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円高が進む理由 - 第一生命保険株式会社
Global Market Outlook 円高が進む理由 2016年4月8日(金) 第一生命経済研究所 経済調査部 藤代 宏一 TEL 03-5221-4523 7日にUSD/JPYが一時107円台に突入。日銀の追加緩和期待が盛り上がらないことに加えて政府の為替介 入も難しい、など理由は様々だが、本質的には米国の期待実質金利が低下していることが大きい。米国の 期待実質金利は7年ゾーンまでマイナス圏に突入、10年ですら辛うじてプラス圏を維持している状態だ。 FEDの4回利上げシナリオが崩れて名目金利が低下するなか、原油価格の安定、現実のコアインフレ率 上昇等を背景に期待インフレ率が横ばい推移となっているため、期待実質金利が低下している。実際、日 米期待実質金利差(米-日)は2016年入り後に急激に縮小しており、USD/JPYの変動を綺麗に説明している。 米実質金利 (%) (%) 1.5 期待インフレ率・原油 (㌦) 3 1 120 2.5 100 10年 0.5 期待インフレ率 (10年) 2 0 80 1.5 60 -0.5 1 40 -1 0.5 WTI(右) 20 7年 -1.5 0 12 13 14 15 16 (備考)Thomson Reutersにより作成 米 (%) 0 12 13 14 15 16 (備考)Thomson Reutersにより作成 期待インフレ率・実質金利(10年) 実質金利差・USD/JPY (%) 3.5 3 1.3 125 名目金利 2.5 1.1 2 120 USD/JPY 1.5 0.9 期待インフレ率 1 115 0.7 0.5 実質金利 0 110 0.5 -0.5 実質金利差(右) -1 13/01 13/07 14/01 14/07 15/01 15/07 105 15/01 16/01 (備考)Thomson Reutersにより作成 0.3 15/04 15/07 15/10 16/01 16/04 (備考)Bloombergにより作成 名目の日米金利差が説明力を失うのをよそに日米期待実質金利差が説明力を保っていることは、FED の利上げがUSD/JPYにどのような影響を与えるか考察するうえで、非常に重要なヒントを与えてくれる。因 みに2013年以降の日米金利差から単回帰モデルによって導出されるUSD/JPYの理論値は132であり、足もと 乖離は約24円におよぶ。これまで日米名目金利差とUSD/JPYが強い相関を持っていたのは、金融市場の総論 として「金融引き締め→通貨高」、「金融緩和→通貨安」というロジックが成立していたからだ。故に、 日米の金融政策のベクトル相違がUSD/JPYの上昇ドライバーとなってきた。しかしながら、FEDの初回利 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 1 上げ(15年12月)とその後の強烈なリスクオフ(16年1-2月)を経験した後は、こうした見方に変化が生 じた。対資源・新興国通貨での行き過ぎたドル高と原油安の同時進行が、米製造業・エネルギーセクター の打撃となり、それがクレジット・スプレッドのワイドニングに発展、ハイ・イールド債も大きく調整す るなど、利上げの弊害が一気に表面化した。その結果として米国経済の成長シナリオが揺らぎ「金融引き 締め≠実質金利上昇≠通貨高」(≠は結びつかないという意)となった。また、日本サイドでも変化が生 じている。日銀のマイナス金利付き量的・質的金融緩和が思うような効果を発揮できなかった状況を目の 当りにして、追加緩和が実質金利低下と通貨安に繋がるか疑問に思う投資家が増加し、「追加緩和≠実質 金利低下≠通貨安」という認識が広がりつつある。 USD/JPY・日米金利差 USD/JPY 推計値 (%) 140 1.2 140 130 1 130 120 0.8 120 110 0.6 110 日米2年債金利差(右) USD/JPY 100 90 80 13/01 13/07 14/01 14/07 15/01 15/07 推計レート 0.4 100 0.2 90 0 80 16/01 13/01 (備考)Thomson Reutersにより作成 13/07 14/01 14/07 15/01 15/07 16/01 (備考)Thomson Reutersにより作成 2013年以降の日米2年債金利差から推計 (前年比、%) コア資本財受注・ISM指数 (%) 30 65 6 20 ISM(右) 60 5 10 55 4 0 50 3 -10 45 2 40 1 35 0 -20 実勢レート コア資本財受注 -30 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 (備考)Thomson Reutersにより作成 ISMは3ヶ月平均 クレジット・スプレッド 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (備考)Thomson Reutersにより作成 BBB格社債利回り-5年債利回り 16 期待実質金利の低下は、実質成長率期待の低下と換言できるので、結局のところ米国の成長期待が揺ら いでいるという事実に帰結する。言うまでもなく、それはドル安圧力となる。USD/JPYで考えた場合、日本 の実質金利がそれ以上に低下すれば、理論上は円安圧力が勝るのでUSD/JPYは上昇するのだが、現状でそれ は難しい。名目金利の下げ余地が、日本より米国の方が大きい状況下で、原油安など日米に共通する期待 インフレ率低下要因が発生した場合、米期待実質金利の方が低下幅が大きくなる。こうした下でひとたび ドル安が進むと、そのこと自体が日本の現実の物価および期待インフレ率の低下要因となり円高圧力を生 じさせる。つまるところ、USD/JPY上昇は米国の実質金利上昇、すなわち米経済の回復期待が高まるのを待 つ必要があるということだ。しばしば、「市場に織り込まれていない早期の利上げ」がUSD/JPYの上昇ドラ イバーになるとの指摘があるが、そうしたサプライズの要素を含んだ利上げは、米経済回復の阻害要因に なるため却って円高・ドル安を助長する結果を招くと判断される。「利上げ→円安」というパスはしばら く封印すべきだろう。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2