...

阪神・淡路大震災における都市被害の実態

by user

on
Category: Documents
24

views

Report

Comments

Transcript

阪神・淡路大震災における都市被害の実態
開~.~蓮司
阪神・淡路大震災における都市被害の実態
内川啓川
The Actual View of Urban Damage
F0 r
Hanshin-Awaj i Earthquake
1.
(ま じ l
S
I
:
:
>(こ
しかし,個 々の建造物の被害は,種々検討されて いる
が,近代都市中心部が被災し,一瞬にして,その機能を
本年(平成 7年) 1月 17日 (火)午前 5時 46分に
失ったにもかかわらず,その被害状況を面的にとらえた
淡路島沖の大阪湾を震源として発生した兵庫県南部地震
報告は数少ない。
は,近代化された都市に発生した直下型地震として未曾
そこで,本報告では,神戸市の行政・商業・文化の中
有の被害をもたらし,その人的被害,建造物被害いずれ
心である「三宮」付近の建造物の被害状況を面的に 調 査
も甚大なものであり,よって,気象庁は観測史上初めて
した結果について述べるものであ る
。
震 度 7を認定し. I
阪神・淡路大震災」と呼称を受ける
2 . 民反 字申 ・ 3
炎 E各 メミ震昆虫乏
にいたった 。現在まで,既に 1年近くが経過し,種々の
専門分野の方々による調査報告が公表さ れている 。
忌まわしい記憶ではあるが,
まずはじめに, 今回の震災の全般
的状況を振り 返っ てみる 。
・震 源 北 緯
34度 36分
東経
135度 o3分
7. 2
・マグ、
ニチュ ー ド
・最大震度
7
Fig.1
.
は
, 震 度 7の 分 布 と 交通
網の被害状況をしめしたものであ
る
。 いわ ゆる,阪神聞に非常に広
い範 囲 が 震 度 7にさらされ ,道 路
鉄道などの交通網は,建設時期の
新旧を問わず至る所で寸断され,
初期復旧及び支援に大きな障害と
な ったことは 記憶に新しい。
.1.
震度 7の分布と被害状況(朝日 新 聞より 転載 )
F
ig
本
さらに ,建 造 物 被 害 は ,焼 失 を
安治川鉄工建設(株) 技 術 研 究 所 長 工 学 博 士 (
E
n
g
i
n
e
r
i
n
gResarchl
a
b
o
r
a
t
o
r
y
.
A
GAJIKAWAc
o
r
p
.
.4
-1
1
8
8
1
TakeshimaN
i
s
h
i
y
o
d
o
k
a
w
a
k
u OSAKAJ
A
P
A
N
.D
r
.E
n
g
.
)
-77-
F
i
g
.
2
.神戸
三宮付近の被害状況
勺,
。
。
大動脈もこの地域を通過している。
F
i
g
.2
に示す,被害の状況を説明する。個々の建
造物の被害は,マスコミの報道等で取り上げられた
ものもあるが,先にも述べたように,この狭い地域
が大きな被害を受けた状況は,まず,
飲食庖街の雑居ピル群
]R線北側の
(
F
i
g
.2
中左上段部〕は,倒
壊・圧壊が全域にわたって起こっており,地域は,
ほほ壊滅的であり,現時点(平成 7年 10月末)に
おいても未撤去ビルが見受けられる。]R線南側に
目を移すと,
1
0階建て前後のビルの 4 ・5階部分で
生じた中層階破壊が多く生じており,貿易センター
ビル・神戸新市庁舎ビルなどの鉄骨造超高層ビルや
最近建築された新耐震基準適合設計のピルを除けば,
この地区の主要なピルは,ほほ全面的に被害を受け
たといっても過言ではない。 100%の調査ではな
いが,写真に示した以外の主要な被災ピルは,図中
にO印で示した。
F
i
g
.
3
.被災以前の三宮中心街
F
i
g
.
2からもわかるように建造物
の被害は,その大小を 問わず,地域全域にわたって
おり,この地域だけとってみても災害史 上類を見ない被
1
5
9,5
4
4棟,死亡者数 5
,5
0
0余名,
含めた全半壊家屋
害であったことがわかる。
F
i
g
.4
は
, F
i
g
.
2の中の N
o
.1
0のピックアップであるが,
被害総額は 10兆円とも,さらにそれ以上ともいわれ
地震被害としては,人類史上最高に上るといわれた。
NTT港別館屋上に設置されていた通信用の鉄塔が脚部の
座屈により傾斜したものである。
3 . 者区干布教支主害 0:>三E 兎長
も破壊する地震のエネルギ
トラス構造の骨組みを
の大きさには計り知れない
恐怖を感じる。
F
i
g
.2
は,神戸市の中心地である三宮付近の建造物
被害状況をまとめたものである。
三宮は,
]R神戸線(東海道本線)をはさんで,北
側に雑居ビルの建ちならぶ飲食点街(し、わゆる飲屋街)
と南側の三宮センタ
ケ
街と呼ばれるショッピングアー
ドを中心とした商業街区とさらにその南に連なる
神戸市庁舎をはじめとする行政,ビジネス街区によっ
て構成されている。その面積は,南北約1.5km,東西
程度の比較的狭い地域である。交通関係では,
約 2km
この地域の中に,
]R在来線,阪急電鉄,阪神電鉄の
3路線が集中して乗り入れている他,
]R新幹線もそ
の北縁の山中を新神戸駅のみを地上に出して通過して
いる。また,神戸市営地下鉄も乗り入れている。さら
に,道路は,国道 2号線,阪神高速道路神戸線がその
南縁に位置し,その南は,神戸港新港埠頭となってい
る
。
F
i
g
.3
は,少し古いが,昭和 57年頃の三宮中心部
プロフィ
ルであり,政令指定都市ではあるが,少し
大きめの地方都市のたたず、まいであり,震災直前でも
この趣は変わっていなかった。
一方,見方を変えると,このせまい地域に,まさに,
ス ーパ ーマ ーケットのごとく近代都市の構成要素が集
F
i
g
.
4
.被災した通信用鉄塔
積されており,さらに,物資および旅客の東西輸送の
79一
三宮以外の震度 7の地域では,一般住宅・集合住宅等
も同様の状況の被害を被っており,人口の集 中した都市
飲食庖街の被災が,都市の活性化に与える影響はかな り
大きいと考えられる。
での災害の悲惨 さは筆舌に尽くしがたい。今回の地震は,
阪神 ・淡路大震災の被災地域は,西は淡路島西岸から
早朝に発生したことから人的被害は,三宮のような都市
中心部よりも周辺住宅地を中心と して生じたが,もし,
東は大阪府の一部,北は宝塚,川西までの広 い地域であ
発生時刻が昼間の都心部の活動時間帯であったならば,
る。上記以外にも都市被災の影響は,個人, 企業,行政
,
被害分布が違ったものにな ったであろうことは容易に想
政治等々の各レベルに おいて多々あるとは考えられるが
像され, この点,今後の都市防災の大きな教訓を示唆し
本報告では ,神戸市の都心のみに的を絞って検証を試み
ていると想起される 。
た。
さて,阪神 ・淡路大震災のような都市直下型の大地震
4 _ eJョオコり t
こ
が発生し ,種々の都市機能が集積された 中心部が壊滅的
被害を 受けるといかなる事態が生じたかを思い返 してみ
阪神 ・淡路大震災の爪痕未だ消えやら ぬ現在,都市直
る。
下型地震の天災と一言で言う には あまりに悲惨な実態を
(1)交通網の分断
神戸は,地形上の制約もあり山と海に挟まれた狭い地
記憶に とどめるべ くこの 調査報告をまとめた 。
域に交通網が集中している。この結果,すべての交通網
専門家の言によれは,日本国中でこのような地震が発
は三宮およびその周辺で分断され,さらに ,迂回交通ラ
生する 可能性があると いう, 著者は ,地震,都市防災
,
イン の整備もなかったため,東西交通に大きな支障が生
建築のいずれの 分野の専門でも ないが,永年,神戸市に
じた 。その復 旧には,鉄道では,
JR線で約 2
.5ヶ月,
起居し今回の災害の悲惨さを身 を持って 体験した こと に
私鉄線では ,約 5ヶ月を要した。阪神高速道路は未だ復
より,各専門家の方々も指摘されていることではあるが
旧工事中である。
都市防災 に対して門外漢として以下の点を列記 して,本
(2)経済活動の停滞
報告の まとめとしたい 。
(1)都市機能の分散化
都心部の事務所ビルが被災し,使用不能と なったこと
により,活動拠点を移転す る企業が多く,さ らに, 工場
が被災した企業ではは,完全に 神戸での生産活動を停止
(2)人口密集地での迂回交通網の整備
し,生産拠点を変更す るにいたったものもある 。 これは
(3)中層階破壊への技術的対応
都市活性化の基盤である経済活動を停滞させる大きな要
因となる 。
(4)老朽木造建築の保守への行政援助
(3)商業活動の停滞
経済活動の停滞にも関連するが商業庖舗の被災により
商業 ・流通の活動が甚大な被害を受けた 。近畿一円のフ
ァッションの中心といわれた三宮で、は庖舗被害やピル倒
最後に ,
壊により未だに活動を再開できてい ない庖舗 ・会社も多
阪神 ・淡路大震災により被災されました皆様に
々ある。都市 中心部は,商業活動により多 くの人を集め
心からお見舞い申し上げますとともに,
ることにより成長するものであることか ら考えると ,こ
一日も早い復旧・復興をお祈り申し上げます 。
れはかなり長期間にわたって影響があ るものと考えられ
る。さらに ,西日本有数の歓楽街であった] R線北側の
-80一
Fly UP