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TOPICS 超音波重畳クーラントによる円筒研削の環境

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TOPICS 超音波重畳クーラントによる円筒研削の環境
396
日本機械学会誌 2004. 5 Vol. 107 No. 1026
TOPICS
超音波重畳クーラントによる円筒研削の環境負荷低減法
は超音波重畳ノズルの構造を,また
振動子
超音波
発信器
研削磁石
クーラント
超音波
ノズル
120
加工点
工作物
φ3
(a)ノズルの構造
(b)研削盤への取付け
図1 超音波重畳クーラント供給システム
切りくず容着
これらより,超音波重畳クーラント
を示している.このノズルは内部に
を用いると,作業面状態をより良好な
PZT振動子を組み込んでおり,クーラ
状態に保つことができ,仕上げ面粗さ
ントに超音波振動を重畳できる.その
を低減できることがわかった.これを
発振周波数は3MHzであり,これは,
クーラント使用量削減に活かすため,
一般的な超音波洗浄などで用いる周波
クーラント流量と仕上げ面粗さの関係
数の50倍以上の高い周波数である.
を求めた(2).
3.超音波重畳による研削性能の
向上
良好な
切れ刃
これまでにアルミナ砥石WA150N7V
を用いた焼入れ鋼,ステンレス鋼およ
(a)超音波なし
(b)超音波あり
図2 作業面状態の改善効果
0
1
2
3
位置 mm
4
(a)超音波なし
の関係を示している.この条件の範囲
内では,いずれのQにおいても超音波
重畳時のほうがRyが小さい.さらに,
びアルミニウム合金の精密研削におい
超音波を重畳しないとQの減少に伴っ
て超音波重畳クーラントによる仕上げ
てRyが増加するのに対して,超音波
を重畳するとQが減少してもRyをほぼ
0.5
さらに焼入れ鋼の研削においては,砥
一定に保てることがわかる.このこと
−0.5
石摩耗の抑制や砥石寿命の長寿命化に
から,超音波を重畳すれば流量を減ら
−1.5
ついても確かめられている.この超音
してもRyを同程度に仕上げられると
波重畳クーラントによる円筒研削性能
考えられる.
0
1
2
3
4
位置 mm
(b)超音波あり
図3 仕上げ面のスクラッチ制御効果
仕上げ面粗さ Ry μm
図4は,流量Qと粗さの最大高さRy
面粗さの低減効果を確認している (1).
μm
振幅 μm
振幅 0.5
0
−0.5
1
−1.5
きることによると考えられる.
(b)はその円筒研削盤への取付け状態
の向上作用について,以下に示す.
そこで,超音波重畳時の流量を非重
図2は,焼入れ鋼研削後の砥石作業
畳時の4分の一に削減し,さらにより
面の観察結果をクーラントへの超音波
厳しい加工条件になるように切込みを
1
の重畳の有無により比較している.同
5倍高めて研削実験を行い,得られた
0.5
図(a)に示すように超音波を重畳し
仕上げ面粗さを比較した.その結果,
ない場合には,目づまりが顕著に生じ,
仕上げ面粗さRa,RzおよびRyのすべて
切れ刃付近に切りくずの溶着が生じて
においてほぼ等しい値を得ることがで
いた.これに対して,同図(b)に示
きた.この結果より,超音波重畳クー
すように,超音波を重畳すると,同じ
ラントを活用することにより,加工性
研削条件,同じ作業面を用いた研削で
能を維持しつつクーラント使用量を削
1.5
超音波なし
超音波あり
0
0
500
1 000
1 500
クーラント流量 Q mL/min
2 000
図4 クーラント流量と仕上げ面粗さの関係
1.はじめに
あっても切れ刃への切りくず溶着が抑
減できることが実証できた.
減に対する要求が高まりつつある.特
制でき,良好な作業面が維持できる.
4.おわりに
に加工点に供給するクーラントには,
これは,クーラントに重畳した超音波
円筒研削において,超音波を重畳す
潤滑性能などの向上のためにClやSを
振動が,研削中における切りくずの作
るとクーラントがより効果的に作用す
含む添加剤が用いられることが多く,
業面への付着を防止したためと考えら
るようになる.これを活かすことによ
廃棄処理での環境負荷が看過できず,
れる.
り,同じ研削性能をより少ないクーラ
精密加工分野においても環境負荷低
その使用量削減が求められている.
一方,図3は,超音波重畳の有無に
ント供給量で実現できることが実証で
クーラントが本来持っている多様な
よる仕上げ面の粗さ曲線を比較してい
きた.この技術は,クーラントを用い
機能を活かしつつこの要求にこたえる
る.いずれの粗さ曲線においても,ス
る加工に幅広く適用できる可能性があ
ためには,なんらかの作用によりクー
クラッチ(○印)が生じており,粗さ
る.今度,その適用の広がりが精密加
ラントの性能を向上し,加工プロセス
の最大高さRyはこのスクラッチの深
工の環境負荷低減に寄与することを期
においてその性能が作用しやすくなる
さにより決まることになる.ここで同
ようにしなければならない.この観点
図(a)および(b)を比べると,超音
(原稿受付 2004年3月4日)
から,クーラントへの超音波重畳によ
波を重畳することにより,スクラッチ
〔坂本治久 上智大学〕
る円筒研削加工の環境負荷低減技術の
の頻度および深さが顕著に抑制できる
開発を行っている.
ことがわかる.これは,超音波重畳に
2.超音波重畳クーラント供給
システム
よりクーラントの噴出の勢いが増し,
研削点に到達しやすくなることによ
図1は,超音波重畳クーラント供給
り,研削熱を効果的に除去できるよう
システムの概要を示している.同図(a)
になり,切れ刃の脱落や破砕を抑制で
― 80 ―
待している.
●文 献
(1) Sakamoto, H.ほか, Effect of Megasonic
Coolant on Cylindirical Grinding Performance, Key Engineering Materials, 238-239
(2003), 189.
(2) 坂本・ほか,焼入れ鋼研削時の超音波重畳
によるクーラント供給量削減効果,2003年
度精密工学会春季大会学術講演会講演論文
集,E03,
(2003-3)172.
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