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佛教大学大学院紀要
第34号(2006年3月)
コス モ ポ リ タ ニ ズ ム 論 の 射 程 と限 界
山
〔抄
本
奈
生
録〕
近 年 論 じ られ る、 コス モ ポ リ タ ニ ズ ム 論 、 特 に 『
文 化 帝 国 主 義 』 で知 られ るJ・ ト
ム リ ン ソ ンの議 論 を コス モ ポ リ タニ ズ ム とい う概 念 そ の もの の 有効 性 を 問 い直 す 形 で 、
批 判 的 に検 討 す る。 批 判 は、 コ ス モ ポ リ タニ ズ ム が 政 治 的 、 経 済 的 な異 な る領 域 に対
して メ タ ・コー ドと し て影 響 力 を与 え て い くよ う な働 きを期 待 す る こ とは果 た して可
能 な の か とい う問 題 と、 トム リ ンソ ンが 立 脚 す る よ うな 文化 的 多 元 主 義 とカ ン トの い
う 「普 遍 的 な好 遇 」 は両 立 しえ る の か とい う二 点 の 問題 を め ぐって な さ れ る。 前 者 の
論 点 に 関 して は 主 にル ー マ ン の シ ス テ ム 理 論 を、 後 者 の 問題 に はR・
シ ェ レー ル とデ
リ ダの 「歓 待 」 概 念 を用 い る こ とで建 設 的 な批 判 を 目指 して い く。
キ ー ワー ド
コ ス モ ポ リ タ ニ ズ ム 、 トム リ ン ソ ン、 文 化 的 多 元 主 義 、 歓 待 性
は じめ に
グ ロ ーバ ル化 の 進 展 す る今 日の世 界 に お い て 、 い わ ゆ る コ ス モ ポ リ タニ ズ ム 論 が 多 く語 られ
て い る。 コス モ ポ リ タ ニズ ム とは文 字 通 り、 自己 を世 界 市 民 だ と認 識 す る こ とで あ り、 ま た世
界 市 民 的 な 文化 、 道 徳 に対 す る期 待 で もあ る。 バ ウマ ン が い う よ うに 、 貧 困 、 環 境 問 題 、 政 治
的 抗 争 は もは や 国 民 国 家 の枠 組 み で は 回 収 不 能 な領 域 に ま で拡 大 、 分 断 され て お り、 そ の よ う
な 「流 動 化 」 した 問 題 群 の解 決 を グ ロ ー バ ル な規 模 で の 政 治 制 度 や 文 化 的 態 度 に求 め る の は 、
あ る種 当然 の よ う に も思 え る。 コ ス モ ポ リ タニ ズ ム は したが っ て 、 あ る 問 題 が グ ロー バ ル な次
元 に属 す る の で あ れ ば、 そ れ に対 す る解 決 策 も グ ロ ーバ ル な規 模 で行 わ れ な くて は な ら ない と
い う態 度 の こ とで あ る とい え よ う。
コス モ ポ リタ ニズ ム論 はお お む ね 、J・ チ ャ ール ス が い う よ う に、 制 度 的 な もの と道 徳 的 な も
の にわ け る こ とが で きる(1)。「制 度 的 コス モ ポ リタ ニズ ム」 は 国際 的 な協 定 や機 関 の実 効 的 な定
立 を 目指 す もの であ り、 「
道 徳 的 コス モ ポ リ タ ニ ズ ム」 は、 カ ン トが い う 「普 遍 的 な好 遇 」 の概
念 を発 展 させ た よ う な世 界 市 民 的道 徳 、 文 化 の 可 能 性 を求 め る もの で あ る 。 無 論 この 区 分 け は
理 念 型 と して の もの で あ り、 ほ とん どの コス モ ポ リ タ ニ ズ ム論 は 、 カ ン トの そ れ が そ うで あ っ
た よ うに 両 者 の混 在 で あ る 。 例 え ば、D・ ヘ ル ドは コ ス モ ポ リ タニ ズ ム を 「普 遍 的 に 共 有 され
155一
コスモポ リタニズム論の射程 と限界(山
本
奈生)
う る ル ー ル と原 理 を 特 定 す る た め の 道 徳 的準 拠 点 」(2>として お り、 これ は そ の 定 義 か ら して チ
ャー ルス の 区分 か らす る と中 間 的 な もの で あ る。D・ ヘ ル ドは 、 この 定 義 を出 発 点 と して 、 「コ
スモ ポ リ タ ン型 多 国 間主 義 」 とい う国 際 制 度 の 樹 立 を 目標 点 と して い るが 、 しか し、 近 年 論 じ
られ る コス モ ポ リ タ ニ ズ ム論 の多 くは 、 そ の よ うな 「制 度 的 コス モ ポ リ タニ ズ ム」 を 時 期 尚早
だ と して 、 退 け てい る よ う に思 え る。
本 稿 で詳 し く論 ず るJ・ トム リン ソ ンの 「コス モ ポ リ タ ン的気 質 」 を は じめ、K・ タ ンの 「国
境 な き正 義 」、U・ ベ ッ クの 「リス ク に よ る連 帯 」、J・ ア ー リ の 「審 美 的 コス モ ポ リ タニ ズ ム 」
は いず れ も 「道 徳 的 コス モ ポ リ タ ニ ズ ム」 を志 向 した もの で あ り、 こ こで はWHOやIMFな
どの
国際 機 関 は いず れ もグ ロー バ ル な問 題 を助 長 こそ す れ 、解 決 す る もの だ とは み な さ れ て い な い 。
そ の よ うな 国 際 機 関 は確 か に グ ロ ー バ ル な規 模 で存 在 して は い るが 、 そ れ らの実 行 主 体 は厳 と
して 国民 国 家 に足 が か りを持 っ て お り、 そ れ ゆ え多 国 聞 の利 害 関係 が 不 可 避 的 に介 在 す る こ と
に な る。 これ らの論 者 に と って 「グ ロー バ ル な プ ロセ ス は 、 統 一体 と して の グ ロ ーバ ル な 文化 、
制 度 を生 み 出 す よ う に は見 え な い」(3)ので あ る。 したが っ て、 「道 徳 的 コ ス モ ポ リタ ニ ズ ム」 論
者 は実 体 的 な制 度 や 機 関 で は な く、 よ りソ フ トな文 化 、 道 徳 、 市 民 運 動 的 な連 帯 を志 向 す る こ
と とな る。
本 稿 で は この 「道 徳 的 コ ス モ ポ リ タニ ズ ム」 に焦 点 を 当 て て 論 じて い くが 、 こ こ で指 摘 して
お きた い の は、 道 徳 的 な コ ス モ ポ リ タニ ズ ム論 の ほ とん どが 、 そ の 普 遍 主 義 的 な コ ス モ ポ リ タ
ン とい う字 義 と は裏 腹 に多 元 主 義 的 な 立 場 を採 用 して お り、 普 遍 的 な統 一 体 と して の 文 化 概 念
は棄 却 され て い る とい うこ とで あ る 。 こ こで い わ れ る コス モ ポ リ タ ニ ズ ム は かつ て プ ラ トンが
論 じた理 想 都 市 、 カ リポ リス の 拡 大 で は な く、 多 くの 文化 的 な立 場 を措 定 した上 で 、 そ れ らを
繋 ぎ合 わ せ る ネ ッ トワ ー ク の よ うな もの と して考 え られ て い る。 したが っ て そ の よ うな コ ス モ
ポ リ タニ ズ ム論 は原 則 と して 文化 的 多 元 主 義 に立 脚 した 上 で 、 グ ロ ーバ ル な 問題 に対 す る緩 衝
材 と して の 文 化 的、 道徳 的 共 約性 を獲 得 しよ う とす る、 一 見 、 相 反 す る議 論 を す り合 わ せ た も
の に な っ て い る とい え よ う。
これ らの コ ス モ ポ リ タニ ズ ム 論 は、 ど の程 度 の 文化 的 共 約 性 を 目指 す の か とい う点 で 違 い は
あ る が 、 しか し、 グ ロ ー バ ル な 問 題 に対 して コス モ ポ リ タニ ズ ムが プ ラ ス の 方 向 へ作 用 す る で
あ ろ う とい う点 に 関 して は 共 通 して い る。 そ の た め 、 どの よ う な コ ス モ ポ リ タニ ズ ム が 現 在 可
能 で あ るの か 、 最 も望 ま しい コス モ ポ リタ ニ ズ ム は どの よ う な形 態 で あ る の か が これ ら の議 論
の 中 心 と な っ て い る が 、本 稿 が 問 題 に した い の は 、 そ うい っ た論 点 で は な い 。 フ ェザ ー ス トン
が い う よ う に 「コモ ン ・カ ル チ ャー は実 際 に存 在 す るの か と い う 問 い と、 コモ ン ・カル チ ャ ー
は存 在 す べ きな の か とい う二 つ の 問 い を混 同 す るの は危 険 で あ り、 あ ま り意 識 され て い な い も
の の 、 わ れ わ れ は こ の二 つ を 峻 別 す る 必 要 が あ る。」(4)ので あ る 。 こ こで 問 題 にす るの は、 コス
モ ポ リ タニ ズ ム論 の前 提 条 件 そ の もの 、 す な わ ち 、 コス モ ポ リタ ニ ズ ム は グ ロ ー バ ル な危 機 に
対処 す る た め の有 効 な 手段 で あ る とい う問題 設 定 そ の もので あ る。
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佛教大学大学 院紀要
第34号(2006年3月)
次 節 か ら、 「道 徳 的 コ ス モ ポ リ タニ ズ ム」 論 の 中 で最 も精 緻 な議 論 を展 開 して い る 、J・ トム
リ ン ソ ン の 「コス モ ポ リ タ ン的 気 質 」 を 中心 に取 り上 げ 、 グ ロー バ ル な 問題 群 に対 処 す るた め
に コス モ ポ リタ ニ ズ ム は 本 当 に有 効 な方 法 で あ る の か、 あ る とす れ ば、 そ の有 効 な作 用 領 域 は
ど こ まで な の か を検 討 す る こ と と した い。
1.ト
ム リ ンソ ンの文 化 概 念 と コ ス モ ポ リタ ニズ ム
『文化 帝 国 主 義 』 で 知 られ るJ・ トム リ ンソ ンは コス モ ポ リタ ニ ズ ム を過 大 に評 価 しす ぎ る こ
との ない 、 バ ラ ンス の取 れ た議 論 を展 開 して い る。 「制 度 的 コス モ ポ リ タニ ズ ム」 か らは一 定 の
距 離 を と り、 ま た コス モ ポ リ タニ ズ ム を 「ロ ー カ ル」 な 文化 と対 置 す る よ うな 普遍 的 な 総 体 と
し て捉 え る の で は な い 、 一 種 の 生 活 態 度 と し て の 「コス モ ポ リ タ ン 的気 質(cosmopolitan
disposition)」 を彼 は提 起 す るの で あ るが 、 こ の概 念 の検 討 に入 る前 に、 まず は彼 の コス モ ポ リ
タニ ズ ム 論 の 前提 を成 して い る文 化 概 念 を整 理 して お きた い 。
トム リ ン ソ ンは 文化 を主 に二 方 向か ら定 義 づ けて い る。 まず 第 一 に、 「文 化 は、 象 徴 的 な 実 践
を とお して 、 人 間が 意 味 を構 築 し、 生 活 を秩 序 立 て て い くよ う な もの と して理 解 で きる。」(5)と
して 主 体 の構 築 との 関係 で 文化 を捉 え、 第 二 に、 レイモ ン ド ・ウ ィ リ ア ム ズ の 「平 凡 な もの と
して の 文化 」 を念 頭 に お い た上 で、 「文化 は特 権 階級 の独 占 的 な所 有 物 で は な く、 日常 的 な 実 践
の 全 て を含 む もの で あ る」 と し、 実 践 的 な活 動 様 式 、 例 え ば 会 話 の形 式 や 食 事 の作 法 の よ う な
もの と結 び つ け て捉 え て い る。
第 一 の 点 で補 足 して お きた い の は、 こ こで い わ れ る秩 序 立 て られ た生 活 とは動 的 な もの で あ
り、 常 にそ の文 化 を構 築 す る 主体 は入 れ 替 わ っ て い る、 もっ と厳 密 に い う な ら文 化 は主 体 そ れ
ぞ れ の 内 部 に立 脚 点 を持 ち 、 外 的 な構 成 物 と して存 在 して い るの で は な い とい う こ とで あ る。
文化 帝 国 主 義 に つ い て トム リ ンソ ンは 「『
我 らの生 き方 』 は決 して 『静 的』 な状 態 にあ る もの で
は な く、 つ ね に流 動 し変化 して い くもの だ。 とこ ろ が、 国 民 文 化 と 国家 的 ア イ デ ンテ ィテ ィの
政 治 的 な言 説 は、 こ の プ ロ セ ス を 『
凍 結 』 した もの と して 想 像 す る よ う我 々 に要 求 す る。」(6)と
述 べ る、 こ こ で言 わ れ る 文化 が 総 体 的 に、 生 活 を秩 序 付 け るた め の シ ス テ ム の よ うな もの と し
て 考 え られ て い る の で な い こ とは明 らか で あ ろ う。
第 二 の点 につ い て い う と、 これ は酒 井 直 樹 の い う 「
実 践 系 」 あ る い は 「共 通 の体 験 」 と して
の 文 化 観 とほ ぼ 同様 の 定 義 で あ る(7)。酒 井 が 文化 を 「
実 践 系 」 と して捉 え よ う と した の は 文 化
の 主 語 を 明確 に し よ う とい う発 想 か らで あ り、 これ まで 曖 昧 に文 化 の主 語 と して 設定 され て き
た 、 民 族 や 国 民 とい っ た カ テ ゴ リー と文 化 を一 旦 切 り離 して 、 「創 られ た伝 統 」 と して の 文 化 概
念 を批 判 し よ う とせ ん が た め で あ っ た。 す な わ ち、 こ こ にお け る文 化 は場 所 性 や 恣 意 的 な 集 団
の 属 性 か らは切 り離 され た もの と して 考 え られ て お り、 そ れ ゆ え文 化 の 原初 状 態 、 あ る い は 純
潔 性 は想 定 さ れ て い な い の で あ る。 したが っ て 、 トム リ ン ソ ン の い う文 化 帝 国 主義 とは 、 単 に
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コスモポ リタニズム論 の射程 と限界(山
本
奈生)
何 らか の 文 化 的 ア イ コ ン、 例 えば コ カ コ ー ラや ハ リ ウ ッ ドが 世 界 中 に 拡 散 す る こ とに よ っ て
「土 着 」 の 文 化 の 純 潔 性 が 脅 か され て し ま う とい っ た 議 論 で は な く、 な ん らか の 遠 隔 化 さ れ た権
力 が 、 他 者 の 実 践 的 な生 活 に対 して 間 接 的 な 強制 力 を発 揮 して い る よ う な事 態 の こ と と して考
え られ て い る 。
以 上 の よ う に、 トム リ ン ソ ン は文 化 を主 体 構 成 の 一 要 素 と して 捉 え る と同時 に、 生 活 様 式 な
どの 実 践 と結 びつ け て も把 握 して い る。 後 で指 摘 す る よ うに 、 この 文 化 の見 方 も全 く問 題 が な
い わ け で は ない が 、 この よ うな 文 化 概 念 の上 に 立 っ て 、 トム リ ン ソ ン は現 在 の世 界 に お け る文
化 的 な 「自己 中心 性 」 と 「他 者 に対 す る道 徳 的 な 無 関 心 」 を問 題 とす る。 す な わ ち 、 グ ロ ーバ
ル な危 機 、 例 え ば環 境 問 題 や 貧 困 、 エ イ ズ な どの 諸 問 題 に対 す る と きの、NIMTOOシ
ン ドロ ー
ム(8)や 「地 域 エ ゴ」 の よ う な他 者 へ の無 関心 、 非 関 与 の 立 場 が 、 そ れ ら諸 問題 の解 決 を妨 げ て
い る とい うの で あ る 。 つ ま り、 各 々の 文 化 を構 成 す る 主 体 は 、 そ れ ぞ れ が 設 定 した境 界 内 の 問
題 にの み 目 を 向 け、 今 現 在 の 主 体 か ら は無 関係 な 領 野 の 問 題 に対 して 鈍 感 で あ る とい う こ とで
あ り、 この 問 題 を解 決 す るた め に トム リ ンソ ンは 「コス モ ポ リ タ ン的 気 質 」 の必 要性 を訴 え る
の で あ る 。 「コス モ ポ リタ ンに とって 、 まず 必 要 な の は よ り広 い世 界 に属 して い る とい う積 極 的
な意 識 で あ り、 『遠 隔 化 され た アイ デ ンテ ィテ ィ』 を もつ とい う こ とで あ る。 こ の ア イ デ ンテ ィ
テ ィ は近 接 的 な ロ ー カ リテ ィ に よ っ て完 全 に制 限 され て し ま う よ う な もの で は な く、我 々 を 人
間 全 体 と して統 一 させ る よ う な もの で あ り、 共 通 の リス クや 可 能 性 に対 す る相 互 の 責任 を持 つ
とい う こ とで あ る。」(9)この よ う に トム リ ン ソ ンは ア イ デ ンテ ィテ ィの拡 大 を中 心 と した コ ス モ
ポ リタニ ズ ム を提 案 す るの で あ るが 、 こ れ は 究極 的 に は 自己 と他 者 を 同化 させ 、 統 一体 と して
の 文 化 を構 築 す る と こ ろ まで 行 きう る もの で あ る 。 も ち ろ ん、 トム リ ンソ ンは そ の よ う な こ と
は考 えて い な い が 、 そ れ で は、 こ の ア イ デ ンテ ィテ ィ拡 大 の 範 囲 と強 度 は どの 程 度 の も の な の
だ ろ うか 。
トム リ ンソ ンは コス モ ポ リ タ ンの文 化 的気 質 は 原 則 と して 「多 元 主 義 」 で な けれ ば な らな い
と述 べ る。 す な わ ち 、 各 々 の文 化 の価 値 を 認 め 、 相 対 化 す る とい う作 業 が 必須 用 件 と して 設 定
され 、 そ の上 で 、他 の 文 化 を 「重 要 な他 者 」 と して 認 識 し、 グ ロ ーバ ル な危 機 を共 通 の危 機 と
して 認 識 す る よ うな 普 遍 主 義 的 認 識 が 必 要 に な るの だ と論 ず る。 つ ま り、彼 は多 くの文 化 を 統
一 させ る よ うな コス モ ポ リ タ ン文 化 の よ うな もの を志 向 して い る の で は な く、 多 くの 厂ロ ー カ
ル 」 な文 化 に カ ン トの い う 「普 遍 的 な好 遇 」 の よ う な共 通 項 を 内在 させ る よ う な、 柔 らか い 形
で の コス モ ポ リ タニ ズ ム を求 め て い る の で あ る。 そ れ ゆ え、 彼 は 自身 の コス モ ポ リ タ ニ ズ ム を
「コスモ ポ リタ ン的気 質 」 と名 づ け る ので あ るが 、 しか し、 単 に他 の 文化 を 「重 要 な 他者 」 と認
識 す る に と ど ま るだ け の コス モ ポ リ タニ ズ ム を彼 は よ し と しな い。
J・ ア ー リの 「審 美 的 コス モ ポ リ タニ ズ ム 」 は 「異 な る文 化 か ら生 じる異 な っ た 経験 に 対 す る
開 か れ た 、 知 的 で 審 美 的 な立 場 を意 味 し、 画 一 性 あ る い は卓 越 性 を切 望 す る よ り も、 む しろ 諸
社 会 観 の 対 比 を探 り出 し、 そ れ を楽 しむ 」(10)ような 嗜 好 と結 びつ い た コス モ ポ リ タ ニズ ム の 可
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能 性 を指 摘 し、 そ の よ う な コ ス モ ポ リ タニ ズ ム が観 光 旅 行 や テ レ ビメ デ ィア を通 じて 、 大 衆 文
化 の 中 か ら通俗 的 に生 まれ つ つ あ る の で は な い か とす る議 論 で あ っ た 。 トム リ ン ソ ンは ア ー リ
が 論 ず る コス モ ポ リ タニ ズ ム の 審 美 的側 面 は評 価 しつ つ も、 「文化 的 な地平 全 体 を記 号 学 的 な技
術 を磨 き、 解 釈 的 な感性 を発 達 させ 、 上 昇 させ た か ら と い っ て、 そ こか らグ ロー バ ル な責 任 感
が 生 まれ て くる とい う保 証 は全 くない 。」(11)と
物 足 りな さ を表 明 す る。 そ の よ うな、 嗜 好 と して
の コ ス モ ポ リ タニ ズ ム は テ レ ビ の視 聴 者 が持 つ役 割 の 範 囲 を 出 る もの で は な く、 サ ル トル の 区
シ リ ズ
別 に した が え ば サ ン ジ ェル マ ン広 場 でバ ス を待 つ 人 の 列 の よ うな 「集合 態 」 に 過 ぎ ない とい う
わ け で あ る。 した が っ て トム リ ンソ ンが 目標 と して い る の は、 も う少 し積極 的 な他 者 に対 す る責
任 性 を申心 と した 道徳 、 バ ウマ ンが述 べ た 厂ポ ス トモ ダ ン倫 理 」 に接 近 す る もの と なっ て くる。
こ の よ うに 、基 本 的 に は文 化 的多 元 主義 の 立場 に あ りな が ら、終 局 的 に は 、 他 者 性 に対 す る
受 容 と責 任 を全 て の 主体 に求 め る とい う共 有 価 値 を用 意 す る彼 の 議 論 は、 こ こで 二 重 性 を帯 び
て くる ので あ るが 、 そ の よ うな 共有 価 値 を巡 る議 論 の構 造 自体 は む しろ古 典 的 な も ので あ ろ う。
例 え ば ロー ルズ は 『正 義 論 』 の 中 で 「善」 と 「
正 義 」 を 区 別 し、行 為 の倫 理 的 判 断 を巡 る 「善 」
につ い て は相 対 主 義 的 判 断 を下 し、 そ の一 方 で 、何 が 社 会 的 な公 正 さな の か に つ い て 言 及 す る
「正 義 」 に つ い て は 、 全 て の社 会 成 員 の 「原 初 的 合 意 」 に よっ て そ れが 可 能 に な る と した(12)。
そ して 「正 義 」 を 「善」 に優 先 させ る こ とに よっ て 、 公 正 な政 治 が可 能 に な る とい う論 理 構 造
を取 っ て い る。 す な わ ち これ は、 共 通 善 に つ い て の 判 断(ど
の よ うな 職業 が 望 ま しい の か 、 と
い っ た)は 括 弧 に入 れ た 上 で 、 機 会 の平 等 な ど とい っ た公 正 さを志 向 す る よ うな リベ ラ リズ ム
の 立 場 で あ る。 ロー ル ズ の 議 論 は無 論 、 国民 国 家 を念 頭 に お い た もの で あ り、 トム リ ン ソ ンの
コス モ ポ リ タニ ズ ム 論 は、 こ の タ イ プ の議 論 を グ ロー バ ル な次 元 に まで 引 き上 げ 、 各 々 の ロ ー
カ ル な文 化 的価 値 に は手 を加 え る こ とな く、 そ れ ぞ れ が 合 意 で きる 、例 え ば 平和 へ の 志 向、 他
者 性 の 尊 重 な ど とい っ た 共 有価 値 の可 能性 を模 索 す る もの で あ っ た と解 釈 で き る。
確 か に、 ロー ル ズ が 取 る よ う な リベ ラ リズ ム の 立 場 は、 あ る程 度 安 定性 の あ る、 国 民 国家 の
よ う な シス テム に と って は そ の 効力 を期 待 す る こ とが で きる か も しれ な い。 しか も、 そ こで は、
主 に経 済 的 な再 分 配 の 方 法 を巡 る 政 治 的 な 領域 で の 合 意 の み が 問 題 と され て お り、 文 化 的、 道
徳 的領 域 に お け る合 意 は む しろ、 ロ ー ル ズ が 共 通 善 の 項 目 と して括 弧 に い れ た はず の も の で あ
っ た 。 した が っ て ロー ル ズ の い う議 論 の構 造 を グ ロー バ ル な 規模 で 、 しか も多 次 元 的 な領 域 に
対 して 適用 す る こ との 妥 当性 は 問 題 に され なけ れ ば な らな い だ ろ う。 また 文 化 を ア イ デ ンテ ィ
テ ィの 一構 成 要 素 だ とみ なす の で あ れ ば 、 トム リ ン ソ ンが い う よ うな 文化 の 領 域 を 中心 と した
コ ス モ ポ リ タニ ズ ムが 、 経 済 的 、 政 治 的 な権 力 抗 争 に対 して い か な る実 効 力 を発 揮 で きる か に
つ い て楽 観 的 な予 測 をす る こ とは困 難 で あ る 。
さ らに他 者 に対 す る責任 と して の、 トム リ ンソ ンの 言葉 を使 え ば 「
倫 理 的 なグ ロ ー カ リス ト」(13)
と して の コス モ ポ リ タ ニズ ム は他 者 に 対 す る無 条 件 の 受 容 と歓 待 性 の確 保 を 目指 す もの で あ る
と理 解 で き るが 、 果 た して、 そ の よ うな 無 条 件 の 受 容 と、 トム リ ン ソ ンが 立 脚 す る文 化 的多 元
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コスモ ポリタニズム論の射程 と限界(山
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奈生)
主 義 は両 立 す る の だ ろ うか 。 とい うの も文化 的 多 元 主 義 は 自己 と他 者 との 文 化 の 差 異 を設 定 す
る よ う に要 求 す る概 念 で あ る の に対 して 、 無 条 件 の 受 容 、 歓 待 は 自己 と他 者 との 区別 を そ もそ
も破 棄 す る よ う に求 め る概 念 だ か らで あ る。
こ こ で、 トム リ ン ソ ンの 「コス モ ポ リ タ ン的 気 質 」 に対 して 二 つ の 問 題 を設 定 し、 検 討 した
い。 まず 第 一 に 、 政 治 や 経 済 、 文 化 な ど多 くの 領 域 に お け る 問 題 を コス モ ポ リ タ ニ ズ ム とい う
文 化 的領 域 の 一 部 分 の 共 有 化 に よっ て解 決 し よ う とす る の は 、 果 た して どの 程 度 の有 効 性 を持
ち え る の か とい う問 題 で あ り。 第 二 に 、 文 化 的 多 元 主 義 に 立 脚 しつ つ 、 無 条 件 に他 者 を受 容 す
る とい う こ とは果 た して 可 能 なの か とい う問 題 で あ る 。
2.メ
タ ・コ ー ド と コ ス モ ポ リ タ ニ ズ ム
先 に 述べ た よ う に 「コ ス モ ポ リ タ ン的 気 質 」 とは文 化 的 多 元 主 義 に立 ちつ つ 、 そ の上 で 普 遍
的 な、 他 者 性 の尊 重 と受 容 、 す な わ ち、 「
他 の諸 文 化 と結 ば れ て い る とい う感 覚 と、 文 化 的 差 異
を 受 け 入 れ よ う とす る態 度 」(14)を共有 す る こ と に よ っ て 、 グ ロー バ ル な危 機 を 自己 と関 わ る危
機 と認 識 し、 行 動 す る こ と を 目指 した も ので あ っ た 。 つ ま り、 文 化 的 領 域 にお け る 具体 的 な倫
理 観 や 道 徳 観 に関 して は相 対 主 義 的 な態 度 を取 り、 よ り抽 象 度 の 高 い、 他 者 性 の 受 容 とい っ た
メ タ概 念 を設 定 す る こ とに よ って 相 対 主 義 を突 破 し よ う と した の で あ るが 、 しか し、 果 た して
文 化 的 領 域 の 一 部 を共 有 す る こ と に よ っ て、 政 治 的 、 経 済 的 な異 な る領 域 の グ ロー バ ル な危 機
に対処 し よ う とす る こ とは どの程 度 の実 効 性 を も ち う る も の な のだ ろ うか 。
また 、 こ の 問題 は 同 時 に トム リ ン ソ ンの文 化 概 念 に 対 す る問 題 を も提 起 す る 。 そ れ は トム リ
ン ソ ンが 文 化 を そ れ ぞ れ の 成 員 に所 与 の もの と して想 定 して い る の で は な い か とい う問 題 で あ
り、 言 い 方 を変 え れ ば、 ア イ デ ン テ ィ テ ィに お け る 文 化 の 場 所 を一 つ の箇 所 に 定 め て しま っ て
い るの で は な い か とい う問 題 で あ る。 確 か に トム リ ン ソ ンが 繰 り返 し言 う よ う に、 文 化 と地 理
的 な場 所 との結 びつ きや 、 文 化 の純 粋 性 とい っ た 考 え は、 彼 の コス モ ポ リ タニ ズ ム論 で慎 重 に
回避 さ れ て お り、 この 点 で い え ば、 彼 は 『文 明 の衝 突 』 に お け るハ ンチ ン トンの よ う に単 純 で
は ない 。 しか し、 トム リ ン ソ ンの文 化 概 念 は 、 主 に 文 化 と場 所 との結 び つ きの 自明 性 や 「前 近
代 的 な ロ ー カ リズ ム の神 話 」 を批 判 す る よ うな 、 初 動 の ポ ス トコ ロニ ア リズ ム 的 立 場 に留 まっ
て しま っ て い る よ う に思 え る。 彼 の考 え る現 在 の 文 化 の状 態 は、 近接 性 の 変 容 と脱 領 土 化 に よ
っ て、 グ ロ ーバ ル化 以 前 で は、 あ る程 度 固 定化 され て い た、 文化 の 地 理 的 な意 味 で の座 標 軸 が
切 断 さ れ、 そ れ が 世 界 中 に散 らば っ て い る よ うな イ メ ー ジ で は な い だ ろ うか 。 そ して、 脱 領 土
化 さ れ た文 化 と同 じ よ う に、 ア イ デ ンテ ィテ ィ も また 脱 領 土 化 され 、多 種 多 様 な ア イ デ ンテ ィ
テ ィの軋 轢 が 、 「グ ロ ーバ ル な危 機 」 の解 消 を妨 げ る と と も に、 そ の 原 因 と もな っ て い る。 した
が っ て、 多 様 な アイ デ ンテ ィ テ ィ を和解 させ る た め に 、 「コ ス モ ポ リ タ ン的 気 質 」 が 必 要 と な る
の だ。 この よ う に解 釈 で き る。
160一
佛教大学大学 院紀 要
第34号(2006年3月)
要 す る に、 こ こ で は 以 下 の よ う な こ とが 考 え られ て い る の だ 、 つ ま り、 文 化 は脱 領 土 化 され
た 。 そ して、 脱 領 土化 され る以 前 の、 例 え ば 日本 国 民 一 仏 教 徒 一 日本 人 とい っ た あ る程 度 固 定
化 され た ア イ デ ンテ ィテ ィ も ま た流 動 化 し、 日本 国 民 一 プ ロ テ ス タ ン トー 韓 国 人 とい っ た ア イ
デ ン テ ィ テ ィが 当然 の よ う に現 れ 、 そ れ ぞ れ の ア イデ ンテ ィテ ィが 融和 した り、 対 立 した り し
なが ら、 グ ロー バ ル な 文化 状 況 を形 成 して い る の だ、 と。
しか し、A・ アパ デ ュ ライ や 吉 見 が 指 摘 す る よ うに ア イ デ ンテ ィ テ ィ も ま た 、 一 枚 岩 で は あ
りえ ない 。 吉 見 が い う よ うに 「(われ わ れ は)多 次 元 的 に分 裂 し、 接合 され た 文化 を異 な る経 路
で 生 きる よ う に な っ て い る 」(15)と考 え る こ とが で き、 今 日の グ ロ ーバ ル 化 で 生 じて い る の は
厂そ れ ぞ れ の文 化 の 固有 性 に応 じた世 界 の 分 裂 で は な く、 そ う した 『固 有 の 文化 』 な る概 念 そ の
もの の重 層 的 な分 裂 」(16)な
の で あ り、 そ の 「異 な る経 路 」 とは アパ デ ュ ライ が い う よ う な 「ス
ケ ー プ(地 景)」(17)の
混 在 だ と考 え られ る。 す な わ ち 、 どの よ うな 文化 観 が 主体 構 成 の一 要 素 と
な、
りう るか は状 況 依 存 的 に変 化 しつ づ け て お り、 例 え そ の 文化 概 念 が 流 動 的 な もの で あ っ た と
して も、何 らか の 文化 を一 つ の 主体 が持 っ て い る と述 べ る こ とは不 適 切 なの で あ る。 こ こで は、
そ う した文 化 と主 体 との 関 係 性 が 完 全 に コ ンテ クス トに依 存 した もの で あ る こ と を認 め な け れ
ば な らな い だ ろ う。 そ うだ とす る な らば、 ひ とつ の 文 化 的 主体 を措 定 して 、 そ れ らの係 争 を静
め るた め の コス モ ポ リ タニ ズ ム を考 え る とい う構 想 そ の もの が疑 問 に付 され な けれ ば な ら ない 。
何 故 な ら、 こ の考 え か らす る とコス モ ポ リタ ニ ズ ム も ま た、 あ る場 合 に お い て ア イデ ンテ ィ テ
ィ を構 成 す る ひ とつ の 要 素 に しか 成 りえず 、 例 え トム リ ンソ ンが 言 う よ うな 「コス モ ポ リタ ン
的 気 質 」 を多 くの 主体 が 得 た と して も、 そ れ が ア イデ ンテ ィ テ ィを構 成 す る 他 の 要 素 の 上 位 に
お か れ る とい う保 証 は ど こに もな い か らで あ る。
議 論 が 少 し横 に 逸 れ た が 、 こ こで 問 題 に した い の は、 現 在 の 文化 の状 態 が ア パ デ ュ ラ イの い
う よ う な 「ス ケ ー プ」 の 「重 層 的 な乖 離 構 造 」 にあ る とす る な らば 、 そ れ らの構 造 の 結 節 点 と
して 、 コス モ ポ リ タニ ズ ム を持 っ て くる こ とが 果 た し て妥 当 な の か とい う点 で あ る。 言 い 換 え
る な らば、 倫 理 的、 法 的 、 経 済 的 、 政 治 的 問 題 の そ れ ぞ れ を 「コス モ ポ リ タ ン気 質 」 に よ っ て
ま と め あ げ る こ とが どれ ほ どの現 実 味 あ る提 案 か とい う こ とで あ る が 、 この 問 題 に関 して は三
上 の ル ー マ ン論 が役 立 ち そ うで あ る。
三 上 は今 日の思 想 状 況 にお け る 「道 徳 的 問 題 関 心 の リバ イバ ル」(18)に
対 して ル ーマ ンの シ ス テ
ム論 を足 が か りに した批 判 を展 開 して い る。 す な わ ち、 社 会 的紐 帯 の緩 み を道 徳 な どの い わ ば 、
メ タ ・コー ドに よ って統 合 し よう とす る、 デ ュ ル ケ ム的 な連帯 の方 法 は今 日で は通 用 しな い、 な
ぜ な ら、 「複 雑 に機 能 分 化 した 今 日の社 会 で は、 どの 機 能 的 コー ドも メ タ ・コー ドた りえ な い 」
(19)からで あ る とす る批 判 で あ る 。 ル ー マ ンに よ る と、 「脱 中 心 化 」 した 今 日の社 会 にお い て 、
社 会 成 員全 て の行 動 を統 括 す る よ うな メ タ ・コー ドは存 在 しえ な い。 前 近 代 的社 会 にお い て は 、
モ ラ ルが 法 的 、 政 治 的 シス テ ム をそ の包 括 的 な影 響 下 に置 くこ と も可 能 で あ った が 、 「機 能 シ ス
テ ム に分 化 した社 会 は、 モ ラ ル の統 合 を断念 」(20)せざ る を得 な い、 す な わ ち 、 各 々の シス テ ム
ー161
コスモポ リタニズム論の射程 と限界(山
本
奈生)
は異 な っ た 条件 付 け に よ る プ ロ グ ラ ミ ング にお い て しか 作 動 しえ な い の で あ り、 こ う した社 会
にお い て 「管 制 高 地 」 と して の 中心 的 な シス テ ム は な りた た な い ので あ る。
こ の よ うな ル ー マ ン的 発 想 か ら、 トム リ ン ソ ンの コス モ ポ リ タニ ズ ム 論 を 捉 え返 す と、 彼 の
い う 「グ ロ ー バ ル な危 機 」 とは、 あ る シス テ ム 間 の 二 重 の不 確 定 性(ダ
ブ ル ・コ ン テ ィ ン ジ ェ
ン シ ー)を 調 停 す る シス テ ムが 十 分 に機 能 せ ず 、 そ れ に よ っ て複 雑 性 、 な い し は リス ク が極 度
に増 大 した 状 態 の こ とだ と言 う こ とが で き るだ ろ う。 多 くの場 合 、 ダブ ル ・コ ン テ ィ ン ジ ェ ン
シ ー は そ れ を媒 介 す る シ ス テ ム 、 例 え ば 金 融 取 引 に お け る 「貨 幣 シ ス テ ム 」 や 法 廷 に お け る
バ イナ リ 「法 シス テ ム 」 を作 動 させ て い る二 元 コ ー ド(こ の場 合 な ら有 罪/無 罪 とい っ た)に
よっ て 、 そ
の複 雑 性 が 縮 減 され る こ と と な る(す なわ ち 、有 罪 で も無 罪 で もな い状 態 は除 外 され る)。 と こ
ろが 、 グ ロー バ リゼ ー シ ョ ンに お け る 文化 政 治 な ど、 そ の領 域 に お け る コ ミ ュニ ケ ー シ ョン を
媒 介 す る シス テ ムが まだ 確 立 さ れ て い ない よ う な環 境 に お い て は 、 この 問 題 は ミク ロ な 人 々 の
相 互 作 用 に投 げ 返 され る こ と とな り、 そ れ に よ っ て、 グ ロ ー バ ル な 次 元 で の 係 争 が 現 象 学 的 レ
ベ ル で処 理 さ れ ざ る を え ない よ う な状 態 が 生 まれ て い る の で は な い だ ろ うか 。
こ の 問 題 に対 して 、 トム リ ン ソ ンは 「コス モ ポ リタ ン的気 質 」 に よ って 解 決 の糸 口 を 見 つ け
出 そ う と した 。 しか しそ れが 、 三 上 が い う とこ ろ の 「メ タ ・コー ド」 を当 て は め よ う とす る よ
うな 、 い わ ば 「カ テ ゴ リー の誤 謬 」 な の で は な い の か とい うの が こ こで の 主 張 な の で あ る。 す
な わ ち 、 国 民 性 や 民 族 性 、 文 化 的 同 一 性 を巡 る抗 争 を は じめ と して 、 環 境 問 題 、 核 の リス ク な
ど とい っ た そ れ ぞ れ の危 機 を媒 介 す る シス テ ム の機 能不 全 、 あ るい は不 在 が 今 日の グ ロ ー バ ル
化 した 世 界 にお け る問 題 な の で あ って 、 そ の機 能 不 全 を 「コス モ ポ リタニ ズ ム」 で埋 め よ う と
す る の は 困 難 な の で は な いか とい う判 断 で あ る。 しか しこ こで 私 は、 「コ スモ ポ リ タ ニズ ム」 だ
け で な く、 そ の他 の あ らゆ る倫 理 も、 グ ロ ーバ ル な危 機 に 対 して 全 く無 力 で あ る と主張 した い
わ け で は ない 、 こ の点 に つ い て は ま と め の部 分 で補 足 しな け れ ば な らな い だ ろ うが 、 一 先 ず 次
の論 点へ 入 りた い と思 う。
3.無
条 件 の 歓 待 と条 件 付 き 歓 待
カ ン トは こ の世 界 が 有 限 の 平 面 か ら構 成 され て い る以 上 、 世 界 公 民 法 は 厂地 球 の 表 面 を 共 有
す る 権 利 に も とつ い て交 際 を 申 し出 る こ とが で き る」(21)と
い う 「普 遍 的 な好 遇 」 をそ の 条 項 に
含 まね ば な らな い と考 え た 。 こ れ は 「誰 も地 球 の あ る場 所 に対 して ほ か の もの 以 上 の権 利 を も
っ て い るの で は な い」 と され る、 此 処 と言 う場 所 の 無 限 の 拡 張 で あ り、 場 所 性 の 放 棄 に基 づ い
た ユ ー トピ ア 的世 界 像 の 一 原 理 で あ る が、 トム リ ン ソ ンの 議 論 を は じめ 、多 くの コス モ ポ リ タ
ニ ズ ム 論 に も、 この 「
普 遍 的 な好 遇」 に類 す る観 念 が 設 定 さ れ て い る。
J・ ア ー リの 「審 美 的 コス モ ポ リ タニ ズ ム 」 は そ の 第 一 要 件 と して 、 ま さに カ ン トの い う 「訪
問権 」 を採 用 して お り、 トム リ ンソ ンの議 論 に お い て も 「文化 的地 平 」 を引 き上 げ、 「
遠 くの 他
一162一
佛教大学大学院紀要
第34号(2006年3月)
者 を重 要 な他 者 と して」 捉 え る こ とが 「コス モ ポ リタ ン的 気 質 」 の 特徴 で あ る と され て い た 。
そ の よ う な あ らゆ る他 者 に対 す る無 条 件 の訪 問権 、 さ ら に は その 後 に続 く無 条 件 の 歓 待 性 は
他 者 が 何 者 で あ る か、 す な わ ち 、 そ の 国 民 性 、 民 族 性 、 文 化 性 が ど の よ う に規 定 され て い るか
を全 て 括 弧 にい れ た上 で 受 け 入 れ る こ と を終 局 的 に 、 しか し原 理 的 に要 求 す る もの で あ る。 こ
の 無 条 件 的 な歓 待 をユ ー トピア 論 と して 結 実 させ た ル ネ ・シ ェ レー ル に よ る と、歓 待 の概 念 は
「大 地 」 をそ の 前提 と し、 あ らゆ る主 体 は 厂
大 地」 に対 して等 し く所 属 して い る とい う事 実 か ら
出 発 しな け れ ば な らな い とい う。 す な わ ち 、 こ こ に お け る歓 待 性 は 「こ の場 所 へ の 帰属 の 共 通
の権 利 、 あ るい は観 点 を 変 え る と、 場 所 へ の帰 属 に無 関心 で い られ る権 利 の 帰 結 」(22)な
のであ
る 。 こ う した 歓 待 性 か ら出発 す る と、 シ ェ レー ル の い う 厂住 ま う こ と」 と い う概 念 は 近代 以 降
の 「
入 植 」 し 「定 住 」 す る とい う概 念 とは 正 反 対 の 意 味 を持 つ こ と と な る。 何 故 な ら、 「入 植 」
す る とい う言 い 回 しは、 暗 に 「ノ マ ド的 」 な、 つ ま り土 地 を持 た な い も の を排 斥 す る こ とに よ
っ て 成 り立 つ 概 念 で あ る の に対 して 、 大 地 に 「住 ま う こ と」 と は、 所 属 す る とい う概 念 を 放 棄
し、 他 者 に対 して 開 か れ て い る こ と を前 提 とす るか らで あ る。
しか し、 この よ う な無 条 件 の歓 待 は トム リ ンソ ンや アー リが も う一 つ の コ ス モ ポ リタ ニ ズ ム
の特 徴 とす る、 多 文 化 主 義 的発 想 と二律 背 反 の 関係 に お か れ て い る よ う に思 え る。 ア ー リは そ
の 「訪 問権 」 を用 い る こ と に よ って 、 「審 美 的 コス モ ポ リタ ニ ズ ム」 は、 あ らゆ る文化 を 相対 的
に把 握 した上 で、 「み ず か らの社 会 とそ の文 化 を位 置 づ け る能 力 と、 異 な る 自然 、 場所 、社 会 に
つ い て省 察 し、 そ れ を審 美 的 に判 断 す る 能 力 」(23)を
培 う こ とが 出 来 る と述 べ た 。 こ こ で は文 化
ご との差 異 を前 提 と し、 そ して そ れ らの 文 化 が い か な る もの で あ ろ う と も、 そ こ に優 先 順 位 を
付 け る こ とな く、 また 倫 理 的評 価 を加 え る こ と も な く、 相 対 的 に、 そ して 「審 美 的 」 に接 しよ
う とい う文 化 的 な多 元 主 義 が 主 張 され て い る の で あ るが 、 と ころが 、 ま さ に あ る文 化 の 「名 前 」
を 問 お う と した そ の 瞬 間 に、 無 条 件 の歓 待 は 、 単 に相 対 的 な歓 待 、 あ る い はデ リ ダの 言 い方 を
用 いれ ば条 件付 きの 歓 待 へ と後 退 して しま う こ と と な る。
厂絶 対 的 で 誇 張 的 で 無 条 件 の歓 待 とは 、 言 葉 を停 止 す る こ と、 あ る 限 定 され た 言 葉 を、 さ ら
に は他 者 へ の 呼 び か け を停 止 す る こ とに あ る の で は な い か。 つ ま り、 他 者 に 対 して 、 あ なた は
誰 だ、 名 前 は何 だ 、 ど こか ら来 た の だ、 な ど と尋 ね た い とい う誘 惑 は抑 え な け れ ば な ら ない の
で は な い か」(24)これ は 歓 待 の 「唯 一 無 二 の」 絶 対 条 件 で あ るが 、 しか し、 実践 的 な歓 待 とい う
行 為 は必 ず、 これ と は別 の他 者 の特 性 を尋 ね 、 契 約 を提 示 す る 「
条 件 付 き」 の歓 待 の 要 求 を受
け入 れ な くて は な らな い。J・ デ リ ダは この よ う に無 条 件 の 歓 待 と条件 付 き歓 待 を 区別 す る。 そ
して無 条 件 の歓 待 は 、 「そ れ が あ る と こ ろの もの で あ るた め に は」 条 件付 き歓 待 を必 要 とす る 。
す な わ ち、 歓 待 を実 施 す る た め に は、 そ れ が 計 算 可 能 な法 や 契 約 に よっ て な され なけ れ ば な ら
ず 、 こ れ らは不 可 分 で あ るが 、 しか し、 条 件 付 き歓 待 は無 条 件 の歓 待 を 「
堕 落 させ 、 悪 化 させ
る」 も の な の で あ る とす る。 そ して、 こ れ は デ リ ダ の議 論 を 曲解 す る こ とに な る か も しれ ない
が 、 あ え て も う一 つ の 論 点 を接 合 す る の で あ れ ば 、 こ の条 件 付 き歓 待 とは 『
友 愛 の ポ リテ ィ ッ
ー163
コスモ ポリタニズム論の射程 と限界(山
本
奈生)
クス 』 に お い て 論 じ られ た 「政 治 的 な 友 愛 」 と近 接 的 な 関係 に あ る と解 釈 で きる の で は な い だ
ろ うか 。 「政 治 的 な友 愛」 とは 「
家 族 的 友愛 」 とは異 な り 「有 用 性 」 に基 づ く限 定 的 な 結 び つ き
の こ とで あ り、 こ こ で の 「政 治性 」 は 「ナ シ ョナ リズ ム ・自民 族 中心 主義 ・男 性 中 心 主 義 」(25)
へ と結 びつ く危 険性 が あ る と され る。
こ の無 条 件 の歓 待 と条 件 付 き歓 待 、 そ して家 族 的 友 愛 と政 治 的 友 愛 の議 論 を、 こ こ まで の コ
ス モ ポ リ タニ ズ ム を巡 る議 論 に 重 ね 合 わせ る な らば、 トム リ ン ソ ンが 論 ず る よ う な コス モ ポ リ
タ ニ ズ ム は可 能 な 限 り、 条件 付 き歓 待 と政 治 的友 愛 の落 と し穴 を 回避 せ ね ば な らず 、 そ うで あ
る な らば 、 そ の歓 待 の原 理 は他 者 の 特 性 と 自己 との差 異 を限 界 の とこ ろ ま で脱 構 築 す る こ とに
よ っ て 、 自民 族 中心 主義 や男 性 中 心 主 義 を 回避 しな け れ ば な ら な い の で は な い だ ろ うか 。 そ う
で あ る な らば、 文化 的多 元 主 義 に立 脚 しつ つ 、 「文化 的地 平 を 引 き上 げ る」 よ うな コス モ ポ リ タ
ニ ズ ム は さ らに ラ デ ィカ ル な 方 向 へ と旋 回 しな け れ ば な ら ない 。 で な け れ ば、 単 に他 者 の 文 化
に対 す る相 互 浸 透 と理解 を深 め るだ け で は、 そ の他 者 の 文 化 が 、 あ る い は他 者 の 文化 を歓 待 す
る、 自 らの 文 化 の 自民 族 、 自文 化 中 心 主 義 に対 す る批 判 を行 う契 機 は 失 わ れ て し ま うで あ ろ う
し、 さ らに 、 「他 者 」 の 「文 化 」 を措 定 す る こ とそ の もの が、 条件 付 き歓 待 へ の 回帰 を促 して し
ま う こ と に な りか ね な い か らで あ る。 した が っ て 、 コス モ ポ リ タ ニ ズ ム は そ れ が 前提 とす る文
化 概 念 を脱 構 築 す る と同 時 に 、 偏 狭 な意 味 で の 文化 主 義 を批 判 す る よ うな 方 向へ と進 む こ とに
よっ て初 め て そ の 意 義 を見 出せ る の だ とい え る。
お わ りに
こ こ ま で、 トム リ ン ソ ンの コス モ ポ リ タニ ズ ム論 を中 心 に批 判 的 検 討 を行 って きた が 、 そ れ
で は コス モ ポ リ タニ ズ ム や 、 そ こで 論 じ られ る概 念 は眼 前 で起 こっ て い る 「グ ロー バ ル な 危 機 」
に 対 して全 く無 力 なの で あ ろ うか 。 経 済格 差 や 、 環 境 問 題 、 各 地 の 内 紛 、 戦 争 はあ くま で そ れ
ぞ れ の領 域 に お け る問 題 に過 ぎな い の で あ って 、 コス モ ポ リタ ニ ズ ム や そ の 他 の 倫 理 、 道 徳 は
そ れ らに何 の抵 抗 も な く屈 す る しか な い の で あ ろ うか 。 こ こ で 主 張 した い の はそ の よ う な こ と
で は全 くな い 。 本 稿 で 議 論 した の は コス モ ポ リ タ ニ ズ ム を メ タ ・コー ド と して 定 立 しよ う とす
る こ とに対 す る疑 念 で あ り、 ま た 文化 的 な脱 構 築 へ とコ ス モ ポ リ タニ ズ ムが 作 用 す る よ う な方
向 付 け に つ い て で あ る。 二 節 で論 じた 三 上 の ル ーマ ン論 に こ こで 付 け加 え て言 う な らば 、 そ れ
は ル ー マ ン にお け る 「リス ク変 換 」 の概 念 で あ ろ う。 小 松 が す で に指 摘 して い る通 り、 ル ー マ
ンの リス ク論 で は 「リス ク変 換 」 の概 念 が 重 要 な位 置 を 占 め て い る(26)。三 上 の 言 う とお り、 確
か に法 シ ス テ ム は法 以 外 の あ らゆ る シス テ ム を環 境 と し、 そ の 他 の シス テ ム の 問題 が 法 シス テ
ム に よ っ て 処 理 さ れ る こ とは あ り え ない 。 つ ま り、 科 学 的 な 真 偽 判 断 の決 定 が 法 廷 に お い て な
さ れ る こ と はあ りえ な いが 、 しか し、 現 実 に は環 境 問題 に お け る科 学 的 な判 断が 政 治 的 領 域 の
投 票 行 動 や 政 治家 の言 動 に影 響 を与 え る こ とは十 分 に考 え られ る こ とで あ る。 そ の よ う な シス
ー164一
佛教大学大学院紀要
第34号(2006年3月)
テ ム 問 に お け る コ ー ドの 転 換 が 「リ ス ク 変 換 」 で あ る 。 す な わ ち 、 政 治 的 シ ス テ ム は 環 境 問 題
に 対 し て 無 媒 介 的 に 作 用 す る こ と は 出 来 な い が 、 環 境 問 題 が 、 リ ス ク/信
頼 の コ ミュ ニ ケ ー シ
ョ ン を 通 し て 有 権 者 の 投 票 活 動 に 影 響 を 与 え る と予 測 さ れ る 場 合 、 そ の 問 題 は 政 治 的 シ ス テ ム
へ と 「
変 換 」 され る の で あ る 。 コス モ ポ リ タニ ズ ム とい う道 徳 的 言 説 が
こ とに よっ て例 え ば、 市 民 運 動 や 政 治家 の
「リ ス ク 変 換 」 さ れ る
「トー ク 」 に 影 響 を 与 え る と い う こ と は あ りえ る こ
と で あ る 。 勿 論 、 道 徳 的 な シ ス テ ム は 科 学 や 法 の シ ス テ ム と は 異 な り機 能 的 な コ ー ド付 け が 成
さ れ て お らず 、 そ れ が た だ ち に政 治 的 シ ス テ ム に対 して 影響 を与 え る と い う こ とは 困 難 で は あ
ろ う 。 し か し、 トム リ ン ソ ン が 論 じ た
「コ ス モ ポ リ タ ン 的 気 質 」 に 相 当 す る よ う な 価 値 観 を 、
イ ラ ク 駐 留 に 対 す る 反 対 運 動 や 、 フ ェ ア ト レ ー ド運 動 、 ス ロ ー フ ー ド運 動 な ど の 市 民 運 動 と 結
びつ け て考 え る こ と は十 分 に価 値 の あ る こ とで あ る。 そ の よ う な運 動 が 本 稿 で論 じた よ うな 文
化 概 念 を脱 構 築 し、 絶 対 的 な歓 待 を志 向 す る よ う な コス モ ポ リ タニ ズ ム の視 点 を持 ち うる の で
あ れ ば 、 例 え ば 、 イ ラ ク 反 戦 運 動 が 、 「イ ス ラ ム 」 や
「ア メ リ カ 」、 「シ ー ア 派 」 とい っ た カ テ ゴ
リ ー に 含 ま れ る エ ス ノ セ ン トリ ズ ム を批 判 し 、 解 体 し て い く よ う な 文 脈 で 行 わ れ る の で あ れ ば 、
そ れ は ネ グ リ とハ ー トが 論 じ た よ う な 「マ ル チ チ ュ ー ド」(27)とし て 、 「グ ロ ー バ ル な 危 機 」 に 対
処 しう る最 初 の ス テ ッ プ を踏 み 出 せ る の か も しれ な い 。
〔注 〕
(1)Jones,Charles.1999,GlobalJustice:DefendingCosmopolitanism,OxfordUniversityPress.
(2)D・
ヘ ル ド、2004、 「グ ロー バ ル化 を ど う と らえ る か 』、 中 谷 義和 訳 、 法 律 文 化 社 、p.166
(3)Jo㎞,Tomlinson.1999,GlobalizationandCultureBackwellPublishing.(以
(4)M・
フ ェ ザ ー ス トン、2003、 『消 費 文 化 とポ ス トモ ダ ニ ズ ム
下 、GCと 略 す)p.198
下 巻 』、 小 川 葉 子 訳 、 恒 星 社 厚 生 閣 、
p.90
(5)John,Tomlinson.GC,p.18
(6)J・
(7)酒
トム リ ンソ ン、1993、 『文化 帝 国主 義 』、 片 岡信 訳 、青 土 社 、p.185
井 直 樹 、1996、 「ナ シ ョナ リ テ ィ と母(国)語
の政 治 」、 酒 井 直 樹 、 ブ レ ッ ト ・ド ・バ リー 、 伊 豫
谷 登 士 翁 、 『ナ シ ョナ リテ ィの 脱構 築 』、柏 書 房
(8)「notinmytemlsofof血ce(NIMTOO)」
す な わ ち、 「そ れ は私 の仕 事 で は ない 」 とい う こ と。
(9)John,Tomlinson.GC,p.194
(10)J・
ア ー リ、2003、 『場 所 を消 費す る』、 吉 原 直樹 、 大 澤 善信 訳 、 法 政 大 学 出版 局 、p.276
(11)John,Tomlinson.GC,p.202
(12)J・
(13)グ
ロ ー ル ズ 、1979、 『正 義 論 』、矢 島鈞 次 訳 、紀 伊 國屋 書店
ロー バ ル 化 と ロ ー カ ル化 を結 びつ け たR・ ロバ ー トソ ンの グ ロー カ リゼ ー シ ョ ンの議 論 は 良 く知 ら
れ て い る が 、 これ を倫 理 的 領 域 に当 て は め た もの で あ る。 す な わ ち 、 抽 象 度 の 高 い 寛 容 や 友 愛 と い
った 観 念 を ロー カ ル な文 化 に上 手 く当 て は ま る よう調 整 し、 「
土 着 化 」 させ る こ と を意 味 して い る。
-165
コ ス モ ポ リ タ ニ ズ ム 論 の 射 程 と 限 界(山
本
奈 生)
(14)John,Tomlinson.GC,p.199
(15)吉
見 俊 哉 、 「グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン と ア メ リ カ ン ヘ ゲ モ ニ ー 」、 テ ッサ ・モ ー リ スeス
哉 編 、2004『
(16)同
ズ キ 、 吉 見俊
グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン の 文 化 政 治 』、 平 凡 社 、p.67
上 、p.67
(17)A・
ア パ デ ュ ラ イは現 在 の グ ロー バ ル な 状 態 を五 つ の
「フ ロ ー 」 の
「重 層 的 な 乖 離 構 造 」 と 捉 え て い
る 。 す な わ ち 、 エ ス ノ ス ケ ー プ ・メ デ ィ ア ス ケ ー プ ・テ ク ノ ス ケ ー プ ・フ ァ イ ナ ン ス ケ ー プ ・イ デ
オ ス ケ ー プ の 五 つ で あ り 、 こ れ ら の 接 尾 語 にscape(地
景)が
つ い て い る の は 、 この 地 景 が 客 観 的 に
存 在 す る の で は な く、 パ ー ス ペ ク テ ィ ブ に 依 存 し て い る こ と を 指 し示 し て い る 。A・
2004、
(18)三
アパ デ ュ ラ イ 、
『さ ま よ え る 近 代 一 グ ロ ー バ ル 化 の 文 化 研 究 』、 門 田 健 一 訳 、 平 凡 社
上 は ホ ー ネ ッ トの
バ ウマ ン の
「承 認 闘 争 論 」 やR・N・
ベ ラ ー の 道 徳 の 復 権 、 ベ ッ クの
「リ ス ク 社 会 論 」、Z・
「ポ ス トモ ダ ン 倫 理 」 な ど を 「道 徳 的 問 題 関 心 」 の 例 と し て あ げ て い る 、 も う 少 し 現 実
的 な問題 で いえ ば
「環 境 倫 理 」 や
「生 命 倫 理 」 の 問 題 も こ れ に 当 て は ま る で あ ろ う 。 こ れ ら は
「個 々 人 の 心 情 を い か に し て 社 会 的 合 意 や 科 学 的 リ ス ク と両 立 させ う る の か と い う 、 社 会 形 成 の 基 本
的 問 題 へ の 再 考 を迫 っ て い る 」 と い う。
三 上 剛 史 、2003、
『道 徳 回 帰 と モ ダ ニ テ ィ 』、 恒 星 社 厚 生
閣
(19)三
上 剛 史 、 同 上 、p。71
(20)N・
ル ー マ ン、1992、
(21)1・
カ ン ト、1965、
『パ ラ ダ イ ム ・ロ ス ト』、 土 方 昭 訳 、 国 文 社 、p.19
『実 践 理 性 批 判
判断力 批判
永 遠 の 平 和 の た め に 』、 土 岐 邦 夫 訳 、 河 出 書 房 、
p.421
(22)R・
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デ リ ダ 、1999、
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デ リ ダ 、2003、
『友 愛 の ポ リ テ ィ ッ ク ス 』、 鵜 飼 哲 、 大 西 雅 一 郎 、 松 葉 祥 一 訳 、 み す ず 書 房 、p.16
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松 丈 晃 、2003、
ネ グ リ 、M・
『リ ス ク 論 の ル ー マ ン 』、 勁 草 書 房
ハ ー ト、2003、
『〈 帝 国 〉
グ ロ ー バ ル 化 の 世 界 秩 序 と マ ル チ チ ュ ー ドの 可 能 性 』、
水 嶋 一 憲 訳 、 以 文社
(や ま も と
な お
社 会 学研 究科 社 会 学
・社 会 福 祉 学 専 攻 博 士 後 期 課 程)
(指 導:丸
山
哲 央
2005年10月19日
一166一
教 授)
受 理
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