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(6)UV硬化型粘着テープの分析

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(6)UV硬化型粘着テープの分析
●[特集]電子材料 (6)UV硬化型粘着テープの分析
[特集]電子材料
(6)UV硬化型粘着テープの分析
構造化学研究部 徳岡麻里子
有機分析化学研究部 米川 祐加
1.はじめに
PE 30
32μm
PP
150μm
PE 30μm
12μm
UV硬化型粘着テープは、UV照射前は強力な粘着力を
PET 40μm
持ち、UVを照射すると粘着力が急激に低下する性質を
持つ。UV照射による接着と剥離性の制御が容易である
ため、様々な用途で用いられている。粘着剤は溶媒に不
図1 ダイシングテープの断面構造
FE-SEM像(無蒸着)とFT-IRよる同定
溶なポリマーが主成分である場合が多く、分析できる手
法が限定されるため、材料について多くの情報を得るの
UVカットライト下でサンプリングした未硬化の粘着
は困難である。本稿では、粘着剤の組成に関する情報や
剤について、主剤のポリマーの化学構造はFT-IR、熱分
UV照射による構造変化を捉えるため、固体試料での測
解GC/MS、固体NMRにて、添加剤等の微量の低分子量
定が可能な熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法
成分は溶媒抽出後、溶液NMR、質量分析等により分析を
(GC/MS法)、固体核磁気共鳴法(固体NMR法)
、赤外
行った(図2.分析フロー図参照)
。また、UV照射による
分光法(FT-IR法)による分析結果および溶媒抽出によ
粘着剤の構造変化、テープ剥離後のシリコンウエハ上の
る添加剤分析結果を報告する。 残渣についての評価も行った。
2.試料と分析法について
試料には、半導体製造工程で使用されるダイシング
テープを用いた。このテープは、
シリコンウエハからチッ
プを切り出すダイシング工程において、シリコンウエハ
切断時(UV照射前)には強力な粘着力によりウエハを
保持する。UV照射後のピックアップ時は粘着性が低下
し、かつ残存成分がほとんどない状態でウエハを剥離で
きる性能が要求される。
図1に今回用いたダイシングテープの断面における電
界放射型走査電子顕微鏡像(FE-SEM像)と、FT-IRに
よるそれぞれの層の概要を記載した。ダイシングテープ
はセパレータ、粘着剤、基材から成り、基材は₃層構造
をとることがわかった。
図2 組成分析フロー
図3 粘着剤の熱分解GC/MSのトータルイオンクロマトグラム
28・東レリサーチセンター The TRC News No.119(Jun.2014)
●[特集]電子材料 (6)UV硬化型粘着テープの分析
についてはピーク分離が悪くなり、結果に含まれる誤差
3.粘着剤中のポリマー成分の組成分析
が大きくなる傾向がある。本稿では、溶媒を用いて膨潤
3.1 定性分析
分解能を向上させ、
定量精度を向上させた例を紹介する。
粘着剤中に主剤として含まれるポリマー成分について
図4には粘着剤の固体 13C NMRスペクトルを示す。前
定性分析を行うため、サンプリングした粘着剤について
述のとおり、固体NMRでは主鎖や架橋部等の分子運動性
させた試料で固体NMR測定を行うことでスペクトルの
熱分解GC/MS測定を行った。図3には粘着剤成分の熱分
が低い部分ではピークが広幅となり、詳細な解析が困難
解GC/MSトータルイオンクロマトグラムと検出された
となる場合がある。採取した粘着剤のNMRスペクトルで
成分(構成モノマー)の構造を示す。粘着剤の主成分は
は、主鎖やC=O周辺の炭素等に由来するピークがやや広
2-Ethylhexyl acrylate(2-EHA)、2-Methacyloyloxyethyl
幅であった。
isocyanate(MOI)
、2-Hydroxyethyl acrylate(HEA) か
図4に示すスペクトルからでも組成比を算出すること
ら成るポリマーであると推定された。熱分解GC/MS分
は可能であるが、分解能が悪い広幅スペクトルからの定
析では、試料量が1mg以下でも主な構成モノマーの情報
量分析結果に含まれる誤差が大きくなると予想される。
を得ることができる。なお、TMA添加熱分解GC/MS測
そこで、高分解能のNMRスペクトルを得るため、試料を
定を合わせて実施すると、極性が高い成分についても解
溶媒に膨潤し、運動性を高めた状態で測定を行った。図
析可能である。
5に膨潤試料と採取試料のNMRスペクトルと推定構造を
また、FT-IRや固体NMR分析より、官能基情報や分子
記した。
鎖のつながりについて情報を得ることができる。例えば
MOIのイソシアネート基の存在状態を確認することがで
きる。
3.2 定量分析
粘着剤ポリマーの構成モノマー組成比には、熱分解
GC/MSのピーク面積値から概算する方法と定量条件で
測定した固体NMRスペクトルのピーク面積比から概算
する方法がある。しかし、熱分解GC/MSは構成成分に
よって熱分解効率が異なり、さらに各検出成分の感度が
図4 粘着剤(採取試料)の13C DD/MAS NMRスペクトル
それぞれ異なるため、正確な組成比を算出することは困
難である。一方、固体NMRでは、分子運動性が低い試料
図5 粘着剤の13C DD/MAS NMRスペクトル(採取試料と膨潤試料の比較)
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東レリサーチセンター The TRC News No.119(Jun.2014)
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図5より、○印部分の分解能が向上し、エステル隣の
離イオン化質量分析(MALDI-MS分析)により分子量
炭 素(︵C=O︶OC* ,l,k,j) や 主 鎖 等 の 炭 素 由 来 ピ ー ク
情報を得ることができる。さらに、溶媒可溶分について
(i,h,g)が分離良く観測された。また、分解能向上に
は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分取物のIR、
よりS/N比も向上するため、組成比算出時の誤差をより
溶液1H NMR、MALDI-MS分析結果から、より複雑な構
小さくすることができた。
造を有する添加剤の定性が可能である。
熱分解GC/MSおよび固体NMRの結果より、粘着剤主
成分は2-EHA由来のポリマー A、HEA由来のポリマー
B、HEAにMOIが結合したポリマー Cであると推定され
5.UV照射による粘着剤成分の構造変化の解析
た。
また、定量条件で測定したDD/MASスペクトルでは、
UV照射によって粘着性が劇的に変化する本試料につ
ピーク面積比は存在比を反映する。本測定では、条件検
いて、照射前後での粘着剤成分の構造変化を調べるた
討を行い、定量性を伴うDD/MASスペクトルを得てい
め、UV照射前後の粘着剤についてFT-IR、固体NMR分
る。膨潤試料のNMRスペクトルより算出した粘着剤ポリ
析を実施した。結果を図7、図8に示す。
FT-IRでは、二重結合由来の吸収ピークの減少が確認
マーの組成比を表1にまとめた。
された。また、固体NMRでは、UV未照射試料において
表1 粘着剤ポリマーの組成比(モル%)
ポリマー A
(2-EHA)
ポリマー B
(HEA)
ポリマー C
(HEA+MOI)
71
19
10
MOI由来の二重結合(m,n)やエステルのC=O(p)由来
ピークが観測されていたが、UV照射により検出されな
くなることがわかった。これにより、UV照射によって
MOI成分が重合して架橋構造が形成され、粘着力が低下
し、良好な剥離性が発現すると推察された。
4.粘着剤中の添加剤の組成分析
粘着剤中の微量の添加剤分析を行うため、サンプリン
グした粘着剤の溶媒抽出を行い、得られた可溶分につい
て溶液1H NMR、GC、GC/MS分析を行った。図6にGC/
MS測定結果を示す。低分子量揮発成分として、安定剤
(Tinuvin770)
、酸化防止剤(Irgafos168)
、光開始剤の
熱分解生成物が検出され、粘着剤中の添加剤の化学構造
を確認することができた。添加剤の標品を用いること
で、含有量を見積もることも可能である。
なお、揮発性が低くGC/MS測定では検出不可能な高
分子量添加剤については、マトリックス支援レーザー脱
図7 UV照射前後の粘着剤のFT-IRスペクトル
図6 溶媒可溶分のGC/MSのトータルイオンクロマトグラム
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く、溶媒に不溶な樹脂等の分析にも適用できることか
ら、組成が未知の材料について有用な情報を得ることが
可能である。
さらに、UV照射前後の粘着剤を比較することで、UV
照射によって硬化する成分を特定し、化学構造変化を捉
えることができた。
今回の分析で得られたような知見は、粘着剤等の樹脂
の設計や硬化挙動を制御されたいお客様にご活用いただ
けるものであると考えている。
図8 UV照射前後の粘着剤の13C DD/MAS NMRスペクトル
8.参考文献
1)徳岡麻里子、崎山庸子、三輪優子、第16回高分子分
6.シリコンウエハ上の粘着剤残渣の評価
析討論会講演要旨集 p.85(2011)
2)徳岡麻里子、崎山庸子、米川祐加、固体NMR・材料
ダイシング工程における粘着剤の重要な役割は、剥離
フォーラム報告2012年第52号 p.44(2012)
後に粘着剤の残存をできるだけ少なくすることである。
テープ剥離後のシリコンウエハ上の粘着剤残渣を評価す
るため、ダイシングテープを接着後、UV未照射で剥離
したウエハと、UV照射後剥離したウエハ表面について、
■徳岡 麻里子(とくおか まりこ)
構造化学研究部 構造化学第2研究室
趣味:食べること
FT-IR分析を行った。結果を図9に示す。
■米川 祐加(よねかわ ゆか)
有機分析化学研究部 有機分析化学第1研究室
趣味:美味しいお菓子探し
図9 テープ剥離後のシリコンウエハ上残渣のFT-IRスペクトル
UV未照射/ UV照射後のいずれも剥離後の残渣は少な
いものの、UV照射後は粘着剤由来のC=Oの吸収が減少
することが確認できた。UV照射による硬化で、粘着剤
残渣がより残りにくくなったと考えられる。
7.まとめ
UV硬化型粘着テープについて、粘着剤主成分のポリ
マーの組成を推定し、その組成比を見積もることができ
た。また、粘着剤中の微量の添加剤についても化学構造
を確認することができた。この手法は粘着剤だけではな
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東レリサーチセンター The TRC News No.119(Jun.2014)
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