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原子を見よう

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原子を見よう
原子を見よう
1. はじめに
オランダのレーベンフックが1675年に顕微鏡を発明して以来、ミクロな対象を
観察するために様々な顕微鏡が発明されてきました。通常の顕微鏡では、光の波長よ
り小さいものは、ぼやけてしまってはっきりと見ることはできません。これは、光が
波としての性質を持っているためです。このために、もっと波長の短い波(=電子の
波)を用いて、小さなものを見ようという試みが今世紀の初めにドイツで始まりまし
た。1939年には、ルスカによって電子顕微鏡が発明されました。
原子が存在することは、化学反応の起こり方や、ブラウン現象によって18世紀の
終わりごろから議論されてきました。でも、「目で見る」以上に確かなことはありま
せん。そこで、多くの人が電子顕微鏡で原子を見ようと努力しました。その努力が報
われたのは、20年ほど前です。日本では、橋本が重要な貢献をしています。
1981年には、ビニッヒとローラーにより走査型トンネル顕微鏡(STM)が発
明されました。この顕微鏡は、通常の顕微鏡や電子顕微鏡とは全く異なった原理で小
さなもの=原子!を見ることができます。今日は、走査型トンネル顕微鏡で、炭素の
原子を見ましょう。
2. 実験
2-1. トンネル効果
電子などの小さなものの世界では量子力学というちょっと変わった原理に従って、
いろいろな現象が起こります。そのなかでもっとも面白い現象のひとつがトンネル効
果です。次の図のように、本当なら出てくるはずのないものがまるで壁を「トンネル」
したかのように、出てくる現象です。動物園で起こったら大変ですね。
このトンネル効果をうまく使って、原子を見ようとするのが走査型トンネル顕微鏡
です。
2-2. 走査型トンネル顕微鏡の原理
先端を尖らせた金属の針(オレンジ色の三角)を次の図のように、試料(水色)に
近づけます。すると、試料の中の電子がトンネル効果によって、金属の針に移動しま
す。すなわち、電子の移動(=電流)が起こります。この電流のことをトンネル電流
と言います。このトンネル電流は針と試料の間の距離に敏感に依存します。そこで、
トンネル電流を一定に保つように針と試料表面の距離を制御しながら、針を動かすと
(走査すると言います)、針は表面にある原子による凹凸のために、上下しながら動
きます。この上下動と針の位置をコンピュータの中で再構成して、試料表面の原子の
並び方を絵にすることができます。
2-3. 実験装置
使 う の は ス イ ス の Nanosurf 社 の
easyScan という走査型トンネル顕微鏡
とコンピュータです。この会社のホー
ムページが http://www.nanosurf.com
にありますので、一度訪れてください。
写真のように、装置をセットします。
セットしておきますので、すぐにコン
ピュータを使って走査型トンネル顕微
鏡を操作することができます。
装置を制御するためのプログラムを
スタートさせると、次の図のようなウインドーが現れます。このウインドーの中で、
走査する範囲を変えたり(通常の顕微鏡ならば、倍率を変えることに相当)、見る場
所を選択したり、装置の感度を変えたりします。針を試料に近づけて、走査をスター
トする(針を前後左右に動かす)と針の高さがリアルタイムで表示されます。左の方の
グラフです。その右のオレンジ色のイメージは、試料表面の凹凸の情報をコンピュー
タ内で再構成して、絵にしたものです。
実際に、グラファイトの表面を調べたときの、データを次に示します。実際の実
験では装置にいろいろな雑音が入ってしまって、頭で描いているような完全な絵を得
ることはできません。左側のグラフで線がうねっているように見えます。また、ひげ
のような小さな突起が見られますね。これらは雑音のためです。しかしながら、明ら
かに「原子を見ること」ができています。
2-4. 注意事項
装置を2台用意しますので、順番に操作していただきます。操作の詳しい説明は、
実際に動かしながら行います。また、原子を見ることができるという非常にデリケー
トな装置を扱いますので、指導員の指示には、必ず従ってください。危険はありませ
んので、原子を見ることを楽しんでください。
3. 解説
試料はグラファイトです。結晶では、原子が規則正しく並んでいます。その様子は
先の絵でも明らかですね。グラファイトはダイアモンドと同じ炭素の結晶です。ただ
し、ダイアモンドとグラファイトでは、炭素原子の結合の仕方が異なっています。下
にダイアモンドとグラファイトの結晶構造を示します。また、模型も展示しますので、
よく見てください。
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