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「ジェンダー言語文化学」プロジェクトのあゆみ

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「ジェンダー言語文化学」プロジェクトのあゆみ
Nara Women's University Digital Information Repository
Title
「ジェンダー言語文化学」プロジェクトのあゆみ
Author(s)
大谷, 俊太; 野村, 鮎子; 高岡, 尚子
Citation
大谷俊太, 野村鮎子, 高岡尚子 : 奈良女子大学文学部研究教育年報, 第
4号, pp. 19-21
Issue Date
2007-12-31
Description
奈良女子大学文学部研究教育年報 第4号 「特集1:ジェンダーと
言語情報」より
URL
http://hdl.handle.net/10935/3137
Textversion
publisher
This document is downloaded at: 2017-03-31T19:27:33Z
http://nwudir.lib.nara-w.ac.jp/dspace
奈良女子大学文学部研究教育年報
1
9
第 4号
「ジ ェ ンダ ー言 語 文 化 学 」 プ ロ ジ ェク トの あ ゆみ
太子子
俊鮎尚
谷村岡
大野高
プ ロジェク トの発足
の匿名性」 を開催 した。 いずれ も、 日本 アジア文化学
0
05
年、
「ジェンダー言語文化学」プロジェク トは、2
言語文化学科を中心 に立 ち上 げ られた ものであ り、言
講座の教員や学生 の間で ジェンダーと文学 とい う意識
を高めるきっかけとなった。
語や文学 に関す る分析、研究方法 に新 たな展開を可能
にす ると共 に、学生 自身が 自らを取 り巻 く環境 に対 し
研究の取 り組み
研究促進のためには、学内研究者の活動を支え るた
て新 しい視座を獲得す る機会を提供す ることを目的 と
めの文献収集や、学外研究者 との研究交流が欠かせな
している。
言 うまで もな く、 ジェンダー研究 は、男女共同参画
い。そのため、文献収集 とシンポジウムや講演会開催
社会の実現過程 にあ って重要 な理論的役割を果 た して
という二本の柱を設定 し、実際に活動を行 っている。
お り、特 に国立大学法人の女子大学である本学 にあっ
文献収集 について は、 ジェンダー批評関連書物 と、実
ては、女性のエ ンパ ワメ ン トにつなげてい くとい う観
際に分析 されるべ き作品で未収蔵の書物 を購入 し、研
点か ら強 く求め られ る研究 ・教育分野である。
究基盤の充実を図 っている。
本プロジェク トは発足か らまだ 日が浅 いが、初年度
2
0
0
5年、「ジェ ンダー言語学 プ ロジェク ト 第一回
か ら文学部長裁量経費 プロジェク トとして採択 され、
シンポ ジウム 『文学 における女性の職業』
」を開催 し
現在 まで、主 として研究 ・教育体制の整備を行 ってき
た。 この シンポジウムには学外か ら 3名の研究者 を招
た
聴 し、成 田美鈴氏 には 「
1
9
世紀 ガヴァネス小説 におけ
。
るガヴァネス像 の系譜」、劉小俊氏 (
同志社女子大学)
パォ
ムー
には 「
現代 中国文学作品 にみ る保栂 の境遇」、村 田京
プ ロジェク ト誕生 までの歩み
学部 プロジェク トとしての正式発足以前 にも、すで
子氏 (
大阪府立大学) には 「
娼婦の文学的肖像-1
9
世
に、 ジェンダーと言語文化 という枠組みで様 々な取 り
紀 フランス文学 における娼婦俊一」 というタイ トルで
組みがなされていた。
講演を していただいた。 このように、異 なる言語 ・文
まず、主 に英米の女性学関連書物の幅広 い収集 に力
学分野の知見 を集結す ることにより、単一分野での研
を注 いだ。2
0
0
3
年 には研究成果発表 として、 ヨーロッ
究だけでは得 られない刺激や理解が もた らされた こと
パ ・アメ リカ言語文化学講座、言語情報学講座 の英米
はもちろんであるが、同 じ 「
女性 と職業」 というテー
独仏文学分野の研究者 による論文 8編を収めた 『
外国
マを設定することで、それぞれの国において、社会的 ・
文学研究 』「文学 とジェ ンダー特集 」 (1) を、次 ぐ
文化的 ・歴史的な性のあ り方 としての ジェンダーが ど
2
0
0
4
年 には英米仏文学分野の論文 5編か らなる 『
外国
のように構築 されていたかを考察す るきっかけとな っ
文学研究』「
文学 とジェンダー特集」(2)を発行 した。
た
。
また、 日本 アジア言語文化学講座 においては、 ジェン
2
0
0
6
年 には 「ジェンダー言語文化学 プロジェク ト
ダー言語文化学 の可能性を探 るため、2
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0
3
年 には ジェ
連続講演会」 を開催 した。第一回は、講師 として中川
ンダー関連の講義を行 い、 さらに、2
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0
4
年 には奈良女
成美氏 (
立命館大学)を招 き、「
実践理論 としての ジェ
子大学国語国文学会主催の シンポジウムとして 「ジェ
ンダーー フェ ミニズム ・クィア ・文学-」のタイ トル
ンダー言語文化学の可能性-
で、 ジェンダーと文学 に関す る最先端の理論 について
日本文学 における女性
2
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「ジェンダー言語文化学」プロジェクトのあゆみ
お話 いただいた。第二回は、風 呂本惇子氏 (
城西国際
また、 日本 アジア言語文化学講座が提供す る既設の
大学) を招聴 し、「グー ドゥ-の女神 たち-- イチ系
授業科 目において も、積極的にジェンダーをテーマと
移民女性作家の作品を通 して-」についての講演を し
す る内容の講義 を行 っている。2
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4
年 には 「
言語文化
ていただいた。 ジェンダー研究を進めるにあたって、
表現論特殊研究 Ⅰ」に白水紀子氏 (
横浜国立大学)杏
批評理論の推移 を知 り、実践 に活かすための方法を理
招 き、中国文学研究 にジェンダーの視点を導入す る有
解す ることは不可欠なプロセスである。 また、 ジェン
効性 につ いて論 じる授業 を行 った。 さ らに、 同年、
ダー理論 には、従来の、主 に西欧思想 による二分法的
「
言語文化情報論講読 Ⅰ、 Ⅱ」松家裕子氏 (
追手 門学
世界認識の脱構築、および価値 においては低位 におか
院大学)担当の古典文学講読の時間で も 『
金瓶梅』か
れた側への視点の転換 と、そのように固定化 された構
ら当時の女性の精神生活を読み取 るという試 みを行 っ
造その ものへの批判的見地が含 まれている。 その点 に
ている。2
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6
年 には、 「
東 アジア文学史論 B」 におい
おいて、「-イチ系」「
移民」「
女性作家」 とい う、幾
て 「中国古典文学 と家族 ・ジェンダー」をテーマに、
重 にも周縁化 された存在への注視 は重要 な提言であっ
近年 の学際的な中国女性史 に関す る研究成果 を紹介 し
つつ、 ジェンダーの視点か ら中国文学、特 に古典 の読
た 。
研究成果論文 としては、2
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5
年 に高岡尚子が 「
1
9
世
みの更改を試み る研究の一端を講義 し、坂元 ひろ子氏
紀 フランス小説 に読む 『
女性 と結婚』-ジョル ジュ ・
(
一橋大学)が 「
言語文化表現論特殊研究 Ⅱ」 で 「モ
サ ン ドの初期作品を中心 に」を、2
0
0
6
年 には野村鮎子
ダンガール」をキーワー ドに、中国近現代史 における
が 「中国士大夫の ドメスティック ・バイオ レンス-出
ジェンダー問題 の表れ方 と都市文化の形成 との関連性
嫁の女の虐待死 と父の哀巽」を、共 に 『
奈良女子大学
について講義をお こなった。 これ らの授業において も、
文学部
受講生 は日本 アジア言語文化講座や言語文化学科 のみ
研究教育年報』 に発表 した。
な らず、他学科か らの聴講生 も複数含 まれていた こと
教育に関する取 り組み
は特記 しておきたい。
教育面 に関 しては、 まず授業科 目の充実 を目指 し、
2
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5
年度か ら毎年、プロジェク ト関連開講科 目を増設
している。
研究成果の発信
本プロジェク トでは、2
0
0
5
年以降毎年、プ ロジェク
2
0
0
5
年 に開講 した 「ジェンダー言語文化学概論」で
ト報告書を作成 し、 シンポジウムや講演会の内容 を詳
は、 ジェンダーと言語 ・文学 について学ぼ うとす る学
細 に紹介 している。 また、本年度 は文学部の公開講座
生 に向けての基礎的な講義を行 っている。 この授業の
として、初めて、 プロジェク トによる研究成果 を学外
受講者数 は、初年度 には1
0
名程度だ ったが、翌年 には
に向けて発信 した。全体 テーマとして 「
外国文学 にみ
2倍を越え、今後 さらなる増加が予想 され る。 また、
る 『父 と娘』- ジェンダーの視点か ら」 を設定 し、
受講生 の学科別比率 にほとんど偏 りが見 られない現状
第-回は、野村鮎子が担当 し、「
貞婦の父- ジェンダー
か ら、 ジェンダーと言語文化を考えるための講義が、
で読む中国文学」 というタイ トルで、 また、第二回 は
言語文化学科 に限 らず、広範囲の学生 にとっての基礎
高岡尚子が 『
父の娘』か ら 『
母 と娘』へ- ジェンダー
学問、 あるいは関心 の対象 とみなされていることが理
で読む フランス文学」 をテーマに、それぞれ、 ジェン
解 され る。2
0
0
6
年 に開講 した 「ジェンダー言語文化学
ダーで読 む文学 の方法 を論 じた。
「
演習」では、概論で示 した基礎概念 に、 さ らに複雑 な
ジェンダー批評 の理論 を加え、実際に文学作品を読み
今回の特集 について
解 くことを目指 している。 また、2
0
0
7
年度 には新 たに
今回の特集 は、 これまでの活動の中か ら生 まれた、
「ジェンダー言語文化学特殊研究 Ⅰ」を開講 し、言語
Ma
r
ga
r
e
tCa
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e
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i
s
hか ら読者へ一
斉藤美和 による 「
文化学科の構成員すべてがオムニバス形式で授業 を行
書 き、 出版 し、献呈す る有閑 マグムー」、吉 田孝夫 に
うシステムを試みている。 初年度の今年 は、欧米文学
よる 「
蜘妹 <女 >への洗礼 -J・ゴッ トへル フ 『黒 い
を研究す る教員が、児童文学 ・英文学 ・独文学 ・仏文
蜘妹』 におけるスイス村落共同体」、小山俊輔 による
学を ジェンダーの視点か ら講 じている。
「
崇高 とジェンダー」、高岡尚子 による 「ジョル ジュ ・
奈良女子大学文学部研究教育年報
サ ン ド 『ア ン ドレ』 を読む- フェ ミニズム批評 ・ジェ
ンダー批評か ら-」とい う 4編 の論文で構成 されてい
る。 斉藤 は英文学、吉 田は独文学、小山は仏文学 とい
うそれぞれの研究分野か ら、各言語文化 に表れ るジェ
ンダーの問題を考察 している。 また、高岡はジェンダー
とい う概念が もた らす ことにな った文学批評 の流れを
概観 し、実際の分析方法への応用 について論 じている。
今回の特集 は、欧米文化 ・文学 を扱 う論文 に特化 して
いるが、今後、言語学や 日本 を含むアジア文化 ・文学
に関す る報告 も順次行 ってい く予定である。
第 4号
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