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平成 年度 塚本学院教育研究補助費申請書 ①
公営住宅団地の環境改善に向けた設計手法の開発 大阪芸術大学 建築学科 教授 久 保 清 一 1.研究目的 公営住宅団地が抱える問題に関連して、各行政庁では 団地再生計画を立案するもののいまだ多くの問題が 未解決のままとなっている。その主要因は、入居者の 高齢化によるコミュニティの崩壊や管理・運営費の不 足による整備の遅れ(老朽化、耐震強度不足)等が挙げ られ、社会ストックとしての価格の低下が著しい状況 にある。本研究は、公営住宅団地がもつスケールメリ ットと地域社会との関係が深い立地環境等に着目し、 新しい機能と役割を担う公営住宅のあり方について、 研究者自身がこれまで蓄積してきた計画及び実施設 計事例を紹介しながら、それをより具体的な設計手法 として構築することで、「団地再生」の効果を促進し ようとするものである。 2.公営住宅団地の現状と課題 総務省が 2013 年、全国の都道府県、市区町村にアン ケートしたところ、取り壊しを検討する公営住宅が 2810 棟という結果がでた。これは取り壊しを検討する 公共建築全体の実に 23%を占め最多であり、同時に公 営住宅団地が抱える問題を象徴している。現在の公営 住宅数は約 219 万戸で、1 棟 100 戸で換算すれば、取 り壊し検討の住宅は全体の約1割にのぼる。その主要 因は、国及び地方公共団体の財政難によるものだが、 建物の高経年ストック(老朽化、耐震強度不足)の増大 と既存入居者の高齢化によるコミュニティの崩壊と いう大きな問題が重くのしかかっている。昭和 50 年 代以前に管理が開始された公営住宅は 152.5 万戸 (69.6%)であり、優先すべき大量のストック全てを建 替えることは不可能と言っていい。それが現実である。 これまで公営住宅では様々な改善事業が実施され た。1974 年に建物増築などの規模改善、1976 年に環 境改善として公園や集会所の設置、1982 年頃より身障 者及び高齢者対応への改善と安全性能の向上改善、 1997 年にエレベーター設置の促進などが進められた。 2000 年に「公営住宅ストック総合活用計画」が制度化 され、全面的改善事業(トータルモデル事業)を創設し、 建替えによる更新量の調整や管理する全ストックの 整備方針を定めた。さらに 2009 年に「ストック長寿 命化計画」の制度化に踏み切ったが、量的制約の中で、 更新コストの削減ばかりが目立ち、実際の効果は貧し く大胆な発想に欠けていた。 3.公営住宅団地の環境改善に向けた取り組み ここでは研究者自身がこれまで手掛けた基本計画や 実施設計等 10 事例を紹介しながら、公営住宅の環境 改善に向けた設計手法と理論について解説したい。ま ず対象プロジェクトは、大阪府営住宅が 5 団地で、そ のうち 2 団地が基本計画・基本設計・実施設計を行っ ており 1998 年から 2014 年まで 16 年間にわたって設 計を費やした業務もある。他の 3 団地は全体配置検討 を行っている。また、大阪市営住宅が 4 団地で全体配 置計画策定業務を遂行、以下、富田林市営住宅では基 本設計と実施設計をまとめた。 各プロジェクトについて実施した設計案を活用しな がら、それを継承発展させるための実践的な設計手法 としてまとめた。そこには従来に無い計画手法の導入 や設計プロセスを示している。共通のコンセプトは、 周辺環境や地域特性などのコンテクストを読み込み、 社会ストックとしての新しい価値を生成するような 「団地再生」を目指すことである。具体的なテーマと して、自然環境保全、地域特性の促進やまちなみ景観 保全、インフラ整備、地域防災拠点、地域コミュニテ ィの回復、賑いの復活、福祉のための生活環境改善等 が挙げられる。 [研究者が計画・設計した団地の概要] ①府営和泉寺田住宅 (和泉市寺田) 6~12 階 276 戸 延床面積 19216.3 ㎡ ※幅員 3m の外遊道と 95m の緑モールを設置し、地域 住民の生活環境の向上とアクティビティを創出。 ②府営橋寺住宅(大阪市旭区) 11 階 130 戸 延床面積 8524.81 ㎡ ※淀川河川敷の緑空間を導入したプランで地域に開 放されたポケットパークとボンエルフ歩道を計画。 ③府営すみれ北住宅(大阪市城東区) 4 階 50 戸 延床面積 2801.673 ㎡ ※府営と市営住宅の合併施策。活用地の確保を検討す る高層建て替え全体配置計画。以下④から⑨まで ④府営すみれ住宅(大阪市城東区)7~9 階 317 戸 ⑤府営今福北住宅(大阪市城東区) 5~14 階 215 戸 ⑥市営長吉長原東第 4 住宅(平野区)14 階 823 戸 ⑦市営萩之茶屋住宅(大阪市天王寺区)14 階 130 戸 ⑧市営飛鳥西住宅(大阪市東淀川区) 14 階 246 戸 ⑨市営中津住宅(大阪市北区) 14 階 273 戸 ⑩富田林市営若松第 3 住宅(富田林市若松町) 6~7 階 79 戸 延床面積 4764.84 ㎡ ※富田林寺内町のコンテクストを反映した景観創出。 4.公営住宅団地の新しい設計手法の構築 これまでの公営住宅の設計は、公営住宅法の基準に従 い、公平性遵守のもと定められた標準設計の枠内で大 量生産されてきた。しかし今後は、人口や世帯の減少 に伴い、質的向上を目指すと共に高齢者や子育て世帯 への支援施策が重要となってくる。いわゆる住宅セー フティネット機能の充実とまちづくりに貢献する公 営住宅の計画が必要となる。従来の居住専用の考え方 をやめ、保育所やデイサービスセンターなどの生活支 援施設、また役場の出張所、公民館などの公共施設を はじめ、ショッピングセンターやクリニックモールな ど商業・医療施設の導入までも視野に入れ、地域の 人々と共に創るまちづくりの推進にシフトすべきで ある。公営住宅団地を活用して地域力が向上するまち づくりを目指すためには、自然環境や現存するインフ ラ、また人の営みと文化など、場のコンテクストを読 み込んだデザインの力が最も必要な時を迎えている。 - 11 -