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『ヒトラーが総統になった日』展

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『ヒトラーが総統になった日』展
安田女子大学図書館
007-1/3
歴史のターニングポイント
『ヒトラーが総統になった日』展
―ワイマール共和国期およびナチス期の政治・政党に関するコレクションより―
大学助教授
原田
昌博
今回展示される大型図書は、ドイツの政治史研究には不可欠の重要史料を集成した「ワイマール共和国期およびナ
チス期の政治・政党に関するコレクション(Sammlung über die Politik und die politischen Parteien während der Weimarer
Republik und der NS-Zeit)」である。
1.当該時期のドイツの状況
このコレクションの内容を紹介する前に、当該時期のドイツの政治状況について概観してみよう。
「ワイマール共和国期およびナチス期」とは、ドイツ政治史において 1918 年から 1945 年までの約 27 年間をさして
いる。第1次世界大戦(1914∼18 年)末期の 1918 年 11 月、ドイツでは革命が勃発し、帝政が崩壊、新たに共和政が
スタートした。最初の憲法制定国民議会が革命の喧騒を避けて、首都ベルリンではなくドイツ中部のワイマールで開
かれたため、新しい共和国は「ワイマール共和国」と呼ばれた。しかし、国民主権、議会制民主主義、男女同権、社
会権的基本権などを保障した有名な「ワイマール憲法」を持つこの共和国はその高い理念とは裏腹に絶えず政治的混
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乱に悩まされ、特に 1929 年 10 月の世界恐慌の発生後は大量失業や相次ぐ企業倒産から国民の信頼を失っていった。
その混乱の中で政治の表舞台に登場したのが、アドルフ・ヒトラー(1889-1945)を指導者とするナチス(国民社会主
義ドイツ労働者党)である。この政党はワイマール憲法の理念とは対極的な、指導者への個人崇拝(反民主主義)
、ド
イツ民族至上主義、反ユダヤ主義を唱えていた。1930 年 9 月の総選挙で泡沫政党から第 2 党に躍進したナチスは、続
く 1932 年 7 月の総選挙では第 1 党の地位を勝ち取った。この国民諸階層からの高い支持を背景に、1933 年 1 月、ヒト
ラーは大統領によって首相に任命され、ナチスは政権を獲得したのである。
政権獲得からわずか 2 年のうちに、ナチスは反対派を粛清し、独裁体制を築いた。ヒトラーは 1934 年 8 月に首相、
大統領、国防軍最高司令官の機能を統合した「総統(Führer)」の地位に就いた。この間、ワイマール憲法の人権規定
は停止され、ナチスの価値観に基づくドイツ社会の一元化が進行した。ナチス体制の下では軍備拡大が推し進められ
たが、これをきっかけにドイツ経済は回復し、国民生活が安定したことで国民の中でのヒトラー人気は絶大なものと
なっていった。しかし、同時にヒトラーは軍事力を背景とした領土拡大(他国への侵略)を強行し、1939 年 9 月のポ
ーランド侵攻をきっかけに第 2 次世界大戦(1939∼45 年)を引き起こすことになった。
ナチス体制下では、偏向した人種理論の下で、ユダヤ人をはじめ、障害者、同性愛者、ジンティ・ロマ(ジプシー)
など、ナチスが「生きるに値しない」と勝手に判断した数多くの生命が奪われていった。特に第 2 次大戦中には、占
領したポーランド領内に建設されたアウシュヴィッツなどの絶滅収容所にヨーロッパ各地からユダヤ人が移送され、
機械的に殺害された。その犠牲者数は、ユダヤ人だけでも 600 万人と推計されている。
1943 年 1 月のレニングラードでの壊滅的な敗北以後、ナチス・ドイツの敗色は濃厚となり、1945 年 5 月、連合軍に
対して無条件降伏することで、ヨーロッパでの第 2 次世界大戦は終結するとともに、ナチス体制は崩壊した。なお、
ヒトラーはドイツ降伏の 1 週間前にベルリンの地下壕で自殺を遂げている。
2.コレクションの内容
今回のコレクションは、このような激動のドイツ政治史を研究する上で必要不可欠な史料を含む大変貴重なもので
ある。それは、以下の 4 つに大別される。
(1)ワイマール共和国における 3 大政党の主要機関紙(マイクロフィルム)
①ナチス
『Völkischer Beobachter(民族観察者)』(1920 年∼1945 年)
『Der Angriff(攻撃)』(1927 年∼1945 年)
②ドイツ社会民主党
『Vorwärts(前進)』(1891 年∼1933 年)
③ドイツ共産党
『Die Rote Fahne(赤旗)』(1918 年∼1933 年)
(2)当該時期の内部文書(マイクロフィッシュ)
①Lageberichte (1920-1929) und Meldungen (1930-1933) :Reichskommissar für Überwachung der öffentliche Ordnung und
Nachrichtensammelstelle im Reichsministerium des Inneren
(ワイマール共和国期のドイツ内務省の状況報告書[右翼・左翼の政治運動の調査報告])
②Akten der Partei-Kanzlei der NSDAP
(ナチス体制下でのナチス党事務局文書[書簡・通信記録・議事録・覚書])
(3)ナチス指導者 A.ヒトラーの著書および演説集
①Hitler,Adolf, Mein Kampf (2Bde.),München,1934
(ヒトラー著『わが闘争』の 1934 年版。初版に近く、史料的価値が極めて高い稀少本)
②Hitler:Reden,Schriften,Anordnungen.Februar
1925
bis
Januar
1933,
herausgegeben
Zeitgeschichte(10Bde.bezw.Register),1991-2003.
(ワイマール共和国期のヒトラーの演説、書簡、命令などの集成)
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vom
Institut
für
(4)関連史料
①Ursachen und Folgen:Vom deutschen Zusammenbruch bis zur staatlichen Neuordnung Deutachlands in der Gegenwart
(26 Bde.nebst Reg.-Bd.),1958-80.
(ワイマール期およびナチス期の様々な政治史料を集成したもので全 26 巻から成る)
②Kühle,Gerd,Das Dritte Reich:Dokumentarische Darstellung des Aufbaues der Nation,Mit Unterstützung des
Reichsarchivs(8Bde.),1933-1938.
(ナチス期の刊行された年次報告書。当時の様子を知る手がかりとなる多くの写真を含む)
これらの史料は当時の政治状況、各政党の思想や運動の実態を解明する点で大いに有効であるだけではなく、その
記述内容は広く思想、教育、文化などの面に及び、1920 年代から 30 年代にかけての様々な側面を浮き彫りにする貴重
な史料となりうる。これらを総合的に利用した歴史研究は、
「ワイマール民主主義」から「ナチス独裁」へと転換して
いった歴史過程、およびナチスが抱いていた思想内容・国家像の解明に大きく寄与するであろう。また、ワイマール
共和国期・ナチス期を貫く形でこれらの政党機関紙、公刊文書及び出版物をまとまって所蔵している大学は、全国を
見渡しても存在していない。その意味でも、本学がこれらの基本的史料を集中的に収蔵することは、大きな学問的財
産となるであろう。
ヒトラーの『我が闘争』1934 版上下巻
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