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添加剤に起因する負極SEI膜 及び電解液の有機組成変化

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添加剤に起因する負極SEI膜 及び電解液の有機組成変化
●添加剤に起因する負極SEI膜及び電解液の有機組成変化
添加剤に起因する負極SEI膜
及び電解液の有機組成変化
有機分析化学研究部 秋山 毅
また、電解液へ添加剤VCを加えて65℃で高温保存試
験を行い、試験後の電解液の変性物や電極表面抽出物に
ついて、GC/MSおよびLC/MS/MS分析を行った。負極
表面はXPSにより分析を行った。
1.背景
2.方法
リ チ ウ ム イ オ ン 電 池 で は、 電 気 化 学 反 応 に よ り 電
正 極、 負 極、 セ パ レ ー タ に、 そ れ ぞ れ コ バ ル ト 酸
解 液 の 分 解 が 起 き る こ と が 知 ら れ て い る。 こ の 電 解
リ チ ウ ム、 グ ラ フ ァ イ ト( バ イ ン ダ ー と し てPVDF
液 の 分 解 物 は、 電 極 表 面 で SEI(Solid Electrolyte
(PolyVinylidene DiFluoride:PVDF) を 含 む )、 ポ リ
Interface:SEI)膜を形成することによって、さらなる
プロピレン製フィルムを用いたセルを組立て、電解液
分解を抑制するなどの機能性膜として作用する一方、
{電解質;1mol/L LiPF6、溶媒;ジエチルカーボネー
SEI膜の化学構造や量の増加は電池性能低下に繋がると
ト(Diethylcarbonate:DEC)/エチレンカーボネート
考えられている。
(Ethylene carbonate:EC︶=1:1(容積比)
}を注液し
このような電解液の劣化による電池性能低下を抑制
て、試験セルを作製した。また「VC添加」として、上
するために、電解液にビニレンカーボネート(Vinylene
記電解液にVCを5 wt%添加した。
carbonate:VC)のような添加剤の使用が有効であるこ
試験セルを0.1Cで1サイクル充放電した後、室温およ
とが知られている。この種の添加剤は、負極表面のSEI
び65℃において、4.2V,72時間保存試験を、それぞれ実
膜に影響を与えると考えられていることから 、SEI膜
施した。その後、3Vまで放電された試験セルから電解
自体の詳細な化学構造を明確にすることは重要である
液および負極をサンプリングした。電解液については、
(図1)
。
GC/MS,LC/MS/MS分析をそれぞれ行った。負極につ
1︶
いてはXPS分析、負極を溶媒抽出した溶液については
LC/MS/MS分析を実施した。なお、セルの作製および
解体から試料調製までアルゴン雰囲気下で実施した。
3.結果および考察
3.1 負極表面分析
図2に、高温保存試験後の負極表面に対するXPSによ
る深さ方向の分析結果を示す。
VC添加
被膜(無機成分)
図1 SEI 膜生成のイメージ図と分析手法
こ れ ま で 弊 社 で は、SEI 膜 に つ い て XPS(X-ray
Atomic%
C
被膜(無機成分)
F
F
Li
P
P
O
Photoelectron Spectroscopy:XPS)
,TOF-SIMS(Time
of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:TOFSIMS)をはじめとした表面分析による評価を行ってき
VC未添加
エッチング時間(min)
C
Li
Co
O
エッチング時間(min)
etching rate: 14.3nm/min
etching rate: 14.3nm/min( SiO 2 換 算 )
図2 XPS による高温保存後の負極の深さ方向分析結果
た 。これらの表面分析手法により、SEI膜中の元素の
2)
化学状態分析(定性・定量)が可能である。さらに、
「VC添加」と「VC未添加」を比較すると、表面付近
SEI膜の構造解析をするために、電極の溶媒抽出物の
での元素組成に違いが見られた。VC未添加の表面側で
1
H-NMR(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)
,GC(Gas
はフッ素、リチウム、酸素、リン、コバルトが検出され
Chromatography:GC︶/MS(Mass spectrometry:MS)
ており、これらを含むSEI膜が存在していると考えられ
分析を実施してきた 2︶3︶4︶。今回はそれらに加えて、GC
た。また内部ほど負極活物質である炭素が増加している
では対象外であった難揮発性成分も調べるために、LC
ことが確認できた。これに対し、VC添加の場合には表
(Liquid Chromatography:LC︶/MS/MSを用いて、電解
層付近から炭素濃度が急激に増加しており、SEI膜が薄
液の変性物を分離して化学構造の解析を試みた。
いことが示唆された。
・23
東レリサーチセンター The TRC News No.115(May.2012)
●添加剤に起因する負極SEI膜及び電解液の有機組成変化
3.2 有機分析
3.2.2 負極抽出液(LC/MS/MS)
3.2.1 電解液(GC/MS,LC/MS/MS)
負極のSEI膜中の有機成分を定性するために、負極表
GCおよびGC/MS分析で電解液中のVC濃度を確認し
面を有機溶媒で抽出してLC/MS分析を行った(図5)
。
た結果、高温保存試験後で3.7%であり、添加したVC
のうち、約26%が分解していると考えられた。また、
電解液の構成成分であるDECおよびECの分解生成物
▼H
O
O
O P O
O P O
E
で あ る2,5-ジ オ キ サ ヘ キ サ ン 二 酸 ジ エ チ ル(Diethyl
E
C10H24O8P2
G
▼
▼
2,5-dioxahexanedioate:DEDOHC) の 生 成 が、VC添 加
VC添加
により抑制されていることが確認された(図3)
。
O
O
O
O P O
O P O
O P O
O
O
O
F
F
▼
C14H33O12P3
▼
O
O
VC未添加
O
+
O
O
O
C10H18O6
0
O
エチレンカーボネート
(EC)
5
10
15
min
H
[ (CH3COOLi)n+Li ]
+
(推定構造の一例)
O
O
O
O
(推定構造の一例)
O
ジエチルカーボネート
(DEC)
G
O
O
O
O
O
O
図5 高 温保存試験後の負極抽出液(高温保存試験後)の
LC/MSトータルイオンクロマトグラム(正イオン検出)
O
O
2,5-ジオキサヘキサン二酸ジエチル(DEDOHC)
図3 GC で検出された電解液分解物: DEDOHC の構造
その結果、VC未添加で検出されるリン酸エステル系
次に、GC分析では検出困難な難揮発性成分を定性す
化合物(E, F)は、VCの添加により検出されなかった。
るために、高温保存試験後の電解液についてLC/MS分
したがって、電解液と同様、電極表面においても添加剤
析を行った(図4)。
VCによる電解液分解抑制効果が確認された。負極の表
面分析(3.1)においても、VC未添加でSEI膜の厚みの
(a)▼:電解液分解物と推定されるピーク
A
(正イオン検出)
OO
B
OO
O O
OO
B
▼
O O O O
0
5
10
15
OO
D
OO
O O
O OP P
O O
O OO
O O
O
OO
O
OO
O
O O O O
OO
O O
O
116.6
312.4 [M+NH4]+
O
4.まとめ
O
O OO
O
C11CH1118HO189 O9
(d)
O
リチウムイオン電池の評価において、電極表面分析に
O
O
O
O
O
O
O
89
分子イオン
295.2
O
O
O
O
88.7
100
200
300
400
500
600 0
100
O
図4
LC/MS/MS法を用いることで難揮発性分解物について
O
178
も有効であった。
質量差
200
m/z
ピークDのMSスペクトル
加 え て、 電 解 液 のGC/MS,LC/MS/MSを 実 施 す る こ
とで、電解液分解物を明らかにすることができた。特に
117
[M+H]+
よりもさらに高極性の分解物を確認することができた。
O
O
C12CH12
O23
P10P
23H
10O
D
(c)
O
O
C13CH1328HO28
P11
11O
2 P2
OO
20
min
O O
O OP O
O P
O O
C
C
その他、負極抽出液からは電解液で検出された分解物
C9CH919HO
P 7P
197O
OO P PO O
C
▼
VC未添加
A B
▼ ▼ ▼▼
▼▼
果と合致していると考えられた。
O O O O
OO P PO O
A
VC添加
D
▼
増加と、リンの存在が確認されていることから、上記結
(b)
300
m/z
m/z 295.2のMS/MSスペクトル
高温保存試験後の電解液のLC/MS/MS分析結果
(a)LC/MSトータルイオンクロマトグラム (b)検
出ピークの推定構造 (c)ピークDのMSスペクトル (d)m/z 295イオンのMS/MSスペクトル
また電解液の分析に加えて、電極表面を抽出して分析
することで、電極表面に存在するSEI膜の構造を解析す
ることができた。
5.参考文献
図4より、VC未添加の電解液ではリン酸エステル骨格
を有する成分など、複数の電解液由来の分解生成物が検
.
1)H. Ohta et al, J. Electrochem. Soc, 151, A1659(2004)
出された。VC添加した電解液では図4︵b︶中A,B,Cの
2)藤田学,The TRC News, 103,20(2008︶.
リン酸エステルは認められなかった。高温保存により起
3)藤田学,森脇博文,The TRC News, 108,37(2009︶.
こる電解液の分解が、添加剤VCにより抑制されたもの
4)島岡千喜,森脇博文,小川美由紀,佐藤信之,第50
と考えられる。
回電池討論会要旨集,170(2009)
また、VC未添加の電解液でも、室温で保存すると、
A,B,Cのリン酸エステルが検出されなかったことから、
電解質であるLiPF6が高温により分解されることにより
生成していると考えられた。
24・東レリサーチセンター The TRC News No.115(May.2012)
■秋山 毅(あきやま つよし)
有機分析化学研究部第2研究室
略歴:㈱東レリサーチセンターで有機分析(液体ク
ロマト)に従事。
趣味:ギター、テニス、自転車
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