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理論物理学との融合によるマクロ経済学の再構築
「異分野融合による方法的革新を目指した人文・社会科学研究推進事業」 (課題設定型研究領域)研究概要 研究テーマ(領域)名 理論物理学との融合によるマクロ経済学の再構築 責任機関 東京大学 研究実施期間 平成 21 年度~平成 25 年度 研究プロジェクトチームの体制 研究総括・ グループリーダー・ 氏 名 所属機関・部局・職 研究分担者の別 研究総括 吉川 洋 東京大学・大学院経済学研究科・教授 研究分担者 青山 秀明 京都大学・大学院理学研究科・教授 研究分担者 家富 洋 東京大学・大学院経済学研究科・特任教授 研究分担者 池田 裕一 京都大学・学際融合教育推進センター・特定教授 研究分担者 井上 寛康 大阪産業大学・経営学部・准教授 研究分担者 相馬 亘 日本大学・理工学部・准教授 研究分担者 玉田 俊平太 関西学院大学・大学院 経営戦略研究科・教授 研究分担者 藤原 義久 兵庫県立大学・大学院シミュレーション学研究科・ 教授 配分(予定)額 平成 21 年度 5,000 単位:千円 平成 22 年度 3,700 平成 23 年度 3,700 平成 24 年度 4,285 平成 25 年度 3,306 研究概要 本研究の目的は、実証分析を基本に理論物理学(統計物理学)の方法によるマクロ経済学の再 構築を行うことである。マクロ経済学は過去 40 年間、企業や消費者など個々のミクロの経済 主体の行動を詳細に分析してきた。しかし,我が国における家計の数は 6000 万、企業の数は 数 100 万に上り,そのように多数のミクロ主体の個別行動を追跡することは極めて困難かつ無 益である。むしろ、経済主体の個別性を捨象し,統計的な手法を用いてマクロの経済現象を究 明することが統計物理学にならったマクロ経済学の再構築に向けての基本理念である。研究総 括を務める吉川は、こうした考え方に基づく研究を UCLA の青木正直教授と行い、その成果を Aoki and Yoshikawa, Reconstructing Macroeconomics, Cambridge University Press, 2007 とし て刊行した。また,企業の規模分布などに関する実証分析を専門とする青山等の物理学研究者 とも共同研究を積み重ねてきた。 こうした実績を基に本研究では、(1) 生産性、(2) 景気循環、(3) 物価の構造変化、および(4) イノベーションの分析に焦点を絞り,マクロ経済学の再構築を具体化する。用いる研究方法と しては、(1) 生産性の解析に関しては、CRD データと日経 NEEDS データを融合することによ り、中小企業から大企業までの多くを網羅したかつてない大規模なデータベースを作成する。 その上で、労働生産性と全要素生産性を計算し、その分布や成長率について、理論物理学にお ける超統計理論を用いて解析する。また、生産性と企業成長の関係を明らかにするとともに、 生産性のダイナミクスを再現する数理モデルをプラズマ物理学や確率過程に基づき構築する。 (2) 景気循環については、鉱工業指数の時系列データに対して、スペクトル解析や理論物理学 におけるランダム行列理論を応用することによって有意な景気循環を抽出する。(3) 物価の構 造変化については、総理府統計局「小売物価統計」を用いて実証分析を行う。(4) イノベーシ ョンについては、特許公報をデータベース化し、特許全体、技術分類ごと、主要キーワードご とに特許の価値も考慮した日次データを作成して、時系列解析を行う。さらにイノベーション と経済成長との関係を明らかにするため,(5) 特許データを年次に縮約したデータと全要素生 産性の相関解析、および特許データを月次に縮約したデータと月次のマクロ経済指標の相関解 析も行う。ここでも、スペクトル解析やランダム行列理論を大いに活用する。 ファイナンスへの応用を別にすると、経済学と統計物理学の融合はまったく新しい研究分野 だと言ってよい。しかしはじめにも書いたとおり、それはマクロ経済学を根底から再構築する 有望な研究分野である。当該研究において期待または想定される成果・波及効果としては、マ クロ経済学への理論的貢献のほか、例えば従来とは異なる手法を用い、(1)マクロ経済とイノベ ーションのリンケージの有無について得られた新たな知見は政策立案に対して有用となる。(2) リンケージがある場合には、イノベーションがマクロ経済へ波及するまでにかかる時間を計測 できる。これにより、基礎研究が真のイノベーションとなる過程の解明や、それに要する時間 が推測できる。(3)産業クラスターが成功する条件を定量的に測定できる。 本研究は幸い 2 年間の研究期間の延長が認められた。当初の設定課題について研究をさらに 進展させるとともに,急速に顕在化してきた「経済危機」の問題へ研究展開を図る。大規模な 経済ネットワークについての実データに基づいたリスク伝搬のモデル構築,シミュレーション の実行およびシステミック・リスクの予測・制御の可能性などについて検討する。また,本研 究の重要なアウトリーチ活動として,英語書籍"Macro-Econophysics"(仮題)の出版を計画し ている。