...

ここをクリック! - 缶詰技術研究会

by user

on
Category: Documents
20

views

Report

Comments

Transcript

ここをクリック! - 缶詰技術研究会
⃝シリーズ解説⃝ 果実とその加工品の話
第26回
果実の加工(2)
―ワインおよびスパークリングワインの製造―
お ん だ・たくみ
東京農 業大学大学
院 修 了。 山 梨 県 工
業 技 術 センター 支
所 ワイン センタ ー
支所長。
博士(工学)
つ じ・ ま さ お
北海道大学農学部
農芸化学科卒業。元
山梨県工業 技術セ
ンター副所長。現在
山梨学院大学講師。
恩 田 匠
辻 政 雄
比が減少して,白とロゼワインが増加している。
●1.はじめに●
海外産スパークリングワインの輸入量は,景気
ワインは,ブドウ果実を原料とした主要な加工
低迷の影響から2009年に一度減少したが,それ以
品であり,世界各国で生産されている。我が国で
降増加している。2012年の輸入数量は約3万 kL
は明治初期に,山梨県において山田・詫間1) の
(財務省調べ)であり,10年前から2.2倍に増加し
共同出資によるワインの醸造場を設立したことが,
ている。
近代ワイン醸造の始まりである。以来,6度のワ
インブームを経てきたが,近年新たなワインブー
●3.国産ワインコンクール●
ムを迎えている。
近年の国産ワインの高品質化を牽引しているも
本稿では,白ワイン,赤ワインおよびスパーク
のに毎年山梨県で開催されている「国産ワインコ
リングワインの製造方法を概説し,特に山梨県に
ンクール」2~6)がある。このコンクールは,日本
おける動向を中心に紹介する。
国内で生産された原料ブドウのみを用いて製造さ
●2.国産ワインの統計●
れたワインを対象として,競争原理を導入した初
近年(平成24年度)の我が国のワイン(果実酒)
クールが開催され,24道府県の103社から過去最
消費量は,321千 kL(国税庁調べ)であり,過去
多の797点のワインが出品された。
5年間毎年1割程度増加している。一方で,我が
このコンクールでは,原料ブドウの品種や製法
国の成人1人あたりのワイン消費量は,平均3.1
から,「欧州系・赤」
,「国内改良等・赤」,「北米
L(同国税庁調べ)である。この消費量は,フラ
系等・赤」,「ブレンド・赤」,「欧州系・白」,「国
ンスやイタリアなどと比較すると,10分の1以下
内改良等・白」,「北米系等・白」,「ブレンド・白」,
けんいん
めてのものである。平成26年度は第12回目のコン
の量であり,現状では国民的な酒類とはいえない。 「甲州辛口」,「甲州中甘口」,「極甘口」,「ロゼ」
我が国の赤:白:ロゼワインの構成比は,54:
および「スパークリングワイン」の13カテゴリー
37:9(%)と推定(キリン株式会社調べ)され
に分けられて審査が行われる。この出品内容を見
ている。赤ワインのポリフェノールが注目された
ると,日本国内で多様なブドウがワイン原料用と
第6次ワインブームが沈静化し,赤ワインの構成
して栽培されていることが分かる。ちなみに,
食品と容器
728
2014 VOL. 55 NO. 12
−ワインおよびスパークリングワインの製造−
2014年の大会7) では25点のワインが金賞を受賞
した(第1図)。
●4. ワイン醸造用ブドウ●
ブドウ8~ 11)は,ワイン醸造用と生食用ブドウ
に分けられる。一般的に,ワイン醸造用ブドウは,
生食用ブドウよりも高い糖度と酸度が必要とされ
る。また小粒であり,果皮が薄いことが,高品質
なワイン原料としての要件とされている。果皮色
第1図 2014 年度国産ワインコンクール金賞受賞ワイン
(カラー図表を HP に掲載 C100)
の薄い白ブドウから白ワインが,黒ブドウから赤
ワインがつくられる。
山梨県では,白ワイン用として,
‘甲州’10),赤ワ
酵させる「単発酵」により製造されることから,
イン用として‘マスカット・ベーリー A’10)が主要
原料ブドウの品質が,生成されるワインの品質を
なワイン醸造用原料として用いられる。両品種と
大きく左右する。「よいワインはよいブドウから」
も,醸造用・生食用兼用として栽培されている。
は,世界共通の考え方である。近年では,醸造技
近年では‘カベルネ・ソーヴィニヨン’や‘シャルド
術とともに,ワイン醸造用ブドウとして品質の高
ネ’などの欧州系品種の栽培も行われるように
いブドウ栽培技術向上に関係した取り組みが盛ん
なってきた。
全国的には,ワイン醸
造用として様々な品種の
A
ブドウが用いられている。
クールには,世界の主要
‘ピノ・ノワール’,
‘シャル
ドネ’などのフランス系
←
←
←
←
←
北地方では冷涼な気候に
もろみ
←
←
←
←
発酵管理
発酵停止
澱下げ
検定
澱引き
← 貯蔵・熟成
(タンク・樽)
← 瓶詰
←
(ビン内貯蔵・熟成)
らに国内で品種改良され
ワイン
← 熟成
(タンク・樽)
← 澱引き
← 澱下げ
← ろ過
(火入れ)
← 瓶詰
←
(ビン内貯蔵・熟成)
製品
ワインの製造は,ブド
製品
ウ果汁に含まれる糖分を,
食品と容器
粕
← 後発酵
← 検定
いる。
ワイン酵母により直接発
発酵管理
発酵停止
液抜き・粕だし
圧搾
果汁
ワイン
ーストラリア系品種,さ
いたワインが出品されて
← 亜硫酸・酵素剤の添加
← 酒母の添加
もろみ
系品種,また北海道や東
た様々な品種を原料に用
粕
← 果汁の前調整・矯正
← 酒母の添加
をはじめとしてイタリア
向いたドイツ系並びにオ
破砕果
果汁
ーヴィニヨン’,
‘メルロ’,
原料果実
← 選果
← 除梗・破砕
← 選果
← 除梗・破砕
← 圧搾
前述した国産ワインコン
品種である
‘カベルネ・ソ
B
原料果実
第2図 ワイン製造工程(A)白ワイン,(B)赤ワイン
729
2014 VOL. 55 NO. 12
⃝シリーズ解説⃝ 果実とその加工品の話
に行われている。
このことは,中東を原産とする Vitis vinifera が,
●5.白ワイン●
長い年月を経て中国の野生品種と交雑しながら,
5-1)白ワイン製造工程
この甲州ブドウは,2010年に国際ブドウ・ワイ
日本にたどり着いたことを示している。
ブドウの収穫・製造場への搬入後,一般的に,
ン機構(OIV)に,日本のブドウとしては初めて
ⅰ除 梗,ⅱ破砕,ⅲ圧搾,ⅳアルコール発酵,
品種登録されるに至った。
ⅴ 澱 下 げ・ 澱 引 き, ⅵ 一 定 期 間 の 熟 成 期 間 を
5-3)甲州ワイン製造の醸造技術の進展
じょこう
おり
山梨県においては,ワイン業界をリードしてき
とった後,ⅶ瓶詰めを基本的な製造工程とする
(第2図 A)。
たワインメーカーや山梨県ワインセンター,山梨
5-2)‘ 甲州 ’
大学ワイン科学研究センターが,甲州ワインを高
山梨県の主要な白ワイン用ブドウである‘甲州’
(第3図 A)は,欧州系ブドウ Vitis vinifera の一
品質化する醸造技術に関する研究を長年行ってき
た。
5-3-1)甲州ワインの風味を豊かにする醸造技術
種であると考えられてきたが,最近後藤の研究12)
によって,Vitis vinifera に中国系の野生品種が
甲州ワインは,欧米の‘シャルドネ’などのワ
交配されたブドウであることが明らかになった。
インと比較して,香味に繊細さ,あるいは控えめ
な印象を特徴としている。この控えめな香味から,
和食にあうという大きな利点があるとの反面,従
来は「香りが乏しい」,「味が平板」などの指摘を
受けることも多かった。
しかしながら,この甲州ワインをより豊かなも
のにするための醸造技術として,フランスのロワ
ール地方を中心に発達した「シュール・リー法」13)
,
たる
樽を利用する「樽発酵」14) および「樽貯蔵」14),
果皮からの香味を取り入れる「スキンコンタクト」15)
第3図 山梨県の主要なワイン原料用ブドウ
(A) 甲州,(B) マスカット・べーリー A
などが試みられ,良好なワインの造成に寄与して
きた。
5-3-2)酸化防止を重視した醸造技術
欧米では,白ワイン製造において,酸素との接
触を低減して,果汁やもろみ,ワインの酸化防止
を行うため,ドライアイスを用いて,仕込みや貯
酒管理を行うことが多い。しかしながら,我が国
では現状において,ドライアイスを食品製造に用
いることはできない。そこで山梨県ワインセンタ
ーでは,食品添加物グレードの液体炭酸ガスを用
いることにより,簡便に,各製造工程で酸化防止
が達成できる技術 16)を考案し,ワイン業界への普
及を行った(第4図)
。その結果,山梨県内の多数
のワイン製造企業で,実用化するに至っている。
第4図 炭酸ガス利用ワイン醸造法
(カラー図表を HP に掲載 C101,C102)
食品と容器
730
2014 VOL. 55 NO. 12
−ワインおよびスパークリングワインの製造−
るのは,
‘マスカット・べーリー A’
(第3図 B)で
5-3-3)甲州ワインのオフフレーバーの低減化
ある。本品種は,川上善兵衛 22)が V.labrusca の‘ベ
甲州ワインは,その欠点として,フェノレと通
称されるフェノール系オフフレーバー(白ワイン
ーリー’に V.vinifera の‘マスカット・ハンブル
のフェノレは4- ビニルフェノールと4- ビニルグア
グ’を交配して育成したもので,1940年に生食・醸
イアコール17 ~ 20))が発現する頻度が高く,その結
造用品種として発表され,1953年頃より増殖され全
果として香味の平板化につながっていた。このこ
国的に栽培されるようになった。 2013年に,甲州
とは,甲州がフェノレ前駆体を著量に含むこと,
ブドウに次いで2番目に OIV に品種登録された。
および一般的なワイン酵母がフェノレを生成する
‘マスカット・べーリー A’は,ラブラスカ香(ア
酵 素 活 性(phenolic off-flavor formation:pof) を
ントラニル酸メチル)をもち,ベリー系の香りと
保持するためであることが分かった。このことか
フルーティな香味を特徴とする。最近では,ベリ
ら,近年では pof を保持しない酵母の使用が推奨
ー系の香りを生かしたフレッシュ・フルーティで
されるようになってきた。
軽い味わいとしたものから,樽などを用いて熟成
5-3-4)果実香を生かしたワイン製造技術
させ,しっかりとした骨格をもったものまで,バ
近年はさらに,甲州ブドウに含まれる果実本来
リエーションに富んだタイプのワインが生成され
の香りを引き出した醸造方法について検討が行わ
ている。
れ,甲州ブドウに秘められていた,3 -メチル -1-
6-3)国産赤ワインの高品質化への試み
国産赤ワインの製造技術についても,高品質化
ヘキサノール(柑橘系の香り)21)やダマセノン(バ
ラ様の香り)などが増強したことを訴求したワイ
を目指した検討が盛んに行われている。
ンも製造されるようになった。
6-3-1)醸し発酵
5-4)甲州ワインのヨーロッパへの輸出
醸し発酵は,原料ブドウの果皮からの色素やタ
上述した取り組みにより,高品質で,バリエー
ンニンなどの成分を抽出するための重要な工程で
ションが広がったワインが多数市販されるように
ある。しかしながら,しばしば微生物汚染などが
なった。現在,山梨県内の有志14社が「Koshu of
問題になることもあった。近年では,低温下(7
Japan(KOJ)
」と称するグループを結成し,ヨー
〜 10℃程度)で醸しを行う低温醸し発酵が行わ
ロッパにおけるワイン情報の発信地であるロンド
れるようになってきた。
ンを中心に,プロモーション活動(第5図)を実
また,醸しをより効果的に行うために,発酵タ
施している。
●6.赤ワイン●
6-1)赤ワイン製造工程
ブドウの収穫・製造場への搬入後,一般的に,
ⅰ除梗(破砕は行われる場合と行われない場合が
ある),ⅱ果皮とともにアルコール発酵を行う醸
し発酵,ⅲ圧搾,ⅳ後発酵,ⅴマロラクティッ
ク発酵,ⅵ澱下げ・澱引き,ⅶ長い貯蔵・熟成期
間をとった後,ⅷ瓶詰めを基本的な製造工程とす
る(第2図 B)。
6-2)‘ マスカット・べーリー A’
第5図 海外プロモーションの様子
(カラー図表を HP に掲載 C103)
山梨県で主要な赤ワイン原料として用いられてい
食品と容器
731
2014 VOL. 55 NO. 12
⃝シリーズ解説⃝ 果実とその加工品の話
ンク内で液循環させる「ルモンタージュ」
,また液
注目されているものに,フェノレ25)がある。赤ワ
を一度引き抜いて,果皮や種を酸素に触れさせる
インで発生するフェノレの本体は4- エチルフェノ
ことでポリフェノールの酸化を促す「デレスター
ールと4- エチルグアイアコールである。山梨県ワ
ジュ」などの方法をとることも一般的になってい
インセンターでは,この赤ワインのフェノレの発
る。
生防止を検討26 ~ 27)し,国産赤ワインにおけるフェ
6-3-2)マロラクティック発酵
ノレの発生頻度を調べ,原因微生物の特定や発生
赤ワインにおける乳酸菌によるマロラクティッ
防止策について明らかにした。
ク発酵は,鋭い酸味をもつリンゴ酸を乳酸に変換
6-3-4)国産赤ワインの未熟臭
して,減酸することにより,まろやかな風味にす
現状における国産赤ワインのオフフレーバーと
る効果を持つ。また乳酸菌が増殖することで,乳
して,主なものの1つに,イソブチルメトキシピ
酸菌に由来する香気成分によって,香味の複雑さ
ラジン(IBMP)がある。この IBMP は,野菜やピ
が増し,製品の豊かさの向上にも寄与する。さら
ーマン様の香りと表現され,未熟な印象を与える
に近年では,様々な汚染微生物のエネルギー源に
ものである。この IBMP は,ブドウの熟成にした
なり得るリンゴ酸を除去することで製品の微生物
がって減少する物質であり,ブドウを完熟させる
学的な安定化に寄与することが指摘され,その重
ことによって消失することができる。我が国は,
要性が再認識されている。マロラクティック発酵
降雨量が多く,粘土質土壌が主体であることなど
は,もともとは野生の乳酸菌の自然生起により達
から,ブドウを完熟させることが必ずしも容易で
成されてきたが,近年では,マロラクティック発
はない。今後,ワインの醸造技術のみならず,ワ
酵に適したスターターが市販されるようになって
イン醸造原料に向いた栽培技術の確立が望まれる。
いる。
6-3-5)赤ワインの健康機能性
山梨県ワインセンターでは,主にヨーロッパか
赤ワインに含まれるポリフェノールが,ヒトの
ら輸入される市販乳酸菌スターターの効用と生成
健康保健に効果が高いことが見いだされ,第6次
されるワインの特徴の違いを調査 23 ~ 24)し,スター
ワインブームが起こったことは記憶に新しい。そ
ターによりリンゴ酸の除去速度や生成されるワイ
の後も,赤ワインに含まれるレスベラトロール28)
ンの香気成分の違いを明らかにした。今後は,市
などの健康機能性が明らかになっている。
販されるスターターについて,求めるワインのス
タイルに合致した製品を選択することが可能にな
●7.ロゼワイン●
ると考えられる。
近年,世界的に見ても,ロゼワインの人気は高
6-3-3)オフフレーバーの発生防止
まっている。このロゼワインの製造方法には,大
赤ワインは,アルコール発酵後に,マロラクテ
きく分けて以下の3つの方法がある。
ィック発酵や樽などを用いて貯蔵・熟成工程が長
すなわち,⑴直接圧搾法(黒ブドウの圧搾時に
いこと,また白ワインと比較して製品の pH が高い
色素を抽出する),⑵半醸し法・セニエ法(赤ワ
ことなどから,微生物による汚染が発生する機会
インのように醸し発酵を行ったのち,果皮ともろ
が多い。このことから,従来は産膜酵母や細菌類
みを分離することで色素を抽出する),⑶混合法
が増殖し,酢酸エチル,アセトアルデヒド,酢酸
(黒ブドウと白ブドウの果汁を混合して発酵させ
などの強い異臭が発現することがあった。しかし
る)。
ながら,最近では,これら酸敗に近い著しい欠陥
なお,我が国では,赤ワインと白ワインのブレ
をもつ赤ワインはなくなっている。
ンドにより製造されることも多い。
その一方で,赤ワインのオフフレーバーとして
山梨県では,‘マスカット・べーリー A’を用
食品と容器
732
2014 VOL. 55 NO. 12
−ワインおよびスパークリングワインの製造−
いたライトタイプのロゼワインが,主にセニエ法
ァンド・ムスー(フランス),カバ(スペイン)
,
によりつくられている。
スプマンテ(イタリア)
,ゼクト(ドイツ)などが
ある。
●8.スパークリングワイン●
我が国では,ほとんどのスパークリングワイン
スパークリングワイン,すなわちシャンパンを
がガス封入法により製造されているが,二次発酵
はじめとする発泡性を有するワイン(果実酒)は,
法によるスパークリングワインは,酵母からの香
国内外において人気が高まっている。
味を取り入れた豊かな風味を特徴としており,近
このスパークリングワインの製造は,
「炭酸ガ
年注目されている。特に,シャンパーニュ地方で
ス封入法」と「二次発酵法」に大別される。炭酸
伝統的に実施されてきた瓶内発酵法により,スパ
ガス封入法は,冷却したワインに炭酸ガスを強制
ークリングワインを製造する企業も増えてきた。
的に吹き込んで,発泡性を付与するもので,設備
は必要であるものの簡便に製造することができる。
●9.シャンパンの製造法●
一方で二次発酵法は,密閉された容器の中で,ワ
シャンパンは,瓶内二次発酵によるワインの元
インに対し,酵母と糖類を添加して2回目のアル
祖であり,最も本格的な製造方法によりつくられ
コール発酵を行うことで,酵母が生成する炭酸ガ
るワインである。シャンパンの製造方法の各論に
スにより発泡性を付与するものであり,
「瓶内発
ついては,秘密に包まれていたことが多かったが,
酵法」と「タンク内発酵法(シャルマ法)
」がある。
著者の1人恩田のシャンパーニュ地方における調
各生産地の二次発酵法によるスパークリングワ
査29 ~ 31)によって,その一端を解明することに至っ
インの名称は,国や地域および製法により異なり,
た。シャンパン製造を統括するシャンパーニュ地
シャンパン(フランス・シャンパーニュ)
,クレマ
方ワイン生産同業委員会の推奨方法については,
ン(フランス・アルザスやブルゴーニュなど)
,ヴ
山梨県葡萄酒製造マニュアル32) に詳しく掲載し
たので,参考にされた
A. ワイン醸造工程
B. 二次発酵工程
収 穫
低温処理
(9月上中旬)
ティラージュ
圧 搾
(翌年1月1日以降)
アサンブ
ラージュ
デブルバージュ
瓶内二次発酵
貯蔵熟成
(貯蔵期間は15カ月,
ヴィンテージ製品は
3年が必須)
アルコール発酵
マロラクティック発酵
動 瓶
澱下げ・澱引き
原酒の完成
澱瓶
(口抜)
(11月上中旬)
食品と容器
733
は細かい製造規則が定
められている。ここで
はシャンパーニュ地方
における瓶内二次発酵
法の製造方法の概略を
第6図に示す。
シャンパンの原料ブ
ドウは,シャンパーニ
ュ地方で栽培された
‘シャルドネ’,
‘ピノ・ノ
ワール’および‘ピノ ・
甘味調整
ムニエ’の3品種に限
打 栓
られる。
製品化
第6図 シャンパンの製造工程
い。シャンパン製造に
瓶内二次発酵法では,
まず原酒となるワイン
が製造される。ワイン
2014 VOL. 55 NO. 12
⃝シリーズ解説⃝ 果実とその加工品の話
の製造方法自体は,通常の白ワインの製造方法と
貯蔵期間が終了した後,瓶内の酵母菌体を,瓶
同様である。特徴的な点としては,シャンパンに
口に集める作業(ルミアージュ)が行われる。澱
は,適度な酸度が必要であるため,普通の白ワイ
が瓶口に落とされたのち,瓶口を凍らせて,澱を
ンよりも,早期に収穫されるブドウが用いられる。
排出させ(デゴルジュマン)
,甘味調製のためのリ
収穫は手摘みであることが規則化されており,繊
キュールが添加され,目減りしたシャンパンを補
細に運搬された後,繊細に圧搾が行われる。また,
酒する作業(ドザージュ)が行われ,専用のコル
マロラクティック発酵によって,リンゴ酸を除去
クとワイヤーがつけられる。
することが重要であると考えられている。
現在山梨県では,シャンパン製造法を参考にし
ワインは,品種ごと,区画ごとなどに細かく分
て,高品質な瓶内二次発酵によるスパークリング
けて生成される。シャンパンでは,これらの原酒
ワインの製造方法の確立に向けた取り組みが活発
を調合(アサンブラージュ)31)して,各企業やア
化している。
イテムの特徴を訴求することも特徴である。
アサンブラージュされた原酒に,糖分と酵母な
おわりに
どを添加して,瓶詰めを行い,瓶内での2回目の
近年,国産のワイン並びにスパークリングワイ
発酵を促す。二次発酵が終了した後は,最低15カ
ンの品質は著しく向上している。これは今回紹介
月以上貯蔵することが義務づけられている。フラ
した様々な醸造技術の研究によるところが大きい。
ンスのエペルネを中心としたシャンパン生産地は,
今回は紙面の都合上,個々の技術の詳細並びにデ
白亜紀の石灰質の土壌の上に形成されている。こ
ータの提示は控えたが,興味ある方はぜひ参考文
の白亜質の石切場として形成された広大な地下セ
献を参照願いたい。
ラーにおいて,シャンパンの熟成が行われる。こ
また,ワイン等の品質向上には,国産ワインコ
の地下セラーは,重要な観光資源にもなっている
ンクールの貢献も大きく、国内の各ワインメーカ
(第7図)。
ーは金賞を取るべく,温度コントロール可能な発
酵タンクを導入し,品質管理に注意を払い,優れ
たワインを製造しようと努力していることも大き
く寄与している。
一方,近年の国産ワインブームの流れの中で,
日本全国各地で新たなワイナリーの新設や産地の
再形成が行われるなど,新たな動きが見られる。
今後は、それぞれの産地で生産されたブドウから
特徴あるワインが生まれることを期待したい。
第7図 大手ワインメーカーの地下セラー
(カラー図表を HP に掲載 C104)
参 考 文 献
1)麻井宇介:日本のワイン・誕生と揺籃時代(日本経済
3)小宮山美弘:第10回国産ワインコンクール開催を迎
評論社,東京),p.6(1992)
えて(1),食品工業,p.84,vol.55,No.15(2012)
2)国産ワインコンクール実行委員会:Japan Wine Competition
4)小宮山美弘:第10回国産ワインコンクール開催を迎
(国産ワインコンクール; http://www.pref.yamanashi.
えて(2),食品工業,p.84,vol.55 No.17(2012)
jp/jwine/)
(2014)
5)小宮山美弘:第10回国産ワインコンクール開催を迎
食品と容器
734
2014 VOL. 55 NO. 12
−ワインおよびスパークリングワインの製造−
えて(3),食品工業,p.84,vol.55 No.19(2012)
甲州ワイン中の揮発性フェノール化合物濃度に影響を
与える因子,日本ブドウ・ワイン学会誌,17, 75-80(2006)
6)小宮山美弘:第10回国産ワインコンクール開催を迎
21)Hironori Kobayashi, Hideki Takase,Katsura Kaneko,
えて(4),食品工業,p.68,vol.55 No.21(2012)
7)恩田匠:Japan Wine Competition 2012(第10回国産
Fumiko Tanzawa, Ryoji Takata, Shunji Suzuki and
ワインコンクール)報告,印刷中(2014)
Tomonori Konno2: Analysis of S-3-(Hexan-1-ol)
-
8)小原均:ブドウ (I) ブドウの歴史と日本の生食用ブドウ
Glutathione and S-3-(Hexan-1-ol)-l-Cysteine in Vitis
の品種特性や栽培の現状,日本食品保蔵科学会誌,
vinifera L. cv. Koshu for Aromatic Wines, 61, 176 ~ 185(2010)
39,101-104(2013)
22)高田清文・齋藤 浩・三澤茂計・有賀雄二・松本信彦・
9)小原均:ブドウ Ⅱ ブドウの歴史と日本の生食用ブド
後藤奈美・上野俊人:マスカット・べーリー A の
ウの品種特性や栽培の現状,日本食品保蔵科学会誌,
OIV 登録 -その背景と種苗特性調査-,日本醸造協
39,155-160(2013)
会誌,109,824-831(2014)
10)恩田匠・小宮山美弘:ブドウ Ⅲ 生産・流通・加工,
23)恩田匠・小松正和・中山忠博:赤ワインにおける乳
日本食品保蔵科学会誌,39,221-224(2013)
酸菌スターターを用いた品質向上,山梨県工業技術セ
11)恩田匠・小宮山美弘:ブドウ Ⅳ 生産・流通・加工,
ンター研究報告,27,88-90(2013)
日本食品保蔵科学会誌,39,293-298(2013)
24)恩田匠・小松正和・中山忠博:市販乳酸菌スターター
12)後藤奈美:DNA 多型解析による甲州の分類的検討,
を用いたマロラクティック発酵試験,日本ブドウ・ワ
日本醸造協会誌,106,116-120(2011)
イン学会誌,印刷中 .
13)山梨県工業技術センター編・発刊:13シュール・リ
25)Chatonnet, P., Dubourdieu, D., Boidron, J.-N., Pons,
ー法による醸造,葡萄酒醸造法,p.46-47(2000)
M.: The origin of ethylphenols in wines. J. Sci. Food
14)山梨県ワイン酒造組合編・発刊:6.10.1樽熟成概論,
Agric., 60, 165-178(1992)
山梨県葡萄酒製造マニュアル,p.1-3(2009年追記)
26)恩田匠・小松正和:国産赤ワインにおけるフェノー
15)山梨県工業技術センター編・発刊:12スキンコンタ
ル系オフフレーバーの発生頻度,日本食品保蔵学会誌,
クト法による醸造,葡萄酒醸造法,p.41-45(2000)
39,343-346(2013)
16)山梨県ワイン酒造組合編・発刊:6.5.2液体炭酸ガス
27)恩田匠・小松正和:国産赤ワイン製造工程における
を使用した醸造法,山梨県葡萄酒製造マニュアル,
フェノレ生成酵母の分離とその性状,日本食品保蔵学
p.1-3(2009年追記)
会誌,40,103-108(2013)
17)Ribéreau-Gayon, P., Glories, Y., Maujean, A., Dubourdieu,
28)佐藤充克:ポリフェノールと健康について−ワインの
D.: 8.4.1 Les phénols volatils responsables des certaines
話題を中心に−,50,9-21,50,New Food Industry
deviations olfactives de type <phénolé> des vins, Traité
(2008)
d'oenologie Tome 2 - Chimie du vin. Stabilisation et
29)恩田匠:シャンパーニュにおけるシャンパン製造,
traitements 5e édition,(Dunod, Paris), p.307-324
葡萄酒技術研究会会報,52,7-14(2012)
(2004)
30)恩田匠:シャンパーニュ地方でブランド性の確立に
18)Chatonnet P, Dubourdieu D and Boidron J.N.: Incidence
ついて考えたこと,食品と工業,56,39-50(2013)
de certains facteurs sur la décarboxylation des acides
31)恩田匠:アサンブラージュ-シャンパン製造におけ
phénols par la levure, Conn Vigne Vin, 23, 59 – 62(1989)
る最大の秘密-,日本醸造協会誌,109,168-180
19)Chatonnet, P., Dubourdieu, D., Boidron, J.-N., Lavigne,
(2014)
V.: Synthesis of volatile phenols by Saccharomyces
32)山梨県ワイン酒造組合編・発刊:シャンパーニュ地
cerevisiae in wines, J. Sci.Food Agric., 62, 191-202(1993)
20)小林弘憲,富永敬俊,勝野泰朗,安蔵光弘,味村興成,
鈴木由美子,デュブルデュー = デュニ,大久保敏幸:
食品と容器
735
方におけるシャンパン製造,山梨県葡萄酒製造マニュ
アル,p.1-14(2013年追記)
2014 VOL. 55 NO. 12
Fly UP