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トランスジェンダーをいきる(16)

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トランスジェンダーをいきる(16)
トランスジェンダー
をいきる
(16)
「自己物語の記述」による男性性エピソードの分析
牛若孝治
2 つの「障碍」のハザマで
1
始めに
鍼灸 マッ サー ジ 師 免許 取得 後 、 1 年 間 の 理療 科教員 要請 過程 の勉 学 を 経た 後、 2 年 間 の イン タ
ーン 生 活 が 始ま る 。ある とき 、行 きつ けの 喫茶 店で、当時 付き 合っ てい た 男 と 口 論し てい たと き 、
思 いが けな く心 理 カ ウン セラ ー の 女性 と出 会 う 。阪 神 ・淡路 大震 災 か ら 3 ヵ 月後 に、神戸 の鍼 灸
マッサ ージ 治療 院に 就職 した 後 も 、心 理 カ ウン セラー の彼 女と の 電 話 で の 交 流 が 続く 。彼 女 と の
いろい ろな 議論 を重 ねて いく うち に、社会 的 に 構築 さ れて いる 男ら しさ・女 らし さを 創傷 して「 ジ
ェンダ ー 」 とい う概 念 を 知 り 、 体 の性 別 と 心理 的・社 会的 な性 別 が 不一 致で ある こと に改 めて 向
き 合わ され 、その 現象 を 、
「性同 一性 障碍 」と いう概 念 を 知る こと とな る 。そ こで 当時 、視 覚 障碍
と 性同 一性 障碍 との ハザ マで 、 何 を思 考 し 、現 在 に至 って いる かに つい て記 述 す る。
2
心 理 カウ ンセラーとの 出会 い
鍼灸 マッ サー ジ の 免許 取得 後 、 1 年 間 の 理療 科教員 養成 課程 の勉 学 を 終え たあ と、 イン ター ン
として 就職 して いた ある 日 、 いき つけ の 喫 茶店 で 、一 人 だ け異 様 に 声の キー が高 い女 性 が 出入 り
してい た 。 その 人が 、心 理 カ ウン セラ ーで ある ことが わか った のは 、私 がそ の喫 茶店 で、 当時 付
き 合っ てい た男 と口 論 に なり 、 仲 裁に 入っ てく れたこ とが きっ かけ であ った 。
当時 、 喫 茶店 で口 論 に なっ た 男 は、 声や 話し 方 が女 性性 の高 かい 雰囲 気だ った ので 、筆 者 の 好
みの タ イプ であ った のだ が 、 その 男に 彼女 がい ると知 った とき 、筆 者 は おも いっ きり ショ ック を
受 けた 。 と 同時 に、 気持 ちが 男 で ある と自 覚 し ていた 筆者 は、 やは り彼 との 恋は 実ら ない 、と 知
りつつ も 、日に 日 に 彼へ の 嫉 妬心 を強 めて いき、逃 げる 彼を 追い かけ るよ うに して 交際 を迫 った 。
そんな さな かの 彼と の 口 論 は 、 周 囲か ら 見 ても 異様 な 雰囲 気を かも し 出 して いた だろ うと 、今 に
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なって 懐 か しく 思い 出さ れる 。
とこ ろで 、彼 と筆 者 の 口論 の 仲 裁に 入っ てく れた 高 いキ ーの 女性 の第 一印 象 は 、と にか く 声 の
キー が 異様 に高 かっ たの で 、 高 い 女性 性を 連想 させた 。そ のた め筆 者 は 、最 初 の うち は、 彼女 と
の 接触 を 拒 絶し てい た 。
しかし 、彼 女 と 会う 回数 が増 える につ れ 、 いろ いろな 話を して いた ある とき 、筆 者 は いつ の 間
にか 、 既存 のジ ェン ダー 、 特 に 、 自己 への 社会 的・文 化的 な「 女ら しさ 」を 押し 付け られ るこ と
への 不 満 を 話題 にし てい た 。 筆者 のそ のよ うな 話題 に 彼女 は共 感 し 、自 分 が 心理 カウ ンセ ラー で
あるこ とを 明か して た 。 そし て 、 彼女 自身 も、 既存 の ジェ ンダ ー役 割 へ の 疑 問 を 持っ てい るこ と
を 吐露 して くれ た 。 それ 以降 、 彼 女と 筆者 との 間 で、 ジェ ンダ ーの 話題 で意 気投 合し た 。 彼女 と
の 出会 いが 、後 に後 述す るよ うに 、「 性別 違和 感」 の正 体を 明 らか にし 、約 12 年間 、筆 者 の 友人
として 、 こ の「 性別 違和 感 」 につ いて 議論 し合 うこと にな る。
3
衝 撃 的な 言葉 に説得 と納得
① 「 性 別 違和 感 」 に 付 与 さ れ た障 碍 名
阪神 ・ 淡 路大 震災 が発 生 し た 1995 年 3 月 、 インタ ーン が 終 了し 、同 年 5 月か ら 、 最神 戸 の鍼
灸 マッ サー ジ治 療院 に勤 務 し た 。その 勤務 の傍 ら、筆 者 と 心理 カウ ンセ ラー であ る彼 女 は 電話 で 、
「 性別 違和 感」 につ いて 議論 した り、 京都 で会 ったり して いた 。
そんな ある 日、 筆者 がい つも のよ うに 女性 性を 押し 付 けら れる こと への 違和 感を 話題 にし たと
き 、 彼女 か ら 衝 撃的 な 言葉 を 聞か され た 。「 あ な た の よ う に 、 体 の 性 別 と 自 分 が 認 識 し て い る 性 別 が 一 致
し な い 人 の こ と を 、「 性 同 一 性 障 碍 」 っ て 言 う の よ 」。
この 言葉 は、
「衝 撃的 な障 碍名 」と して 、当 時 の筆 者 の 前に 立ち 表れ た 。す なわ ち 、今 ま で 抱い
ていた 「 性 別違 和感 」は 、 そ のま まそ っく り「 障碍名 」と して 証明 され たと 感じ たか らで ある 。
② 2 つ の 「 障碍 」 の間 に ある 質 の違 い
その 一方 で、
「性 同一 性障 碍 」とい う言 葉に 対して 、以 下 の よう なこ とに も気 づか され 、シ ョッ
ク を受 けた 。
筆者 の 場 合、生来 の「 視覚 障碍 」は、自己 の自 覚 に関 わら ず、
「身 体障 碍 」と して 認識 して いた 。
したが って 、こ の 場 合 の 「 障 碍 」 とい う言 葉 に 関 して は、 比較 的自 然 な 形で 需要 する こと がで き
た 。し かし、 もう 1 つの 生来 の「 性 別違 和感」 を「性 同一 性障 碍 」と して 提示 され た場 合 、そ こ
には 自 己 の 自覚 が多 分 に あり 、悩 んで いた が 、それを あえ て「 障碍 」と 提示 され たこ とに よっ て 、
「 視覚 障碍」 と 「性 同一 性障 碍」 の 2 つの 「 障 碍 」の 間に質 の違 いが ある こと にい やお うな く 気
づかさ れた 。こ の 2 つの 「障 碍 」 の 間の 質の 違 いとは 、 両 者の「 障碍 」 の間 に注 がれ る社 会の 側
のまな ざし の相 違 で ある 。 す なわ ち、 視覚 障碍 に 対し ては 、差 別 や 排除 のま なざ しが ある とは い
え 、比 較的 厳格 さは 少な いと 思 わ れる 。こ れに 対 して 、性 同一 性障 碍の 場合 、い くら 「障 碍 」 と
提示 し てみ ても 、視 覚障 碍 と は 異 なり 、身 体 の 領域 に よる 性差 の厳 格 さ と 、 ジェ ンダ ーの 領域 に
よる 性 差 の 厳格 さと い う 2 つの 厳格 さに よっ て 、視覚 障碍 より 差別 と 排 除の まな ざし が 強 いと い
うこと であ る。 さら に、 視覚 障碍 の場 合 は 、白 杖 の携 帯 や 行動 ・文 字情 報 の 制限 など 、機 能障 碍
による 制限 や社 会的 に不 利 な 扱 い を受 けて いる ことが 表面 化し やす い 。 これ に対 して 、性 同一 性
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障碍 の 場合 は、 身体 に何 らの 障碍 も認 めら れな いので 、日 常生 活へ の 直 接 の 困難 が本 人 に しか わ
からず 、ま して 性別 違和 感な ど 口 にす るこ とも はばか られ る傾 向 に ある 。こ のた め 、
「障 碍」と 提
示 して も、 なか なか 表面 化し にく い。 した がっ て 、筆 者 の 場合 は、「 視 覚障 碍」 は表 面化 して も、
「 性同 一性 障碍 」は 「視 覚障 碍 」 に回 収 さ れ 、 なかな か 表 面化 しに くい こと に 気 づか され た 。 こ
のため 、
「 視覚 障碍 」よ り障 碍 の 質が 重度 であ ること に気 づか ざる を 得 ない 、と いう 状況 が、当時
の 筆者 を 困 惑さ せた 。
③ 新 た に 知っ た 、「 トラ ン スジ ェ ンダ ー」・「ト ラ ン スセ ク シュ ア ル 」 と いう 言 葉
その よう な「 障碍 の質 の 違 い 」 に戸 惑 い つつ も 、生 来 か らの 性別 違和 感 を 「性 同一 性障 碍」 と
いう 疾 患名 とし て納 得 し た 。 そし て、 自ら 女性 である こと への 違和 感に つい て 、 心理 カウ ンセ ラ
ー から あら ゆる 角度 で質 問 さ れた 結果 、次 のよ うなこ とに 気づ かさ れた 。
乳房 のふ くら みや 生理 ・ 声 の 高 さ、 ある いは 女子 ト イレ や女 子更 衣室 使用 の際 の苦 痛 な ど 、 身
体 レベ ルで の違 和感 もさ るこ とな がら 、女 性の 友達よ り 、男性 の友 達 の 方が 付 き 合い やす いな ど 、
社会的 ・ 文 化的 に構 築 さ れた 女性 ジェ ンダ ー へ の 違和 感の 方が 顕著 に現 れて いた 。そ こで 、当 時
の 筆者 の 認 識と して 、ジ ェン ダー レベ ルで の 性 別違和 感 の 強い 現象 を「 トラ ンス ジェ ンダ ー 」、身
体 レベ ルで の性 別違 和感 が 強 い 現 象を 「ト ラン スセク シュ アル 」と いう 言葉 も同 時に 知っ た 。
1995 年 当時 、「 性同 一性 障碍」 とい う言 葉 は 、 社会 的に まだ 認知 され 始め たば かり であ った 。
この た め 、 一般 的に 浸透 して いる とは いえ なか ったが 、心 理カ ウン セラ ー と のこ のよ うな 話し 合
いによ って 、
「 性同 一性 障碍 」と いう 言葉 が、当時の 筆者 の 認 識 と して 、生 来 の 性別 違和 感 を 自己
証明 す る 上 で納 得 し 、他 者 へ の 説 明に 関し ても 説得力 を持 つの では とい う 安 堵感 を覚 えた 。
④情報収集
この やり とり 以後 、メ ディ ア や 書籍 によ る情 報収集 を行 い、 その 都度 心理 カウ ンセ ラー と議 論
するこ とに なる 。
( 1)MTF 歯 科 医師 の 苦悩 へ の 共 感
1998 年の ある 週末 の 深 夜番 組で ある。私と は 逆 の MTF トラ ンス ジェ ンダ ー(身 体 は 男性 ・ジ
ェンダ ー は 女性 )の 歯科 医師 の エ ピソ ード が報 道 され てい た。 そこ には 、歯 科医 師の 女性 性の 高
い 話し 方 や 行動 様式 のひ とつ ひと つに 対す る 、 女性看 護師 から の突 き刺 さる よう な視 線 に 苦悩 す
る 様子 が 描 かれ てい た 。 視覚 に 障 碍の ある 筆者 は 、直 接 そ の場 面 の 映像 を見 るこ とは でき ない の
だが 、 歯科 医師 の語 りの 内容 や 声 の雰 囲気 から 、 その 苦悩 が手 に取 るよ うに 伝わ って きた 。
医療現 場で は 、 身体 の性 別 が 重視 され る。 この ため 、 ジェ ンダ ー の 性別 との 不一 致へ の 配 慮 や
考慮 は ほと んど なさ れて いな い 。 この こと は 、 筆者 の 普段 の日 常生 活 や 鍼灸 マッ サー ジの 仕事 を
通 して の体 験か らも 明ら かに なり 、改 めて 医療 現場で の 性 別に 対す る 厳 格 さ をま ざま ざと 見せ 付
けられ たよ うな 思い であ った 。
また 、 歯 科医 師自 身の 男性 の 身 体へ の 強 烈 な 違和感 にも 注目 した 。そ こに は 、 医学 的知 識 を 有
する 一 人 の 医療 者と して 、 こ の 局 面を どの よう に 受容 する かが 問わ れる 内容 であ った 。こ のこ と
は 、鍼 灸 マ ッサ ージ 師 で ある 筆者 自身 の 問 題 と も深 く 関わ った 。す なわ ち、一人 の医 療者 とし て、
自己 の 身体 を嫌 悪 す ると いう 感情 が「 忌む べき もの 」 とし て認 識 さ れた こと 、そ の「 忌む べき 感
情 」を 持 っ てし て、 医療 行為 をし てい るこ とへ の 罪悪 感が 垣間 見え た の であ る 。
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この ドキ ュメ ント をき っか けに 、筆 者 の よう に 「性 同一 性障 碍」 に悩 む人 がい るこ とを 知り 、
また 、治療 法と して 、精 神療 法(カ ウン セリ ング )
・ホ ルモ ン療 法 と 手術 療法が ある こと を知 っ た 。
しかし 当時 は、 社会 のま なざ しや 世間 体を 意識 してか 、治 療に 対し ては 消極 的で あっ た。
( 2)FTM トラ ン スジ ェ ンダ ー 当事 者 への 性 別適 合 手 術 の ニ ュー ス を 皮 切 りに「 治療 」の 2 文字
1998 年 10 月 、埼 玉医 科大 学 で 、日 本 で 最 初 の FTM トラン スジ ェン ダー への 性別 適合 手 術が
行 われ たニ ュー スを 視聴 した 。 こ のニ ュー ス は 当時 の メデ ィア をに ぎわ せた が 、 筆者 にと って は
朗報 で ある と同 時 に 衝撃 を 受 けた 。2001 年放 映の『 3 年 B 組 金八 先生 』のドラ マで 、性同 一 性障
碍 の生 徒 の モデ ルと なっ た 虎 井 ま さ衛 の NHK での ド キュ メン ト番 組 で は 、 米国 で女 性 か ら 男 性
への 性 別適 合手 術を 受け るた めの 資金 をあ らゆ る 手段 で工 面し 、手 術 を 実現 させ た内 容 が 語ら れ
ていた 。更 に 2002 年 3 月に は 、競艇 の 安 藤千 夏(女 子)選手 が、自ら 性同 一性 障碍 であ り、「 大
将 」と いう 男性 名に 変更 し 、 女子 選手 から 男子 選手へ の 移 行を 記者 会見 で発 表 し てい た。 これ ら
の 情報 を メ ディ アだ けで はな く 、 書籍 でも 確認 し 、し ば し ば「 点字 の男 読 み 」で 一夜 を明 かす こ
とも 多 かっ た。
この よう な情 報収 集 を 通 じ て 、筆 者 の 脳裏 に 浮 かび 上が った のは 「 治療 」の 2 文 字で あり 、手
術 の必 要性 への 将来 像で あっ た 。 すな わち 、ど の 時点 で「 治療 」に 踏み 切る か 、 どの 段階 で「 手
術 」を 決行 する かと いう 人生 設計 図 を 描く よう になっ た 。 しか し、 決し て 自 暴自 棄に なっ たわ け
ではな く 、絶 えず 心理 カウ ンセ ラーと のや り 取 りがあ った 。「 確 か に 、 性 別 に 違 和 感 に 苦 し む の は わ か
るけ ど、今(当 時の こと )は 無理 や り、 ホル モン 療 法や手 術療 法ま で しな くて も。あな た の場 合は トラ ン ス ジ
ェン ダー だか ら 、ホ ルモ ンを 打つ に して も、 手術 す る にし ても 、も う ちょ っと 考え ても い いん じゃ ない の ? 」
というのが彼女の意見であった 。
FTM トラ ンス ジェ ンダ ー の 色が 濃い 筆者 に とって の ホ ルモ ン 療 法 や 手術 は 、必 要性 はあ っ ても 、
すぐに 決行 しな くて もよ い 環 境 が そこ にあ った 。 それ は、 この 話題 に対 して 、常 に心 理 カ ウン セ
ラー と の 対 話や 議論 がス ムー ズ に 行わ れて いた からで ある 。
( 3) 特 例 法施 行
心理 カウ ンセ ラー も、 情報 収集 に協 力 し てく れた 。 2004 年 4 月 、「 性同 一性 障碍 の性別 の取 り
扱 いの 特例 に関 する 法律( 以下 、
「特 例法 」と 表記 )が 施行 され 、性 別適 合手 術を 終え た 人 た ちへ
の 戸籍 の 性 別変 更が 認め られ た 。 この こと につ いても 、彼 女と の 論 争 に なっ た 。 すな わち 、ホ ル
モン 療 法 や 手術 の方 向性 を 模 索 し てい る筆 者 に 対 して 、彼 女は あく まで 冷静 に、 トラ ンス ジェ ン
ダー の 色 が 強い こと を 主 張 し 、 手 術を 思い とど まるよ う 、 筆者 を説 得 し 続け た 。 筆者 と心 理 カ ウ
ンセラ ー と の議 論 は 、一 見平 行線 のよ うな 議論 に 見え ても 、そ こに は 双 方 の 歩み 寄り を 意 識 し た
率直 な 関係 性の 下で 行わ れた 議論 であ った 。こ のため 、切 羽詰 った ムー ドに なら なか った のが 幸
いした 。
心理 カウ ンセ ラー との 議論 の 結 果、また 人生 設計図 を 描 き直 した 。す なわ ち、
「両 親 の どち らか
が 他界 して から 」と いう 時期 区分 を設 け、 この 時点 で は 、 限ら れた 資源 の中 で、 男と して の リ ア
ルライ フ 構 築、すな わち 、服 装 や 髪型 など 、今す ぐにで きそ うな 男と して の 日 常生 活を 送る こと 、
を 念頭 にお いた 生活 を継 続 す るこ とで 、心 理 カ ウンセ ラー との 「性 別違 和感 」の 件に つい ての 議
論 はい った ん終 止符 を打 つこ とに なっ た 。
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4
終 わ りに ―― 「視覚障碍」 と「性別違和感(性同一性障碍)」とのハザマ で
「僕 にと って はね 、視 覚障 害 よ り、 性別 違和 感 の方 が、 障碍 とし ては 重度 なん です よ」。
2014 年 4 月 のあ る日 、筆 者 は 病院 の面 談質 で、ケ ース ワー カー に訴 える よう に 言 った。
「も し 、
僕 が何 らか の病 気 で 入院 する とな れば 、僕 の性 別違和 感 へ の配 慮 は して いた だけ るの です か ? 」
という 相談 をし てい たと きの 一幕 であ る。
「視 覚障碍 より 、性 同一 性障 碍 の 方 が 、障 碍 と して は 重
度 であ る」とい う感 じ 方 は 、1995 年当 時、2 つ の 障碍 のハ ザマ で思 考 し たこ とと 同じ であ る。た
だ 、現 在変 化し つつ ある のが 、
「 むし ろ、社会 の側 に「障 碍 」があ る 」とい うこ とだ 。つ まり 、視
覚障碍 であ れば 、社 会 の 側 が 公文 書の 点字 や録 音 デー タを 用意 して いな い 、 性同 一性 障碍 であ れ
ば 、社会 の側 が 男 女と いう 2 つの 性別 しか 用意 してい ない 、それ ばか りか 、い ろい ろな 書類 の 記
載欄 に 「 性 別」 が設 けら れて いる こと 、な ど 、 社会 の 側に 「障 碍 を 問う 」と いう 姿勢 であ る。 既
存 の社 会 の あり 方を 問い 直 し 、 そ の問 いを 社会 に 還元 して いく こと で、 筆者 の「 障碍 観」 が少 し
ずつ 変 化 し てい くの では ない だろ うか 、と いう のが 、 筆者 の現 在 の 「 2 つ の 障碍 」と の 向 き合 い
方 であ る。
牛若孝 治( 立命 館大 学大 学院 先端 総合 学術 研究 科 )
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