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日本華人企業文化の主な特徴について

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日本華人企業文化の主な特徴について
日本華人企業文化の主な特徴について
郭玉聡・朱新建
キーワード:五倫関係、 差序格局、第六倫、新儒家
一、はじめに
企業文化とは、民族文化と現代意識が企業内部における総合的な反映と表現であり、社会文
化体系において有機的で重要な構成部分である 。中国伝統文化の主要部分は儒教の教 えである
のに対して、日本も同じように、歴史上絶えず儒教の教えを吸収し、日本文化の重要な骨組を
構成してきた 。 したがって、中日両国の企業文化は、儒教を基礎とした共通の 根源があるた
め、日本における華人企業の企業文化も自然に同様だと考えることができる 。
しかし、森嶋通夫は、「日本の儒教と中国の儒教は、いくつかの重要な面において 、かなり
異なる」 。両者は「もともと同じ経典から出てきたものだが、理解の方 法が違ったため、日本
と中国はまったく違う国民性質を形成した J と述べている 1)。
中日両国の国民性はまったく異なるものではないが、確かに違う面は存在していると考えて
いる。そして、両国の企業文化はいくらかの違いがあるのも事実である。下述のように、日本
における華人企業文化の主な特徴からもその違いが見られる 。
二、日本の華人企業文化の主な特徴
儒教の倫理綱領は、教義の五常(仁、義、礼、智、信)から生まれたのが、「君臣」、「父子」、
「夫婦」、「長幼」、「朋友」の関係を維持する五倫関係である 。明の時代の醇喧は次のように
7- 9
愛知学院大学教養部紀要第5
6巻第 4号
言っている。「 人聞が禽獣と区 別できるのはた だ倫理だけであ る。倫とは何か 。父子、君臣、
夫婦、長幼、朋 友の五つである 」。五倫関係が 歴史の発展につ れて、君臣関係 はもう自然に淘
汰されたが、家 族関係を重視す る考え方がやは り中国伝統文化 の最大の特徴で 、全社会関係の
基礎とされてき た。中国で著名 な社会学者費孝 通教授は、中国 伝統社会の五倫 関係が一種の
「
差序格局 J (格差構造)であるとしている。つまり「社会関係とは、個人個人の関係によって
だんだん広がる 人間関係のネッ トワークを形成 するものである !と説明してい る 2
)。
比日食的に言うと、「差序格局」は、石で水を叩いた後起こった中心点のさざなみのように、
真ん中は円心で 、外の一つひとつの円は、次第に、家族、親族、親友、同郷などと、円心より
遠ければ遠いほ ど、ますます疎 遠になる。「差 序格局」は、中 国大陸において は一般的に存在
している 。台湾、香港、マカオにも存在している し、また 華僑、華人社会 にも存在 している 。
日本企業の組み 立ては「差序格 局」の概念と違 っている 。 日本では、「家」の概念が、団体
と企業に広がった 。企業は「親分 」で、社員は「 子分」である 。血縁関係を持っていないが、
家族成員と同じ 、全人格関係に 発展してきた。 この「模擬血縁 関係」に、普通 の人は、才能に
よって選ばれる し
物質上特別の世 話もしてもらえ る。日本の著名 な社会人類学者 中根千枝
は、「日本における社会集団構成の原理は、このように、『家』に集 約され、日本の 全人口(少
なくとも江戸時代以降いかなる 農村においても )に、共通して 『家』がみられ たことは、日本
の社会構造の特 色として、枠設 定による集団構 成というものが とられたからで ある Jo i親分、
子分というもの に象徴される人 間関係は
……あるいは最先端をゆく大企業の中で働いている
人々の中にも、みられることが指摘できる J3)。
もしそうだとす れば、日本での 華人企業は、日 本系企業と明ら かに区別するこ とができる 。
それはむしろ、 日本での華人企 業は、中国の企 業と同様、「差 序格局」をきち んと守っている
カュらで、
ある。
三、日本の華人企業「差序格局 J の状況
ここ十数年来、 56社の日本華人企 業の調査をして きた 4)。敏感な話題の ため、アンケー トは
やらず、インタビューにしぼった。整理した後のデータは次表のようになった。
なお、 56社の企業の中に 、個人(家族) 独資の企業は 36社、家族との合 資企業は 1
4社、華
僑、華人との合 資企業は 2社、日本人との 合資企業は 4社である。個人 または家族の資 本は
はっきりと分け にくいので、分 家した後の個人 や独立家族は合 算する。人倫関 係を利用して創
業用の資金を調 達しやすい一一 日本での華人企 業の「差序格局 」もこのような 資本配置を反映
した 。これらの企業 はほとんど親類 と友人に主要な 管理技術職を任 せて、その職務 上の地位と
- 98-
日本華人企業文化の主な特徴について
給料は親疎関係によって並べてある。
3年)
0
0
2
"
"
1年 '
9
9
1
差序格局 J (
表 1 日本華人企業の 「
職
務
父親
母親
兄
姉妹
弟
合計
分
身
子女
親類
華僑
華人
中国人
日本人
日本留学生
7
34
7
22
1
1
3
取締役会長
8
2
3
社長(庖長)
6
6
4
常務マネージャー
2
0
1
2
9
1
1
1
29
9
2
取締役
4
8
1
3
1
3
29
47
27
5
3
2
2
1
8
1
0
1
2
1
6
1
8
3
1
3
1
2
30
1
2
2
1
1
1
1
3
6
7
30
取締役会長兼社長
2
1
副社長
2
22
2
6
部長
課長
2
3
5
9
8
20
6
8
1
表 1の中に、一部分は家族式企業で、例えば神戸宜興株式会社がそ うである。黄祖道先生が
理事長と社長を兼任し、奥さんと子女が別の職を担任している 。他の部分は、家族式企業で、
例えば神戸南泰株式会社がその一社である 。会社を創立した父親はもう亡くなったが、兄の鄭
藻仁が理事長と社長になり、弟四人がほかの主要な職を担当し ている 。つまり、子女と兄弟は
皆会社の株式を持っている。別の仕事を持っているとしても、 在学中としても、理事長などの
職を担当することもでき、暇な時手伝いすることもよくある。
したがって、疎遠関係の人は、そのような会社では良い職務と給料が貰いにくい 。中国人留
学生と新華僑を例として説明しよう。
働いたことのある、或いはいまは華人企業で働いている中国人 留学生と新
かつて華人企業で、
華僑 94名を調査したところ、ある人は上述した 56社の企業で働いているが、大部分の人たち
は、別の華人企業、主としてレストランなどのようなサ ー ビス業の華人企業で働いている 。
4年)
0
0
2
"
"
1年 '
9
9
1
表 2 留学人員、新華僑の日本華人企業での就職の経験と感想 (
番
ゴ
Eヨ
下
質
在留資格
来日後華人企業に
2 就職するまでにか
かる時間
不 メ口入
明 計
回答と回答の人数
問
就学生
留学生
就職者
日本人
配偶者
永住者
配偶者
7
3
29
3
1
7
3
3カ月以下
半年以下
1年以内
2年以内
2年以上
36
1
2
5
1
8
9
- 99-
3 94
5 94
愛知学院大学教養部紀要第5
6巻第 4号
3
華人企業で何カ月
仕事をしたか
4 華人企業での職務
5 企業主との関係
3カ月以下
半年以下
l年以内
2年以内
2年以上
1
4
3
39
4
3
臨時雇い
正式職員
課長
(庖長)
部長
理事長
78
8
3
関係がない
同郡(岡市)
中国で岡県、
岡市出身
同村出身
遠縁の親類
近親
72
6
5
4
6
日系企業と比べた当
会社での給料待遇
低い
大体同じ
高い
3
5
48
1
1
日系企業と比べた
7 当会社の人脈関係
について
劣る
6
8
企業主の自分に対
する態度
大体同じ
2
9
4
よい
47
親切感がな
親切感は明
らかではない
親切感があ
る
親切感が非
常にある
3
1
2
3
1
8
22
2 94
94
29
し3
4 94
1
8
94
94
多くの留学生と 新華僑にインタ ビ ューしたが5)、彼らが華人企 業で働いたこと があるかどう
かは別として、 ほとんどの人は 華人企業に不満 があった。一番 多かったのは、 華人ビジネスマ
ンはけち臭くて厳 しすぎる。表 2から見ればわか るように、留学 生と新華僑は、 華人企業に対
する評価が高く ない。ただ、次 のように詳しく 分析すると、そ れも情状酌量す べき、少なくと
もおのおの苦衷があることだろう。
1 約 40%の留学生特に就 学生は、日本に 着いたばかりで 、日本語がよく 分からないから 、
華人企業ヘ仕事 を探しに行くと いうのが最初の 選び方である。 華人企業にとっ ては、求職
に来た就学生た ちが多すぎるし 、選べる範囲も 広いので、市場 のルールによっ て、華人ビ
ジネスマンが留学 生や就学生に対し て特別に良い給料 を支払うことはな い。
2
留学生と新華僑 は、華人企業に 高い期待を持っ ているが、自身 の素質を正しく 評価するこ
とができない 。それに比べて 、華人企業から しても、日本語 も自由に話せな いほか、仕事
に専念する精神 も日本人より劣 っている。それ なのに留学生や 新華僑に厳しく せず、逆に
高い給料を支払う と、彼らにとって は将来的にむしろ マイナスになるだ ろう。
3 留学生特に就学 生は、経済面の 負担が重いので 、手段を選ばず に目的を達成し たがること
がよくある。例 えば、仕事を始 めたばかりなの に、すでによい 職場ヘ転職する ことを考え
ている。もし新 しい職場の給料 が今の職場のよ り少しでも高い ところがあれば 、すぐに転
職する。華人ビ ジネスマンは、 自分たちが日本 系企業との競争 に劣っている地 位にあり、
日本華人企業文化の主な特徴について
自分たちも難しい立場 に陥っていると思って いるので、支払う給料 をもちろんすべての日
系企業より低くなるよ うに設定している。転 職する可能性が高い就 学生などに、華人ビジ
ネスマンたちは良い待遇をするつもりはないのである。
4 いうまでもなく、企業の「差序格局 J の中に、留学生、新華 僑と企業との関係はと ても疎
遠な関係にある。表 2からも分かるように、親族と同郷が少ない。そのうえ、日本では、
22によると、在日中
2.
1
.
8
0
0
中文導報.ll2
留学生と新華僑が多す ぎる。在日中国人向け の r
1現在)に達
.
0
1
.
8
0
0
2
4万 2213人 (
5万人を超え、東京に在 住する中国人は最多の 1
国人は 7
0万人の在日韓国人の数を超えたことになる。
し、総数では約 6
儒家の「仁、義、礼、智、信」五徳が、儒家社会思想、の理論的基礎であり、人間の倫理関係
を示してきた。「差序 格局」或いは五倫関係 の理論基礎が正に儒家 の「五徳」の中の、特 に
仁 J は、倫理関係の中の基本的なものである。た だし、儒家は「差等性 」の
「 」にあたる 。 「
イ二
仁愛を強調し、親戚で もなければ友人でもな い赤の他人には同様の 仁愛が与え難い。費孝 通氏
団体格局』のような、 すべての人に適す
は、「中国伝統社会の『差序格局』は、西洋社会の r
る普遍的な道徳基準を 持っていない。その道 徳基準は個人的なもの で、相手と自分の関係 に
よって変わるのだ J6)。この「差序格局」は 一種の伝統習慣として 子々孫々伝わってきた もの
なので、日本の華人企業の中に普遍的に存在するようになった。
四、日本の華人企業文化の発展方向
近年、台湾経済界長老 の李国鼎教授は「第六 倫」、即ち、人と赤の 他人などとの関係を提 唱
している。アメリカの ウィスコンシン大学太 平洋地域研究センター の主任教授高希均氏は 、
第六倫』は大愛である 。現代社会は、いずれ も確かに第六
、 「
「もし「五倫』が小愛とするな ら
倫である大愛を提唱す べきだ」としている 7)。これは現代の「新儒 家」たちが大事にして いる
ものである。アメリカ の華人教授で「新儒家 」の杜維明氏が赤の他 人に対する仁愛を大々 的に
提唱し、「これがわれ われの『仁』が徐々に 広がる過程だ。この過 程は非常に具体的で、 且つ
非常に崇高な理想を有 している。「仁」の差 等性と「仁」の普遍価 値とを結合させなけれ ばな
らない})。杜維明教授はまた、儒家伝統が非常に豊かな資源を持っているので、少なくとも
普遍の愛を実現するた めに条件を提供できる と強く信じている。実 はこの資源はすでに存 在し
ており、例えば韓愈が 提唱した「ー視にして 同仁 J (Ii昌察先生集・原人.ll)がそうである 。
華人企業は、儒家学説 などの中華伝統文化を 広める中で、また日本 などの異なる企業文化 と
現代意識の影響により 、次第に家族式の管理 モデルから、人を大切 にする管理モデルへと 変わ
りつつある。人事管理 は企業文化の主要な組 織であり、人を尊重す ることを提唱し、人の 合理
101-
愛 知 学 院 大 学 教 養 部 紀 要 第5
6巻第 4号
的な要求を満足させ、人の情熱を奮い立たせて、最大限に人の積極性を動員して、人を企業の
最大の資本にさせる。現在たくさんの華人 ビジネスマンは採用、昇進、給料、福祉などの面に
おいて社員に対し「一視同仁」にするように努めている。表 1と表 2で分かるように、日本華
人企業の留学生と新華僑でも正社員として採用され、 一部が理事長、部長、課長の職をも担当
するようになった 。 まだまだ人数的に少ないのは、日本の華人企業はもともと数少ないからだ
ろう。
また、「差序格局」の改善がもちろん必要だが、中華文化の伝統性によって華僑華人が差序
格局を受け継ぐと同時に、優秀な中華文化をも伝承してきた。不足は多々あるが、長所を取っ
て短所を補っていけばよくなることができると考えられる。
五、おわりに
孟子日く、「何必日利,亦有仁義而己失(なぜ利益ばかり言うのか、大事なのは仁義、これ
だけだ )
l
)というのを実現するのは難しいが、しかし、「窮則独善其身,達則兼済天下(貧窮
したときには ただひとりそ の身を修養し 、栄達したと きには、天下 をも善に導く のだ)J10)。
「イ二」の 差等性 と「仁」の「 普遍性」と結 合することで 新しい風習に なっていくの であろう 。
そして従来、社会の公益事業を重視する日本華人ビジネスマンは近年、社会に対する寄贈が増
える一方で、留学生と新華僑のために設立した奨学金、救済活動も多く増えるようになった。
そして、「取之社会,用之社会 J (社会から取りあつめ、社会に還元する)という中国儒家の美
徳は、現代の華人企業文化としていつまでも継承されていくものと確信している。
注
1)森嶋通夫著、 1
9
8
4、『なぜ日本は「成功」したか ?
J
J、TBSブリタニカ版
2) 費孝通著、 1
9
8
5年、『郷土中国』、中国三聯書庖
3)中根千枝著、 1
9
6
7年、『タテ社会の人間関係』、講談社現代新書
4) 説明:5
6社華人企業を調査した内訳はそれぞれ、 1
9
91
年"
"1
9
9
4年、研究代表者 の郭玉聡が神戸 華僑博物
館に客員研究員として在任期間中に、神戸中華総商会会長、神戸華僑歴史博物館館長陳徳仁先生、神戸華僑
総会会長林同春先生、神戸大学教授安井三吉教授の指導の下、神戸福建会館及び企業者林文章などの協力に
より、 4
8名の留学生と新 華僑にインタビ ューをして調査 した 3
6社の華人企業と、 1
9
9
5年中国帰国後に 、中
国教育部人文社会科学研究重点研究基地重大項目 (
0
6
J
J
D
8
4
0
0
2
3
) i華僑華人と当地民族関係の研究」の研究
代表者として担 当した際に 46名日本からの帰 国者及び日本か ら一時帰国した 新華僑にインタ ビューして調
査した 2
0社で、合計 5
6社である。
5)注 4を参照
-102-
日本華人企業文化の主な特徴について
7、『岡絡・信用及其文化背景』、中国経済史研究第 4期、経済研究雑誌社
9
9
6)陳街徳、 1
8年 9月、『世紀之交的海外華人』、中国福建人民出版社
9
9
庄国土など編、 1
7)部
0月、『第四座橋一一一跨世紀的文化対話』、新世紀出版社
9年 1
9
9
東著、 1
6年 8月、『儒家侍統与文明対話』、河北人民出版社
0
0
8)杜維明著、 2
1年 l月、『文明的衝突与対話』、湖南大学出版社
0
0
杜維明著、 2
J
9) 孟子、『梁恵王上 1J
J
J
) 孟子、「尽心上 9
0
1
付記
華僑華人と当地民族関係の
3)r
2
0
0
4
8
D
J
J
6
0
本稿は、中国教育部人文社会科学研究 重点研究基地重大項目 (
研 究」 の研究代表者である慶門大学東南亜研 究センタ ー南洋研究院教授郭玉聡と連携研究者 である愛知学院
大学教養部外国人教師朱新建の共同研 究としてまとめたものである。
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