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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅

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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅
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飽和ヘリウムバッファーガスを封入した低温アルカリ原
子気体セルの実現と光ポンピング( Abstract_要旨 )
畠山, 温
Kyoto University (京都大学)
2001-03-23
https://doi.org/10.11501/3182867
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
author
Kyoto University
⊂8
7】
氏
名
学位(
専 攻分野)
学
位記
番 号
はたけ
やま
畠
山
博
理
士
博
あっ し
温
(
理
学)
第 2278号
学位授 与の 日付
平 成 1
3年 3 月 2
3日
学位授与の要件
学 位 規 則 第 4 条 第 1項 該 当
研 究 科 丁専 攻
理 学 研 究 科 物 理 学 ・宇 宙 物 理 学 専 攻
学位 論 文題 目
飽 和 ヘ リウムバ ッフ ァー ガス を封 入 した低 温 アル カ リ原子 気体 セ ルの実
現 と光ポンピング
(
主 査)
論文調査委貞
努
教 授 鼓 峰
論
文
内
教 授 水 崎 隆 雄 ・ 教 授 大 兄 哲 巨
容
の
要
旨
冷却 しスピンを偏極 した中性の気体原子は様々な基礎研究で重要になって きた。原子 に熟達度 を小 さくし,長いス ピン媛
和時間を与えろ環境 を与えることがで きれば,同一原子のスピンを長時間観測することがで きるo このような原子 を用いれ
ば,物理学の基礎研究,例 えば原子の永久双極子モーメン トの測定精度 を格段の向上 をもたらし,それを通 して,理論的に
極めて小 さいことが予言 されている時間反転対称性の破れの検証 も可能になることが予想 される。近年,中性原子 にそのよ
うな環境を与える幾つかの方法が考案 され,研究 されている。 その一つは研究の対象 とする原子 を直接 レーザー光により冷
瓢 ・トラッピングする方法であ り,他の一つは対象原子に対 して低温ヘ リウム原子 を利用 して冷却する方法である。申請論
文は,後者 に属するものであるが,従来の方法 とは原理,方法 を全 く異にした,液体ヘ リウム温度 (
約 2K)でアルカリ気
体セルを実現する方法の提案七,その実現のための基礎研究に関するものである。
低温ヘリウムを利用 した研究は,研究の対象 とするアルカリ原子等 を超流動状態の液体ヘ リウムに注入する研究が端緒 と
なった.液体ヘ リウム中に原子 を注入する方法 として,固体試料 をパルスレーザー光でス ッバ ッターする方法が有力で,原
かし,この液体ヘ リウム中で原子生成は,クラスターも大量 に生成 され,これが液体ヘ リウムに大 きな対流 をもたらす とい
う大 きな欠点を持 っている。 更に,生成 された原子のスピン緩和時間が 1秒以下で,当初予想 していたようには長 くないこ
とが最近わかってきた。
本研究では,低温ヘ リウムを利用 して,低温下でアルカリ気体原子 を長時間ガラスセル中に閉 じ込めてお くという従来に
ない斬新な方法の提案 と,この低温アルか J原子気体セルの実現に向けた基礎研究に関するものである。この研究で使用す
るセルは,アルやり金属 と高密度のヘ リウムガスで (
室温で数気圧)を封入 し,それをクライオスタットで液体ヘ リウム温
皮 (2K 以下)にまで冷却 させた ものである。 このような低温ではアルカリ原子は壁面 に吸着 し,セルの中には気体原子
は全 く存在 していない。申請者がまず行なった研究は,ヘ リウムガスに大 きな擾乱 を与えずに気体アルカリ原子 をセル内に
生成する方法の開発である。光学的に原子 を生成する幾つかの方法を実験的に調べてみた結果,ヘ リウム-の擾乱 も非常 に
小 さい最良の,全 く新 しい現象 を見出 している。 セルの殆 ど透明な部分 に連続光を与えると,たとえ光強度が低 くて も壁面
から原子が大量 に放出される現象である。更に,原子生成の温度依存性 を調べた結果,原子の生成がセルの壁面が超流動ヘ
リウム膜で覆われていることが必要であることを見出 した.彼 はこの特異的な現象が どのようなメカニズムで生 じるかの研
究を行なっている。 原子生成の光の準長依存性から,原子は壁面に存在するアルカリクラスターの表面プラズモン共鳴によ
る非熟的な脱離過鐘 によるものであることを明 らかにした。また壁面 における超流動′
ヘ リウムの存在は,クラスターから光
により脱離 したアルカリ原子 をセルの内部 に連続的に輸送する重要を役割 をしていることを見出 しているO 光の照射 により
アルカリ原子の生成 と同時にヘ リウム膜 も熱せ られ,壁 をったっての超流動流 による供給 を受けなが ら連続的な蒸発 し,ヘ
リウムガスの流れ (
超流動駆動ヘ リウムガス流)を引 き起 こす。この流れにのって,脱離 した Rb康子は高密度のヘ リウム
T2
6
9-
ガス中へ効率良 く輸送 される。 アルか )原子がいったんセル中に輸送 されると, この高密度のヘ リウみガスのために Rb原
子の壁への移動が抑 えられ,気体 Rb原子の長い寿命が達成 されるのである。 このようにして光学的にセル内に作 られてア
ルカリ気体原子の密度 はおお よそ 1
0
8c
m3で比較的高 く, また原子の寿命は1
0
秒以上で,この寿命 はヘ リウムガス中での拡
散 と壁面での凝縮 によることを示 している。
申請者は低温セル内で生成 されたアルカリ原子 に円偏光の レーザー光を用いた光ポシビングの実験 を行なっている。 光ポ
0
ンピングにより作 られたス ピン偏極の時間変化か ら,電子ス t
i
o
,
ンに対する緩和時間の詳細 な測定 を行い,それがおおよそ1
秒程度ある函 まそれ以上であ り,スピン緩和時間がほとんど原子の寿命で決 まるという結果 を得ているo また,原子衝突 に
0
1
9
c
m3) 存在するにも拘 らず6
0
秒以上 とい う極めて長いことが示 さ
ょる緩和時間はヘ リウム原子が高密度で (
おお よそ 1
れている。
以上の ように本研究では新 しい原理方法 により,いわゆる液体ヘ リウム温度でアルか Jガスセルを実現するとい う斬新 な
研究である。 その結果,従来のガスセルでは実現不可能な,気体原子の寿命,電子スピンの緩和時間とも1
0
秒以上が得 られ
るようになった。同一原子 を長時間観測で き,磁気共鳴の分解能 も飛躍的に高分解能 とな り,ス ピン、
に関連する基礎物理学
に最適 な環境 を原子 に与 えることに成功 している。
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
中性気体原子 を低温 にまで冷却 し,熟達度 を大 きく低減 させ ることは種々の基礎科学において重要になって きた。更に,
冷却 された原子 にそのス ピン緩和時間を長 くする環境 を与 えることは,極めて高い精度でス ピンの観測が可能 とな り,原子
の永久電気双極子モーメン トの精密測定等,基礎物理学 にとって重要である。 本研究は,中性原子 にそのような環境 を与 え
るために低温ヘ リウムを利用 して,低温 (
約 2K)にいて もアルカリ原子 を比較的長い時間気体の ままで存在 させる,いわ
ば低温 アルか ノ原子気体セルを初めて実現 させる研究である。 この研究は,近年盛んに行なわれている液体や固体ヘ リウム
中へ注入 した原子 ・分子の研究の延長線 にあると言えるが,実現 された低温セルは,中性原子 にこれまでにない全 く新 しい
環境 を与 えるものであると言 える. 原子物理学の種々の基礎研究において従来利用 されてきたアルか )気体セルは室温以上
の温度で用い られているが,液体ヘ リウム温度にし, さらにこれ らの原子のス ピン嬢和時間を従来 に比べ大幅に向上 させた
点が本研究の特徴である。
申請者が提案 し,実験 を行 った低温気体セルは,壁が超流動のヘ リウム膜で覆われてお り,気相 には高密度の飽和ヘ リウ
実験では主 として Rb
ムガスが液体ヘ リウムとの平衡状態で存在 している。 そのヘ リウムガスの中にいかにアルカリ原子 (
原子)を生成 させるかが大 きな問題であった。本研究では,申請者が見出 した,1
0
m
甲 サイズのクラスターか ら光誘起原子
典型的密度 1
0
8c
m3) 生成 した。 この現象 は熟的な過程でないため,原子生成時にヘ リウム気体 に
脱離 によって Rb原子 (
c
m程度の大 きさのセル中で,1
0
秒程度の
大 きな流れ誘起 させない とい う利点 を持 っている。 生成 された気体 Rb原子は,2
寿命 をもって存在 させ るものである。 このセルの実現 により,液体ヘ リウム温度のヘ リウムガス中でのさまざまな新 しい実
験が可能になる。
申請者は,低温セル中で生成 された Rb原子 に対 して光ポンピング実験 を行 っている。 円偏光 レーザー光,
によ りRb原子
を偏極 し,その電子ス ピン縦横和時間の精密測定 を行 っている。 その結果,Rb原子のス ピン贋 和時間は原子のほぼ寿命
(1
0
秒以上)であること,ヘ リウムガス中での衝突緩和時間は高密度 (
おおよそ 1
0
1
9
c
m3) であるにも関わ らず6
0
秒以上 に
連 していることを明 らかになった。 これはこれまで実現 されていたアルカリ原子の緩和時間が 1秒以下であったことを考 え
ると,革新的な成果であるといえる。
低温セル実現のか ぎとなった光誘起原子脱離 ローディング法 は,注 目すべ き特徴がある。比較的弱い C
W レーザー光の
照射で,透明なガラスセルの壁面か ら,多 くの Rb原子が脱離する。 さらにこの方法は,セル中のヘ リウムが超流動 になる
温度以下で非常 に効率が良いOこうした現象 も含めたこの低温セルの物理,つ まりどの ようなメカニズムで気体 Rb原子が
ローディングされ,_どの ような機構で失われてい くのか, を本研究で明 らかにしたOセルに光が照射することによって,女
リウムガス中に放出 されるO 十方, この壁でめ凝縮が気体 Rb
ル壁面上の kbクラス ターか ら Rb原子 は脱離 し,壁際の^/
原子の最大の損失原因であ り, このままでは Rb原子はす ぐに失われて しまう.。 しか し,光の照射 によりヘ リウム膜が熟せ
\
- 2
7
0-
られ,壁面上の超流動流による供給 を受けなが ら連続的な蒸発 をすることによって,ヘ リウムガスの流れ (
超流動駆動ヘ リ
J
原子は高密度のヘ リウムガス中へ効率良 く輸送 されるo そ して
ウムガス流)を引 き起 こすOこの流れにより,脱離 した Rb
Rb原子がいったんセル中に輸送されると, この高密度のヘ リウムガスのために Rb原子の壁への移動が抑 えられ,気体 Rb
原子の長い寿命が達成 されるのである。
以上の申請者は,新 しい原理 ・方法により,′
いわゆる液体ヘ リウム温度でアルカリガ玄セルを実現するという独創的な研
究 を行 っている。 この研究の中では,弱い光による表面プラズモン共鳴によりクラスターか ら高効率で原子生成現象や,セ
ルの壁面に存在する超流動ヘ リウム輝 の存泰 による原子輸送現象など新たに見出 した。これ らの現象を利用 して,従来のガ
スセルでは不可能であった,気体原子の寿命,電子スピンの綾和時間とも1
0
秒以上が得 られるようになった。同一原子 を長
時間観測でき,磁気共鳴の分解能 も飛躍的に高分解能 とな り,スピンに関連する基礎物理学 に最適な環境 を原子 に与えるこ
とに成功 しているOまた,原子分子 に新 しい環境 を与えるとい う面で,今後,原子 ・分子物理学,低温物理学,量子エ レク
トロニクスなど多 くの研究分野への貢献 も大 きい と思われ,高 く評価できる。 この研究は既 に学術誌や国際会議などを通 し
て世界的にも注 目されている。
よって,本申請,論文は博士 (
理学)の学位論文 として充分な価値 を持つ もの と認める。
なお,主論文に報告 されている研究業績 を中心 とし,これに関連 した研究分野にていて試問 した結果,合格 と認めた。
-2
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