Comments
Description
Transcript
安城市立作野小学校における総合学習の構想と展開
愛知教育大学教育実践総合センター紀要 第4号, pp. 35 42 (March, 2001) 安城市立作野小学校における総合学習の構想と展開 一聞く力と表現する力の発達のためにー 野 田 恵 美 (安城市立作野小学校教諭) 舩 尾 日出志 (社会科教育講座) Konzept und Entwicklung des Gesamtunterrichts an der SAKUNO Elementarschule in Anjou Emi (Lehrerin an der SAKUNO Hideshi NODA Elementarschule in AnJou) FUNAO (Lehrstuhl fuer Gemeinschaftskundeunterricht) Inhaltsverzeichnis Vorwort, 1. Zur Einfuerung, 2. Hypotehse und Methodik der Forschung, 3.Pruefungsmethodik 4. Praxis 1 “Gesamtunterricht: Beruehrungen und Entdeckungen", unserer Hypothese, 5. Praxis 2 “Zur Entwicklung der neun Faehigkeiten", 6.Pruefung unserer Hypothese und kuenftige Aufgaben キーワード:総合学習(総合的な学習の時間),聞く力・表現する力,学級解体・学年解体 序 の責任をよりいっそう自覚して,真摯に教育活動に取 安城市立作野小学校は安城市北西部の住宅街に位置 り組めるのである。自由のなかでこそ本当の責任意識 している。児童数は600名程度であり,少子化の影響 が生じるのである。とりわけ総合的学習の時間が成功 はみられず,増加の傾向にある。以前から陸上競技や するためには,管理職にそのような姿勢が望まれる。 マーチング(近年は全国大会や東海地区大会に連続し 野田恵美教諭は9つの力のうち聞く力と表現する力の て出場している)で優れた成果をあげており,子ども 2つに限定してかの女の総合学習を定位した。さらに たちは実に生き生きと活動している。もちろん背景に ドイツの基礎学校で行われた実践を模倣して,さらに は,先生方の子どもたちへの教育的愛情にもとづく 発展させてかの女の総合学習に組み入れた。そのよう 日々の地道な努力がある。 なこともまた自由で,温かく,そして研修にたいして 例えば作野小の先生方は「各教科と総合学習の連携 責任意識の高い職場の雰囲気のなかでこそ可能となっ をはかる基礎・基本の力を『9つの力』」と設定して たのである。 いる。9つという多くの力を目標に掲げるのは常識的 なお本文中に出てくるドイツにおける実践の出典を には合理的とは言えない。むしろ少数のものに限定し 紹介しておく: た方が,研究も実践も効果的に前進すると思われる。 Bettina Uhlig: Pablo Picasso: MAYA MIT PUPPE. しかしその点にこそ実は作野小学校の教育活動の特徴 Wie man sich einem Kunstwerk があり,強みがある。 es zu sehen. In: Grundschulunterricht, H.10/1999 すなわち「9つの力の設定」は先生方の子どもたち への教育的愛情の強さとその愛情表現の多様性を証明 している。すなわち作野小では一人ひとりの先生の個 性的な考えが極力尊重されているのである。そのよう なことを可能とする重要な要因の一つは校長先生の姿 勢である。 作野小の校長は石原国基先生。石原先生は先生方そ れぞれの創意工夫を可能なかぎり尊重し,職場内の自 由な意見交流を何より大切にする。その結果,職場の なかに活力が生まれる。そのことにより先生方も白身 35 naehren kann, ohne 野田,舩尾:安城市立作野小学校における総合学習の構想と展開一聞く力と表現する力の発達のためにー 1 はじめに 2 平成14年度の「総合的な学習の時間」の導入を前に 研究の仮説と方法 子どもの興味・関心に基づいた単元を構想し, を工夫したり,追究したことがらを発表する場を 確保したりすれば,意欲が高まり,追究方法や発 表方法の再考が図られ,探究を深めることができ るだろう。 して,全国の学校がそれぞれ独自の取り組みをはじめ て数年が過ぎている。本校も,平成5年度から教科教 育とは別枠の「緑の単元学習」を設けたのを機に, 年々その名称を変えつつも,総合的な学習の在り方に ついての研究をすすめてきた。そして移行期となった 方法1-学級を解体し,同じ追究課題をもつもの同士 現在はカリキュラムの中にも週3時間の総合の時間を で取材班や追究班を構成する。 明確に位置づけることとなった。 方法2-児童朝会や学校行事を利用七て,総合学習の 総合学習の内容は具体的な生活課題であり,その中 発表の場や発表の対象を広げる。 心は時代や生活している地域,子どもたち個々の課題 総合学習と教科との連携をはかり,9つの力を中 心とした「学ぶ力」を高めれば,子どもたちの学 習が広がり,追究活動がより深いものになるであ ろう。 性から導きだされるものである。したがって,総合学 習における学習内容をどのように設定するかは,その 都度変わる。子どもの小さな発見や疑問が総合学習の テーマヘと発展することは少なくない。自分自身の手 方法1-教科の年間計画を見直し,図工や家庭科など で見つけたものから始まる学習は無条件で楽しいもの の実技教科においても9つの力を育成する単 だ。もっとも,学習内容が時代や生活している地域で 元を組む。 変化するにせよ,その基本となる「学ぶ力」の本質は 方法2-総合学習の単元構想に9つの力を高めるよう 変わらない。 な支援をもりこむ。 総合学習は一人一人の問題を解決する学習ではある 方法3-授業時間以外の朝の学習タイム(さわやか学 がその過程で相互の学び合いがなければ,追究を深め 習)を有効に使えるよう,総合や教科に関連 ることはできない。また,学び合いのない自己満足学 した内容を計画する。 習に終わってはいけないと考える。「子どもが主体的 3 に活動するような単元を構想すれば,自然に学ぶ力は 仮説の検証方法 今回の研究仮説に対する手立てが有効であったかど 身に付くはずだ」という意見が出るかもしれない。し うか,抽出児AとBの2人の変容を追って検証する。 かし,忘れてはならないのが,総合学習のみで「学ぶ <抽出児Aの実態>抽出児Aは理解力に優れ,挙手や 力」を育むのではないということである。総合学習に 発言なども多く,何事も意欲的に取り組む。また前期 ばかり目を奪われがちであるが,当然のことながら年 学級委員として推薦されるなど友達からも認められて 間のカリキュラムには従来の教科学習が位置づけられ いる。しかし,理解力に優れているが故に,人の話を ているのである。「学ぶ力」は各教科で培われ,総合 最後まで聞かずに結論を出してしまうことがある。さ 学習でもその力が発揮されたり,さらに伸長されたり らに,その結論や自分の理論を押し通して,他の意見 するものである。そこで,各教科と総合学習の連携を を聞き入れずに活動をすすめてしまう時がある。また, はかる基礎・基本の力を「9つの力」(資料1)と設 まとめや発表の場では,完成を急ぐあまりに,雜然と 定し,個々の「学ぶ力」を育てていくことを中心に魅 したものになったり,早い口調になってしまったりし 力ある単元構想づくりを目指して実践に取り組んだ。 てよい活動をしていても十分にその成果を伝えきれな いことがある。 <教師の願い>上記のような実態を持つAには,ま ず9つの力のうちの「聞く力」と「表現する力」を高 めたいと考えた。総合学習で,さまざまな立場の人々 とふれあったり,友達とともに学びあったりする場面 を多く取り入れる。それを通して,相手の意見や考え をじっくりと聞く態度が身に付くであろう。また,得 た情報をもとに予測を立てたり,内容を取捨選択する 場を設けたい。発表時は相手を意識させることで,わ かりやすく伝えることの大切さに気づかせ,発表やま とめの仕方について追究させたい。 <抽出児Bの実態>抽出児Bは集中力にかけ,学校 生活全般を通してやや落ち着きがない。友達にちょっ かいを出してはトラブルを起こしている。自分の思い や考えを述べたり書いたりすることを著手としており 36 - 愛知教育犬学教育実践総合センター紀要第4号 文章を書く場面では進んで活動することが少ない。し ② かしインターネットでものを調べたり,イラストを描 学年解体で,興味・関心別の追究を 「京都でしかやれない体験をしたいな」を合い言葉 くことは好きで,意欲的に取り組む時が多い。 に子ども達はこれまでよりも一歩踏み込んだ情報収果 <教師の願い>抽出児Bは,さまざまな活動で「わ を始めた。京都の情報誌や歴史の本,インターネット からないから苦手だ」と決めつけ,あきらめている節 や旅行者のパンフレット等を手がかりにして以下のよ がある。Bの得意とする部分から活躍の場を設定すれ うな情報を得た。京扇子・まゆ人形・古代友禅染・和 ば,少しずつ自信がつき,意欲的に活動できるのでは 菓子づくり・宇治茶・京焼き物・屏風・ガラス細工・ ないかと考える。また,インターネットで資料をたく ろうそく・人力車を引く・京都の言葉をならう・おみ さん打ち出すものの,それで満足してしまい,資料の やげやさんで働く・しば漬けをつくるなどである。 内容をほとんど読み込んでいない。そうした点を支援 さらに人数や時間,費用等をふまえて体験コースを し,Bに学ぶ楽しさを感じてほしいと願う。 ①生八ツ橋・京野菜まんじゅうづくり②清水焼絵付け 4 実践1「総合学習・ふれあいと発見」 ③古代友禅染④京扇子づくりの4つにしぼりこんだ。 行事をきっかけとした単元構想で コース別にクラスを解体し,その中で同じ追究課題を ① 本校では毎年5月末に京都・奈良方面への修学旅行 もっている者同士で取材班を組むことになった。 が計画されており,子ども遠の多くはこの行事に対し ③ て大変興味をもっている。そこでそれをきっかけとし 現地取材で京都の人とのふれあいを 生八ツ橋コースの③班の活動より た学習材を開発できないかと考え,以下のような単元 生八ツ橋(京野菜まんじゅうづくり含む)コースで を構想した。(資料2) は,28名の児童が集まった。生八ツ橋や京野菜まんじ ゅうを中心に京都の食材に関することにスポットをあ て,全員でイメージマップ(次ページ資料3)をつく <資料2 った。 「ふれあいと発見」の単元構想図> 37 野田,舩尾:安城市立作野小学校における総合学習の構想と展開一聞く力と表現する力の発達のためにー <資料3 イメージマップ> マップに出た言葉で興味をもったものについて本や インターネットを使って調べ学習を行った。こうした 追究をすすめるうちに,わかったことがらも数多くあ ったのだが,新しい疑問も生まれてきた。その疑問を 整理し,京都で調査したいことがらが似た者同士で班 をつくった。八ツ橋のことを調べるうちに「なぜお客 さんは京都にくると八ツ橋を買うのだろう?」と疑問 をもち,実際にアンケートをとろうと考えた①班, 「八ツ橋ばかりなので,他にこだわりの和菓子がない のかな」と旅情報誌のコラムから金平糖に目を向けた ⑥班,京都に集まる外国人の人に八ツ橋についてイン タビューをしようと考えた⑧班など,本やインターネ ットでは調べられないようなテーマが生まれてきた。 <資料4メモをとるBのようすとメモのコピー> 以下に全8班の内容を示す。 ① 現地で取材したことがらを整理するために,子ども ①八ツ橋100人に聞きました! 達はわかったことや発見したことなどをポストイット お客さんにアンケートをとろう ②京野菜まんじゅうについて ③八ツ橋探偵団 KJ法でぼくたちのコースの目玉を! 京都の八百屋さん聞く に書いた。一一枚につき一項目を記入することとし,分 類しやすいようにした。その後KJ法を使って分類し お店の工夫を探ろう ①いろいろなパッケージがあるよ 見た目の効果 見出しをつけた。KJ法によって自分たちの取材内容 ⑤京都の漬物を調べよう の軽重が明らかになり,班のまとめの中心となる部分 ⑥金平糖探険隊 がうきぼりになった。また各班の整理の仕方をお互い ⑦八ツ橋博士になろう!一体何種類あるの? に見合うことになった<資料5>はその時のようすで ⑧外国の人の気持ちが知りたい! ある。 外国人の観光客にアンケートをとろう Bの所属する③班は清水寺付近にある八ツ橋の店5 軒をまわり,その店の工夫や名物商品等を取材した。 Bは書くことが苦手なのにも関わらず,チーム内でメ モをとる役に任命された。しかし,「③班の情報は全 て白分のメモにかかっている」とひらがなばかりであ るものの,意欲的にメモをとっていた。<資料4>A の所属する②班は京野菜を売る八百屋や市場に行き着 くことができなかったため,②班のメンバーのみが体 験した「京野葉まんじゅうづくり」に焦点をあてて, <資料5 体験コーナーの講師に取材することになった。 ⑤ 他の班のKJ法と見出しをみる子ども> デカデカ新聞で情報交換を伝えよう ぼくたちのトップ記事はこれだ!コンクール 自分たちの班の目王が決まった後,それを記事とし てまとめ,コース内で発表し合った。そして生八ツ橋 - 38 - 愛知教育大学教育実践総合センター紀要第4号 コースからみた「京都ってこんなまち」を他のコース デカデカ新聞で自分の班がトップになったことから意 に伝えるための手立てを話し合った。その結果,B紙 欲を増し,このギャラリーづくりでも牛若丸や弁慶の 5枚分の大きな壁雜聞「デカデカ新聞」をつくること イラストを描く担当になり,意欲的に取り組んでいた。 になった。追究過程で本者の新聞記者に取材や記事づ <資料7 くりのコツを聞いていた子ども達は,8班の内容を順 ギャラリーさくののようす> 番に羅列するだけでなく,記事のスペース配分や位置 を工夫したいと言い出した。コース内でも読み手の興 味を引くような見出しの工夫やまとめ方をしている班 とそうでない班とがあった。そこで,コース内で「ぼ くたちのトップ記事はこれだ!コンクール」を開くこ とになった。それぞれの班で自分たちの記事のPRを し,コース全員でトップ記事を選んだ。Bの所属する ③班は5軒の店で取材をしたが,中でも機械でつくっ ている店と創業以来手作りにこだわってつくっている 店とを比較した内容と八ツ橋の由来の民話をイラスト をまじえて紹介していたため票が集まった。次に金平 糖に焦点をあてた⑥班の「金平糖の声,耳を澄まして 39年」という見出しと職人さんの生の声をまとめた記 事に票が集まった。この2つの班の記事を中心に,巻 き物をかたどった「デカデカ新聞」が完成した。 <資料6 ⑥ デカデカ新聞(一部分)> おこしやすギャラリーさくのをつくっちゃおう 生八ツ橋コースをはじめ,古代友禅染コースや清水焼 コース,京扇子コースからも情報が集まってきたので, 学びの成果を全校に伝えようということになった朝会 でビデオシアターを行ったり,特別教室をギャラリ一 に仕立てて,作品や壁新聞を展示した。京都の雰囲気 がでるようにと京都タワーや五条大橋,清水寺の那智 この後子ども達は,「京都ってこんなまち」で追究 の三滝などのミニチュアをつくったり,琴の音をBG Mとして流したりして雰囲気づくりに努めた。また, した経験を生かし,その視点を地域にうっす。これま PRとして給食時にビデオを流したり,ポスターを校 での活動でさまざまな視点から対象をとらえることを 内に貼ったり,全校の家庭にチラシを配ったりした。 学んだので,身近な地域からもいくつかの発見をする 保護者会の期間に合わせたため,保護者の参観者も多 であろう。何度も取材できるという利点を生かし,よ く,子どもたちの活動を知らせる良い機会となった。 り深い追究活動を行えるようにしたい。 5 この時,抽出児のAは滝のミニチュアをつくる班にな り,一生懸命につくっていた。Aはいつも雜な仕上が 実践2「9つの力」を育てるために ①「9つの力」を意識した年間計画を りになってしまうが,京都タワーや大橋をつくる班が 9つの力を育てるために,各教科の単元やそれ以外 形の美しさにこだわりをもって制作していたためそれ の時間にどんな取り組みができるかを考え,年間計画 に刺激を受けて根気強く取り組むことができた。Bは を再構成することにした。<次ページ資料8> 39 野lll、舩尾:安城市寸、作野小学校における総合学習の構想と展開一聞く力と表現する力の発達のためにー 6年生 各教科等で具体的に身につけたい9つの力と, <資料8 9つの力の一覧表-6年生-> ②「ピカソに挑戦!」で聞く力と表現する力を 子ども達は,文章を読むとすぐに,画用紙の裏に必 ドイツのケルン大学の助手であるベッティナ・ウー 要な情報を言葉や簡単な絵でメモしていた。抽出児A リッヒが発表した「ピカソ・人形を抱くマヤーどうす は3回目を読み終えるとすぐに下描きに入っていた。 ればこの作品を見ずに芸術作品に親しむことができる 抽出児Bははじめとまどっていた。「おさげ髪」がわ のか」という実践がある。国語科だけでなく,子ども からなかったようで,「どんな髪型かも想像してごら たちが親しみやすい図工科の中にもこうした聞き取る ん」となげかけたところ,「それも想像でいいの?じ 場面を取り入れることで,子どもたちの意欲が高まり ゃあ描けるかな」と,制作を始めた。画材は特に指定 聞く力の育成につながると考えた。 はしなかったが,絵の具を中心に色鉛筆,クレパスな 挑戦する対象がピカソということで,子どもたちの ども併用していた。完成後,全員の作品を黒板に掲示 意識の中に「写真のように本物そっくりに描かなくて し,鑑賞会を行った。以下は子どもたちの作品と観賞 もよい」という部分があり,楽しんで制作することが 会時の発見である。 できた。この実践は以下のような文章を3回聞いた後 <資料9 自分がピカソだったらどのように描くかと想像させる ものである。今回子どもたちには,ピカソが娘である マヤの肖像画を9枚も描いていることや,彼の他の作 品を例に前面や側面,動きまでも表現しようとしてい ることを伝えた。 40 子どもの作品> 愛知教育大学教育実践総合センター紀要第4号 その後,ドイツの子どもたちの作品とピカソの作品 をみせた。外国の子やピカソの作品に子どもたちは興 味深々であった。自分たちの作品と比較しての感想を 以下に示す。 <資料11 ③ 制作中の子どもたち> おもしろ見出しを考えよう 朝のさわやか学習 本校では,週に3回の「さわやか学習」とよばれる 時間を日程に組み込んでいる。準備・片付けを含めて 20分という短時間であるが,学年の実態に応じた内容 を各学年で考えている。6年生では,抽出児Bの実態 にもあるように,資料を集めたり,インターネットで 打ち出したりするだけで,内容をよく読まない傾向に あるため,新聞記事を利用して,活字に親しむ活動を 取り入れた。初めから活字ばかりの記事を取り上げる <資料10外国の子供の作品とピカソの作品> と,意欲が高まりにくいと判断し,以下のように段階 をおって行うことにした。 ①各紙に掲載されている4コマ漫画の題名をつける ②写真をもとに見出しをつける。 ③気に入った見出しを複数集め,その理由も述べる ④新製品の性能を短い言葉でPRする。 ⑤小さなコラムをもとに見出しをつける。 ⑥記事をもとに見出しをつける。(資料12) まとを得た見出しは朝の会や学級通信で紹介し,良 い見出しとはどんなものかをクラス全体で考える場を 設けた。 抽出児Aは,少女の顔の色を単色にせずに何色も使 って描いたことを述べている。完成を急ぐ傾向のAに してはめずらしいことである。今回は一番に仕上げる ことよりも作品をよりピカソに近付けようと彼なりに 想像し,ていねいにぬるよう努力していた。(抽出児 Aの作品参照)抽出児Bはただめちゃくちゃに手をた くさんかいたのではなく,「小さい子だから体を動か すだろう,ピカソだったら,その動きもかくから,手 をたくさんかいた」という理由がきちんと示されてい る。これまでさまざまな場面で「なんとなく」「理由 はわがらん」等という記述が多かったBの大きな変容 である。 Aの色ぬりのていねいさとBの作品に対する理由づ けを例にあげて誉め,情雜をもとにあれこれと想像す ることの楽しさをクラスで味わった。 41 野田,舩尾:安城市立作野小学校における総合学習の構想と展開一聞く力と表現する力の発達のためにー 6 仮説の検証と今後の課題 話を聞いて制作にのぞんだ。また面倒臭がらずにこま かい部分まで彩色することができた。抽出児Bは,も ①仮設1の検証 今回の単元では,学級を解体し,子どもの追究課題 ともとイラストが好きであったため,意欲的に描けた に合わせて取材班づくりを行った。班員の人数にばら なぜそのように描いたか,の理由付けをしっかりと文 つきが出たものの,活動そのものに支障はなかった。 章で書けたことが大きな成長である。また,見出しづ 追究したい内容が似ているもの同士が集まると,短時 くりは総合学習での情報の取捨選択やKJ方的整理の 間で取材の方向性が決まり,意欲の持続が図れる。抽 時にとても役に立っている。教科と総合学習の両方で 出児Aは,単元の中の「おこしやす…」でミニチュア 9つの力を意識すること,子どもの実態に合わせて, の那智の三滝をつくった。その細工の了寧さが仲間や どちらにも共通する内容を実践することは有効であっ 家の人たちに認められたのを機に,他の場面でも少し たと言える。しかし,ここで押さえておきたいのは, ずつ雑な作業が減ってきている。抽出児Bは取材班の 「総合学習における9つの力を高めるような支援」と メモ役を任され,そのメモをもとに班のまとめを行っ は,あくまでも計㈲であり,その時の子どもの活動や た。さらにそれが八ツ橋コースのトップ記事になった 興味,追究の方向によって変わっていくものであると ことから,書いたり,まとめたりすることへの抵抗が いうことである。 少なくなったようだ。以下に現在進めている総合学習 のまとめの一部を示す。(資料13)Aは何度も写真や 資料をはりつけ直して,見る側にわかりやすいように と工夫している。Bは自分の集めた情雜をそのまま書 き出すだけでなく,グラフとしてまとめ,色を変えて 見易いようにしている。このまとめを使ったポスター セッションでは,Aは自分のノートに発表用原稿をつ くり,班の中心となって発表した。他の班へのアドバ イスはがれよりもたくさん書いていた。抽出児の変容 から仮設1に対する方法1・2は有効であったといえ る。 <資料14 新聞記事の切り抜きをする子ども> ③今後の課題 上記のように有効であった点がいくつかあったが, 課題もまた数多く残ることになった。 ①興味別による班編成及び学級解体について 学級解体の活動の1つ目の課題は時間調整と視聴覚 機器の調整である。クラスが違うため,学年での同一一 時間の設定が必要になってくる。また,完全な興味別 の場合,構成メンバーに偏りが出る。教師支援を行っ ても,追究の進度にかなりの違いが出てくる可能性も 考えられる。さらに学年で一斉に調べたり,取材した りするため,インターネットの回線や,取材のアポイ ントをとるための電話回線の確保と綿密な調整が必要 になってくる。 また,それぞれの興味・関心に対応するためのゲス トティチャーや取材引率の教育ボランティアの確保を しなくてはならない。 ②9つの力を中心とした取り組みについて 年間計画は子どもたちの実態に添って常に見直し, 修正していかなくてはならない。また,朝の学習の内 <資料13 Aのまとめ(上)とBのまとめ(下)> 容についても学年や学級の実態に応じてさまざまなタ イプのものを用意し,工夫する努力が必要である。 ②仮説2の検証 今回の実践から得ることができた様々な教訓をふま 抽出児Aはピカソという対象に非常に興味を持ち, その作者の作品に近付けるために,一言一句聞き逃さ え,よりよい単元構想,授業づくりをめざしてこれか ない,という気持ちが態度に表れ,最後まできちんと らも努力を続けたい。 42