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(1)バイオ燃料製造に係わる 分析評価

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(1)バイオ燃料製造に係わる 分析評価
●〔特集〕環境と材料(1)バイオ燃料製造に係わる分析評価
[特集]環境と材料
(1)バイオ燃料製造に係わる
分析評価
材料物性研究部 河越 弘明
生物科学研究部 長谷川 寛
東レテクノ㈱営業部 小杉 剛史
ノール製造に係わる化学分析・物性評価を進めてきた。
当初はセルロース系バイオマス利用の黎明期であり、原
料の探索に係わるセルロース等の主成分分析が主であっ
た。また、糖化プロセスも収率の安定した酸分解(硫酸
分解など)が主流であったため、中間生成物である単糖
分析や目的成分であるエタノール濃度分析など、収率に
直結した成分分析が主であった。
最近では、より高エネルギー収率、低コストの製造プ
ロセスの開発が要求されており、更に次世代技術も視野
1.はじめに に入れたプロセスの開発も進められている。それだけに
解決すべき課題も多くなっており、特に酵素、酵母など
現在、バイオエタノールの原料としては、主にトウモ
のバイオテクノロジーをいかに効率良く活用するかがプ
ロコシに含まれるデンプンやサトウキビに含まれる砂糖
ロセスの課題となっている。よって、原料以外の、前処
などが利用されている。しかし、これらは食料や肥料に
理物、糖化液、発酵液などについて詳細に評価していく
も利用されているため、バイオエタノールの原料として
必要性が生じてきている。このような背景のもと、TRC
大量に使用すると、食料利用と競合し、価格の高騰や食
および東レテクノでは各プロセスに必要な評価・分析手
料不足に陥る可能性がある。そこで、これらに代わる原
法を用意してきた。図1に酵素糖化による製造プロセス
料として、木材やワラ等のセルロース系バイオマス原料
と、その生成物の評価法を示し、以下解説する。
が注目されている。セルロース系バイオマス原料は、地
球上に豊富に存在しているため、バイオエタノールの原
₂.₁ 原料に関する主な分析
料としては適していると言える。しかし、セルロース系
原料としては、セルロースなどの糖量の多いものが求
バイオマスからバイオエタノールを製造する工程では解
められることから、原料中のセルロース量を把握してお
決すべき問題点も多く、いかにエネルギーを効率的かつ
くことが重要である。原料中のセルロース量の評価方法
経済的に生み出すかが課題となっている。
としては、①原料から目的のセルロースを化学的に分画
TRCおよび東レテクノでは、バイオエタノール製造に
し、その重量を測定する主成分分析、②原料中のセルロ
係わる諸問題を解決するため、種々の分析に対応してき
ースを加水分解し、得られた単糖量を液体クロマトグラ
た。本稿では、種々あるプロセスの中で、代表的なプロ
フィー(HPLC法)で定量する構成糖分析がある。
セスである酵素糖化による製造プロセスを例にあげ、そ
主成分分析では、比較的多量の試料が必要にはなる
が、セルロースと共に灰分、WAX分、リグニンを定量
の生成物の評価法を紹介する。
でき、原料のマテバラを評価できる点が特長である。
一方、HPLC法による構成糖分析では、試料量が少量
2.製造プロセスと主な分析メニュー
で比較的迅速に分析可能な点が特長として挙げられる。
ラボレベル検討などで試料量に制約がある場合、又はプ
TRCおよび東レテクノは、約10年前よりバイオエタ
ラント実証運転において原料の情報をレスポンス良く知
図1 バイオエタノールの製造プロセスと主な分析メニュー
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東レリサーチセンター The TRC News No.111(Jul.2010)
●〔特集〕環境と材料(1)バイオ燃料製造に係わる分析評価
りたい場合に有効である。なお、この方法は前処理物
(セルロース等)の分析にも適用できる。
また、原料は保管状態により劣化が起こり、後の発酵
工程で酵母活性を阻害する有機酸等(図2)が原料中に
生成する。また、これら有機物は保管中の酸化などで発
火の危険性もある。そこで、これらに対し、有機酸分析
や安全性評価を用意している。
図2 エタノール発酵阻害物質
(1)主成分分析
図3 主成分分析の分析フロー
原料の主成分分析1)の分析フローを図3に示す。また、
主成分分析により分画された各成分を図4に示す。この
手法は、試料の化学的性質を利用することで、段階的に
抽出・分解処理を行い、得られた抽出物量や残渣の重量
測定を行うことにより、原料中の各成分の含有比率を求
めるものである。この結果から、バイオマス原料に関す
る基礎的情報を得ることができる。
(2)構成糖分析
一般的に陸上植物の多糖は、主にグルコース、キシロ
ース、マンノース、アラビノース、ガラクトース、フル
クトース、ラムノースで構成されるため、これらを定
性・定量することで、おおよそ全糖量を確認できる。こ
れらを分析する手法として、構成糖分析がある。この手
図4 主成分分析により分画された各成分(木質)
法は試料中に含まれる多糖(セルロース、アミロース、
オリゴ糖等)を酸による加水分解で単糖化し、HPLC法
により分解液の単糖量を測定することで試料に含まれる
糖の組成および量を評価するものである。分析フローを
図5に示す。試料は粉砕し供試する。供試量は1g以下と
少量である。分解Ⅰでは高濃度硫酸でセルロース等のオ
リゴ化を、分解Ⅱでは単糖化を主たる目的として行う。
分解液をHPLC-蛍光検出法により測定し、分解液中の糖
量と供試試料量から試料中の構成糖量を算定する。その
一例として牧草の分解液のHPLCクロマトグラムを図6
に示す。この結果から、供試試料中の構成糖はグルコー
ス、キシロースが主であり、アラビノース、ガラクトー
スが僅かに含まれることが分かる。
構成糖分析はレスポンス良く、その組成傾向を評価す
るのに有効な手段ではあるが、注意すべき点もある。そ
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図5 構成糖分析フロー
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₂.₂ 前処理工程と前処理物の分析
前処理という工程は、次工程の糖化工程でセルロース
を効率的に糖化できるように、原料を加工することであ
る。前処理は、水熱処理、アルカリ処理、微生物処理な
どの手法が採られ、原料の膨潤、脱リグニン、ヘミセル
ロースの可溶化、セルロースの低分子化およびα化(糊
化)を主な目的としている。
前処理によるセルロース等の成分変化を、量的には上
述した主成分分析や構成糖分析で評価できる。質的に
は、①固体NMRなどによるセルロースの構造解析、②メ
チル化-GC/MS法による糖鎖結合位置の解析、③サイズ
排除クロマトグラフィー(SEC法)による分子量・分子
図6 牧草分解液のHPLCクロマトグラム
量分布測定、などの手法で評価できる。セルロースの構
造が分かれば、それを分解する酵素の選択に有効な情報
れは、主として酸加水分解による単糖の過分解による
となる。
フラン類(ヒドロキシメチルフラーレンやフルフラー
(1)セルロースの構造解析
ル)、有機酸(酢酸など)の生成、その他には単糖の誘
セルロースに関して知りたい構造情報と、その分析手法
導体(糖アルコール等)の生成による単糖の回収ロスで
の例を表1にまとめた。
ある。ただし、詳細は不明な点が多い。図7に分解Ⅱ工
表1 分析手法例の一覧
程における単糖標準試薬(濃度100μg/mL)の回収試験
結果(HPLCクロマトグラム)を示す。この結果から、
フルクトースはほとんど回収出来ないことが分かる。一
方、グルコースは95%以上回収できるが、キシロース、
アラビノースは90%程度の回収率である。この例は単糖
を用いたものであり、多糖(繊維質)を分解する場合よ
りも強い影響を受けているであろうが、実試料において
結果を評価する場合、多少の回収ロスを考慮する必要が
ある。しかしながら、構成糖分析は、例えば製造プラン
ト等の条件変更に伴う前処理物の組成・量の変化を見る
知りたい情報
化学構造
多形
分析手法
固体核磁気共鳴法
(固体 NMR)
赤外分光法
(IR)
細孔分布
比表面積
ガス吸着法
結晶化度
X 線回折
のに、有効な手段である。製造における出発点である原
料については、セルロース、ヘミセルロース等の詳細な
主成分組成および構成糖組成を精査した上で、前処理物
(2)糖鎖結合位置の解析
について比較的簡便な構成糖分析を行い、組成や量を管
糖鎖結合位置の解析としてメチル化分析法がある。メ
理していくことが効率的・現実的である。
チル化法のフローを図8に示す。
セルロースなどの多糖をメチル化処理によって部分
メチル化アルジトールアセテートとし、GC/MSのフラ
グメントパターンより結合位置を確認する。また、GCFID(水素炎イオン化検出)のシグナル強度比より組成
比を計算することも可能である。
(3)分子量・分子量分布測定
サ イ ズ 排 除 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー(SEC:Size
Exclusion Chromatography)法は、試料溶液を多孔質ゲ
ルが充填されたカラムに通すことにより、分子サイズの
差に基づいて分離を行う液体クロマトグラフィーの一種
で、ポリマーの分子量・分子量分布に関する情報を簡
便に得ることができる手法である。一般的には、検出
器としては濃度検出器である示差屈折率検出器(RI)
図7 分解Ⅱ工程による単糖回収試験結果
(HPLCクロマトグラム)
を用い、分子量既知の標準ポリマーとの比較から相対
的な分子量に関する情報を得るが、多角度光散乱検出
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東レリサーチセンター The TRC News No.111(Jul.2010)
●〔特集〕環境と材料(1)バイオ燃料製造に係わる分析評価
きる。図10に、SEC-MALS法により求めた、セルロー
スと分子量分布が広い(多分散)ポリスチレン(NIST
SRM 706a)の絶対分子量とジメチルアセトアミド溶液
中での回転半径(分子サイズ)の関係を示す。この図か
ら、同一分子量における両試料の回転半径を比較する
と、セルロースの回転半径の方がポリスチレンより大き
いことが分かる。つまり、同一分子量での溶液中の分子
サイズを比較した場合、セルロースの方が溶液中での分
子サイズは大きいということを意味している。
図9 セルロースのSEC-MALS測定結果
図8 メチル化分析法
器(MALS:Multi Angle Light Scattering)を接続した
SEC-MALS法により絶対分子量や溶液中での分子サイ
ズ(回転半径)に関する情報、粘度検出器(VISCO)を
接続したSEC-VISCO法により粘度や溶液中での分子サ
イズ(流体力学的体積)に関する情報を得ることもでき
る。
セルロースは難溶解性ポリマーとして知られている
が、ある前処理を施すことにより、溶媒に溶解すること
図10 絶対分子量と回転半径との関係
ができる。試薬のセルロースについてSEC-MALS 測定
を行った結果を図9に示す。図中の黒色曲線はRI曲線(各
コピー用紙から抽出したセルロースの分子量分布曲線
分子量成分の濃度曲線)であり、赤色曲線はMALS検出
を図11に示す(図中には前述の市販のセルロースの分子
器から得られる光散乱曲線(散乱角θ=90°
)である。
量分布曲線も示した)
。この図から、コピー用紙中のセ
また、赤丸はRI曲線とMALS曲線から算出した各溶出時
ルロースは、複数のピークを有した分子量分布形状を示
間における絶対分子量をプロットしたものである。この
すのに対して、市販のセルロースではシングルピークの
図から、溶出時間と共に絶対分子量が低くなっており、
分子量分布形状を示している。SEC法により、分子量分
SECの原理に従って分離されていることがわかる。この
布の範囲や形状を確認することができ、試料間の比較が
溶出時間と絶対分子量の関係(校正曲線)から、平均分
可能である。また、例えば、分子量1万から2万の成分含
子量や分子量分布に関する情報を得ることができる。な
有率のように、ある特定の分子量範囲の成分含有率を求
お、単分散ポリスチレンを用いて作成した校正曲線(図
めることもできる。
中の青線)と比較すると、溶出時間と分子量の関係が異
次に、セルロース溶液を100℃で加熱処理し、処理時
なっていることがわかる。このように、標準ポリマーに
間と分子量の関係を調べてみた。その結果を図12に示
よる校正曲線を用いた方法(相対分子量)では、絶対分
す。また、処理時間と分子量変化率(%)との関係を図
子量とはかけ離れている。SEC-MALS法を用いること
13に示す。図12、 13から、処理時間とともに分子量が低
により、より正確な分子量・分子量分布を得ることがで
下していることが視覚的に分かる。また、セルロースの
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HPLC法で測定するのも有効と考えられる。ただし、実
際にはオリゴ糖は異性体が多く実試料では厳密な定性・
定量までは難しいが、ある程度の標準物質(例えばグル
コースのオリゴマー)をマーカーとして基準にすれば、
分解過程の推移を評価できる。同様に高分子サイドでセ
ルロースの分解過程を見る場合はSEC法(2.2項参照)
が有効である。オリゴ糖はアミノカラムを用いたHPLC
法で分析可能である。セルロースに由来するオリゴ糖
(セロオリゴ糖)の標準品を測定した例を図14に示す。
図11 分子量分布曲線
分解過程を定量的に追跡することも可能である。なお、
各平均分子量の分子量変化率(%)は以下に示す式から
算出した。
分子量変化率(%)= 処理後試料の平均分子量
処理前試料の平均分子量
×100
図14 オリゴ糖のHPLCクロマトグラム
(n=1:Glucose,n=2:Cellobiose,n=3:Cellotriose,
n=4:Cellotetraose,n=5:Cellopentaose,
n=6:Cellohexaoseを示す)
なお、試料中に存在する可能性があるオリゴ糖として
は他にヘミセルロースに由来するキシロオリゴ糖なども
含まれる可能性が有る。セロオリゴ糖とキシロオリゴ糖
はHPLC法で分離可能である。
図12 加熱処理前後試料の分子量分布曲線
₂.₅ 発酵工程と発酵液の分析
発酵工程は糖化液に酵母を加え、糖をエタノールに転
換する工程である。いわゆるお酒を造る工程である。
発酵液のエタノール濃度をGC法等で定量すること
で、その成果を評価することができる。一方、発酵工程
ではエタノール以外に原料や製造工程に起因する有機不
純物(低級アルコール等の低分子有機物)が生成する。
これらの有機不純物は、最終製品である濃縮エタノール
の品質に影響を与えるため、発酵途中における有機不純
物生成の挙動を把握する必要がある。この場合GC/MS
法により未知成分の定性を行い、さらにGC法で検出成
分の定量を行うことができる。
図13 処理時間と分子量変化率との関係
また、糖化プロセスによって得られた単糖を発酵処理
することでエタノールに変換するプロセスにおいて、糖
₂.₄ 糖化工程と分解液の分析
の過分解物としてフルフラール類が生成する。さらに、
糖化工程では、前処理物にセルラーゼ等の酵素を加
糖化処理の過程において原料中に存在するリグニンが分
え、セルロースを単糖化する。
解されることによってヒドロキシベンズアルデヒド類が
効率的に糖化が行われているかを評価するためには、
生成する。これらの副生成物はヘキソースやペントース
糖化液中の単糖をHPLC法により分析する。また、セル
からエタノールに変換する発酵プロセスを阻害すること
ロースの分解過程を追うには、液中のオリゴ糖濃度を
が知られている。また、解糖系の中間で発生する酢酸な
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どの有機酸も同様に発酵阻害の原因物質(2.1項 図2参
照)であることが知られている。したがって、これらの
発酵阻害物質を評価することは発酵プロセスの効率化の
ためには不可欠である。
(1)発酵阻害の原因物質の分析
フルフラール、ヒドロキシベンズアルデヒド類につい
てはHPLC-UV法で比較的容易に測定可能である。参考
のため、図15に標準試料を用いたHPLCのクロマトグラ
ムを示した。
また、製造工程や条件によりセルロース由来の有機
酸、フラン類、リグニン由来のフェノール類(ケトン
図16 有機酸標準液のHPLCクロマトグラム
(PA:Pyruvic acid,FA:Formic acid)
類)が副生する。これらは、次工程である発酵で酵母活
性を抑制する物質(発酵阻害物質)となる。そこで、膜
分離技術等により発酵阻害物質を除去する検討がされて
おり、その効果を検証するためHPLC法等により対象物
質を定量することもできる。
図17 有機酸標準液のHPLCクロマトグラム
(LA:Lactic acid,AA:Acetic acid)
体トルクの設定のため、粉体・液体の粒径分布、比重
図15 フ
ルフラール,ヒドロキシベンズアルデヒド類の
HPLCクロマトグラム
(HMF:Hydroxymethylfurfural,2-FA:Furfural,
HBA:Hydroxybenzaldehyde,VA:Vanillin,
SY:Syringaldehyde)
(または密度)
、粘度、浮遊物質量(SS)などの分析を
行う。
また、バイオマス種によっては含まれる元素含有量を
調べる必要がある。例えば、ワラ系植物にはケイ素が多
いため配管内スケール生成を、硫黄の多い原料では製品
への残留を考慮しなければならない。
一方、有機酸類については発酵液中の様々な夾雑物質
一方、鉄、亜鉛などの元素は生物に必須な元素であるた
が存在しているため、高波長側にUV吸収を持たない有
め、バイオマス中の金属元素含有量は微生物活性への影
機酸をHPLC-UV法で選択的に検出、定量することは困
響を検討する場合に必要な情報となる。このような元素
難である。
の測定は、ICP法、イオンクロマト法等種々の手法を用
そこで、微生物代謝物の有機酸定量法(イオン排除
いて行う。
HPLCポストカラム反応可視光検出法)として用いられ
ている手法をバイオマス由来の発酵液中の有機酸類に適
₂.₇ 精製工程と製品(バイオエタノール)の分析
用し、有機酸類の定量を行っている。この方法は試料中
精製工程は、発酵液を蒸留などにより濃縮エタノール
に多量に含まれる糖などの夾雑物質の影響を受けず、
を得る工程である。精製された製品(バイオエタノー
良好に分析が可能である。有機酸のHPLC分析結果を図
ル)はその用途が自動車燃料であるため、主として社団
16、図17に示す。
法人自動車技術会が制定した「自動車燃料-混合用エタ
ノール(JASO M361:2006)
」により品質確認される。
₂.₆ その他(固体、液体の性状調査)
バイオエタノールは原料や製造工程に起因する不純物が
製造プラントの機械的設計のために、各生成物の性状
含まれるが、これ自体の品質を保証する規定は厳密には
を調べる必要がある。例えば、スクリーンサイズや回転
ない。広義ではバイオエタノールは工業用アルコールで
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はあるが、その目的が自動車用ガソリンへの混合である
用いて、その他揮発性有機物の定性・定量分析を実施す
ことから、バイオエタノールの品質は従来のガソリンと
ることをご提案している。
同様に使用できる品質でなければならない。
(1)規格試験方法(JASO M361)
現在事実上のバイオエタノールの品質規格として認知
されているのが、社団法人自動車技術会が制定した「自
動車燃料-混合用エタノール(JASO M361:2006)
」で
ある。この規格は、ガソリン中に3容量%以下に混合させ
るエタノール(いわゆるE3ガソリン用エタノール)に範
囲を限定しているものの、バイオエタノールの具体的用
途を反映している品質規格として国内では唯一のもので
ある。
規格項目および規格値は海外の自動車燃料用エタノー
ルの品質規格を参考にされており、特にブラジルの国家
石油庁省令No.2および米国の燃料用エタノールの品質規
格であるASTM D4806-04aを参考にしている点でおおよ
図18 有機不純物分析例(GC-FID法)
そグローバルな規格と云える。本規格によるガソリン混
合用エタノールの品質を表2に示す。
3.まとめ
表2 品質(JASO M361)2)
本稿では、バイオエタノール製造に係わる分析手法を
紹介した。バイオエタノール製造に係わるプロセスで
は、時に個々の技術の各論的検証が必要になってくる。
膜技術や触媒技術の利用により、製造プロセスは益々向
上するであろうし、そのための問題解決が必要になる。
TRCおよび東レテクノでは、有機(生)化学分析、構
造解析、物性評価、環境分析など様々なメニューをもっ
て、バイオエタノール製造の技術開発に貢献できるよう
努力したい。
4.参考文献
1)東レテクノニュースレター,2(2009).
2)JASO M361「自動車燃料-混合用エタノール」,社団
法人自動車技術会発行.
(2)製品(バイオエタノール)の分析
試験法については運用面を考慮して国内規格をベース
としたため、多くは社団法人アルコール協会が制定した
規格「アルコール(JAA S 001:2006)
」またはJIS法に
準拠した方法が採用されている。有機不純物の分析例を
図18に示す。規格では、ガスクロマトグラフ法2条件に
より、エタノール以外の低級アルコール及びアセトン等
の有機不純物分析を行う。但し、分析例でも見られる通
り、規格項目以外の複数の有機物が検出されるケースが
多い。規格項目の枠を越え、更に品質面において不純物
■河越 弘明(かわごえ ひろあき)
材物物性研究部 材料物性第₁研究室 研究員
趣味:散策、土いじり
■長谷川 寛(はせがわ ひろし)
生物科学研究部 生物科学第₂研究室 研究員
趣味:スポーツ観戦、散策
■小杉 剛史(こすぎ たけし)
東レテクノ株式会社 営業部 課長
趣味:ギター、釣り、サッカ-
の評価をする場合は、ガスクロマトグラフ質量分析法を
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東レリサーチセンター The TRC News No.111(Jul.2010)
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