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地域通貨の法的位置づけと課題

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地域通貨の法的位置づけと課題
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ぶぎん地域経済研究所
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地域通貨の法的位置づけと課題
はじめに
地域通貨は、円、ドル、ユーロなどの法定通貨と違い、強制的に使わせることができないので、
共通の目的をもっている人々の合意があってはじめて価値が認められる。
海外では、経済恐慌の時代に発案され、現在でも貴重な経済手段として使われている地域もあれ
ば、地域経済の活性化のために新たな役割を持たせようとしている地域もある。国家的な信認のも
とに法定通貨と併用されている地域通貨もある。
そこで、本稿では、わが国における地域通貨の法的な位置づけについて、学説、法解釈論や国益
との相反について考察し、法に抵触しない運営方法や制度のあり方を提示する。
1.地域通貨と法定通貨の違い
1-1.発行者(価値の裏づけと学説)
わが国においては、法定通貨は、後に解説する法律を根拠として、政府と日本銀行によって独占
的に発行されている。そして、その現金に類似した証券の発行・流通を禁止し、通貨の発行を政府
と日本銀行に限定する法律もある。中央銀行(日本銀行)に独占的な通貨発行権を与えているのは日
本だけではなく、世界各国共通のことである。国家が自国の通貨を決める権利を「通貨主権」と呼
び、領土に関する主権・外交主権とともに国家の主権として考えられている。
地域通貨は、法定通貨以外の通貨のことであるから、現在のところ、わが国には法的な裏づけは
ない。その価値の裏づけは、地域通貨を使う個人の考えと人々の合意が根拠となってくる。
ただし、海外では、行政の努力がなかなか効果を発揮できない失業問題や地域経済の活性化に奏
効したことから、地域通貨の実績を認めその発行を奨励している国もある。アルゼンチン、スイス
などであり、現在も地域通貨が使われ、法定通貨と共存している。
「貨幣とは何か」という考え方・解釈自体も確固たるものとはなっていない。一般的な交換手段、
それによってすべての商品が買えるもの、という合意の根拠としても「貨幣法制説」と「貨幣商品
説」という二つの考え方の対立がある。
「貨幣法制説」は、古代ギリシアの哲学者プラトンが、
「貨幣は記号(象徴)である」という類の言
葉を残している。
「貨幣法制説」は、
「国または議会などの経済の外部にある権力が、あるものを貨
幣として使うように命じたがゆえに貨幣として機能する」という考え方である。
「貨幣商品説」は、アダム・スミス、マルクス、メンガー等によって唱えられ、それは「貨幣そ
れ自体が人々の欲望の対象となる商品であり、その商品が交換プロセスの中で自然に貨幣となって
いく」とする考え方である。
通貨とは、広く流通・通用する貨幣だから、法的根拠のない地域通貨は「貨幣法制説」に従えば
全く貨幣ではない。
「貨幣商品説」にしたがえば、逆に発行者の違いをもとに区別することができな
くなるので、学説上は政府通貨と全く差がないことになる。
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1-2.機能(目的と実態)
貨幣の機能は、以下のようなものが挙げられる。1)
①
価値尺度・・・金などの基準のどれだけの分量に値するのか
②
流通手段・・・社会的な承認を得て金などの代理となる紙幣など
③
その他の機能・・・価値のストック(蓄蔵)など
また、米国カリフォルニア大学バークレー校「持続可能な資源開発センター」経済学者・ベルナ
ール・リエター教授は、現在の通貨がもつ機能を以下のとおり抽出した。2)
① 交換の媒体
② 価値の尺度
③ 価値の保存
④ 投機的利益の道具
⑤ 支配の道具
このように、貨幣は経済活動を円滑に行うために使われ始めたが、保存が容易かつ任意に行え、
大きな負担なく保存が可能である。そして保存した価値(富)を背景として支配(搾取)の道具として使
われるようになり、貨幣・通貨自体が投機の対象となり投機的利益を得るためのツールともなって
いる。
そのため、地域内の資源をすばやく商品として売り出せるわけではない大部分の地域では、広域
交流の進展と経済のグローバル化により、その地域で生み出された財・サービスが、安く商品を生
み出せる他の地域から持ち込まれる財・サービスとの価格競争に負けてしまう。そして、ドライな
人間関係が地域の中で好まれるとすれば、投機や支配の対象フィールドとなり「信頼」関係だけで
なく「安心」という気持ちも地域からなくなってしまう。
そこで、それらの問題を解決する手段として地域通貨が活用されるようになっている。つまり、
「どんなサービスでもドライにお金で解決する」ことに抵抗がある人々が、お金を渡す以外の方法
で感謝の気持ちを表す手段として地域通貨が活用されるようになっている。
したがって、地域通貨の導入目的は、経済的なものだけでなく、法定通貨を使う場合には期待で
きないコミュニティの再生や活性化に関することにもあるのである。
図表 1 は、地域通貨の論点に関する論文から、地域通貨を利用する目的を「経済的目的」と「コ
ミュニケーションの活性化など」に分類・抽出した上で、地域通貨の目的として整理したものであ
る。
これらの目的の中で、実際に地域通貨の機能を活用して効果をあげているものと、必ずしも現時
点ではじゅうぶんな効果が表れていないものもある。地域通貨の中でも「エコマネー」として流通
しているものは、法定通貨では扱えないサービスに取引対象を限定しているので財の取引の活性化
は期待できない。それ以外の地域通貨でも実験を実施したが本格的な発行を断念したものもあり必
ずしも全ての地域通貨がその目的を達成しているとは言えない状況にある。
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図表 1 地域通貨の目的(論点)
目的区分
経済的目的
No
①
信頼を基盤として互酬的な交換を目指す。
②
地域通貨の域内循環により地域経済の自律的な成長を確立してインフ
レや失業の問題を解決する。
ゼロないし負の利子により、信用創造、投機、独占的な資本蓄積を阻止
し、財やサービスの取引を活性化する。
個人の福祉・介護、救援などの非市場的サービスを多様な観点から評価
する仕組みを提供し、それらを活性化する。
さまざまなテーマ、例えば労働、消費、福祉、環境に関わる NGO や
NPO による市民活動を横へ連携するための理念や枠組みを提示する。
人々に「安心」を与えるのではなく、人々の間に「信頼」を築き、貨幣
交換で一元化しているコミュニティを多様で豊かなものにする。
③
④
コミュニティの
再生とコミュニ
ケーションの活
性化
目的(論点)
⑤
⑥
注)西部教授の論文 3)をもとに、当研究所作成
1-3.通用範囲(地域と対象)
海外の地域通貨や日本におけるいくつかの地域通貨は、国内全域で利用できる制度となっている
が、大多数の地域通貨は、特定の地域やコミュニティなどに限定した範囲・地域で利用することに
なっている。
その理由としては、地域通貨に期待する機能が、地域内の財・サービス取引の活性化にある点や
「信頼」を前提とした顔の見える人間関係の範囲での取引が期待されていることが挙げられる。そ
して、流通地域が国内全域となった場合には、法定通貨と同じ流通範囲となることから、政府・日
本銀行なみの管理運営組織が必要となったり、電子マネーのように IT 設備と知識が必要となるな
ど、地域の人々が手軽に始めるというわけにはいかなくなるからである。
なお、地域通貨で扱うことのできる財・サービスについても、必ずしも法定通貨と同一ではない。
法定通貨は、原則的には市場で取引できる財やサービスのすべてが対象となるのに対して、地域通
貨は、法定通貨では取引できない非市場的取引も含むことが多い。
「形が悪くて出荷できないが、味
は問題ない野菜」
「試作品だが味は問題ないパン」
「犬の散歩」
「買い物の送り迎え」などが例示でき
る。逆に、そのような財・サービスを対象とするのでなければ地域通貨を活用するメリットが少な
くなってくる。
ただし、地域通貨の中でも「エコマネー」という種類のものは、法定通貨では取引できない非市
場的取引に限定して利用し市場価格がつくものは取引を控えている。
2.通貨に関する法令解釈
2-1.強制通用力と担保
法定通貨は、日本銀行券と政府通貨(貨幣)であり、法律によって強制通用力を与えられたもの
である。それに対して、ほとんどの地域通貨は、人々の信頼と信用を基礎としており、会員・利用
者が価値を認め合って使用するのみであり、法定通貨を担保としていない。「出資法」で禁じてい
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るような不特定多数の人から金銭を受け入れることもしていない。
したがって、地域通貨は、本来「出資法」
「銀行法」「日本銀行法」
「紙幣類似証券取締法」の対
象となるものではないものと考えられる。
また、地域通貨をコミュニティビジネスなどで活用した場合、多額の業務報酬が発生したり、地
域外・地域通貨活動非参加事業者等との取引・売上が発生したりする。つまり、国家的規模で考え
る際、強制通用力がなく担保価値がなくても、互酬の関係を超える場合には、具体的な所得が発生
する場合が多いので、金額が小さくても諸税の納付が必要と考えるべきである。所得がある以上、
国の経済活動の一部として、応分の負担をする義務が発生するものと考える必要がある。
そのため、アメリカの地域通貨「イサカアワー」で得た収入は課税対象となっているし、日本の
地域通貨「おうみ」では、有効期限を6ヶ月以内としたり、税務署と協議し地域通貨の売上も他の
現金と同じように売上に計上するといった運用をしている。
2-2.国の通貨主権との関係
地域通貨に対する政府・日本銀行の法・税制関連の公式見解は表明されていないが、電子マネー
については、政府の審議会で議論され、また日本銀行においても広報誌に大蔵省(現財務省)の「電
子マネー及び電子決済に関する懇談会」の報告書から引用するなど、対応の方向が見えている。
その中で重視している視点は、「制度の導入によって社会的な混乱を招くか否か」が中心となっ
ている。明治 39 年に制定された「紙幣類似証券取締法」が、
「一様ノ形式ヲ具ヘ箇々ノ取引ニ基カ
スシテ金額ヲ定メ多数ニ発行シタル証券ニシテ紙幣類似ノ作用ヲ為スモノト認ムルトキハ主務大
臣ニ於テ其ノ発行及流通ヲ禁止スルコトヲ得」(第一条一項)と定めていることによっている。つま
り、「具体的な取引に基づかない事前準備的性格の有無」や「多数に事前に発行した証券に該当す
るや否や」という点が判断基準になってくる。
したがって、地域通貨に対しても同様の議論がされた場合でも、その形態や呼称、有効期限、地
域限定性などに配慮することが求められる。国の通貨主権を侵害するという懸念を払拭するために
も、善意ある第三者が被害を受けないように配慮をしていけば社会的な混乱は避けられるものと考
えられる。
2-3. 関係諸法令
「前払式証票の規制に関する法律」は、プリペイドカードや商品券の発行の際に適用される。そ
して、その対象となっている「前払い式証票」とは、「相応の対価を得て発行される証票で、所定
の財・サービスの購入に利用できるもの」である。したがって、残高ゼロから始まる記帳式の地域
通貨の場合は、明らかに対象外である。紙幣タイプの地域通貨についても、有効期限が6ヶ月以内
のものについては対象外であるため、その範囲内の期限を有効期限に設定すれば、問題点はなくな
る。そのため、各地で実施されている地域通貨の運用実験では、その期間を 6 ヶ月以内としている。
東京都渋谷区で実施された地域通貨「アースデイマネー」の運用にあたっても、この法律に抵触す
ることを避けるため、有効期限を6ヵ月以内としている。
「出資法」
「銀行法」
「日本銀行法」は、不特定多数の者からお金を預かることを業とすることに
対する規制があるため、例えば「預かり金」ではなく「寄付金」との位置付けを明確にすれば良い。
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消費税の扱いについては、元来 3000 万円未満の所得の小規模な商店や個人間の取引は課税対象
とならないので、全国規模の大規模販売に利用したり、コミュニティビジネスとして広く展開した
りする時のほかは、課税対象とならず、その解釈についての齟齬は発生しないものと考えられる。
ただし、来年度の税制改正内容次第では、所得が 1000 万円を超える NPO 法人等の場合は課税
対象となる可能性があるので注意する必要がある。
なお、銀行法では法で定める業務以外を実施してはいけないという規定があるので、わが国の銀
行の窓口で地域通貨を扱うことは難しい。
また、
「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」では、
「通貨」を政府の発行する貨幣と日本
銀行券と限定し、
「円」という単位を使うことを定めている。したがって、地域通貨に「円」や「円」
と混同しやすい単位や通貨の名称をつけることはできないが、決して、
「何人も通貨に類似する証券
を発行してはいけない」というような禁止法令があるわけでないので、
「手段」としての地域通貨発
行は問題とはならない。むしろ、その発行の「目的」と社会的混乱を生むことのない「運用」をし
ているか否かが大切な視点となってくる。
2-4.海外の事例
スイスのWIR(ヴィア)銀行は、
零細な商店や中小企業のための独自通貨を発行している。
劣化(時
間とともに減価)する決済証書の導入やスイスフラン(政府通貨)とヴィア(地域通貨)の両方の支払い
ができるカードの発行が行われている。特に、このカードは、スイス・フランではクレジットカー
ドの機能、ヴィアではデビットカードの機能を併せ持ったもので、5万枚以上の発行実績がある。
当然、スイスの国内法に準拠してカードを発行しており、法的な齟齬はない。
アメリカで 1990 年に始められた地域通貨「イサカアワー」は、一つの市民運動として始められ
たもので、特別に許可をとったりアメリカ連邦銀行に対して事前に協議したりしてはいない。しか
し、発行後に連邦銀行から調査団が派遣され、イサカアワーにより生み出された小さな仕事の多く
が全体では国家全体の経済を活性化していることがわかり、
地域通貨がドルと競合するのではなく、
かえってドルを補強するものである旨の報告をまとめている。イサカアワーで得た収入は課税対象
となるので、ドルに換算されドルで税金をしはらう。国家にとっても地域通貨により地域経済が活
性化されることを歓迎するのは当たり前という考え方であろう。
地域通貨「RGT」が国内全域で流通しているアルゼンチンでは、全国的な経済混乱により、市中
に現金がない事態も発生した。しかし、取付け騒ぎなど地域内での生活に大きな支障は発生しなか
った模様だ。
3.地域通貨に関する法令の課題(解釈と国益)
3-1.貨幣法制説と貨幣商品説
「貨幣法制説」は「国または議会など、経済の外部にある権力が、あるものを貨幣として使うよ
うに命じたがゆえに貨幣として機能する」という考え方である。
「貨幣商品説」は、
「貨幣それ自体が人々の欲望の対象となる商品であり、その商品が交換プロセ
スの中で自然に貨幣となっていく」とする考え方である。
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両説ともに「貨幣」を一般的な交換の手段と考えていることに違いはないが、地域通貨に法的根
拠を与えるためには、当面「貨幣商品説」を前提としなければならない。そして、実際の生活シー
ンの中で「地域通貨」を利用することを考えると、相手の合意があって初めて使える停止条件付通
貨(貨幣商品)とも呼べる性格があることがわかる。
また「政府通貨」がどんな商品とでも交換できることから、その利用によって「交換の権利」を、
ひいては「欲望」を先送りする構造があるとすれば、
「地域通貨」は「合意」と「善意・信用」を繋
げていく構造がある。そのため、地域通貨を広く活用していくためには、
「合意できる人だけ」と「善
意のサービスだけ」
、あるいは「信用できるものだけ」を交換していく構造がある。つまり、
「貨幣
商品説」を前提として「地域内利用」を条件としていく必要があるものと考えられる。
3-2.文理解釈と法理解釈
「文理解釈」は、文章を文言どおりに予見なく日本語として読んでいく解釈の方法であり、
「法理
解釈」は、ものごとの道理や現代社会の常識に照らして立法の精神を基準にして解釈していく方法
である。
法律の条文を解釈する際に、解釈する人ごとにその内容が異なってしまうことを防ぐため、通常
は「文理解釈」することが求められているが、係争の場・法廷での判決の際には、必要に応じて「法
理解釈」されることがある。世の中・経済社会の制度や慣習の変化に法の変更が間に合っていない
場合には、
実態上の支障を発生させないために、
解釈で運用していくことが求められているからだ。
地域通貨に関しては、極端な例では「地域通貨」も「通貨」と称している以上、国家あるいは中
央銀行しか発行してはならないものと法を解釈することが「文理解釈」だとすれば、
「通貨」と「地
域通貨」を混同して考え・扱う人は、いないだろうから善意の第三者が被害を受けたり、取引の安
全上の措置を講じれば発行してかまわない」との法解釈することが「法理解釈」だといえよう。
地域通貨は、本稿で検討した通貨関連法規の立法当時になかった制度・商慣習であるから、仮に
法の不備があっても不思議はない。その場合、現時点の法律で判断する必要があることは間違いな
いが、多くの地域で地域通貨が使われつつある現在、国の判断基準を示す必要があるものと思われ
る。国の通貨政策として「地域通貨の法解釈ガイドライン」などを示し、説明責任を果たしていく
必要がある。
「何もしないことも政策の一つの選択肢である」といえる時代ではないと考えられる。
3-3.国益と地域の発展
(1) 所得の捕捉と課税
地域通貨による取引で発生した所得が政府通貨で換算できない場合、課税方法として、例えば「み
なし収益」などのような会計技術が必要となってくる。そのような方法がとれない場合、極端な例
としては、それを理由として地域通貨の発行自体を禁止されてしまう懸念がある。
現在、日本で発行・運用されている地域通貨は、財やサービスの価値を直接地域通貨で評価する
場合もあれば、円で評価したものを地域通貨に換算している場合もあると考えられる。後者の場合
には、地域通貨で発生した所得は、そのレートで法定通貨に換算すればよいし、それをもとに課税
されるべきものだ。
しかし、財やサービスを地域通貨で直接評価している場合には、その全額を地域通貨で取引する
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と、法定通貨に相当する額が算定できない懸念がある。そのような場合には、発行主体がガイドラ
インとして積極的に標準換算レートを公開して会員に周知することや全額を地域通貨で支払うこと
は控え、法定通貨との合算で使っていく方法を選択していく必要があろう。
もちろん、所得を得るために地域通貨を活用する人ばかりではなく、善意を法定通貨に換算する
こと自体に抵抗がある人がいても不思議はないが、法治国家内での合法活動として胸を張って地域
通貨を活用することが大切な姿勢ではないだろうか。
(2) 消費税の課税
消費税は、現在、所得が 3000 万円未満の個人・事業所には課税されておらず、課税のがれのた
めに地域通貨を活用するような行為があれば、政府は当然、対応策・措置をとらざるを得なくなっ
てくる。これは来年度以降に、課税対象額が 1000 万円に引き下げられた場合でも解決しない問題
である。つまり、政府通貨で支払われた代金や報酬を地域通貨での支払いとして経理処理する余地
がある場合には、その団体数が多くなれば、看過でない金額に相当する。少額の場合でも社会正義
を維持していくためには、脱法行為が見過ごされるとは考えにくい。
ただし、少額取引の場合には、課税に要する事務処理費用(税務署職員の増員に必要な費用など)
を勘案し、著しい不平等が地域に発生しない範囲であれば、決して公平を欠く制度運用とはならな
い。あくまでも程度問題と考えられる範囲と襟を正していかなければならない。物々交換同様に取
引が捕捉できないと消費税課税ができない。しかし、だからといって、いつまでも見逃されていい
理由にはならない。
地域のコミュニティ再生や地域経済活性化という「目的」が正しいからといって、運動に必要な
資金確保ための「手段」として過度の節税を考えてはいけないのであって、信頼を基盤とする地域
通貨の運営主体に相応しい姿勢が望まれる。現行では 3000 万円を超える所得が発生するのであれ
ば、その規模に相応しい応分の税負担が当然と考えていくべきであろう。
(3) 一部の地域の発展と全体の利益(囚人のジレンマ)
国としては、地域経済の発展が国全体の税収の増加となってはじめて国家の経済的利益に結びつ
く。また、例えば一部の地域の経済が発展しても、そのために他の大部分の地域の経済が衰退して
いくようでは選択できる政策ではなくなってしまう。つまり、極端な例では、地域経済の発展が国
家財政に貢献しない場合には、地域経済の発展を多少制限しても国益のための止むを得ない措置と
考えていく可能性も否定できない。地域通貨を導入した地域の発展が、全国に広がっていくことが
求められ、しかも地域経済の発展によって国全体の発展に繋がっていくことが必要なのである。
逆に考えれば、一部の地域の利益・経済発展が全体の利益に反することが考えられる場合、その
経済活動は抑制されることが考えられ、地域通貨の活用によってそのような事態が発生しないとも
限らない。具体的には、地域通貨による地域所得が増え、地域内で経済生活が完結する割合が高く
なってきた場合、法定通貨の必要性が低くなるばかりでなく、その所得が捕捉できなくなって所得
税課税ができない事態となるシナリオだ。一部の地域の利益が全体では不利益になる例である。
その場合には、地域通貨による所得税の税率操作や極端な例では、地域通貨の発行禁止も考えら
れなくはない。現状は、そのような懸念が現実味を帯びているわけではないが、過去海外には事例
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がある。ドイツで 1930 年に発行された地域通貨「ヴェーラ」は 1931 年 11 月に非合法化されてい
る。地域通貨が、地域経済活性化の特効薬となった場合でも国全体の経済にとっては必ずしも特効
薬となるとは限らないばかりか、逆に副作用が心配になることもあり得るのである。
また、地域通貨の活動が広がり、ある程度広域に地域通貨の利用者が広がっていくと、個人がボ
ランティア的に事務局を実施していくことは勿論不可能であり、NPO を設立しても収益事業を実
施しづらい現在の環境においては、多くを望むことはできない。したがって、地域通貨を取り扱う
機関あるいは窓口が必要となってくる。地域の金融がその窓口を代行したり、スイスの WIR 銀行
のように積極的に地域通貨を発行していくことができれば、地域金融機関の多くが標榜する「地域
貢献」や「地域経済の担い手」となることが可能である。そのためには、現在の銀行法の改正によ
って、政府通貨だけでなく、地域通貨も扱ってよいとすることとしていかなければならない。
地域経済の活性化に資するだけでなく、国全体の経済活性化に貢献できる地域通貨のあり方・制
度やその運営などを検討していくことが望まれている。
4.まとめ
地域通貨は、本来「出資法」
「銀行法」
「日本銀行法」
「紙幣発行類似証券取締法」の対象となるも
のではなく、また、
「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」やプリペイドカードや商品券の発
行の際に適用される「前払式証票の規制に関する法律」にも抵触しない運用が前提となる。
そして、各地域の経済発展が国全体の発展にも結びつくようにしていくためには、地域通貨によ
る収入は所得と考え、諸税の支払い対象とし、そのような地域通貨が積極的に活用されるように制
度設計をしていくとともに、必要な法令整備を実施していくことが肝要だ。
主要参考資料)
1)例えば、大阪市立大学経済研究所編「経済学辞典」岩波書店
2)河邑厚徳+グループ現代「エンデの遺言」NHK 出版
3)西部 忠「地域通貨による「地域」の活性化」地方財務 2000 年 9 月号巻頭論文、ぎょうせい
(平成 15 年 2 月 7 日 主席研究員 小池清一)
***お知らせ***
平成 15 年 3 月に当研究所編著「やってみよう ! 地域通貨」(学陽書房)を書店にて販売いたします。
研究・調査レポートではなく、まちづくりリーダー、地域活動に興味のあるかた、自治体・商工会
議所などの地域支援担当のかた向けの平易なマニュアルを目指しました。是非ご一読ください。
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