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Bestopia
ト
ピ
ア
Bestopia
< 2016 年 1 月 >
古賀 順子
音楽の力
シャルリー・エブド社襲撃テロ事件から一年が経ち
ます。
昨年 1 月 11 日(日) 、フランス全土で自然発生的に
平和行進デモが行なわれました。パリのレピュブリッ
ク広場、バステイーユ広場、ナッシヨン広場も、動け
ないほどの無数の人々で埋め尽くされました。レピュ
ブリック広場に向かう人で満杯になったメトロに乗れ
ず、ノートルダム寺院付近で諦める多くの参列者に出
会いました。一年後の 1 月 10 日(日)、人数は減りまし
たが、同じようにレピュブリック広場には多くの人々
が集まっていました。
11 月のテロと合わせた 147 名の
犠牲者の魂に、お花や灯火を手向ける姿は今も絶えま
せん。
レピュブリック広場には、
フランス共和制の精神
「自
由・平等・博愛」を象徴する「マリアンヌ像」があり
ます。右手に平和の象徴である「オリーブの小枝」を
掲げ、左手には「人の権利 (Droits de l'Homme)」と
記された石板を持っています。頭にはフランス革命の
象徴でもあるフリジアン帽と植物の冠を被っています。
高さ 9.5m のブロンズ像は、1883 年、レオポルド・
モーリス(1846-1919) の作品で、石の台座(高さ 15.5m、
直径 13m) は、彫刻家の弟で建築家フランソワ=シャ
ルル・モーリス(1848-1908)作です。その「マリアンヌ
像」を、ペンやデッサンなど、自由を訴える品々が一
周しています。
機関銃を持った軍隊が、空港や駅、ユダヤ系の学校
や教会、イスラム教モスク、劇場や公共施設をパトロ
ールし、警備員や警察官の姿が日常になりました。上
映途中の映画館で、いきなり人が席を立ち退室したた
め、
「爆弾か」と一瞬緊張した空気になるなど、否が応
でもテロへの警戒意識が擦り込まれた日常生活を送っ
ています。
1 月 5 日、パリ・ガルニエ・オペラ座で初日を迎え
「 パリ通信 49号 」
http://jkoga.com/
平 成 二 十八 年 一 月
ス
第四十九号
ベ
たバレエ「バツシェヴァ・ダンス・カンパニー」は、
一際厳戒な警備体制で行なわれました。テル・アヴィ
ヴに本拠地を持つイスラエルの現代バレエ団で、1990
年からは、マルタ・グラハムの後を継いだオハッド・
ナハラン(アメリカ国籍を取得したイスラエル人監督)
が率いています。母性を強調したマルタ・グラハムの
動きに加え、中東の舞踊を取り入れ、身体を解放し、
ダンサーの自由な動きを表現するための「ガガ」とい
う新たなバレエ・テクニックを展開し、動と静、加速
していく回転が特徴的な『Three』(2005 年作)と題し
た挑発的なバレエをパリで初演しました。イスラエル
のバレエ団ですから無理もありませんが、入場チェッ
クに時間がかかり、30 分遅れのスタート。オペラ座前
の広場では、パレスチナの国旗を掲げた一団が抗議演
説、劇場周囲は警官隊が閉鎖、厳しい身体チェックで
入場。
にもかかわらず、
シャガールの天井画の下には、
誰がどうやって持って入ったのか、パレスチナ国旗が
拡げられ、
「国旗を外せ!」と叫ぶ観客の声で緊張が流
れる一幕もありました。
フランスは、イスラム国への空爆を続け、テロの脅
威には終わりが見えません。世界各地で様々な争いが
起こっている現実を受け止め、暗い気持ちを癒してく
れるのは音楽ではないかと思います。ロシア革命、第
一次世界大戦、第二次世界大戦、ユダヤ人迫害と、20
世紀の悲惨な社会を生き抜いて、当時 77 歳のシャガ
ール(1887-1985)が描いたのがパリ・オペラ座の天井画
です。シャガールの絵には、いつも音楽があります。
生まれ故郷ヴィテブスクで朝を告げる雄鶏の声、バイ
オリンや笛、
音楽はシャガールが生涯描くテーマです。
音楽ほど、人の心の一番深いところに到達する芸術は
ないように思います。不安や懐疑心を消し去り、疲れ
た心を癒して、元気を取り戻すことが出来ます。シャ
ガールの天井画の赤や黄色、青を見上げるだけで、心
を満たしてくれる音楽が聞こえてくるような気持ちに
なります。
不安な要因は相変わらずありますが、平穏で安心し
て生活できる社会になることを願います。
―― 平成 28 年 1 月 パリ通信 49 号 ――
パリ・オペラ座の天井画
―― 平成 28 年 1 月 パリ通信 49 号 ――
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