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設備投資の加速で潜在成長率の底上げを - 三菱UFJモルガン・スタンレー

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設備投資の加速で潜在成長率の底上げを - 三菱UFJモルガン・スタンレー
景気循環研究所
嶋中雄二の月例景気報告
No.49 2014 年 5 月 13 日
設備投資の加速で潜在成長率の底上げを
●順風満帆の観光立国化
政府の成長戦略は、①法人税の実効税率の引き下げ、②TPP(環太平洋経済連携協定)の推進、③国
家戦略特区等を活用した規制緩和、の3本柱から成っているといえるが、既に成果が出始めているのが
規制緩和である。特に外国人観光客へのビザ(査証)要件の緩和を軸に、観光立国化の道筋は順風満帆
の様相である。為替が円安化する中で、昨年夏からマレーシア、タイ、ベトナムなどASEAN(東南アジア
諸国連合) 各国向けにビザの発給要件を緩和したことがきっかけとなって、外国人観光客数が大幅に増
加している。日本政府観光局(JNTO)によると、2013年の訪日外客数は前年比1.2倍の1036.4万人と、
1964年の統計開始以来の最高を記録した。
また報道によると、消費増税後、4月における大手百貨店の既存店売上高(速報)は、駆け込み需要
の反動で軒並み2桁減となることが予想されていたが、蓋を開けてみると、意外に健闘していることが
わかった。特に外国人観光客への積極的対応を行った東京の銀座三越では、売上高が3月の前年比36.7%
増に続き、増税後の4月も同1.1%増と、反動減を吸収してプラスを確保したという。訪日外国人による
免税品(菓子、食品、化粧品、医薬品などは免税対象外)の売上が前年比93%増と大幅に増えたことが
大きく貢献した。この結果、免税品の売上高全体に占める割合が10%程度と、初めて2桁に乗ったのだ
という(Business Journal 5月11日付け記事より)。
外国人観光客は、2020年東京五輪に向け、今後も趨勢的かつ大幅に増えて行くと予想されるが、今後
の個別の戦略としては、まだ中国人観光客のビザ要件の緩和など起爆力のある施策が切り札として残さ
れているし、世界遺産など国内各地の観光資源の一段のグレードアップや観光客のニーズに応じたきめ
細かなおもてなし対応、クール・ジャパンのような文化発信など、魅力を一層高める方策が数多くある。
これに伴ない、LCC(格安航空会社)の発着回数や新規路線の増強、鉄道利用の活発化、ホテル・旅館
のリニューアルなどが促されて、地方を含む日本経済全体の活性化に繋がって行くだろう。
巻末に重要なお知らせを記載、ご参照ください。
1
●17年度にも設備投資額が80兆円に
この他、カジノの誘致といった需要創出型の成長戦略も数多く考えられよう。しかし、成長戦略の最
大の狙いは何といっても、国内での設備投資を活発化させて、生産年齢人口の減少などで先細りして行
く日本の潜在成長率を底上げすることである。日本の実質経済成長率の推移を見ると、設備投資比率(名
目、対GDP比)が上昇すると加速し、低下すると減速するという明瞭な連動関係が認められる(図1)。
これは、設備投資を行うとその乗数倍の所得が得られるという乗数効果から当然の帰結であるが、供
給側に絞って考えれば、設備投資の増加は、資本ストックの拡大を引き起こすとともに、技術進歩を促
して全要素生産性(TFP)の伸び率を引き上げると考えられるため、設備投資は労働力以外の潜在成長
率の要素を支配する最大の要因と考えてよいのだ(図2)。設備投資比率は、9~10年周期(正確には9.4
年)の中期循環、あるいはジュグラー・サイクルに従って上下動しており、これと連動して、資本スト
ックやTFPの伸び率にも循環変動が見られる。潜在成長率は、けっして一定にとどまっているわけでは
ない。
図1.
(%)
25
設備投資比率と実質 GDP 成長率の推移
設備投資比率(名目)
20
15
10
実質GDP成長率
5
0
-5
55
60
65
70
75
80
85
90
95
00
05
10
(年度)
(注 1)79 年度まで 90 年基準・68SNA、80 年度以降は 05 年基準・93SNA(但し 80~93 年度は支出系列
簡易遡及)
。直近は 13 年 4-6 月期~10-12 月期平均値。
(注 2)実質 GDP 成長率は 94 年度まで固定基準方式、95 年度以降は連鎖方式。
(資料)内閣府「国民経済計算」をもとに三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
図2.
(%)
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
-0.5
-1.0
設備投資比率と全要素生産性の推移
名目設備投資の対名目GDP比率
(右目盛)
(%)
13/4Q
0.3
16%ライン
07年 15%
約70兆円
全要素生産性(TFP。前年比、左目盛)
80
82
84
86
88
90
92
94
96
98
00
22
21
20
19
18
17
16
15
14
13
12
11
10
※設備投資額
約80兆円に相当
(当研究所試算)
02
04
06
08
13/4Q
13.6
10
12
14
(年、四半期)
(注)全要素生産性の前年比は、前年同期比の過去 5 ヵ年の平均値。
(資料)内閣府『国民経済計算』、『民間企業資本ストック』
、経済産業省『鉱工業指数』、
総務省『労働力調査』
、厚生労働省『毎月勤労統計』より三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成。
初出は嶋中雄二「生産性、設備循環に連動」日本経済新聞『経済教室』06 年 1 月 30 日付。
巻末に重要なお知らせを記載、ご参照ください。
2
現在、設備投資循環の局面は、明らかに上昇局面に入りつつあるといえる。その兆候は、①限界設備
需給のバランスの改善、②投資採算の改善、の2つの点から裏付けられる(図3)。まず、①であるが、
実質GDPの前年比から全産業・進捗ベースの資本ストックの前年比を差し引いたものが、限界設備需給
バランスである。これがマイナス2.5%を上回った(マイナス幅が縮小した)ときから設備投資比率は
上昇期に入ることになる。このマイナス2.5%という数値は1965年度から2013年度(10‐12月期までの平
均値)における資本係数(資本ストックをGDPで割ったもの)の平均上昇率の符号を逆転させたものだ。
経験則的には、限界設備需給バランスがその平均値であるマイナス2.5%ラインを通過したところが、
設備のストック調整の転換点になる。近年は資本係数の伸び率が以前ほど高くなくなってきており、
1995年度以降の平均では1.1%(逆比の限界設備需給バランスではマイナス1.1%)程度なのだが、12年
度下期にはマイナス1.3%まで低下した限界設備需給バランスの数値が、13年度平均ではプラス1.2%と、
95年度以降の平均値を大きく上回っており、過去の経験則に従えば、本格的上昇局面に入っているとい
える。また設備投資比率に約1年半の先行性がある全産業の投資採算(総資本利払い前利益率から有利
子負債比率を差し引いたもの)も上昇中であるため、現在が設備投資循環の上昇局面に入っていること
は疑いの余地がない。さらに、バンドパス・フィルターという、時系列データを三角関数で示される周
期変動に分解する手法を用いて出した設備投資比率の周期から見ても、また景気拡張期間の全期間に占
める比率から見ても、設備投資の中期循環は、明らかに13年度から9.4年サイクルの上昇局面に入って
いることになる(図4)。
図3.
(%ポイント)
6
4
需
要
2
超
0
過
-2
↑
-4
↓
-6
供
-8
給
過 -10
剰 -12
-14
100.9
限界設備需給バランス
(実質GDP・前年比-資本ストック・前年比)
99.4
-1.1%ライン
-2.5%ライン
実質
資本
GDP
ストック
バランス
①
②
①-②
(トレンド=100)
名目民間設備投資/名目GDP比率
(右目盛)
104.5
103.0
101.5
100.0
98.5
全産業・投資採算 3半期先行
(総資本利払い前利益率-有利子負債利子率)
(左目盛)
99.1
97.0
95.5
68 70 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14
(年度半期)
限界需給
12年度上期
1.5
1.6
-0.2
下期
-0.1
1.1
-1.3
13年度上期
1.8
1.0
0.8
下期
2.6
1.1
1.5
投資採算
名目設備
年度半期
(トレンド=100)
100.6
上 100.3
昇
↑ 100.0
↓
低 99.7
下
設備投資の中期循環とその先行指標
/GDP比率
08年度上期
0.67
15.1
下期
0.05
14.0
09年度上期
0.29
13.0
下期
0.51
12.7
10年度上期
0.66
12.9
下期
0.63
12.9
11年度上期
0.57
13.2
下期
0.65
14.0
12年度上期
0.69
13.8
下期
0.78
13.5
13年度上期
0.91
13.5
下期
0.98
13.6
(注 1)年度半期。資本ストックは全産業・進捗ベース、投資採算は全産業ベース。
(注 2)直近は 13 年 10-12 月期。1965-2013 年度の限界設備需給バランスの平均値はマイナス 2.5%(図上段の水平線(実線))
。
1995 年度以降ではマイナス 1.1%(点線)
。
(資料)内閣府『国民経済計算』、『民間企業資本ストック』、財務省『法人企業統計調査』
、内閣府『国民経済計算』をもとに
三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
巻末に重要なお知らせを記載、ご参照ください。
3
図4.
(%)
景気拡張期の長さと設備投資循環の関係
200
名目設備投資/名目GDP比率の中期循環
(右目盛②)
180
9.4年周期
名目設備投資/名目GDP比率
(右目盛①)
(%)
②
20
2.5
15
0
10
-2.5
2013年
13.5%
160
140
120
9.5年周期
100.0
100
80
73.7
60
拡
張
劣
勢
40
(%) ①
20
78.9
78.9
拡
張
優
勢
①
拡
張
劣
勢
56.160.3Q
60.465.2Q
拡
張
優
勢
②
拡
張
劣
勢
拡
張
優
勢
③
70.274.4Q
75.179.3Q
0
1951.255.4Q
65.370.1Q
73.7
68.4
52.6
57.9
100.0
景気拡張期間比率(左目盛)
36.8
拡
張
劣
勢
79.484.2Q
拡
張
優
勢
④
84.389.1Q
42.1
拡
張
劣
勢
89.293.4Q
63.2
63.2
拡
張
優
勢
⑤
拡
張
劣
勢
94.198.3Q
98.403.2Q
拡
張
優
勢
⑥
拡
張
劣
勢
03.308.1Q
08.212.4Q
拡
張
優
勢
⑦
5
?
0
13.117.3Q
(年、四半期)
(注 1)設備投資比率は、1979 年 10-12 月期まで 68SNA、80 年 1-3 月期以降は 93SNA ベース。暦年ベース。直近は
13 年、名目設備投資/名目 GDP 比率の中期循環はバンドパス・フィルターにより周期 8~12 年の波を抽出
(1885 年以降)。
(注 2)図中の棒グラフのシャドー部は、相対的に拡張期間の短い時期を示す。
(注 3)拡張期間比率は、全期間に占める景気拡張四半期数の割合(%)
。直近の 08 年 4-6 月期~12 年 10-12 月期
については、09 年 4-6 月期から 12 年 1-3 月期までを拡張、12 年 4-6 月期以降を後退としたときの数値(内
閣府の暫定基準日付では、4-6 月期は拡張期)。51 年度以降、 4.75 年 (19 四半期)ずつで「拡張優勢」期と
「拡張劣勢」期が交互に繰り返しており、その周期は 9.5 年。
(資料)内閣府『国民経済計算』、
『景気動向指数』
もちろん、製造業では海外生産シフトの影響で国内での設備投資が伸びにくい傾向になっており、こ
の点は為替がもう少し円安にならないと変わらないとみられる。一方、非製造業では、観光(宿泊業等)・
レジャー産業や医療・介護・IT関係のサービス業、建設・不動産業などで設備投資意欲が旺盛化してい
るようだ。ここで、法人税の大幅減税や種々の分野での思い切った規制緩和を行い、既に上昇局面に入
っている設備投資を刺激してやれば、今回の中期循環のピークが到来するとみられる17年度には、設備
投資額は15年度までの政策目標の70兆円(GDP比で15%)を大きく超える80兆円(GDP比16%)に達しよ
う。そして、これによる資本ストックとTFPの伸びの加速により、潜在成長率を1%以上引き上げること
も可能だろう。
(以上)
三菱UFJモルガン・スタンレー証券 景気循環研究所
東京都千代田区丸の内 2-5-2 三菱ビルヂング
景気循環研究所長
嶋中 雄二
03-6213-6571
[email protected]
巻末に重要なお知らせを記載、ご参照ください。
4
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(加入協会) 日本証券業協会・一般社団法人金融先物取引業協会・一般社団法人日本投資顧問業協会・一般社団法人第二種金融商品取
引業協会
本資料は、英国において同国the Prudential Regulation Authorityとthe Financial Conduct Authorityの監督下にあるMitsubishi UFJ
Securities International plcが配布致します。また、米国においては、Mitsubishi UFJ Securities (USA),Inc.が配布致します。
巻末に重要なお知らせを記載、ご参照ください。
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