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地域通貨を活用した互助の 「スタンダード」
● 特 集 『「 北 海 道 ス タ ン ダ ー ド 」 の 創 造 を 目 指 し て 』 地域通貨を活用した互助の 「スタンダード」 ∼住民参加及び地域の協働のツールとしての活用を考える∼ 辻 泰弘 （つじ やすひろ） 北海道総合企画部構造改革推進室主査 はじめに だそうとしたこと、二つ目は住民の自 発的行動と行政の関わりがどういう方 欧米で急速に発達しつつある「地域 法で地域の活性化につながっていくか、 通貨」ー、自らの能力を国際通貨の価 この命題の解決が、北海道の構造改革 値基準とは分離し、地域のコミュニテ に必須であると考えたからである。 ィの中で交換可能な通貨として流通さ せる手法である。 1999年４月に道では構造改革の基 この研修で訪れた地域の取り組みを 通して、「北海道スタンダード」につい て私なりの提案をしたい。 本方向を示し、依存体質からの脱却を 目指した自律した地域社会の形成を道 民、市町村とともに築くことを提案し 地域通貨とＬＥＴＳ ている。しかし、過去100年以上の間、 定着してきた意識を払拭することは単 そもそも地域通貨の代表例としては なる危機感の議論だけでは困難である。 今回訪問した地域で取り上げられてい 自律した地域社会の形成のためには、 るＬＥＴＳがあるほか、米国などで広 自発的に行動する住民の参加が必須で がっている「タイムドル」 、日本でも全 あり、地域活動に参加するシステムの 国の実践者や研究者によるネットワー 構築が最低限のフォローではないかと クでエコマネーの具体化が進められて 思う。 いる。 今回、自主企画海外研修でミレニア ＬＥＴＳの起源は1830年代にロバ ムで賑わう初冬のヨーロッパを訪れた。 ート･オウエン等が考案した 「 労働貨幣 」 その理由は、一つは、「地域通貨」に地 だと言われる。労働貨幣というのは財 域活動に積極的に参加する手段を見い の生産に要した労働時間を具体的に示 ほっかいどう政策研究第10号●1 ● 特 集 『「 北 海 道 ス タ ン ダ ー ド 」 の 創 造 を 目 指 し て 』 した証書で、労働者が自らの生産物を 行として活動しているスイス（バーゼ 労働交換所に持ち込み、その労働時間 ル）のＷＩＲ銀行を訪問した。 に等しい「労働貨幣」を受け取る方法。 価値の評価システムに問題があり、成 功には至らなかったと言われる。 ＬＥＴＳが軌道に乗ったのは、マン チェスター出身で現在カナダ在住の経 営コンサルタント、マイケル･リントン が1983年バンクーバー島東岸のコモ ックス地方で始めてからと言われてい る。キャンペーンを展開し、これが90 年代に開花する。現在では、英語圏の コミュニティの再生に つながる交換リング フライブルク市:タレントボッシュ フライブルグ市でタレントという形 で、地域通貨を普及しているバイヤー 夫妻を訪問。バイヤー氏は日本のマス コミでも再三、取り上げられており、 また、この通貨の研究について、講演 活動等も盛んに行っている。 みならず、ヨーロッパから世界各地に 広がっている。 道内でも栗山町で本格導入に向けて 実験が開始されているほか、下川町や 女満別町でも有志で研究されている。 また、類似のシステムはさわやか福祉 財団の「ふれあい切符」のほか、ボラ ンティアの時間預託制も、介護保険制 度の導入などを背景に全国に波及しつ つある 「地域通貨」はヨーロッパで進展し ているものの、その仕組み、発展経緯、 地域に与える効果、行政との関わりな ど内容はバラエティに富んでいる。今 回、駆け足ではあったが、特徴のある ３カ所∼ドイツ、イタリア、イギリス を訪れ、運営者等に直接、ヒアリング を行うことができた。また、地域通貨 の発展型として、中小企業の互助的銀 ■交換リングの概要 ドイツでは地域通貨制度は交換リン グ（タウシュリング）と呼ばれている。 交換リング内では、物対物、物対仕事、 仕事対仕事が通常の貨幣を介さずに交 換され、それが必ずしも二人の人間が 直接交換し合うとは限らず、別の誰か から何かをしてもらう形（輪）だから である。 交換はリング内の独自「通貨」を介 して計算される。リングの会員は口座 を持ち、仕事あるいは品物を供給した 場合には、口座にプラスの額が記入さ れ、供給を受けた人の口座にはマイナ スの額が記入される。通貨はその地域 ごとに違った名前を持ち、各リングの みで通用している。プラスにもマイナ ほっかいどう政策研究第10号●2 ● 特 集 『「 北 海 道 ス タ ン ダ ー ド 」 の 創 造 を 目 指 し て 』 スにも上限があるが、いずれにも利息 され、会員は自分が望むことを供給す は付かない。 る会員や、自分が提供できることを求 ドイツに交換リングはほぼ300あ める会員を見つけることができる。 り、参加者は推定約１万５千人と言わ 通貨の単位は「タレント」で、商品 れる。環境都市として知名度のあるフ との交換も可能。加入者は事務所に来 ライブルクは人口20万人に対し、交換 て商品を見て、タレントで買える。原 リングは８つあり活発である。仕組み 価に自己利益を上乗せするかしないか も様々で、仕事にかかった時間だけを は、売る人の自由裁量になる。自由経 目安にするリングもあれば供給者と受 済だからいくらで売ってもいい。売れ け手との交渉で決められるリングもあ てタレントが自分に入ってこなければ るが、共通の考え方は人と人との能力 ならないという点は、普通の通貨と同 を交換しようというものである。 じ感覚である。この場合マルクと併用 このシステムが普及している背景と して買うこともできる。 しては、国の経済状態が芳しくない、 人気項目ベスト３と言われるのは、 雇用が減少し、失業問題も増える、銀 １位は生鮮食料品･有機農法の野菜やチ 行も破綻するか経営が安定していない ーズ。それが1,000タレント位で購入 ・・・など、社会があてにならないの 可能であり、これは比較的需要と供給 なら、住民は助け合おうという考え方 のバランスがいい。この場合、50％は があったと言われる。 タレント・５０％はマルクで払っても らうというように通貨の使用範囲を区 ■タレントの仕組み 切らなければならない。２位は色々な バイヤー氏の主宰団体である「タレ 修繕、家具職人や電化製品等の修繕業。 ント・エクスペリメント」（現在はタレ 第３位は家事の補助ということである。 ントボッシュ）はＬＥＴＳを手本に19 94年にドイツ第１号として始められて ■６０００タレントで家を建てた例も いる。２ヶ月に１回口座の計算書とと タレントは５×10㎝大の紙が３枚複 もに市場新聞が送られるシステムであ 写式になったもの。仮に50タレントで り、毎回の新聞に「自分は何が欲しい あれば、自分で50と書く。銀行のよう か」と「自分は何を提供するか」を二 に自分の口座番号もある。名前、住所 つまで無料で載せることができる。こ を書き、相手の口座番号を書く。その うして集まった供給が項目ごとに掲載 人が名前と日付とサインをしたらタレ ほっかいどう政策研究第10号●3 ● 特 集 『「 北 海 道 ス タ ン ダ ー ド 」 の 創 造 を 目 指 し て 』 ント交換が成立する。何をやったかを 事業が興しにくい。そうした事業も現 書くことは別に必要はない。この紙が 金のいらない交換経済なら可能だ。そ ３枚複写式になっているのは、相手と こから新しく、企業が誕生したり、雇 自分と事務局の分。タレント数が少な 用が促進される。 」 い人は、黄色い紙（取引台帳のような もの）の方に記入する。一番大切なの は誰から誰に何ポイント動いたか、こ れはe-mailでも交換できる。 ■行政との関係について ザルツブルグ市の例であるが1930 年代に市がイニシアティブを取り大成 特殊な人の例では、お医者さんで 功を収めた。４分の１が失業者で食糧 6,000タレントで家を建てたと言う。 危機もあって市主導で始め、手工業、 手工業者の人を呼んでタレントで払う 生産業者なども含め、多くの人が参加 ことはよくあるパターンで、業者によ し、市民税もポイントで払うシステム っては季節により暇になるからその時 を取った。市の職員も給料もポイント 期に集中的にやってくれるということ で払い、ポイントで物が買えるという もある。 ように。 ■団体間のネットワーク ドイツ国内では、ロストフ、ミュン ヘン、ハノーバー、カールスルーエ等 各地にある団体などがネットワークに 加盟している。各団体間の換算率は１ 対１でなく20単位と１時間というよう に時間に換算して計算し直される。そ れは為替レートということではなく、 各地域の内部の計算が違うだけでネッ トワーク内では20ポイントと１時間と いうのが厳然たる交換ルールというこ とだ。 バイヤー氏はタレントの目的をこう 主張する。「ドイツでは財政切りつめの ため、ソーラー利用など市民レベルの 地域の中小企業を支える 地域通貨ＷＩＲ バーゼル市：ＷＩＲ銀行 次に訪問したのはスイスのバーゼル 市に本店をおく、ＷＩＲ銀行である。 この銀行の発足は1934年、世界恐慌 の時期にさかのぼる。本来は地域通貨 の考えで始まったのであるが、活動も 活発になって会の規約が現実にそぐわ なくなり、銀行の形態を取ることにな った。ある意味では地域通貨の非常に 発展した形であり、スイスの中小企業 の５∼６万社が加盟しているというこ とだ。 ほっかいどう政策研究第10号●4 ● 特 集 『「 北 海 道 ス タ ン ダ ー ド 」 の 創 造 を 目 指 し て 』 通貨の価値が暴落してしまって、失 Ｒでなどと細かく記載されている。 同 業者が増え、企業が通常な取引が行え 銀行の玄関前に掲げられるスローガン なくなったときにお互い仕事を与え合 には、 「どの銀行よりも助けになる」と うことで取引関係を復活させようとい いうＰＲもある。 うことがきっかけである。この取引は 必ずしも企業間のみならず、通常の「地 域通貨」の考え方と同様、一般の人も 参加していた。現在は銀行法の適用を 受け、会員間の活発な取引を進めてい る。 この仕組みが果たして日本でなじ むかという問題もあるが、地域内の取 引を活発化するという面で、 「地産地消」 といった企業や生産者を巻き込んだ形 の発展があり得ると思われる。また、 ＷＩＲ銀行の場合、預金には利子が付 かないため、企業間では決済通貨とし て利用される。融資も低利となってお り、会員の互助機能を持っている。 本社を訪問し、驚いたのは通常の銀 行窓口と変わらない規模と雰囲気。支 店はベルン、ローザンヌ、ルガノ、ル ツェルン、チューリッヒとスイスの主 要都市にあり、ドイツ語、フランス語、 イタリア語のホームページも作成。ま た、鉛筆やドロップなど勧誘やＰＲに 利用するグッズも作成しており、地域 通貨というよりは完全な銀行のイメー ジである。 新聞のような会員企業の情報誌には、 数百社の広告が掲載されており、それ ぞれ100％ＷＩＲとか、30％はＷＩ 行政主導で定着させた 時間銀行 ローマ市：バンカデルテンポ 地域通貨という形ではないので、ロ ーマ市の試みはあまり紹介された記事 がない。ボランティアの時間預託とい う点では日本で試みられているシステ ムと類似点も多いと思ったが、地域通 貨に準じたシステムにもかかわらず、 行政がかなり全面に立って進めている ことは興味深い。ローマ市役所市民局 のロベルタ氏を訪ね、内容を伺った。 ■時間銀行の導入経過 バンカデルテンポはミラノ市付近で 実施されていたが、本格的な動きは19 96年にローマ市で実験的に導入された ことに始まる。労働組合女性部が提案 し、市の時間局が窓口となり進められ た。 現在は市内で20カ所の銀行を開設。 最初の目的は、女性に対するサービ ス。勤労女性はたいてい時間がなく、 特に子育てとの両立は大変であると。 実際に導入するとこうした子育てとい うニーズよりも、フリータイムに関す ほっかいどう政策研究第10号●5 ● 特 集 『「 北 海 道 ス タ ン ダ ー ド 」 の 創 造 を 目 指 し て 』 るニーズ、英語やコンピュータの勉強 民の協力を得るためにもプロモーショ 等、市の予想とは異なる要望が多い。 ンは対応する考えと言う。 お菓子作りができる人が英語を習うと また、市の実験として必ず地域ごと いう費やす時間で交換する。時間的余 に考古学者とか美術学者の人に登録し 裕がない、お金がないということで勉 てもらい、それを利用し、地域の人に 強をあきらめてしまうこともなく、さ 自分の地域の文化財または別の地域の らに、同じ地域に住んでいる人と知り 文化財を訪れて、ガイドしてもらうこ 合えるというメリットがあるというこ とができるシステムを導入している。 とだ。 これには市民が自分の街を良く知るこ とができるという利点があり、このよ ■行政のプロデュース 欧米の銀行と全く同じ制度でチェッ ク（小切手）でやりとり。登録した人 うな動機がなければ文化財には行かな いし、お金もかかるので人も動かない と言う。 が互いに交換して窓口に行けば、残高 照会が出てくる。窓口に初めてきた人 ■ 時間銀行の利用方法 には動機やできることを記載するカー 「時間」の利用は２種類に分けられ ドを渡して面接する。現在、時間銀行 るが、職人を呼んで何かを直してもら の登録者は約3,500人と他の地域通貨 うということは１回きり。グループを と比較すると大規模である。 作って何かを勉強するなど毎週、同じ まず、市は市内のボランティアグル ことをするパターンもある。 ープに時間銀行の開設を依頼。窓口開 するだけで何も欲しくないという人 設のための予算が年間2,500万リラ（1 も多いので、銀行では交換を進めるた 75万円程度）補助される。それで窓口 め、ケーキを焼いてもらったりして何 を開いてコンピュータ一つとFAX兼留 かを返す仕組みにしている。 守電を付けて、交代で６人の人が窓口 に出ることが条件となる。 昨年、それぞれの時間銀行をつなぐ ネットワーク協会をつくり、市役所と 窓口は、老人ホームとか大学、カト リック教会等様々。時間は違うが、午 前３時間、午後３時間ぐらいが通常の パターンである。 違う存在になった。協会との委託契約 が2001年までであり、以降は経済的 な援助なしで自立させる予定。市は市 ほっかいどう政策研究第10号●6 ● 特 集 『「 北 海 道 ス タ ン ダ ー ド 」 の 創 造 を 目 指 し て 』 市民レベルで着実に 広がるＬＥＴＳ バーミンガム市:ＵＫ・ネットワーク等 最後にイギリスのＬＥＴＳについて、 話を伺うことができた。ロンドンやマ ンチェスター等イギリス全体で400余 りのＬＥＴＳが活動しており、全国大 会も開催される状況にまで発展してい る。バーミンガムＬＥＴＳは、南と北 にそれぞれ組織されており、会員は40 0名を数える。年齢層、職業も様々で あり、サービスの提供方法も特徴があ る。取引対象は消費財も含まれており、 ＬＥＴＳとポンドを併用しているなど、 ＬＥＴＳを活性化させている。ＵＫネ ットワークなど広域的取り組みも進展 している。 今回はバーミンガム大学の小山先生 のアレンジで、ＵＫネットワーク（イ ギリス国内のＬＥＴＳを普及する団体） のマルカム氏とバーミンガムＬＥＴＳ 事務局のバービーノートン氏に会うこ とができた。 ■ＬＥＴＳの状況と仕組み ＵＫネットワークというのは、宝く じなどの補助金を活用、イギリス各地 に行き、講演をしてＬＥＴＳを広めた り、国際レベルで使えるようなコンピ ュータのソフトウエアを開発している。 また、ＬＥＴＳに不足している技術の トレーニングや実際にＬＥＴＳを使う 練習も行っている。 メンバーになるときは、何かができ なければ会員になれないが、特技とい うものがなくても良い。誰かを助ける ことができるとか、時間があるという ことでもいい。全ての人が社会に貢献 できる、何かができるというのが原則。 例えば子供の世話をする、封筒の宛名 を書く、手紙を書く等は高齢者でもで きるはずで、全ての人がメンバーにな れる。 ＬＥＴＳには小切手（チェック）が あるが、これは普通の紙に書いてもい い。普通の銀行と同様、誰が誰に対し てというサインをすれば通用する。入 会するとき、３ポンド、５ポンド、８ ポンドという普通のポンドで払う団体 もあり、自分にあわせて選ぶ。 バーミンガムの場合、ハーツという のが通貨の単位。最初に入ったときは マイナスからスタートする。このＬＥ ＴＳではマイナスばかりたまっても問 題はないと考えており、基本的に地域 全体でバランスを考えている。これは、 マイナスのある人は、借金ではなくコ ミットメントとして、地域に対して負 うものがあるという考えである。 また、ＬＥＴＳは二人で解決するの が原則。バーミンガムでもリストは作 ほっかいどう政策研究第10号●7 ● 特 集 『「 北 海 道 ス タ ン ダ ー ド 」 の 創 造 を 目 指 し て 』 成しているが、それはあくまでもYello w カナダでも、漁業はだめになったが Page（電話帳）である。自分で選 漁師さんが持つ価値（ライフスキル） んで電話して仮に結果が悪くても文句 は、変わらないということから始まっ は言えない。さらにＬＥＴＳは、お金 たものである。通常の経済概念ではも は絶えることなくいくらでもあるとい う価値がないのだが、その人が持って う概念がある。必要なときいつでも作 いる個人の資質は生かせるはずだとい れるのはＬＥＴＳのお金だと考えられ う発想である。 ており、物も売ることができる。例え ば、TVを売るとき50ハーツで売るこ ■ 行政との関係 とができるし、少しお金が欲しいとき イギリスの場合、３分の１位の自治 には10ポンドと40ハーツとで払うと 体がＬＥＴＳに関心を持っていて、自 いうように混合した形も使える。 治体によってはメンバーになるところ も出てきている。通常は、関心を持つ ■ ＬＥＴＳの一番の目的 程度でミーティングの場所を貸す等で マルカム氏が言う。「現在、自分たち あるが、自治体によっては支払いもあ のライフスタイルはポンドや円等の通 る程度ＬＥＴＳでできるというところ 貨に依存していて、その通貨は自分た もあるという。ただ、マルカム氏の分 ちではコントロールできない。色々な 析では、行政とはあまりがっちりと結 国の企業活動や自分たちの生活から遠 びつきたくないという発想が草の根が いところで決まってしまう。品物の値 特徴であるＬＥＴＳの根底にあるとい 段は既に買うときに決まっている。Ｌ うことだ。 ＥＴＳの場合、自分の時間と自分の持 っている技術と経験に価値が付けられ、 それを自分の価値として売り、それを 地域通貨の可能性 認める人が買う。お互い価値を認め合 う地域社会をつくろうという発想であ こうした地域通貨の仕組みは、どう る。コンピュータ等はどんどん変わる いったポリシーで行うかはその地域の し使い物にならなくなるが、生き方や 住民の選択次第と考えられる。この研 人生に関わる技術ーライフスキルは各 修の中では、住民の地域活動が行政と 自が持っているわけであり、それを価 どういう関わりを持って発展している 値化して取引の対象にする。」と。 ほっかいどう政策研究第10号●8 ● 特 集 『「 北 海 道 ス タ ン ダ ー ド 」 の 創 造 を 目 指 し て 』 のかについて、イギリスのグラウンド 進めてきた。芽は育っていたが、それ ワークとドイツバイエルン州の介護保 が必ずしも発展しつづけているとはい 険制度をケーススタディとして調査す いがたい。ＮＰＯ法が施行され、市民 ることができた。いずれも住民の積極 活動の重要性が高まっていると言われ 的な地域活動への参加が必要である。 る。しかし、個人が参加しようと思っ 福祉国家と言われる時代には、大き ても、行政と市民との協働と言っても、 な行政として国のみならず、都道府県 情報不足や財政基盤の弱さ（税の優遇 や市町村もこぞって数々のサービスを 措置の問題）等に起因し、地域課題解 提供してきた。しかしながら、そのこ 決の原動力となるには時間がかかる。 とが企業が育つ風土を失わせ、住民が まさに今はコミュニティの再生という 公共性を分担する担い手として成長す 水平的な連帯で地域を変えていく必要 ることを妨げてきたことも否定できな に迫られている。このためには、「地域 い。さらにはバブル成長とも絡んで地 通貨」というのは非常に有効な手段な 域のコミュニティを崩壊させてきたの のではないだろうか。 かもしれない。 バーミンガムで会ったマルカム氏は、 地方分権という流れがようやく来た 「ミレニアムマネー」という表現を使 背景にも、財政危機がある。好機到来 い、世界経済に左右されない個人の能 と言っても、地方財政は厳しい。こう 力の価値、それを交換することによる いう事態に直面すると、地域の課題解 コミュニティづくりの可能性を表現し 決には、市民や企業との協働という選 ていた。 択肢しか残っていないのではないか。 今、栗山町では「地域通貨」の導入 特に、住民の地域活動への積極的参加 に向けて大きな試みが行われようとし が欠くことのできない要素となってい ている。子供達がお年寄りの買い物を るのではないだろうか。 手伝い、お年寄りが将棋やカルタを教 ドイツでみた介護保険の取り組みも える。近隣の長沼町や由仁町からも是 地域互助なくしては成立しないと言う。 非、参加したいという希望者も多い。 グラウンドワークも住民を引き込み、 北海道は開拓の時代に、移住者が互助 活動の原動力になってもらうかという 組織をつくり、地域課題を解決してき ことが課題である。北海道の歴史の中 た歴史がある。農村では手まがえとい で、地域の住民と行政が一体となって う助け合いも行われていた。地縁、血 一村一品運動をはじめ、地域づくりを 縁が薄いかわりにオープンな新生活運 ほっかいどう政策研究第10号●9 ● 特 集 『「 北 海 道 ス タ ン ダ ー ド 」 の 創 造 を 目 指 し て 』 動も進んでいた。バブルの崩壊後、未 だ北海道の中央依存体質こそがスタン ダードとも言われるが、地域にはまだ、 「互助」が息づいている。 今一度、「地域通貨」にミレニアムマ ネーとしての役割を期待し、地域互助 の姿に「北海道スタンダード」を求め たいと思う。 （11/20∼28まで、総合企画部地域振 興室地域調整課平野主査とともに調査） 参考文献 １ 「21世紀の「温かいお金」エコマネー 」 加藤敏春 ２ 「人の持つ埋もれた能力、かくれてい た地域の資源」今泉みね子 （現代農業５月増刊；自給ルネッサンス ） ３ 「地域通貨の時代は来るか」浅田和幸 （日経地域情報） ４ 「イギリスの都市と地域通貨ＬＥＴＳ 」 村山和彦（調査報告） ５ 「時間銀行−小さな助け合いから連帯 へ−」辻真理子（名古屋市女性海外派遣 団報告） ６ 「循環型経済と地域通貨」丸山 真人 （地域開発：1998．12） ほっかいどう政策研究第10号●10