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親子間で土地を貸借する場合の税務

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親子間で土地を貸借する場合の税務
2007.11.5
経 ViewPoint
営相
談 親子間で土地を貸借する場合の税務
坂本和則
花野 稔
相談部 東京相談室
相談部 大阪相談室
親子間で土地を貸借する場合の税務についてのご相談が寄せられています。特に権利
金や地代を支払わないで貸借する使用貸借のケースや親が借りている土地の底地を取
得するケースにおける贈与税との関係についてのご相談が多いようです。
今回はこれらのケースを事例に基づいて解説します。
1. 親の土地に子供が住宅を新築する場合
[Q1]今回、父親から土地を借りて、自宅を建築することにしました。父親へは地代や権利金を支払
わずに借りる予定です。この場合、何か税務上問題となることはありますか。
[A1]個人間では土地を無償で借りても、贈与税の課税はありません。
借地権利金授受の慣行のある地域に
おいて、土地の賃貸借に伴い借地権を設
息子 B
行われない、または通常の地代の授受が
ある場合は、借地権相当額の贈与があっ
土地
土地
父親 A
父親 A
使用貸借
建物
定した場合で、通常の権利金の受渡しが
たものとして取り扱われます。
一方、貸主が借主に無償で使用収益さ
せる契約を「使用貸借契約」と言います。本件は子供が親の土地に建物を建築しますが、親子間に
権利金の授受はなく地代も無償とするため土地の使用貸借契約となります。使用貸借契約は、個人
的な信頼関係にある親子・親族等の間でよく行われる契約で、契約書が作られないことも少なくあ
りません。
土地の使用貸借契約では、たとえ借地権利金授受の慣行のある地域でも、使用貸借による使用権
の価額はゼロとして取り扱われるため、借地権は発生しません。したがって、土地を使用できる権
利を無償で取得しても贈与税の課税はありません。
また、地代を支払っていても、その額が土地の租税公課(固定資産税、都市計画税)に相当する
金額以下の場合には、使用貸借とされます。しかし、地代の授受がない場合であっても、権利金そ
の他、地代に代わるべき経済的利益の授受があるものは使用貸借には該当しません。
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相 談
なお、将来父親に相続が発生した場合、その土地については借地権が発生していませんので、父
親の自用地として評価されることになります。
【ポイント】
●個人(親子)間で土地を使用貸借する場合は贈与税等の課税関係は発生しない。
●相続時の土地の評価は自用地評価となる。
2. 親の借地上に子供が住宅を新築する場合
[Q2]私は両親と同居するため、父親が借りている敷地に私名義の二世帯住宅を建築することにしま
した。親子間ですから、地代や権利金の支払いはしないで済ませたいと考えています。この場
合、無償で使用することになりますが、課税上の問題が発生しないでしょうか。
[A2]「借地権の使用貸借に関する確認書」を税務署長に提出し、使用貸借の事実が確認された場合に
は贈与税を課税されることはありません。
借地権を有する者(父親)から借
建物
建物
部又は一部を使用貸借により借り
父親 A
息子 B
受けて、その土地の上に建物等を建
借地権者
借地権者
築した場合には、土地の使用権の価
父親 A
父親 A
格は[Q1]と同様、ゼロとして取
地主 X
使用貸借
地権の目的となっている土地の全
地主 X
り扱われ父親が有する借地権の贈
与はなかったものとされます。ただ
し、「借地権の使用貸借に関する確認書」を税務署長に提出することにより使用貸借の事実が確認
されることが前提となります。
「借地権の使用貸借に関する確認書」は借地権者、建物所有者、土地所有者が連名で建物所有者
の所在地の所轄税務署長に提出することとされています。
なお、父親の相続が発生した場合には、借地権が贈与されていませんので、借地権を父親の相続
財産に含める必要があります。
また、このケースは、地主の承諾を得ることが必要となります。その際地主に対し承諾料の支払
いが生ずることがあることにも注意しなければなりません。
【ポイント】
●個人(親子)間で借地権を使用貸借によって転借する場合は、税務署長に「借地権の使用貸借に関する
確認書」を提出することで、贈与税等の課税関係を回避することができる。
●相続時の借地権の評価は自用地評価となる。
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3. 親が借地人となっている土地(底地)を子供が取得する場合
[Q3]父親は借地上に自宅を建て私も同居中ですが、地主から土地(底地)を買取って欲しいとの申
出がありました。父親は現在70歳で収入は年金のみで手持ち資金もなかったため、父親に代わ
り私が底地を買取りましたが、その後私と父親の間に地代の授受はありません。地代の授受が
ないと父親の持っていた借地権が消滅して私に移転したものとして、私に贈与税が課税される
のでしょうか。
[A3]課税されます。ただし、「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を税務署長に提出してい
る場合は、借地権者が従来通り借地権を有するため贈与税の課税は行われません。
借地権の目的となっている土地を
建物
建物
の取得者と借地権者との貸借が使用
父親 A
父親 A
貸借である場合は、土地の取得者は借
借地権者
借地権者
父親 A
父親 A
地権者より借地権の贈与を受けたも
のとして取り扱われ、贈与税の課税関
地主 X
係が生じます。
使用貸借
当該借地権者以外の者が取得し、土地
地主息子 B
これは地代が支払われなくなった
ことで、従来の借地権が消滅し、借地権に相当する権利が土地の取得者に帰属することによります。
但し、この場合でも借地権者がその借地権を設定しているものとし、土地の取得者との連名によ
り「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を提出した場合には、借地権の贈与がなかったもの
として取扱われます。
なお、「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を提出した場合には、父親の借地権が存続す
るため、父親の相続時に、その借地権を相続財産に含めることになります。
【ポイント】
●親が借地している土地の底地の部分を子供が買取り、親と子の間は使用貸借とする場合は、
「借地権者
の地位に変更がない旨の申出書」を提出することで贈与税等の課税関係を回避することができる。
●相続時に借地権は親の相続財産として扱われる。
4. 親が所有している収益物件のうち建物のみを贈与した場合
[Q4]私は現在63歳でアパート経営を行っていますが、長男が結婚し、孫もできたため長男にも所得
を分散させ、私自身の所得税の軽減を図りたいと考えています。そこで、今回所有するアパー
トの一物件(建物)を贈与しようと考えています。この場合土地の貸借に関し、長男からは権
利金を受け取らず、また地代も固定資産税程度の授受にしようと考えていますが、税務上何か
問題となる点はありますか。
[A4]土地に関しては、[Q1]の場合と同様に贈与税に対する課税を受けることはありません。但し、
贈与した建物の敷地についての相続時の評価方法が、条件により異なりますので注意する必要
があります。
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一般的な相続対策として、父親が所有する収益
賃借人 C
賃借人 C
この方法の利点は、父親の所得の減少(子供への
賃貸建物
賃貸建物
所得の移転)、建物を相続税評価額〔固定資産税
父親 A
父親 B
評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)〕で贈
土地
土地
与できることにあります(注1)。贈与後の父親と
父親 A
父親 A
子供との土地の貸借は使用貸借の形式が一般的
使用貸借
物件
(建物)
を子供に贈与するケースがあります。
※賃借人が同一のため、父親の土地は貸家建付地
ですが、その場合でも[Q1]にあるように贈与
評価となる。
時の課税はありません。
また、土地の貸借が使用貸借となることから、
賃借人 C
賃借人 D
賃貸建物
賃貸建物
父親 A
父親 B
土地
土地
父親 A
父親 A
なければ従来通り貸家建付地〔自用地評価額×
(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)〕
で評価することができます(注2)。しかし、賃借
人の移動があった場合には、
父親が所有する土地
使用貸借
贈与時と評価時(相続発生時)で賃借人に異動が
※賃借人が異なるため、父親の土地は自用地評価
の相続時の評価が貸家建付地の評価から自用地
となる。
の評価となり、評価額がアップします。また、贈
与を受けた子供が父親と「生計を一に」していなければ、相続時の「小規模宅地等の相続税の課税価
格の特例」
(本件不動産業では50%の評価減)が利用できなくなることに注意しなければなりません。
注1:賃貸不動産を負担付で贈与した場合(敷金・保証金を引継ぐという意味も含む)は、贈与財産の価格は相続税評価額
ではなく時価(通常の取引価格)で行わなければなりません。これを回避するためには、負担する債務(敷金・保
証金)を現金で贈与すれば相続税評価額で評価することが可能となります。
注2:賃借人を不変とするため、親族が経営する管理会社にサブリースする場合もありますが、その管理会社に経営の実
態がなく、単に貸家建付地の評価のためだけに利用している場合などは、貸家建付地の評価が否認される可能性が
あります。
【ポイント】
●親が所有する収益物件(建物)を子供に贈与することは、所得の移転、相続財産を減少させる観点
から有効な手段である。
●但し、贈与時の敷金・保証金の取扱いや贈与後の土地評価(貸家建付地評価、小規模宅地の特例)
について十分に注意する必要がある。
内容は2006年3月10日時点の情報に基づいて作成されたものです。
本情報は、法律、会計、税務等の一般的なご説明をしたものです。個別具体的な法律上、会計上税務上等の判断や対策などについては
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