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期待される次世代の放送
期待される次世代の放送 講演 ∼スマートテレビやスーパーハイビジョン∼ 東工大I Tクラブ・蔵前I Tコミュニティ合同セミナー 2013.2. 8 東工大蔵前会館くらまえホール 日本放送協会 放送技術研究所 副所長 黒田 徹 (S57修物情) 東工大ITクラブ,蔵前ITコミュニティ合同セミナーの前回テーマ「どうする日本のICT− グローバル化とその将来」に引き続き,現在苦戦している日本の電子機器産業の将来の手 がかりとして,放送業界のリーダであるNHKで検討を進めている表記テーマの講演をい ただいた。 放送と通信の融合は,これからの放送,通信,テレビや端末機器等の電子機器, 通信機器等産業界の大きな課題である。この動きを日本がリードしてグローバル化するこ とは,今後の日本のエレクトロニクス復権の大きな鍵の一つである。 NHK放送技術研究所における研究 皆様に快適に放送サービスを楽しんで頂けるように, 高齢者の方や,視覚や聴覚に障害がある方にも必要 NHK放送技術研究所(技研)は,日本でラジオ な情報を正確に伝えるためのバリアフリー技術として, テレビ放送を開始することを目的として,NHKの研 ここでは,代表的な技術をご紹介いたします。 放送が始まった1925年の5年後,1930年に日本で 究機関として設立されました。 設立以降,テレビ放 人にやさしい放送技術の研究開発を進めています。 送をはじめ,衛星放送,デジタル放送,ワンセグ放送, ハイビジョンなど,現在広く普及している放送サービ ス技術の研究を進めてきました。 現在,技研では,次世代の新しい放送サービス の実現に向けた研究開発を進めています。スマー トテレビのような放送と通信の機能が連携したサー ビスが注目されていますが,その基盤技術である Hybridcast®について,2013年にサービスを開始す ることを目指して準備を進めています。 2012 年∼ 2014 年 技研の重点項目 ハイビジョンの16倍の画素数と22.2マルチチャンネ ルの立体音響システムにより,高い臨場感を再現す ることができるスーパーハイビジョンは,当初予定し ていた2020年の実用化試験放送を4年前倒しして, 2016年の実現に向けて研究開発を加速しています。 昨今,光ファイバーの家庭への普及も進み,放送 スーパーハイビジョンの次の放送サービスとして はもういらないのではないか?という意見もあるかもし 体像を再現することができる空間像再生型立体テレ タを安定した状態で同時に配信ができる最も効率の そして,これまでも,これからも,全ての視聴者の くと思います。 例えば,現在も衛星放送では,約1 は,特殊なメガネを必要としない,空間に自然な立 ビの研究を進めています。 16 放送通信連携サービス Hybridcast® 1037 れません。しかし,日本全土の家庭に大容量のデー 良い伝送システムとして,放送はこれからも続いてい 期待される次世代の放送 講 演 ∼スマートテレビやスーパーハイビジョン∼ Gbpsのデジタルデータを家庭に安定した状態で届け ています。コストを考えても極めて効率のよいシステ ムと言えます。しかし,放送は利用者からの個別の 要求に応えることはできません。そこで,放送の効 率の良い伝送,同報性という特長と,通信の個別の 要求に応えることができるという長所を組み合わせる ことで,新しいサービス展開を図った放送通信連携 サービスの基盤技術がHybridcastです。 放送がアナログからデジタルに変わったことで,テ レビの視聴スタイルも変化しました。ブラウン管テレ ビから薄型テレビになったことで家庭でのテレビのレ Hybridcast の利用イメージ ダによりタイムシフトで視聴される方が増えました。 試合,選手の情報をインターネット経由で簡単に視 ます。VODやネット動画,スマートフォン,タブレット トの中の大量の情報からの検索は操作が面倒になる 利用が増えました。 つアプリケーションを組み合わせることで,視聴者は, イアウトが変わり,電子番組表とハードディスクレコー 一方,通信メディアの利用環境は急激に変化してい 端末などの登場で,利用者の好みに応じたメディア メディア環境が変化する中で,放送と通信の一部 の機能を統合した様々なサービス技術の開発が進め られています。放送(データ放送など)からインター ネット上のコンテンツへアクセスする機能により,テレ 聴・閲覧することができます。一般的に,インターネッ 場合もあります。Hybridcastでは,推薦機能を持 放送をポータルサイトとして,インターネットの中の大 量の情報検索を,簡単な操作で利用することが可能 です。さらに,タブレット端末とテレビの連携を実現す る機能も持つので,放送コンテンツに関連した情報を ビでVODを利用できるサービス技術。また, インター タブレット端末に表示させて利用することもできます。 インターネットのコンテンツを一緒に楽しむことができ を対象とした多様なサービスアプリケーションを展開 発が,それぞれ独自に進んでいます。 け入れてもらえるかは,その内容次第だと思いますが, ネットの中に放送コンテンツを流すことにより,放送と るサービス技術。これらの新しいサービス技術の開 これ以外にも,Hybridcastでは,放送コンテンツ することが可能です。 個々のサービスが利用者に受 Hybridcastは今後,皆様の面白いアイデアを展開 できる可能性を持っています。 Hybridcastに対応した受信機も,今年発売され る予定です。これからの放送通信連携サービスの展 開にご期待下さい。 スーパーハイビジョン 現在のハイビジョン放送よりも高精細な放送サービ スとして, “4K”・“8K” 放送というキーワードが注 コンテンツ利用環境の変化 NHKが研究開発を進めているHybridcastは,こ れらの全てのサービスを統合的に展開できる放送通 信連携サービス基盤技術です。 Hybridcastで実現できるサービスの例を紹介しま す。 例えば,視聴者は,放送されているサッカーの 試合を視聴しながら,少し前の得点シーンや過去の 目を集めています。NHKが研究開発を進めている スーパーハイビジョン(SHV)は,水平方向の画素 数が7680画素,垂直方向が4320画素の超高精細 映像システムです。水平方向の画素数が約8000画 素ということから“8K”と呼ばれています。“4K” は画素数が“8K”の4分の1の映像システムです。 NHKでは,2次元テレビの究極のシステムとして, 1995年からSHVの研究開発に着手しました。 1037 17 SHVの特長は, 3300万画素の超高精細な映像と, 22.2マルチチャンネルの三次元音響により,あたかも 自分がその場にいるような高い臨場感を再現できる ことです。また,SHVの超高精細映像は,視聴者 が画面に近づいても画素の構造が目立たないので, あたかも本物を見ているような高い実物感を再現す ることも可能です。 将来,大画面のSHVが家庭に 導入されることで,新しいテレビの楽しみ方を提供で SHV カメラ(2010 年) きると考えています。 SHV放送の実現に向けた標準化,機器の研究開 発状況について紹介します。 [標準化について] NHKでは,SHV放送を実現するために,SHVの 方式を国際標準規格とする取り組みを継続的に行っ ています。2012年には,ITU-R※1でSHVの映像信 号の仕様が勧告として承認され,テレビの国際規格 となりました。これにより,SHVがハイビジョンと同様 に,日本発の規格として世界中に展開される可能性 が広がりました。 [SHVカメラについて] [SHVディスプレイについて] SHVの 研 究 開 発当初は,SHVの 表 示にはプロ ジェクターを利用していました。2011年に世界初の SHV直視型ディスプレイとして85インチの液晶ディス 2002年に開発した最初のSHVカメラは,800万 プレイを開発しました。3300万画素の超高精細映 でした。2010年には,これを20㎏まで軽量化したも 145インチのプラズマディスプレイ(PDP)を開発し 画素のCCDを4枚使用し,重量も80kgの大きなもの 像を表示することができます。さらに,2012年には のを開発しました。この20㎏のカメラは,スーパー ました。PDPでは,視野角が広く,動きの速い映像 その後,3300万画素のCMOSイメージセンサの開 SHVディスプレイの研究を進めていく過程で,大 ハイビジョンのコンテンツ制作現場で活躍しています。 発を進め,2012年には,このイメージセンサを用い た重量4kgの小型カメラを開発しました。 現在は, SHV映像の高品質化を目指して,3300万画素,フ レームレート120Hzで動作するイメージセンサとカメ ラを開発しています。 SHV カメラ(2002 年) 18 SHV カメラ(2012 年) 1037 への追従が良いという特長があります。 画 面のSHVディスプレイを家 庭に設 置することは 可能か?という疑問点についても検証を行いました。 SHVの画面を想定した70インチサイズのポスターを 複数の家庭に設置して検証を行った結果,違和感無 く設置できることを確認しています。 SHV 85 インチ 液晶ディスプレイ 期待される次世代の放送 講 演 ∼スマートテレビやスーパーハイビジョン∼ [SHV符号化技術] 2012年 のロンドンオリンピックで は,OBS※2, BBC※3と共同で,SHVによるパブリックビューイング を英国,米国,日本の世界9会場で実施しました。オ リンピック会場からは,H.264方式で約250Mbps に圧縮したSHV映像信号を,国際回線を経由して伝 送しました。 しかし,放送の場合には,250Mbpsではまだデー SHV 145 インチ プラズマディスプレイ [将来のSHVディスプレイ] アナログ放送時代のブラウン管テレビから,デジタ タ量が大きすぎるため,現在,標準化が進んでいる HEVCという新しい符号化方式で100Mbps以下ま で圧縮することを検討しています。 現在衛星放送で は,36MHzの帯域幅を持つ中継器(トランスポン ル放送時代の薄型ディスプレイへの進化は,デジタ ダ, 以下トラポン)を12本用いて放送を行っています。 うに,SHV放送時代に向けた新たなディスプレイとし いますが,伝送方式の改善による大容量化とHEVC ます。 送することを目指しています。 ル放送が普及したひとつの要因となりました。同じよ て,フレキシブルディスプレイの研究開発を進めてい 2006年の研究段階では,水平16画素,垂直16画 素の小さく,粗い画面でしたが,2011年には画面サイ ズが水平320画素,垂直240画素になり,ノイズも低減 現在1トラポンで,複数のハイビジョン信号を伝送して 符号化を用いることで,1トラポンで1つのSHVを伝 他にもSHVの22.2マルチチャンネル音響技術,伝 送技術,記録技術についても,研究開発を進めてい ます。2016年にリオデジャネイロで開催されるオリン させました。SHVディスプレイとして利用するには,まだ ピックではSHVの実用化試験放送を開始し,2020 シブルディスプレイでSHVを表示することを目指して, を目指し,研究開発を進めています。 課題の多い技術ですが,2020年頃には,このフレキ 大画面化,発光効率の改善などの研究開発など鋭 意進めています。 年のオリンピックでは,本格的な放送を開始すること 空間像再生型立体テレビ スーパーハイビジョン(SHV)の次の放送サービ スとして,空間像再生型立体テレビの研究を進めて います。この空間像再生型立体テレビの原理は,実 物が存在する状態と同じように空間中に像を再現す 有機 EL フレキシブルディスプレイ(2011年) 見る位置に応じた立体像の表示 1037 19 るというものです。 特殊なメガネが不要で,全ての 方向に対して視差を持つため,見る位置に応じた自 然な立体像を表示することができます。 この立体方式では,微小レンズで構成されたレン ズアレーを撮影・表示の双方に用いて立体像を再現 します。高精細な空間像再生型立体テレビを実現す るためには,撮像・表示の双方に,SHV以上の高 精細なデバイスが必要になります。究極の2次元テレ ビであるSHVの次に,新しいテレビの楽しみ方を実 現する理想的な立体テレビ技術として,研究開発を 進めています。 人にやさしい放送技術 これまでも,これからも,全ての視聴者の皆様に 快適に放送サービスを楽しんで頂くために,高齢者 の方や視覚や聴覚に障害がある方にも必要な情報を 正確に伝えるためのバリアフリー技術として人にやさ しい放送技術の研究開発を進めています。 聴覚に障害がある方にも番組の内容を正確に伝え る技術として,音声認識を利用したリアルタイム字幕 制作技術の研究を進めています。この技術は,現在, 一部のNHKの生放送番組の字幕制作に利用されて います。また,番組の内容を手話のCGアニメーショ ンに変換する技術の研究も進めています。 手話CG どの研究を進めています。 これらの人にやさしい放送技術は,できあがったも のから順次,実用化につなげています。 スーパーハイビジョン試験放送に向けて これまでもNHK技研では,衛星放送,ハイビジョン, デジタル放送などの次世代の放送技術を,長期的な スパンで研究開発から実用化まで進めてきました。 スーパーハイビジョン(SHV)は研究開始から約 20年になります。2016年にリオデジャネイロで開催 されるオリンピックでは,SHVの実用化試験放送を 何としても実現したいと考えています。残り3年という 短い期間ですが,この目標の実現に向けて,多方面 の関係の皆様と密接な連携を取りながら取り組んで については,必要な方にHybridcastによって利用し いきたいと考えています。 他にも,日本に住んでいる外国の方や子ども向け ※1:ITU-R 国際電気通信連合 無線通信部門 て頂くこともできると考えています。 にニュースの内容をやさしい日本語に変換する技術, 高齢者にも聞き取りやすいように番組の音声と背景 音のバランスを調整する技術,視聴者に不快感を与 える可能性がある映像を制作段階で検出する技術な 20 手話 CG アニメーション 1037 ※2:OBS オリンピック放送機構 ※3:BBC 英国放送協会