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<実践事例2> 絵画 「身近な土から絵の具をつくって描く」
<実践事例2> 絵画 「身近な土から絵の具をつくって描く」 (6 時間) 長島春美(東京都立大泉桜高等学校) 【内容概略】 ■ 絵の具の成り立ち(顔料+接着剤)と絵の具の種類と組成、 性格について学ぶ ■紙の表面処理(礬砂引き)を経験し表現への影響を知る ■身近な土から絵の具をつくる ■日本画の基本技法を知り、練習する ■ 土から作った絵の具で生き物を描く(生き物の美しい形を 学び、土と水の力、紙の性質を知り、それらをうまく 使いながら対象を表現する) ■構図を考えて、色紙に描く 【ねらい】 ・自分たちの環境の中に、表現を支えるものが存在していることを知る。(絵画−画材の歴史と精神史 との関連を含めて) ・土の絵の具を観察して、絵の具による「表現」の原点に気づく(顔料の密度・水による顔料の動きな ど) 。 ・彩色筆の表現力を知り、使いこなす。 ・対象物から感じ取ったものを表現素材、道具の特質とすり合わせて、表現の形を見つけていく。 【授業をやってみて】 素材の特質を全身で感じ取り、驚き、疑問を持ち、解決していく中で、物事の関係に気づき、自分が創 造する主体となる態勢をつくっていくことが造形教育の基本にあると思う。 「表現」とそれを支える「も の」との関係に気づき、自らが創造的立場に立つ視点と情報を得る上で格好の題材であると感じた。 【生徒の感想】―制作記録・感想文から― 《土から絵具を作ることについて》 ★ あり物の絵の具に頼らなくても材料さえあれば土で簡単に作ることができる。これは始めてのことだっ たし、土で絵の具が作れるなんて思ったこともないので筆で描けた瞬間はちょっと驚きだった。土の絵 の具は独特の描き心地で、素朴な色だった。色の明暗をつけるのも普通の絵の具よりも簡単にできた。 だから魚とかイカとかみずみずしい物を描くとその物の特徴を表すのに便利だと思った。イカは透明な 部分は薄く延ばして色を余りつけず、そうでない部分は思いっきり大胆に色をつけるとかなり良い感じ になった。魚やイカに限らず自然の物を自然の土で描くというのははっきりとわからないけど自然とい う大きな接点があるので何か他とは違う良い物を感じる。―土から絵の具を作るのも油絵も新しい尽く しの2学期だった。土の絵の具は一色しかないのに、一本の筆の使い方を工夫するだけでイカの生々し さが表現できた。どちらも難しかったけど難しいだけじゃなくて描く楽しさ、観察する大切さを感じた。 ★ さっきまで学校にあった土が絵を描く物になるなんてビックリした。 ★ 家の前で取ったときの土はあんなにざらざらしていたのに、絹の篩にかけたら砂のようにさらさらにな りました。この土で砂どんな絵が描けるのか楽しみです。 ★ 持参した土を漉したら少ししかとれなく、だいぶん細かいのができました。次回からこれを使って描く のが楽しみです。 ★ 見た目荒くざらざらな土にあれだけ細かな粒子がたくさんあったのに驚いた。 ★ 最初はどうなるのかと思っていたが砂が段々細かくなり、絵の具に近づいていくと面白かった。ざらざ らとした感じが残り、自分の思う線が描けなかった.砂の絵の具は扱いが難しいけれど違った質感でい いと思った。 ★ 土から絵の具を作るのは始めてで驚く事も多いけど面白い。身近な自然から絵の具を作れる事はすごい。 ★ 砂のいい味がして思ったより良かった。来週はとんぼとか西瓜が描きたい。 ★ いつも使っている物と違ったので新鮮な感じがした。 ★ 土の絵の具は墨絵のように味があっていいと思った。 ★ 土から絵の具が作れるなんて全然知りませんでした。 ★ 土から絵の具を作るって聞いて「エえーっ!?」と思ったけど、先輩達の作品を見てびっくりした。 「土 から」って言うのにも驚いたけど「一色で」しかも「筆」であんなに細かく描写していてすごいと思う。 《礬砂引きについて》 ★ 絵にはいろいろな技法があり、塗り方や絵の具を変えるだけでなく、紙を変えるという方法もあるとい うことを知って驚いた。 ★ 紙の種類だけではなく、紙にする加工で表現方法が更に多様化するということに驚いた。 ★ どうさと墨は2種類の絵が重なって面白い.礬砂で模様を描いて上から絵を描くのも楽しそう。 ★ 「魔法の水の種明かし」でびっくりした。こんなこともできるんだなー!! 《土と水の動き、対象の観察》 ★ イワシは上端は黒く、中部は白く光っています。一色だけで上手く色の変化を付けなければなりません でした。後で見ると一つ一つの粒子が見え、粒子の集まりで濃淡が変わるんだなと思いました。 ★ 普通の絵の具とは違って粒子が粗かった。だけどそれが味わいを出して面白いと思う。次はもっと違う モチーフを描きたい。 ★ みんな持ってきた土が違うので絵の具の色も形も違いました。土が水にゆれると土の粒子が意志を持っ たように泳いでそれを見るのが面白かったです。乾くと土の色も変わって絵の形が変わり、又違う面が 見られたなと思いました。 ★ 1学期に使った水彩絵の具よりも絵の具の動きがはっきり見えて面白かったです。水の流れに沿って土 の粒が揺れてきれいでした。来週は違う物をモデルにして描きたいです。 ★ いつも使っている絵の具と違い、とてもざらざらしていて、紙に描いた時薄いところがもう土の粒もな く、すごく透明度があった。 ★ 絵を描いているうちに段々描く事が面白くなって行った。水が乾く前と後で絵の感じが変わっていた。 思ったより濃淡が出やすかった。 ★ 土は土でも色の違いが結構ある。土の粒は思ったより大きいものから小さいものまである。この顔料で 描いた絵が何か柔らかい感じだなあと思った。 ★ 土の中には色々あった。中には虫の死骸が変化したのも入っているのかなと思った。 ★ 土で作った絵の具は不通の絵の具よりも粒子が粗く紙に描くとざらざらとしていた。普通の絵の具とは 違う味があってよい。色紙がすごく水を吸い込んで驚いた。何が塗ってあるのか気になる。 ★ 独特の顔料のさわり心地が気持ち良かった。水の量によって濃さがすごく変化するので、もっとたくさ ん描いていたかったです。 ★ 「イカ」を描いたのだが、思ったより足の割合に比べ胴の割合が大きいのに気付いた。 ★ (蝶の)羽の間隔をもっと良く見るべきだった。 ★ 伸びが悪い。水をつけると薄くなるがどんどんざらざらになる。市販の絵の具と違い、筆についても洗 えばすぐ落ちる。 ★思った以上に伸びがなかった。絵もペンや鉛筆ではかけない絵が描けたと思う。それと絵が渋いイメージ になった。 《技法などの工夫》 ★ ぼかしとかたらしこみとか使えそうなところがあった ★ 砂の粒の粗密でナスの色の濃淡が簡単に表せた。砂の絵の具の利点だと思いました。砂をうまく使って 質感を表す事ができた時もとても達成感がありました。 ★ 一つの絵の“どこに” “どんな”技法を使うか。 “濃さ” “線の明瞭さ”など一つの絵でも相当頭を使わね ばならないと思った。 ★なかなか自分の思い通り見絵の具が動いてくれなくて難しかった。水をつける量、絵の具の量を調節する のは難しい。もう少しモデルを見て描かなきゃいけないなと思った。本番で色紙に魚を描く日は楽しく描 けた。魚に似ているか、うまいかは別として自分の描いている物にすごく愛着が湧いてきて出来上がりも なかなか満足でした ★ 薄墨なのに水の量を少な目にしてしまい、濃くなってしまって模様が変に見えた。 ★ 全体に淡い感じの絵になってしまった。けど、枝だけはごつい感じが出せたと思う。くりの棘がむずか しかった。 ★ 練習の時、もっとこうした方が良いなあと思ったところが清書でも上手くいかなかった。気が付くと細 いところも太めになってしまった。もっとごつごつ感を出せたら良かった。 ★ 土の顔料に膠を混ぜただけで普通の絵の具みたいになった。先輩が考えた技法のほかに、筆のおさえ具 合を変えて線をひくという技法も発見した。まるでひょうたんがつながったような線だった。 ★ イカを描く時、少しでも味を出す為に色の明暗をはっきりした。他にも筆に水を含ませて、たらしてイ カのみずみずしさを出そうとした。 ★ 資料にある技法を使うと粒子が縁に流れるのを学びました。今回もそれを利用し、縁だけはっきり見せ る技法が使えました。 《他の生徒作品を見る》 ★他の人の作品から自分の作品に鮮明さが足りないことに気づいた。 ★ 違うクラスの人の作品を見て本当にいろいろな描き方があるなあと思いました。まねしたいところも幾 つかあったので、今度の自分の作品で活かしていきたいです。 ★ みんなの絵の鑑賞はもっとじっくり見たかったです。少しの時間だけれど色々参考になったからです。 ★ 同じモデルでも人によって描き方がかなり違い、個性がでると思った。 ★ 他の人の作品を見て、いろいろな技法や表現の仕方があることがあらためてよくわかった。これからは もっと効果的な使い方をしたい。 ★ みんなそれぞれモデルの感じがでていて時間内にどれを描こうか迷っていた。 ★ みんな上手く描けていて驚いた。「もっと、がんばらなきゃ」というやる気がわいてきた。 ★ 他のクラスの絵には思いもよらなかった技が使ってある絵があったりして感動だった。 ★ 良く見てじっくり丁寧に描く事が大事だと思う。私にはこれが足りないんだ。 《土の絵具への好感》 ★ 土の絵の具はすごく気に入ったので又やりたいです。もうすぐ祖父の誕生日なので手紙と一緒に土の絵 の具で書いた絵を添えようかなと思っています。 ★ 生の魚を描くのは考えていたより楽しいし、難しいことではなかった。土の絵の具ででる色の違いはと ても美しい。サイン書くのも面白かった。 ★ イカの足とか複雑で大変だったがよく観察することにより、リアルにかけたのが良かった。イカの吸盤 もこの砂の絵の具だったからこそ上手くできたと思う。普通の絵の具ならべたっとなって上手くかけて いなかったと思う。今日描いた絵が今までで一番良くかけたと思う。 ★ 土の粒が大きくざらざらした感じになってしまった。水と一色の絵の具で描くのも面白いと思う。普段 使う絵の具とは描き方も違い、また違った味が出ていた。 ★ 独特の味がある面白いものができたと思う。 ★ 泥の絵の具はとても味わいがあって好きだが、乾いた時にうっかりすると落ちてしまうのが悲しい. ★ 色紙を使うときはとても緊張した.先週と同じモデルを使って描いたら、色々新しい発見があってびっ くりした。尾びれとか。色の濃淡をつけるのはうまくなった(と思いたい)泥の絵の具はちょっとした 水加減で表情が変わるので描いていて楽しかった。 《授業を通じて考えたこと》 ★ 昔は土から絵の具を作っていたが現在はチューブから簡単に絵の具を出せる。世の中全体が便利になっ ているが、便利になりすぎると人間は退化してしまうのではないかと思う。 ★ この1年の美術の授業.ピカソの絵から始まって最後のエッチングまで全体を通して学んだ事は技法的 なことよりも、ものを見る時もっと色々な視点で見てみたり、その物の性質や中身まで考えてみたり、 またそうして見て感じた物を頭の中でもっと展開させたりするといった、物の見方感じ方だと思います. そしてそうした事を学んでいく時にいつも考えていたのは、そうして自分が感じた物をどうやったら表 現できるのかということでした。そしてこの1年で作った作品を見てみるとそれを表現する為に色々と 工夫している事が自分でもわかるくらい多くの事を試したりしていたのだと感じます。制作記録を読み 返して見るとどこに書いてあることも忘れてはいけない大切なもののように感じます。そしてそこに書 いてあるのは上に書いてあるようなことが多くまた、初めて気がついたようなことがかなりあることが わかりました。実際授業を思い出して見るとやって見て初めてわかる新しい発見がかなり多かったと思 います。そして新しい発見が一つある毎に美術が面白くなって行きました。この1年で美術に対する考 え方が少し変わったような気がします。 ★ 小中学校とは違い、楽しいだけでなく少し苦痛に感じたりすることも多かったけれど、取り組んでいる うちに自然とその楽しさがわかり、何となく楽しみになっている自分が何となく不思議だった。これか らも美術を通して技術面だけでなく内面の成長も望んで行きたいと思います。―こうして良く見て観察 していると普段いかにいいかげんに見ているかが良くわかりました。モデルになった物ももちろんです が、そうでない物も良く見て見ればもっと色々なことがわかるときがつきました。 「色 ★ たった水と土と膠だけでとてもいろいろな表現ができることがわかってとても充実した時間だった。 紙に書く。」 なかなか緊張しすぎて手が震えてしまったけど、練習のときに修正の仕方を学んだので助 かった。もっといろいろな技を発見し、使いこなせるようにしたい。 ★今日は「試し」だったのですごく気軽に描けた。いつもはもっと失敗を気にするけど。すごく新鮮な気分 だった。