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「新生児の潜在的ビタミンD欠乏症の診断技術の開発」(PDF
研究計画書 研究課題 新生児の潜在的ビタミンD欠乏症の診断技術の開発 研究担当者 研究代表者:静岡県立大学薬学部 研究分担者:札幌市衛生研究所 生体機能分子分析学分野 保健科学課 係長 准教授 東 達也 花井潤師 研究の目的 従来のイムノアッセイでは不可能であった25-ヒドロキシビタミンD3 [25(OH)D3; 活性型ビタミンDの前駆体,血中濃度はビタミンD供給状態の指標] と不活性な 25(OH)D3の3位異性体 [3-epi-25(OH)D3] を鋭敏に識別し,新生児の潜在的なビタミ ンD欠乏症を見逃さずに発見できる技術を開発する.診断には「先天性代謝異常症等 検査(新生児マススクリーニング)」で使用した血液濾紙の残りを再利用し,高感度 で被験者への負担の少ないものを確立する. 研究の背景 新生児のビタミンD欠乏症は母体のビタミンD不足が主因であり,我が国でも一見 正常と思われる新生児の約20%は潜在的なクル病 (ビタミンD欠乏による骨変形) と の報告もある.また,乳児期のビタミンD不足は,将来の統合失調症や糖尿病などの リスクを高める.このため,医療現場,特に小児科領域から血中25(OH)D3濃度測定 に基づく新生児ビタミンD欠乏症のマススクリーニングの実施を求める声が上がって いる.しかし,従来のイムノアッセイを用いたのでは,25(OH)D3定量値に新生児特 有の不活性代謝物,3-epi-25(OH)D3量を含んだ値(偽高値)となってしまうため,ビ タミンD欠乏患児でも健常と診断 (誤診) される可能性が高い.本研究では特異性の 高い高速液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析 (LC–MS/MS) を方法論に選択 し,種々の化学的手法も駆使して濾紙血液中25(OH)D3測定に基づく新生児の潜在的 ビタミン欠乏症の新規診断法開発を目指す. このように本研究は,顕在化そして問題化しつつある新生児の潜在的ビタミンD欠 乏症に着目し,新規方法論導入により誤診やそれに起因する治療開始の遅れを防ぐこ とを目的としている.先見的で社会的ニーズも高いと言える. 期間内の達成目標 約2年の研究期間内で濾紙血液中25(OH)D3の精密分析システムを確立し,その臨床 応用性を評価する. 研究体制及び実施場所 本研究は,静岡県立大学薬学部准教授 東 達也を中心に,濾紙血液中25(OH)D3 定量法の開発とその評価が行われる.一方,濾紙血液の管理,保存,静岡県立大への 送付などは,札幌市衛生研究所係長 花井潤師が担当する. 研究方法 1) 研究対象とインフォームドコンセント 「先天性代謝異常等検査(新生児マススクリーニング)」のために出生医療機関(札 幌市)で採血された濾紙血液検体で,検査終了後,10年間の保存と他の研究等への利 用に同意されたものを用いる.すなわち,既に本研究を含む種々の試験に対し,使用 承諾が得られている検体を用いる.25(OH)D3分析システムを確立して参考基準値を 設定するため,濾紙血液約50検体を用いる. 本研究で用いる検体は,札幌市衛生研究所において「先天性代謝異常症等検査(新 生児マススクリーニング)終了後の他の研究等への利用」について包括的な承諾が得 られていることから,本研究のための新たなインフォームドコンセントは取得しない. なお,濾紙血液は連結不可能匿名化された状態で研究に供される. 濾紙血液検体は研究終了後,医療廃棄物として処理する.なお,本研究により取得 されたデータは匿名化された情報として論文や学会発表の証拠用に永年厳重に保管 し,廃棄する場合は截断・焼却処理を行う. 2) 濾紙血液中25(OH)D3定量法の開発と臨床応用性評価 25(OH)D3 及び3-epi-25(OH)D3 はLC–MS/MSで最も汎用されるESIにおける応答性 が十分でなく,それらの濾紙血中濃度の低さも相俟って通常の方法では測定できない. そこで,ビタミンD類のESI応答性の増強とともに対応する3位異性体との分離にも有 用なPTAD (Cookson型試薬) による誘導体化の導入を検討する.そして超高感度・選 択的なLC–MS/MS定量系を完成させる.次に25(OH)D3のアナログを内標準物質とし, ポリマー系固相抽出カートリッジを利用した濾紙血液の前処理法の開発を確立する. 各種バリデーション試験を実施して精度,正確度などを評価する. 開発した定量法により新生児濾紙血液(約50例)を測定し,新生児の血中25(OH)D3 濃度の参考基準値を求める.本法の潜在的ビタミンD欠乏症診断法としての実用性を 評価する. 研究に参加した場合の不利益 「先天性代謝異常症等検査」のために採血された濾紙血液を検査終了後に用いるた め,新生児への新たな身体的負担や危険性はない.また,研究に参加することによる 新生児及びその家族への費用の負担も一切ない. 予測される成果 本研究により新生児血中25(OH)D3の参考基準範囲の確立とビタミンD欠乏症の早 期診断が可能となれば,乳児期のビタミンD不足に起因する種々の疾患に対し,早期 治療の開始と予後の改善に大きく寄与することができる.さらに確立された LC–MSMSによる25(OH)D3の高感度分析法を多数検体処理法に改善することにより 新生児マススクリーニングへの応用も可能となる. 研究成果の取扱い 研究成果については,学会等での学術的な発表,学術論文等で発表をする.なお, 検体試料は連結不可能匿名化されているため個人が特定されることはないが,研究成 果の公表の際には,個人情報の保護に最大限配慮する.