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ロールレタリングによる看護学生教育への試験的実践

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ロールレタリングによる看護学生教育への試験的実践
ロールレタリングによる看護学生教育への試験的実践
○大石
武信
(T-time 心理ラボ)
キーワード:ロールレタリング、看護学生
Experimental practice to nursing student education by the roll lettering.
Takenobu OHISHI
(T-time Psychology Laboratory)
Key Words: Role lettering, Nursing student.
目 的
看護では患者の立場や気持ちを理解した対人関係スキルが
必要である。しかし、このスキルを学生教育において反映さ
せるには学生個人の能力や経験の多様さから難しさを伴う。
春口が提唱した心理療法であるロールレタリング(役割交
換書簡法:以下 RL)ではその臨床的仮説として、文章による
感情の明確化やセルフカウンセリング、自己と他者双方から
の視点の獲得など 7 つの効果を指摘している。
下村(2007)は、看護学生に対象に講義場面での RL の有効
性について検討した。その結果、学生自身が看護師と患者の
立場を同時に体験することにより、患者の看護に気づくこと
ができると指摘している。
本研究では、実際に准看護師としての職務経験を持ち、ま
たライフイベント経験についても多様性がある者に対して RL
がどのような効果があるのかを試験的に検討することを目的
とする。
方 法
対象者:埼玉県内の高等看護科に通う准看護師 40 名(男
11 名、女 29 名。平均年齢 36.54±5.89 歳。平均准看護師歴
は 5.87±4.42 年。内容については、書面により同意書を得ら
れた 30 名についての結果を発表する。
実施期間:2011 年 9 月から 12 月において「人間関係論」全
12 回の講義内に実施した。
実施方法:まずは「入院患者(入院疾患設定は自由設定)の
役割の自分」から、
「担当看護師の役割の自分へ」という手紙
を書いてもらった。次回に、その手紙を読んで「担当看護師
として」で「入院患者である自分」に手紙を書いてもらった。
このやり取りを繰り返し行った。書いた手紙は講義終了時に
預かり、次回講義時に返却して手紙を読み直し返事を書くこ
ととした。
最終講義時に「1.ロールレタリングを体験することによ
って変わったこと」。「2.患者としての自分について感じた
こと」。「3.担当看護師としての自分について感じたこと」
の三項目について自由記述をしてもらった。
結 果
質問項目ごとの自由記述の内容(一部抜粋)
1.RL を体験して変わった点
「相手の気持ちを考えられるようになった」
「手紙を書いたこ
とですっきりした気持ちになった」
「1 週間空けることによっ
て素直な気持ちで書けた」
「自分の弱い部分や不安が明らかに
なった」「文章で書く難しさを知った」「想像力が豊かになっ
た」「相手を思いやり想像しながら書いた」「言葉を選ぶよう
になった」「自分の考えをまとめることに役立った」「手紙に
すると用件のみのメール以上に相手のことを考える」
「変わっ
ていない」「考えようという習慣ができた」
2.患者としての自分について
「患者の不安な気持ちが分かった」
「仕事以上に患者の気持ち
になった」「患者の立場になって感じたことがあった」「患者
の理想の看護師像を描いていた」
「不安を抱いていても前に進
もうとしている」
「手紙に書くことで悩みに対して心が晴れた」
「自分自身について考え直す機会となった」
「病気や手術を怖
いと感じている自分に気づいた」
「文章のニュアンスで伝えら
れた」「自分の本当の気持ちを吐き出すことができた」「問題
を解決しようと問いかけた」
3.担当看護師としての自分について
「患者にもなったことで患者の気持ちを理解したうえで看護
師としての考えができるようになった」
「患者の対応の勉強に
なった」
「患者の気持ちを理解したうえで看護師としての考え
ができるようになった」
「患者の気持ちに傾聴できるように書
いていた」
「自分がこう言われたいということを書いている自
分に気づいた」「自分の看護師としての方向に気づいた」「相
手を傷つけたり、不快にならないように気をつけた」
「実際に
はしないやり取りをして不思議な体験をした」
「働いている経
験が少なくぎこちなかった」
考 察
自由記述の内容から、春口(2007)が指摘した感情の明確
化や自己と他者の視点の獲得などの臨床的仮説に沿った内容
が多く記述された。また、下村(2007)が指摘した患者の看
護に気づきという点からもリフレクションの効果も見られた
と考えられる。これらのことから RL にはある程度の効果があ
ると考えられる。
本研究の対象者は、准看護師としての職歴があるがそのキ
ャリアに幅があり年齢にも幅が大きい。そこで、内容の検討
を行う際には職歴や年齢による検討も必要であろう。たとえ
ば、入院疾患を自由設定としたが、自分の職場の診療科の疾
患を選択するものと無関係な疾患を選択するものがおり、手
紙の内容の具体性に関係する可能性がある。
また、実際に患者と看護師間で手紙のやり取りをすること
はまれである。漠然とした設定では変化が感じられないこと
や、手紙を書くことに困ることも指摘され、役割設定と実施
手順の精査が必要であると思われる。
様々な背景を持つ准看護師を対象として行った今回の研究
では、ロールレタリングの様々な効果が確認された。しかし
その内容が混在し分かりにくい側面がある。今回の結果をも
とに質問項目に対する量的分析をするための手続きと、限ら
れた時間内での教育現場へのフィードバックの方法と内容の
選定をしていく予定である。
引用文献
春口徳雄(2007)ロールレタリングの技法とは 松岡洋一・
小林剛(編)現代のエスプリ 482 ロールレタリング(役
割交換書簡法)pp.30-42.
下村明子(2007)看護に活かすロールレタリング 松岡洋一・
小林剛(編)現代のエスプリ 482 ロールレタリング(役
割交換書簡法)pp.140-152.
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