...

立命館大学 学外研究成果報告書

by user

on
Category: Documents
40

views

Report

Comments

Transcript

立命館大学 学外研究成果報告書
(様式9)
立命館大学 学外研究成果報告書
2012 年
4月
20 日
立命館大学長 殿
所属: 産業社会
学部/研究科 職名: 教授
氏名: 伊東 寿泰
印
このたび学外研究を終了しましたので、下記のとおり報告いたします。
所属長承認
印
研 究 課 題 ①ヨハネ福音書に関する文学的・言語学的研究 ②一神教思想と現代社会
申 請 区 分
滞在先国名
(複数ある場合は
全て記入してく
ださい)
研究期間
☑ 学部研究科人数・予算枠内
□ 学外資金・セメスターごと人数枠内
□ 国外のみ
□ 国内のみ
☑ 国外 2 ヵ月、国内 4 ヵ月
米国
南アフリカ共和国
2011 年
9月
□ 役職者別枠 □ 助教
26 日 ~ 2012 年
期
①
2011 年 9 月 26 日
3月
間
31 日 ( 6 ヵ月間)
滞在都市名
研究機関名
~ 2011 年 10 月 27 日 アメリカ・各都市
アメリカ・各都市
②
2011 年 10 月 28 日
~
2012 年 1 月 26 日 京都市
自宅
研 究 日 程
概
要 ③
2012 年 1 月 27 日
~
2012 年 2 月 26 日 南ア・ブルームフォンテーン市
自由州立大学
④
2012 年 2 月 27 日
~
2012 年 3 月 31 日 京都市
自宅
⑤
年
月 ~
年
月
⑥
年
月 ~
年
月
1.実施状況:研究方法や受入研究機関との関係なども含め、上記研究日程概要に即して実施した事柄を具体的に記述してください。
2011 年 9 月下旬から 2012 年 3 月末日まで 2011 年度後期学外研究をさせてもらった。今回の研究には以下のような
大きなテーマが 2 つあり、それに沿って米国と南アフリカ共和国(南ア)の 2 ヶ国を主に訪問した。又この 2 ヶ国を
訪問していない期間は、衣笠キャンパスの自分の研究室を拠点に、今回訪問箇所が多いのでその訪問準備・資料収集
や事後処理、及び研究資料読解、論文執筆や報告書作成等を行った。
① 一神教思想、とりわけキリスト教思想と現代社会の関係を読み解くための拠点と活動団体訪問(教会、創造博
物館、テーマパーク等):米国
② ヨハネ福音書に関する文学的・言語学的研究:南ア及び日本
最初に①の米国訪問について報告するが、これは一定の研究機関に滞在して研究するのとは違い、考察項目に従っ
て米国内数都市を訪問したものである。
私達が直面している現代社会の諸問題に対して、これまでも様々な角度から多くの調査・研究・提案がなされてき
た。しかし、唯物論的思想が優勢で、たとえ宗教思想が取り上げられても、多神教が優勢と一般的に言われる日本に
おいては、一神教の思想や文化がこれらの諸問題とどのように関わっているのかという考察が比較的に少ない。それ
は、現代日本にいる私達にはそのような考察や情報に触れる機会が少ないということでもある。しかし、今まで世界
を動かしてきた思想の一つである一神教思想と現代社会との関係を学ぶことは、今後も活路を求めて世界に出て行く
日本や私達にとって有益かつ重要なことであり、新たな知的刺激となりうる(指摘するまでもないが、その影響は、
政治・経済・哲学・教育・医療・福祉・文学・音楽・絵画・メディア・スポーツ・エンターティナメント等、現代社
会のあらゆる分野に見ることができる)。そこで、一神教思想の中でも、とりわけキリスト教思想に関連したり、影
響を受けている現象・諸問題を調査・研究するため、米国におけるキリスト教思想と現代社会の関係を読み解くため
1
(様式9)
の拠点とキリスト教活動団体への訪問を今回以下のように実施した。
1)
Orland: キリスト教思想とエンターティナメント産業との関係を考察するため、Disney World と Holy Land
Experience を訪問した。当初予定していた Northland Church へは交通の関係で訪問できなかったので、Holy Land
Experience に変更した。
2)
Washington: キリスト教思想と米国の歴史との関係を考察するため、White House、Smithsonian Institution、
特に National Museum of American History 等を訪問した。
3)
Cincinnati: キリスト教思想と教育文化施設との関係を考察するため、進化論に対して創造論を啓蒙する
Creation Museum(創造博物館)を訪問した。
4)
Buffalo: キリスト教思想と国立公園施設との関係を考察するため、Niagara Falls を訪問した。
5)
Las Vegas: キリスト教思想とエンターティナメント産業との関係を考察するため、この都市を訪問した。
6)
Hawaii: キリスト教思想とリゾート・コミュニティとの関係を考察するため、Honolulu を訪問した。また当
地にあるマキキ・キリスト教会を訪問すると共に、当地の大学で教鞭を取る Dr. H. Cabral と意見交換をした。
次に②に関する南ア訪問について報告する。南アは米国ほど日本人に馴染みのある国ではないので、国と滞在都市
について簡単に紹介する。
学外研究の大きなテーマの 2 番目を実施するにあたり、
南アの地理的中心にブルームフォンテーン市が位置するが、
今回そこにある自由州立大学を訪れた。南アはアフリカ大陸屈指の経済国で、金・ダイヤモンド等の素材製品やマグ
ロ業、また工業製品等を通しても意外と日本との繋がりが深い国である。最近は、2010 年にサッカーワールドカップ
を開催して国際的な注目も集めた。今も尚アパルトヘイト体制崩壊後からの回復に力を注いでいるが、お世辞にも治
安が良いとは言えない。ではなぜそのような南アの研究機関を選んだかと言うと、私の専門分野の一つである聖書学
が今も盛んで欧米に劣らず進んでいること、また自由州立大学は 10 年以上も前に私が博士課程を修了した大学だから
である。この南アは、長い伝統を持つヨーロッパの堅固であるが故に変化を嫌う神学的学問状況とは違い、進取の方
法論や成果を受け入れやすい学問的土壌があり、多くの研究者も輩出している。この自由州立大学の神学部もその例
に漏れず、また聖書学関係の研究資料(蔵書)の豊富さは日本の大学とは比べ物にならないほど充実しているからで
ある。
今回訪問時の印象は、前回 2005 年に来た時以上に学内教育施設も学外の商業施設も拡充して、廃れ始めている郊外
に比べて、この大学周辺は活気に満ちていた。国内全体の発展に伴い、インフレが激しく、毎年 5%以上で物価が上
昇しているそうで、食糧・日用品等を買うとそれを実感せざるを得なかった。
さて訪問先の自由州立大学神学部では、学部長が学部教員全員やスタッフに、私が短期研究のため客員研究員とし
て来訪していることをメールや会合等で知らせてくれたので、スタッフもいろいろと便宜を図ってくれて、出身校の
アットホームな雰囲気の中で研究を進めることができた。おそらくこの学部唯一の日本人卒業生で、現在(産業)社
会学部で大学教授として教鞭をとっているという珍しさも手伝って、歓迎されていたようである。
又感謝なことに、約 1 ヶ月の滞在期間中、学部棟教員研究室の一室を用意してくれたので、そこを主たる研究実施
場所として使用できた。研究室には、デスク等は勿論、デスクトップ PC、プリンターや電話も用意してくれていた。
ただ電話は、なるべく迷惑をかけないように、南ア国内用のプリペイドカードを安く買って自分の携帯を使用した。
訪問時の 2 月、こちらは真夏で太陽の日差しも強く温度も結構高くなるが、建物に入るとエアコン等はなかったが、
湿度が高くないので過ごしやすく問題はなかった。
宿泊先については、すでにこの大学が 3 万人以上の学生数を誇るため、キャンパス内の宿泊施設を利用できる余地
がないことを知らされていたので、前もって自炊のできるゲストハウスを予約し、そこに宿泊して研究期間を過ごし
た。片道約 2km ある大学との往復には、歩いて行く雨の日を除いて、知人が自転車を貸してくれたので、それを利用
した。
私がここに来た主な目的は、前述したようにヨハネ福音書に関する文学的・言語学的研究を進めるためであるが、
その中でも特に 2000 年にこの大学に提出した私の博士論文「Jesus and the blind man: A speech act reading of John 9」の出
版に向けた準備と書き直しをすることであった。これは英文で約 540 頁あるので、出版するためには、大幅な部分削
除と加筆修正をする必要があり、そのためには新たな大きな論文執筆に匹敵するくらいの作業が見込まれるものであ
った。又提出後 10 年以上経過しているので、内容的にアップデートする必要があり、特に私の専門である新約聖書学
は、日本で手に入る文献が少なく、海外における文献資料が圧倒的に多いので、このような国外で研究に専念できる
環境と期間が必要であったわけである。その成果については、次項で述べる。
2
(様式9)
2.成果の概要: 今回の研究成果の概要を上記の実施状況に則して具体的に記入してください。 [2500~3000字程度]
6 か月という短い学外研究期間であったが、
ある程度まとまった時間と資金をもらって学外研究でしかできない仕事
をさせてもらった。具体的には、前述の通り、主に米国・南アを研究訪問することができ、それなりの研究成果が得
られた。それについては、ここも大きく次の 2 つに分けて報告したい。
① 一神教思想、とりわけキリスト教思想と現代社会の関係を読み解くための拠点と活動団体訪問:米国
② ヨハネ福音書に関する文学的・言語学的研究:南ア及び日本
まず米国訪問に関して。米国におけるキリスト教思想と現代社会の関係を読み解くための拠点とキリスト教活動団
体へ訪問したが、その成果について 6 都市別々に報告する紙幅がないため、4 つの項目にまとめて記す。前提として、
米国では人口の 78.4%がキリスト教徒(2008 年調査)であると言われているので、米国現代社会に住む限り、あるい
はそれと関係を持つ限り、直接的・間接的影響を受けることは必至である。それは、宗教・教育・文化・政治に留ま
らず、メディア・スポーツ・エンターティナメント等においても影響があるということであるが、果たしてその影響
はどれほどのものか、個別に調べ、その成果を得た。
A) キリスト教思想と、エンターティナメント産業及び国立公園施設との関係を考察するため、Orland の Disney
World と Holy Land Experience、Buffalo 近くの Niagara Falls、Las Vegas を訪問したが、その焦点は、テーマパーク自体
への一神教思想の影響の有無、又テーマパーク等がクリスチャン生活に与える影響についてであった。
Disney World では、子供から大人まで家族でも楽しめるテーマパークということで、ここには Animal Kingdom・
Magic Kingdom・Disney Hollywood・世界の主要文化紹介を意図した Epcot Center 等がある。これらは Walt Disney の夢
を具現化したものなので、テーマパーク自体へのキリスト教思想の直接的影響は無いであろう。しかし、人や家族に
対する愛・希望・絆(信頼)といった価値観は、古き良きアメリカを表し、キリスト教的価値観と重複するものであ
る。単純な人口比から言うと、ここを訪れる米国人の観光客や従業員の約 8 割はキリスト教徒となろう。私が接した
観光客や従業員のホスピタリティは、巡回伝道者や旅人をもてなしたキリスト教的ホスピタリティと通じるものがあ
った。驚いたことは、日本と違い、働いているキャスト(職員)の中に年齢の高いキャストも多くいたことである。
又身障者にやさしく、公共交通機関もアトラクション等の乗り物もどこも優先的に案内していた。弱者への配慮は、
小さき者・弱者をないがしろにせず、隣人愛を強調するキリスト教思想の影響があろう。日曜朝の入場者数がそれほ
ど多くなかったのは、教会の日曜礼拝のためであろう。同様に、Niagara Falls 国立公園や Las Vegas も表面的にはキリ
スト教的影響を見ることは難しいかもしれないが、そこで働く人々の中には、確固としたキリスト教的精神・倫理を
持った人達がいて、テーマパークや施設の心地よい雰囲気に貢献していた。中でも、キリスト教的精神と縁遠いと思
われる Las Vegas でも、有名なホテルの中には、チャペルを併設し、キリスト教結婚式を挙げたい人々のニーズに答え
たりしていた。個人の信仰心の深さは別としても、やはり米国ではどこででも人々の生活に密着したキリスト教的影
響が見られた。
Holy Land Experience はとてもユニークなテーマパークで、キリスト教信仰を鼓舞するために作られた中規模の教育
的テーマパークである。そのため日本人でこのテーマパークについて知っている者は皆無に近い。ここでは、キリス
トの生涯を屋内演劇ホールや野外ステージで聖書に忠実に演じたり、現代的なミュージカルで信仰生活を描いたり、
紀元 1 世紀当時の社会の建物を再現したり、と楽しみながらキリスト教を学ぶことができる。まさにキリスト教徒向
けのテーマパークであり、クリスチャン生活に肯定的な影響を与えているが、今のところ商業的にも成功しているよ
うである。日本でも一時期、テーマパークが雨後の竹の子のように作られたことがあるが、継続するには明確なテー
マの設定、それに基づいたハードとソフトを備え、堅実で実際的な運営が求められる。クリスチャン人口の多い米国
ならではのテーマパークであり、エンターティナメント産業におけるキリスト教思想の大きな影響を見てとれた。
B) キリスト教思想と米国の歴史との関係を考察するため、Washington の White House、Smithsonian Institution、特に
National Museum of American History 等を訪問したが、
その焦点は米国建国に貢献したキリスト教思想の影響を調べるた
めであった。これら施設についての説明は必要ないと思うので、簡単に成果だけを述べる。米国建国の父達と呼ばれ
る先駆者達、又米国憲法を起草した多くがキリスト教徒であったが、ヨーロッパにおける信仰的抑圧を避け、新世界
で生きることを選択した人々が集まってきたので、それは至極当然なことであった。そのような歴史や痕跡を、
Washington の幾つもの博物館で見ることができ、彼らが用いた聖書やその生活ぶりを垣間見ることができた。特にア
メリカ歴史博物館では、建国社会の構成基礎が各家庭であり、その家庭の基礎はキリスト教信仰であったと展示され
ていた。米国社会へのキリスト教思想の影響は大きい。
ちなみに政治的には、私が渡米した 2011 年 10 月は、2012 年の大統領選に向けて、一連の共和党大統領候補者討論
会等が開催されていた。その内の一つ、ラスベガスで行われた討論会でも、政治と宗教の関わりは重要議題であり、
候補者個人の信仰又は信条は、政治的判断に関わるので重要だと候補者の大勢が認めていた。事実候補者の多くは、
良くも悪くも、宗派は違うが一神教支持であることを明言していた。現在でも政治的トップである大統領は、最後に
3
(様式9)
は必ず「God bless you (America)!」というフレーズで演説を終える。米国建国の父たちの精神は今でも受け継がれてい
るようだ。ある TV 解説者は、大統領候補者の選考には宗教・モラル・知識の順で重要だと解説していた。勿論米国
でも政教分離を謳っているが、宗教が国家の上に権威を持つという神権政治を行わないだけで、政治家の宗教心ある
いは信条は自由なのである。この政教分離については、日本のニュアンスとは少し違う。どのように違うかと言うと、
もともと欧米の政教分離は、宗教に国家が介入しないという予防線であり、日本のように国のことに宗教が介入しな
いという意味付けとは違うようである。
C) キリスト教思想と教育文化施設との関係を考察するため、米国中東部の Cincinnati にある Creation Museum を訪
問したが、その焦点は、進化論肯定社会への影響やここを訪れるクリスチャンへの影響を調べるためであった。ここ
は日本の TV でも以前紹介されたが、進化論に対して、天地万物は神によって創られたという創造論を啓蒙する博物
館で、ツアーやアトラクションを全部見て回るには少なくとも丸 1 日はかかるものである。Washington で入場した(ス
ミソニアン)自然史博物館の思想と全く逆を行くもので、そのギャップに驚かされる入場者も多いであろう。まさに、
進化論的世界観を覆し、その代替案を大胆に又科学的に披瀝するものである。進化論しか教えない日本ではまず考え
られない施設であるが、なぜこのような博物館が作られ、多くの入場者を集め、今後さらに展示物を大幅に拡充して
いく予定と聞くが、何がその原動力となっているのか。それは、進化論では人生の難問や人間の必要に対して十分な
答が得られないので、創造論を含む聖書から神の愛と計画を知ることが重要だという Action in Genesis(この博物館を
作った人達のグループ名)の情熱であろう。実はこの国での進化論対創造論の論争には長い歴史があって、過去には
進化論を学校教育で教えてはならないと法律に定めた州が幾つも存在した。今でも、進化論だけでなく創造論も学校
で教えるべきだとする意見も多い。これは、キリスト教思想が大きな影響を持っている米国のような国だからこそで、
進化論を肯定する社会にとって大いなるチャレンジとなっている。同時に、ここを訪れるクリスチャンにとっては、
創造論を科学的に又楽しみながら学び、創造論を基礎にした信仰生活を一層強くする教育施設となっている。米国内
では、創造論を特に強く信じる福音派が台頭しており、その数は人口の 2.5 割、中には 4 割(約 1.2 億人)にも達する
というデータもあり、アメリカの政治・経済・文化にも大きな影響を与えている。旧約聖書を共通土台に持つが故に
「アブラハム宗教」と一括りで呼ばれることもあるキリスト教・イスラム教・ユダヤ教の信徒が多い世界に目を向け
ても、今だに仮説の一つである進化論だけを教えている日本の特殊事情は、現代のグローバル化の中では一考される
べきかもしれない(他の仮説として、インテリジェント・デザイン論もある)。
D) キリスト教思想とリゾート・コミュニティとの関係を考察するため、Honolulu を訪問したが、その焦点はリゾ
ート・コミュニティ形成時の一神教思想の影響の有無、及びリゾート・コミュニティがクリスチャン生活に与える影
響についてであった。
今回の訪問では、特にリゾート・コミュニティ形成時にキリスト教等の一神教思想の影響があったとは見つけられ
なかった。それは、ここは元々ハワイ原住民が住み、統治していた所なので(カメハメハ大王等)、米国本土とは違
うハワイの歴史的背景の故であろう。当地の大学で教鞭を取り、島を案内してくれた Dr. Cabral との意見交換でもその
点は確認できたが、今はクリスチャン人口が多いこともあり、キリスト教的ホスピタリティを感じることができた。
又リゾート・コミュニティがクリスチャン生活に与える影響については、当地にあって日系人が多く集まるマキキ・
キリスト教会を訪問し、礼拝にも参加した。やはり土地柄、リゾート産業に従事している人の割合が高く、移民だけ
でなく、旅行後ハワイに魅せられてこの地に留まり、クリスチャンになった人達もいた。人々の人生そのものに、リ
ゾート・コミュニティにおけるキリスト教思想の影響があったわけである。
このように短期間であったが、米国数都市を訪問し、図書資料や机上では得られない貴重な調査をすることができ
た。全体的に、米国を始め世界ではキリスト教等の一神教思想と現代社会の関わりが、日本人が思う以上にはるかに
大きな事であり、政治にしろ、経済や文化にしろ、この点を認識しておかないと、国際関係の大事な場面や国際交流
の中で目測を誤る事態も出てくると感じた。一神教思想が優勢な世界に出て活躍していく日本の若者に、ツールとし
ての英語を身に着けるだけでなく、一神教思想と現代社会の関わりについても啓蒙していくことは現代のグローバル
化の中では重要なことかもしれない。
次に、南アでのヨハネ福音書研究では、前述したように私の博士論文の出版に向けた準備と書き直しを始めること
ができた。特に文献資料収集においては、1 ヶ月の滞在期間中に約 100 件近くの文献にあたり、その中から出版に向け
て特に関連ある資料に優先順位をつけて読み始めた。そして論文を大きく修正する必要を感じなかったので、論文原
稿の関連個所に主にアップデートを施し始めた。この作業は現在も続けている。
この論文出版に関しては、この学部が国際的にも中堅どころの堅実な学術雑誌を紀要として公刊しているので、そ
の紀要のモノグラフシリーズとして出版する際の情報を、編集者(教授)とシニアスタッフから直接話を聞き、その
出版可能性について意見を交換した。もし紀要のシリーズで出版希望なら 2014 年か 2015 年の出版計画に入れるとの
前向きなアドバイスをもらった上に、もっと早く出版することも可能なように提携の出版社まで紹介をしてくれた。
4
(様式9)
どこで出版するかは私の裁量で構わないとの寛容な姿勢を示してもらい、ありがたく思った。勿論出版には、南ア国
内と海外の 2 名以上の査読審査も含まれるので稚拙なことはできず、又前述の通り書き直しの作業上、南アで取り掛
かり始めた最終稿の執筆・完成には学外研究期間後もそれなりの期間がかかる予定である。そのため日本にいた間に
は、ヨハネ福音書研究で、学外研究中の研究も援用する、次のような他の 4 つのプロジェクトも並行して行った。
第一に、2009 年に日本聖書学研究所主催の公開講座でゲストスピーカーとして講演した内容「ヨハネ福音書の贖罪
信仰:文学的方法による分析」を、この学外研究期間中に学術論文としてまとめたので、「聖書学論集」誌に投稿す
る予定である(6 月からの受付)。第二に、すでに日本の出版社と合意して今後数年間の間にヨハネ福音書の注解書(3
分冊)を日本語で出版する予定であるが、これも長い目で見れば、成果の一部となりえよう。第三に、その注解書の
一部分を、博士論文の内容であるヨハネ福音書 9 章を基に、日本語で執筆し、研究及び宣伝を兼ねて HP 上に公開す
る段取りをつけている。第四に、月刊誌「福音と世界」から特集企画の一つとして、ヨハネ福音書を中心とした文学
的方法の学説史を書くように依頼されているので、6 月までにはそれを仕上げる予定である。
ところで、今回の 2 つのテーマと直接ではなく間接的であるが、日本にいる間の学外研究期間中、二人の学者と対
談した聖書学の方法論に関する学術書を早ければ 2012 年度中にも出版することになったことも付記しておきたい。こ
の学外研究期間がなければ、これは無理であったであろう。
以上のように、半年の学外研究期間で文字通り研究の回復ができた上、今後の研究に向けて大きな道筋を付けるこ
とができとても有益な時となったので、これを可能にしてくれた大学、学部、事務局及び同僚の先生方にこの場を借
りて感謝したい。
氏 名
5
伊東 寿泰
(様式9)
3.研究成果の公表:今回の研究成果公表の状況と予定を具体的に記入してください。
既 発 表
テーマ
発表形態
□
□
□
著書
論文
学会発表
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
著書
論文
学会発表
著書
論文
学会発表
著書
論文
学会発表
著書
論文
学会発表
出版社/掲載誌、巻号/学会名等
刊行/発表年月日
執 筆 中 ・ 発 表 予 定
テーマ
ヨハネ福音書の贖罪信仰:文学的方法に □
よる分析
☑
□
ヨハネ福音書第 9 章のスピーチアクト的 ☑
□
読解
□
英語圏における文学批評の動向:ヨハネ □
☑
福音書を中心として
□
対談「聖書学の方法論」
☑
NTJ ヨハネ福音書注解 (一部分)
□
□
□
☑
□
発表形態
出版社/掲載誌、巻号/学会名等
著書
論文
学会発表
著書
論文
学会発表
著書
論文
学会発表
著書
論文
学会発表
著書
論文
学会発表
刊行/発表予定年月
聖書学論集 45 号
2013 年
南アの出版社
2014/15 年
新教出版社/福音と世界
2012 年
日本キリスト教団出版局
2012/13 年
日本キリスト教団出版局 HP
2012 年
報告
「米国・南ア・日本の国事情比較最新版」さんしゃ Zapping 2012 年
構想計画中
著書 NTJ ヨハネ福音書注解(3 分冊) 日本キリスト教団出版局
氏名
伊東 寿泰
R O 受付
提出期限:帰着後 2 ヶ月以内
提出先: 各リサーチオフィス
★ 本書式は、研究部ホームページにて公開します。
6
Fly UP