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参考資料 【研究の背景】 ヤシガニは、体重が 3kg 以上に達する世界最大

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参考資料 【研究の背景】 ヤシガニは、体重が 3kg 以上に達する世界最大
参考資料
【研究の背景】
ヤシガニは、体重が 3kg 以上に達する世界最大の陸生甲殻類で、日本では主に沖縄諸島
以南に生息し、古くから食材や剥製などに利用されてきました。特に近年は、地域特産種
として広く知られ、観光客に珍味として食されたり、ペットとして取引されたりするよう
になり、乱獲による資源量の急激な減少と小型化が懸念されています。そのため、本種は
環境省レッドリストの絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している種)に指定されています。
本種の幼生は海でふ化し、浮遊幼生期を海で過ごしますが、稚ガニへの変態以降は陸上生
活に移行することから陸上生物とみなされ、水産動物に適用される漁業調整規則などの捕
獲制限や規制を受けずに現在に至っています。
繁殖期になるとヤシガニは、まず雌雄で交接を行います。交接とは他の多くの動物で言
ういわゆる交尾のことです。交接は、雌雄が腹部を
合わせ、足を組みあわせた状態で行われます。雌雄
の腹部が密着したところで、雄は精包と呼ばれる精
子を包んだ袋が紐状に連なった真っ白なゼリー状の
物体を雌の腹部体表に付着させます(図 1)。交接し
た雌は産卵時に、受け取った精包を使って体外で卵
を受精させます。雌は受精した卵を腹部にある腹肢
(図 2)に付けて抱卵(図 3)し、約 1 カ月後、海で
幼生をふ化させると言われています。
本種の産卵についての知見は皆無であり、産卵場
所が水中なのか、あるいは陸上なのかについては現
在に至るまで謎に包まれていました。
図 2. 雌の腹部(腹肢と生殖孔)
矢印は卵を付着させる腹肢で腹部に 3 対
ある.○は雌の生殖孔でここから卵を産
み出す(産卵).
図 1. 雌の腹部に付着した精包
矢印の白い物体が精包
図 3. 抱卵した雌の様子
矢印は腹部に抱かれた卵塊を示す.
【研究の内容・特徴】
西海区水産研究所石垣支所では地域特産種として期待される本種の持続的な利用を目的
とし、平成 17 年から竹富町鳩間島(図 4)にてヤシガニ資源の基礎調査を行い、さらに平
成 19 年度からは主に繁殖生態を明らかにするための調査に取り組んでいます。
平成 20 年 6 月 5 日(0 時 5 分)の調査で、陸上の隆起石灰岩の裂け目の中で産卵してい
る様子の撮影(図 5)、さらに 7 月 10 日の調査において交接する瞬間の撮影に世界で初めて
成功しました(図 6)。
産卵中の個体は海岸線近くの隆起石灰岩の岩壁中腹に水平に走る裂け目(裂け目の高さ
12 ㎝×裂け目の幅 80 ㎝×奥行き 80 ㎝)の中で発見し、産卵したばかりの卵を腹肢に付着
させている様子が観察できました。この発見でヤシガニは陸上で産卵することが明らかに
なりました。この産卵行動の詳細については英国科学雑誌「JMBA2-Biodiversity Records」
に受理され公表されました。
また、7 月 10 日 19 時 30 分には、海岸線から約 30m離れた草の茂った場所において交接
行動が観察でき、その様子は 1971 年にマーシャル諸島において観察された例とほぼ同様で
あることが確認できました。これまで本種の交接行動の観察は、マーシャル諸島でのスケ
ッチによる 1 例のみでした。
今回紹介した野外でのヤシガニの産卵場所の特定と詳細な産卵行動の観察および交接行
動の撮影は、絶滅が危惧されている本種の適切な資源管理計画の策定や飼育条件下で安定
的に受精卵を確保する技術の確立に大きく貢献するものと期待されます。これまで、当セ
ンターでは飼育下で本種を交接させることはできていましたが、最適な産卵環境が不明な
ため、交接に続く産卵から抱卵をさせることができずにいました。今回観察した天然の産
卵環境を飼育容器内で再現し、交接後の雌を入れて飼育することにより本年 6 月に世界で
初めて飼育下で産卵・抱卵させることに成功しています。
なお、本研究の一部は文部科学省科学研究費補助金若手研究 B(課題番号:20710184)の
助成を受けて実施しています。
鳩間島
石垣島
西表島
図 4. 八重山諸島と鳩間島の位置
図 5.ヤシガニの産卵・抱卵の様子
矢印の赤い部分が産卵直後の卵塊
図 6. 野外で観察された交接のワンシーン
背中が見える上の個体が雌,仰向けになって雌の背中に下から
足を回している個体が雄.2 個体は胸をあわせて組み合ってい
る状態.
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