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第101号 8月
8 13 101 技研の研究成果はスポーツ中継でも活用されて います ∼ NHK 杯体操選手権にて∼ 多視点ロボットカメラシステム 技研では、移動する被写体の位置と動きに応じたダイナミックな多視点映像を撮影できる多視点ロボットカメラシス テムの研究開発を進めています。多視点映像とは、異なる場所に配置された複数のカメラで被写体を撮影した映像です。 Topics スポーツ選手などの被写体を取り囲むように配置した複数のカメラで同時に撮影した映像を切り替えて表示することに より、被写体の時間を止め、周囲を回り込んで見ているかのような映像表現「ぐるっとビジョン」を実現しています。今回、 9台のロボットカメラを連動制御することで、今まで不可能だった移動する選手を、どんな位置でもぐるっとビジョンで 表現することを可能にしました。 6月9日(日)に放送された第52回NHK杯体操選手権で、初めてこのシステムを運用しました。男子選手の平行棒と鉄棒、 女子選手の段違い平行棒の演技で1つの視点の映像では分かりづらかった選手の動きや姿勢を、さまざまな視点の映像を 用いてより分かりやすく表現することができました。 代々木第一体育館での撮影風景(赤丸枠内がロボットカメラ) 内村航平選手のE難度平行棒技「マクーツ」のぐるっとビジョン ミリ波モバイルカメラ この大会では、男女共に6種目の体操競技が同時に行われました。 選手は、狭い各競技エリアの間を移動するため、従来の有線カメラ で移動する選手を撮影することは競技に支障を与えてしまいます。 今回の撮影では、技研が開発したワイヤレスミリ波モバイルカメラ2 式を使用し、採点を待つ選手の緊張した様子や競技後の生の表情な どとともに、臨場感あふれる体操競技の映像を放送することができ ました。 また、新しく開発したミリ波帯電波の回線品質解析装置を使用す ることで、カメラ映像の伝搬の状況が容易に把握できるようになり、 より安定した運用が可能となりました。 今後は、試行してシステムの性能向上に努めるとともに、体操以 外のスポーツでの運用を試みていきます。 技研だより 第101号 2013/8 ミリ波モバイルカメラ あなたの声と受信料で 公共放送NHK 1 「2013 年ウォルター・コソノキー賞」を受賞 技研の北村専任研究員らが執筆した、スーパーハイビジョン(8K /以下、SHV)カメラ用3,300万画素・毎秒120フレームのイメー ジセンサー *に関する論文が、固体撮像素子の優れた研究に対して Topics 授与される「2013年ウォルター・コソノキー賞」を受賞しました。 この賞は、過去2年間に世界中で発表された固体撮像素子に関す る論文の中から、優れた論文を隔年で表彰するもので、固体撮像素 子研究の分野では世界で最も権威のある賞です。技研では、この毎 秒120フレームのイメージセンサーを用いたSHVカメラを開発し、 動きの速い被写体でも、より鮮明で滑らかな超高精細映像の撮影を 可能としました。 今後も、2016年のSHV実用化試験放送に向けて、研究開発を加 速していきます。 * 国立大学法人静岡大学電子工学研究所と共同で開発 授与式の様子(右:北村専任研究員) 「音楽のお化けやしきコンサート」を開催 7月14日(日)に技研講堂で、「音楽のお化けやしきコンサート」を開催しました。この催しは、体験型のイベントを 通して地域の子どもたちの感性や創造力を育むことを目指す世田谷区の取り組み「遊びと学びの子どもプロジェクト」 に連動して開催しました。プログラムは、小泉八雲の怪談を題材にしたオーケストラ音楽の演奏と物語の朗読で構成す る「音楽のお化けやしき」と、 「歌のおねえさんと一緒に」の2部構成です。「雪女」や「ろくろ首」など有名な怪談をオー Topics ケストラ演奏と朗読で紹介したり、アニメ映画でおなじみの曲が演奏されました。 オーケストラの演奏や、歌のおねえさんの歌に合わせて、家族連れを中心に278名の来場者の方たちもリズムに乗り 手拍子で会場は盛り上がりました。アンケートからは「子どもといっしょに演奏と語りが聞けてとても良い経験だった。 」 「怪談と音楽という新しい試みがとても良かった。」 「これからもこういった楽しい企画を待っています。」などの声をい ただきました。 技研では、今後も地域と連携しながら、みなさまにいっそう親しんでいただけるイベントを企画していきます。 オーケストラ演奏の様子 2 演奏に合わせて手拍子 技研だより 第101号 2013/8 スーパーハイビジョン単板カメラ テレビ方式研究部 船津 良平 機動的なスーパーハイビジョン(8K /以下、SHV)番組制作を実現するため、小型SHVカメラについて研究開発し ています。今回、色分解プリズムが不要で、1枚の撮像素子でカラー映像を撮影できる「単板カラー撮像方式」 (以下、 単板式)による小型SHVカメラシステムを開発しました。 従来のSHVカメラシステムは、色をプリズムで赤(R)、緑(G)×2、青(B)に分解し、4つの撮像素子で撮影するため、 最も小型なカメラヘッドでも専用のレンズを含めて30kg以上の重さがありました。また、カメラヘッドの制御や映像信 号の調整を行うためのカメラコントロールユニット(CCU)のサイズも、現行の放送用カメラの2倍以上の大きさでした。 カメラを小型化するためには、カメラシステムを構成する光学系(レンズや色分解プリズム)と信号処理系の両方を 小型化する必要があります。信号処理系の小型化は電子回路の高集積化によって実現可能ですが、光学系の小型化には、 撮像素子のサイズそのものを縮小するか、プリズムが不要な単板式を採用することが必要です。しかし、撮像素子を縮 小するためには画素サイズを縮小しなければならないため、解像度や感度が大幅に低下します。そこで、2.5インチ3,300 万画素単板カラー CMOS撮像素子を新たに開発し、プリズムが不要な単板式を採用することで、従来の1.25インチ830 万画素4板式のSHVカメラと同等の画素数とサンプリング構造(図1)を持つ単板式カメラシステムを開発しました(図 2) 。 カラーフィルター 画素構造 専用 レンズ G1 R G1 R B 色分解プリズム B G2 B G2 G1 R G1 R G1 カラーフィルター配列 35mmフィルム 2.5インチ サイズレンズ 3300万画素撮像素子 画素数・サンプリング 構造は同じ G2 R 3300万画素単板式 1.25インチ 830万画素 撮像素子 830万画素4板式 図1:単板式と830万画素4板式の比較 カメラヘッドの重量は5.3kgで、レンズやビューファインダーを含めても10kg未満です。35ミリフィルムサイズに対 応した市販のレンズを使用できるため、さまざまな撮影シーンに対応できます。また、映像信号処理回路の高集積化に より、CCUのサイズもこれまでの半分以下にすることができました。 今後は、カメラシステムの画質や操作性を改善していくとともに、単板式でフルスペックSHV映像*の撮影を可能に する高性能撮像素子の開発を進めます。 * RGBとも3300万画素、フレームレート120Hz、広色域表色系(ITU-R BT.2020)に対応したSHV映像 カメラヘッド(5.3kg) CCU 図2:SHV単板カメラシステム 技研だより 第101号 2013/8 3 連載 ホログラムメモリー技術(全 3 回) この連載では、スーパーハイビジョン(8K /以下、SHV)の映像を長期に保存するアーカイブへの応用を目指した、大容量・ 高速データ転送が可能なホログラムメモリー技術について紹介します。 第1回 ホログラムメモリー技術の概要 立体映像研究部 菊池 宏 放送局においては、番組コンテンツを長期間にわたって保存・活用するための記録装置が必要不可欠です。2012年3月末 現在、NHKでは、放送番組77万本以上、ニュース項目545万本以上の膨大なコンテンツがテープやフィルムで保存されており、 毎年増加の一途をたどっています。さらに、2016年にはSHVの実用化試験放送が計画されています。これらの膨大な文化的 遺産といえる貴重な映像資料や、今後制作されるSHV番組を長期間にわたってコンパクトに保存でき、番組制作等にも容易に 活用することのできる超大容量・高速な記録装置の実現が望まれています。 技研では、SHVアーカイブに応用することを目指して、テラバイト(TB)級の記録容量と毎秒ギガビット(Gbps)級の高速 のデータ転送速度を実現するホログラムメモリーの研究開発を進めています。ホログラムメモリーでは、0、1のデジタルデー タを2次元バーコードのように並べた画像データ(ページデータ)を媒体に記録・再生します。記録時には、空間光変調器で じま 形成されたページデータ(信号光)を記録媒体中の微小領域に集光し、参照光と交差させてできる光の干渉縞を、ホログラ ム*として記録します(図) 。再生時には、参照光をホログラムに照射することでページデータである信号光が再生され、それ をカメラで撮像することにより、元のデジタル情報が得られます。この方式では、ページデータごとに参照光の入射角度を変 えるなどにより記録媒体中の同じ場所に多重記録することができます。さらに、一回の光照射で大容量のデータを一括で記録・ 再生できます。このように、ホログラムメモリーは、多重記録による高密度化・大容量化とページデータによる高転送速度化 を同時に満足できる記録技術であり、これまでのDVDやブルーレイディスクなどの光メモリーにはない優れた特徴を持ちます。 このホログラムメモリーを実現するには、さまざまな要素技術の研究開発が必要となります。現在、以下の要素技術の研 究を行っています。 (1)大容量化に適した多重記録方式の研究 ひず (2)記録媒体中で発生するホログラムの歪みを光学的に補償する(波面補償)技術の研究 (3)高速化に向けた信号処理系の高性能化技術の研究 (4)大容量化・アーカイブに適した記録媒体の研究 次回からの連載では、これら要素技術の中からホログラムメモリーのキーテクノロジーとなっている多重記録と波面補償の 2つの基本技術を紹介します。 * ホログラム:ホロとはギリシャ語で「すべての」、グラムは「記録」を表す。つまり物体の光の強度と位相、すべての情報を記録する という意味 記録時 入力データ 01011100 記録媒体 再生時 記録媒体 出力データ 空間光変調器 01011100 信号光 ページデータ 回折光 参照光 レンズ 参照光 レンズ ホログラム カメラ 再生ページデータ 図:ホログラムメモリーの原理 技研だより 2013.8 第101号 NHK放送技術研究所 〒157-8510 東京都世田谷区砧 1-10-11 Tel:03-5494-1125(代表) Fax:03-5494-3125 ホームページ:http://www.nhk.or.jp/strl/ 4 技研だより 第101号 2013/8