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シアノファージMa-LMM01 E D 鞘伸張時 鞘 収 縮 時 F B A アオコ 近年
【用語解説】 A ミクロキスティス属等のらん藻(原核性光合成生 物)が大量発生し、池や湖の表面に浮かび上が り、水面に緑色の粉を浮かべたような、あるいは ペンキを流したような状態になる現象で「水の 華」とも呼ばれる。アオコ形成種の中にはカビ 臭、肝臓毒、神経毒などの有害化学物質を産生す るものが多く存在し、水質の悪化を招く。また、 湖水が水道の水源となっている場合にはさらに深 刻な問題を引き起こす。図Aは琵琶湖におけるア オコ発生状況、図Bはミクロキスティスによるア オコが発生した水域の写真、図Cは、ミクロキス ティスの光学顕微鏡による拡大像をそれぞれ示 す。 近年増加傾向 琵琶湖におけるアオコ 発生日数の推移 アオコ (マザーレイクパンフより引用) B C ミクロキスティス属によるアオコ発生水域の写真 (愛媛大学中野伸一助教授提供)。 鞘伸張時 ミクロキスティス・エルギノーザの光顕写真。 「日本の水道生物 -写真と解説-」日本水道協会 より引用。 D シアノファージMa-LMM01 当研究グループが世界で初めて単離に成功した ミクロシス チンを生産するらん藻ミクロキスティス株に対して感染する ウイルス(図D)。約160,000個の塩基対からなるDNAゲノ ム(=ウイルス設計図)を収納する頭部(直径86nm)と収 縮性の鞘(さや)構造を持つ尾部(約220nm)から構成され る。感染から約6∼12時間後には宿主細胞内で約50∼120倍に 複製し(図E)、新しいウイルス粒子が細胞外へ放出され新 たな感染を引き起こす。たとえば10億個の宿主細胞に対して このウイルスを1粒子の割合で接種した場合でも、1週間以 内に完全に宿主藻体を死滅させることが可能である(図 F)。注:nm(ナノメートル)は1mmの百万分の1の長さ。 鞘 収 縮 時 E シアノファージMa-LMM01の電子顕微鏡像。 F シアノファージMa-LMM01に感染した細胞の断面 像。ウイルスの頭部(黒い粒状にみえる)が形成され つつある。バーは0.5マイクロメートル(注:マイ クロメートルは1mmの1000分の1の長さ)。白く抜 けてみえるのはガス胞。 シアノファージMa-LMM01接種後7日目のミクロキステ ィス培養の比較(左:非接種区、右:接種区)。右側のフ ラスコでは、明らかな溶藻が起こっている。 ウイルスを用いた赤潮防除の考え方 当研究グループでは、三重県英虞湾において二枚貝斃死原因藻ヘテロカプサとそれに感染するRNAウイル スとの挙動追跡を5年間にかけて行った。その結果、現場環境中(具体的には底泥中)におけるウイルスの 存在量が赤潮の発生規模を決定する重要な要因であることを解明した。すなわち 底泥中のウイルス蓄積量が多い年→翌年には赤潮が発生しない 底泥中のウイルス蓄積量が少ない年→翌年には中∼大規模の赤潮が発生する という法則が成り立つことを科学的方法により示した。この結果は、アオコの発生規模を決定する上で環境 中のシアノファージ(らん藻感染性ウイルス)の存在量が影響する可能性を示唆するものである。ただし、 大量発生してしまった後に防除を図ることは困難であろう。いかにして「アオコ原因らん藻の増殖しにくい 環境」を整えるかが、アオコの生物学的防除の基本的な考え方となる。 国連環境計画(UNEP:United Nations Environment Programme) 1972年ストックホルムで「かけがえのない地球」を合 い言葉に開催された国連人間環境会議で採択された 「人間環境宣言」及び「環境国際行動計画」を実施に 移すための機関として、同年の国連総会決議に基づき 設立。本部ナイロビの他、6地域事務所がある(アジ ア太平洋地域事務所は在バンコク)。環境分野を対象 に国連活動・国際協力活動を行う(オゾン層保護、気 候変動、有害廃棄物、海洋環境保護、水質保全、土壌 の劣化の阻止、森林問題等)。 ファージ療法 (Phage therapy) G (渡辺真利代ら編「アオコ その出現と毒素」より引用) バクテリオファージ(細菌感染性ウイルス)を用いた難治性細菌感染症の治療法。多剤耐性菌(い ろいろな抗生物質に耐性を獲得した細菌)の出現に代表される抗生物質の問題点がクローズアップ された昨今、アメリカを中心とする研究グループにより、再びファージにより病原菌をコントロー ルしようとする試みがなされている。ある1種類のファージを長時間接触させると、ファージ感染 に必須なレセプターの変異や、ファージ遺伝子を分解する能力(宿主依存性制限)の獲得等により耐性 菌が出現する。しかし、ファージの種類によって耐性菌の出現機構が異なるため、同時に複数のフ ァージを用いることにより細菌側の変異の速度が追いつけなくなり、病原菌をコントロールするこ とが可能である。抗生物質とは作用機作の異なる病原性細菌制御技術として、近年大きな注目を集 めている。