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多発性グロムス腫瘍

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多発性グロムス腫瘍
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多発性グロムス腫瘍
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増田
勉, 石橋 康正, 徳田 安基*
ACase of Multiple Glomus Tumors
Tsulomu
Ma&uca, Yasumasa Ishibashi,Yasumoto Tokuda
主に爪下に発生する有痛性腫瘍に就ては一世紀以上
左前腕屈側前1/3に集簾した5個,右愕部に孤立した1
前より関心が持たれ,かなりの報告を見ている.併しそ
個,計6個の青色小斑に気付いた.現在まで自覚症はな
の発生由来は1924年Masson"か組織学的検索により究
く,以後拡大,増加の傾向もない.色は鮮かな青色,形
明するまで不明であった.彼は正常指の連続切片によ
は略々円形,境界鮮明なので,−見青色母斑に見間違う
り,それまでも存在の知られていた動静脈吻合の特殊構
程である.大きさは径2∼4u,大きしもの程周囲皮表
造を始めて明らかにし,この構造と腫瘍の著しい類似性
よりドーム状に隆起している.触れて柔らかく,浸潤は
に着目,腫瘍がこの動静脈吻合より由来するものと考
え,動脈脈吻合を glomus
ない.ガラス圧で半ば槌色する(図1,写真1,
neuromyo-art^riel,腫瘍を
angioneuromyome
art^riel或はtumeur
glomique
‥ イ==゛………で,
-^;≪--.
*,曜昌諺榔多大 ・y
呼んだ.彼は始め爪下のみに見ぴれる特殊腫瘍と考えた
が,
と
Popoff",
尚,徐々乍ら増加,色も濃くなる傾向かあると云う.現
(glomangiomaと命名),
在躯幹,上肢,大腿に半米粒大までの淡褐色乃至暗褐色
Clara5)等により詳細な研究がなされ,その腫
の雀卵斑様点状色素斑が播種状に密生している.これは
瘍の性格は略々明らかとなった.その典型例は単発,大
Recklinghausen病の小Recklinghausen斑に似ている
きさは径1Cm以下,有痛性で,色は深紅色乃至紫紅色jよ
が,他にRecklinghausen病を思わせる症状はない(図
り青色までいろいろ.分布は殆どか四肢でその2/3が上
1,写真1。2,
肢,1たが下肢.上肢は末梢側に多く半ばか爪下に発生
の硬ト小結節を皮内に触れるが,外観正常で自覚症もな
真皮乃至皮下の被膜に包まれた限局性の腫瘍で,その構
く,一現在まで患者は気付いて居なかった(図1).
皮成分け血管,類上皮細胞と神経線維で.その構成比に
尚既往症としては29才,胆嚢炎,31才,十二指腸潰瘍
より組織像は多彩Masson"はこれを formes
6pith61ioides
angio-
(paucivasculaires)
et
Clara"
(1956)は Massonの記載以
来,報告された症例だけでも350例を越えると述べてい
る.併し多発例は非常に稀で,著者か1928年Greig"の
n6vro-
を患つている.
家族歴では地理的関係で直接確かめる機会を持だなか
つたが,患者の言によると父,兄,姉に同様点状褐
かおり,姉と父方叔父に同様青色斑がある々舞う
2).姉は38才で10年前より左前腕屈側中央ぼ径約
cm,自覚症のないドーム状隆起,した柔らかいイック
報告より現在まで文献上集め得た症例は再発例を加えて
青色斑,父方叔父は53才で舎口頃より左下腿屈側上
も,本邦井原9)の1例を含め僅か旧例に過ぎなかった.
径約l cmの同様青色斑を見る.
症 例
左前腕に集銕した小青色斑5個を切除,その中3個此
33才,男.初診昭和36年6月21日.5,6年前始めて
就て組織検査を行つたが,点状褐色斑,皮内に触れる
* 東京三楽病院皮膚科(医長 小嶋理‐博士)
From
the Department
of Dermatology
(Director: Dr. Riichi Kozima), Sanraku
−325− \
Hospital, Tokyo.
﹃斑卜血∼?万濃−に
色ぐ1様方
mateusesの8型に分類している.グロムス腫瘍は稀
な疾患ではなく,
3).
他に上肢,腹,腰に散生する計5個,粟粒乃至大豆大
するに対し,下肢は中枢側の腎,大腿に多いに組織像は
mateuses.
大の褐色斑に気付いていたが,この他に10才頃より多数
の点状褐色斑が躯幹,上肢,大腿に発生,ぞれは現在も
1927年上肢,大腿に発生した4例を報告‰その考
えを改めた.その後Bailey^'
2).
尚幼時より右愕部に2個,腰部に].個の大豆乃至爪甲
326
日本皮膚科学会雑誌 第72巷 第4号
図 1
写真2 (右腎部)
矢印が小青色斑.七心下方に2個の人ゾ人褐色
斑.他に多数の点状褐色斑.
写貞3 (右腕)
多数の点状褐色斑.
う ー→ 点扶褐色斑
.−→ 褐色斑
x -,小鳶色沢
心 −→ 硬小結節
写貞1 (六二前腕川側)
矢印が5個わ小青色斑.他に多数の点状褐色斑.
図 2
腫瘍は真皮中層乃サ♀ミ深層に存在,結合織性被膜はな
く,不規則形に拡張した管腔の集│寸Iよりなる.3個の腫
瘍の中1個は管腔が非常に広く,血液を充とし,海綿状
tザ○○●
た.
組織所見
男口回■
硬・い小結節に就ては組織検査長行うことが出来なかっ
追常
気状褐色戊
小転斑、
327
昭和37年4月20日
血竹腫の像に似ている(写真4.
5).他の2仙は殆どの
染色により間責に僅か乍ら類回
竹腔の内容が空山で,広さ卜抑者に比し狭ト(写真6,
証明された(写真13).更にWeigert染色により,問責
7, 8, 9).管腔はU皆の薄ト内皮細胞に囲まれ,この外
に豊富な弾力線維を認め,然も凡ての管腔の多くの場所
側に淡染する細胞質と,1部は泡沫状核かイjつが殆どご
に於いて,内皮と類上皮細胞層の問及び類上皮細胞層の
濃染する緻密な核か心つた多角形細胞,所謂有川l皮細胞
外側にかなり明瞭な弾力線維バあり,所にjづ)更に佃々
(Bailey'へよダロムス細胞バ呼んでいる)が多くしり∼
の類│こ皮細胞か包んでヽいる像j,見られた(写貞川,
2層,所により数居にノえぶか,かなり規則的に並んでト
考案
15).
る(写真10, 1!).併し一昨し)竹腔は類ト皮細胞屑か欠
1937年Weidman
子,代りに平滑筋細胞が見られる.問質よ比鮫的疎か結
う無痛性腫瘍肴い)ち,組織検ご伊ご神経線維七証明ぐず,
& Wise'"言略令身に放生寸こ48個
合織よりなり,集川をなし或げ散介して鷺UI皮細胞,平滑
海綿状血管腫様構造が特有で九つ/こ症例七経験,
筋細胞が存在する.鍍銀染色により,内皮と類上皮細胞
son, Bailey 等の記述とに臨床的によ無痛性と多発性,
居の問に格子線維が証明され,この線維に類上皮細咆の
組織学的によ神経線維帥訣な「辿海綿状血管腫様構造回仁
問に続き個々の細胞か取1川人でいる(写真12).
Holmes
写真6 (HE染色)
ツ真4 (HE染色)
管腔が非常に広く,血液を充たし,海綿状にIL竹
腫の像に似ている(20×).
写真5 (11
E染色)
管順はD
t∼2層0類‥ト皮細胞よりなる.左下半部では
飢上皮細胞の代りに平滑筋細胞が管順々形成,
問質に=もかなりの平滑筋細胞の増殖か認める.
(50×).
不規則形に拡人した管腔,内容は殆どが守山,
右ト方う小動脈よりヤドカの管腔への移行び窺
われる.矢印は神経線維束(20×).
’び真7 (HE染色)
類に皮細胞ぱ多く!∼2層,所により集塊をな
して存在,ノしトの診察では類上皮細胞の代りに
平滑筋細胞を兄る.問質にかなり多量の平滑筋
細胞(50×).
Mas-
日本支膚科学会雑誌 第72巻 第4号
328
じ真8 (HE染色)
写真11 (HE染色)
不規則形に拡張した竹腔,内容は空鹿(20×).
釘UI皮細胞の多くは濃染する釧密だ核不づ,つが
一丿則友や,泡沫状か「11する.細咆竹は淡染,培
悍にや・ヽづく鮮叫であへ 爆つし丿八彷つてトろ
ため,細咆に多斤丿形丿示す.右山こ類ト支糾I胞
丿小生けレビにる(印OX).
写代9 (II
K染色)
竹壁に1∼2㈹い但し皮糾胞,門贋にず汁節隋I
白の増価(
100×).
y真]2 (鍍銀染色)
個々内町汗皮細胞川川んで格子線維ト兄られる
(!,00×).
写貞10 (HE染色)
類ト皮組白け灯{円形ノいで桁円形の濃染する鋼密
か核と淡染する糾咆責をもう.問質に敬在する
写真13 (Holmes染色)
矢印丿神縦線紺.灯トし皮糾咆の開か縫う様に走
のト見られる(500×).
っている(500×).
329
昭和37年4月20日
ヅ真14 (Weigert染色)
1959年Sluiter
管壁及び問質にか富八弾力線維(加×).
23例を集計,その共通の組織像として類上皮細胞の薄い
&
Postma'"は発多性グロムス腫瘍
壁をちっと海綿状血管腫様構造を挙げ,臨床的にも単発
例に比し爪床に好発することなく,上肢の発生頻度も低
く,屡々小児期に発生,緩徐に経過,痛みもより少ない
故に,ダロムス腫瘍は孤立性及び多発性に分類されると
し七.23例中15例は四肢の限局レ七部位に起り,個数も
概ね10個以下であるのに,他の8例は個数も多数で,集
族性なく,広く全身に散発する.その平均年令も29,
40
才と10才の差が認められる故に,多発性グロムス腫瘍は
則之集族型及び汎発型の2型に分けられるとした.
尚,既にN6bド(1956)がグロムス腫瘍に関する綜
説に於いて同様の見解を述べている.
多発性ダロムス腫瘍38例を表1に表示するか,
写真15 (Weigert染色)
Sluiter &
内皮糾咆と類上皮細胞の問及び有川ユ皮細胞の外
側に叫瞭な弾力線維(200×).
Nodi,
Postmaも指摘した様に著者はこれをy型に
分つことが出来ると考える. ’¨
1)局所型(26例,内10例は再発例)
う伎或いけその一部に限局発生し,個数も概ね少なく
4例を除き10個以下,無痛,一部無痛各1,不明8例を
除き16例が単発性腫瘍と同禄に激しい圧痔を有するのが
特有でど‰る.皮下より深層に多く,2例に筋膜下,8例
に骨膜下,更に1例に縦隔内発生を兄ている.併し,殊
に此等ぶ症例が輿にグロムス腫瘍であるか(グロムス出
来ということ),或ほ後述する様にhemangiopericytoma
であろかは大いに議論の分れるところである.時に患部
に自律神経障碍を伴うことかあり,多汗3,皮膚温上昇
8,血圧上昇1例の報告かおる.尚1例に患肢の骨発育
つて非常に異なっているが,血管壁に1∼2川,所によ
障害を認め/こ,組織所見では多くは結合織性被膜胤もち
り集塊をなす類上皮細胞の存在により,これを血管拡張
(6例け被膜ありと記載,他不明),3例が海綿状血管腫
性多発性ブロムス腫瘍として佞告レこ.
様と報告している他は,
この症例がブロムス腫瘍ご)範喘に岡すべきか否かじけ
ricytomaを思わせる記載もあるが,大多数例はMass-
多くの異論があったが,
on, Bailey等の記述した典型例に近い.
1950年Eyster
&
Montgome-
angioleiomyoma,
hemangiope-
ry"づ88個の無屈性唖瘍と2個の有屈性腫瘍を右つ症例
2)汎発型(12例)
を観察,組織学的にも海綿状血竹腫様構造をもっか,神
この型はづ伎に限局することはない.分布の仕方に,
経細線維を Sucquet-Hoyer管(Popoff"卜よグロムス器
全身に不規則に汎発するものと,1部位に群生,他に散
官の類上皮細胞層を毛っ吻合血管包かく命名しノこ)に似
生する屯のとがある.個数は前者では非常に多く,
ノこ血管腔の類上皮細胞と密接な関係に於いて証明し,こ
ter & Montgomeryの症例は90個に及んでいるが,後
の症例をMasson,
者では余り多くなく,10個以下であることが多い.激痛
Weidman
&
Bailey, Popoffの記述する典型例と
Wiseの症例の中問に位置すると考えた.
この故にWeidman
&
Wiseの症例もダロムス腫瘍
のある2例を除き,1部有痛の他大部分が無痛のもの6,
無痛3例で,プリムス腫瘍の臨床的特徴とされる激痛の
のカテゴリーに属すべ乱ごあるとし,プリムス腫瘍を
ないことが特有である.1例がRecklinghausen病に併
Masson, Bailey, Popoffによって記述された古典型と
発し,6例に家族内発生を見ることは,この疾患の遺伝
Weidman
性の濃いことを窺七)せ乱組織所見では凡て真皮深層乃
&
Wiseの血管拡張型の2型に分類した.
Eys-
330
日本皮膚科学会雑誌 第72巻 第4号
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佃
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F
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睨 拓逗
舷 拓參
諾
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翠
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祠渥
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普
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胞 §
匹
㎝
胞
榔
○
旨
日本皮膚科学会雑誌 第72巷 第4号
332
至皮下との境界に発生し,結合織性被膜はなく,海綿状
織像が恒常の所見として認められるEyster
血管腫様構造を呈し,管壁の類上皮細胞層が薄く,典型
gomery"'は徴成する血管として次の3型を挙げてい
&
的グロムス腫瘍に見られる様な豊富な神経線維が証明さ
る.
Mont-
CD壁の薄い1層の内皮に囲まれた広い管腔(タト導
れないことが特徴的である.
静脈に当る),類上皮細胞(一),弾力線維(十).
性別発生は局所型では男U,女8例(不明5例),汎発
Sucquet-Hoyer管の記載に一致する血管,壁に類上皮綴
(2)
型では男女各6例.平均年令は夫々29,詩才,平均発生
胞と平滑筋細胞.弾力線維(−).(3)大多数を占める不
年令は夫々20,
規則海綿状血管腔,壁に1∼2層の類上皮細胞,弾力線
22才で有意の差はない.尚Stout"'に
よれば,爪下グロムス腫瘍の平均発生年令は25,他の部
維(−).
位の単発性腫瘍のそれは41才である.
著者例では腫瘍の間質に著明底弾力線維の増殖か見ら
グロムス腫瘍に特有の激痛に関して,
stout"' Itよそれ
かおる時期までは起らないことのあることを述べ,
Pi-
れ,内及び外弾性板に一致して内皮細胞と類上皮細胞の
間及び類上皮細胞層の外側,更に所により個々の類上皮
eard14Jの無痛性の症例は痛みの起る以前に剔出されたた
細胞を囲んで弾力線維か証明された.
めと考えた.事実Schulte
ス腫瘍の中の血管かよく発達した弾力線維をもっことが
u. Isselstein"'の症例も発
Bailey=≒よグロふ
生以来13年間は無痛で,それ以後次第に激痛か起ってい
あるが,その血管はグロムス細胞をもたず普通の平滑筋
る. Touraine
細胞をもっ故に,偶然に紛れ込んだ血管かpreglomic
et alダは大きい腫瘍のみに圧痛があ
り, S]epyan=≫'i,ま無痛性の腫瘍が碗豆大までなのに対し
arterioles(グロムス器官の栄養を司どる)とし,グロ
激痛のある腫瘍は径1Cmに及び,前者が真皮深層にある,
ムスを形成する血管の中,弾力線維のないのは類上皮細
のに対し後者が皮下にあることを述べている.
胞をもっSucquet-Hoyer管のみであるから,弾力線維
X
Eys.
ter & Montgomery'"の症例でも無痛性腫瘍が径1.5∼
の訣如はグロムス腫瘍かSucquet-Hoyer管より由来す
7回なのに対し,激痛性腫瘍が8.5×2cmであると記=叔
る証拠であると考えた.
している.
&
更に無痛性症例の腫瘍の大きさか,有痛性症例に比較
も外導静脈を思わせる壁の薄い広い管腔と注入動脈を思
Schulte u,Isselcitein'",
E yster
Montgomery"≒ZiSchka3へSluiter
& Postma'"'等
して小さいことより.腫瘍の発育の強さか痛みの発生に
がせる壁の厚い血管のみに弾力線維を認め,大多数の類
関係することが充分推測される.Slepyan3o)は有痛性腫
上皮細胞によって特徴づけられている血管腔には認めて
瘍と無痛性腫瘍の組織所見の差は,後者に収縮能をもっ
いない.唯Oberdalhoff
類上皮細胞の増殖がないことであり,この圧迫因子の低
かなり多量の弾力線維を認めているか,署者例の弾力線
下が無痛性の原因と考えた,Weidman&Wiselo)は無
維の所見は異例で,グロムス腫瘍を構成する類上皮細胞
痛性腫瘍の組織内に神経線維を証明出来底かったか,
をもっ管腔がSucquet-Hoyer管より由来するとする従
Eyかer &
来の常識に矛盾する.
Montgomery'町よ神経細線維をSucquet-Ho-
u.Schutz"'が腫瘍の閣質に
yer管に似た血管壁のみに密接な関係に存在することを
前述した様に汎発型では12例中6例,局所型でも26例
発見し,有痛性腫瘍では容易に見られるのに,無痛性腫
中1例に家族内発生を見ること,局所型で5例に多汗,
瘍では証明困難であると述べている.著者例でもHoi-
皮珊温上昇,血圧上昇等の自律神経障害,1例に骨発
mes染色により丿間質に僅かの神経線維を証明したが,
育障害を伴っていること,汎発型の1例にReckling
偶然紛れ込んだ神経線維なのかSucquet-Hoyer管の
hausen病合併を見ること,更に著者例で本人,家族に
周りに見られる神経線維の名残りなのかは判然としな
い.以上,疼痛の有無部類上皮細胞層の厚さ,神経線維
の多少によって決定されることは略々間違いない.
Masson,
Bailey, Popoff等によって記載されているグ
ロムス腫瘍の組織は多彩で,腫瘍により,叉同じ腫瘍で
も切片により幅広い変化かおるBailey='は時に血管腔
播種状に密生する雀卵斑様点状褐色斑を見ること,また一
汎発型,局所型共に約呪例が20才前に発生したと云う
事実はこの疾患に先天的,遺伝的要素か強く関与してい
ると云う証拠である.
現在ではグロムス腫瘍が真正腫瘍でなくhamartoma
であるとする考えには異論かない.多発性グロムス腫瘍
が大きく,且つ多く,海綿状血管腫様構造を示すこと
に関してはDSring'",
があると述べているか,併しこの像は恒常の所見ではな
sen病,Bourneville-Pringle病, systematisiertes Hae-
い.著者例を含め汎発型多発性グロムス腫瘍ではこの組
mangiomと同列の系統的疾患であると考え,
Oberdalhoff'"はRecklinghau-
Sluiter &
昭和37年4月20日
333
Postma12)はそのmultiple hemangiomatosis,
Kast症
候群(angiomatosis
Klippel・
with dyschondroplasia)
gomery'"は組織検査より,類上皮細胞がダロムスと云
う特殊環境に於いて未分化間葉細胞より発生した特殊細
Weber病との相似性を強調している.
胞であるとし,平滑筋細胞との直接的関係を否定した.
著者は多発性グロムス腫瘍を遺伝的要素の強い系統的
併しEyster
皮膚奇形であると考え,局所型は局所性母斑症である
類上皮細胞と血管平滑筋細胞は同じ要素より由来し,夫
Klippel-Weber病と,汎発型は仝身性母斑症であるRe-
々その終末型であり,移行型が存在し,その分化の方向
cklinghausen病Bourneville-Pringle病の皮膚病変と
を決定するのは血管の位置であると考えるのか妥当であ
&
Montgomeryの意見には左祖し難い.
同列に置かるべきであると主張じたい.
ろう.
グ乱
Stout"'はpericytesより由来する血管性腫瘍として
型か皮膚ダロムスの類上皮細胞成分の特異的増殖,汎発
グロムス腫瘍とhemangiopericytomaを考えた.グロ
型が血管成分の特異的血管拡張と考えるのが一番理解し
ムス腫瘍はorganoidの構造をもち,激痛を有し,主に
易い.併し√皮膚グロムスの分布,密度が殊に多発性グ
真皮乃至皮下,時に指骨,胃に発生.良性で転移しな
ロムス腫瘍の発生部位と非常に異たることは,異所性皮
い. hemangiopericytomaはnonorganoid,無痛で真/
膚グロムスを仮定するか,或はグロムス以外の母地より
皮,皮下の他,内臓,骨に発生.時に強い局所性発育,
の発生も考えなくてはならないだろう.グロムス腫瘍
更に血行性転移を見ることがある.彼はグロムス腫瘍か
の起原の謎を解く鍵は,その特有な類上皮細胞である.
organoidの構造を保ち乍ら,強い局所性発育を示すこ
類上皮細胞は始めグロムスにのみ特有であると考えられ
とがあるのは両者が密接な関係にあることを裏書きする
たが,他の型の動静脈吻合,多くの閉鎖可能動脈にも存在
令のであると考えた.
することか知られvon
Lidhol
macher"'
Schumacher"'
(1938), Schu"
(1955)はこゝよりの発生の可能性を述べて
いる.更にGoormaghtigh"'
「9)は Bergstrand22)の症例の組織を再検査
し,他が凡てグロムス腫瘍の特性を示すのに反し,1個
(193T)は一般小動脈の中
の腫瘍のみがhemangiopericytomaの定型像をもっの
層に,殊に分岐部,毛細管への移行部に於いて,平滑筋
を発見,この事実はグロムス腫瘍とhemangiopericyto-
細胞に混つて存在すると述べている.
maとの間に密接な関係かおることを証明していると考
1923年Zimmer-
man"'は鍍銀染色により毛細管か収縮能をもつ長い突起
えた. Saunders
をあった特殊な細胞に囲まれ,この細胞が移行型を経て
ロムス腫瘍と診断したか,組織検査により hemangio-・
平滑筋細胞に移行しているのを観察,
kelzellenと考え,
modifizierte Mus-
Perizytenと命名した。Murray
&
&
Fitzpatrick"'は臨床的に多発性グ
pericytomaであることが判明した下肢18,上肢乙計15
個の有痛性青色小腫瘍を多発したmultiple
hemangio-
Stout"> (1942)はグロムス腫瘍の組織培養により類上
pericytomaを報告しているか,この観察もStoutの見
皮細胞が鍍銀染色でpericytesと同様の形態を示すこと
解を同様に支持するものであろう.
を観察,血管に対する位置関係,同じ収縮能をもつこと
のhemangiopericytomaはダロムス腫瘍に非常に類似
より類上皮細胞がpericytesに外ならないと結論した.
し区別出来ない.少なくとも皮膚を遠く離れて体の内部
Stoutは前述した皮膚グロムスの分布,密度とグロムス
に発生したグロムス腫瘍の症例はグロムス腫瘍様構造を
腫瘍の分布の差をpericytesよりの発生により理解出来
呈するhemangiopericytomaと考えたい述べている.
ると考えた.併しSluiter
著者はグロムス腫瘍と he
&
Postma'^'はこの考えで
Fergeson"'は一部
mangiopericy tomaとは互に
はグロムス腫瘍の爪床への好発,類上皮細胞以タトのグロ
類似の組織像を呈することかあるか,別個のentityで
ムス腫瘍の特徴を説明出来ないことを述べ,反対してい
あると考えたい.併しグロムス腫瘍hemangiopericy-^
る.尚pericytりにはグロムス器官に於ける類上皮細胞
tomaの関係に就ては尚多くの解明したければならない
の様に神経線維との密接な関係は証明されていない.
問題が残っている.
類上皮細胞の性格に関してはMasson"は特殊な神経
因みにLidholm"'はグロムス腫瘍とhemagio-pericy-
一筋細胞と考えたが,
tomaの鑑別点として次の諸項を挙げている.
"', stout &
れもmodified
Krompecher"',
Popoff", Watzka
Murray"'等は多少表現の差はあるが,何
smooth
muscle cells と考え,この意見
が一般に広く受容れられている.一方Eyster
& Mont-
1) hema-
ngiopericytomaには神経成分かない.2)グロムス腫瘍
はorganoidの構造,間質によって互いに分離された類
上皮細胞のタト套で包まれた容易に見分けられる管腔.
334
日本皮膚科学会雑誌 第72巷 第4号
・emangiopericytomaぱnonorganoid.血管腔は不明瞭
解明されるだろう.
で,鍍銀染色で始めてはっきりするご類上皮細胞の外
現在の段階では多少の矛盾があっても,著者例を含め
こ套は完全に或は一部融合している.
多発性グロムス腫瘍か皮膚グロムスより由来したと考え
8) hemangiopericy-
!tomaでは鮮明な,規則的に個々の細胞を囲んで分布す
るのか妥当であろう.
る格子線維か見られる.4)臨床的にグロムス腫瘍は激痛
結 論
を烏ちhemangiopericytomaは無痛である.
多発性グロムス腫瘍38例を集計,之を局所型と汎発型
著者例は臨床,組織像共に,今迄に報告された汎発型
に分類,局所型は局所性母斑症であるKlippel-Weber
多発性グロムス腫瘍の症例と非常に類似している.併し
病,汎発型は仝身性母斑症であるBourneville-Pringle
傾上皮細胞層の内外に,内,外弾性板に一致して証明さ
病, Eecklinghausen病の皮膚病変と同列の遺伝的要素
れた弾力線維の所見は異例であり,これは如何に説明さ
の強い天先的皮膚奇形と考えたい.
るべきであろうか.腫瘍芽であるSucquet-Hoyer管に
著者例は臨床的に亀組織学的にも汎発型の特徴をもっ
こに弾力線維の異常かあったか,腫瘍の発育の過程に於
か,併し異例の所見として管腔壁の類上皮細胞層の内外
べ/ヽて新生したか,或は況皮膚グロムス以外にその由来を
に内,外弾性板に一致して弾力線維を認めた.これはグ
球めるべきであろうか.
ロムス腫瘍がSucquet-Hoyer管より由来するとする現
Stoutの説を容れpericytes
より発生したと考えても,毛細管性なる故に理解出来な
在の常識に矛盾する.この問題は更に多くの症例の追加
と研究によらねば解明は出来ないだろう.
い.この疑問は多数の症例の追加と研究によって始めて
ABSTRACT
Report
ink
of a case : A man
tattoo mark
or blue
。・zed on the left forearm
from
2 t04 mm.
nible.
had
Their
many
small
1・since the
age
faded
brown
Histologically
blood
spaces.
lying
of
the
deep
five or six years
ago. Five
solitary on the right
slightly domed.
on
The
that
consist
of
of
narrow
strip of epithelioid cells, consisting
muscle
elastic tissue in the stroma
cells and
outside
of
the
■elements in tねe tumors
Comment
: Multiple
1)y us and
of 37cases
■they may
be divided
1)
・patients
of one
feel severe
are
sparse
glomus
described
form
(photo.
and
The
5,7
blue
sharply
2).
locali-
They
were
discer-
to this, he
buttocks十s1万d thighs
o皿e similar
on
blue
walls
cavernous
of the blood
of this layer
to
two
layers,
and
9).
Weigert's
the endothelium
spot
his left leg (fig- 2)。
large irregular
Outside
there
but
spaces
is the
sometimes
stain
shows
a:ndlayer of epithelioid
stain
reveals
that
nerve
13)。
are discussed
generalized
number
the
15). Holmes'
(26 cases), the tumors
extremity. The
8).
of one
in the literature
and
of
cells.
between
14
tumors
into localized
In the localized
.larger part
and
latter (photo.
arms,
his sister had
4,6 and
mainly
were
1 and
no infiltration was
similar lesion
epithelioid cells (photo.
^abundant
both
agglemeration
(photo.
of fhem
(photo.
palpation
that
one
flat endothelial
spots, resembling
witli diascope。 In addition
the trunk,
also had
・smooth
cells replace
By
patient reported
his uncle
in the corium
layer
on
painless
buttock
pressure
disseminated
lesions
one
six small
and
10.
and
33,
noticed
appreciably
spots
of about
べ)nher left forearm
lare composed
nevus,
and one
in diameter
color
aged
on the basis
(table
1).
of one case
According
to
our
observed
opinions.
forms。
occur in group
of tumors
is nearly
pain in the lesions like in the solitary glomus
in a limited
always
area or on a
less than 10. The
tumors.
They
someti-
昭和37年4月20日 \ 335
mes
occur
deeply
accompanied
them
in the subcutaneous
with
are
disturbance
encapsulated
fat tissue, muscle
of the
and
show
autonouiic
and
nervous
polymorphous
bone.
They
system.
features.
are occasionally
Histologically
resembling
those
most
of
of
solitary
tumors. ’
2)
In
There
red
the generalized
are two
types
irreglarly
on
forms
usually
little or no
of
consist
But
of
there
outside
The
of one layer
skin
may
But
only
canals
of
In one
the
area
body,
with
irregularly
lay
of flat endothelium。
believe
deep
that
larger
other
disease
has
typical features
the
features
of
the
to three
layers.
tissue in the tumors。
category
generalized
of“ phacomatosisform
or Bournevi!le-Pringle's
of the generalized
conception
of the cutaneous
glomi,
that
because
has
similarity‘
disease.
namely
3) Bailey, O.T.: Am. J. Path・,11, 915 (1935).
4) PopOff, N.W.: Arch. Path。 18, 295 (1934).
glomus
are
are
the latter has
no
histologi-
uncommon,
derived
which.
from
Sucquet-
elastic fibers.
献
16)
Adair,
17)
Stout, A.P.:Am.
18)
Schulte, G. u. Isselstein,
19)
et
Syph・, 42, 1174 (1935).
J., 35,
tumors
F.E.: Am.
rapie,
421,昭17より引
7) Clara, M.こ 12)より引用.
8) Greig, D.M.:. Edinburgh Med.
clinically and
(1933).
1) Masson, P.: Lyon Chir., 21, 257 (1924).
2) Masson, P. & G^ry, L.: 17)より引用.
P.: Bull, Soc. franc, Dermat.
form
elastic tissue in the tumors
to the general
565
52,
Lewis,
105,
25,
1
(1934).
24・, 255 (1935).
T,: Strahlenthe-
646 (1935).
D. &
7V5
Geschickter,
C.F.: J.A.M.A.,
(1935).
20)
Hval, E. &
21)
Touraine,
Soc.
J,Surg.,
J. Cancer,
Melsom,
R.: 31)より引用.
A・, Solente,
fran?,
Renault,
Dermat.
et
P.: Bull.
Syph.,
43,
73&
J. Cancer,
29,
470」
(1936).
(1928).
9)井原俊男:脳と神経, 5, 86,昭28.
10) Weidmati & Wise: Arch. Dermat
35,
414 (1937).
11) Eyster, W.F. & Montgomery,
and
hemangiomas。
of one
nerve
in a half:
capsules
”。
case
52,
that the
no
of
produce
occurrence
cavernous
to the
is scatte一一
number
They
having
composed
extremity..
smaller
lesions.
resembling
belongs
one
of tumors
type
is familial
is little or no
the locali多ed form
of Recklinghausen's
number
solitary
There
spaces,
There
localize on
in the corium,
as Klippel一犬Weber's disease, and
5) Clara, M.: 日皮会誌,
type
some
shaped
never
but in the other
as solitary tumors.
the tumors
文
用.
6) Masson,
the tumors
strip of epithelioid cells, mainly
universalis
be contray
Hoyer's
such
wide
disorders
reported
cally.
pain
numerous
“phacomatosis
Our
in a limited
is the narrow
authors
the
part
Histologically
regionalis:”白合uch
to
most
a group
the cases.
cases),
of their distribution.
the
tumors
form (12
22)
& Syph。
23)
H.: Ibid. 62,
893(1950).
12) Sluiter, J.T.E. & Postma, C.: Acta Derm. Venereol・, 39, 98 (‘1959).
13) N6dl, F.: Arch. klin.exp. Derm・, 203, 369
(1956).
14) Picard, H.: Zbl. Chir・,58, 2133 (1931).
15) Thomas, A.: Ann. d'Anat・ path・, 10, 657
Bergstrand,
H.: Am.
(1937).
Davies,
Brit.
J.H.T.,
Hellier, F.F.
J. Dermat.,
51,
&
Klaber,
R.r
312 (1939).
24)
Meyers,
M.P.: 43)より引用.
25)
MuUazi,
G.: G.
ital. Derm.
Sif・.
81,
209'
44,
364
(1940).
26)
Plewes,
B.: Canad.
(1941).
27) Kaufman,
L.R.
114,
(1941).
1102
&
M.
Clark,
Ass.
J.,
W.T.: Ann.
Surg・,
336
日本皮膚科学会雑誌 第72巻 第4号
28)
Kirby,
29)
Garber,
30)
Paes,
D.B.: 43)より引用.
A.M.A.
C.Z.: 45)より引用.
F・, Chaves,
P. &
Machado,
D.:
35)よ
Arch.
Dermat・,
り引用.
31)
Slepyan,
179
A.H.: A.M.A.
R.: Acta
Chir. Scand・,
92,
33)
D6ring,
Brindley,
G.: Nervenarzt,
G.U.: J.
18,
Thoractic
368
44) Zimmerman,
K.W.: 43)より引用.
45) Murray, M.R. & Stout, A.P.: Am.
18,
417
り引用.
447
48) Stout. A.P.: Ann. Surg・, 116, 26 (・1942);
Cancer, 2, 1027 (1947) ; Lab. Invest。 5, 217
22,
(1956).
49) Lidholm,
(1949).
35)
47) Watzka,
Zischka,
W.:
Frankf.
Z. Pathol・, 61,
(1950).
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