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天草本平家物語小考・その二 ― 近藤政美氏の論に

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天草本平家物語小考・その二 ― 近藤政美氏の論に
遠 藤:天 草 本 平 家 物 語 小 考 ・そ の 二
17
天 草 本 平 家 物 語 小 考 ・そ の 二
近 藤 政 美 氏 の論 に 対 し て
天 草本 平 家 の底 本 に つい て、 清 瀬良 一氏 は 、 ﹃天 草 版 平 家 物 語 の基
礎 的 研 究 ﹄ (渓 水社 ・昭和 五十 七 年十 二 月 ) に お い て、 天 草 本 巻 第 二
の 一 (妓 王 ) 以 前 の範 囲 は 龍 大 本 の類 の本 文 に 一方 流 諸 本 そ の他 と の
校 異 が 記 さ れ た 書 き 入 れ 校 合 本 、 ま た 、 巻 第 二 の 二 以F の範 囲 は慶 応
本 (斯 道 文 庫 蔵 百 二 十 句 本 ) の類 の本 文 に諸 本 と の校 合 か な さ れ た修
訂 本 で あ った と 推 定 な さ る よ う であ る (た だ し 、 慶 応 本 欠 巻 の 巻第 八
に該 当 す る部 分 を 除 く )。
そ し て 、 天 草 本 巻 第 一の底 本 の形 成 には 百 二十 句 本 (平 仮 名 本 ) は
関 与 し て いな いか 、 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) の底 本 の本 文 の形 成 に は そ れ
か関 与 し て いる と さ れ た 。
こ の巻 第 二 の 一以 前 の範 囲 に お け る 百 二十 句 本 の関 与 と い う問 題 を
清 瀬 良 一氏 の ﹃天 草 版
﹂ (﹃鈴 木 弘 道 教 授 退 任 記 念 国 文
め ぐ って 、筆 者 は 、 ﹁天 草 本 平 家 物 語 小 考 平 家 物 語 の基 礎 的 研究 ﹄ に つい てー
学 論集 ﹄ 奈 良 大 学 国 文 学 研 究 室 ・昭 和 六 十 年 三 月 ) と いう 拙 論 に お い
て、 天草 本 平 家 の巻第 一か ら 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) ま で の編 集 に は覚 一
本 系 の底 本 のほ か に 、 何 ら か の形 で八 坂 流 甲 類 本 が 関 与 し て い る の で
*遠
藤
潤
一
は な いか と 述 べ、 そ の問 題 に つい て 次 の よう な 考 え 方 を 可 能 性 の高 い
①
龍 大 本 ・高 野 本 ・西 教 寺 本 の よ う な覚 一本 (ま た は 一方 本 ) が
と 思 わ れ る 順 に列 挙 し た 。 す な わ ち 、
底本 であ ったが 、 口語訳者 が八 坂流 甲類本 (特 に鍋 島 本 ・国 会本 ・
京 都 本 な ど の平 仮 名 百 二十 句 本 の類 ) に親 し ん で いた た め 、 口 語
訳 に 際 し てそ の語 句 の影 響 が 生 じ た こと によ る も の。
と いう 考 え 方 を ま ず 挙 げ た の で あ る が、 ﹁八 坂 流 甲 類 本 ﹂ を ﹁特 に
平 仮 名 百 二 十 句 本 の類 ﹂ と し た の は 天 草本 と の語 句 の 一致 で百 二十 句
本 の場 合 が 顕 著 で、 そ の中 でも 片 仮 名 本 の慶 応 本 と 一致 す る 場 合 よ り
た か ら であ る 。 次 に 、
も 平 仮名 本 の国会 本 ・京都 本 と 一致す る場 合 の方 が 見 掛 け の上 で多 か っ
龍 大 本 ・高 野 本 ・西 教 寺 本 の よ うな 覚 一本 (ま た は 一方 本 ) の
本 文 的 下 地 に 、 八 坂 流 甲 類 本 (特 に鍋 島 本 ・国 会 本 ・京 都 本 な ど
②
の平 仮 名 百 二 十 句 本 を 中 心 と し た) の語 句 の影 響 の強 く 加 わ った
本 文 を 有 し て いた こと によ るも の 。
と いう 考 え 方 を 挙 げ た 。 これ は 底 本 の本 文 自 体 に 平 仮 名 百 二十 句本
の影 響 のあ った 場 合 を 想 定 し た も の であ る。 し か し 、 こ の考 え方 に つ
い て は ﹁巻 第 二 の二 以 下 の底 本 変 更 の動 機 に つい て、 や や 考 え に く く
受 理)
*国 文学 科(昭 和62年9月30日
要
良
奈
18
第16号
紀
大 学
と いう 筆 者 の仮 説 か ら
れ 、 次 第 に 百 二十 句 本 への指 向 性 が 高 ま り、 編 集 L の 一段 落 で あ った
一本 が 底 本 と さ れ て いた のだ が 、 そ の編 集 過程 で百 二十 句 本 が参 照 さ
草 本 平 家 は 編 集 開 始 か ら 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) ま で の範 囲 は覚 一本 系 の
な る ﹂ と いう 難 点 を 付 記 し た 。 これ は ど の よ う な意 味 かと い う と 、 天
応 が 生 じ た と 推 測 な さ る。 なお 、 こ の論 では 拙 論 の存 在 に は 触 れ て い
二 十 句 本 と の校 異 語 句 が 記 入 さ れ て いた こと によ って、 こ のよ う な 対
た 覚 一本 系 の 一本 に天 草 本 巻 第 二 の 二以 下 の原 拠 本 と な った 片 仮 名 百
片 仮 名 百 二十 句 本 に対 応 す る語 句 のあ る こと を 指 摘 し 、 原 拠 本 で あ っ
こ の論 は やは り 清 瀬 説 に対 す る論 であ り 、 天 草 本 巻 第 一の範 囲 に も
照 応 に つい て﹂ (﹃名 古 屋 大学 国 語 国 文 学 58 ﹄昭 和 六 十 一年 七 月 )
諸 本 と の語 句 の照 応 に つい て﹂ (﹃松 村 博 司 先 生 喜 寿 記 念 国 語 国文
﹁天 草 版 平 家 物 語 巻 皿第 1章 (妓 王 ) と 平 家 物 語 百 二 十 句本 系
学 論 集 ﹂ 右 文 書 院 ・昭 和 六 十 一年 十 一月 )
②
底 本 であ った が 、 そ れ と 共 に巻 第 二 の 二以 下 の底 本 であ った 八 坂
龍 大 本 ・高 野 本 ・西 教 寺 本 のよ う な覚 一本 (ま た は 一方 本 ) が
な い。
﹁妓 王 ﹂ 章 (巻 第 二 の 一) の追 加 的 採 録 の後 、 つい に巻 第 二 の こ か ら
は 百 二 十 句 本 が 底 本 と さ れ る こと にな った ー
③
逸 れ る こと に な る と いう 意 味 であ る 。 次 に 、
流 甲 類 本 (慶 応 本 のよ う な 片 仮 名 百 二十 句 本 の類 ) を 参 照 し た こ
清 瀬 氏 は 天 草 本 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) の範 囲 に 平 仮 名 百 二 十 句本 に対
応 す る 語 句 のあ る こと を 指 摘 し 、 原 拠 本 であ った 覚 一本 系 の 一本 に平
と に よ る も の。
と いう 考 え 方 を 挙 げ た 。 これ は 、 天 草 本 平 家 の編 集 は 覚 一本 系 の 一
の論 で片 仮名 百 二十 句本 と の対 応を 主張 し、 氏 の論 ω の場 合 と 同 様 に 、
仮名 百 二 十 句 本 と の校 異 語 句 が 記 入 さ れ て いた こと に よ って こ の よ う
原拠 本 であ った覚 一本 系 の 一本 に天草本 巻 第 二 の二 以 下 の原 拠本 と な っ
な 対 応 が 生 じ た と 推 測 な さ るわ け であ る が 、 そ れ に 対 し て 近 藤 氏 は右
二 の 二 か ら は そ の片 仮 名 百 二 十 句 本 が 底 本 と さ れ る こと に な ったー
た 片 仮 名 百 二 十 句 本 と の校 異 語 句 が 記 入 さ れ て いた こと に よ って こ の
二十 句 本 が 参 照 さ れ 、 次 第 に そ の参 照 の度 合 いが 高 ま り 、 つい に巻 第
と い う 考 え 方 であ る 。 筆 者 の仮 説 と し ては こ の考 え 方 が 最 も 自 然 か と
よ う な 対 応 が 生 じ た と さ れ る。 な お 、 こ の論 の ︹追 記 ︺ で 拙論 の存 在
本 を 底 本 と し て開 始 さ れ た が 、 そ の底 本 と 共 に慶 応 本 の類 の片 仮名 百
ま で に お け る 百 二 十 句 本 と 一致 す る 語 句 が 、 片 仮 名 本 の慶 応 本 と 一致
思 った のであ るが 、残 念 な が ら 調 査 で は巻 第 一か ら巻 第 二 の 一 (妓 王 )
﹁天 草 版 平 家 物 語 巻 1と 平 家 物 語 百 二十 句 本 系 諸 本 と の語 句 の
﹁天 草 版 平 家 物 語 巻 1 ・巻 H第 1 章 (妓 王 ) の原拠 本 の本 文 の
遠藤 論 文 の批
﹂ (愛知 県 立 大 学 ﹃説 林 ﹄ 第 35 号 ・昭 和 六 十 二 年 二 月 )
形 成 に 関 与 し た 百 二十 句 本 系 平 家 物 語 に ついて i
判1
の説 と し て は 前 述 のよ う に筆 者 は ① か ら ⑤ ま で の考 え方 を 掲げ て い る
与 し て いる と す る 筆 者 の説 を 肯 定 でき な いも ので あ る と さ れ る。 筆 者
充分 な 点 を 指 摘 し 、 天 草 本 の こ の範 囲 の編 集 に 平 仮名 百 二十 句 本 が 関
こ の論 は 前 記 拙 論 の批 判 を 目 的 と し た も ので 、 ま ず 筆者 の 調査 の不
㈹
に触れられる。
た の で 、 ど う し ても ① ・② の考 え 方 を 先 行 さ せ な け れ はな ら な か った
す る場 合 より も平 仮名 本 の国会 本 ・京都 本 と 一致 す る 場 合 の方 が多 か っ
以L のほ かにも ④ ・⑤等 の考 え方 (本 槁 では 省 略 す る ) を 挙 げ 、 種 々
のである。
と こ ろ で そ の後 、 拙 論 と 一面 に お い て共 通 性 のあ る 論 が 出 た 。 そ れ
の角 度 か ら の検 討 が 必 要 な の では な いか と 述 べた の であ った 。
ω
は近 藤 政美 氏 の左 記 の論 文 で あ る (発 表 順 に番 号 を 付 し て示 す )。
遠 藤:天 草 本 平 家 物 語 小 考 ・そ の 二
19
わ け で あ る が 、 近 藤 氏 は そ の中 の① を 筆 者 の説 と し て論 を 進 め て お ら
か ら 検 討 す る方 が都 合 が良 いと 考 え る 。
は 、ま ず底 本 の変 わる巻 第 二 の二 の直 前 に位 置 す る巻 第 二 の 一 (妓 王 )
る と いう こと を 示 す 目 的 を も 有 し て いた こと か ら 、 掲 げ ら れ た例 に は
を 指 摘 さ れ た例 の中 に も こ のよ う に百 二 十 句 本 等 と の対 応 も 指 摘 でき
み る こと に し た。 前 記 拙 論 は 、 清 瀬 氏 が 覚 一本 系 ・ 一方 本 系 と の対 応
く 除 去 し 、 百 二十 句 本 系 だ け と の対 応 例 に焦 点 を 合 わ せ て再 検 討 し て
の中 の百 二十 句 本 と 対 応 す る と 共 に覚 一本 系 と も 対 応 す る例 は な る べ
お い て述 べ て み る こ と に し た い。 本 稿 では 、 前 記 拙 論 に掲 げ た論 拠 例
さ て、 そ こ で近 藤 氏 の批 判 を 受 け て再 考 察 し た 筆 者 の見 解 を 本 稿 に
王 ﹂ 章 に百 二十 句 本 の語 句 の 影 響 が 特 に 強 く 見 ら れ ても 不 思 議 では な
関 係 を 有 し て いた と し た ら 、 そ の巻 第 二 のこ の直 前 に挿 入 され た ﹁妓
わ る と いう こと と 何 ら か の関 係 を 有 し て いた かも 知 れ な い。 そし て 、
す る と 、 そ の反 省 は ま た 、 次 の巻 第 二 の二 か ら底 本 が 百 二十 句 本 に変
た た め か 、 改 め て注 目 さ れ 、 追 加 採 録 さ れ たも のと 考 え られ る。 そう
第 一の最 終 話 ﹁有 王 ﹂ の話 と 内容 的 に好 一対 と な ると い う見 方 が 生 じ
お け る 物 語 の展 開 の緊 密 化 を 図 って省 略 さ れ た ﹁妓 王 ﹂ の挿 話 が 、 巻
た 時 点 であ る。 そ こ で 、 そ れ ま で の編 集 に 反省 が加 え ら れ、 冒 頭 部 に
の 一本 を 底 本 と し た範 囲 の編集 が 一段 落 し た のは 巻第 一の編 集 を 終 え
ま た 、 別 の 理由 と し て次 の こと が 考 え ら れ る 。 す な わ ち、 覚 一本 系
れ る。 な お 、 近 藤 氏 の右 の論 にお け る 見 地 も 氏 の論 ω ・② に お け る 見
地 、 す な わ ち 原 拠 本 の本 文 の形 成 に関 与 し た のは 片 仮 名 百 二十 句本 で
覚 一本 . 一方本 と対 応す る と共 に百 二十 句 本 と も 対 応 す る 例 が 多 く な っ
いと いう こと にな る。 こ の よ う に 考 え る と 、特 に巻 第 二 の 一 (妓 王 )
あ る と す る 見地 で あ る 。
た の であ る。 し か し 、 こ の よ う な 双 方 に対 応 す る 例 は 数 が 多 く ても 百
に注目する必要がある 。
二十 句 本 の語 句 の影 響 を 、 平 仮名 百 二 十 句本 に よ るも の では な く 片 仮
と ころ で、 天 草 本 平 家 の巻 第 二 の 一 (妓 王 ) 以前 の範 囲 にお け る 百
ので あ る 。
以 上 のよ う な 理 由 で筆 者 は 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) の検 討 を 先 行 さ せ る
二十 句本 の影響 を指 摘 す る 論 拠 例 と し て は 確 か に あ ま り有 効 では な い。
こ の点 を 反 省 し て今 回 の よ う な 方 法 で再 検 討 す る こと にし た 。
な お 、 清 瀬 氏 ・近 藤 氏 は 百 二 十 句 本 の影 響 を 天 草 本 平 家 の原 拠 本 へ
の影 響 と し て考 え て お ら れ る が 、 筆 者 は 天 草 本 平 家 の編 集 過 程 に おけ
る 直 接 的 影 響 と い う こと を 中 心 と し て 考 え て いる 。
天 草 本 平 家 巻 第 一お よび 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) に お け る 百 二十 句 本 の
れ た と 考 え る こと が 可能 と な る か ら であ る 。 つま り、 前 記 拙 論 に お け
た 片 仮 名 百 二十 句 本 が 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) 以前 の編 集 に お い て参 照 さ
ぶ る 都 合 の良 い説 であ る。 なぜ な ら ば 、巻 第 二 の 二以 下 の底 本 と な っ
名 百 二 十 句 本 によ るも の であ る と す る 近藤 氏 の説 は 筆 者 にと ってす こ
語 句 の影 響 と いう 問 題 に つい て 、 筆者 は ま ず 後 者 の範 囲 す な わ ち 巻 第
る ③ の考 え方 が有 効 と な る わ け であ る 。
前 記 拙 論 の① の考 え 方 で は 、 天 草 本 編者 は巻 第 二 の 一 (妓 王 ) の範
ら 底 本 の ほか に百 二十 句 本 が参 照 さ れ て いた と し た ら 、 そ の参 照 の度
囲 ま で は 平 仮 名 百 二十 句 本 を 参 照 し 、 次 の巻 第 二 の 二以 下 の編 集 には
合 いが 次 第 に高 ま り 、 つい に巻 第 二 の二 か ら は 百 二 十 句 本 が 底 本 と さ
片 仮 名 百 二 十 句 本 を 底 本 と し た と いう こと に な る。 同 じ百 二十 句 本 系
れ る に 至 った か と い う こと が考 え ら れ る 。 そ し て 、 そ の検 討 のた め に
二 の 一 (妓 王 ) に注 目 す る。 理 由 は 、 仮 に 天 草 本 平 家 の編 集 の当 初 か
二
要
学
大
良
奈
と いう こと で問 題 は 無 いと し ても 、 平 仮 名 本 を なぜ 片 仮 名 本 に 変 更 し
書 にお け る番 号 。 ま た 、 イ ・ロ ・ハ等 の例 は 筆 者 指 摘 の例 )。
し て対 応 す る A類 の例 か ら再 検 討 し よ う (例 の番 号 は 清 瀬 氏 の前 記著
㎝
た の か が 問 題 と し て残 る こと にな る。 それ に対 し て、 巻 第 二 の二 以 下
の底 本 と な った 片 仮 名 百 二十 句 本 が 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) 以前 の編集 に
お け る 八 坂 流 甲 類 本 の影 響 と 考 え ら れ そ う な 語 句を 二 三 例 挙 げ た 。 本
と に し た 。 筆 者 は 前 記 拙 論 にお い て天 草 本 平 家 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) に
そ こ で、 近 藤 氏 の批 判 を 受 容 し て改 め て こ の問 題 を 検 討 し て み る こ
本 と の 一致 を 指 摘 し た の であ った 。 ま た そ の後 、 八 坂 流 丙 類 (山 下宏
明 氏 の分 類 で は第 四類 ) の建 仁寺 両 足院 本 にも ﹁
楽 ミ栄 テ モ何
れ に対 し て筆 者 が屋 代 本 、 そ し て平 仮 名 百 二十 句 本 系 の国 会 本 ・京 都
偶 然 の 一致 かも 知 れ な いと 考 え て 、参 考 と し て示 さ れ た 例 であ る 。 そ
な る の であ る が、 本 例 は 清 瀬氏 が 一方 本 系 の神 宮 本 だ け と 一致 す る が
娑婆 の栄 華 は夢 の夢 なれば 、楽 し み栄 え ても 何 せ う そ ? (H 巻 ・
お い ても 参 照 さ れ た と 考 え ら れ る の であ れば 、 右 の よ う な問 題 は 生 じ
05頁 )
1
天 草 本 平 家 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) の本 例 傍 線 部 ﹁も ﹂ の対 応 が 問 題 と
稿 で は ま ず そ の中 の百 二十 句 本 と 対 応 す る 語句 に 焦点 を 合 わ せ 、 そ れ
な い。
ら 一八 例 を 前 記 拙 論 の調 査 結 果 に従 って左 記 のよ う に 分 類 し 、 影 響 の
ナ ラ ス﹂ と あ り、 一致 す る こと が わ か った 。 近 藤 氏 は 拙 論 に対 す る 批
A
主 と し て平 仮 名 本 系 の国 会 本 ・京 都 本 と対 応 す る 語 句
四例
五例
と す る 一方 、
述 べ、 ま た 八 坂流 甲類 本 の影 響 と 考 え る余 地 が 全 く な いわ け では な い
判 であ る論 ㈹ に お いて 、 覚 一本 系 の東 大 国 文 本 1な ど にも 一致 す る と
ユ 可 能 性 に つい て再 検 討 す る こと に し た 。
九例
斯 道 本 ・小 城 本 に ﹁も ﹂ が な い から と い って、 鍋 島 本 な
主 と し て片 仮 名 本 系 の慶 応 本 ・小 城 本 と 対 応 す る 語 句
ど の平 仮 名 百 二十 句 本 に限 定 し て関 係 を 求 め る のは 十 全 でな い。
平 仮 名 本 ・片 仮 名 本 のど ち ら にも 対 応 す る 語 句
右 の分 類 で、 た と え ば A類 の例 で覚 一本 系 ・ 一方 本 系 と の対 応 が 無
B
く 、 平 仮 名 百 二十 句 本 だ け に対 応 の見 ら れ る例 の場 合 は 天 草 本 平 家 編
と い う の は 、山 下 宏 明 氏 が 想 定 さ れ た、 現 存 し な い漢 字 片 仮 名 交
C
集 に お い て平 仮 名 百 二十 句 本 が 何 ら か の形 で関 与 し て いる と 考 え ら れ
り の百 二十 句本 のよ う な 場 合 も 考 え ら れ る から であ る 。
同 様 )、 ま た ﹁鍋 島 本 ﹂ と は ﹁国 会 本 ・京 都 本 ﹂ に 先 行 す る 平 仮 名 百
と 述 べら れ る 。﹁斯 道 本 ﹂ と は 筆 者 の言 う ﹁慶 応 本 ﹂ の こ と (以 下
ヨ る 可 能 性 が 高 い例 と いう こと に な る。 B類 例 に つ いて も 同様 の考 え 方
の検 討 の結 果 、 関 与 の可 能 性 の高 い の が A類 で あ る と し た ら 、 そ の A
が でき る 。 ま た 、 C類 は それ 自 体 中 間 的 存 在 に 過 ぎ な いが 、 A ・B 類
二十 句 本 で あ る 。
げんざう
京 中 の上 下 ﹁妓 王 こそ 清 盛 の暇 を くだ され て出 た と い ふ に、 い
会 本 ・京 都 本 と の 一致 を 補 足 し た 。 近 藤 氏 の論 ② は拙 論 を 見 ず に独 自
本 と 一致 す る と さ れ た 例 であ る 。 筆 者 は そ れ に平 仮 名 百 二十 句 本 の国
本 例 傍 線 部 ﹁清 盛 の﹂ の ﹁の﹂ は 清瀬 氏 が平 仮 名 百 二十 句 本 の鍋 島
ざ 見参 し て遊 ば う ﹂ と 言 う て 、 (H ・98 )
⑳
類 を 支 え る こと の でき る例 と な る 可能 性 が考 え ら れ る こと に な る 。 し
か し 、 本 稿 に お い て は原 則 と し て A ・B類 ま で の検 討 を お こな う こと
とする。
それ では ま ず 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) に お け る平 仮名 百 二 十 句 本 と 主 と
三
20
第16号
紀
遠 藤:天 草 本 平 家 物 語 小 考 ・そ の 二
21
た と 考 え てよ いよ う であ る 。 但 し 、 こ の ﹁入 道 殿 の﹂ は清 瀬 氏 の
こ の場 合 のみ に つい ては 原 拠 が 鍋 島 本 と 同 じ 語句 で あ っ
十 句 本 の国 会 本 ・青 難 本 ・京 都 本 でも 鍋 島 本 と 同 文 にな って いる と 述
の立 場 で書 か れ た も の であ ろ う が 、 そ の論 ② にお い て氏 は平 仮 名 百 二
と 述 べた 。 し か し 、 こ の よ う に 覚 一本 系 ・ 一方 本 系 と の照 応 が あ る の
れ ﹂) と さ れ た が 、 筆 者 は こ の② ・③ が 国 会 本 ・京 都 本 と も 照 応 す る
③ ﹁こ と で こ そ あ れ ﹂ は 芸 大 本 ・葉 子 本 に 照 応 す る (﹁事 に こ そ あ
倒 そ の上 わ ご ぜ は 三年 ま で 思 は れ ま ら し た れば 、 あ り が た い こと
ヨ
む
で こ そ あ れ 。 (皿 ・0 )
ユ
清 瀬 氏 は 本 例 傍 線 部 ① ﹁そ の 上 ﹂ が 西教 寺 本 と 一致 し 、 傍 線 部 ② ・
な 本 文 であ った と 推 測 さ れ 、清 瀬 氏 の主張 を 誤り と さ れ る 。
あげ ら れ た 鍋 島 本 に 限 ら れ た も の でな く 、 国 会 本 ・青 難本 ・京 都
であ る か ら、 平 仮 名 百 二十 句 本 の国 会 本 ・京 都 本 と の 照応 は 強 調 でき
る 本 と い った 平 仮 名 百 二 十 句 本 にも 認 め られ 、 山 下 氏 が そ れ ら よ り
な い。
べ、 さ ら に 、
先 出 の本 と し て 想 定 さ れ た 漢 字 交 り 本 など の よ う な、 斯 道 本 や 小
仏 を申 し て 、後 生を 助 か らう ず ると 言 う て、 袖 を 顔 に押 し あ て て 、
)
さ め ざ め と か き く ど いた れ ば 、 (H ・0
1
清 瀬 氏 は本 例 を 挙 げ て お ら れ な い。 こ の傍 線部 ﹁袖 を 顔 に押 しあ て
い か な る岩 木 の は ざ ま に も 倒 れ ふ いて 、命 の あ ら う かぎ り は 念
て﹂は 下村 本 ・流 布本 には 有 る。 それ と共 に 国 会 本 ・京 都 本 にも 有 る 。
ω
城 本 に 近 い範 囲 の本 にま で及 ぶ可 能 性 も あ ると 推 測 さ れ る の であ
る。
よ う な 平 仮 名 百 二 十 句 本 系 だ け と 対 応 す る例 の扱 い は、 そ れ ら の平 仮
し か し 、 こ の よ う に 一方 本 系 と の対 応 が 認 め ら れ る ので あ る か ら、 国
と述 べら れ る 。 つま り 、 前 掲 例 個 の場 合 と 同 方 向 の見 解 で あ り 、 片
名 本 に 先 行 す る 片 仮 名 本 (山 下 宏 明 氏 想 定 の漢 字 片 仮 名 交 り 百 二 十 句
会 本 ・京 都 本 と の対 応 は 強 調 し にく い。
え方 で こ の問 題 を 短 絡 的 に処 理 し て しま う と 、平 仮 名 百 二 十 句 本 だ け
の 一 (妓 王 ) の編集 に お い て国 会 本 ・京 都 本 のよ う な 平 仮 名 百 二十 句
以 上 が A類 に 属 す る 五 例 の検 討 であ る が 、 結 局 、 天 草本 平家 巻 第 二
仮 名 百 二 十 句 本 系 の慶 応 本 ・小 城 本 と は 対 応 せず 、 国 会 本 ・京 都 本 の
の が 近 藤 氏 の見 解 のよ う であ る 。 し か し、 諸 本 系 統 論 を 優 先 さ せ る 考
本 ) に も 対 応 し て いた 可 能 性 を 重 視 し て考 え な けれ ば な ら な いと いう
と 対 応 す る 例 は 現 実 には 有 っても 、 そ れ は無 い と い う こ と に な ってし
そ れ で は 次 に B 類 、 す な わち 前 記 拙 論 の調 査 結 果 では 主 と し て 片 仮
四
性 の方 を 重 視 す る 見 解 を 持 た れ る の であ る 。
対 応 よ り も 、 そ れ に 先 行 す る 架 空 の片 仮 名 百 二 十 句 本 と の対 応 の可能
に な る 。 そ し て 、 近 藤 氏 は こ の 二例 共 、 平 仮 名 百 二 十 句 本 と の実 際 の
そし て 、 や や 弱 く は な る が 例 個 、 こ の 二例 ぐ ら いし か 無 いと いう こと
本 が 何 ら か の 形 で 関 与 し て いる と 言 う た め の強 力 な 例 と し て は例 ⑳ 、
こ の世 は わ つ か の仮 の宿 り なれ ば 、 恥 ぢ ても 、恥 ぢ い でも さ せ
ま う の であ る 。
⑳
る こと でも な い 。 (H ・02 )
ユ
本 例 傍 線 部 ﹁わ つ か の﹂ は 清 瀬 氏 が ﹁鍋島 本 の本 文 に 注 目 す べき 語
句 の見 ら れ る 例 ﹂ と さ れ 、 鍋 島 本 の ﹁わつ か に﹂ と 照 応 す る 例 と さ れ
た 。 筆 者 は そ れ に国 会 本 ・京 都 本 (共 に ﹁わつ か に ﹂) の 照 応 を 補 足
し た 。 近 藤 氏 は 論 ② にお い て、 天 草 本 と 同 じ ﹁わつ か の﹂ と な って い
る 覚 一本 系 駒 大 本 25 の例 を 挙 げ 、 天草 本 の こ の部 分 の原 拠 は こ のよ う
要
学
大
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奈
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第16号
紀
にし よ う。 B類 に 属 す る 四 例 は 次 の通 り 。
名 百 二十 句 本 系 の慶 応 本 ・小 城 本 と 対 応 す る 語 句 例 を 再 検 討 す る こと
野 本 .芸 大 本 ・葉 子本 ・下 村本 と 一致 す ると され た 。 それ に対 し て筆
一致 を 加 えた 。 だ が 、慶 応本 ・小 城 本 と の 一致 のみ を 強 調 でき る 例 で
者 は 屋 代 本 ・平 松 本 ・竹 柏 園本 ・鎌倉 本 、 そし て慶 応 本 ・小 城 本 と の
そ の 上 年 も ま だ 若 う ご ざ る が 、 た ま た ま 思 ひ立 って参 った を す
げ な う 仰 せ ら れ て帰 さ せ ら れ う こと は 不 便 な 儀 ぢ ゃ 。 (H ・9
5)
的
の 一 (妓 王 ) の編 集 にお い て慶 応 本 ・小 城 本 のよ う な 片 仮 名 百 二十 句
以 上 が B類 に属 す る 四例 の検 討 であ る が 、 結 局 、 天 草 本 平 家 巻 第 二
は な い (た だし 、本 例 は第七 節 にお い て別 の観 点 か ら 再 び 取 り 上 げ る )。
線 部 ﹁若 う ﹂ は慶 応 本 、 そ し て平 松 本 と も 一致 す る 。 近 藤 氏 も 論 ② に
系 本 が何 ら か の形 で関与 し て い る と言 う た め の強 力 な 例 と し ては 例 ㈲ 、
ま ず こ の例 であ る が 、清 瀬 氏 は こ の例 を 挙 げ てお ら れ な い。 こ の傍
お い て慶 応 本 と の 一致 を 指 摘 さ れ る 。覚 一本 系 ・ 一方 本 系 と の 一致 は
そ し て 、 や や 弱 く は な る が 、 例 ω、 と いう と ころ で あ ろ う 。 つまり 、
清 瀬 氏 の鍋 島 本 か ら の論 拠 例 に ついて ﹂ に お
京 中 の 上 下 ﹁妓 王 こそ 清 盛 の暇 を く だ さ れ て出 たと い ふ に、 ー
⑳
そ の のち は ゆく へを ど な たと も 知 り ま ら せ な ん だ に、 ー (H ・
・02 )
もんじ
あ は れ こ れ は妓 と い ふ文 字 を 名 に ついた によ ってー (H ・94)
こ の世 は わつ か の仮 の宿 り な れ ば 、恥 ぢ ても 、恥 ぢ い でも ー (H
(1 ・98 )
㈱
⑳
⑳
に つい て 批 判 さ れ る 。 そ の五 例 と は 次 の通 り 。
い て 、 清 瀬 氏 が 平 仮 名 百 二十 句 本 の鍋 島 本 と の 一致 を 指 摘 さ れ た 五例
近 藤 氏 は 論 ② の ﹁二
す る のか 。 本 節 では そ の点 に注 目 す る こと にし た い。
致 例 を 指 摘 し て片 仮 名 百 二十 句 本 の関 与 と いう こと を 論 証 さ れ よ う と
と ころ で、 近 藤 氏 は 論 ② に お い て慶 応 本 ・小 城 本 と のど のよ う な 一
五
で、 近 藤 氏 の見 地 か ら は こ のB類 の方 が優 勢 と な ろう か 。
仮 名 百 二十 句 本 と の対 応 例 を そ のま ま で は 認め な い立 場 を 取 ら れ る の
言 え な い の で あ る 。 し か し 、 前 節 に お いて述 べた よう に、 近 藤 氏 は 平
A類 の場 合 と 同 等 と いう こと で、 こ のB類 の方 が特 に優 勢 であ ると は
今 のと ころ 指 摘 さ れ て は い な い。 片 仮 名 百 二十 句本 の関 与 を 主 張 す る
た と ひ 舞 を 御 覧 じ 、 う た ひを 聞 こし 召 さ れ ず と も 、 (H ・95)
ためには強力な例とな る。
ω
本 例 傍線 部 ﹁う た ひ ﹂ は 、 清 瀬 氏 が 一方 本 系 の神 宮 本 と の 一致 を 指
摘 され 、筆 者 が竹 柏園 本 ・鎌 倉 本 、 そ し て小 城 本 と の 一致 を 指 摘 し た 。
一方 、 近 藤 氏 は論 ② に お い て 一方 本 系 の昭 女 大 本 ・学 習 院 本 2 、 そ し
て小 城 本 と の 一致を 指 摘 さ れ る 。 本 例 は 片 仮 名 百 二十 句 本 系 で は小 城
本 と 一致 す る の で あ る が 、 こ のよ う に他 方 で 一方 本 系 と の 一致 も 認め
ま し て こ の 三年 が間 住 み な れ た所 な れ ば 、 な ご り も 惜 し う 悲 し
み とせ
ら れ る の で、 あ ま り強 力 な例 と は 言 え な いだ ろ う 。
⑳
う て、 か ひな い涙 が こ ぼ れ た 。 (H ・9
7)
清 瀬 氏 は 本 例 傍 線 部 ﹁ま し て﹂ が高 野 本 ・葉 子本 ・芸 大 本 ・下 村 本
と 一致 す る と さ れ た 。 筆 者 は 平 松 本 ・竹 柏 園 本 ・鎌倉 本 、 そ し て片 仮
う に覚 一本 系 ・ 一方本 系と の 一致 が認 めら れ る の であ る か ら 、 慶 応 本 ・
名 百 二十 句 本 系 の慶 応 本 ・小 城 本 と の 一致 を 加 え た。 し か し 、 こ のよ
ふ おと と い の者 が ご ざ った が 、 (H ・93 )
小 城 本 と の 一致 のみ を 強 調 す る わ け には いか な い 。
ぎによ
たと へば そ の ころ 都 に 聞 こえ た 白 拍 子 の上 手 に妓 王 、 妓女 と い
姻
清 瀬 氏 は 本 例 傍 線 部 ﹁都 ﹂ を 西 教寺 本 の ﹁京 中 ﹂ と は 一致 せず に高
遠 藤:天 草 本 平 家 物 語 小 考 ・そ の 二
23
ら
0)
ユ
そ な た は 歎 き も な し 、 恨 み も な し 。 (H ・0
ワ
ゴ
㎝
ユ)
以 上 で あ る が 、 こ の中 の例 ⑳ ・⑳ に つい て は本 稿 第 三節 に お いて す
で に言 及 し た 。 近 藤 氏 は こ の中 の例 ⑳ ・㈱ に つい て の清 瀬 氏 の指 摘 を
誤 り と さ れ 、 他 の例 ⑳ ・闘 ・伽 の 三例 に つい て は 、
わか
てい
1 (若 う ) ・3 (こ の体 では )
用例
天 草 版 平 家 の 語句 が小 城 本 と 一致 す る 場 合
・7 (押 し留 め ら れ )
と
そ のよ う に訓 読 され る 可 能 性 が あ る場 合
用例
5 (う た
2 (見 聞 く 人 )
天 草 版 平 家 の語 句 が斯 道 本 と 一致 し 、 小 城 本 の漢 字 表 記 か らも
用例
天 草 版 平 家 の語 句 が 斯 道 本 と 一致 、 又 は よ く 照 応 す る 場 合
側
回
ひ)
用例
6 (召 さ れ ぬ 所
天 草 版 平 家 の語 句 が 鍋島 本 以 下 の平 仮 名 百 二十 句 本 や斯 道 本 ・
小 城 本 と 一致 また は よ く 照 応 す る 場合
︿参 考 > 25 (あ は れ )
用例
27 (歎
天 草 版 平 家 の語 句 の順 序 が 斯 道本 と は異 な るが 、 小 城 本 お よ び
でも な し )
鍋 島 本 な ど の平 仮 名 百 二 十 句 本 と 一致 す る場 合
き も な し 、 恨 みも な し )
23 (清 盛 の )
べて に わ た って 重 な る 部 分 を 示 す と 図 C のよ う に な る (天 草 版平 家 の
わ け な ので あ る 。
な さ る か ら 、 ω の場 合 でも 点 線 で囲 んだ 範 囲 に入 る と いう こと に な る
句 本 (図 C の 漢 字 交 じ り 本 ) と も 一致 し て いた 可 能 性 の方 を 優 先 さ せ
に近 藤 氏 は 平 仮 名 百 二 十 句 本 だ け と 一致 す る 例 を 先 行 の片 仮 名 百 二十
で あ る か ら 点 線 で囲 ん だ 範 囲 には 入 らな いは ず であ る が 、 前 述 のよ う
し か し 、少 な く と も ω の場 合 は 平 仮 名 百 二十 句 本 だ け と 一致 す る 場 合
原 拠 本 の本 文 の形 成 に 関 与 し た 百 二十 句 本 系 の平 家 物 語 は 、 図 C に お
回
㈲
同
系 の平 家 物 語 に つい て﹂ に お い て 、前 述 の清 瀬 氏 の例 ⑳ ・㈲ ・⑳を 含
図C
百 二 十 句 本 系 の平 家 物 語 が 関 与 し て い ると 仮 定 す れ ば 、
用例
天 草 版 平 家 の 語句 が 斯 道 本 や 小城 本 と 異 な り、 鍋 島 本 な ど の平
仮 名 百 二十 句 本 と 一致 す る 場 合
都
本
一
そ れ は 鍋 島 本 に限 定 でき ず 、 平 仮 名 百 二十 句 本 や山 下 氏 が 存 在 を
ω
駅
推 測 さ れ た 漢 字 交 り の百 二十 句 本 、 用 例 に よ って は小 城 本 ・斯 道
占
本 に ま で範 囲 を 広 げ て考 え な け れ ば な ら な い。 こ の よ う に 、 五 例
質
国
そし て 、 これらを それ ぞ れ 図 に よ って示 し 、 それ ら のま と め を 図 C 、
ム
す なわ ち 左 図 に よ って 示 さ れ る 。
1
のう ち で論 拠 と な り 得 る 可 能 性 を 内 包 す る の は 三例 、 確 実 だ と 思
T
わ れ る も のは 一例 も な く 、 私 は こ の論 を 肯 定 す る こ と が でき な い
工
鍋
島
本
一
つま り 、前 記 回 ∼ ω の用 例 の図 示 にお い て点 線 で 囲 ん だ と ころ がす
じ
り
と考える 。
百 二十 句 本 系 の諸 本 に 見 ら れ る天 草 版 平 家 物 語
一本
一
青
賂
本
1
T
L
と 述 べら れ る の であ る 。
近藤 氏 は 次 に ﹁三
の語 句 に つい て﹂ にお い て 、 独 自 の 見 地 か ら の例 を 七 例 挙 げ ら れ る
(た だ し 、 そ の中 には 清 瀬 氏 指 摘 の例 一例 、筆 者 指 摘 の例 一例 が 含 ま
れ て いる )。
本
い て点 線 で示 した 範囲 内 に位 置 す る ) で あ ろ うと 述 べら れ る の であ る 。
原 拠 本 の本 文 の形成 に 関 与 し た 百 二十 句 本
漢
字
交
小
城
本
一
あ た そ れ ら の例 を 次 の よ う に分 類 さ れ る 。
そ し て、 近 藤 氏 は ﹁四
斯
道
本
一
一『
二L
一・・…
・
…
卜
要
学
大
良
奈
そ し て 、近 藤 氏 は 、
天 草 版 平 家 の 語句 と 一致 ま た は よ く 照 応 す る 用 例 の数 は
ヲサナ フ
稚
サムラウ
こ の傍 線 部 ﹁若 う ﹂ は 斯 道 本 (慶 応 本 ) の、
イマ
ワカ
二未 タ 年 モ 若 ウ 侍 フ ナ ル ニ、 ⋮ ⋮ ⋮ 。
と 一致 す る と さ れ る が 、本 例 は す で に筆 者 が 指 摘 し て いる B類 の例
承
ウケ タマワル
二十 句 本 系 の平 家 物 語 を 一本 と仮 定 す れば 、 円形 の斜 線 で示 し た
であ る (本 稿 第 四節 参 照 )。 本 例 は 片 仮 名 百 二十 句 本 の関 与 を 主 張 す
斯 道 本 が 多 く 、 小 城 本 が そ れ に次 ぐ 。 こ の こと か ら 、 関 与 し た 百
部 分 に位 置 づ け ら れ る 漢 字 仮 名 交 り の、 斯 道 本 にき わ め て近 い本
る た め に は強 力 な例 と な る。 近 藤 氏 は本 例 を 回 (天 草 版 平 家 の語 句 が
②
ほく
ミナ
み な 耳 目 を 驚 か い た に よ っ て 、 96 ⑧
じ
ヲド ロカ
(仏 ⋮ ⋮) お し 返 し お し 返 し 三 べん ま で歌 う た れ ば 、 見 聞く 人
斯 道 本 と 一致 、 又 は よく 照 応 す る場 合 ) に入 れ てお ら れ る 。
文 を 有 す る も の であ ろ う と 思 わ れ る 。
と 述 べら れ る 。 回 ・回 ・ω の三 例 は 斯 道 本 (慶 応 本 ) と は 一致 し な
い例 な の であ る が 、 こ のよ う な 面 を も ﹁斯 道 本 にき わ め て近 い本 文 ﹂
に は含 ま れ て いた と いう こと に な ろ う 。
名 百 二十 句 本 と も 片 仮 名 百 二十 句 本 とも 対 応 す る例 、 す な わ ち C類 に
に該 当 す る の は 向 .㈲ ・回だ け で あ る 。 側 ・回 は 筆者 の分 類 では 平 仮
城 本 の漢 字 表 記 は ﹁見 聞 人﹂。 な お 、 本 例 の ﹁三 べん ま で歌 う た れ ば ﹂
らも そ の よ う に 訓 読 さ れ る 可能 性 が あ る場 合 ) に入 れ て おら れ る 。 小
さ れ 、 ㈲ (天 草 版 平 家 の語 句 が 斯 道 本 と 一致 し 、小 城 本 の漢 字 表 記 か
本 例 は 斯 道 本 の ﹁⋮ ⋮ 、 ミキ ク人 皆 耳 目 ヲ驚 ス。﹂ と 一致 す る 例 と
該 当 し 、 ω は 平 仮 名 百 二十 句 本 だ けと 対 応 す る例 、す な わ ち A 類 に該
は 高 野 本 で は ﹁三 べん歌 ひす ま し た り け れば ﹂ で、 傍 線 部 ﹁す ま し ﹂
と こ ろ で 、近 藤 氏 の これ ら 同 ∼ ω の分 類 に お い て筆 者 の分 類 の B類
当 す る 。 天 草 本 平 家 の原 拠 本 の本 文 形 成 に関 与 し た の は片 仮 名 百 二 十
は 西 教 寺 本 .芸 大 本 ・葉 子本 ・流 布 本 、 それ に平 仮 名 百 二十 句 本 の国
テイ
た と ひ舞 を 御 覧 じ 、 う た ひを 聞 こ しめ さ れ ず と も 、 御 対 面 ば か
宮 本 の本 文 に注 目 す べき 語 句 の見 ら れ る例 ﹂ と し て挙 げ ら れ た 例 。近
本 例 は 本 稿 第 四節 です で に述 べた よう に、 清 瀬 氏 が 一方 本 系 の ﹁神
り あ って帰 さ せ ら れば 、 あ り が た い お情 け でご ざ ら う ず 。 95⑯
㈲
の例 。
ら の 口 語 訳 と 考 え る 方 が よ いよ う に 思 わ れ ると 述 べられ る。 伺 に所 属
こと も な いが 、 斯 道 本 に ﹁此 ノ躰 ニテ ハ﹂ と あ り 、 こ の よう な 原 拠 か
コ
(清 盛 ⋮ ⋮⋮ ) こ の体 では 舞 も さ だ め てよ か ら う ず 。 96 ⑩
てい
ケ レ ハ﹂、 小 城 本 も ﹁三 反 歌 タ リ ケ レ バ ﹂ で あ り 、 天 草 本 と 一致 す る 。
会 本 .京 都 本 み な 入 っ て い る 。 そ れ に 対 し て 斯 道 本 は ﹁三 反 歌 ヒ タ リ
ヘンウタ
句 本 であ る と の主 張 のた め には 伺 ・㈲ ・回 の例 証 だ け で充 分 な は ず で
あ る 。 し か し 、 そ の枠 内 では 用 例 を 処 理 し き れ な い こと か ら 、 こ のよ
う な と ら え 方 を せ ざ る を 得 な か った のだ ろ う 。 それ は それ と し て 、 ま
㈹
た 、 そ れ ら 圃 ・㈲ ・伺 に 確 実 だ と 思 わ れ る 例 が 揃 え ら れ て い な け れ ば
本 例 は 西 教 寺 本 な ど の ﹁こ のち や う ては ﹂ の口 語 訳 と解 せ られ な い
な ら な い 。 そ こ で 、 次 に 近 藤 氏 の 圖 ・㈲ ・㈲ に 属 す る 例 を 眺 め て み る
ことにしよう。
そ の上 年 も ま だ 若 う ご ざ る が 、 た ま た ま思 ひ立 って 参 った を す
行を示す、以下同じ )
げ な う 仰 せら れ て帰 さ せ ら れ う こと は不 便 な儀 ぢ ゃ :9
5⑪ (頁 ・
ω
近 藤 氏 の論 ② に お け る論 拠 例 は 次 の 通 り 。
占
ノ、
24
第16号
紀
遠 藤:天 草 本平 家 物 語 小 考 ・そ の 二
25
百 二十 句 本 系 で は小 城 本 と の 一致 を 指 摘 さ れ る 。 そし て、 一方 本 系 と
藤 氏 は 一方 本 系 の 昭女 大 本 ・学 習 院 本 2 と の 一致 を 指 摘 さ れ 、 ま た 、
お ら れ な い。 筆 者 の判 断 では 左 の例 ゆは 例 m と 土ハに ㈲ に 所 属 す る こと
な お 、 ど う いう 訳 か 近 藤 氏 は 左 記 の例 を 同 ∼ 回 の分類 の中 に入 れ て
さ う あ った れ ば 毎 月 に送 ら れ た百 石 百 貫 も と め ら れ て、 今 は 仏
ま いくわ ち
に な る も のと 思 わ れ る 。
が ゆ か り か か り の者 ど も は じ め て た のし み 栄 え た 。 98 ⑧
ホト
マイ
クタ
コク
クワン
ト
べら れ る 。 掲 げ ら れ て いる 斯 道 本 の 本文 は次 の通 り 。
こと も な いが 、 斯 道 本 の語 句 の よ う に こ れと 一致 す る も のも あ る と 述
本 例 は 、 西 教 寺 本 な ど の ﹁と \め ら れ て﹂ の 口語 訳 と 解 せ ら れ な い
ゆ
の 一致 を 無 視 す る 理 由を 説 明 す る こと な く 、 団 (天 草 版 平 家 の語 句 が
女 の か ひ な い こと は 、 わ が 身 を 心 にま か せ い でお し と め ら れ ま
小 城 本 と 一致 す る場 合 ) に所 属 さ せ てお ら れ る 。
㎝
ら した こ と は 、 いか ほ ど 心 憂 う ご ざ った が へ 0 ④
1
こ の傍 線 部 ﹁お し と め ら れ ﹂ に つい ては ま ず 、 わ ず か に葉 子 本 系 の
宝 玲 本 、 下 村 本 系 の筑 波 大本 11に 例 を 見 つけ る こと が でき た と 述 べら
べき であ ろ うと 述 べられ る 。ま た 、なお 学 習 院 本 2 は こ の部 分 の表 現 が
原 拠 は こ のよ う な 語 句 で、 口 語 訳 に あ た って踏 襲 し た も のと 考 え る
サ ル程 二毎 月 下 サ レ ツ ル百斜 百貫 モ留 メ ラ レ テ今 ハ⋮ ⋮ ⋮ 。
し か し 、 これ ら は 前 後 の語 句 が 天 草 版 平 家 と 異 な って お り 、原
異 な る け れ ど 、 ﹁と め ら れ て﹂ と いう 語 句 を 有 し て いる と 述 べら れ る 。
れ、 次 に 、
れ﹂ に な った こと は 、 これ が ﹁お し と ど め ら れ ﹂ の 口 語訳 と し て
サ ムラ
ママ
トメ
以 上 の 五例 が近 藤 氏 の 論 ② に お け る 向 ・㈲ ・回 に属 す る 例 で あ る
本 と 一致 し て い る 。
題 点 が 考 え ら れ る の で あ る が 、 確 か に斯 道 本 の振 り仮 名 の部 分 は天 草
さ て、 例 鰯 は前 掲 の例 m と 同様 の例 で あ り 、 そ れ に は ま た同 様 の問
送 ツ ルし は斯 道 本 の ﹁下 サ レ ツ ル﹂ よ り も 天草 本 に近 い 。
クタ
全 体 的 に は 斯 道 本 の 例 の 方 が 天 草 本 に 近 い の で あ る が 、 右 の ﹁被 レ
去 -程 二 被 レ送 ツ ル 百 斜 百 貫 モ 被 レ留 ⋮ ⋮ ⋮ 。
レ
筆 者 も 八坂 流 丙 類 の両 足 院 本 に 左 の例 を見 出 し て い る 。
拠 本 と離 れ て いる も の であ ろ う 。 が 、 転 写 の過 程 で ﹁お し と め ら
他 方 、 百 二 十 句 本 系 の斯 道 本 の語 句 が 天 草 版 平 家 と 一致 す る こ
天草 版 平 家 に 用 いら れ た と 解 す る 根 拠 にも な ろう 。
と か ら 、 こ のよ う な 本 文 と 校 合 し て校 異 を 記 し た原 拠 本 の語 句 を
踏 襲 し た も の であ る と 考 え る こと も でき よ う 。
マカ
と 述 べら れ る 。 掲 げ ら れ て いる 斯 道 本 の本 文 は次 の 通 り 。
ゥ
女 ノ 甲 斐 ナ サ ハ、 我 身 ヲ 心 ニ モ任 セ ス (シ テ ) 押 留 ラ レ マイ ラ
﹁押 留 ラ レ ﹂ が 天 草 本 と 一致 し て い る と 述 べ ら れ
セ シ (コ ト ) 心 憂 ク コ ソ侍 ヒ シ カ (括 孤 内 は 合 字 )。
右 の本 文 の傍 線 部
(そ れ に例 鰯を 加 え て考 え る こと が でき る )。す な わ ち 、 百 二十 句 本
ヲシトメ
系 と の 対 応 で は慶 応本 (斯 道 本 )・小 城 本 だ け と 対 応 す る と さ れ る 例
仮 名 百 二十 句 本 の関 与 と いう こと を 強 調 す る こ と の で き る例 か と思 う
る 点 が 不 審 であ る が 、 斯 道 本 の影 印 本 を 見 る と 、 ﹁押 留 ラ レ﹂ と 振 り
の で あ る (つま り 、 確 実 だ と 思 わ れ る 例 で あ る )。 そ の 中 の 例 ω は 前
仮 名 が あ る 。 右 は そ の振 り 仮 名 の誤 脱 と 考 え る こと が でき る 。 本 例 は
本 例 は原 拠本 の表 記 そし てそ の読 み (口 語 訳 の場 合 も 含 む ) を め ぐ っ
述 のよ う に す で に 筆者 の指 摘 し て いる 例 で も あ る 。 こ れ ら のほ か の例
で あ る 。 し か し 、 筆者 は これ ら の中 の例 ω ・② ・㈹ の 三例 あ た り が片
て の種 々 の可 能 性 が考 え られ る わ け で あ る が 、 確 か に斯 道 本 の振 り 仮
㈲ に所 属 。
名 の部 分 は 天 草 本 と 一致 し て い る 。
要
学
大
良
奈
26
第16号
紀
批 判 さ れ て いる わ け であ るが 、 そ の批 判 、特 に 右 の引 用 文 の筆者 傍 線
つま り 、 近 藤 氏 は 清 瀬 氏 の方 法 を 、 諸 本 論 の見 解 に 依存 し た方 法 と
(傍 線 筆者 )
の対 応 も 認 め ら れ る の で強 力 な 例 と し て挙 げ る の は た め ら わ れ る が 、
部 の 言葉 な ど は 前 述 の近 藤 氏 自 身 の方 法 にも そ のま ま 当 て は ま る の で
か な り の相 違 が あ る 。
参 考 例 と し て注 目 す る こと は でき る で あ ろ う。 ま た、 例 ㎝ そ し て例 傾
はなかろうか。
で は、 例 ㈲ は す で に 筆 者 も 指 摘 し て いる 例 であ り 、 これ は 一方 本 系 と
る こと は でき る だ ろう 。
も 一般 的 な 表 記 を め ぐ る 問 題 点 も 考 え ら れ る が 、参 考 例 と し て注 目 す
多 く な る 。 し か し 、 近 藤 氏 は 両 者 の関 与 では な く 、 一本 の関 与 を お考
でき る徴 証 は乏 し く 、 片 仮名 百 二十 句 本 関 与 を 主 張 でき る徴 証 の方 が
家 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) の範 囲 に は 確 か に 平 仮 名 百 二十 句 本 関 与 を 主張
葉 子 本 の ﹁一天 四海 を た な ご \ろ の うち に﹂ と は 一致 せ ず 、 西 教 寺本
・93)
これ は ﹁妓王 ﹂章 の冒 頭部 であ るが 、清 瀬 氏 は こ の傍 線 部 を 高 野 本 ・
ω
な お 、 筆 者 は 次 のよ う な例 を 補 足 し た い 。
七
え に な る故 、 乏 し いな が ら も 存 在 す る 平 仮 名 百 二↑ 句 本 関 与 の 可能 性
さ て 、 こ のよ う に 近藤 氏 の論 を 含 め て再 検 討 し てみ る と 、 天 草 本 平
を 示 唆 す る例 が 邪 魔 に な る わ け であ る 。 本 稿 第 三 節 で挙 げ た 例 咽 ・例
の ﹁加 様 に天 下 を 掌 に﹂ と 一致 す る例 と さ れ る 。
同 じ く 冒 頭 部 に次 の例 が あ る 。
き
によ
清 盛 は こ の やう に天 下 を た な ご ころ に握 ら れ た に よ っ て、 (H
⑳が それ であ る 。そ こ で近 藤氏 は これ ら の例 を 諸 本 系 統 論 の仮 説 に 従 っ
て 、 先 行 の架 空 の片 仮 名 百 二 十 句 本 と の対 応 の可 能 性 の方 を 優先 さ せ
囎
本 ・鎌 倉 本 、 そ し て 百 二 十 句 本 系 で は 慶 応本 ・国会 本 ・京 都 本 と も 一
と こ ろ で 、 八 坂 流 甲 類 本 を 見 る と 、 例 ω は 屋代 本 ・平 松 本 ・竹 柏 園
冒 頭 でま ず こ う し た 問 題 と 直 面 す る こ と に な る わ け で あ る 。
つま り 、 ﹁妓 王 ﹂ 章 の底 本 を 西 教 寺 本 と 仮 定 す る と 、 ﹁妓 王 ﹂章 の
芸 大 本 ・葉 子 本 ・下 村 本 の ﹁都 ﹂ と 一致 す る例 と さ れ る 。
清 瀬 氏 は こ の傍 線 部 を 西 教寺 本 の ﹁京 中 ﹂ と は 一致 せず 、 高 野 本 ・
の者 が ご ざ った が 、 (H ・93 )
そ の こ ろ都 に 聞 え た 白拍 子 の上 手 に妓 王 、 妓 女 と い ふお と と い
る方 法 で処 理 な さ る わ け であ る 。 し か し 、 それ に は少 なく と も 傍 証 と
な り 得 る 周 辺 本 ・ 一六 世 紀 書 写 本 等 の例 が 欲 し いと こ ろ で あ る 。 例 ㈲
で 筆者 が 指 摘 し た 漢 字 片 仮 名 交 じ り の両 足 院 本 の例 は傍 証 と な り 得 る
か も 知 れ な いが 。
近 藤 氏 は 論 捌 の ﹁五 、 む す び ﹂ に お い て 、清 瀬 氏 の 調査 に つい て次
清 瀬 氏 の 一方 流 諸 本 に つい て の調 査 は 不十 分 で あ る 。 ﹁覚 一六
のよ う に述 べ てお ら れ る 。
本 以 外 の覚 一本 や 一方 系 本 は 共 通 で あ っても よ いよ う に 思 わ れ る
る例 で 、 こ れ は C 類 に 属 す る 例 と いう こと に な る 。
一方 、 例 幽 は 屋 代 本 ・平 松 本 ・竹 柏 園 本 ・鎌 倉 本 、 そ し て 百 二十 句
致 す る 。 つま り 、 片 仮 名 百 二十 句 本 と も 平 仮名 百 二十 句本 とも 一致 す
本 系 で は 慶 応 本 ・小 城 本 と も 一致 す る 。 つま り 、 本 例 は 百 二十 句 本 系
の で ⋮ ⋮ ⋮﹂ と 考 え て、 一部 の 調査 し か さ れ て いな い。 氏 は 山 下
諸 本 論 の立 場 か ら のも の であ って 、 語 句 の異 同 が す べ て これ と 重
宏 明 氏 の ﹃平 家 物 語 研 究 序 説 ﹄の諸 本 分 類 によ って いるが 、これ は
な るわ け で は な い。 同 類 に さ れ て いる も の でも 、 語 句 に つい て は
遠 藤:天 草 本 平 家 物 語 小 考 ・そ の二
27
で は 片 仮 名 百 二 十 句 本 と 一致 す る B 類 の例 と い う こと に な る 。
そ し て、 百 二 十 句 本 系 で両 例 共 に 一致 す る の は片 仮 名 百 二 十 句 本 の
慶 応 本 だ け と い う こ と に な る わ け であ る 。
さ て、例 ωは 西教 寺 本 と 一致 す る故 、 問 題 と は し な い こと にす る と 、
例 ⑱ が 問 題 と な る。 そ し て 、 そ れ は 天 草 本 編 者 が底 本 の ﹁京 中 ﹂ を た
ま た ま ﹁都 ﹂ と 書 き 替 え た のか と も 考 え ら れ る。 し か し 、 口語 訳 の意
識 によ る ので あれば ﹁都 の う ち ﹂ と な る は ず であ ると い う問 題 も あ り 、
画
ら な いも の と思 わ れ る 。
世間 のそし りを もは ばか らず 、 人 の嘲 り を も か へり み い で (H ・
天 草 本 の ﹁妓 王 ﹂章 冒頭 部 に は 次 のよ う な例 も あ る 。
き によ
せ けん
せ じゃう
妹 の妓 女 を も 世 上 の 人 が も て な す こ と は 、 な の め な ら な ん だ 。
いもと
93 )
(H ・93 )
よ
こ の傍 線部 ﹁世 間 ﹂ ﹁世 上 ﹂ と 一致 す る古 典 平 家 は 管 見 に入 ら な い。
う のが 適 当 と 考 え て いる 。 そし て 、 これ ら はた ま た ま 平 家 諸 本 に 一致
を 合 わ せ た 書 き 替 え 、 口語 訳 と いう 方 向 性 に沿 った 書 き 替 え と でも 言
と 口 語 訳 と いう こと にな る のだ ろ うが 、 筆 者 は これ ら を 口語 訳 に 歩 調
が 見 ら れ な いか ら 、 天 草 本 編 者 の独 自 の立 場 によ る も のと 考 え ざ る を
諸 本 で は 共 に ﹁世 ﹂ と な って いる 。 天 草 本 の これ ら の例 は 簡 単 に 言 う
二十句 本 の参 照と いう こと を 考 えると 、 こ の問 題 の説 明 は 一応 付 く の で
も 憶 測 の域 を 出 な い。 結 局 、 巻 第 二 の 二 以 下 の底 本 と な った 片 仮 名 百
得 な い こと に な るが 、 他 本 参 照 に よ る書 き 替 え の場 合 にも 右 のよ う な
こ で、 底 本 自 体 に ﹁都 ﹂ と あ った の か とも 考 え ら れ る 。 し か し 、 これ
あ る 。 慶 応 本 ・小 城 本 では ﹁都 ﹂ で あ る 。 そ こ で、 天 草 本 編 者 が 口 語
文 章 調 整 的 意 識 が 、 強 い か弱 い か は別 と し て 、当 然 考 え ら れ る べき で
ま た 、 他 本 で は ﹁都 ﹂ と な って いる 場 合 が あ る と いう 問 題 も あ る 。 そ
語 訳 文 を 文 章 と し て整 え よ うと し た際 に 、 ﹁京 中 ﹂ は た ま た ま 片 仮 名
訳 の草 稿 文 の段 階 な ど で慶 応 本 の類 の片 仮 名 百 二十 句 本 と 照合 し 、 日
あ る と 思 って い る 。
こ の よう な見 方 は決 し て余 計 な事 と は 思 わ れ な い。 た と え ば 、 ﹁京
百 二十句 本 の ﹁都 ﹂と 改 め ら れ た の で は な い か と 考 え ら れ る の であ る 。
そ れ では 、 平 仮 名 百 二十 句 本 参 照 の可 能 性 は ど う かと い う と 、 そ れ は
中 ﹂ ﹁都 ﹂ に つい て、 底 本 本 文 は ﹁京 中 ﹂ で、 そ れ に他 本 と の校 異 に
考 え ら れ な い。 な ぜ な らば 、 国 会 本 ・京 都 本 は西 教 寺 本 と 同様 に ﹁京
よ る ﹁都 ﹂ が書 き 入 れ ら れ て あ った こと に よ って 天草 本 で は ﹁都 ﹂ と
な った と 考 え る 場 合 、 す な わ ち 底 本 書 き 入 れ 校 合本 説 の場 へ日で あ って
中 ﹂ と な って い る か ら で あ る 。 こ の点 に注 目 し な け れば な ら な い であ
も 、 天 草 本 編 者 が 底 本本 文 の ﹁京 中 ﹂ を 採 ら な い で書 き 入 れ 語 句 の
ろ う 。 ﹁妓 王 ﹂ 章 冒 頭 部 にお い て ま ず直 面 す る こ の 問 題 が 片 仮 名 百 二
話 を 本 筋 に 戻 す と 、 な お 次 のよ う な 例 を 補 足 す る こと が でき る 。
に は こ こ で 述 べた 問 題 が 必 然 的 にか か わ り を 持 つこと に な る 。
﹁都 ﹂を 採 った のは な ぜ か と いう 問 題 が 当 然 生 ず る わ け で あ り 、 そ れ
十 句 本 の参 照 を 考 え る こと に よ って説 明 でき る点 に筆 者 は 注 目 せ ざ る
と こ ろ で、 こ の よ う に 他 本 参 照 に よ って ﹁京 中 ﹂ を ﹁都 ﹂ と 改 め た
を 得 な い の であ る 。
のな ど はも ち ろ ん 口 語 訳 と は 言 え な い が、 口語 訳 文 調 整 の意 識 と は 全
く 無 縁 の所 為 と考 え る こと は でき な い であ ろ う 。他 本 では ﹁都 ﹂ が 一
こ れ に つけ て も 過 ぎ つる 方 の こ と ど も を 思 ひ つづ け て 、 た だ つ
つり き せ ぬ も の は 涙 で あ った ⋮ ⋮ (H ・0 ∼ 0 )
り 天 草 本 の こ の筆 者 傍 線 部 は 高 野 本 等 では ﹁う き 事 共 ﹂、 平 仮 名 百 二
り て 、広 く文 章 調 整 の意 識 によ る 書 き 替 え と いう こと を 考 え な け れ ば な
般 的 と い う意 識 が あ った のか も 知 れ な い が 、 そ のよ う な 場 合 を も 含 め
奈
良
大
学
要
28
第16号
紀
が ﹁かか る に つけ ても ﹂ と な ってお り 、 照 応 部 が 無 い。 そ れ に対 し て、
十 句本 の国 会 本 ・京 都 本 には ﹁こ れ に つけ て も
急 こ う と は 思 って い な い。 つまり 、 平 仮 名 百 二十 句 本 だ け と 対 応 す る
者 は 本 稿 にお い て、 平 仮 名 百 二十 句 本 関 与 の問 題 にも 何 ら か の結 論 を
か ら は 、 平 仮 名 百 二十 句 本 の関 与 と いう こと は別 問 題 な の で あ る。 筆
照 さ れ る こと が あ った のか 否 か と いう こと で あ る。 そ し て 、 こ の観 点
思 ひ つづ け て ﹂
片 仮 名 百 二 十 句 本 系 の慶 応 本 ・小 城 本 は 天 草 本 と 一致 す る の であ る 。
そ し て、 こ の よ う に考 え る と 、 第 四 ∼ 六 節 にお け る例 の中 の片 仮 名 百
れ た と 考 え ら れ る ふ し が あ る と言 って よ い の では な いか と 思 わ れ る 。
院 本 は 天 草 本 と 一致 し な い部 分 の方 が は る か に多 い の であ る が 、 以 下
が わ か った 例 を 参 考 ま で に こ こ に掲 げ てみ よ う 。 文 章 全 体 的 に は 両 足
ろ と あ る わ け であ るが 、 それ ら の中 で建 仁 寺 両 足 院 本 と 一致 す る こと
な お 、 天 草 本 の ﹁妓 王 ﹂ 章 には 諸 本 と 一致 し な い語 句 が ま だ いろ い
者 の結 論 に支 障 を 来 す よ う な こと は少 しも 無 い の であ る 。
例 が 少 数 なが ら存 在 し て いよ うと も 、 それ ら によ って本 稿 にお け る 筆
な お 、 平 松 本 ・竹 柏 園 本 ・鎌 倉 本 も 天 草 本 と 一致 す る 。
そ こ で、 本 稿 第 四 ∼六 節 に お け る慶 応 本 ・小 城 本 と 対 応 す る 例 に本
節 で挙 げ た 例 を 加 え て考 え て み る と 、 天 草 本 平 家 巻 第 二 の 一 (妓 王 )
二 十 句 本 の影 響 を 強 調 し に く い例 、 ま た 、 本 稿 では 検 討 を 省 略 し た平
の編 集 時 に巻 第 二 の 二 以下 の底 本 と な った 片 仮 名 百 二十 句 本 が 参 照 さ
仮 名 百 二十 句 本 ・片 仮 名 百 二十 句 本 の両 方 に対 応 す る例 (C類 の例 )
の 一 (妓 王 ) に お け る 百 二 十 句 本 の影 響 と 考 え ら れ る 語句 例 は 、 平 仮
結 局 、 近 藤 氏 の見 解 を容 れ て 再 検 討 し て み る と 、 天草 本 平 家 巻 第 二
た 。 ただ し 、 ことば の上 では 照 応 し て い な いし 、 天 草 本 編 者 の添 加 と
の康 豊 本 の ﹁疾 々 可 罷出 と いは せ よと こ そ日 け れ ﹂ と 対 応 す る と さ れ
ま ず 、 天 草 本 の こ の筆 者 傍 線 部 であ るが 、 清 瀬 氏 は これ を 一方 本 系
か な ふま い :と う と う帰 れと 言 へ、 と 言 は れ た れば ・.(n ・95 )
そ のう へ妓 王 が あ ら う ず る と ころ へは神 とも い へ、仏 と も い へ、
の例 の 一致 は 注 目 し て よ いと 思 う 。
名 百 二十 句 本 の 影 響 と 考 え ら れ る 例 よ り も 片 仮 名 百 二十 句 本 の影 響 と
回
の中 にも 、 片 仮 名 百 二十 句本 の影 響 と 考 え ら れ る可 能 性 が 含 ま れ て い
考 え られ る例 の 方 が 多 いと いう わ け であ る。 し か し 、 近藤 氏 の見 地 で
の 両 足 院 本 に は ﹁ト ウ く
も 考 え ら れ る ので 、 参 考 例 に と ど め て おく と 述 べら れ る 。 八 坂 流 丙 類
る と 言 え る こと に な る 。
は こ の よ う な と ら え 方 は 不 可 能 であ ろう 。 なぜ な ら ば 、近 藤 氏 は 百 二
の関 与 と い う こ と で考 え な さ る か ら 、 い く ら少 数 でも 平 仮 名 百 二 十 句
り 、康 豊 本 と 一致 す る 。 他 の 本 と の 一致 は 今 の と こ ろ 管 見 に 入 ら な い 。
罷 ー出 ヘ シ ト 云 ハ セ ヨ ト コ ソ 日 ケ レ ﹂ と あ
十 句 本 の関 与 と いう 問 題 を 片 仮 名 百 二十 句 本 だ け の関 与 、 つま り 一本
本 の関 与 と考 え ら れ る 例 が あ っては ま ず い ので あ る 。 そ れ 故 、 す で に
述 べ て い る よ う に 、 そ れ ら の例 を 先 行 す る架 空 の片 仮 名 百 二 十 句 本 と
中 に は 無 か った の で あ る が 、 両 足 院 本 を 見 る と ﹁
これ は 身 を 恨 み、 世 を 恨 み て の こと な れば 、様 を か ゆ るも こと
日 比 ノ恨 ハ露
㈲
こ の や う に 様 を か へ て お ち ゃ った れ ば 、 日 ご ろ の 恨 み は 露 、 塵
ほ ど も 残 ら ぬ 。 (H ・0 )
ユ
こ の 筆 者 傍 線 部 ﹁恨 み ﹂ と 一致 す る 例 は 今 ま で に 管 見 に 入 った 本 の
た。 そ し て 、 傍 証 無 し に それ を し たと こ ろ に 無 理 が あ る 。 それ に対 し
回
塵程 モ
の対 応 の 可 能 性 の方 を 優 先 さ せ る と い う方 法 で処 理 せ ざ る を 得 な か っ
て 、本 稿 に お け る 筆 者 の目 的 は 、 天 草 本 平 家 巻 第 二 のこ 以 下 の底 本 で
﹂ と あ り 、 天 草 本 と 一致 す る の で あ る 。
あ った片 仮 名 百 二 十 句 本 が 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) 以 前 の編 集 にお い て参
遠 藤:天 草 本 平 家物 語 小 考 ・そ の 二
29
わ り ぢ ゃ。 (H ・0
)
ユ
こ の筆 者 傍線 部 と 一致 す る 例 も 今 ま で に管 見 に 入 った 本 の中 には 無
て で は な く 、 原 拠 本 への関 与 す な わ ち 間接 的 関与 と し てと らえ てお ら
十 句 本 の関 与 と いう こと を 、 天 草 本 編集 過程 に お け る直 接 的 関 与 と し
る。 ただ 、 関 与 し た のが 平 仮 名 百 二 十 句 本 であ る か片 仮 名 百 二十 句 本
れ る の で あ る 。 そ し て、 こ のと ら え 方 は 清 瀬 氏 のと ら え方 と 同 じ であ
つま り 、 近 藤 氏 は 、 天 草本 巻 第 二 の 一 (妓 王) にお け る片 仮 名 百 二
か った ので あ る が 、 両 足 院 本 を 見 る と ﹁其 ハ身 ヲ恨 世 ヲ恨 タ ル出 家 ナ
レ ハ理 リ 也 ﹂ と あ り 、 少 な く と も 筆 者 傍 線 部 は 天 草 本 と 照 応 す る の で
な ら な い の であ る。 つま り 、 近 藤 氏 の説 は 、 天 草 本 平 家 の巻 第 一お よ
底本 と 同 一の本 であ る と いう こと にな る が 、 こ の点 に 注 目 し な け れば
し か し 、 近 藤 氏 の場 合 は そ の百 二十 句 本 が 天 草 本巻 第 二 の二 以下 の
で あ る か と いう 違 いが あ る だ け であ る 。
ある。
以 上 で あ る が 、 これ ら の例 が 天 草 本 編 者 の独 自 の書 き 替 え では な い
照 し た 片 仮 名 百 二十 句 本 の本 文 に は こ の両 足 院 本 のよ う な 語 句 が あ っ
び 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) の底 本 であ った 覚 一本 系 の 一本 に 巻 第 二 の二 以
ら し い こと が こ の両 足 院 本 の例 に よ って 推 測 さ れ る 。 天 草 本 編 者 の参
た のだ ろ う か 。 大 永 六 年 (一五 二 六 ) 頃 の書 写 と 推 定 さ れ て い る 八坂
下 の底本 と な った片 仮名 百 二十 句 本と の校 異 語 句 が 書 き 入 れ ら れ てあ っ
け であ る 。 そ し て 、両 本 は土ハに ハビ ヤ ンの手 元 にあ った と いう こと に
い で片 仮 名 百 二十 句 本 と 一致 す る語 句 が 生 ず る こと にな った と いう わ
た こと によ って、 天 草 本 平 家 の そ の範 囲 の本 文 に覚 一本 系 と 一致 し な
流 丙 類 の漢 字 片 仮 名 交 じ り本 で あ る こ の建 仁 寺 両 足 院 本 に天 草 本 と 稀
む す び ﹂ に お い て次 の よ う に 述 べ
に 一致 す る こ の よ う な例 の見 出 さ れ る こと に特 に注 目 し た い 。
られ る。
﹂ と 述 べ てお ら れ
それ と も ハビ ヤ ンが書 き 入 れ た の か と いう こと が問 題 と な る。 右 の引
な る 。 そう す ると 、校 異語 句 はも とも と 書 き 入 れ られ てあ った のか 、
討 し た結 果 、 百 二 十 句 本 系 の中 でも 漢 字 片 仮 名 交 り の斯 道 本 にき
校 合 し て語 句 の校 異 を 記 し
るが 、 こ の 主 語 ﹁ハビ ヤ ンは ﹂ は ﹁
用 文 の結 末 部 に お いて 近藤 氏 は ﹁ハビ ヤ ンは
も のを 原 拠本 に し た ﹂ の両方 の主語 の つも り な の
と 推 測 し た の であ る 。 つま り 、 ハビ ヤ ンは 西 教 寺 本 に近 い覚 一本
す る部 分 を 除 く ) の原 拠 本 と し て 用 いた も のと 同 一の本 であ ろ う
ヤ ンの 手 も と に あ って、 巻 n の第 2章 以 降 (平 家 物 語 巻 八 に相 当
点 に こだ わ ら ず には いら れ な い の であ る 。 な ぜ な ら ば 、 仮 に ハビ ヤ ン
と いう 意味 で受 け 取 った 方 が よ い の であ ろ う か 。 し か し 、 筆者 は こ の
た ま た ま そ のよ う な 校 異 語 句 の記 入 さ れ て いた 本 を ハビ ヤ ンが 用 いた
辺はど のよう に お考 え な のか 。 こ の よ う な見 方 は筆 者 の思 い過 ご し で、
か、 そ れ と も 後 者 だ け の主 語 な のか 、 そ の点 が 不分 明 で あ る が、 そ の
た ﹂ お よび ﹁
系 の 平 家 物 語 に、 手 も と にあ った 右 のよ う な 百 二十 句 本 系 の本 を
し た と いう 考 え 方 (前 も って底 本 を 校 合 す る ま でも な く 、 口語 訳 に際
が校 異 を 記 入 し た と 考 え る の であ れ ば 、 筆 者 が 考 え る ハビ ヤ ンが 参 照
見 解 であ る 。
校 合 し て語 句 の校 異 を 記 し た も のを 原 拠 本 にし た と いう のが 私 の
そ し て 、 これ は 天 草 版 平 家 の 口 語 訳 の作業 を し て いた 不 干 ハビ
与 し て いる と いう 結 論 に達 し た 。
わ め て 近 く 、 小 城 本 に も 近 い平 家 物 語 が原 拠 本 の本 文 の形 成 に関
妓 王 の章 全体 に わ た って平 家 物 語 諸 本 五 十 余 本 と 比 較 検
と こ ろ で、 近 藤 氏 は論 ② の ﹁五
八
要
学
大
良
奈
30
第16号
紀
し て直 接 参 照 し た と い う考 え方 ) に 近 い見 方 で近 藤 氏 は 問 題 を と ら え
よ う と し て いる と 言 え る こと に な ろ う と 思 う か ら であ る 。
それ に対 し て清瀬 氏 の説 には 少 な く と も こ の よ う な 問 題 は 生 じ な い。
典 平 家 巻 第 一に該 当 す る範 囲 ) に おけ る八 坂 流 甲 類 本 の影 響 と 考 え ら
れ そう な 語 句 を 二 三例 挙 げ た 。 今 、 そ の中 か ら 百 二十 句 本 と 対 応 す る
例 を 抽 出 す ると 一八例 と な る。 それ ら を 前 記 拙 論 の調 査 結 果 に 従 って
A
主 と し て片 仮 名 本 系 の慶 応 本 ・小 城本 と対 応す る 語句
主 と し て平 仮 名 本 系 の国 会 本 ・京 都 本 と対 応 す る 語 句
五例
五例
次 のよ う に分 類 す る 。
た と か 、 ま た 、 巻 第 二 の 二以 下 の底 本 と な った と か いう こと を 述 べ て
B
清瀬 氏は 、校 合 に用 いられた 平仮 名 百 二十 句 本 が ハビ ヤ ン の手 元 にあ っ
お ら れ る わ け では な いか ら であ る 。
八例
平 仮 名 本 .片 仮 名 本 のど ち ら に も 対 応 す る 語句
C
右 のよ う に 疑 問 と す る 点 が 無 い わ け で は な いが 、 近 藤 氏 の説 が 原 拠
そ し て、 ﹁妓 王 ﹂ 章 の場 合 と 同 様 に、 こ の中 の A 類 ・B 類 を 再 検 討
と でも いう も の であ る 。 つま り 、 筆 者 は 、覚 一本 系 の 一本 を 底 本 と し
本 関 与 説 で あ る こと は 確 か であ る 。 一方 、筆 者 の説 は 編 集 過 程 関 与 説
る。 し か し 、 次 のよ う な 例 の あ る こと に注 目 しな け れ ば な ら な い 。
す る が 、 A類 の五 例 は す べて 覚 一本系 ・ 一方 本 系 と の対 応 が 認 め ら れ
た 天草 本 平 家 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) ま で の編 集 に お いて 、 巻 第 二 の 二以
ω
言 ふ な ら ば 、 殿 L ま でも 切 り の ぼ り さう な者 の面 魂 であ
った に よ って 、 (1 ・6 )
F の底 本 と な った 片 仮 名 百 二 十 句 本 が 参 照 さ れ た こと に よ って、 天 草
本 平 家 の そ の範 囲 の本 文 に 覚 一本 系 と 一致 し な い で片 仮 名 百 二 十 句 本
こ の 傍 線 部 は 龍 大 本 ・高 野 本 で は ﹁者 ﹂ と な っ て い る が 、 下 村 本 ・
もの
系 と 一致す る 語句 が生 ず る こと に な った と 考 え る わ け であ る 。 そし て 、
流 布 本 で は ﹁者 の つ ら た ま し ひ ﹂ と な っ て お り 、 そ の 点 は 天 草 本 と 一
﹁参 照 ﹂と い う こ と に は 種 々 の場 合 が 考 え ら れ る が 、前 節 に お い て述
致 す る 。 し か し 、 下 村 本 ・流 布 本 は ﹁や が て 殿 上 ま で も ﹂ の よ う に 、
べた よう に、 ﹁口語 訳 の草 稿 本 文 を 底 本 以外 の他 本 と 校 合 し 、 口語 訳
天 草 本 に は無 い ﹁や が て﹂ が 入 って い る (流 布 本 では そ の上 ﹁正 し う
文 を 整 え よ う と す る場 合 ﹂ を 中 心 と し て考 え て い る 。 こ れ は 、 ﹁口 語
訳 文 を 口語 文 と し て 、 す な わ ち 文 章 と し て整 え る ﹂ と い う目 的 に歩 調
でも やが て﹂ と な る)。 本 例 は 清瀬 氏 も 挙 げ ら れ 、 陽 明 本 ・静 嘉 堂 本
云 つる 程 な らば ﹂ と な って い る。 な お 、 龍 大 本 ・高 野 本 では ﹁殿 上 ま
を 合 わ せ る と いう 方 向 性 を 一応有 す る も のと し て問 題 を と ら え ると い
と の対 応 を 指 摘 さ れ るが 、 ﹁や が て ﹂ の位 置 は前 者 で は ﹁殿 上 ま ても
う こと であ る 。 それ に対 し て 、 原 拠 本 関 与 説 では こ のよ う な問 題 を ど
や か て﹂ と な り 、 後 者 で は下 村 本 等 と 同 じ であ る 。 本 例 に つい て清 瀬
の よ う に お 考 え に な る の であ ろ う か [注 (7) 参 照 ]。 筆 者 の最 大 の
関 心 は こ の点 に あ る 。 な お 、 こ の問 題 に つい て は本 稿 の 最終 節 に お い
し か し 、 平 仮 名 百 二 十 句 本 の国 会 本 で は本 例 は次 の よ う に な って い
えられる。
れ る ﹁(者 ) の つらだ ま し ゐ﹂ を 加 えた も の に 依 って いる と も 考
ら れ る が 、 龍 大 本 な ど の本 文 に 、 静 嘉 堂 本 な ど の 一方 系 本 に見 ら
天 草 版 の場 合 は 、 陽 明 本 のよ う な 本 に依 拠 し た とも 考 え
氏 は 次 のよ う に述 べら れ る 。
て再 び 言 及 す る こと に し た い。
九
次 に 、 天 草 本 平 家 巻 第 一の範 囲 に つい て簡 単 に 述 べ てお こう 。 筆 者
は前 記 拙 論 に お いて 、 天 草 本 の巻 第 一の 一か ら 一の三 の途 中 ま で (古
遠 藤:天 草 本 平 家 物 語 小 考 ・そ の 二
31
る の であ る 。
を 戴 いた や う で、 85⑳
ヲへ
近 藤 氏 は こ の傍 線 部 を 、 口 語 訳 に よ って ﹁生 ふ﹂ が 上 二段 か ら 下 ニ
のよ う な 本 文 と 校 合 し て 形成 さ れ 、 そ の ﹁上 り﹂ を ﹁のぼ り ﹂ と 読 ん
段 に変 わ る 可 能 性 に言 及 な さ る 一方 、原 拠 本 文 が小 城 本 の ﹁生 上 リ ﹂
で ﹁生 へ上 って﹂ と し た と 解 せ ら れ よ う と述 べら れ る。 つまり 、 一方
ま し ひ に て あ る あ ひだ 、
言 ひ つる も のな ら ば 、 殿 上 ま でも 斬 り のぼ ら ん ず るも の の つら た
つま り 、 ﹁や が て﹂ の無 い点 に お い て平 仮 名 百 二 十 句 本 の国 会 本 の
には 口語 訳 に よ る 可能 性 と いう 問 題 が 控 え て お り 、 そ れ は片 仮 名 百 二
のほ
本 文 は 陽 明 本 ・静 嘉 堂 本 よ り も 天 草 本 に近 い の であ る (京 都 本 の場 合
た、 原 拠 本 の本 文 の こ の部 分 が 漢 字 二 字 で記 さ れ て いた と し た ら 、 口
十 句 本 の影 響 と 推 定 す る こと を た め ら わ せ る要 因 と な ろ うと す る。 ま
お
も 同 じ )。 近 藤 氏 は本 例 に は 言 及 さ れ て い な い。
次 に 、 B 類 の五 例 で あ るが 、 こ れ らも す べ て覚 一本 系 ・ 一方 本 系 と
フスホ
の本 文 が 漢 字 主 体 の本 文 であ れ ば こ うし た こと も 考 え ら れ る の であ る
これ は 本 文 の ﹁生 上 ﹂ を ﹁ヲ ヘノ ホ リ﹂ と 読 んだ 例 であ る 。 原 拠 本
頼 豪 ヵ宿 房 へ行 向 フ 以 外 二嬬 タ ル持 仏 堂 ノ中 二髪 ハ長
究 テ怖 シ気 ナ ル声 (シテ)
本 ・下 村 本 ・流 布 本 の ﹁う し な は ん ﹂ と は 一致 せず 、 波 多 野 本 の ﹁捨
が 、天草 本 の原拠 本 であ った覚 一本系 の 一本 の本 文 は果 し てど う であ っ
ヲ ヘノホリ
ん ﹂ だ け に照 応 す る と 述 べら れ た 。 そ れ に対 し て筆 者 は屋 代 本 ・平 松
た か 。 結 局 、 例 ㈲ は 口語 訳 に よ って か、 ま た は小 城 本 の よう な 本 文 の
フ生 h
対 応 す る箇 所 に では な いが 、 巻 第 三 に次 のよ う な 例 が あ る 。
と読 ん で し ま った と いう こと も 考 え ら れ る 。 両 足 院 本 に 、 本例 と直 接
語 訳 と い う意 識 に よ って では な く 、 た だ そ れ を ﹁お へのぼ (って )﹂
の 対 応 が 認 め ら れ る 。 し か し 、 そ の中 の次 の例 な ど は 注 目 し な け れ ば
保 元 平 治 よ り こ の か た汝 が 知 る ご と く 、 君 のお た め に命 を 捨 て
な ら な い。
㎝
う と す る こと は 度 々 の 儀 ぢ ゃ。 (1 ・42 )
占 典 平 家 諸 本 の本 文 と 比較 す る と 、 本 例 の波 線 部 には か な り の省 略
本 ・鎌 倉 本 、 そ し て 小城 本 と の照 応 を 指 摘 し た のだ が 、百 二十 句本 系
関 与 によ ってか 、 と い う こ と に な る が 、近 藤 氏 は後 者 を 主 張 な さ る の
が あ る 。 清 瀬 氏 は本 例 の傍 線 部 ﹁捨 てう ﹂ が 龍 大 本 ・静 嘉 堂 本 ・葉 子
では こ の中 の小 城 本 が 挙 げ ら れ 、 平 仮 名 百 二十 句本 の国 会 本 ・京 都 本
近 藤 氏 の例 中 の 五例 の 中 に は 一方 に お い て他 の問 題 の考 え ら れ る右
であ る 。
と は 照応 しな い例 と い う こ と に な る 。 近 藤 氏 は 本 例 には 言 及 さ れ な い 。
一方 、近 藤 氏 は 百 二 十 句 本 と 照 応 す る語 句 に つ い て天 草本 の巻 第 一
のよ う な 例 が 多 く 、端 的 に慶 応 本 ・小城 本 と 一致 す る と言 え そ う な例
全 体 を 調査 さ れ た 結 果 を 論 ω で発 表 さ れ た が 、 そ こに 掲 げ ら れ た 七 例
は少 な い。 次 の例 は ど う か 。
のぼ
見 レ ハ、本 ハ法 師 ニテ有 ケ ルカ ト覚 ヘテ、﹂ と 一致 す る (小 城 本 の 場
こ の傍 線 部 は 傍 線 部 だ け を 見 れ ば 確 か に 慶 応 本 の ﹁
うぼ ひ出 たを 見 れ ば 、 も と は 法 師 で あ った と お ぼ え て、 85⑳
ヨロホイ 弱下 ルヲ
あ るあ し た磯 の方 か ら か げ ろ ふ な ど のや う に や せ 衰 へた者 が よ
中 の五 例 が 筆 者 の分 類 法 で 言 うと B類 に属 す る 例 であ る 。 あ と の 二例
お
ω
は筆 者 の分 類 法 では C類 に属 す る例 と な る 。 つま り 、 片 仮 名 百 二十 句
本 の影 響 と いう こと を ま ず 考 え る こ と ので き る 例 は 五 例 と いう わ け で
あ る が 、 そ の中 で筆 者 の 一応 納 得 のゆ く 例 は 少 な い 。
そら さま
髪 は 空 様 へ生 へ上 って 、 よ う つ の 藻 く つ が と り つ い て 、 お ど ろ
た と え ば 次 の例 はど う か 。
㈲
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奈
32
第16号
紀
能 性 に言 及 な さ る 一方 、 原 拠 本 の本 文 が 、 龍 大 本 の よ う な 覚 一本 系 の
合 も 同様 )。 近 藤氏 は 天 草 本 編 者 の 口語 訳 にお け る 接 続 語 句 補 添 の 可
モ ) の編 集 に お い ては 巻 第 二 の二 以 下 の底 本 と な った片 仮 名 百 二十 句
だ のか と 考 え ら れ る わ け で、 こ のよ う な 関 係 か ら特 に 巻 第 二 の 一 (妓
あ り 、 そ の反 省 が ま た 巻 第 二 の二 以 下 の底 本 変 更 と いう 問 題 にも 及 ん
(妓 王 )は 巻 第 一の編 集 終 了 後 の反 省 によ って追 加 採 録 さ れ た も の で
に よ って形 成 さ れ た と 解 す る こと も でき る と 述 べら れ る 。
重 盛 こ れ を 聞 い て、 大 き にさ わ い で、 そ の所 へ行 き 向 う た ほ
本 の参 照 さ れ る こと が 多 か った ので は な いか と 推 測 さ れ る の であ る 。
本 文 に斯 道 本 (慶 応本 ) のよ う な 百 二十 句 本 系 の本 文 を 校 合 す る こ と
㎝
こ の傍 線 部 は 慶 応 本 の ﹁小松 殿 是 ヲ聞 テ、 大 二騒 レ ケリ 、 ⋮ ⋮ ⋮ ﹂
第 一の範 囲 にも 微 々 で は あ るが 参 照 の徴 証 が あ り 、 これ ら が 認 め ら れ
いう 形 で お こ な わ れ た ので は な い かと 推 測 さ れ る の であ る 。 な お 、 巻
そし て、 そ の参 照 と は 口語 訳草 稿 文 を 片 仮 名 百 二十 句 本 と 校 合 す ると
と 一致 す る 。 近 藤 氏 は 、 天 草 版 平 家 の こ の語 句 の原 拠 は 、 覚 一本 系 の
る と す れ ば 、 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) の 口語 訳 草 稿 文 と 片 仮 名 百 二十 句 本
17⑭
本 文 に 欠 け る 部 分 を 斯 道 本 (慶 応 本 ) のよ う な本 文 と 校 合 し て補 添 す
と の校 合 終 了 後 、 さ か のぼ って巻 第 一の 口語 訳 草 稿 文 に も 校 合 が お こ
ど の者 を み な勘 当 し て 言 は れ た は :
る こと に よ り 形 成 さ れ た と 解 す る のが 妥 当 で あ ろ う と 思 わ れ る 、 と 述
な わ れ た のか 、 あ る いは す で に巻 第 一の編 集 時 か ら 時 々校 合 が さ れ て
結 局 、筆 者 が 一応 納 得 のゆ く 例 は 右 の 二例 あ た り かと い う こ と に な
天 草 本 平 家 は 編 集 当 初 か ら底 本 の ほ か に片 仮 名 百 二十 句 本 が 参
照 さ れ 、 そ の参 照 の度 合 い が次 第 に高 ま って、 つい に巻 第 二 の こ
か ら そ の片 仮名 百 二十 句本 が 底 本 と さ れ る こと にな った のか 。
天 草 本 平 家 の巻 第 一の編 集 終 了後 、 そ れま で の編 集 方 針 に対 し
て反 省 が 加 え ら れ 、 そ の結 果 ﹁妓 王 ﹂ 章 が 巻 第 二 の 一と し て追 加
採 録 さ れ 、 ま た 、 それ と ほぼ 同 時 に巻 第 二 の 二以 下 の底 本 を 片 仮
名 百 二十 句 本 に変 更 す る こと が 決 定 さ れ た た め 、 ﹁妓 王 ﹂ 章 で は
そ の片 仮 名 百 二十 句 本 が 特 に 参 照 さ れ る こと にな った のか 。
か な か説 明 し に く いと いう 難点 が あ る 。 そ れ に 対 し て 、後 者 の巻 第 一
らず 、 ま た ﹁そ の参 照 の度 合 いが 次 第 に 高 ま って﹂ と いう あ た り が な
付 け た 考 え 方 であ る が 、 前 者 では ﹁妓 王 ﹂ 章 の問 題 に は直 接 触 れ て お
両 者 は 共 に 片 仮 名 百 二十 句 本 参 照 の問 題 と 底 本 変 更 の問 題 と を 関 係
2
1
号を 付 し て 示 す )。
本 稿 の 第 一節 ∼ 第 二節 にお い て筆 者 は 次 のよ う な 仮説 を 掲 げ た (番
いた のか と 考 え ら れ る こと にな る 。 以 上 が 本 稿 の結 論 であ る 。
べら れ る 。 な お 、 本 例 は 前 記 拙 論 にお い て筆 者 も 掲 げ て いる 。
天 草 本 平 家 巻 第 一に お け る 片 仮 名 百 二十 句 本 の影 響 と 考 え ら れ る 語
る。
句 例 は巻 第 二 の 一 (妓 王 ) の場 合 よ り も 少 な いと 言 ってよ い 。
十
前 記 拙 論 に対 す る 近 藤 氏 の批 判 を受 け 入 れ 、 前 記 拙 論 を 再 検 討 し た
結 果 、 本 稿 では 前 記 拙 論 に お け る ③ の考 え 方 に 基 づ い て次 のよ う に 考
え る こと に し た 。
す な わ ち 、 天 草 本 平 家 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) 以前 の 範 囲 は 覚 一本 系 の
底 本 に拠 って 編集 さ れ た が 、 そ の底 本 の ほ か に巻 第 二 の 二 以 下 の 底 本
ふし が あ る。 こ れ が結 論 と し てま ず 述 べ る べき こと であ る 。
と な った片 仮 名 百 二十 句 本 (慶 応 本 の類 ) が参 照 さ れ た と考 え ら れ る
そし て、 巻 第 一よ りも 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) の方 に参 照 さ れ たと 考 え
ら れ る ふし が 強 く 感 じ ら れ る と 言 え る 。 これ は 、 つま り 、 巻 第 二 の 一
遠 藤:天 草 本 平 家 物 語 小 考 ・そ の 二
33
る で あ ろ う 。 そ れ 故 、 後 者 の考 え方 に重 点 を 置 く こ と に な り 、本 稿 の
と い う あ た り は 一つの考 え 方 と し て認 め ら れ るだ け のも のを 有 し て い
編 集 終 了後 の反 省 が ﹁妓 王 ﹂ 章 の追 加 採 録 と 底 本 変 更 とを も た ら し た
照 には 欧 文 内 容 の確 認 、 欧 本 の体 裁 の模 倣 ・権 威 付 け な ど の理 由 が 推
ても お か し く は な い。 な お、 天 草本 エ ソポ上 巻 の場 合 の ラ テ ン語 本 参
え ら れ る 。 そ れ 故 、 片 仮 名 百 二十 句 本 が 当 初 か ら 用 意 さ れ て いた と し
て 整 え る と いう 目 的 で他 本 を 参 照す ると いう 態 度 は む し ろ 自 然 か と 考
七 一頁 ) にお い て、 底 本 変 更 の理 由 と し て百 二十 句 本 と 九 州 北 部 の地
次 の よう な こと も 考 え ら れ る だ ろ う 。清 瀬 氏 は前 記 著 書 (一七 〇 ∼ 一
ま た 、 天 草 本 平 家 の底 本 変 更 の理 由 は、 前 述 の仮 説 1 ・2 のほ か に
測される 。
り 結 論 は 右 のよ う にな った の であ る 。
以下 、 補 足 的 見 解 を 少 々述 べ て みた い。 ま ず 、 本 稿 の 目 的 に つ いて
と で は な い。 天 草 本 平 家 の編 集 上 の 一問 題 を 考 察 す る こと を 目 的 と し
で あ る が 、 そ れ は 天 草 本 平 家 の原 拠 本 の本 文 形 成 に つ いて 考察 す る こ
た も の であ る 。 少 な く と も こ の点 にお い て、 清 瀬 氏 の論 ・近 藤 氏 の論
て いる平 松 本 、 竹 柏 園 本 を 基 軸 と す る本 も 、九 州 北 部 の地 で そ の
天草 版 の原拠 本 にな った 慶応 本 の類 も 、 ま た そ の巻 八 の欠 を 補 っ
と の関 係 に つい て述 べら れ 、
本 文 が つく ら れ た の では あ る ま いか 。 1
筆 者 の観 点 は 天 草 本 エ ソポ (国。・ob8 0 聞魯 巳鋤。。) の 形 成 、 す な わ
と 筆者 の論 と は 異 な って い る 。
版 平 家 が編 修 、出 版 さ れ た 九 州 西 北 部 の地 理 的条 件 が 、慶 応 本 の
と 述 べら れ る 。 そ う す る と 、 そ の本 の入 手 に よ って底 本 が変 更 さ れ
つまり 、 天 草
であ る 。 それ と 似 て い る編 集 方 法 が天 草 本 平 家 の 編 集 に も 考 え ら れ そ
ち 天 草 本 エソ ポ の上 巻 と 下 巻 と の編 集 方 法 の違 いに ヒ ント を 得 た も の
類 と原 拠 本 とを 結 び つけ た 大 き な 要 因 であ る と考 え ら れ る 。
た と お考 え に な る のか 。 そ し て 、 そ のよ う に 考 え る と 、 巻 第 二 の 一
中略ー
う な と こ ろが 興 味 深 い。 天 草本 エ ソポ は 、 そ の上 巻 編 集 の際 に は 古 活
に ラ テ ン語 本 が参 照 さ れ た と 推 定 さ れ る 。 そ し て、 下 巻 は そ の ラ テ ン
字 本 祖 本 (古 活 字 版 ﹃伊 曽保 物 語﹄ の祖 本 ) が底 本 と さ れ 、 そ れ と 共
語 本 を 底 本 と し て編 集 さ れ た と 推 定 さ れ る 。 一方 、 天 草 本 平 家 も 、 そ
(妓 王 ) 以前 の問 題 は 、近 藤 氏 の説 の場 合 では 、 編 集 の途 中 で入手 し
一 (妓 王 ) 以 前 の 口語 訳 草 稿 文 と を 校 合 し 、 多 少 の語 句 を 改 め た と 考
た 片 仮名 百 二十 句 本 と の校 異 が た ま たま 巻 第 二 の 一 (妓 王 ) 以 前 の底
え ら れ る こと にな る 。 そし て 、筆 者 の説 の場 合 では 、 巻 第 一編 集 後 の
の巻 第 二 の 一 (妓 王 ) ま で の 編 集 に お いて は 覚 一本 が 底 本 と さ れ 、 そ
巻 第 二 の二 以 下 の底 本 と な った 片 仮 名 百 二 十 句 本 が 天 草 本 の編 集 当
反 省 も 一つには こ の片 仮 名 百 二十 句 本 の入 手 と いう こと と か か わ り を
れ と共 に片 仮 名 百 二十 句 本 が 参 照 さ れ た と 思 わ れ る ふし が あ る 。 そし
初 か ら 用 意 さ れ て いた のか 否 か は 不 明 であ る 。 し か し 、 用 意 され て い
持 って いた と 考 え る こと が でき る 。 編集 の当 初 より 片 仮 名 百 二十 句 本
の説 の場 合 では 、 編 集 の途 中 で入 手 した 片 仮 名 百 二十 句 本 と 巻 第 二 の
た と し て も 不 思 議 では な い。 覚 一本 を 底 本 に選 ん だ こと に は清 瀬 氏 が
が 用 意 さ れ て いた と 考 え る よ りも 、 右 の よ う に考 え る方 が 良 い のか も
本 で あ った 覚 一本 に 記 入 さ れ てあ ったと 考 え ら れ る こと にな り 、 筆者
前 記 著 書 (一七 〇 頁 ) で ﹁総 検 校 喜 一の手 を 経 た 本 であ れ ば 、 権 威 あ
知 れ な い。 な お 、 天 草 本 エ ソポ 下 巻 の底 本 変 更 の 理由 は、 古 活 字 本 祖
て 、 巻 第 二 の二 か ら は そ の片 仮 名 百 二 十 句 本 を 底 本 と し て編 集 さ れ た
る本 と し て キ リ シ タ ン の側 に迎 え ら れ た の では あ る ま い か 。﹂ と 述 べ
と考えられるわけである。
ら れ る よ う に 、 そ れ な り の理 由 が 推 測 さ れ る が 、 口 語訳 文 を 文 章 と し
要
学
大
良
奈
者 の調 査 不 備 に よ るも の があ った こと を 認 め る 。 ま た 、 近 藤 氏 は論
鍋 島 本 が 入 って い る点 を 疑 問 と され た が 、 これ は 筆 者 の誤 り で、 一
本 の後半 部 が イ ソ ップ 寓 話 と し ては 一般 的 では な い話 や イ ソ ップ 寓話
方 流 諸 本 の欄 に清 瀬 氏 調査 の本 を 、 下 段 の八 坂 流 甲 類 本 の欄 に 筆者
㈹ の注 5 にお いて 、前記 拙論 の ︹
表 一︺ の 一方 流 諸 本 の欄 に龍 門 本 ・
本 稿 の目 的 か ら 目 を 他 に 転 ず る と ま だ いろ い ろな 問 題 が 残 され て い
調 査 の本 を 記 入 し て し ま った こと に よ るも の で、 こ の点 、 表 作 成 上
で は な い話 を 多 く 含 ん で いた か ら であ る 。
の範 囲 の底 本 を 諸 本 と の校 異 語 句 の記 入 さ れ た 書 き 入 れ 校 合 本 と す る
原 則 と し て 天 草 本 の語 句 が 他 本 の 語 句 と ま った く 同 じ の場 合 を コ
注
伊 藤東 慎 ・大 塚 光 信 ・安 田 章 の三 氏 共 編 に よ る 影 印本 ﹃
両足院本平
﹁山下宏明氏が想定された1
漢字片仮 名交り の百二十句本 ﹂と は
駒大本2
5は原拠本 そ のも の
山 下氏 の ﹃平 家 物 語 研 究 序 説 ﹄ (明 治 書 院 ・昭 和 四 十 七 年 三 月 ) に よ
近 藤氏 は 次 のよ う に述 べら れ る 。 ﹁ー
る。
で は な いが 、 そ れ に近 い。 そ れ 故 に 、 天 草 版 平 家 の こ の部分 の原 拠 は
覚 一本 系 の右 のよ う な 本 文 であ った と 推 測 さ れ る 。 そ し て 、原 拠 を 鍋
(4 )
(3 )
家 物 語 ﹄ (臨 川 書 店 ・昭 和 六 十 年 四 月 )。
(2 )
用 いた場合もある。
﹁照 応 ﹂ と いう 語 で表 し た が 、 コ 致 ﹂ の 意 味 で ﹁対 応 ﹂ と いう 語 を
致 ﹂ と い う 語 で 表 し 、 文 語 と 口語 と の違 い が あ る 場 合 等 を ﹁対 応 ﹂
(1 )
近 藤 氏 の御 批 判 に感 謝 の意 を 表 す る 。
の ミ スが あ った こと を お わび す る 。
る が 、 そ れ ら の中 で筆 者 の関 心 の的 は 、 天 草 本 平 家 の巻 第 二 の 一ま で
説 で あ る 。 筆 者 と ても 天 草 本 平 家 の底 本 に他 本 と の校 異 語 句 が全 く 書
き 入 れ ら れ て いな か った な ど と は 思 って いな い。 ま た 、 口語 訳 に際 し
一本 の本 文 と 一致 し な い で他 の諸 本 と 一致 す る よう な天 草 本 の問 題 語
て そ の校 異 語 句 の方 を 選 ん だ 場 合 も あ った こと であ ろう 。 し かし 、覚
天 草 本 の右 のよ う な 問 題 語 句 のす べ ては 原 拠 本 に記 入 さ れ て い た校 異
句 に つい て、そ れら のす べ てを 原拠 本 の 本 文 形 成 の問 題 と し てと ら え 、
語 句 の方 に 拠 った こと か ら 生 じ た も のと 考 え る方 法 には 筆 者 は納 得 が
いか な い。 研 究 の過 程 と し て やむ を 得 な いと こ ろが あ ると は思 うも の
の 、 そ のよ う な 考 え 方 には 何 か 二種 類 の邦 訳 イ ソ ップ物 語 が広 本 文 語
訳 本 を 土ハ通 祖 本 と し て別 々 に編 集 さ れ た と す る往 年 の説 と 共 通す るも
のが あ る よ う に筆 者 には 感 じ ら れ る の であ る 。 そ の広 本 文 語 訳 本 は古
活 字 本 ・天 草 本 両 イ ソ ップ の寓 話 のす べ てを 含 む 本 と し て想 定 さ れ 、
ま た 、 天 草 本 平 家 の巻 第 二 の 一 (妓 王 ) ま で の範 囲 で言 えば 、底 本 と
さ れ た 書 き 入 れ 校 合 本 は 天 草 本 平 家 の覚 一本 系 と 一致 す る 語句 お よ び
のよ う な 共 通 点 が あ る よ う に筆 者 には 思 わ れ る の で あ る が 、 こ れ は 筆
他 本 と 一致 す る 語 句 のす べ てを 含 む 本 と し て想 定 さ れ て い る ⋮ ⋮ ⋮ こ
諸 本 の関 係 図 を 基 に し たも の。
た と え ば 、 日 葡 辞 書 に ﹁£δ σq一口● ζ ぐ 碧 o口○ <oぼ ・1
底本書き入れ校合本説 には天草本編者が底本本文 の語句を採 らない
﹂と ある 。
こ の図 は 山 下 宏 明 氏 の ﹃平 家 物 語 研 究 序 説 ﹄ にお け る 百 二十 句 本 系
る を 得 な い。﹂
島 本 の よ う な ﹃わ つ か に﹄ と し て論 じ た 清 瀬 氏 の主 張 は 誤 り と考 えさ
(5 )
76
者 の偏 見 であ ろ う か 。
近 藤 政 美 氏 が 論 ㈹ で批 判 を 加 え て お ら れ る前 記拙 論 の論 拠
))
︹付 記 ︺
例 は 本 稿 に掲 げ た 例 だ け では な い。 し か し、 本 稿 で は筆 者 の立 論 に
直 接 か か わ る 批 判 だ け を 取 り 上 げ る こと に し た。 他 の批 判 例 に は 筆
((
34
第16号
紀
遠 藤:天 草 本平 家物 語 小 考 ・そ の 二
35
で 書 き 入 れ ら れ た 校 異 語 句 の方 を採 った の は な ぜ か と いう 問 題 が生 ず
る 。 こ の問 題 を ど のよ う に考 え る の か 、 こ の 点 に筆 者 は 関 心 を 持 つの
天 草 版 の編 者 は 、 校
で あ る が 、 清 瀬 良 一氏 は 前 記著 書 (七 六 ∼ 七 七 頁 ) にお い て 一例 を 挙
げ て 次 のよ う な こと を 述 べ て お ら れ る 。 ﹁
合 の 結 果 書 き 添 え ら れ た 後 出 本 の 語 句 を 本 行 の 語 句 が 訂 正 さ れ たも の
龍 大 本 の本 文 は 次 の通 り。 ﹁あ る 朝 いそ の 方 よ り か け ろ ふ な と の や
monogatarianditscompilationmethod.ThedetailsinEnglish,beingcomplicated,
と 解 し て、 そ れ を 口訳 本 文 に取 り 入 れ た の で は あ る ま いか 。﹂
Themainpurposeofthispaperistoclarifymyacademicstandpointwithregard
も と は 法 師 に て有 け ると
総 説 ﹄ (風 間 書 房 ・昭 和
toMr.MasamiKondo'scriticismonmypreviouspaperwhichdiscussedFeige-
う に や せ お と ろ へた る 者 よ う ほ ひ出 き た り
拙著 ﹃邦 訳 二 種 伊 曽 保 物 語 の原 典 的 研究
Summary
覚 え て、﹂。
天草 本 の エ ソポ 伝 にお け る ﹁こ れ を マ シ モ ・プ ラ ヌデ と いう 人 グ レ
六十二年二月)参照。
ゴ の言 葉 よ り ラ チ ンに 翻 訳 せ ら れ し も の な り ﹂ と いう 題 辞 は 参 照 し た
Jun-ichiENDO
(8 )
(9 )
(10 )
ラ テ ン語 本 に お け る エソポ 伝 の題 辞 を 権 威 付 け の た め に借 用 し たも の
で あ る 。 ま た 、 天 草 本 平 家 の場 合 は 、 まず 権 威 付 け のた め に 一方 流 の
こ と に よ って示 そ う と し た の であ ろ う 。
areomittedhere.
本 を 底本 に 選 び 、 そ の こと を ﹁喜 一検 校 ﹂ と い う 語 り 手 を 登 場 させ る
AstudyofFeige-monogatari(thestoryof
theclanofHeike)publishedinAmakusa,
JapanbytheJesuitmissionariesin1592
(PARTII)
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