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肉用肥育素牛の生産管理(1) (LIAJNews159号抜粋)(pdfファイル)
解説 BOSSシステム(交配相談)を活用しよう! - Best Operation of Super Sire - ⑪新しい BOSS !肉用肥育素牛の生産管理(1) BOSS システム作成プロジェクトチ-ム BOSSシステムに新機能が追加されました。これまでのBOSSシステムは近親交配をさけて、効率の良い乳牛 改良を行うものでした。ところが、最近の子牛価格の高騰は、酪農経営における肉用肥育素牛の生産を無視でき ないものとしています。かたや、乳用初妊牛の価格も高騰しており、酪農家の交配計画を極めて難しいものとし ています。このような環境の中で、今度の新しいBOSSシステムでは性選別精液を利用し、優秀な乳用後継牛を 確保しながら、効率良く肉用肥育素牛の生産ができるよう交配計画を提案します。 1 新しいBOSSシステムの考え方 肉用肥育素牛の生産についての交配相談を開始する にあたって図 1 のように考え方を整理しました。 (1)農家の改良希望点を優先する 従来のBOSSシステムを踏襲しています。ですから、 当団種雄牛センターのスタッフが酪農家を訪問し、酪農 家のみなさんの改良希望をお尋ねするところからシステ 図1 ᪂䛧䛔䠞䠫䠯䠯䛾䝁䞁䝉䝥䝖 ᾀ ᠾܼỉોᑣࠎஓໜửΟέẴỦ ᾁ ࣏ᙲễʐဇࢸዒཅửᄩ̬ẴỦ ᾂ ࣱᢠКች෩ởӖችҳሁửဇẴỦ ᾃ ᎹဇᏄᏋእཅỊ˯ᏡщཅẦỤဃငẴỦ ィ⏬ⓗ䛻 ⏘䜏ศ䛡䜘䛖 ʐἳἋ ムがスタートすることに何ら変わりはありません。改良 希望点は、次にあげる①~③の19形質から 3 つを選ぶ ことができます。また、長命連産性など種雄牛の遺伝評 ࢸዒཅ 䐡ᛶ㑅ู⢭ᾮ䜔 ཷ⢭༸➼䛾ά⏝ 䐟㎰ᐙ䛾ᨵⰋᕼᮃ 䐠ᚲせᩘ䛾☜ಖ ᏄᏋእཅ ԧཅ ʩᩃ ʐỼἋ 䐢ప⬟ຊ∵䛛䜙⏕⏘ 価成績に選定要件を 3 つまでつけることも出来ます。 ①泌乳能力10形質 減らしてしまいます。そこで、BOSSシステムでは、 乳量、乳脂率(量) 、蛋白質率(量) 、無視固形分率 この年間の除籍牛頭数を最低限必要な乳用後継牛の数 (量) 、体細胞スコア、乳代効果、泌乳持続性 とします。牛群検定における除籍牛の理由の大半は周 ②選抜指数 4 形質 産期病によるものです。ですから、周産期病が多く発 総合指数(NTP) 、産乳成分、耐久性成分、疾病繁 生する長命連産性の低い農家では、後継牛を多く確保 殖成分 しなければなりません。結果的にこのような農家での ③体格得点 5 形質 決定得点、体貌と体格、肢蹄、乳用強健性、乳器 肉用肥育素牛の生産は、少頭数に留めなければならな いことになります。さらに、受胎率、死産率なども加 味しますので、繁殖や哺育が思わしくない農家では更 (2)必要な乳用後継牛を確保する に多くの乳用後継牛を確保するように交配する必要が BOSSシステムは、牛群検定データの利用について あります。また、逆に健康な牛群を維持し、繁殖の良 同意を頂くことになっています。牛群検定データから 好な農家の後継牛は少ない頭数でも充分なことから、 年間の経産牛の除籍(淘汰)牛の頭数を得ることが出 肉用肥育素牛の生産を多数行うことが出来ます。 来ます。規模拡大等の計画が無ければ、基本的には除 また、低能力淘汰や、乳用牛の個体販売を積極的に 籍された牛と同じ数だけ補充されなければ、出荷量を 進めたい場合等も乳用後継牛を多数必要としますの 9 − LIAJ News No.159 − で、その旨を当団種雄牛スタッフに申し出て頂けれ ば、BOSSシステムに設定することが出来ます。 2 種雄牛選定のための検討表 (1)基本的な考え方 (3)性選別精液や受精卵等を活用する 図 2 に示したものが「種雄牛選定のための検討表」 遺伝的な改良を考えた場合、従来はとにかく全頭に になります。この帳票を用いて後継牛生産、肉用肥育 乳用種を交配することで後継牛を生産し、世代交代を 素牛となる和牛受精卵の利用、交雑種生産などを検討 積極的に行うことが良いとされてきました。これは仮 していきます。考え方は、極単純で、BOSSを行って に100頭の牛群を考えた場合、100頭全頭に通常精液を いる対象農家の牛たちを遺伝評価の高い牛の順番に並 交配し50頭の後継牛を生産し世代交代するということ べ替えただけのものです。太い線が 2 本引かれてお です。しかし、近年、性選別精液により90%の精度で り、この太い線を使って、交配相談を進めます。 雌雄産み分けが可能となりました。性選別精液を用い ①上位の太い線より上に位置する牛(上位約50%) れば、わずか56頭に交配するだけで、前述と同程度の 泌乳能力に優れた牛なので、性選別精液を使って積 頭数を確保できることになります(56頭×90%=雌50 極的に後継牛生産を行います。 頭) 。しかも、従来は、例え100頭中のトップの牛であ ②下位の太い線より下に位置する牛(下位約33%) っても、雌が産まれるかどうかは50%の確率でしたか 泌乳能力に劣る牛なので、和牛受精卵など肉用肥育 ら、50頭の後継牛にはトップの子から、100番の子ま 素牛生産を行います。 で混在した後継牛でした。性選別精液の場合、100頭 ③太い線に囲まれた牛(残りの中堅約17%) の牛群の遺伝的能力をきちんと把握して交配すれば、 緩衝地帯です。必要に応じて、後継牛生産か肉用肥 確実に上位の子を後継牛とできることから、遺伝的な 育素牛生産かを決めます。後代検定の調整交配を行う 改良は、従来より効率が良いものと期待できます。し にも適しています。 かも、この例の場合の残りの44頭には、和牛受精卵を 前述したように、上位約56%に性選別精液を用いれ 用いれば、子牛販売にも高い収益性も期待できます。 ば、通常精液と同等の乳用後継牛を確保出来るわけで これはBOSSシステムが牛群検定により、牛群の遺 すから、ここに示した①~③を基本にすれば、後継牛 伝的能力を把握しているからこそ可能なことです。 が不足するといった事態は、よほど極端なことが起き ない限り発生しません。 (4)肉用肥育素牛は低能力牛から生産する 酪農家のみなさんは乳用牛の改良を行うのが第一義 (2)能力区分の応用(※) ですから、肉用肥育素牛の生産は低能力牛から行うべ 前述のような方法のみでも、肉用肥育素牛生産を進 きなのは自明のことです。しかし、この単純なことが めることはできます。しかし、これでは、せっかく改 難しい。そもそも何をもって低能力とするか、乳量 良希望点を聞き取り農家の希望に合う交配計画を立て か?体型か?農家の改良希望からズレている牛か?と ても水泡と化してしまいます。どういうことかという いうことを検討しなければなりません。今度のBOSS と、下位33%での肉用肥育素牛生産が望ましいのであ システムでは新しく「種雄牛選定のための検討表」 れば、選定種雄牛BOSS①②など無視して、図中②の (図 2 )を開発し、以上のことを一括して検討するこ ように赤ペンで全部クロと書いてしまったとします。 とが可能としました。 ここで図中③をみてください。この下位33%のクラス 肉用肥育素牛の生産には、もうひとつ初産次の難産 に、この農家の改良希望にマッチした能力区分AAの 回避という大事な意味があります。しかし、遺伝的改 牛がいます。これは、改良希望を体型(決定得点)に 良を考えるとき、初産次の後継牛生産が最も高い改良 重きを置いたために発生した事象です。おそらく、こ 効果を期待できます。BOSSシステムでは遺伝評価の の牛は泌乳能力が高いわけではなく、体型が飛び抜け 難産・死産情報を利用することで、分娩事故を回避し て良い牛であると考えられます。こういった農家の改 ます。また、性選別精液を交配させれば雌分娩である 良の中核にいる牛まで肉用肥育素牛生産に回すこと ため、安産傾向があるとも言われています。 は、適切な交配相談とは呼べません。 今度の新しいBOSSシステムではこういった場合に 個別対応が可能となっています。図中③の牛は下位に 位置付いている牛ですが、農家の改良希望に最も合っ 10 図2 ているわけですから、後継牛を生産するようにBOSS る牛、「他」 は体型審査を受けていない牛、「-」は遺 ①の牛にチェックを入れて選定することが出来ます。 伝評価そのものを持たない牛となります。 このように能力区分が高い牛については、肉用肥育素 (詳しくは、152号の 「④牛群の能力区分について」 を 牛生産ではなく、後継牛生産にふり直していけばいい 参照ください。なお、本誌INFORMATIONのとおり わけです。 ホームページでもご覧いただけます。 ) また、図中④の牛は、すでに 8 回授精しても受胎で きない牛です。リピートブリーダとなってしまってい ます。このような場合、追い移植などを試すことも有 効なのでETの欄にチェックをいれてあります。 3 さいごに 今回は、新しいBOSSの肉用肥育素牛の生産管理の 以上のような細かい作業は、当団種雄牛センターの 概略を簡単に記しました。今回、紹介した 「種雄牛選 スタッフが行いますので、お気軽にお声かけください。 定のための検討表」 の実力はまだまだこんなものでは ありません。なぜなら、もうお気づきと思いますが、 (※)能力区分の見方 牛群検定データをふんだんに取り入れてあるからで 図中①の能力区分が「AA」と表示されている牛 す。何度交配しても受胎しない牛、分娩時に難産しそ は、この農家の改良希望に最も良くマッチしている改 うな牛、死産や生後死亡による子牛生産の実態までも 良 の 中 心 と な る 牛 で あ る こ と を 示 し ま す。 以 下、 把握し、農家に最適な乳用および肉用の子牛生産の方 「A」 「B」 「C」 と農家希望とだんだんと離れていき 法を提案することができます。次回は、さらに詳細な ます。「D」 は農家の改良希望と大きくかけ離れてい 11 − LIAJ News No.159 − 解説を行います。