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所得税の損益通算 - みずほ総合研究所

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所得税の損益通算 - みずほ総合研究所
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営相
談 所得税の損益通算
吉田 覚
2015.7.1
相談部 東京相談室
所得税では、一定の区分の所得において生じた損失は、他の区分の所得との通算が認
められています。この措置は「損益通算」といい、適用には一定の決まりがあります。
最近は平成26年度税制改正において、平成26年4月1日以後のゴルフ会員券等の譲渡
損失と他の所得との損益通算ができなくなる変更が行われました。
今回は、事例も交えて、所得税の損益通算の仕組みを解説します。
1. 所得税法上の所得区分
所得税法では、その性格によって「所得」を以下の 10 種類に区分しており、さらにこれらの所得は
「損失が生じる所得」と「損失が生じない所得」に分けられます。
損失の生じる所得
損失の生じない所得
・配当所得
・不動産所得
・利子所得
・事業所得
・譲渡所得
・退職所得
・一時所得
・雑所得
・給与所得
・山林所得
2. 損益通算の仕組み
各所得の計算において生じた損失は、一定の要件のもとで同じ年に生じた「同一」または「異なる」
区分の所得と通算することができます。税法では、異なる区分の所得と通算することを「損益通算」
といいます。
[1]同一所得内での通算
各所得の計算において生じた損失は、原則として、まず同じ区分の所得との通算を行います。例え
ば、以下のようなケースが該当します。
・同じ「雑所得」に区分される「外貨建定期預金の為替差損」と「公的年金」との通算
・同じ「株式等の譲渡所得」に区分される「株式の譲渡損」と「公募株式投資信託の譲渡益」との通算
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ただし、区分は同一の「譲渡所得」であっても、
「不動産の譲渡損益」は不動産の譲渡損益どうしで、
また「株式等の譲渡損益」は株式等の譲渡損益どうしで、それぞれ通算を行うことになっています(次
項の「損益通算の特例」に該当する場合を除く)
。したがって、
「不動産の譲渡損」と「株式等の譲渡
益」との間で通算を行なうといったことはできません。また、次に解説する「異なる区分の所得との
通算」も原則として認められません。
[2]異なる区分の所得との通算(損益通算)
同一所得内で通算を行ってもなお損失が残る場合は、異なる区分の所得との通算を行います(損益
通算には一定の順序がありますが、ここでは省略します)。
①損益通算の対象となる所得の損失
損益通算は、損失が生じるすべての所得に認められるわけではなく、一定の所得に生じた損失に限
られます。損益通算が認められるのは、以下の所得の計算上、生じた損失です。
・不動産所得(土地等の取得に対応する借入金の利子に相当する部分の金額で一定のものや、別
荘等の生活に通常必要でない資産の貸付に係るものなどを除く)
・事業所得(株式等に係る事業所得を除く)
・総合課税の譲渡所得(ゴルフ会員権(※)、レジャー会員権(※)、スポーツカーなど、生活に通
常必要でない資産の譲渡から生じるものを除く)※平成 26 年4月1日以後の譲渡
・居住用財産の譲渡損失で一定の要件を満たすもの
・山林所得
損失が生じる所得でも、
「配当所得」
「一時所得」
「雑所得」の金額の計算上で生じた損失は、損益通
算ができません。また、前項で説明したとおり、一定の場合を除いて、
「不動産の譲渡損」は同一年内
に発生した「不動産の譲渡益」とのみ、また「株式等の譲渡損」は同一年内に発生した「株式等の譲
渡益」とのみ通算でき、原則として、他の黒字の所得と損益通算はできません。
②損益通算が認められる所得の損失の損益通算の相手方所得の制限
損益通算の相手方の所得にも制限があり、損失が生じた所得と損益通算できない相手方の他の黒字
所得として、
「株式の譲渡所得」
「不動産譲渡所得」
「源泉分離課税の所得」などがあります。
3. 損益通算の特例
前述のとおり、不動産や株式等の譲渡から生じた損益と他の区分の所得との通算は原則、認められ
ていませんが、例外的に損益通算を認める特例があります。
[1]居住用財産譲渡の特例
自分が住んでいる家屋(居住用家屋)やその敷地(土地または借地権)を譲渡した場合に生じた譲
渡損失に対して、一定の要件のもとで譲渡した年について損益通算することができます。また、通算
しきれない損失については、翌年以降3年間の繰越控除が認められます。なお、この特例は平成 27
年 12 月 31 日までの譲渡に対して適用されます。
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[2]上場株式等の「譲渡損失と配当所得」との損益通算等の特例
「上場株式等の譲渡損失」と「上場株式等の配当所得」との間で損益通算が認められます。ただし、
損益通算が認められるのは、配当所得について「申告分離課税」を選択している場合に限られます。
また、源泉徴収ありの特定口座内では、確定申告することなく「上場株式等の譲渡損失」と「上場株
式等の配当等」との損益通算がされる方式を選択することが可能です。
【参考】金融所得税課税の一体化を進める観点からの改正 (平成 28 年1月1日以後)
公社債の利子等は、一定のものを除いて原則として、源泉分離課税から申告分離課税へ変更となり、
公社債等の譲渡所得も原則として、非課税から申告分離課税へ変更となります。上場株式等の譲渡損
益と配当所得の損益通算の対象に、特定公社債等の利子所得と譲渡損益が加えられます。一方で、上
場株式等と非上場株式等の相互間の通算はできなくなります。
4. 誤りやすい事例
[1]損益通算ができる事例
①不動産所得の損失と給与所得
Q. 賃貸アパート経営を行っている会社員は、不動産所得の赤字と給与所得とを損益通算する
ことはできますか。
A. 可能です。ただし、不動産所得の赤字のうち、土地等を取得するために要した借入金の利
子に相当する部分の金額は、損益通算の対象外となります。
②事業所得の損失と不動産所得
Q. クリーニング店とアパート経営を行っている個人事業主は、クリーニング業の赤字とアパ
ート経営の黒字とを損益通算することはできますか
A. 事業所得の損失は損益通算の対象となりますので、不動産所得との損益通算は可能です。
③事業所得の損失と一時所得
Q. 事業所得で損失が生じた個人事業主が、同じ年に生命保険の満期一時金(個人事業主が保
険料負担者であり満期一時金の受取人で、一時所得に区分されるもの)を受け取りました。
事業所得の損失は生命保険の満期一時金とを損益通算できますか。
A. 生命保険金の満期一時金から支払保険料を控除した差益が一時所得に該当し、事業所得の
損失と損益通算できます。ただし、損益通算する場合の一時所得は、2分の1をする前の
金額となる点に注意が必要です。
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[2]損益通算ができない事例
①ゴルフ会員権の譲渡損失
Q. 会社員が、含み損を抱えるゴルフ会員権を平成26年4月に売却し、損失が生じました。他
方で、同じ年に長年勤務した会社を退職し、退職金を受け取りました。ゴルフ会員権の譲
渡損失は退職所得と損益通算できますか。
A. ゴルフ会員権を売却したときの所得は、譲渡所得として総合課税の対象となりますが、平
成26年4月1日以後に行った譲渡により生じた損失は、原則として、退職所得など他の所
得と損益通算することができません。
②不動産の譲渡損失
Q. 会社員が、含み損を抱える土地(更地)を売却し、損失が生じました。この損失は給与所
得と損益通算できますか。
A. 不動産譲渡所得は、分離課税の譲渡所得となるので、譲渡損失と他の所得とを損益通算す
ることはできません。
注:居住用財産(自宅)の譲渡損失については、一定の要件のもとで、譲渡した年について他の所得との
損益通算ができます。また、損益通算しきれない損失については、翌年以降3年間の繰越控除が認め
られます(2ページ「3.損益通算の特例」を参照)。
③上場株式等の譲渡損失
Q. 個人事業主が含み損を抱える上場株式を売却し、損失が生じました。この損失は本業の事
業所得と損益通算できますか。
A. 上場株式等の譲渡損失と事業所得とを損益通算することはできません。上場株式等の譲渡
に係る譲渡損失は、上場株式等の譲渡益と、また「申告分離」を選択した上場株式等の配
当所得との間でのみ、損益通算が認められています。
④為替差損
Q. 会社員が銀行で運用していた「為替予約の付いていない外貨建て定期預金」が満期を迎え、
為替差損が生じました。この差損と給与所得とを損益通算することはできますか。
A. 為替差損益は雑所得に区分されます。雑所得の損失は損益通算の対象とならないので、給
与所得との損益通算はできません。
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⑤一時所得の損失
Q. 会社員が「一時払い変額個人年金保険」を運用期間中に解約した際、解約返戻金が払込保
険料を下回り、一時所得に区分される損失が生じました。この損失は給与所得と損益通算
できますか(保険料は会社員本人が負担)。
A. 一時所得の損失は損益通算の対象とならないので、給与所得と損益通算はできません。
内容は2015年2月10日時点の情報に基づいて作成されたものです。
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