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8.腫瘍と類腫瘍 - 日本産科婦人科学会

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8.腫瘍と類腫瘍 - 日本産科婦人科学会
2009年 5 月
N―165
E.婦人科疾患の診断・治療・管理
Diagnosis, Treatment and Management of Gynecologic Disease
8.腫瘍と類腫瘍
Tumor and Kind Tumor
4)卵巣の腫瘍・類腫瘍
(2)悪性卵巣腫瘍(組織分類・期別分類)
Ⅰ.卵巣腫瘍の臨床病理学的分類
卵巣には,他のどの臓器よりも多種多様な腫瘍が発生する.卵巣は皮質と髄質からなり,
表層には胎生期の体腔上皮(coelomic epithelium)
を起源とする表層上皮(surface epithelium)
,随質内には周囲を顆粒膜細胞と莢膜細胞(性索間質細胞 sex cord stromal cell)
が取り囲んだ卵細胞(胚細胞 germ cell)
があり,卵胞を形成している.卵巣腫瘍はこれら
の組織から発生してくるものと考えられている(図 E-8-4)
(
- 2)
-1)
.
日本産科婦人科学会は,日本病理学会の協力で1990年7月,卵巣腫瘍の臨床病理学的
新分類を作成した(表 E-8-4)
(
- 2)
-1)
.各組織から発生してくる腫瘍はそれぞれ良性,境
界悪性,悪性に分類される.国際分類(WHO 分類)
との変換が容易であることを念頭にお
いて作成されたが,基本的には WHO 分類に準拠すべきである.以下に組織学的分類と
その特徴について述べる.なお,この分類は,現在改訂作業が進行中である.
Ⅰ)表層上皮性・間質性腫瘍 Surface epithelial-stromal tumors
最も発生頻度が高く全卵巣腫瘍の約2"
3を占め,卵巣癌の70∼80%は本腫瘍である.
上皮性組織と間質性組織が種々の割合に混在する.腫瘍性上皮成分は卵巣表面を覆う体腔
上皮に由来するが,多分化能を有し,卵巣表層上皮ないし卵管上皮に類似する漿液性腫瘍,
子宮頸部の腺上皮に類似する粘液性腫瘍や子宮内膜腺上皮に類似する類内膜腫瘍など,
種々のミューラー管上皮への分化を示す(図 E-8-4)
(
- 2)
-2)
.
さらにこの範疇に入る腫瘍では,良性と悪性の中間病変として境界悪性 borderline malignancy の例が存在する.
境界悪性腫瘍の組織学的特徴は,
1.上皮細胞の多層化
2.腫瘍細胞集団の内腔への分離増殖
3.同一細胞型における良性と悪性の中間的な核分裂活性と核異型
4.間質浸潤の欠如
A.漿液性腫瘍 Serous tumors
卵管上皮あるいは卵巣表層上皮に類似した細胞からなる腫瘍
漿液性腺癌:全卵巣癌の約40%を占める
1.好塩基性の狭小な胞体,比較的小型の癌細胞
2.乳頭状の増殖
3.微細な樹枝状乳頭
4.間質は狭細
5.砂粒小体 psammoma body の出現(悪性例で高頻度)
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N―166
日産婦誌61巻 5 号
表層上皮
間質
発育卵胞
原始卵胞
性索間質 :顆粒膜細胞・
莢膜細胞
卵細胞 :胚細胞
血管
閉鎖卵胞
成熟黄体
成熟卵胞(グラーフ卵胞)
白体
(図 E84)
(
-2)1) 卵巣組織シェーマ
B.粘液性腫瘍 Mucinous tumors
内頸部型 endocervical type
(子宮頸部の腺上皮に類似)
,腸上皮型 intestinal type
(杯
細胞や Paneth 細胞を含む)
,およびこれらの混合型 mixed type が認められる.
粘液性腺癌
1.不規則な腺腔形成
2.小型の腺構造
3.腺癌細胞の重層性または乳頭状増殖
C.類内膜腫瘍 Endometrioid tumors
子宮内膜の腫瘍に類似する所見を呈する腫瘍
類内膜癌
1.純粋型の類内膜癌 endometrioid adenocarcinoma
2.腺 平上皮癌 adenosquamous carcinoma
3.腺棘細胞癌 adenoacanthoma
4.子宮内膜症から発生する例
上皮性成分と間質性成分が混在する悪性群
1.腺癌線維腫 adenocarcinofibroma,囊胞腺癌線維腫 cystadenocarcinofibroma:
上皮性成分が悪性(類内膜腺癌)
で間質成分が良性
2.腺肉腫 adenosarcoma:上皮成分が良性または境界悪性で間質成分が悪性
3.中胚葉性混合腫瘍 mesodermal mixed tumor:両者が悪性
間質肉腫
子宮内膜間質肉腫に類似するもの
D.明細胞腫瘍 Clear cell tumors
良性や境界悪性例の報告はまれ
明細胞腺癌:欧米に比し本邦で高頻度(上皮性悪性腫瘍の10∼15%)
1.淡明な胞体でグリコーゲンに富む癌細胞
2.核が細胞の遊離面に近く突出する hobnail 型の癌細胞
3.両者またはいずれかよりなる腺癌で管状,乳頭状,微小囊胞状あるいは充実性の構
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2009年 5 月
N―167
(表 E84)
(
-2)1) 卵巣腫瘍の臨床病理学的分類
良性腫瘍
Ⅰ.表層上皮性・間 漿液性嚢胞線腫
質性腫瘍
粘液性嚢胞線腫
境界悪性腫瘍
悪性腫瘍
漿液性嚢胞性腫瘍,境界悪性 漿液性(嚢胞)
腺癌
粘液性嚢胞性腫瘍,境界悪性 粘液性(嚢胞)
腺癌
類内膜線腫
類内膜腫瘍,境界悪性
類内膜腺癌
明細胞線腫
明細胞腫瘍,境界悪性
明細胞腺癌
腺線維腫
表在性乳頭腫
腺線維腫
腺癌線維腫
表在性乳頭状腫瘍,境界悪性 腺肉腫
中胚葉性混合腫瘍
(癌肉腫)
ブレンナー腫瘍
ブレンナー腫瘍,境界悪性
悪性ブレンナー腫瘍
移行上皮癌
未分化癌
Ⅱ.性索間質性腫瘍 莢膜細胞腫
顆粒膜細胞腫
線維肉腫
線維腫
セルトリ・間質細胞腫瘍
セルトリ・間質細胞腫
硬化性間質性腫瘍
(中分化型)
(低分化型)
セルトリ・間質細胞腫瘍 ステロイド[脂質]細胞腫瘍
(高分化型)
(分類不能型)
ライディク細胞腫
ギナンドロブラストーマ
[門細胞腫]
輪状細管を伴う性索腫瘍
Ⅲ.胚細胞腫瘍
成熟嚢胞性奇形腫
[皮様嚢胞腫]
成熟充実性奇形腫
未熟奇形種(G1,G2)
カルチノイド
甲状腺腫性カルチノイド
未分化胚細胞腫
卵黄嚢腫瘍
胎芽性癌
多胎芽腫
絨毛癌
悪性転化を伴う成熟奇形腫
未熟奇形種(G3)
性腺芽腫(純粋型)
癌腫
肉腫
悪性リンパ腫(原発性)
二次性(転移性)腫瘍
卵巣甲状腺腫瘍
Ⅳ.その他
非特異的軟部腫瘍
線腫様腫瘍
造
E.ブレンナー腫瘍 Brenner tumors
特異な上皮構造(移行上皮型の充実巣)
と間質の増殖を伴い,大部分が良性である.上皮
細胞の核はしばしば縦溝を呈し,コーヒー豆様(coffee-bean nuclei)
と表現.
境界悪性腫瘍は増殖性ブレンナー腫瘍,悪性腫瘍は悪性ブレンナー腫瘍と呼ばれる.
F.移行上皮癌 Transitional cell carcinoma
泌尿器系の移行上皮癌に類似する.本腫瘍と診断するにはブレンナー腫瘍成分を認めな
いことが必要.
G.混合型上皮性腫瘍 Mixed epithelial tumors
ふたつ以上の組織型が混在し,どの組織型が優位かを決定できないもの.
H.未分化癌 Undifferentiated carcinoma
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N―168
日産婦誌61巻 5 号
陥入(Cortical invagination)
体腔上皮(Coelomic epithelium)
封入囊腫(Surface epithelial inclusion cyst)
表層上皮(Surface epithelium)
外方発育
卵巣髄質
1. 卵管粘膜化生(fallopian tube metaplasia)
2. 頸管粘膜化生(Endocervical metaplasia)
3. 子宮内膜化生(Endometrial metaplasia)
囊腫・囊胞腺癌発生
(図 E84)
(
-2)2) 卵巣表層上皮腫瘍の発生仮説
極めて未分化でどの組織型に属するか判定できないもの.
I.分類不能 Unclassified
分類判定不能なもの.
Ⅱ)性索間質性腫瘍 Sex cord"
stromal tumors
顆粒膜細胞,莢膜細胞およびこれらの黄体化細胞,セルトリ細胞,ライディック細胞,
性索間質起源の線維芽細胞およびこれらすべての幼弱細胞が単独に,あるいは種々の組み
合わせで含まれる腫瘍.
A.顆粒膜・間質細胞腫瘍 Granulosa-stromal cell tumors
①顆粒膜細胞腫 Granulosa cell tumors
顆粒膜細胞を優位に含む腫瘍.組織像から成人型,若年型に分ける.通常エストロゲン
産生性.少数例は悪性の経過を示すが,通常は低悪性で,境界悪性腫瘍に分類.
②莢膜細胞腫・線維腫群腫瘍
莢膜細胞腫,線維腫,線維肉腫,僅少な性索成分を伴う間質性腫瘍,硬化性間質性腫瘍,
間質性ライディク細胞腫などが含まれる.悪性は線維肉腫.
B.セルトリ・間質細胞腫瘍 Sertoli-stromal cell tumors
種々の成熟段階のセルトリ細胞,ライディク細胞および線維芽細胞が様々な割合で含ま
れる.ほとんどが男化徴候を示すが,ホルモン活性がないもの,エストロゲン活性を示す
ものもある.
高分化型(良性)
,中分化型(境界悪性)
,低分化型(悪性)
.
C.ステロイド細胞腫瘍 Steroid cell tumors
ステロイドホルモン産生腫瘍,すなわちライディク細胞,黄体化細胞ないし副腎皮質細
胞類似の細胞からなる腫瘍.ライディク細胞腫(良性)
,間質性黄体腫(良性)
,分類不能型
(境界悪性)
に分類.
D.輪状細管を伴う性索腫瘍 Sex cord tumor with annular tubules
特異な単純または複雑な輪状細管からなる腫瘍.Peutz-Jeghers 症候群を伴う例
(良性)
と伴わないもの(境界悪性)
がある.
E.ギナンドロブラストーマ Gynandroblastoma
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2009年 5 月
N―169
Germ cell
Morula
・Blastomeres
(Totipotential cells)
未分化胚細胞腫
胎芽性癌
dysgerminoma embryonal carcinoma
Blastula
・Trophoblastic precusors
・Inner cell mass(embryo)
・Yolk sac(endoderm)
卵黄囊腫瘍
yolk sac tumor
多胎芽腫
polyembryoma
奇形腫
teratoma
絨毛癌
choriocarcinoma
(図 E84)
(
-2)
3) 胚細胞性腫瘍の発生
典型的な Call-Exner body をもつ顆粒膜細胞の胞巣が,セルトリ細胞性の腔を有する
管と共存するまれな腫瘍.境界悪性.
F.分類不能 Unclassified
卵巣あるいは精巣への分化が認められない腫瘍.
Ⅲ)胚細胞腫瘍 Germ cell tumors
胚細胞腫瘍とは,原始胚(生殖)
細胞が配偶子に成熟する過程のいずれかの時期に発生す
る腫瘍と考えられ,広範囲の腫瘍が含まれ,きわめて多彩な組織像が認められる(図 E-84)
(
- 2)
-3)
. 全卵巣腫瘍の20∼25%は胚細胞起源で, 良性の大部分は成熟奇形種であり,
若年者に発生する卵巣腫瘍の約2"
3は胚細胞腫瘍である.
A.未分化胚細胞腫 Dysgerminoma
腫瘍細胞は大型円形,類円形で,細胞質は淡明でグリコーゲンに富む.明瞭な核小体,
間質のリンパ球浸潤が特徴的. ときに syncytiotrophblast を伴い β-hCG が証明される.
悪性.
B.卵黄囊腫瘍 Yolk sac tumor(内胚葉洞腫瘍 Endodermal sinus tumor)
特徴ある多彩な組織像を呈する腫瘍で,種々の組織像が混在し,移行もみられる.免疫
組織化学的に AFP が証明される.主として次の4組織像からなる.①内胚葉洞型 Endodermal sinus pattern:最 も 高 頻 度 で,網 目 状 loose reticular network,Schiller-Duval
body
(腫瘍細胞が血管周囲に配列)
,hyaline globules
(好酸性球状の硝子様小球)
などが
みられる.
②多囊性卵黄型 Polyveiscular vitelline pattern:卵黄囊に類似した多数の囊胞からな
り,一層の 平な中皮様細胞に被覆.
③類肝細胞型 Hepatoid pattern:未熟肝細胞あるいは肝細胞癌に類似する腫瘍細胞が
索状に配列.
④腺型 Glandular pattern:立方形の腫瘍細胞が管状,胞巣状あるいは原腸状配列を示
す.
C.胎芽性癌 Embryonal carcinoma
精巣の胎児性癌に類似し,大型の上皮様の腫瘍細胞が管状,乳頭状または充実性に増生.
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N―170
日産婦誌61巻 5 号
卵黄囊腫瘍と共存することが多い.
D.多胎芽腫 Polyembryoma
胎生初期の embryonic body に類似した構造(類胎芽体 embryoid body)
が多数認めら
れる腫瘍.極めてまれな腫瘍で,多くは卵黄囊腫瘍や未熟奇形腫の一部にみられる.
E.絨毛癌 Choriocarcinoma
Cytotrophblast と sycytiotrophoblast に類似する細胞からなる2 cell pattern がみら
れる.結合織に乏しく,出血と壊死が著しい.
F.奇形腫 Teratomas
1.成熟奇形腫 Mature teratoma
a)囊胞性 Cystic
(1)成熟囊胞性奇形腫 Mature cystic teratoma
囊胞内に皮脂と毛髪を認めることが多い.
(2)悪 性 転 化 を 伴 う 成 熟 囊 胞 性 奇 形 腫 Mature cystic teratoma with malignant
transformation
平上皮癌が大部分,まれに腺癌や悪性黒色腫を認める.
b)充実性 Solid
未熟な組織成分の存在を除外しておくことが必要.
c)胎児型 Fetiform
よく分化した各種器官を模倣する充実性奇形腫.
2.未熟奇形腫 Immature teratoma
未熟な胎児性成分を伴う奇形腫をいう.未熟な組織,とくに神経外胚葉組織が豊富なも
のほど播種や転移を起こしやすい.分化度に応じ(未熟な成分,核分裂像の多寡)
,Grade
1,2
(境界悪性)
,Grade 3(悪性)
の3群に分類.
3.単 胚 葉 性 お よ び 高 度 限 定 型 奇 形 腫 Monodermal and highly specialized teratomas
a)卵巣甲状腺腫 Struma ovarii
腫瘍の全体が甲状腺組織で占められる.
b)カルチノイド Carcinoid
腫瘍細胞の配列により島状と索状に区別.
c)甲状腺性カルチノイド Strumal carcinoid
a)
と b)
が共存.
d)粘液性カルチノイド Mucinous carcinoid
e)神経外胚葉性腫瘍 Neuroectodermal tumors
さまざまな成熟段階の神経組織からなる.
f)皮脂腺腫瘍 Sebaceous tumors
g)その他 Others
G.混合型胚細胞腫瘍 Mixed germ cell tumors
上記の各腫瘍が混在する.卵黄囊腫瘍,胎芽性癌,絨毛癌および Grade 3未熟奇形種
と他の組織との混合型は予後不良.
Ⅱ)性腺芽腫 Gonadoblastoma
Ⅲ)胚細胞・性索間質性腫瘍 Germ cell-sex cord"
stromal tumor
Ⅳ)卵巣網の腫瘍 Tumors of rete ovarii
Ⅴ)中皮性腫瘍 Mesothelial tumors
Ⅵ)起源不明の腫瘍 Tumors of uncertain origin
Ⅶ)妊娠性絨毛性疾患 Gestational trophoblastic diseases
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2009年 5 月
N―171
Ⅷ)非特異的軟部腫瘍 Soft tissue tumors not specific to ovary
Ⅸ)悪性リンパ腫 Malignant lymphomas
Ⅹ)分類不能腫瘍 Unclassified tumors
Ⅺ)二次性(転移性)
腫瘍 Secondary
(metastatic)
tumors
卵巣への転移性腫瘍は多く,通常両側性で充実性.Krukenberg 腫瘍は消化管,特に胃
の低分化型腺癌の転移.
)類腫瘍病変 Tumor-like lesions
Ⅱ.臨床進行期分類
個々の患者に最も適した治療方針の決定に際しては,病変の解剖学的広がり,すなわち
臨床進行期分類が重要な指針となる.臨床進行期はあくまで術前評価であり,手術進行期
とは根本的に異なる.開腹して卵巣腫瘍を摘出し,また骨盤,腹腔内の疑わしい箇所につ
いては組織学的検索を,また胸水・腹水に関しては細胞学的診断が必要である.日本産科
婦人科学会では,国際比較を可能とするために以下に記載する FIGO 進行期分類と TNM
分類を採用している.
A.FIGO 進行期分類
現行の FIGO(国際産科婦人科連合,
International Federation of Gynecology and Obstetrics)進行期分類は,1988年リオデジャネイロ総会で決定されたもので,日本産科婦
人科学会でもこれを採用している.表 E-8-4)
(
- 2)
-2は1997年の「卵巣腫瘍取扱い規約
第2部,改訂第2版」に記載されているものである.
卵巣癌国際進行期分類(FIGO 1988)
の要旨を示す.
Ⅰ期:卵巣内限局
Ⅰ a;一側の卵巣に限局
Ⅰ b;両側の卵巣に限局
Ⅰ c;被膜表面への浸潤,被膜破綻,腹腔細胞診陽性
Ⅱ期:骨盤内へ伸展
Ⅱ a;子宮や卵管に及ぶ
Ⅱ b;他の骨盤臓器に及ぶ
Ⅱ c;被膜表面への浸潤,被膜破綻,腹腔細胞診陽性
Ⅲ期:骨盤外の腹膜播種,後腹膜や鼡径部リンパ節転移,肝表面への転移
Ⅲ a;顕微鏡的播種
Ⅲ b;直径2cm 以下の播種
Ⅲ c;直径2cm を越える播種,後腹膜や鼡径部リンパ節転移
Ⅳ期:遠隔転移,肝実質転移
B.TMN 分類
TNM 分類は1952年 Pierre Denoix によって作成され,翌1953年,UICC
(Union Internationale Contre le Cancer:国際対がん連合)
はこれを採用した.表 E-8-4)
(
- 2)
-3は
やはり1997年の「卵巣腫瘍取扱い規約 第2部,改訂第2版」に記載されているものであ
る.
Ⅰ)分類の原理
T:原発腫瘍の進展度,N:所属リンパ節転移の有無,M:遠隔転移の有無の3つの因子
により病変の解剖学的進展度を分類.評価は上述の臨床検査,外科的検索により行い,進
展度についてはそれぞれ数字で表現する.
Ⅱ)所属リンパ節
骨盤内リンパ節および傍大動脈リンパ節が含まれる.
Ⅲ)TNM 臨床分類
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N―172
日産婦誌61巻 5 号
(表 E84)
(
-2)2) 臨床進行期分類(FI
GO,1988年)
進行期の決定は臨床的検査ならびに/
あるいは,外科的検索によらなければならない.
進行期決定にあっては組織診を,また体腔滲出液については細胞学的診断を考慮すべきである.骨盤
外の疑わしい個所については生検して検索することが望ましい.
St
ageⅠ:卵巣内限局発育
Ⅰa:腫瘍が一側の卵巣に限局し,癌性腹水がなく,被膜表面への浸潤や被膜破綻の認められない
もの.
Ⅰb:腫瘍が両側の卵巣に限局し,癌性腹水がなく,被膜表面への浸潤や被膜破綻の認められない
もの.
Ⅰc:腫瘍は一側または両側の卵巣に限局するが,被膜表面への浸潤や被膜破綻が認められたり,
腹水または洗浄液の細胞診にて悪性細胞の認められるもの.
(注:腫瘍表面の擦過細胞診にて腫瘍細胞陽性の場合はⅠcとする.)
St
ageⅡ:腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し,さらに骨盤内への進展を認めるもの.
Ⅱa:進展ならびに/
あるいは転移が,子宮ならびに/
あるいは卵管に及ぶもの.
Ⅱb:他の骨盤内臓器に進展するもの.
Ⅱc:腫瘍発育がⅡ aまたはⅡ bで被膜表面への浸潤や被膜破綻が認められたり,腹水または洗浄
液の細胞診にて悪性細胞の認められるもの.
注1
:他臓器への進展,転移などは組織学的に検索されることが望ましい.
注2
:ⅠcおよびⅡ c症例において予後因子としての関連を評価するため下記の如く分類・表記する
ことが望ましい.
Ⅰc
(a)
:自然被膜破綻
Ⅰc
(b)
:手術操作による被膜破綻
Ⅰc
(1)
:腹腔洗浄液細胞診陽性
Ⅰc
(2)
:腹水細胞診陽性
Ⅱcも同様とする.
St
ageⅢ:腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し,さらに骨盤外の腹膜播種ならびに/
あるいは後腹
膜または,鼠径部のリンパ節転移を認めるもの.また腫瘍は小骨盤に限局しているが小
腸や大網に組織学的転移を認めるものや,肝表面への転移の認められるもの.
Ⅲa:リンパ節転移陰性で腫瘍は肉眼的には小骨盤に限局しているが,骨盤外の腹膜表面に病理組
織学的播腫を認めるもの.
Ⅲb:リンパ節転移陰性で,病理組織学的に確認された直径が 2cm以下の腹腔内播種を認めるもの.
Ⅲc: 直径 2cmを超える腹腔内播種ならびに/あるいは後腹膜または鼠径リンパ節転移の認められ
るもの.
St
ageⅣ:腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し,遠隔転移を伴うもの.胸水の存在によりⅣ期とす
る場合には,胸水中に悪性細胞を認めなければならない.また肝実質への転移はⅣ期とする.
注:肝実質転移は組織学的
(細胞学的)に証明されることが望ましいが,画像診断で転移と診断された
ものもⅣ期とする.
卵巣腫瘍における TNM 臨床分類を表 E-8-4)
(
- 2)
-3に示した.TNM 臨床分類は FIGO
臨床進行期分類に対応.
Ⅳ)術後病理学的 TNM
(pTNM)
分類
手術所見や手術摘出物の病理組織学的検索により TNM 臨床分類を補足説明したもの
で,pT,pN,pM として表現.内容は TNM 臨床分類に準ずる.
卵巣癌においては,開腹所見が進行期決定の基本であるため,pTNM 分類が登録に使
用される.FIGO 分類と TNM 分類の対応を表 E-8-4)
(
- 2)
-4に示した.
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2009年 5 月
N―173
(表 E84)
(
-2)3 TNM 臨床分類
a.T:原発腫瘍の進展度
(T分類は FI
GOの進行期分類に適合するように定義されている)
TX:原発腫瘍の広がりの検索が行われなかったとき
T0:原発腫瘍を認めない
T1:卵巣内限局発育
T1a:腫瘍が一側の卵巣に限局し,癌性腹水がなく,被膜表面への浸潤や被膜破綻の認められない
もの
T1b:腫瘍が両側の卵巣に限局し,癌性腹水がなく,被膜表面への浸潤や被膜破綻の認められない
もの
T1c:腫瘍は一側または両側の卵巣に限局するが,被膜表面への浸潤や被膜破綻が認められた
り,腹水または洗浄液中の細胞診にて悪性細胞の認められるもの
T2:腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し,さらに骨盤内への進展を認めるもの
T2a:進展ならびに/
あるいは転移が子宮ならびに/
あるいは卵管に及ぶもの
T2b:他の骨盤内臓器に進展するもの
T2c:腫瘍発育がⅡaまたはⅡbで,被膜表面への浸潤や被膜破綻が認められたり,腹水または
洗浄液中の細胞診にて悪性細胞の認められるもの
T3:腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し,さらに骨盤外の腹膜播種を認めるもの.また腫瘍
は小骨盤に限局しているが小腸や大網に組織学転移を認めるものや肝表面への転移も T3と
する.
T3a:腫瘍は小骨盤内に限局し,腹膜表面に顕微鏡的播種を認めるもの.
T3b:組織学的に確認された直径 2cm以下の腹腔内播種を認めるもの.
T3c:直径 2cmをこえる腹腔内播種の認められるもの.
b.N:所属リンパ節
NX:所属リンパ節転移を判定するための検索が行われなかったとき.
N0:所属リンパ節転移を認めない.
N1:所属リンパ節転移を認める.
c.M:遠隔転移
MX:遠隔転移を判定するための検索が行われなかったとき.
M0:遠隔転移を認めない.
M1:遠隔転移を認める.
(注)M1および pM1についてはさらに以下の記号をもって表示する.
肺転移:PUL 骨髄転移:MAR
骨転移:OSS 胸膜転移:PLE
肝転移:HEP 皮膚転移:SKI
脳転移:BRA その他:OTH
リンパ節:LYM
d.G:病理組織学的分化度
GX:分化度の検索がなされていない場合
GB:境界悪性腫瘍
G1:高分化型
G2:中分化型
G3:低分化型
e.その他
1)ysymbol
TNM 分類決定前に集学的治療がなされた場合は ysymbolを用いて以下のように示す.
(例)yT2N1M0,ypT2pN1pM0
2)r
symbol
再発腫瘍の TNM 分類については ysymbolを用い以下のように示す.
(例)r
T2N0M0,yr
T2pN1pMX
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N―174
日産婦誌61巻 5 号
C.進行期決定の実際と注意点
Ⅰ)術前検査
1)問診
FI
GO分類
TNM 分類
腹部腫瘤や腹部膨満感に伴う周囲臓器への
Ⅰa
T1aN0M0
圧迫症状の有無,食欲不振・体重減少などに
Ⅰb
T1bN0M0
ついて問診し,病変の広がりを想定した検索,
Ⅰc
T1cN0M0
また,他臓器病変の存在の検索が必要かどう
かの情報を得る.
Ⅱa
T2aN0M0
Ⅱb
T2bN0M0
2)内診,外診
Ⅱc
T2cN0M0
内診:卵巣腫瘍の性状,周囲臓器との癒着
の程度や可動性,さらに直腸診で直腸粘膜へ
Ⅲa
T3aN0M0
の浸潤の有無を検索.
Ⅲb
T3bN0M0
外診:腹水貯留に程度,鎖骨上・鼡径リン
Ⅲc
T3cN0M0/
TanyN1M0
パ節腫大の有無の検索.
3)画像診断
Ⅳ
Tany,Nany,M1
超音波断層法,CT スキャン,MRI などの
画像診断で卵巣腫瘍の性状,広がりを検索.
消化管からの転移性腫瘍や消化管への浸潤が疑われるとき,上部および下部消化管検査
(内視鏡,造影 X-p)
を行う.
胸水貯留,肺実質転移,癌性リンパ管炎等のスクリーニングとして胸部 X-p,腸閉塞,
腹水貯留の参考所見として腹部 X-p を考慮する.
胸水腹水の貯留や表在リンパ節の腫大を認める症例には術前に穿刺細胞診や生検を考慮
する.
Ⅱ)手術(Staging laparotomy)
卵巣癌の疑いで開腹:
1)卵巣癌であることの組織学的確認
2)病変の広がりの検索と進行期決定
3)可及的腫瘍摘出
この3点を一連の操作として行う.
Ⅲ)進行期決定における注意事項
1.基本事項
1)卵巣癌の進行期は,開腹(staging laparotomy)
により決定.胸水の穿刺吸引細胞
診,肺転移や肝実質転移などには画像診断も使用可能.
2)骨盤腔:岬角,腸腰筋(外腸骨動脈と接する線)
,弓状線,恥骨櫛,恥骨結合上縁よ
り下方にある部分.
3)骨盤内臓器:子宮,卵巣,卵管,腟,直腸,膀胱を指す.S 状結腸は,骨盤外臓器
として取り扱う.
2.Ⅰ期決定時の注意点
1)Ⅰ a,Ⅰ b 期の診断法:対側卵巣の生検は,肉眼的に異常を認めた場合は行う.肉
眼的に正常な場合には省略することもできるが,明らかに正常に見えた対側卵巣への転移
率は12%との報告もあり,慎重な対応が必要である.
2)Ⅰ c 期の腹腔細胞診:腹水がある場合は腹水細胞診,腹水がない場合には,温生食
で骨盤腔のみでなく,左右の傍結腸溝,横隔膜下を含む腹腔から洗浄細胞診を採取.
(表 E84)
(
-2)4)
FI
GO分類と TNM
分類の対応表
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2009年 5 月
N―175
(図 E84)
(
-2)4) 腹部大動脈周囲(腰)リンパ節の分類と境界
3.Ⅱ期決定時の注意点
1)Ⅱ a 期の診断:子宮,卵管への浸潤の診断には組織学的な確認が必要.
2)Ⅱ b 期の診断:膀胱,直腸への浸潤の診断にも組織学的な確認が必要.
4.Ⅲ期決定時の注意点
1)Ⅲ期・腹膜播種の診断:腹膜腫瘍の組織学的診断が必要.
2)Ⅲ c 期・リンパ節転移の診断:
ⅰ)原則として骨盤・傍大動脈リンパ節の生検を行う.正確な評価には系統的郭清が望
ましい.
ⅱ)鼡径部のリンパ節は腫大している時のみ生検.
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N―176
日産婦誌61巻 5 号
(図 E84)
(
-2)5) 卵巣悪性腫瘍治療に関係ある骨盤リンパ節
1腹部大動脈周囲リンパ節
2総腸骨リンパ
(腰リンパ節,傍大動脈リンパ節),●
●
3
4
5
6
節,●外腸骨リンパ節,●鼠径リンパ節,●内腸骨リンパ節,●閉鎖リンパ節,
7仙骨リンパ節,●
8基靭帯リンパ節
●
5.Ⅳ期決定時の注意点
1)肝実質転移の診断:組織学的に証明されることが望ましいが,画像診断で肝実質転
移と診断されたものもⅣ期とする.
2)副腎,腎臓,膵臓は腹膜外臓器.これらの臓器への転移はⅣ期.
3)脾臓は腹腔内臓器であるので,脾実質転移はⅢ期
4)胸水が存在しても細胞診で癌細胞が証明されないもの(疑陽性も含む)
は,Ⅳ期とは
しない.
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2009年 5 月
N―177
《参考文献》
1.卵巣腫瘍取扱い規約 第1部:組織分類ならびにカラーアトラス.日本産科婦人科学
会・日本病理学会(編)
,東京:金原出版,1990
2.卵巣腫瘍取扱い規約 第2部.改訂第2版.日本産科婦人科学会(編)
,東京:金原出
版,1997
3.2007年版 卵巣がん治療ガイドライン.日本婦人科腫瘍学会(編)
,東京:金原出
版,2007
〈青木 陽一*〉
*
Yoichi AOKI
Department of Obstetrics and Gynecology, University of the Ryukyus, Okinawa
Key words : Ovarian cancer・Histological classification・Staging classification・Stage
grouping
索引語:表層上皮性・間質性腫瘍,性索間質性腫瘍,胚細胞腫瘍
*
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