紋 大 図鑑
だ ろ うか 。強 い も の,美
しい もの に憧 れ る心 理
2)竹
富島誌
法 政 大学 出版 局
が紋 章 を育 て,文 化 を高 め る 力 を う ん だ こ と は
3)王
家 の谷
法政大学 出版局
慥 か で あ る が,同 時 に悪 用 され て民 主 化 を妨 げ
た面 もあ ろ う。 ま こと に紋 章 は人 間 の 欲 望 と好
洋紋 章大 図鑑
上 勢 頭享 著
オ ッ ト ・ノ イバ ー
美術出版社
ウ オ ル タ ー ・レ
オ ンハ ー ト著
5)日
本 の 家紋
6)紋
章文化へ のアプローチ
奥平志づ江
一42
樋 口 清之 監 修
ト著
4)西
奇 心 を誘 い 出 す魔 力 を秘 め た不 思 議 な存 在 で あ
る。
秋 田書 店 発 行
家 政研 究15号
奥平志づ江
学術誌
衣 生 活253号
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