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21 B.毛包系腫瘍 follicular tumors
B.毛包系腫瘍 387 治療 角質溶解剤外用,外科切除,電気凝固,凍結療法,削皮術, レチノイド投与など.慢性で難治性である. B.毛包系腫瘍 follicular tumors 1.毛包腫 trichofolliculoma 表面平滑な 5 〜 10 mm ほどのドーム状の小結節あるいは丘 疹で,顔面,とくに鼻部やその周辺に好発する(図 21.5) .中 央部に角化性小陥凹がみられ,その部位に羊毛に似た複数の幼 ぜい もう 弱毛(毳毛)が生えることが特徴である.病因は不明であるが, 内・外毛根鞘と毛乳頭などを含む全毛包性分化を示す良性腫瘍 と考えられている. 2.毛包腺腫 trichoadenoma 直径 1.5 cm 以下の単発性で弾性硬の結節.顔面に好発する. 毛包腫と毛包上皮腫の間の分化を示す腫瘍と考えられる.正常 真皮との境界は明瞭で,真皮内に多くの角質囊腫や充実性細胞 図 21.5 毛包腫(trichofolliculoma) 中央部に角化性小陥凹がみられ,複数の幼弱毛が生 えている. 塊を認める. 3.毛包上皮腫 trichoepithelioma 基底細胞様細胞を主体とし,毛乳頭などへの分化傾向も伴う おとがい 毛芽由来の良性腫瘍である.鼻周囲や眉毛部,上口部,頤部, 頬部に直径 2 〜 10 mm 程度,正常皮膚色の小丘疹がみられる. 弾性硬で表面に光沢を有する.①単発性,②遺伝性を有する多 21 発性,③病理組織学的に線維化の強い線維硬化性毛包上皮腫に 分類される. ①単発性毛包上皮腫(solitary trichoepithelioma) 最も出現頻度が高い.遺伝性はみられない.病理組織学的に は小角質囊腫や基底細胞様細胞で構成され,間質が増殖する. 基底細胞癌と鑑別の難しいものも存在するが,多くは分化が進 んだ角質囊腫で,不完全ながら毛乳頭の形成もみられる所見を 有する. また, 腫瘍塊と間質間に裂隙を形成しない点が基底細胞 癌との鑑別になる. ときに周囲に異物反応や石灰沈着を認める. ②多発性家族性毛包上皮腫(multiple familial trichoepithelioma) 〔同義語:多発性丘疹状毛包上皮腫(trichoepithelioma papulosum multiplex) 〕 女子にやや多い.常染色体優性遺伝形式をとり家族内発生が 図 21.6 多発性家族性毛包上皮腫(multiple familial trichoepithelioma) 正常皮膚色,2~10 mm 大の半球状の硬い丘疹が多発. 388 21 章 皮膚の良性腫瘍 ある.本症の原因として cylindromatosis gene(CYLD1 遺伝子) の異常が同定されている.思春期に初発し,常色の小丘疹が鼻 を中心に出現,多発する(図 21.6) .結節性硬化症の顔面血管 りゅう き かく 線維腫(20 章 p.372 参照)に類似するが.白斑や粒起革様皮膚 など他症状の有無で鑑別可能である.必要に応じて単純切除や レーザー療法を行うが再発しやすい. ③線維硬化性毛包上皮腫(desmoplastic trichoepithelioma) 比較的若年成人女性の頬部,額部,鼻部などの顔面に好発し, 正常皮膚色から淡黄色で数 mm 〜 1 cm までの環状結節ないし は局面を呈する.辺縁が隆起し,中央が陥凹するのが特徴であ る(図 21.7).病理組織学的に腫瘍細胞の索状増殖や多数の角 しょう し 図 21.7 線維硬化性毛包上皮腫(desmoplastic tri choepithelioma) 5 mm 大,辺縁が隆起し小環状結節が縁取りする. 質囊腫,硝子化した膠原線維をみる.基底細胞癌との鑑別が困 難なものもある. 4.毛芽腫 trichoblastoma 好発部位は顔面や頭部で,半球状に隆起した結節ないしは皮 下結節.毛包の毛芽細胞(follicular germinative cell)に類似し た腫瘍細胞と,線維性間質で構成されている.脂腺母斑に伴っ て生じる場合もある. 基底細胞癌との鑑別が困難なものもある. 毛包上皮腫との異同が論議されている. 5.毛母腫 pilomatricoma 同義語:石灰化上皮腫(calcifying epithelioma) ,毛根腫(pilomatrixoma) 症状 幼小児の顔面,頸部,上肢に好発し,通常単発性の直径 1 〜 21 2 cm までの硬い皮内および皮下腫瘍.表面は常色ないし青白 く透見され,凹凸に富み骨様硬に触知する(図 21.8).ときに 水疱様外観を呈する.自覚症状はないが,ときに軽度の圧痛を 図 21.8 毛母腫(pilomatricoma) 直径 1 ~ 2 cm の軽度圧痛を伴う皮下結節.水疱形成 や淡紅斑を伴うこともある. 伴う.二次感染を生じて炎症性類表皮囊腫(p.395)と区別が つかなくなることがある.筋緊張性ジストロフィー症で多発す ることがある.ごくまれに癌化することがあり,毛母癌(pilo- 過形成,腺腫,上皮腫 matrix carcinoma)という. 病因 毛隆起(hair bulge)から発生する奇形腫の一種.b カテニン 遺伝子の異常でも本症が発症する. C.脂腺系腫瘍 389 病理所見 真皮下層〜皮下組織に境界鮮明な不規則形の腫瘍塊を認め る.明らかな被膜をもたないが線維性結合組織で包囲される(図 21.9) .腫瘍細胞は好塩基性細胞(basophilic cell:毛母細胞由来) および陰影細胞 (shadow cell:核が消失し好酸性に染色され,毛 にく げ 皮質に相当する)から構成される.石灰化や異物肉芽腫を伴う. 治療 外科的に摘出する. 6.外毛根鞘腫 trichilemmoma 顔面に好発する,直径 3 〜 8 mm くらいの正常皮膚色から淡 褐色の疣贅状の丘疹.多くは単発性であるが,多発する場合は Cowden 症候群(MEMO)の可能性を考慮する.病理組織学的 には円柱状細胞が柵状に配列し,外毛根鞘細胞に類似した澄明 細胞が集団で存在する.本症の悪性型として外毛根鞘癌(trichilemmal carcinoma)がある. 図 21.9 毛母腫の病理組織像 矢印は shadow cell. 7.増殖性外毛根鞘性囊腫 proliferating trichilemmal cyst 被髪部位に好発する,1 〜 10 cm 大の皮下結節ないしは腫瘤. 臨床的に類表皮囊腫や外毛根鞘囊腫(後述)と類似するが,表 面にびらんや潰瘍を形成することがある.病理所見で外毛根鞘 性角化(trichilemmal keratinization)を示すが,細胞成分の増殖 もみられ,毛包峡部由来と考えられている.病理組織学的に異 型性を伴う悪性増殖性外毛根鞘性囊腫(malignant proliferating trichilemmal cyst)との鑑別を要する. カウデン Cowden 症候群 (Cowden syndrome, multiple hamartoma syndrome) 全身に過誤腫性病変を生じる常染色体優性遺伝疾 患.PTEN 遺伝子異常による.口腔粘膜の乳頭腫 症,顔面および四肢の角化性丘疹(外毛根鞘腫が 多い)や,乳腺,甲状腺,消化管腫瘍を生じる. 悪性腫瘍を合併しやすい. 21 C.脂腺系腫瘍 sebaceous tumors 1.脂腺増殖症 sebaceous hyperplasia 同義語:老人性脂腺増殖症(senile sebaceous hyperplasia) 成熟した脂腺が増殖して隆起したもので,高齢者の顔面(前 額,頬,鼻)に好発する.直径 3 〜 8 mm の黄白色の丘疹ない し扁平な小結節(図 21.10) .複数個生じることが多い.中心 臍窩を有し,ときに中央から皮脂を排出する. 図 21.10 脂腺増殖症(sebaceous hyperplasia) 390 21 章 皮膚の良性腫瘍 2.脂腺腺腫 sebaceous adenoma 中高年の顔面,頭皮に好発する黄色調の結節および腫瘤.病 理組織学的に脂腺分化を示す良性腫瘍である. 3.脂腺腫(脂腺上皮腫) sebaceoma(sebaceous epithelioma) 顔面や頭皮に生じるドーム状あるいは有茎性の結節(図 図 21.11 脂腺腫(sebaceoma) 黄色調のドーム状に隆起する小結節. 21.11) .黄色調を呈することもある.病理組織学的に,基底細 胞様の腫瘍細胞の増殖を認める.未分化な細胞がみられるなか, 一部で脂腺細胞や導管への分化を認める. D.汗腺系腫瘍 sweat gland tumors 1.エクリン汗囊腫 eccrine hidrocystoma 顔面に単発,ときに多発する,直径 2 〜 3 mm の常色〜青色 調の半透明小結節(図 21.12).多発する症例では夏季に増加, 冬季に減少する傾向がある.エクリン汗腺の真皮内汗管が拡張, 囊腫化したものと考えられる(図 21.13).断頭分泌はみられ ない.針で穿刺すると汗の貯留が確認される. 図 21.12 エクリン汗囊腫(eccrine hidrocystoma) 2.汗管腫 syringoma 症状 エクリン汗腺の真皮内汗管が限局性に増殖した結果,直径 1 21 〜 3 mm 大の正常皮膚色の扁平隆起性および小丘疹が多発す る.眼瞼部に好発し,体幹に播種状に認められることや融合傾 向を示すこともある(図 21.14) .女性に多く,汗の分泌量が 増加する思春期に目立つ.自覚症状はないが,自然消退するこ ともほとんどない.17 章 p.311 の MEMO も参照. 図 21.13 エクリン汗囊腫の病理組織像 病理所見 真皮上〜中層に,大小の管腔構造と索状構造がみられる.管 腔の一端に,短い尾のような上皮索をつける特徴的な像〔オタ マジャクシ様(tadpole-like)またはコンマ状(comma tail)〕を 呈する.管腔は 2 層の壁細胞からなり,周囲に結合組織の増殖 をみる(図 21.15) .