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北海道のビート栽培技術の海外移転
北海道のビート栽培技術の海外移転 「紙筒移植」のウクライナ導入で共同研究 東京農業大学生物産業学部 准教授 笹木 潤 東京農業大学生物産業学部(オホーツクキャンパス) のある北海道網走市周辺では、日本でも有数の大規模 畑作地帯が形成されている。農家一戸あたり30ha(野 球のグラウンドは約1ha)の農地で、麦、ジャガイモ、 ビートを主要作物として生産している。ビートは、紙 の筒を使ってビニールハウスの中で苗を育ててから畑 に移植する「紙筒(ペーパーポット) 移植栽培」が主 流である。北海道独自、つまり日本独自のこの技術を ウクライナのビート栽培に導入することが可能かにつ いて、本学部のスタッフと東京農業大学の姉妹校であ るウクライナ国立農業大学(現在はNational University of Life and Environmental Sciences of Ukraineに名称変 更、以下NULES)のスタッフとで共同プロジェクト研 ささき じゅん 1970年北海道生まれ。北海 道大学大学院農学研究科農 業経済学専攻(博士課程) 修了。博士(農学) 。 東京農業大学生物産業学部 産業経営学科(地域環境政 策論研究室)准教授。 専門分野:環境経済学、計 量経済学、農業経済学、農 業政策学。 主な研究テーマ:価格変動 の時系列分析、地域経済効 価値を考える方法(共著) 果分析。 学文社。 主な著書:経済学で環境の 究を進めている。 国内砂糖生産量の80%はビートから ビートは、てん菜(甜菜)とか砂糖大根と呼ばれて いる。根の形が「カブ」に良く似ており呼び名から「ダ イコン」と同じ仲間と想像してしまうが、実はホウレ ンソウと同じアカザ科の植物である(葉がホウレンソ ウに似ている)。ビートは、根の部分に糖分が含まれて いるため、沖縄や九州で栽培されているサトウキビと 並んで砂糖の原料として知られている。一般の家庭で も使われるコーヒーや紅茶に入れるグラニュー糖の原 料といえば馴染み深く感じていただけるだろうか。 現在、ビートは北海道だけで作られているといって 過言ではない。特に網走地域や十勝地域といった畑作 地帯では、ビートは重要な作物の一つである。それは 連作障害による収穫量の減少を防ぐため、同じ畑に毎 年同じ作物を続けて栽培せず、異なる種類の作物を一 定の順番で繰り返し栽培する輪作体系をとっているか らである。網走地域では、ジャガイモ、麦、ビートの 順番で栽培されるのが一般的である(十勝地域はこれ に小豆が加わる) 。このように、ビートは農家所得を確 保するためだけでなく持続的に畑作生産を行うために 必要不可欠な作物として栽培されている。 道内で移植栽培は90%に普及 北海道でビート栽培が始まったのは、1871(明治4) 年といわれている。その後2回の世界大戦の影響もあ りビート栽培は時代の変化の中で消長を重ねてきた。 現在ビートの作付面積は、1958(昭和33)年の約2倍 の6万4千haとなっている。このように作付面積が 拡大してきた背景には生産技術の進歩がある。なかで も、「紙筒(ペーパーポット) 移植栽培(以下、移植栽 培) 」の技術開発と普及によって、それまでの直播(畑 に種子を直接播種する栽培方法)に比べ栽培の安定化と 単位面積当たりの収穫量の増加が大きな要因と考えら れる。 移植栽培は、3月中旬に育苗用の土を入れた紙筒に ビートの種子を播種し、ビニ−ルハウス内で育苗、4 月下旬から5月上旬に畑に移植するという栽培方法で ある。紙筒を使ってビート苗を育苗するという栽培技 術は北海道で開発された日本独自の技術である。 移植栽培は、1961(昭和36)年以降急速に普及が進 み、1968(昭和43)年には栽培面積の50%、現在は90 %に達している。技術普及の拡大とともに、当時1ha 当たり24tだった収量は、その10年後は40t、さらにそ の10年後には50tに到達、近年では60tまで増加した。 ウクライナのビート生産事情 世界的にビート生産を見ると、2007(平成19)年の 生産量で、日本は第16位である(表1:世界のビート 生産)。一方、ウクライナは第5位と日本の4倍の生 産量である。しかし、ウクライナのビート生産量はこ こ数年で大きく減少、現在の生産量は10年前の半分以 下という状況である(図1:ウクライナのビート生産量)。 このような状況に至った理由の一つは、国際市場にお ける砂糖価格の低迷といわれている。 新・実学ジャーナル 2010.6