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④牛群の能力区分について (LIAJNews152号抜粋)(pdfファイル)
解説 BOSSシステム(交配相談)を活用しよう! - Best Operation of Super Sire - ④牛群の能力区分について BOSS システム作成プロジェクトチーム 乳用牛の適切な交配をサポートするBOSSシステムは、酪農家のみなさんが日頃の経営のなかで求めている改 良希望を最大限に発揮できる種雄牛を選定するシステムです。酪農家毎に異なる千差万別の改良希望ですが、み なさんはご自身で飼養している牛のうち、どの牛がご自身の改良希望に叶っている牛なのか、把握されています か?どの牛たちが自身の改良希望に最も近いか、または遠いか、こういった点をしっかりと把握することは交配 相談以前の改良の基本です。BOSSシステムでは、こういった点についても、簡便に把握することが出来るよう に工夫していますので、紹介します。 1 改良希望点について をそれぞれ選択したとします。その時、第 1 希望と第 2 希望から図 1 のように区分し、各検定牛の産乳成分 前回の復習になりますが、BOSSシステムにおいて と泌乳持続性の遺伝情報を、酪農家Aさんの遺伝情報 は、牛群の改良希望点を第 1 ~第 3 希望として 3 点 である牛群改良情報から抜き出して、それぞれプロット を次の①~③の19形質から選ぶことができます。注意 していきます。この場合のグラフの中心は産乳成分と泌 点は 1 頭毎の改良希望ではないことです。BOSSシス 乳持続性の各平均値となります。すると、これらの区分 テムでは牛群全体での改良希望点を設定すれば、牛群 には次のような特徴があることがわかります。 検定データから自動的に各個体に最適な種雄牛を選定 します。 ①泌乳能力10形質: 図1 乳 量、乳脂量・率、蛋白質量・率、無脂固形分量・ 率、体細胞スコア、乳代効果、泌乳持続性 ②選抜指数 4 形質: 総 合指数(NTP) ※、産乳成分、耐久性成分※、疾病 繁殖成分 ③体格得点 5 形質: 決 定得点※、体貌と体格※、肢蹄※、乳用強健性※、 乳器※(※は体型に関連する形質) 改良希望点の設定には、当団種雄牛センターのスタ ッフがお手伝いします。 2 牛群の能力区分の考え方 (1)各能力区分の特徴 AA区分 分かりやすくするため酪農家Aさんをサンプルケース 酪農家Aさんの牛の中でも、 2 つの改良希望をクリア にしたいと思います。酪農家Aさんは、前述の改良希 したエリート牛群です。今後の改良の中心となる牛たち 望点から第 1 希望に産乳成分、第 2 希望に泌乳持続性 です。 9 − LIAJ News No.152 − A区分 希望点とした場合の能力区分は、自動的に「他区分」 2 つの改良希望点をそこそこクリアしたりしなかった となります。例えば、決定得点は体型審査を受けなけれ りですが、一般的には、実際の搾りでは中堅としてもっ ば遺伝評価値はありません。しかし、それでも第 1 希望 とも頭数も多く活躍している牛たちになります。 点を決定得点としてしまうと、決定得点の遺伝評価値が B区分 無い牛はすべて他区分となります。このことから、体型 第 1 希望はクリアしているものの第 2 希望をクリアが 審査をきちんと行っていない農家においては体型面を第 できていないという区分です。 1 、第 2 改良希望点にあげれば多くの牛たちがこの他 C区分 区分となってしまい、あまり望ましくありません。この 第 2 希望はクリアしているものの第 1 希望をクリアで 現象を回避するにはBOSSシステムでは 2 つの方法があ きていないという区分です。酪農家Aさんは第 1 希望を ります。※印の体型関連の形質の改良希望は、第 3 希 より重視しているわけですから、B区分より劣る集団と 望とするか、または選定要件(注)とするかの 2 つです。 なります。 D区分 2 つの改良希望をともにクリアしていません。酪農家 Aさんの改良希望から最も遠い牛たちの区分です。 (注)選定要件について 今回紹介している第 1 ~第 3 の改良希望点による改 良とは別個に行う、BOSSシステムのもうひとつの柱と なる種雄牛選定方法です。詳しくは次の機会で紹介し ます。 (2) 「他」区分について 前述 1 の改良希望点で※印がついた体型関連の形質 (3)AA区分のチェック については、体型審査を受けなければ、雌牛側の遺伝 改良希望点を当団スタッフと一緒に決定し、図 2 のよ 評価値が計算されません。このような遺伝評価値が計 うなクイックリストを酪農家Aさんは受け取ったとしま 算されていない農家で、※印の体型関連の形質を改良 す。その際、酪農家Aさんは、特にAA区分の牛たちが 図2 10 どういった牛たちなのか、必ず牛群改良情報の遺伝評 ③B区分とC区分 価値により確認してください。本例のように、改良希望 長 所短所をもった牛になります。B区分は第 1 改良 点を産乳成分といったような場合は、まず大丈夫なので 希望点をクリアしていますが、C区分はクリアしてい すが、 「泌乳能力は現状で十分、体型を改良したい」と ません。この意味でB区分はC区分より優秀な牛たち 考えて、改良希望点を第 1 から第 3 まですべてを「耐 と言えます。いずれの区分でも、飼養管理で弱点を 久性成分」 「肢蹄」 「乳房」といったような、体型面ば 補うようにしてください、例えば、 「肢蹄」を第 1 改 かりをあげてしまうと、エリートだったはずのAA区分 良希望点にあげていれば、C区分の牛たちは、肢蹄 の牛が、乳量は全然搾れない、乳質は悪いといったこ が弱点であるわけですから、削蹄をしっかり行うなど とになることもあります。また、 「乳脂率」 「肢蹄」 「決 です。 定得点」と改良希望点を挙げれば、今度は乳量が極端 ④D区分 に低くて、乳脂率が異常に高いといったような牛がAA 酪 農家Aさんの改良希望とは大きく外れた牛たちに 区分になってしまうこともあります。後述しますが、 なります。しかし、前述の例とは逆に牛群内で大活 BOSSシステムでの遺伝的改良の方向性はAA区分に集 躍していることもあり、改良希望と外れたからといっ 中するように進みます。その改良の中心目標であるAA て淘汰の必要はありません。 区分がボロボロでは改良も何もありません。繰り返しに ⑤他区分 なりますが、ご自分のお気に入りの理想に近い牛がAA 前 述のとおり、体型審査を十分に受けていない農家 区分となるか、必ず牛群改良情報の遺伝評価値で確認 の場合、この区分に牛が集中してしまいます。あまり してください。もし、不本意な牛たちがAA区分となっ に多くの頭数が集中する場合は、データが無い状態 ている場合は、お手伝いしている当団種雄牛センター での改良は十分でなく活用も難しいものです。重視 スタッフに何度でもやり直しさせてください。改良希望 するのであればやはり体型審査を受けることをお奨め に「産乳成分」をひとつ入れておくと、こういったこと します。 も発生しづらくなります。 なお、牛群改良情報は、繁殖台帳Webシステムを用 いれば、スマートフォンやタブレットでも閲覧すること ができます。 3 遺伝的改良の方向性と斉一性 さて、前述までの能力区分により、それぞれ遺伝的 改良を進めるのがBOSSシステムです。その考え方を図 (4)各能力区分での飼養管理 3 に記しました。 ①AA区分 エ リート集団ですから性選別精液の利用はもちろん、 過排卵による採卵(ドナー)も検討する必要がありま (1)各能力区分での種雄牛の選定 第 1 、第 2 改良希望点について以下のように考えま す。また、少なくともAA区分の牛の繁殖成績は良好 すが、第 3 改良希望点も同様です。 に保ち、分娩間隔の短縮により、多くの後継子牛を AA区分 取るようにします。ここで注意すべき点は、AA区分 エリート牛群です。良いところをより良くなるように となったからといって実際にその遺伝的能力を発現し 種雄牛を選定します。 ているとは限らないことです。例えば、第 1 改良希望 A区分 に乳量をあげたとしても、実際にはあまり搾れない 中堅、中核です。第 1 改良希望点を重視して種雄牛 6,000kgクラスの牛だったりすることがあります。こ を選定します。 れは、子牛時代を含めて、疾病や不適切な飼養管理 B区分 が原因となっていることが多いものです。遺伝的改良 第 1 希望はクリアしているので、そこは下げずに、弱 を行うときには良くある現象ですが、あくまでも遺伝 点である第 2 改良希望点を補うように種雄牛を選定し 的能力を中心に改良を行うようにします。 ます。 ②A区分 C区分 酪 農家Aの改良希望において安定した遺伝評価をも 第 2 希望はクリアしているので、そこは下げずに、弱 つ優秀な牛たちです。AA区分に準拠して、後継牛を 点である第 1 改良希望点を補うように種雄牛を選定し 生産出来るように繁殖を良好に保ってください。 ます。 11 − LIAJ News No.152 − D区分 で適切な判定ができないか?という質問を受けることが 2 つの改良希望をともにクリアしていません。酪農家 あります。結論から言いますと、まだその対応は取れて Aさんがより強く希望している第一改良希望点が先ず いません。常識的に考えれば、D区分の牛がその対象 大きく改良できるような種雄牛を選定します。 ではないか?と思われる方も多いかと思います。しか 他区分 し、前述したとおり※印の体型面を重視した改良希望 これまで記したとおり、※印がついた体型関連の形 点を設定しすぎると、高泌乳能力のものがAA区分とな 質については、体型審査を受けなければ遺伝能力が計 らずにD区分になることもあることなどから、一概にお 算されません。こういった牛は、表記上は「他」となり 奨めはできません。 ますが、システム上は「A区分」として、種雄牛が選 定されます。 図 3 に示したとおり改良の方向性はAA区分に向かっ て集中するように改良しますので、将来は斉一性のある 牛群を期待出来ます。 今後、F 1 生産等についてもシステム的判断が出来 るように改善していきたいと思います。 4 さいごに さて、以上のような考え方に基づいて種雄牛を自動 的に選定し、遺伝的改良を進めるのがBOSSシステムで 図3 す。 しかしながら、遺伝的改良は次世代の娘牛が活躍す るまで 3 ~ 4 年を要する息の長いものです。農家のみ なさんがあげた改良希望点とは、多くの場合は、その 牛群の弱点をあげていることが多いものです。例えば、 改良希望に「肢蹄」をあげるのであれば、BOSSシステ ムの成果がでる 3 ~ 4 年間何もしないのではなく、こ の間に削蹄管理をしっかり行うとか、濃厚飼料の与え方 を工夫するとか、牛群検定成績表を活用して飼養管理 の改善に取り組んでください。そうすれば、図 4 のよう に、 3 ~ 4 年後の成果は、何倍もの大きな成果を得る ことができます。牛群検定成績の活用についても、どう ぞ当団種雄牛センタースタッフにお尋ねください。 図4 (2)BOSS①とBOSS② 前述の選定方針にのっとり、図 2 のように 1 頭の雌 牛に 2 頭の種雄牛がそれぞれBOSS①とBOSS②として 選定され表記されます。これら 2 頭は、BOSS①の方が BOSS②よりどちらかというと高能力となります。ま た、特別な申し出が無い限り、近交係数が6.25以上の種 雄牛は選定しません。 (3)F1生産(和牛交雑種)と和牛受精卵など さて、現在、肉用肥育素牛の価格が高騰しているの で、F 1 生産や和牛受精卵についても、BOSSシステム 12