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過労死(過労自殺)を 防止するために
Ⅱ.講 演 過労死(過労自殺)を 防止するために 生活協同組合コープこうべ 労務・安全衛生管理担当 茶 園 はじめに 人事・教育部 顧問 幸 子 たの はたったの8件で した。す でに2003年 1月 み なさん 、こん に ちは 。昨 年 の12月 にお 話 し の段 階で 、過 労 死と認定 された件数 が、前年 度 した「安全衛生」、先月行われた「KYトレー ニン の 2 倍 も 発 生 し てい る こと に な りま す 。 労 働 死 亡 グ」といったの研修会や勉強した内容から出題 災害 では 前年度 比で亡 くなる方 が約3割減 少し す る安全クイズなど、みなさんの積極的な「安全 てはいるものの、過労死で亡くなった方は急増し ・衛生」への取り組みについては、非常に感心し ている状況にあります。仕事中に死亡することは ています 。労働災 害の撲 滅に向 け、今後も継続 当 然 あ って はな りませ ん し、ま た 、仕 事 をや り す して取り組んでいただきたい思います。 ぎ て死 亡 す る ことも絶 対 にあ って はなりませ ん 。 本 日 は 、 最 近 世 間 で 話 題 と な っ て い る 「過 労 このような状況から、安全文化の定着等により減 死 (過 労 自 殺 )」を防 止 す る た め に と い う内 容 で 少傾向にある労働死亡災害から、増加傾向にあ お話しさせて頂きます。 る「過労死」の防止に行政の軸足が移りつつある のです。 早速ですが、兵庫労働局管轄内において、2 0 02 年 の 1年 間 の 死 亡 災 害 は 57 件 発 生 して い ま す 。この 数 字 は 、 1年 間 に 死 亡 災 害 が 1 00件 安全文化とは 以 上発 生す るという労 働監 督署に勤務していた 平成11年(1999年)に、ウラン加工施設にお 当 時 か ら考 える と非 常に減 少 した とい えます 。2 ける臨界事故、H-IIロケットの打ち上げ失 0 0 1 年 が 8 3件 で す か ら 、 これ と 比 べ て も 約 3 割 敗 、 鉄 道 トン ネ ル に お け る コン ク リー ト落 下 事 程度減少しています。労働災害の中でもとくに 故等が相次いで発生したことを契機として、同 死 亡 災 害 を 無 く す た め 、 み な さん の 事 業 場 で も 年 10月 、政 府 に 関 係 省 庁 (内 閣 官 房 副 長 官 様々な取り組みが行われているとと思いますが、 が議 長 )で 構 成 される 「事 故災 害 防 止 安 全 対 「労働死亡 災害は絶対 に起こしてはならない」と 策会議」が設置され、これらの事故災害の背 い う 職 場 風 土 が 整 い 、 「安 全 文 化 」と い う も の が 景に共通して存在する問題点の洗い出し、問 出 来 つつ あると思 います 。これ らのことから労働 題点に対する共通対応方策の検討がなされ、 災害が減少してきたと考えられます。 同年12月8日に事故災害防止安全対策会議 報告書が取りまとめられたところです。 ところが、一方で、いわゆる「過労死」がどのよ うな状況にあるかというと、兵庫労働局管轄内で 同報告書においては、安全な社会を実現する は 2 0 0 3 年 1 月 1 0 日 時 点 で 3 7 件 の 脳 ・心 疾 患 ための基本的理念として、「安全文化」の創 等(いわゆる過労死)の労災補償申請があり、そ 造、すなわち組織と個人が安全を最優先する の うち16件 が 認 定 され ました。しか し前 年 の20 気風や気質を育て、社会全体での安全意識 01年度は、1年間で35件が申請され、認定され を高 め てい くことの 重 要 性 が 提 言 され るとと も -2- 過労 死 ( 過 労自 殺 )を 防止 する た めに に、政府や事業者が取り組むべき具体的な施 ンスでは、「過労死はありえない」とこの申請は門 策が示されたものです。 前払いとなりました。現在、「過労死」は言葉とし ては世 界中に飛び回っていますが、認定されて いるのは日本だけなのです。 「karoushi」 「過労死」という言葉は、みなさんもよく聞くこと 過労死の考え方 があると思いますが、この言葉は、医学用語で 社会用語である「過労死」は、法律では「過労 はなく、社会用語、つまりマスコミ用語です。 「 karoushi 」 は、外国の辞書にも載っていると 等 に よ る 脳 血 管 疾 患 ・ 虚 血 性 心 疾 患 」で 、 要 は 聞きます。こんな言葉が世界中に広まっているこ 血 液 が血 管 の中 をうまく流 れ ず 、脳 や 心 臓の 機 とは非常に不名誉な話 です。2,3年前の勤労 能が低下する状態のことを言います。この脳血 感謝の日に放送されたニュースですが、ドイツに 管 疾 患 ・虚 血 性 疾 患 は 死 亡 しなくても労 災 の 認 は「 karoushi 」 というカフェテラスがあり、大変に 定 を受 ける可 能 性 があります 。過 労 死は死亡 の ぎわっているという話でした。ドイツ語で 場合だけをいうのではなく、半身不随のような身 「 karoushi 」 という言葉の響きが良いため名付け 体 の 障 害 に 対 しても「過 労 死 」とい う言 葉 を使 っ られた ので すが、とんでもない話だなと思 いまし ています。 た。現在の過労死問題は、日本で問題になって 現在、中高年の人が定期健康診断を受診し いるだけで、あまり海外では問題になっていない た場合に、約4割の人が有所見者であり、つまり よ う で す 。 イ ン タ ー ネ ッ トで 調 べ て み る と 過 労 死 疾患があり、中でも高血圧はとくに中高年の方 はフランスにもあると載ってました。フランスでは 々 に 多 い の で す 。人 間 の 体 と い うの は、毎 日 死 過労死症候群というものが発生し、問題になっ に向 か って進 ん でおり、これはだれも避 けること ていると いう事 をフランスの雑誌 「VIVA誌 」の2 ができません。通常、血圧は年齢とともに上がっ 月号で伝えています。 ていく傾向がありますが、業務上で非常に忙し 日本における過労死の第1号は1991年に認 いとか驚 くような事態がおこった時に、急激に血 定されましたが、フランスでは過労死症候群とい 圧が上昇したため死に至るのが早まった場合 う言葉 はあるものの認定されは 例はひとつもあり に 、 そ の 要 因 が 業 務 に よる も の で あ れ ば 、 業 務 ません。過労死症候群で問題になっているの 上として補償するという考え方が過労死なので が、かつてカルロス・ゴーン氏が勤務していた自 す。 動車メーカーのルノーです。52歳の男性が職場 で 気 分 が 悪 くなり心 臓 発 作 をお こし数 時 間 後 に 息をひきとりました。これを業務上かどうかを審 査 する部 局は、フランスでいうと安 全保障部とな りますが、会社はどのような態度だったかという と 、 役 所 の 審 査 をが ん と し て 拒 否 し 、 「6 0 0 人 も の従業員がいて平均年齢46歳の職場であれ ば、中には仕事中に死ぬ者が出ても不思議は な い 。職 場 の 状 況 は 他 の 会 社 と な ん ら 変 わ りは な い の だ か ら過 労 死 な ん て 起 こりえ な い。 」と 行 政の調査にも応じようとしませんでした。そのう え 、週 の労 働時 間 が35時 間制 となっているフラ -3- Ⅱ.講 演 いましたが、高血圧は頭が痛いなどの自覚症状 過労死の事例 次に過労死事例についてお話ししたいと思い が無 く、面 倒 になり、若いと いうこともあって薬 を ます。私が労働監督署長時代に業務上であると 飲まなくなりました。その上、神戸に来たときは 認定した2件の事案です。1件目は、関東に在 通常業務を終えた後、関東から神戸まで一晩中 住で、奥さんと子供2人をもつ34歳の男性で、 運転をしていたため、その間に血圧が急激に上 か つ ては 家 業 の鉄 工 所 を手 伝ってい ましたが、 昇したものと思われます。血圧は、いったん上が 景気が悪いため29歳のときに地元のエレベータ る と 充 分 な 休 息 を とら ない 限 り下 が りま せ ん 。 彼 ー 設 置 会 社 に 転 職 しま し た 。 こ の 会 社 は 、大 手 にはその後、充分な休息をとる時間がなく、それ の 下 請 け と して エ レベ ー タ ー の 設 置 や 整 備 ・点 に加え、厳しい業務のため精 神的にも疲れてい 検 を行 っ てい まし た。 業 務 区 域 は 、関 東 地 区 で たという悪状況が重なり、脳の血管が破裂してし の仕 事を主に行 ってい ましたが、神 戸市 の公共 まったのです。この労災申請を受けた後、職員 工事を受注することができ、上司が、誰を工事に が地元の関東等で十分な調査を行った結果、 いかせるべきか迷っていたとき、「私がいきま 血圧上 昇の要 因が業 務上にあると認 められ、業 す。」と本人自らが名乗り出たのです。本人は34 務上認定したものです。 歳 と中堅の年 齢になっていましたが、29歳で入 2件目は、神戸西署で発生した30歳過ぎの 社したため、新卒の22歳で入社した人たちに比 独 身 男 性 の過 労 死 事 例 です 。職 種 は研 究 職 の べ7年間のブランクがあり、なんとか早く技術を ため、一 人で業務を行 っていました。ある朝、本 身につけたいとの思いがあったのです。 人が出社しないためアパートへ電話をかけまし 5月 中 頃 の月 曜 日 でした が、本 人は 、関東 地 たが応答が無く、机の上は書類を出しっぱなし 区での通常業務を終え、一旦家に帰り出張の準 だったため、会社にいるかもしれないと職員が会 備を行い、ベテランの先輩技術者とともに、本人 社中を探しました。そして一階のトイレの中でう の運転により関東から神戸に向かいました。本 ずくまっている本人を発見したのです。この職場 人が一晩中運転し、翌朝6時に到着しました。神 は フレ ック ス タイ ム 制 が 導 入 され て お り、 時 間 の 戸 に着 いた 後宿 舎 で1時 間 程度 の仮 眠 を取 り、 調整はできるものの、本人は毎晩夜遅くまで業 す ぐさま現 場に向か いました。そして、土曜 日ま 務 を行 ってい ました。この人 も血 圧が高く、健 康 で先輩と一緒に働きました。エレベーターの設 診 断 で高 血 圧 の治 療 を受 けるように指導 され て 置 作業 は、躯 体自 体が完成 しないと設置できな いため、躯体の建設作業が終わってからの仕事 となり、残業も当たり前のような日々が続き、仕事 が終わるのは20時から21時頃となっていまし た。現場は土日が休みでしたが、神戸では阪神 大 震災 以降 、震災 対策 としてエレベーターの規 格 も厳しくなってお り、仕事 をこなすた めには 土 曜日も出勤せざるを得ない状態でした。そして 翌週の月曜日の朝礼中にうずくまってしまいまし た。ろれつが回らず、顔面蒼白の状態で病院に 担ぎ込まれ、意識不明のまま3ヶ月後に亡くなっ たのです。 本人はもともと血圧が高く、一時は薬を飲んで -4- 過労 死 ( 過 労自 殺 )を 防止 する た めに い たのです が、「そのうち行 きます。」と言う返事 まし た 。デ ー ター は 段 々 と 悪 くな ってい るが 、共 だ けで実 際 に治 療 を受 けてい ませ んで した。仕 同研究を行っている企業にデーターを持って行 事 を優 先 しな け れ ば い け な い と い う気 持 ちに 駆 く期日が近づき、前日になっても良いデーター られ、自覚症状がないまま仕事に励んでいたと ができませんでした。そのため、前日は徹夜で ころ、夜10時頃、トイレで脳内出血を発症したも データーづくりに励みましたが、とうとう朝を迎 の で す 。そ の 時 に 、ト イレか ら出 られ る だけ の力 え、奥さんに出張のための着替えの背広を会社 が 残 ってい れば なん とか 脱 出 でき たも のの意 識 まで持って来るよう連絡しました。 不 明 になり明 朝 の4時 頃 に亡 くなりました。家 族 奥 さん が 背 広 を持 っ て来 るま での 間 に 、本 人 は 日 頃 か ら 高 血 圧 の 治 療 に 行 く よ うに 助 言 し て は会社を抜け出し、近くのマンションの13階から いたにもかかわらず、治療を受けなかったことを 飛び降り自殺をしました。その日の取引先に持 嘆 き 、長 時 間 労 働 によ る労災 申 請を行 い、業 務 っていく資 料の出 来具合が非常に悪く、どうしよ 上 と 認 定 さ れ ま し た 。 認 定 し た 理 由 と い うの は、 うも なく な り、思 い 詰 め て の 結 果 で す 。 これ は 長 研 究 職 で はあるもの の、日 々長 時 間 労 働 をして 時間労働で肉体的に疲労したというよりも、成果 いたという事実が調査の結果分かったためで が出ず精神的な疲労が蓄積し、追いつめられた す 。この 事 例 は 、さらに会 社 側 が 安全 配 慮 義 務 ための過労自殺事例でした。 を怠っていたことを理由に、民事訴訟にまで発 過 労 自 殺 とは 、鬱 (うつ )病に なって自 殺 す る 展しました。皆さんも「自分は大丈夫」だと思って 場合の鬱病になる原因として、過労が大きなポ いるでしょうが、この事例のように高血圧というの イン トに なってい る ため 、過 労 自 殺 と言 ってい ま は 非 常 に 怖 い 症 状 で あ り、 若 く し て も 亡 く な る と すが、過労以外にもその原因が人間関係であっ い う可 能 性 が あるの で十 分 に気 を付 け、自 分 の たり、すごく厳しい仕事を任され精神的に追いつ 身は自分で守るように心がけましょう。 められることがあるのです。よくあるケースが、昇 進 を して 課 長 に なっ た ば か り の 人 が 責 任 を感 じ 精 神 病 に 陥 る 場 合 で す 。この ように 仕 事 に 関 わ 過労自殺の事例 過労自殺とは、過重な長時間労働や仕事上 ることで精神的に追いつめられ、鬱病などの精 の ス トレスが 原 因 で 鬱 (うつ )病 な どの 精 神 障 害 神 病 に なり自 殺 をして しまうこと を「過 労 自 殺 」と を発病して、自殺することをいいます。過労自殺 呼んでいます。 として認定した事例を紹介したいと思います。あ 労 働 組 合 の役 員 をされ ているみ な さん は 、人 る大手メーカーで優秀な大学を卒業した48歳の と話をする機会も多いと思いますので、仕事で 設計課長が、3つの大きなプロジェクトの責任者 思い悩んでいる方や精神的にめいっている方へ として頑張っていました。しか しながら、このプロ のメンタル的なフォローをしてあげる立場に是非 ジェ クトの研 究 成 果がうまく出 ず、部長 か ら叱 責 なって頂きたいと思います。 を受 けてい ました。3つ も出来 ないということで、 労災の認定基準 ひとつのプロジェクトを外してもらったのですが、 そ れ で も良 い 結 果 が 出 な い 状 況 が 続 き ま した 。 仕事中に死亡した場合、すべてが業務上に 休みも取らず毎日出勤し、夜も遅くまで残業 なるという訳ではありません。認定のための基準 し、必死になって頑張っていたのですが、その があり、それによって判断します。認定基準は大 段階で少し鬱(うつ)病にかかっていました。そう き く分 けて3 項 目 か らなります 。① 直 前 か ら前 日 なると、会社にいて仕事をしていても、思うように (24時 間)までの 間に異 常な出来 事に遭遇 した はかどらず、気分転 換す ら出 来ない状 況が続き 場合、②発症に近接した時期(1週間)に過重な -5- Ⅱ.講 演 業 務 に 従 事 した 場 合 、③ 発 症 前 の長 時 間 (約 6 れれ ば 、十 分 な休 息 がと れ、過 重 な業務 と病 気 ヶ月間)に渡って、著しい疲労の蓄積をもたらす の発症 には因果 関係 が無いとされ、業 務上とは 過 重 な 業 務 が あ った 場 合 の 3項 目 で す 。① 、② 認められませんでした。 今までは、この①、②の2項目しか基準が無か は 元々 認定 基準にあり、③は平成 13年12月 に 新たに認定基準として追加されました。まだ③の ったため、認定されるというケースはそう多くな 認 定項目が認められていないころは、脳内出血 く、冒 頭にお話 ししたように、2001年度は35件 や脳梗塞を発症しても、発症した日より近接した のうち8件しか認定されないという状況でした。こ 時 期 (1 週 間 )以 上 の 期 間 の 業 務 が 過 重 で な け れまでの考え方として、本来人間は、疲れると休 脳・心臓疾患(過労死)認定基準の概要【抜粋】 1.基本的な考え方 (1) 脳・心臓疾患は、血管病変等が長い年月の生活の営みの中で、形成、進行及び増悪するといった自然経過をたどり発症する。 (2) しかしながら、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓 疾患が発症する場合がある。 (3) 脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として、発症に近接した時期における負荷のほか、長期間に わたる疲労の蓄積も考慮することとした。 (4) また、業務の過重性の評価に当たっては、労働時間、勤務形態、作業環境、精神的緊張の状態等を具体的かつ客観的に把 握、検討し、総合的に判断する必要がある。 2.対象症状 (1) 脳血管疾患【脳内出血(脳出血)、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症】 (2) 虚血性心疾患等【心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)、解離性大動脈瘤】 3.認定用件 次の(1)、(2)又は(3)の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患を「業務上の疾病」として取り扱う。 認定用件 (1)異常な出来事 (2)短期間の過剰業務 (3)長期間の過剰業務 評価期間 発症直前から前日までの間 発症前おおむね1週間 発症前おおむね6ヶ月 判断基準 発生状態を時間的及び場所的 業務量、業務内容、作業環境等を 著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就 に明確にし得る以下の異常な出 考慮し、同僚等にとっても、特に過 労したと認められるか否かについては、業務量、業 来事に該当したか否かによって 重な身体的、精神的負荷と認めら 務内容、作業環境等を考慮し、同僚等にとっても、特 判断する。 れるか否かという観点から、客観 に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かと a. 極度の緊張、興奮、恐怖、驚が 的かつ総合的に判断する。 いう観点から、客観的かつ総合的に判断すること。 く等の強度の精神的負荷を引き 具体的な負荷要因とは 具体的には、労働時間のほか前記(2)の b ~ g まで 起こす突発的又は予測困難な a.労働時間 に示した負荷要因について十分検'試すること。 異常な事態 b. 不規則な勤務 労働時間については、①1か月当たりおおむね45 b. 緊急に強度の身体的負 荷を b. 拘束時間の長い勤務 時間を超えない場合は、業務と発症との関連性が 強いられる突発的又は予測困 c.出張の多い業務 弱いが、おおむね45時間を超えて長くなるほど、業 難な異常な事態 務と発症との関連性が徐々に強まると評価できる、 e.交替制動務・深夜勤務 c. 急激で著しい作業環境の変化 f.作業 環境(温度環境・ 騒音・ 時 ②発症前1か月間におおむね100時間又は発症 差) 前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当た g. 精神的緊張を伴う業務 りおおむね80時間を超える時間外労働が認められ る場合は、業務と発症との関連性が強いと評価でき る -6- 過労 死 ( 過 労自 殺 )を 防止 する た めに 息 しようと いう健 康を維 持 す るた めの生 態 メカニ また、時間外労働は、労働基準法で125%の ズ ム (ホ メ オ スタ シス)が働 くた め 、死 に 至 るまで 時 間 外 手 当 てを払 わ なければ ならない と定め ら 疲労を蓄積することは通常有り得ないと考えられ れています。銀行に利子がわずか数%の時代 て い ま し た。 ところ が 、 いろ い ろ な経 緯 を経 て 医 に、25%の割り増しというのはかなり高率です。 学的な知見により、このホメオスタシスが働くにも ですから時間外労働は、それに見合うくらいの 係わらず、それでも無くしきれない疲労が存在 労 働の中 身 であるべ きで、従って、ダラダ ラと残 し、これが「蓄 積疲 労 」で あるといわれるようにな っ て い る よう な 時 間 外 労 働 は 、 本 来 は 手 当 て を りました。この蓄積疲労が医学的に認知された 払 わ れ る よう な労 働 で もな く 、時 間 外 に 残 らな く ため、蓄積期間として、たかだか1週間ではな ても済むように努力すべきで、メリハリのある仕事 く、最長6ヶ月間の状況を見て、その間に過重な を行 ってほ しい と思 いま す。このこと が過労 死 を 業 務 が あ れ ば 、 疲 労 が 蓄 積 し た も の と して 業 務 防ぐひとつの方法であると考えています。 この3項目の認定基準において認定された割 上 認 定 を す る い う の が 新 し い 認 定 基 準 と して 加 合 は、 ① 項 で は4% 、② 項 で は3 0% 、そ して ③ えられたのです。 蓄 積 疲 労 は、業 務 以 外 の 私 的 な時 間 に 休 憩 項 に お い て は 6 6 % に な っ てい ま す 。この こ と か や休息を取ることで低減されますが、会社にいる ら、半分以上が長時間の過重な業務で労災と認 こと自 体が蓄 積 疲労 となるため、業務 内 容より、 定されているのです。 時間の長さによって認定されるケースが出てきま した。具体 的 な内 容 として、発症 す る直前 の1ヶ 過労死(過労自殺)をしないために 月 間にお おむね100時間、発症前2ヶ月前から 過 労死 を防止 するためにはどうす れば よいの 6ヶ月前の5ヶ月間に渡って月平均80時 間を超 でしょうか。過労 死をしないためには、長時間労 える時間外労働が認められた場合に業務上と認 働 をしない ことが非 常に大事 なことのひとつ で、 定されます。つまり法定で定められている労働 長時 間労 働を防止 することが、過 労死を防止 す 時 間の週40時間 を超 え、80時間 に達した場合 ることに繋がると思います。長時間労働を防止す に 疲 労 が 蓄 積 した もの と 認 め ら れ る よ う にな りま るには、会社が長時間労働をさせない環境をつ した。1日 につき4時間か ら6時間の睡眠が取れ くり、従 業 員 もダラダラと仕 事をす ることをやめ 、 るかが一つのポイントとなり、1日に6時間程度の メリハリつけた仕事を行っていくこと、またその意 睡眠が確保出来ない状態とは、8時間の労働時 識を持つことが大切です。労働組合としても、今 間 を超 えて4時間程 度の時 間外 労働を行ったと のご時 世だから仕方がないではなく、「サービス いう計算になります。このような状態が1ヶ月間継 残 業をしない 、長 時間 労働 をなくそ う」運動を進 続すると、時間外労働時間の合計が80時間に めていってもらいたいと思います。 な ります 。逆 に 1日 に7 .5時 間 の睡 眠 が確 保 で きていたならば、十分にホメオスタシスが働き、 過労死防止のためのシンポジウム 疲労としては蓄積しません。個人差はあるもの 私が神戸東 監督署署長時代に、「過労死防 の 、労 働 時 間 の長 さによ って蓄 積 疲 労 を判別 し 止 の た め の シ ン ポ ジウ ム 」を 開 催 しまし た 。そ れ ようと 定 めた もの で す 。業 務 上 に ならない のは 、 までは労働災害を防ぐための安全大会は数多く 1ヶ月間で45時間以内の時間外労働であれば、 開催されていましたが、過労死防止を取り上げ 医学的知見から蓄積疲労にはならず業務上とは たものがなかったので、セミナーを開催しようと 認めません。ただ、月80時間を超えれば業務上 考え、神戸市の管轄である神戸東監督署と神戸 と認定されますが、45時間を超え80時間以内 西監督署そして西宮監督署の3つの監督署に であれば、業務内容により判別します。 -7- Ⅱ.講 演 声をかけ、開催しました。どのように行なったかと のです。有所見があるにもかかわらず、治療を いうと、様々な立場の代表として、企業の総務課 怠 る と い っ た 「 や り っ ぱ な し の 健 康 診 断 」も 過 労 長 、健 康 診 断 セン ター のセ ンタ ー 長 、労 働 組 合 死に至る大きな原因となるのです。 の委 員 長、ある過 労死 弁 護団 の弁護 士、そ して 死の4重奏 行 政 と し て 神 戸 東 監 督 署 の 労 災 課 長 と い う5 人 を パ ネ ラ ー と し てシ ン ポ ジ ウ ム を 行 い ま し た 。 過 死の四重奏とは、高血圧、高コレステロール 労死弁護団の弁護士に参加してもらうことには、 血症、糖尿病、肥満という4項目をいい、去年か 労 働基準局(現、労働局)や本庁からもかなりの らこの4項目ともに異常がある方は、労災保険で 厳しい抵抗を受けましたが、いろんな立場の方 健康診断を受診することができる制度がスタート 々 が 参 加 し 、い ろ ん な 意 見 の 交 換 があ っ て こそ しています。本来、労災保険というのは、事が起 意 義 が あ る と 考 え 、 「も し 失 敗 を し た な ら ば 私 が こっ てか ら 補 償 す る とい うの が システ ム で す が 、 責任を負って署長を辞任する」(実は、その年度 過労死を防ぐためには予防が大切なため、高血 で退職予定でしたが)といって開催にこぎつけま 圧、高脂血症、肥満、糖が高いという4つの有所 した。 見があれば労災保険により健康診断を受けられ はじめてのセミナーにしては、まあまあ良かっ るようになりました。しかし、医者の立場からみる たのではないかと思います。その中でパネラー と、この4つ ともに 有 所見 が ある人 は 、健 康 診 断 の弁護士が、過労死の原因は、「長時間労働」と を受 診 す る よりも す ぐ にで も 治 療 にと りか か なけ 「や りっぱ なしの 健 康 診 断 」の 2つ による とい うこ れば い けない 状態 に あると いう意見 も あります 。 とを言われました。長時間労働が原因となってい そ れで も、労 災 保険 で 健康 診 断が受 診 できるよ ることはみなさん も理 解出 来ると思いますが、確 うに なっ たこ とは、労 災 保 険 の在 り方 として 一 歩 かに「やりぱなっしの健康診断」もその原因のひ 前進したと思っています。 とつ で、先 ほどの高血 圧で あるのに自覚 症状 が ないため 、つ いつ い放 ってお いて仕 事を優先さ シンドロームX せ てしまった結果、過 労死になってしまったとい 糖尿病、高コレステロール血症、高血圧、肥 う事例もあるのです。その後、今度は兵庫労働 満の組み合わせは、死の4重奏とかシンドロ 局 で「過 労 死 と企 業 を考 える セミナー ・無 くせ 過 ーム X と呼ばれ、動脈硬化によって血管が詰 労 死 ・過 重 労 働 」と称 した セミナー を本 年 2月 に まる発作が高率に起こるため、恐れられてい 開 催 しました。このセミナー に おい ても、健康 診 ます。どれも、最初はほとんど症状らしい症状 断 のや りっぱ なし が大 き なポ イ ントにな ってい る がありません。しかし、知らず知らずのうちに ことが話題となりました。セミナーでの報告では、 動脈硬化が進み、脳梗塞や心筋梗塞を起こ 過去5年間で業務上と認定された被災者につい してきます。これら4重奏を持つ方の治療目標 て、発病前の健康診断の実施状況を調査する は 、 検 査 値 の 正 常 化 だ けで はなく 、現 在 お よ と、健康診断を受診していない方が27%にもお び将来の生活の質が病気によって低下しない よび、中 小の企業 では経 費がかか るとか 時間 が ようにすることです。近 年、この生 活習慣の問 ないという理由で健康診断を受けていない、ま 題 は 、大 人 だ け で はな く子 供 に まで 広 が って た 、健 康 診 断 を 受 け てい て も 、 有 所 見 者 と 診 断 います。老いも若きも、問題が起こりそうだと感 され た 人 た ちが64% に もの ぼ りました 。このこと じたら是非、生活習慣を見直し、油っけの少 から、被災者の7割以上の人が健康診断を受け ないリーン(lean)な体作りをしていきましょう。 てお り、その中 の半分以 上の方 が血 圧が高 いと か コレ ステロー ル が 高 いな どの有 所 見 者 だっ た -8- 過労 死 ( 過 労自 殺 )を 防止 する た めに 場 所 お よび 作 業 の 変 更 、 労 働 時 間 の 短 縮 等 の 行政の動き 行 政 は健 康 診 断 につ いてフォロー をしていこ 措置を講 じるほか 、作業環境測 定の実 施、施設 うという動きがあり、労働安全衛生法66条の第4 等の整備など適切な措置 を講じなければならな 項などに「健康診断の結果について医師に意見 いことや、健康診断結果に基づき事業所の講ず を聞 かなければならない」ということや、「健康診 べき措置に関する指針も発刊されています。 断で異常所見者と判断された場合は、当該者の 但し、この規定には罰則が無いため、従わなくて 健 康を維持していくために医師 の意見 を聞かな も事業者が労働安全衛生法違反で罰されること ければならない」という条文が規定されていま はありませんが、民事訴訟を起こされた場合に、 す。その結果、治療が必要と認めた場合は就業 これ ら の 条 文 に より 事 業 者 側 は安 全 ・健 康 の 配 サービス残業を取り上げた新聞記事 -9- Ⅱ.講 演 慮義務を怠ったとして事業者側が責任を問われ 払うことで和解が成立しました。電通では自己申 る根拠のひとつになるのです。 告 に よ る 時 間 管 理 が 行 わ れ て い ま した が 、 そ の 報告書に記入された内容は、実際働いた時間と 労働安全衛生法より は 異 なる内 容 でした 。最 高 裁 まで争 われ たので (健康診断の結果についての医師等からの意 す が 、裁 判 で は 報 告 書 の 申 告 時 間 以 上 に 働 い 見聴取) て い た 事 実 を 認 め 、判 決 内 容 と して 、使 用 者 及 第66条の4 び使用者に代わって労働者の指揮監督を行う 事業 者は、第66条第1項から第4項まで若 者は労働者が心身の健康を損なわないよう注意 しくは 第 5項 た だし書 又は 第66条 の2の規 定 する義務があるにもかかわらず、注意を怠って による健康診断の結果(当該健康診断の項目 いたとの判断でこの原告側の主張を認めまし に異常の所見があると診断された労働者に係 た。この根拠の中に、安全衛生法65条の3項や るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康 先程の条文も加わっています。 を保持するために必要な措置について、厚生 労働省令で定めるところにより、医師又は歯 電通事件 科医師の意見を聴かなければならない。 Aは、平成2年4月に(株)電通に入社し,ラ (健康診断実施後の措置) ジオ局ラジオ推進部に配属された。同人の業 第66条の5 務は,ラジオ番組の広告主への営業が主で, 担当の得意先は40社で,常に同時並行的に 事業者は、前条の規定による医師又は歯 複数社と交渉した。 科 医 師 の 意 見 を勘案 し、そ の必 要 があ ると認 めるときは、当該労働者の実情を考慮して、 A は ,コ ン サ ー トな ど イベ ン トの 会 場 を 回 る 就業場所の変更、作業の転換、労働時間の ことも多 く,招 待客の送 り迎え やジュー スの買 短 縮 、深 夜 業 の 回 数 の 減 少 等 の 措 置 を 講 ず い出 しなど雑 用 もすべ て手掛 けた。こうしたイ るほか、作業環境測定の実施、施設又は設備 ベ ン トの 企 画 立 案 も 自 分 で や らなけ れ ば な ら の改定又は整備その他の適切な措置を講じ ず、昼間 の仕 事 がー 段 落した夜 8時を過ぎて なければならない。 から,企画の仕事に取り組んだ。 2 . 厚 生 労 働 大 臣 は 、前 項 の 規 定 に よ り事 業 さ ら に A は , 毎 朝 雑 用 と し て , 机 を ぞ うき ん 者が講ずべき指定の適切かつ有効な実施を 掛けし,まだ先輩たちが出社してこない職場 図るため必要な指針を公表するものとする。 で、次々に掛かってくる電話の応対をした。こ 3.厚 生 労 働 大 臣 は 、前 項 の指 針 を公 表 した のため、前夜の帰宅が遅くても必ず朝9時に 場合において必要があると認めるときは、事 出社した。 この結果、Aは入社してからの1年5カ月 業者又はその団体に対し、当該指針に関し必 間、日曜 日も必ず 仕事に出掛け、この間に取 要な指導等を行うことができる。 った有給休暇は半日だけであった。特に後半 の8カ月は,午前2時以降の退社が3日に1 電通事件 度、午前4時以降が6日に1度で、睡眠時間 電通事件とは、大手広告代理店の社員が入 は30分から2時間30分だった。 社約1年5ヶ月後に鬱病にかかり自殺した事案 です。行政は業務上認定し、労災補償が遺族に A は ,入 社 翌 年 の春 ころか ら真 っ暗 な部 屋 支 払 わ れ まし た が、 民 事 訴 訟 で も争 われ 、最 終 で ぼ ん や りし た り、 「人 間 と し ても うだ め か も し 的 に1億6,800万円 の損害 賠償金 を会 社が支 れ ない 」と漏 らし たり 、うつ 病 の症 状 が 現 れ 始 め、同年8月、自宅で自殺した。 - 10 - 過労 死 ( 過 労自 殺 )を 防止 する た めに 組合員の身も組合として守る 労働安全衛生法より 過労死を防ぐためにも、「自分の身は、自分で (作業の管理) 守る」ことが大切です。会社が全てしてくれるとい 第65条の3 う時代は終わり、労働者が会社に申し出してい 事業者は、労働者の健康に配慮して、労働 かなければ ならない時代になりました。グローバ 者の従事する作業を適切に管理するように努 ルな競争にさらされている会社は、非常に厳し めなければならない。 い 時 代 に 入 り、人 件 費 削 減 をや む なく行 わ なけ (参考)日経新聞に掲載された過労自殺に関する記事 - 11 - Ⅱ.講 演 ればならない状況の中で、労働者は長時間労 ス の 対 応 な ど 過 労 や 職 場 の ス トレ ス 対 応 に 取 り 働 を減らし、自 分自身 の健康 を自 分で守ってい 組むことが掲 げられています。この「過労、ストこ く 必 要 が あ る の で す 。 そ して 労 働 組 合 と して も、 とは、はじめてのことであり、仕事中に死亡する、 「自分の身は自分で守る」と同時に「組合員の身 または仕事をし過ぎて死亡することも大きな も 組 合 と し て 守 る 」 こ と を 頭 に 置 い て 過 労 死 (過 レス対応」が労働災害防止計画に組み込まれた 労自殺)防止に取り組んでいただきたいと思いま 意味で労働災害であるという考え方をもとに取り す。 入れられたのです。行政としても過労死・過労自 殺防止に向けて行政を進めておりますが、ここ 最後に に お 集 ま りにみ な さん ご自 身 で もメリハ リの 効 い 労 働 行 政 にお い ては、「労 働 災 害 防 止計 画 」 た仕事を行い、労働 時間を自己管理し、安全で と して5ヶ年 の長 期 計 画 を立 てています 。2003 明るい職場を確立することが大切と思います。か 年度は第10次労働災害防止計画が始まる年で けがい のない たった一 つ の 命 です 。み なさん 自 すが、従来の計画内容は労働災害の減少がメイ 身が、自分のために家族のために大切にして下 ンとなっていましたが、第10次 労働災害防止計 さい。本日は、ご静聴ありがとうございました。 (文責:伊藤 正樹) 画では5年間で労働被災者を1500人以下を指 すことに加え、長時間残業の防止、メンタルヘル - 12 -