Comments
Description
Transcript
写真を用いた個人回想法におけるよい聴き手の実践と課題 本川静加1
写真を用いた個人回想法におけるよい聴き手の実践と課題 未来志向の視点に基づくプロセスレコードの分析 ○本川静加1),永森敏子1),河村美咲2),牛田篤3),下山久之4) ○1)医療法人社団明寿会,2)社会福祉法人杉和会,3)富山福祉短期大学,4)同朋大学 ≪目的≫ 《結果》 先行研究から,回想法は本人の生活歴や地域 性を理解し,写真や音楽,道具を活用して回想 法を行うことが効果的である.しかし,今後の 課題として,実施者のよい聴き手となることや 過去の思い出を現在、未来の生活に活かす視点 が重要であると報告されている. 本研究の目的は,プロセスレコードの分析を 通して良い聴き手となるためのポイントと実施 者の生じ易い課題を明らかにする. 「昔の遊び」をテーマに個人回想法を展開し た結果,家の手伝いや畑の思い出となり,ご自 身が子どもの時には役に立たなかったこと,親 によく怒られたこと,こどもをつぶらにいれて おくことが可哀想だった気持ちを語った.本人 から「あの頃は辛かったね」と発言があった. その様子は,過去のほろ苦い思い出に強く焦点 が当たる語り方(過去志向)の様子であった. 一方,当時の気持ちを共感した後,実施者は 子どもを大切にすることに気づき,子どもの遊 びをテーマにすると,けん玉で遊んだことを語 り,最後に「何やら楽しかったわ」と語った. ≪方法≫ 対象:A県B市C老人保健施設の入所者1名. 対象者の状態:女性、89歳、認知症の日常生活 自立度Ⅲa、MMSE 11/30点(2015.7.13現在) 日頃の生活では「家に帰りたい」と帰宅欲求が 強く,フロアを歩く様子がある. 期間:平成27年8月~平成27年12月. 調査手法:「懐かしさの扉」「写真で見せる回 想法‐生活写真集 回想の泉‐」の写真を用い た個人回想法の実施.1回30分程度.1回実施. 分析方法:プロセスレコードを作成し,その内 容を質的分析する. 【倫理的配慮】本研究は,対象者へ書面にて説 明を行い,同意を得て実施.なお,必ず本人特 定されない. 本人さんの様子・言動 私が感じたり考えたこと 1 きょろきょろと周りを見回している。 3 「Mさんこんにちは。本川と言います。お元気です か?」 4 「本川さん?よく聞く名前やね。氷見で多いがかね」 5 「そうですね。本川という名前は氷見では多いです ね。」 「今日は、Mさんとお話ししたくてお伺いしたんです」 6 「わたしとなんかけ?私と話しても、なんもいいことな 7 いわいね」 手を膝のところに置き、何度もすりすりしながらこちら 8 を見ている。 「大丈夫ですよ。Mさん沢山昔の事しっておられるの で勉強になります。」 9 「そんなことないちゃいね…。」 10 あまり負担にならないように話をきいてみよう。 「あんまし無理せんと、お話しきかせてくださいね。」 13 手に持っていた「懐かしさの扉」「回想の泉」の本に興 14 味をもたれたんだ。 2 12 「ありがとうね。あんた手になにもっとるが?」 15 「昔は子供とよう遊んだわいね。けどね。やっぱ家のこ ともあったもんで、あんましね…」 17 「なーん、私なんか何もできんだもんでよう怒られて 18 ばっかやったわいね…。昔から役にもたたんだわ…」 20 「畑け?しとったことあったけど、子供も小さかったら ね…、なかなか大変なこともあったちゃね」 不安な気持ちが言動に表れているのではないか? 私 の 言 動 11 16 笑ってはおられるものの、下を向き始め、沈黙がつづ 19 いている。あまりMさんにとって、よくないことを思い出 させてしまったのだろうかと感じた。 21 「この本を使って、Mさんと今日お話しできたらいいな と思って。いろんな写真のっているんですよ。Mさん は海で遊んだことありますか?」⇒写真をみせる。 「おうちのこともやらなくちゃいけないことあったんで すね。ご飯を作ることとかですか?」 「昔、大変だったんですね…」⇒しばらく間を置く。 「畑とかはしていましたか?」 「子供さん小さいと大変でしたよね。その時は、子供さ んどうされてたんですか?こういうつぶらにいれてい たんですか?」 表1 対象者に用いたプロセスレコードの一部 《考察》 参考資料1 個人回想法に用いた書籍の写真「懐かしさの扉」より 本結果から,本人は思い出を語る中で過去志向 となる事もある.しかし,聴き手の聴き方次第で は,本人は過去志向のまま語り続けるだけではな い状況が観察された。だらからこそ,過去志向か ら未来志向を生み出せる糸口を見極める必要があ る.よい聴き手を意識する際,回想法の実施者は, 過去志向を受容と共感する姿勢が重要である.更 に実施者は未来志向「今これから」を意識し,本 人の大切にしている想いを汲み取り,語りを見極 めながら回想法を展開することが課題と考える. 《今後の課題》 参考資料2 個人回想法に用いた書籍 「写真で見せる回想法」より 本研究は1事例のケーススタディであり,対象者 の選定が限定的である.今後も追跡調査をしながら 継続的な実施と分析が必要ある.