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日系ブラジル人の誕生パーティーにみるトランスナショナリズム

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日系ブラジル人の誕生パーティーにみるトランスナショナリズム
トランスナショナリズムの批判的再検討――グローバリズムに抗う「越境」を想像/創造する
(研究活動委員会企画テーマセッション1)
日系ブラジル人の誕生パーティーにみるトランスナショナリズム
慶應義塾大学大学院社会学研究科 山本直子
1.目的
多様化した社会では、しばしば、
「われわれ」と「かれら」という二項対立的な構図ができあがり、こ
うした二元性の関係は、マイノリティに対して従属的な地位を強要する。しかしながら、他者であるとさ
れる「かれら」=外国につながる住民の内部に目をやれば、彼らの中には、幼少期に親に連れられて日本
にやってきたためにほとんど母国を知らない人々や、日本生まれ日本育ちである人々も存在しており、こ
うした人々の自己のアイデンティティと、マジョリティによる分類のされ方に乖離が生じている場合や、
場面によってアイデンティティが変化する場合も少なくはない。本報告では、このような移民 1.5 世や、
2世以降のアイデンティティを、出身国コミュニティとの関わりの中から考察する。出身国コミュニティ
は、地理的、文化的、政治的、経済的な境界を越えて形成されるトランスナショナルなコミュニティとし
て捉えることができる。そのようなトランスナショナルなコミュニティは、日本というホスト社会の中で、
移民 1.5 世や2世以降にとってどのような意味合いを持つものとなっているのだろうか。
2.方法
本報告では、外国人集住都市の公営団地において度々開催される日系ブラジル人の誕生パーティーを事
例として考察を行う。ブラジルでは近年、子どもの誕生日を、数十万円という莫大な金額をかけて盛大に
祝う習慣がある。こうした本国ブラジル社会の文化は国境を越えて浸透し、日本に暮らす日系ブラジル人
コミュニティでも盛大な誕生パーティーが行われるようになってきている。イベントにかかる費用は、家
計の大きな負担となるような場合も少なくないにもかかわらず、日系ブラジル人コミュニティでは、この
ようなパーティーが週末ごとに繰り返し開催される。本研究では、東海地域の外国人集住団地において、
誕生パーティーへの参与観察および聞き取り調査を行い、特に移民 1.5 世や2世以降の若い世代の日系ブ
ラジル人住民にとって、そのようなイベントがどのような意味を持つものとして受容されているのかを、
彼らの帰属意識やアイデンティティの揺れに着目し、質的調査に基づいて分析を行う。
3.結果・結論
公営団地という狭いコミュニティの中で、誕生パーティーのようなイベントに積極的に参加する層と、
意識的にコミュニティから距離を保とうとする層に大きく二分され、さらに、積極的に参加する層の中で
も、こうしたコミュニティのイベントを、コミュニティ内で完結するビジネスのために利用する人々と、
コミュニティの外のホスト社会へのビジネス拡大の契機として利用する人々が存在する。
トランスナショナルなコミュニティにおいて繰り広げられるイベントは、若い世代の日系ブラジル人に
とっても、文化的なよりどころであり、母語教育や情報交換の場であるといったように、母国との紐帯を
確認し、維持する場として機能する側面もある一方で、若い世代の移民がルーツを共にする者同士のコミ
ュニティに求めるものは、必ずしもそうした象徴的な役割のみではない。若い世代の移民が持つアイデン
ティティの重層性や柔軟性は、
「多文化共生」を考えるうえでの鍵となる。
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