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2. 太陽と太陽風

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2. 太陽と太陽風
2. 太陽と太陽風
太陽は地球に最も近い恒星であり,表面の様子を詳しく観測することができる唯一の恒星です。
表面温度は約 6000 度,スペクトル型では G2 に分類される主系列星です。誕生してから約 50 億
年という壮年期の恒星で,寿命は後約 50 億年と推定されています。太陽のエネルギーは主に電
磁波,特に,紫外線・可視光・赤外線として放出されています。これは 6000 度の黒体輻射のエ
ネルギー分布にほぼ対応するものです。太陽から放射される全エネルギーは毎秒 3.8×1026 J(ジ
ュール)にもなります。このエネルギーの内,地球にやってくるのは約 22 億分の 1 であり,大
気圏外で毎分 1 cm2 当たり約 2 cal(カロリー)となります。この量を太陽定数といいます。最
近の観測技術の発達により,あらゆる電磁波領域での太陽観測が可能となってきました。地上か
らでは,可視光や赤外線・電波の一部でしか観測できませんが,大気圏外ではγ線・X 線・紫外
線・赤外線なども観測対象となります。太陽は光の範囲で見る限り非常に安定した星ですが,X
線・紫外線で観測すると様相はまったく異なります。この範囲ではコロナが観測されますが,こ
こでは 1 分以下のタイムスケールの激しい変化が見られます。コロナを見る限り,太陽は変光星
といっても過言ではありません。
太陽からは電磁波以外のものもやって来ます。それは,太陽風と呼ばれる高速(秒速約 400 km)
プラズマ流です。飛来する荷電粒子は地球磁気圏と相互作用し,極地方で見られるオーロラを発
光させたりします。さらに,コロナガス噴出に伴って高エネルギー粒子が飛来することがあり,
電波擾乱や送電システムの破壊などといった影響が地球にもたらされる場合もあります。
2.1
太陽のエネルギー放射の概観
太陽は大量のエネルギーを電磁波として放射して,地球大気の気象現象や電離層の生成など,
地球上や宇宙空間の自然現象の源となっています。このエネルギーは,太陽の中心核で進行する
核融合反応によって生じたものと考えられています。
図1
太陽におけるエネルギーの生成と放出
表1
太陽に関する諸定数
5
半径
6.96×10 km
1.41 g/cm3
平均密度
2.74×102 m/s2
表面重力加速度
質量
1.99×1030 kg
地球からの平均距離
1.50×108 km
エネルギー放射率
3.85×1023 kW
温度(中心)
1.55×107 K
温度(表面)
5.78×103 K
密度(中心)
1.56×102 g/cm3
密度(表面)
2.7×10-7 g/cm3
∼10-4 T
磁束密度(極域)
磁束密度(黒点)
∼10-1 T
中心核における核融合
太陽の中心は,重力による圧縮の効果で,1.55×107 K,
1.56×102 g/cm3 にも達する高温・高密度となっていま
す。このため,原子は原子核と電子の結合が切れたプラ
ズマ状態になり,しかも,原子核どうしの反応が可能な
状態になっています。水素の原子核(陽子)4 つが結合
して,ヘリウムの原子核 1 つを作る核融合反応がエネル
ギー供給の源です。このような核融合は,中心から太陽
半径の 1/4 程度の領域で起きています。この領域を中
心核(core)といいます。そこでは,毎秒 400 万トン
の質量がエネルギーに変わる計算になります。
図2
中心核における核融合反応
エネルギーの輸送
核融合で発生したエネルギーは,大部分が光子
として放出されます。太陽内部は密度が高いため,
光子は粒子と次々に衝突しながら進んで行きま
す。直進すれば約 2 秒で太陽表面に到達しますが,
実際には約 100 万年の時間が必要だと計算されて
います。一方,太陽の表面からは,エネルギーは
宇宙空間に向かって能率良く放射されます。従っ
て,太陽の内部温度は表面に向かって急激に減少
します。この結果,太陽の表面から半径の 1/4 程
度の深さまでの領域に対流が生じます。この対流
が表面までのエネルギー輸送を担うことになり
ます。この領域を対流層(convection zone),中
心核と対流層の間の領域を 輻射層 (radiative
zone)といいます。
図3
対流層と輻射層
図4
図5
光球と彩層
太陽表面の下の対流層の流れ
図6
コロナ
太陽大気の温度構造
対流層の外側にあるのが光球(photosphere)です。光球の厚さは約 600 km で,温度は約 6000
度(5.78×103 K)です。光球は望遠鏡などを使って私たちが見ることのできる層で,それより内
側の層は見ることができません。光球の表面には周囲より暗い黒点と呼ばれる部分や,周囲より
明るい白斑と呼ばれる部分があります。さらに,この光球の外側には,彩層(chromosphere)と
呼ばれる厚さ約 1500 km の層があります。彩層では高度とともに温度はゆっくりと上昇し,一番
上では約 8000 度になります。
彩層を過ぎると,厚さ約 400 km 程度の領域で温度は約 50 万度まで急激に上昇し,高度 5000 km
付近で約 100 万度という
温度に達します。温度が
100 万度以上に達した領域
をコロナ(corona)とい
います。なぜコロナがこの
ように高温になるかは,太
陽物理学の大きな謎の一
つです。コロナの外延は静
止した状態にはなく,外に
向かって太陽風となって
吹き出しています。
図7
太陽大気の温度分布
電磁波放射のスペクトル
太陽からのエネルギーの大
部分は電磁波として放射され
ます。電磁波の波長は,X 線か
ら紫外線・可視光・赤外線・電
波の領域まで広がっています。
図 8 は太陽放射のスペクトル
の中心部分を示すもので,波長
の長い部分では点線で示す
5770 K の黒体放射のスペクト
ルに近いものになっています。
全放射に対する割合は,紫外線
が約 9%,可視光が約 40%,赤
外線が約 51%と算定されてい
ます。
図8
太陽の紫外線,可視光,赤外線におけるスペクトル
2.2
太陽風
太陽は電磁波の放射の他に,太陽風と呼ばれるプラズマの流れを放出しています。エネルギー
の流量を比較すると,太陽風は電磁波の 100 万分 1 にすぎません。しかし,この太陽風が地球の
周辺の宇宙環境を決定づけるエネルギー源となっています。
太陽風の理論
太陽コロナのプラズマは 100 万度という高温にあるため,静的な釣合い状態をとることができ
ません。コロナのプラズマは絶えず外向きに加速されて超音速の流れとなり,惑星間空間に向か
って吹き出しています。これを太陽風(solar wind)と呼んでいます。このことを観測に先駆け
て理論的に予測したのはパーカー(E. N. Parker,1958 年)です。
太陽中心から放射状に運動するプラズマの流れを考えます。プラズマに働く力は,プラズマの
圧力と重力のみとします。定常状態(時間的に変化しない状態)を仮定すると,
dv
v
dR
 v s2
1 − 2
v

v g2
 2 v s2
 =
−
R
2 R2

…
(1)
が成り立ちます。ここで, v はプラズマの流れの速さ, v s はコロナ中の陽子の熱運動速度, v g は
コロナの底における陽子の脱出速度で, v s = 130 km/s, v g = 620 km/s と見積もられています。
また,太陽中心からの距離を r で表し,太陽半径を r0 とすると,R は r r0 で与えられます。v s < v g
であることは,コロナが全体として太陽の重力に束縛されていることを意味します。
式(1)の右辺は,コロナの底( R = 1 )では負で, R の増大とともに増大し,
R = Rc =
v g2
4 v s2
で正に逆転します。式(1)の右辺が 0 となる点 R = Rc を臨界点と呼びます。 Rc = 5.7 で,臨界点
は太陽半径の約 6 倍の距離にあります。コロナの底では,プラズマの流れの速さは十分に小さい
と考えられるので( v < v s ),
dv
>0
dR
…
(2)
となり,外向きの加速があることになります。臨界点で v = v s となるように加速が進むと,すべ
ての R で式(2)が成立し,コロナのプラズマは加速し続けることになります。これが太陽風です。
太陽風は,臨界点で超音速に達します。
惑星間空間で太陽風を直接観測したのは,旧ソ連の人工衛星ルニク(1959 年),アメリカのエ
クスプローラ 10 号(1961 年),マリナ 2 号(1962 年)です。これらの観測により,パーカーの
理論的予測は実証されました。
太陽風の存在は,彗星の尾からも推測されます。彗星の尾には,2 種類のものがあります。一
つは彗星のガスや微粒子が尾をつくるもので,ダストテールと呼ばれます。もう一つは彗星のガ
スが太陽の光で電離してできるもので,イオンテールと呼ばれます。イオンテールの方向が太陽
の方向から 5 度程度ずれていることから,太陽風の速度は 500 km/s 程度であると推測されます。
図9
太陽風と彗星の尾
太陽風磁場のスパイラル構造
−1
太陽には,黒点の周りの局所的な強い磁場( 10 T)と,グローバルな弱い双極子型の磁場
−4
( 10 T)があると考えられています。コロナの上空まで伸びた磁力線は,太陽風に運ばれて惑
星間空間へ広がります。
磁力線は,各点における接線がその点での磁場の方向を与える曲線のことであり,その意味で
は,数学的な存在です。しかし,プラズマ中では,磁力線は実体のあるゴムひもや弦のように振
る舞い,プラズマの運動に伴いねじれ,引き伸ばされます。このことを,「磁場はプラズマに凍
結されている」と表現します。
図 10
太陽コロナの磁場構造
図 11
太陽風磁場のスパイラル構造
太陽は恒星に対して 25.4 日の周期で自転しています。図 11 は,太陽の赤道上に固定された吹
出し口から半径方向に出た太陽風が,自転の影響でどのように赤道面に並ぶかを示しています。
時刻 t 0 ∼ t 6 は等間隔で,図中の t 0 ∼ t 6 は,それぞれの時刻に吹出し口から出た太陽風が到達した
点を示しています。つまり,時刻 t 0 に出た太陽風が図に示された点まで進んだとすると,吹出し
口は時刻 t 6 には図の位置まで回転します。従って,太陽の磁場が太陽風に凍結されているとすれ
ば,太陽の 1 点から出た磁力線はスパイラル曲線になります。
スパイラル磁場と半径方向のなす角をψ とすると,
tan ψ = −
ωr
v
が成り立ちます。ここで,ω は太陽の自転の角速度,r は太陽からの距離,v は太陽風速度です。
地球の軌道付近では( r = 1.5 × 10 km),太陽風の代表的な速度 v = 400 km/s に対して,ψ は 45
8
度程度になります。
太陽風磁場のセクター構造
米国 NASA が 1963 年に打ち上げた人工衛星 IMP-1 号は,数ヶ月に及ぶ太陽風の連続観測を行い
ました。この結果は,太陽風の速度,磁場のスパイラル構造など,パーカーの理論的予測の正し
さを証明しました。同時に,この観測はいくつかの新しい発見をもたらしました。その一つは,
太陽風磁場のセクター構造(sector structure)です。
太陽風の磁場は,その極性が太陽から外
向きと内向きの区域に分かれていて,約 27
日の周期で同じパターンを繰り返すことが
観測されました。太陽は恒星に対しては
25.4 日の周期で自転していますが,地球が
太陽の自転の方向に公転しているため,地
球から見た太陽の自転周期は約 27 日になり
ます。太陽風磁場の極性の繰返しは,全体
構造が太陽に固定されているためと解釈さ
れます。図 12 は,その様子を模式的に示し
たものです。この構造をセクター構造と呼
び,極性のそろったそれぞれの領域をセク
ターと呼びます。
図 12
太陽風磁場のセクター構造
もう一つの発見は,太陽風速度のパターンがセクター構造と同期していることです。セクター
の前半に 700 km/s に近い高速の太陽風が,後半におよそ 300 km/s の低速の太陽風が観測され,
高速と低速の太陽風の吹出し口が太陽に固定されていることが示唆されます。
コロナホールと高速太陽風
太陽を軟 X 線で観測すると,コロナの構造を見ることができます。1973 年に軌道に乗った有人
の宇宙実験室「スカイラブ(Skylab)」は,コロナの鮮明な軟 X 線像を撮影することに成功しま
した(図 13)
。
黒点などの活動領域と呼ばれる磁場の強い領域では,X 線は明るく,磁力線に沿ったような構
造が見えます。図 13 の極から中央へ延びる暗い領域はコロナホール(coronal hole)と呼ばれ,
その発見はスカイラブの最も注目を集めた成果です。コロナホールは磁場が弱く,磁場の向きの
極性がそろった領域です。コロナホールでは,太陽面から出た磁力線が遠く惑星間空間まで吹き
流されたように開いています。一方,活動領域では,磁場は太陽面から出た磁力線が太陽面に戻
るループ状になっているので,磁力管にエネルギーが溜まって高温になり,明るい X 線を放射し
ます。
図 13
軟 X 線で見た太陽(左)と可視光で見た太陽(右)
コロナホールの磁力線が惑星間空間に向かって開いていることは,この領域からプラズマが流
れ出しやすい条件になっていることを意味します。図 14 の左パネルは太陽風の速度変化と惑星
間空間磁場の極性との関係を示し,右パネルは地上観測から求めたコロナホールの分布を示して
います。+と−は,それぞれ,磁場が外向きと内向きであることを表します。北と南からのコロ
ナホールが地球公転面に延びている経度で,高速の太陽風が観測され,太陽風磁場の極性もコロ
ナホールの磁場の極性とみごとに一致しています。
図 14
太陽風の速度変化と惑星間空間磁場の極性(左)及びコロナホールの分布(右)
太陽風の惑星間空間構造
コロナの磁場構造に応じて太陽風の吹き出す速度が変化することにより,太陽風の実際の惑星
間空間構造は複雑なものになります。磁場のスパイラルは太陽風が遅いところでは速いところよ
りも曲がりが大きくなり,速い太陽風は遅い太陽風に後から追いつくことになります。この結果,
遅い太陽風と速い太陽風の境目を中心に,プラズマの圧縮が生じます。遅い太陽風の領域では圧
縮によるプラズマ密度の増大が見られ,後から追いついた速い太陽風の領域では運動エネルギー
が熱エネルギーに変わって,温度が上昇します。このようにして,遅い太陽風と速い太陽風の境
目付近に特有の圧縮構造が発達します(図 15)。この圧縮構造は太陽の自転とともに回転するの
で,共回転相互作用領域(CIR: corotating interaction region)と呼ばれます。
図 15
高速の太陽風の前面に発達する共回転相互作用領域
プラズマの圧縮は太陽風の流れとともに連続的に進行するので,CIR は太陽から遠くなるにつ
れて発達し,ついには衝撃波を生じます。このような衝撃波は,通常は太陽から 1.5 AU 以上離
れた距離で発生します(AU は太陽から地球までの平均距離, 1.496 × 10 km)。太陽風の磁場はプ
8
ラズマに凍結しているので,CIR では,磁場も圧縮されて強くなっています。このため,CIR は
地球の磁気嵐を引き起こします。CIR に起因する磁気嵐の特徴は,約 27 日の周期で繰り返すこと
です。この意味で,CIR に起因する磁気嵐を回帰性磁気嵐(recurrent geomagnetic storm)と
いいます。
〔用語解説〕
スペクトル型
恒星をそのスペクトルの見え方によって分類したもの。光をプリズムに当てると,きれいな光
の帯ができる。この光の帯のことをスペクトルという。スペクトルは,恒星の表面温度によって
決まる。そこで,スペクトルをいくつかの型にまとめ,表面温度の高い順に O, B, A, F, G, K, M
の各型に分類する。これが恒星のスペクトル型である。例えば,表面温度が 6000 度で黄色く見
える太陽は G 型である。
主系列星
原始星(星間空間にあるガスから生まれたばかりの星)がさらに収縮すると,星の内部では核
融合反応が始まり,そのとき生じる圧力(膨張しようとする力)が自己重力(自分自身の重さで
縮もうとする力)と釣り合うようになる。この時期の星が主系列星と呼ばれ,星は寿命の大部分
をこの状態で過ごすことになる。
黒体輻射(黒体放射)
一定温度の黒体(すべての波長の電磁波を完全に吸収する物体)で囲まれた空洞内にあって熱
平衡に達した電磁波。黒体輻射のスペクトルは,黒体の温度によって定まる。
太陽定数
地球の大気圏外で太陽方向に垂直な面が単位時間・単位面積当たりに受ける太陽の電磁波放射
エネルギーはほぼ一定で,1.37 kW/cm2 である。これを太陽定数と呼んでいる。最近では人工衛
星による観測が可能となり,太陽定数は太陽活動に応じて 0.1%程度の変動を示すことが明らか
となっている。
コロナガス噴出(CME: coronal mass ejection)
フレアによってコロナ中の磁場がつなぎ替わり,それに伴って大量のプラズマが惑星間空間に
放出される現象。
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