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● 特別解説 ● 新たな機能性表示食品の届出制度について お お た に・ と し お 東京農工大学農学部卒業。農 林水 産省食品総合 研 究 所入 所,農林水産省農林水産技術 会 議 事 務局,内閣 府 食品安 全委員会事務局等を経て,現 在, (独)農研機 構 理事,食 品総合研究所長。 農学博士(九州大学) 大 谷 敏 郎 2015(平成27)年2月に消費者庁から「機能 て「食品の新たな機能性表示制度に関する検討 性表示食品の届出等に関するガイドライン(案)」 会」1) が組織され,約8カ月の検討の結果,昨 が公表された。引き続き3月には全国で,食品表 年7月に報告書がまとまった。その後,報告書に 示基準および新たな機能性表示食品に係る説明会 ついての説明会やパブリックコメントでの国民の が開催され,新制度がいよいよ具体的に動き出し 意見収集が終了し,ようやく具体的なガイドライ た。2013(平成25)年6月,いわゆるアベノミ ン(案)が公表された。本稿では,この新たな機 クスの一貫として,「加工食品及び農林水産物に 能性表示食品の届出制度について,検討の経緯と 関し,企業等の責任において科学的根拠をもとに ガイドライン(案)について概説する。 機能性を表示できる新たな表示制度を作ること」 が閣議決定された。これを受け,消費者庁におい 1.現行の機能性表示制度と問題点 第1図は,現行の食品の 機能性表示制度の概要であ る。法律的にヒトの口の中 に入るものは食品と医薬品 の2つに分類されている。 食品の分類の中でも,包装 容器に効能や効果を表示で きる食品は,特定保健用食 品と栄養機能食品の2種類 のみが厚生労働省によって 定められている。この他, 病院食やベビーフードなど の特別用途食品の分類があ 第1図 現行の食品機能性表示制度 消費者庁の「食品の新たな機能性表示制度に係る食品表示基準案(パブコメ)の 説明会資料」2) に加筆 食品と容器 255 る。 特定保健用食品は,「特 保 」 と 呼 ば れ る 食 品 で, 2015 VOL. 56 NO. 4 1991年に世界に先駆けて表示が認められた機能 おいて検討が進められ,2013(平成25)年6月 性食品の表示制度であり,個別の商品ごとに,厚 14日に,規制改革実施計画および日本再興戦略 生労働省が許可を与える制度で,現在1100以上 の中で,「いわゆる健康食品等の加工食品及び農 の品目が認定されている。一方,「栄養機能食品」 林水産物に関し,企業等の責任において科学的根 はあらかじめ決められたビタミン12種類とミネ 拠をもとに機能性を表示できる新たな方策につい ラル5種類についてのみを表示可能とする仕組み て,2013(平成25)年度中に検討を開始し,平 であり,こちらは規格基準型の制度となっている。 成26年度中に結論を得た上で実施する」とする 一方,この「特保」と「栄養機能食品」に属さ 方針が閣議決定された。その際,「検討に当たっ ないが,体に良いとされている,「いわゆる健康 ては,米国のダイエタリーサプリメントの表示制 食品」がある。しかしながら,科学的な裏付けに 度を参考」にすること, 「安全性の確保も含めた運 よって,健康への効果が確認されているのは「特 用が可能な仕組み」とすることも決定されている。 保」と「栄養機能食品」だけで,「いわゆる健康 この閣議決定を受け,消費者庁において「食品 食品」は,ヒトの健康に対する科学的根拠は十分 の新たな機能性表示制度に関する検討会」が設置 とはいえず,また,品質の管理が十分ではないこ され,医学,薬学,食品,安全等の学識経験者, とが多く,しばしば健康被害を引き起こすことが 消費者関連団体,事業者団体等の14名の委員で, 報告されている。 2013(平成25)年12月20日の第1回から2014 「特保」における表示は,例えば,血糖値上昇 (平成26)年7月18日の第8回にかけ,主に,1) 抑制作用に関しては,「糖の吸収を穏やかにしま 安全性の確保,2)機能性表示を行うに当たって す」,「食後の血糖値が気になる方に適していま 必要な科学根拠の設定,3)適正な表示による消 す」,脂質代謝改善関係では,「体脂肪が気になる 費者への情報提供や食品表示制度としての国の関 方に適しています」,歯や歯茎関係では,「歯を丈 与,について討議が行われ,著者も委員の1人と 夫で健康にします」と表示することが認められて して議論に参加した。 いる。いずれも極めて定性的な表現で,消費者が 1)の安全性については,サプリメント形状の 商品を選択する際の助けにならないとの指摘があ 加工食品の過剰摂取問題とサプリメントを過信す る。「栄養機能食品」では,ビタミン C の場合, るあまり本来の薬を使用しなくなることによる健 「ビタミン C は,皮膚や粘膜の健康維持を助ける 康被害の問題が主な論点であった。農林水産物に とともに,抗酸化作用を持つ栄養素です」と表示 ついては基本的に食経験があるとの認識で,安全 するとともに,「本品は,多量摂取により疾病が 性については大きな問題とはならなかった。2) 治癒したり,より健康が増進するものではありま の機能性については,関与成分の質と量を担保す せん。1日の摂取目安量を守ってください」と る方法論と構造/機能表示をどこまで可能とする いった注意喚起表示が義務づけられている。 かが大きな論点となった。構造/機能表示とは, さらに, 「特保」に関しては,個別の商品ごとに, 人体の部位,例えば手や足,鼻,関節などについ 有効性や安全性に係るヒト試験が必須であるため, て,効果効能を表示することで,これまでの「特 許可手続きに時間と費用がかかるという問題点, 保」や「栄養機能食品」,あるいは薬と,どのよ うに仕分けをするのかについて検討が進められた。 「栄養機能食品」に関しては,栄養成分のみに限 3)の情報提供や国の関与については,健康の大 定されているという問題点が指摘されていた。 前提となるバランスの取れた食生活の重要性など 2.規制改革会議における決定と検討 の経緯 の消費者教育,企業等の責任において表示される 制度であるが,国が販売後の監視を徹底すること の必要性などが討議された。 機能性食品の表示に関して,消費者に誤解を与 検討会では毎回,消費者庁や農林水産省,各委 えず商品選択を可能にするため,規制改革会議に 食品と容器 256 2015 VOL. 56 NO. 4 員から多くの資 料が提出されて 活発な討議が行 われ,最終的に 委員会としての 報告書が7月30 日に消費者庁長 官に提出された。 これを受け,消 費 者 庁 で は, 8月28日から 9月26日まで意 見募集(いわゆ るパブコメ:パ ブリックコメン ト)が行われ, また全国4カ所 で計6回の説明 第2図 新たな機能性表示制度の概要 された「機能性表示食品の届出等に関するガイド 会が行われた。その後,前述のように2015(平 ライン構成(案)」の最初の部分である。 成27)年2月19日にガイドライン(案)が公表 され,3月から全国7カ所での説明会が開催され, 新たな届出制度が始まることになった。 届出に際しては,届出ようとしている食品が, 今回の制度の対象となるかどうかの判断をする必 要がある。今回の届出制度は,第1図に示したよ 3.新たな機能性表示制度の概要 うに,「薬」ではなく,「食品」が対象であること り か ん から「疾病に罹患している者」は除く他,「未成 第2図は,消費者庁が説明会で用いた「新しい 年者」,「妊産婦」,「授乳婦」を対象としないこと 機能性表示制度の概要」の図である。安全性と機 能性について確認した後,消 費者に誤解を与えないための 表示方法,国の関与のあり方, 販売開始後の国の対応などの 方針に沿った内容であれば, 届出が可能なことが簡潔にま とめられている。以下,消費 者庁のガイドライン(案)を 使いながら,新しい機能性表 示食品の届出制度について概 説する。 (1)対象食品となるかの 判断 第3ー1図は,消費者庁か らガイドラインの説明会で示 食品と容器 第3ー1図 機能性表示食品の届出等に関するガイドライン構成(案)その1 消費者庁の「食品表示基準及び新たな機能性表示制度に係る説明会資料」3) から抜粋 257 2015 VOL. 56 NO. 4 が条件となっている。「未成年者」や「妊産婦」 等の対象者は,検討会の議論の中で,サプリメン 明らかにされている。 (2)安全性の根拠 第3ー 1図に示したように,安全性の根拠は, ト形状の食品の過剰摂取の問題や本来の薬を使用 しなくなる問題などから,今回の制度の対象から 主に食経験(喫食実績)と相互作用を明らかにす は除くことになった。ただし,生鮮食品に関して ることにより行われる。食経験については,例え は,豊富な食経験があり,むしろ「未成年者」や ば,高齢者による摂取を主眼としているが,それ 「妊産婦」等の対象者に摂取していただきたいこ 以外の者が摂取する場合などにおいて,機能性関 とから,対象者から除外しないことになっている。 与成分の1日当たりの摂取目安量を同等以上含む 食品について一定期間の喫食実績があることが条 (ガイドライン(案),p.98「包装容器への表示 件となっている。また,国外での食経験について 事項」参照) また,機能性の関与成分が明らかなことが条件 は,日本人の食生活・栄養状態,衛生面,経済面 になっている。これまでの農産物の加工品などで 等を勘案し,類似の国又は地域で,一定期間,一 関与成分が明らかではないが,効果について言及 般的に摂食の実績があることが要件になっている。 している製品は対象外である。関与成分について 一方,生鮮食品や限られた地域で製造された単一 は,標準化された分析方法で定量可能なこと,作 の農林水産物のみが原材料である加工食品(いわ 用機序がなんらかの実験により考察されているこ ゆる特産品)は,全国規模での摂食実績がなくて とが条件になっている。作用機序に関しては,当 もよいとされている。なお,検討会では,非常に 初は,明らかになっていること,を条件とするこ 狭い地域で,限定的に摂食されている食品につい とで検討が進められたが,必ずしも医薬品のよう ては,場合ごとに対応するとの議論があった。 に明らかにはできないケースも多いことから,考 機能性関与成分と医薬品との相互作用,複数の 察するという表現となった。さらに,摂取するこ 機能性関与成分同士の相互作用については,公的 とにより同時にアルコール,ナトリウム等を過剰 なデータベース等を検索した上,評価することに 摂取する恐れのある食品は除外されている。食事 なっている。 摂取基準に基準が策定されている栄養成分,栄養 機能食品も対象外とされているが,各種アミノ酸, (3)生産・製造及び品質の管理及び健康被害 の情報収集体制 届出をしようとする食品が,新しい制度の対象 ペプチド類,アラキドン酸,EPA,難消化デキス となり,安全性にも根拠があるとなると,次に, トリン,β - クリプトキサンチン等,除外成分が その品質の管理について検 討することになる。第3ー 2図に,生産・製造及び品 質の管理及び健康被害の情 報収集体制の検討項目を示 した。機能性関与成分の品 質管理,特に安全性に関す る品質管理については,サ プリメントをはじめとする 加工食品では HACCP 等の 厳しい品質管理が求められ ている。生鮮食品に関して 第3ー2図 機能性表示食品の届出等に関するガイドライン構成(案)その2 消費者庁の「食品表示基準及び新たな機能性表示制度に係る説明会資料」3) から抜粋 食品と容器 258 の 生 産 情 報 に つ い て は, 「生産・製造及び品質管理 2015 VOL. 56 NO. 4 が実施されていなければ機 能性表示ができないという ものではないが,実施の有 無を明らかにし,消費者の 食品の選択に資する情報」 と位置付けられている。生 鮮食品の,生産,採取,漁 獲等の衛生管理の取り組み 状況について,届出書に添 付する他,機能性関与成分 のバラツキが大きくなる場 合があるので,産地,品種, 栽 培 時 期, 肥 培 管 理, 収 第3ー3図 機能性表示食品の届出等に関するガイドライン構成(案)その3 消費者庁の「食品表示基準及び新たな機能性表示制度に係る説明会資料」3) から抜粋 穫・調整等について,できる限り記載することに きわめて簡潔に書かれているが,今回のガイドラ なっている。なお,農林水産物の機能性成分のバ インでは最も重要な項目である。 第4図に,消費者庁が昨年8月から9月に説明 ラツキについては,農林水産省においてサンプリ 会で使用した資料を示した。臨床試験においては, ング・分析手法が別途検討されている。 また,加工食品,生鮮食品共に,表示内容を保 臨床試験の質を担保するため,近年登録すること 証するため,信頼性が確保された分析法での機能 が必須となっている「UMIN-CTR(大学病院医療 性成分の分析,規格外製品の出荷防止対策,健康 情報ネットワーク臨床試験登録システム) 」への事 被害の発生時に的確に対応するための情報収集体 前登録を行った上で,研究結果については,国際 制や連絡体制の確立が求められている。生鮮食品 的にコンセンサスの得られた形式で論文化するた の場合,健康被害発生時の検証のための試料の確 め の 指 針(CONSORT(Consolidated Standards 保や分析,お客様相談室の設置と健康被害発生時 of Reporting Trials)声明)等に沿って,査読付き の連絡体制等は,従来の生鮮食品では一般的では 論文をまとめることが必須とされている。ただし, ない考え方なので注意を要する。 これらのシステムは比較的近年に導入されたため, (4)機能性の根 拠 第3ー 3図に示す ように,機能性を証 明するのに必要な科 学的根拠については, 1)最終製品を用い た 臨 床 試 験, 又 は 2)最終製品又は機 能性関与成分に関す る研究レビュー,の いずれかを実施すれ ばよいことになった。 このガイドライン の構成(案)では, 食品と容器 第4図 機能性の科学的根拠の考え方 消費者庁の「食品の新たな機能性表示制度に係る食品表示基準案(パブコメ)の説明会資料」2) に加筆 259 2015 VOL. 56 NO. 4 それ以前に行われた臨床研究結果を救済するため る背景には,1994年に施行された米国のダイエ に,経過措置期間を設けることとなっている。ま タリーサプリメント表示制度(栄養補助食品健康 た,ガイドライン(案)には,臨床試験の実施は, 教 育 法:DSHEA(Dietary Supplement Health 特定保健用食品の試験方法に準拠し,被験者は, and Education Act))自体についての調査研究 原則として,疾病に罹患していない者(未成年者, 結果がある。2012年にこの制度に則った市販の 妊産婦,授乳婦は除く)から選定すること,表示 製品を調査したところ,科学的根拠とされた文献 しようとする機能性と関連しないことが医学的に の約1割が,ネット上の情報,企業のプレスリリ 明らかな疾病の患者のデータは用いても差し支え ースや宣伝,手書きの学生論文などを根拠にして ないこと,被験者は,当該疾病について広くコン おり,FDA のガイドラインにまったく沿ってい センサスの得られた診断基準等で判断すること等 なかったことが明らかになった。このことから, が示されている。さらに,臨床試験の結果を一般 わが国の新しい制度ではより厳しい対応が求めら の消費者向けに説明することが求められており, れることになった。 そのために平易な言葉で作成する,構造化抄録 研究レビューにおいては,臨床試験における肯 (1000文字以内)の内容も細かく示されている。 定的結果が必須となっているが,生鮮食品および 研究レビューについては,定性的研究レビュー サプリメント形状以外の加工品に関しては,臨床 又は定量的研究レビュー(メタアナリシス)を実 試験に加え,観察研究における肯定的結果につい 施し,“totality of evidence”(関連研究について, ても根拠とすることができることになった。この 肯定的・否定的内容及び研究デザインを問わず検 点は農林水産物等の生鮮食品を評価する上で大い 討し,総合的観点から肯定的といえるかを判断) に前進した。ただし,研究レビューについては, の観点から,表示しようとする機能性について肯 科学的根拠とされた研究が外国で行われた場合, 定的と判断できるものに限り,機能性表示食品の そのデータを日本人に外挿できるかを考慮するこ 機能性の科学的根拠にできるとされている。その とが求められている。また同時に,レビューに用 際,レビューの対象者は,疾病に罹患していない いた試料と最終製品の同等性についても考慮する 者(トクホの試験方法として記載された範囲内に ことが必須とされている。 限り,軽症者が含まれてもよいが,疾病に罹患し なお,農林水産物における最終製品とは,品種 ていない者のレビューも実施)とすることになっ で規定するか,いわゆる産地としてブランド名が ている。また,複数の機能性関与成分の場合は, 広く知られている地域で生産されている農林水産 成分ごとに機能性を実証することになった。ガイ 物を指すということになった。さらに,臨床研究 ド ラ イ ン で は, 報 告 書 に つ い て PRISMA 声 明 や研究レビューを行う際に,官能評価などで使わ 2009チェックリストに準拠した形式での記載が れる主観的な指標(視覚的評価スケール:VAS 求められている。PRISMA(Preferred Reporting (Visual Analog Scale))も評価の対象として利 Items for Systematic Reviews and Meta- 用できることとなった。この場合の利用できる指 Analyses) 声明は,系統的レビュー・メタアナリ 標は,日本人において妥当性が得られ,かつ,学 シス報告の標準化を目的とした指針で,システマ 術的に広くコンセンサスが得られたものに限ると ティックレビューやメタアナリシスの報告の質の されているが,これまで使用できなかった主観的 向上のために,2009年新たに改良して発表され 指標を評価できることは農林水産物を評価する上 た声明であり,今後のシステマティックレビュー で大きな前進である。その他,報告書には,研究 はこの声明に則って報告することになるため,ガ レビューの検討結果をふくめ,検討の過程や文献 イドラインでも多くのページが割かれ,チェック の取捨選択などを詳細に公表すること,新たな知 リストが別紙として添付されている。 見を含めて定期的に研究レビューを見直し公表す ることなどが明記されている。なお,研究レビュ 研究レビューについて厳密な根拠が求められ 食品と容器 260 2015 VOL. 56 NO. 4 ーの実施者については特に定めないが, 第1表 機能性表示の例 レビューの責任は最終製品の事業者が 負うこととされている。 (5)表示の内容と届出 表示できる内容は,本制度の目的で ある「疾病に罹患していない者の健康 の維持及び増進に役立つ旨又は適する 旨を表現する」ことを,誤解のないよ うに表示することが最優先事項となる。 また,表示可能な機能性の範囲は,部 位も含めた健康維持・増進に関する表 現が可能とされているが,あくまでも疾病名など 示することが求められている。さらに,開示に際 疾病を想起される表現は表示できないことになっ しては,一般消費者にも理解,活用しやすい形式 ている。機能性の表示例を第1表に示した。 を整備することも明記されている。現時点で想定 される表示のイメージを第5図に示した。 容器・包装へは,機能性関与成分名,1日摂取 (6)届出 目安量,1日摂取目安量当たりの機能性関与成分 国(消費者庁)は,安全性や機能性に関する製 の含有量,摂取上の注意,安全性・有効性につい て国による評価を受けたものではない旨の表示, 品情報について販売前に届けを受け,受理番号を 疾病の診断,治療,予防を目的としたものではな 付与した上で販売60日前に公開し,広く国民に い旨,バランスの取れた食生活の重要である旨等 周知することで,製品品質を担保することになっ を表示することになっている。この他,安全性や ている。また,国は販売後の製品のモニタリング 有効性の科学的根拠情報は,Web での開示など の徹底,違反した場合の収去,施行状況の見直し 容器・包装への表示以外の手段により,詳細に開 等により新制度の適切な運用を図ることも求めら 包装資材の表面 包装資材の裏面 第5図 想定される生鮮食品の機能性表示イメージ 食品と容器 261 2015 VOL. 56 NO. 4 れている。米国のダイエタリーサプリメント表示 についても研究を継続する必要があるが,今後は 制度が,栄養補助食品健康教育法となっているよ ヒト試験による効果の検証が研究の中心となろう。 うに,わが国おいてもバランスの取れた食生活の 農林水産物やサプリメント形状以外の加工食 普及啓発,安全性も含めた食品の機能性表示制度 品を表示の対象とした場合,機能性成分の他,多 に関する消費者の理解増進に向けた取り組みを実 様な成分が含まれており,全体として機能性を発 施するよう検討会から強く求められている。 揮していることが多いと考えられる。実際に農林 水産物を食材としてメニューあるいは調理を行う 4.おわりに 場合,3次機能成分が多く含まれていても,1次 機能である栄養が十分にあり,2次機能である美 本制度は,本来,規制改革の一貫で検討された ことから,報告書の内容やガイドラインは,厳し 味しさやテクスチャーなどにも優れていなくては, 過ぎるのではないかとの意見も多く聞こえる。し 食材に採用されることはない。農林水産物は,い かしながら,一般的な商品の表示を考えた時,表 わゆる丸ごと評価すべきであり,さらに調理や加 示をする最低限のルールは必要であり,特に生鮮 工されて摂食されることを考えると,調理や加工 食品に関していえば,ハードルは低くないが道は 後の1次機能や2次機能も含めて,3次機能を評 拓かれたものと考えている。 価すべきである。近年の分析機器や情報処理技術, 現在,多数市販されている「いわゆる健康食 実験心理学の発展,医学や栄養学との密接な連携 品」については,新しい制度ができることから, など,これまでに考えられなかった研究手法で, これまでのようにおおらかに販売することは難し 包括的な食品機能研究を推進する時期に来ている くなることが予想される。これまで以上に,表示 と考えている。 本誌の2014(平成26)年1月号の新春誌上座 については十分に配慮した販売が望まれる。 今回のガイドラインでは,食品の機能性表示を 談会において,「エビデンス(科学的証拠)に基 行う上での方法論,特にヒト試験については厳密 づく機能性食品―健康長寿社会の実現に向けて に定められた。また,「機能性成分は定量可能で ―」の特集が組まれ,食品の機能性について,機 あり,作用機序が考慮されていること」等も求め 能性はもとより,ヒト試験や安全性,国内外の制 られていることから,機能性成分の分析方法や, 度など,さまざまな角度からの情報が整理されて 細胞実験や動物実験等による作用機序の考察など いる。併せて参考にしていただければ幸いである。 <参考 URL > 1)食品の新たな機能性表示制度に関する検討会, http://www.caa.go.jp/foods/index19.html#m01 2)消費者庁,食品の新たな機能性表示制度に係る食品表 示基準案(パブコメ)の説明会資料, http://www.caa.go.jp/foods/pdf/kankeisiryou_1.pdf 食品と容器 3)消費者庁,食品表示基準及び新たな機能性表示制度に 係る説明会資料, http://www.caa.go.jp/foods/pdf/150219_shiryou4 .pdf 262 2015 VOL. 56 NO. 4