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液状食飼育がラッ ト口蓋腺に与える影響に関する組織学的 および免疫
博士(歯学) 学位論文題名 弓削文彦 液状食飼育がラット口蓋腺に与える影響に関する組織学的 および免疫組織化学的研究 学位論文内容の要旨 【諸言】 近 年 の 食習 慣 の 特徴 の ー っとし て様々 な年代に おいて柔 らかい 食品をと る機会 が 増 え て き た こ と が 挙 げ ら れ る 。 こ の よ う な 食 習 慣 が 口 腔関 連 諸 組 織に 与 え る 影響 を 解 明 するた めに様々 な実験 的研究が なされ てきた。 液状食飼 育ラッ トでは前 顔面高は固 形 食 飼 育 ラ ッ ト よ り 長く 、 下 顎 窩は 前 方 に 位置 し 、 頭 蓋骨 の 縫 合 が早 期 に 形 成さ れ る 。 また、 咀嚼する 食物性 状を識別 する機 能が低下 し、咀嚼 パター ンは不安 定になると報 告されている。 液状 食 の 影響 を 調 べた 研 究 の中 に は 唾液腺 に関する ものもあ る。耳 下腺では 萎縮 が 誘 導 さ れ 、 肉 眼 的 な 大 き さ が 縮 小 し 、 唾 液 の 分 泌 量 お よ ぴ ア ミ ラ ー ゼ 活 性 は減 少 す る。 萎 縮 した 耳 下 腺を 形 態 学的 に 観 察す ると 腺房細 胞の収縮 や空胞 変性、分 泌顆粒 の減少 、また免 疫組織 化学的研 究によ ると腺房 細胞の増 殖活性 は抑制さ れ、ア ポトー シ ス は 促 進 さ れ る こ と も 明 ら か と な っ た 。 こ れに 対 し て 舌下 腺 で は 液状 食 飼 育 の影 響 は な い と い う 意 見 が 多 い 。 ま た 顎 下 腺 で は 萎 縮 す る と い う 報 告 も あ れ ば 萎 縮性 変 化 は 起 こら な い と いう 報 告 も あり 、 結 論 はま だ 得 ら れて い な い 。以 上 の よ うに 液 状食 に対す る 唾 液腺 の反 応は唾液 腺の種 類によっ て異な ると考え られるが 、小唾 液腺に関 する同 一 388− 様の研究はなく、詳細は不明である。 そこ で本 研究 では 小唾 液腺 の 中で も最 も大 きく 代表 的で 義歯 の維 持に 重要 な口蓋 腺を研究対象とし、液状食飼育によってど のような影響を受けるかを明らかにすること にした。 【 材料 と 方法】 実 験動 物に は7週 齢の W ista r系 雄性 ラッ ト24 匹を用 い、実験群と対照群とに1 2匹ず つ 分け た。 動物 の体 重は 実験 期間 中毎 日計 測し 、対 照群 のラットには通常固形食を 与 え、 実験 群に は液 状食 とし て 固形 食を粉末状にしたものと水 を1 対2の割合で混和し た飼料を与えた。実験期間は 両群とも1 週、4週、8 週(各4 匹ずつ)とした。実験期間を 終 了したラットには灌流固定1時間前に5 −br om o―2 ’-d eo x y ur i d in e (B r d U) を腹腔内投 与 し た。全身麻酔後、4%パラホルムアルデヒド溶液を用いて灌流固定を行 った。灌流 固 定後 断頭 し、 口蓋 腺を 含む 上顎 を 摘出 した 。摘 出後24 時 間浸漬固定し、試料を 10%EDTAで 3 0日 間脱 灰を 行い 、上 顎を 正中 矢 状面 にて 切り 出し 、右 側を 通法 に従 っ て パ ラ フ イ ン包 埋 し た 。 包埋したパラフィンブロックを切り出し面から側方に向かって口蓋腺が無くなるまで 厚さ4 ルmで連続薄切した。切片にはへマトキ シリンーエオジン染色( HE )、過ヨウ素酸シ ッフ 染色( PA S) 、アルシアンブルー染色くA B ) を施し、組織学的に検索した。 作製したH E標 本を 用い 口蓋 腺の 大き さを 測 定し た。 口蓋 腺の 上縁 から 下縁 まで の - 389− 距 離 の最 大 値 を高 径、 前縁か ら後縁ま での距離 の最大 値を長径 とした 。連続切 片数 に4ロm( 切片の厚さ)を掛けた値を幅径とした。 免 疫 組 織 学 的 検 索 には 細 胞 増殖 活 性 を観 察 す るた め に B rdU免 疫染 色 、 アポ ト ー シ ス 細 胞検 出 の ため に Ca spas e− 3免 疫染 色 を 行っ た 。 前処 理後、 B rd U染色で は一次 抗体に は抗Br dU − マウスモ ノクロ ーナル抗 体、二 次抗体にはビオチン標識抗マウス― ウサ ギポリク ローナ ル抗体を 反応さ せた。Ca s pa s e −3 染色では一次抗体として抗 c l e av e d―Ca s p as e ―3 ―ウサギポリクローナル抗体を、二次抗体としてビオチン標識抗ウ サギ―ブ タポリ クローナ ル抗体 を反応させた。切片にはぺルオキシダーゼ標識アビジ ン・ビオチン複合体を反応させ、3 ,3 ’ージァミノベンチジン・四塩酸塩で茶褐色に呈色さ せた 。核染 色にはヘ マトキシリンを使用した。免疫染色後、光学顕微鏡下(x 4 0 0 )で陽 性腺房 細胞数 をカウントし、一視野あたりの平均値と標準誤差を算出した。 本 研 究に お け る数的 データに 関しては 、対照 群と実験 群との 間におい て Ma nn-W hitn eyU検 定( 有 意 水準 5%) に よ り 有意 差 検 定を 行 っ た。 【結果】 動 物 の体 重 は 対照 群 、 実験 群とも実 験期間が 進むに っれて増 加して いったが 、両 群 問に は い ずれ の 日にお いても有 意差は 認められ なかった 。また 、実験期 間中は 動 物の全 身状態 は良好で あった。 対照 群の口 蓋腺では その実質 はピラ ミッドな いし円 柱状をし た粘液 性腺房細胞から ― 390− なっていた。核は細胞質 に充満した分泌顆粒により基底側に圧平されていた。。この 様 な 腺 房 細 胞 の 細 胞 質 は PASに 陽 性 、 ABに 強 陽 性 を 示 し た 。 実 験 群 の 口 蓋 腺 はど の 週に おい ても 対照 群と 同様 の組 織像を示しており、腺 房細胞の萎縮などは見られな か っ た 。 ま た PAS茄 よ び ABに 対 す る 実 験 群 の 腺 房 細 胞 の 染 色 傾 向 も ほ ば 同様 であ った。 実 験 群 お よ ぴ 対 照 群 の 高 径 は 約 1000ル m、 長 径 は 約 8000∼ 9300ル m、 幅 径 は 約 2800 皿 m程度 の値 を示 して いた 。実 験群 、対 照 群共 に高 径、 長径 、幅 径す べて にお いて 各週 の両 群間に有意差は認められなかった。 Brd U陽 性を 示す 腺房 細胞 は両 群と もに 、い ず れの 週に おい ても しば しば 観察され た 。一 視野 あた り の陽 性腺 房細 胞数 は各 週に おいて両群間に 有意差は無かった。 Casp ase−3陽性 を 示す 腺房 細胞 は対 照群 、実 験群 共に どの 週に おい ても 極 めて 少な く、全く観 察されない標本も多かった。このためCa sp as e―3 染色標 本に関しては陽性 細胞数の 測定を行わなかった。 【 考察】 本研 究で は 両群 問に おけ る体 重差 や体 調不 良は 認め られ なか った 。従って、本研 究に おけ る口 蓋腺 の影 響が もし ある とするならば、口蓋 腺への影響は全身状態の変 化によるものではなく、液状食の直接的な影響によるものと考えられる。 組 織計 量学 的検 索 の結 果、 両群 間に は長 径、 高径 、幅 径い ずれ にお いて も 差はな − 391― かったことから、液状食飼育によってラット口蓋腺 は3 次元的な収縮を起こさない事が 明 ら か と なっ た。 液 状食 飼育 され た ラッ ト口 蓋腺 では 対照 群と 比べて腺房細胞の大きさに違 いが認 めら れず 、腺 房細 胞の 縮小は起こっていなかった 。また腺房細胞の増殖活性やアポト ー シス による消失も対照群と同様の結果であったこと から、腺房細胞数の減少は起こ っていないと考えられた。従って、 組織学的な観点からもラット口蓋腺は全く液状食の 影響を受けていない 事が示唆された。 本 研究 と過 去 の研 究の 報告 を合 わせ ると 唾液 腺は 液状 食飼 育に よって萎縮するも のと、萎縮しないものに分けられる。このような違いがなぜ起こるのかは本研究だけで は明 らか にで きな いが 、私 は以 下の よう に推察する。唾液腺は交感神経および副交感 神経 の二 重支 配を 受け てい るが 、唾 液 腺の 維持 には 副交 感神 経刺激が重要である。 なぜならラット耳下 腺や舌下腺の副交感神経遮断を行うと腺は萎縮するからである。 耳 下 腺 の 副 交 感 神 経の 節前 線維 は延 髄の 下唾 液核 から 発 し、 舌咽 神経 など を経 て 耳 下腺 ヘ、 舌 下腺 や口 蓋腺 では 延髄 の上 唾液 核か ら発 し、 顔面 神経 な どを 経て ぞれ ぞれの腺に達する。っまり、液状 食飼育により萎縮する唾液線とそうでない唾液腺で は 支配 する 唾 液核 が異 なっ ているのである。した がって、液状食飼育に対する唾液腺 の 反応 の違 いは 唾液 分泌 中枢 であ る唾 液 核の違いによる可能性が考え られる。 【結論】 − 392一 ラ ッ ト 口 蓋 腺 は 耳 下 腺 と は 異 な り 、 液 状 食 飼 育 の 影 響 を 受 けず 、 萎 縮 性変 化 を 示 さ な い こ と が 明 ら か と な っ た 。 ま た 、液 状 食 飼 育の 影 響 は 唾液 腺 の 種 類に よ っ て 異な る こ と が示唆された。 ― 393− 学位論文審査の要旨 主査 特任教授 大畑 昇 副査 教授 土門卓文 副査 教授 網塚憲生 副査 准教授 高橋 茂 学位論文題名 液 状食 飼育がラット口蓋腺に与える 影響に関する組織学的 お よび 免疫 組織 化学 的研 究 審 査は 、 審査 担当 者 全員 の出 席 のも と、 申 請者 の研 究 内容 につ い ての 発表 を 行い なが ら 審査 担当者 の 口頭 試 問を 受け る 形で 進め ら れた 。 1:申請者によ る学位論文の要旨 について以下のと おりに説明された。 【 目 的】 近年 の 食習 慣の 特 徴と して 柔 らか い食品の摂 取が挙げられる。 このような食習慣が 口腔諸組織 に どのような影響 を与えるかを明らか にするため、実験 的研究が行われて きた。液状食飼育さ れたラット の 耳 下腺 に関 し ては 腺の 萎 縮、 腺房 細 胞の 縮小 、 細胞 増殖 活 性の 低下 、 アポ トー シ スの増 加などが報 告 さ れて いる 。 一方 、大 唾 液腺 とは 異 なり 、小唾液腺 に関する報告は見 られない。本研究で は代表的な 小 唾 液腺 であ る 口蓋 腺が 液 状食 飼育 に より どの よ うな 影響 を 受け るの か を組 織学 的 、免疫 組織化学的 に検 索した。 【 材 料と 方法 】 実験 には 7週齢 の W istar 系 雄 性ラ ット を 使用 した 。対照 群の動物には固形食 を与え、実 験 群 には 固形 食 を粉 末状 に して 水と 1:2 の 割 合で 混和 し たも のを 与 えた 。飼 育 期間 は1週、 4 週、8週と した 。飼育期間を終了 した動物には5―b rom o―2’―d eo x yu r id i n e( B rd U )を腹腔内投与し、ペントバルビター ル ナ トリ ウム 麻 酔下 で4%/くラ ホ ルム アル デ ヒド 潅流 固 定を 行っ た。次 に口蓋腺を含む上顎 を摘出し、 10%EDTAにて 脱 灰後 、正 中 面に て切 り 出し た試 料 をパ ラフ イ ン包 埋し 、 正中 面か ら 側方 に向 か って 連 続薄 切した。組織学的 検索としてヘマトキ シリン―エオジン 染色( HE )、過ヨウ 素酸シッフ染色(P A S) 、アル シ ア ンブ ルー 染 色(AB) を 行 うと とも に 、口 蓋腺の高径 、長径、幅径を計 測した。腺房細胞の 増殖活性を 調 べ る た め に BrdU免 疫 染 色 、 ア ポ ト ー シ ス を 検 索 す る た め に Caspase― 3免 疫 染 色 を 行 っ た 。 【 結 果 と 考察 】対 照 群の 口蓋 腺 は殆 どが 粘 液性 腺房 か らな って い た。 その 細 胞質 はPAS、ABに 陽性 を 示 す 粘 液 様 物 質 で 満 た さ れ て い た 。 実 験 群 で も 同 様 の 組 織 像 で 、 腺 房 細 胞 の 収 縮 や PASお よ び AB に 対 する 染色 強 度の 差異 は 観察 され な かっ た。 組 織計 量で は 、高 径、 長 径、 幅径 は 各週に おいて両群 間 に 差 は な か っ た 。 BrdU陽 性 を 示 す 腺房 細胞 は いず れの 標 本に おい て もし ばし ば 観察 され た が、 各 ― 394― 週の 実 験 群 と 対 照群 の 間 に は 陽性 細 胞 数 の 有意 差 は 認め られな かった 。Ca sp ase ―3陽性 細胞は 実験 群、 対 照 群 共 に どの 週 に お い ても 極 め て 少 なか っ た 。 以上 の 結 果よル ラッ ト口蓋 腺は液 状食飼 育の 影響を 受けず 萎縮性 変化を 示さ ないこ とが明 らかに なっ た。 . 2 : 申請 者に対 する口 頭試問 では本 論文 の内容 と関連 した基 礎的 、臨床 的分野 から質 問がな された。 1 ) 本研 究の実 験計画 につい て。 2 ) 標本 作製方 法、染 色方法 につい て 3 ) 唾液 腺の副 交感神 経支配 につい て 4 ) 液状 食飼育 を行っ た過去 の研究 につ いて 5 ) 口蓋 腺の役 割につ いて 6 ) 今後 の研究 の展望 3:口頭 試問に 対す る申請 者の回 答 すべ ての 質問に 対して 申請者 から 、適切 かつ明 快な回 答が得られた。 学 位 論 文の 審査 を通し て、申 請者が 本研 究、お よび関 連分野 に関す る理 解が十 分なさ れてお り、 幅広 い 知 識 を有 して いると 明らか になっ た。 また、 研究内 容に関 して今 後の さらな る発展 が期待 され た。 以 上 の 審 査 に よ り 、 審 査 者 全 員 一 致 で 本 研究 が 学 位 論 文に 十 分 に 値 し 、申 請 者 は 博 士( 歯 学 )の学 位を授 与する 十分な 資格があ ると判 断した 。 - 395−