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知られざる金利負担構造の変貌 ~本当に金利上昇インパクトを受けるの
(業務用参考資料) Financial Trends 経済関連レポート 知られざる金利負担構造の変貌 発表日:3月3日(金) ~本当に金利上昇インパクトを受けるのは誰か~ (No.FT-27) 第一生命経済研究所 経済調査部 担当 熊野英生(外線:5221-5223) 量的緩和解除が間近に迫る中、支払金利の増加が見込まれる。支払金利の実額でみれば、企業部門や政府部門よ りも家計部門の方が大きい。企業は、債務残高を圧縮し、驚くほど金利負担を軽減してきている。家計の中では、 35~50 歳が住宅金利ローンの負担増が重さを増すだろう。また、政府部門は、今まで超低金利のお陰で、短期・中 期金利の負担を実感せずにきたが、今後はその利払増を穴埋めする税収確保を考えざるを得なくなる。 金利負担者は企業よりも家計 日銀が量的緩和を解除し、さらに誘導金利を引き上げる と、マクロ的な利払い負担は増加する。誰がその金利上昇 負担を受けるかと言えば、企業よりも家計の方が大きいと 考えられる。現に、2004 年度の支払金利支払額の負担構成 を示すと、最も大きな支払主体は家計であり、企業や中央 兆円 25 (図表1)金利支払額の構成 2004年度 (点線は1996年度) 20 13.6 15 8.8 10 4.3 5 政府はそれよりも金額が小さい(図表1)。このことは、 0.3 注:内閣府「国民経済計算」に基づき筆者が試算。 民間・公的企業、中央・地方政府の2004年度データは未発表な ので、前年度の数値を参考にして試算。 非営利法人 公的企業 されるが、最近ではそのイメージが変貌してきている。確 2.6 地方政府 金利上昇と言えば、一般的には企業の利払い負担が想起 払金利の負担構成を振り返ると、民間企業部門は、家計よ 中央政府 民間企業 銀行などの収益構造の変貌を反映しているとも言える。 家計 0 かに、本格的な低金利時代に入った直後の 1996 年度の支 8.5 りも 1.3 倍以上大きな支払額を抱えていた。ところが、その後、金利支払額は、企業が 1/3 近くまで減少させたの に対し、家計は僅かに△25%しか軽減されていない。これは、住宅ローンや消費者ローンの金利は金利感応度が低 くて下方硬直的なのに、企業は敏感に金利低下を反映するという性格の違いによるものだと考えられる。 % 2.5 大企業は金利受取主体に (図表2)企業規模別にみた利払負担 全規模 資本金10億円以上 1億円以上 5千万 - 1億円 1千万 - 5千万円 企業部門の支払金利が趨勢的に低下している背景には、 2.0 量的緩和政策によって、企業の CP・起債環境が極端に容 易になっていることがある。銀行貸出金利は、そうした 1.5 直接金融市場との競合により、じりじりと下がってきた。 1.0 企業側の利払負担(支払利子―受取利子)を、財務省 0.5 「法人企業統計」によって、企業規模別にみていくと、 0.0 一頃よりも劇的に金利が低下をみている(図表 2)。この 2004 2002 2000 1999 1997 1995 1993 1992 ナス(つまり利子受取超)になっており、他の部門でも 1990 (支払利子-受取利子)/売上、四半期累計で年間換算 1988 -0.5 1985 資本金 10 億円以上の企業では、すでに純支払利息がマイ 1986 大企業ほど負担が軽くなっている様子がわかる。特に、 出所:財務省「法人企業統計」 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに 足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載 された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 -1- (業務用参考資料) 変化は、大企業を中心に「金あまり」の度合いが色濃くなった結果だと言える。 また、今後、日銀の利上げが利払負担にどのくらいの影響を与えるかと言えば、その影響は限定的だと考えられ る。国内銀行の貸出約定平均金利の推移で見れば、2001 % 年 3 月に日銀の量的緩和政策が導入されたときよりも、 2.2 金利水準は△0.4%程度低下しており、たとえ緩和解除 2.0 や 0.25%の利上げが起こったとしても今までの緩和的状 1.8 況がすべて失われる訳ではない(図表 3)。利上げのイ (図表3)国内銀行の貸出金利の推移 新規貸出約定平均金利 2001年2月 1.835% 1.6 ンパクトは、広がりこそ大きくならざるを得ないが、そ 2006年 1月 1.428% 1.4 の幅自体は相対的に小幅に止まるとみられる。超低金利 2006.01 2005.07 2005.01 2004.07 2004.01 2003.07 2003.01 2002.07 2002.01 2001.07 2001.01 2000.07 2000.01 1999.07 1999.01 1998.07 1998.01 1997.07 1997.01 1996.01 恵は変わらない。 1996.07 1.2 構造が将来も数年続くのであれば、企業部門に対する恩 出所:日本銀行 家計に対するインパクト 金利上昇時の金利・返済負担を考えるとき、家計に対するインパクトが注目される。 家計には、金利上昇でプラスの影響を受ける世代と、逆にマイナスを被る世代がある。まず、借入主体の中心と なる年齢層は、35~50 歳である。年代別の借入金保有残高の金額別構成比(同年代での保有借入額の分布)をみる と、1,800~3,000 万円の階層が多くなっている(図表 4)。家計のライフステージでは、35~50 歳で住宅取得を行 い、50 歳以降にローン返済を進めていくのが一般的と考えられる。 金融資産サイドに目を転じると、金融資産の積み上げが大きいのは 55 歳以降の世代である(図表 5)。彼らは、 住宅ローン返済を終わらせ、退職金を梃子にして、老後の生活資金を大きく増やそうとする年代である。 18% (図表4)年代別にみた家計の借入分布 全世帯、2004年 15% 27% 30歳未満 35歳未満 40歳未満 45歳未満 50歳未満 12% 9% (図表5)年代別にみた家計の借入・金融資産 30% 負債(60歳未満) 負債(55歳未満) 金融資産(55歳未満) 金融資産(60歳未満) 金融資産(65歳未満) 全世帯、2004年 24% 21% 18% 15% 12% 6% 9% 6% 3% 3% 3千万- 1800-3千万 1200-1800 900-1200 出所:総務省「家計調査」 600-900 100-300 3千万- 1800-3千万 1200-1800 900-1200 600-900 300-600 100-300 出所:総務省「家計調査」 300-600 0% 0% おそらく、金利上昇による悪影響は、家計のうち 35~50 歳に集中しそうだ。住宅ローンを変動金利や一時金利固 定型で借入れている人々は、元利返済負担が高まったり、完済目処が伸びたりする影響を受けるであろう。これは、 個人消費の抑制要因になると考えられる。35~50 歳の消費は、総務省「家計調査」(2005 年、全世帯)の年代別ウ エイトでみて、26.0%を占める。当面、この年代は、勤労所得が増える影響を受けると考えられるが、そうしたプ ラス効果は金利上昇を受けて減殺される可能性がある。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに 足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載 された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 -2- (業務用参考資料) 一方、預貯金金利の増加がフルに効いてきそうなのは、 60 歳以上の高齢者である。この年代の消費支出額は、全 (図表6)家計消費の年代別内訳 15% 全世帯 うち勤労者 うち自営・年金生活 体の 35.3%のウエイトを占めている。 ただ、預貯金利息の増加とは言っても、2000 年 8 月の 10% ゼロ金利解除のときの預貯金金利上昇の幅を調べてみる と、+0.05~+0.08%に止まっており、多くを期待するこ 5% とはできない(家計調査の 60 歳以上の世帯であれば、 毎月 500~1,000 円の財産収入の増加)。 70歳 ~ 65 ~ 69 60 ~ 64 55 ~ 59 50 ~ 54 45 ~ 49 40 ~ 44 35 ~ 39 これまで日銀の超低金利政策によって最も助けられて 30 ~ 34 財政に対するインパクト 25 ~ 29 ~ 24歳 0% 出所:総務省「家計調査」 きたのは、財政部門かもしれない。一般的に「長期金利 が上昇すれば、財政負担が増える」と語られるが、そうした事実がある一方で「短期金利をほとんどゼロ%に下げ れば、短期債発行分だけ、債務発行の保有コストが消えてしまう」という逆の作用は見逃されやすい。 国債の発行コストは、1999 年のゼロ金利政策導入以来、短期国債の利回りが 0.1~0.2%まで下がった。2001 年の 量的緩和政策では、短期金利の利回りが 0.1%未満、2 年債の利回りが 0.5%未満にまで低下した(図表 7)。この ことは、政府の国債残高 542 兆円(2006 年度)の実質負担を大きく軽減する作用があったとみられる。かなり大雑 把に言えば、短期国債の発行コストがゼロ近傍であることを勘案すると、実質的な国債残高は、短期国債や 2 年債 残高の 70 兆円分を差し引いて、470 兆円程度に止まっているのと同じになっていたと言える。 % 兆円 (図表7)短期金利の推移 1.2 400 350 コール無担 短期1年 中期2年 0.8 (図表8)国債発行残高の種類別内訳 長期国債 中期国債 短期国債 300 250 200 150 0.4 100 50 0.0 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990 1989 1988 2006/1/23 2005/8/23 2005/3/23 2004/5/21 2004/10/21 2003/7/22 2003/12/22 2003/2/19 2002/9/19 2002/4/19 2001/6/6 2001/11/9 12/25/00 07/18/00 02/09/00 1999/8/30 1999/3/23 1998/5/6 1998/10/9 1997/11/20 1997/1/6 1997/6/13 出所:参議院予算委員会調査室 昨今、日本の債務残高の巨大さばかりが喧伝されるが、実は「短期国債の貨幣化」によって、短期国債の保有コ ストが消えた分、実質的な国債発行費用はかなり小さく抑えられたのである。国債残高を大別した期間別残高をみ ると、2000 年度以降、短期・中期国債の発行残高が増えており、金融政策が財政負担をいかに軽減してきたかが推 し量られる(図表 8)。 今後、量的緩和解除が起これば、極端に平坦化が進んだイールドカーブが正常化し、短期国債の貨幣化現象が解 消されてくる。そうなると、消失していた短期・中期国債の保有コストは次第に債務負担の実感を増すことになり、 政府は国債残高の大きさを一層意識した財政再建を検討せざるを得なくなる。 なお、政府では名目成長率と金利の関係が大きな論争を呼んでいるが、ここでは名目成長率がプラス幅を拡大す る中で、金利水準を金融緩和で人為的に抑え込もうという思惑が働いている。しかし、最近になって、金融政策に 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに 足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載 された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 -3- (業務用参考資料) 極端に依存する局面を脱却せざるを得ないことが確認されるようになって、緩和解除は止むなしという意見が強ま っている。金利・経済が正常化する中では、金融政策と財政政策とのバランスを考えて、いよいよ増税の可能性を 含めて税収確保を考えざるを得ない。量的緩和解除後の財政運営は、プライマリーバランスの均衡(債務元本削 減)を急ぐために、税収のあり方の論議が本格化するだろう。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに 足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載 された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 -4-