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詳細・1/1 - 愛知教育大学

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詳細・1/1 - 愛知教育大学
互いの追究を生かしながら,科学的な見方や考え方を深め拡げる授業
愛知教育大学附属岡崎小学校
1
理科研究室
石原清史
理科で求める子どもの姿
身近な自然の事象に出会い,五官をはたらかせ
て繰り返しかかわるなかで,子どもたちは多くの
ことに気づく。そして,既にもっている素朴な見
方や考え方で解釈しようとする。例えば,雑草が
のびたサツマイモ畑で気づいたことを出し合い,
サツマイモが育つための栄養とは何かが気になっ
た 子 ど も た ち は ,「 土 か ら 吸 収 し た 養 分 で は 」
「栄養は光でできる」などと既にもっている見方
や考え方で解釈し始める。気づいたことを出し合
い,再び畑に向かった子どもたちの会話をみる
と ,「 植 物 は 光 合 成 を す る 」「 雑 草 は 植 物 で あ
る」という知識はもっていても,その二つが結び
つき,「雑草は光合成する」とは考えには至って
F男
茎が細いのはほとんど雑草だよ。
D男
ねえ,雑草も光合成するの?
F男
しないと思う。
-〈略〉-
E男
植物って,全部光合成するんじゃ
ないの?
F男
そうなの?
(10月6日
D男,E男,F男の会話)
いないことがわかる。このような子どもたちの自
然の事象に対する素朴な見方や考え方を,科学的なものへと変容させていきたい。
子どもたちは,目の前の自然の事象をそれまでの経験と結びつけて考えている。こ
のような子どもたちが,今もっている見方や考え方では解釈できない事象に対して気
づきの階層を深め,問題意識を高めたとき,解決しようと問いをもつ。そして,事象
に向き合い,情報を求めたり仲間とかかわったりするなかで見通しをもち,追究を進
めていく。そこには,獲得した情報や,観察や実験から得た事実をもとに,自分なり
の調べ方と考えをもち,さらに追究を進め,仲間とかかわり合うなかで,互いの調べ
方や考えを共有していく学びの過程がある。そこで,子どもたちは,調べ方や考えの
ずれや違いを明確に意識することで対象を見つめ直し,新たな見通しをもって追究を
深めていく。追究を深めた子どもたちは,自然についての素朴な見方や考え方を科学
的なものにしていく。
このように,互いの追究を生かしながらよりよい解決をめざし,実証性,再現性,
客観性のある科学的な見方や考え方を深め拡げていく子どもの姿を,わたしたちは求
めていきたい。そして,科学的な見方や考え方を深め拡げ,自然のすばらしさを感じ
る心を育みたいと考えている。
- 1 -
2
6年理科単元「秋の花壇と畑はまかせてよ
-植物が育つ秘密-」を構想する
(1) 学校園のなかで活動する子ども
ジャガイモの種芋の植え付け以来,植物を育てる活動を大切にしてきた。また,畑
の草取り,ウメの収穫,夏花壇用の草花の播種,苗の植えかえなど,自然のなかでの
体験を大切にしてきた。植物に触れる機会を多くもった子どもたちは,雨が降り出す
と苗床を雨の当たらないところへ移動させたり,苗を植えた後の花壇をきれいに整備
したりして,接してきた。以下は,ウメの実の収穫をしたときの生活日記である。
うめは,いろいろな形や大きさがありました。スーパーみたいに正かくな大きさじゃないけど,うめも人間みたいに
一つ一つ個性があってー〈略〉-
個性があっておもしろいなぁと思いました。 (6月16日
A子の生活日記)
ウメの大きさや形の違いを個性と語るA子からは,ウメそのものよりも,人に例え
たり,人の営みのなかでウメに目を向けていることがうかがわれる。自然の事象と向
き合ったとき,自然そのものの不思議さでなく,人の営みのなかで自然の事象をとら
えている。その一方で,自然の対象そのものに目を向ける子どももいる。
今日は,じゃがいもがどんなかじか見に畑へ行きました。先生が土をほって,じゃがいもをほりだしました。そこ
で,あさだひろき君が,「皮がうすいね」と言って,皮がうすくてびっくりしました。でも,大きさはけっこう大きくて,食
べれそうでした。でも,もうちょっと育ててもっと大きいじゃがいもにするためにたくさん水をやったり頑張りたいです。
(6月15日
B男の生活日記)
「皮がうすいね」からは,がじゃがいもの皮に目を向け,それに自分も驚いたこと
がわかる。また,「たくさん水を」からは,単純に「水をやること=大きく育てるこ
と」と考えているように感じられる。このような子どもたちに,植物の成長に対する
見方や考え方を新たにしたいと願い教材を模索した。5月のサツマイモの苗の植えつ
け以来,雨不足で,1/3ほどの苗が枯れ,再度,100本ほど苗を植え直したたり,
6月には,草取りをし,ほぼ,畝の雑草を取り払っていた子どもたちである。それな
らば,夏休みを経て,雑草だらけになってしまったサツマイモ畑の整備を通して,多
様な植物の有り様に気づかせることから始めるのはどうか。学年の畑を秋に向けて整
備すれば,畑に生えるさまざまな植物の多様性に目が向くであろう。そして,多くの
収穫を願いながら,よく育つ条件に迫ることができるだろう。また,調べる対象をサ
ツマイモ畑の植物に限定することで,サツマイモと雑草の一定のきまりを見つけ,そ
のきまりを他の植物と比較していくことも可能となる。そうした考えから,「サツマ
イモ畑の植物の生命力の秘密」が浮かんできた。
- 2 -
《「サツマイモ畑の植物の生命力の秘密」の教材性》
・サツマイモ畑のサツマイモと雑草について,これらの植物が生育する環境で生きぬいている秘
密に迫るなかで,植物の環境への適応のしくみ,生存競争での優位性の確保,植物の形態と機
能の進化を明らかにできる。
《「サツマイモ畑の植物の生命力の秘密」がもつ教材の価値》
・ペア交流を大切にし,サツマイモをやきいも会に向け育てている子どもたちなら,雑草に覆わ
れたサツマイモ畑に出会わせるることで,雨がふらなくてもたくましく育つ雑草の生命力や,
雑草に覆われながらもたくましく育つサツマイモの生命力に不思議さを感じることができる。
また,植物が育つ秘密を調べるなかで,追究を通して身につける問題解決の能力(比較,関係
付け,条件設定,推論)を使って,植物の共通性に迫ることができる。
・全体のなかでの自分の追究の位置を意識し,一人一人の追究をあわせると,植物の構造や植物
どうしのつながりが見えてくることを見通しながら追究できる。また,サツマイモは窒素を固
定でき肥料をあまり必要としない植物であることから,植物の多様性や,「肥料を与えればよ
く育つ」のような素朴な見方や考え方を新たにすることができる。
3
協同的な学びを支える教師の営み~A男の追究から~
(1) 自然の事象に十分に触れさせるなかで,気づきを鮮明にさせる
子どもたちは,これまでの経験から,日光が当たると植物はよく育つといった植物
の成長に対する素朴な見方や考え方をもっている。サツマイモ畑のサツマイモと雑草
の関係から植物の成長の秘密に迫ることで,植物の成長に対する見方や考え方を新た
にしたいと願った教師は,2学期早々,雑草だらけのサツマイモ畑に出会わせた。
5月のサツマイモの苗付けから秋のペア学級とのやきいも会を企画し,9月には秋
植えジャガイモを植え,多くの収穫を期待している子どもたちである。サツマイモが
このままでは育たないとサツマイモの蔓を探しながら,雑草を抜き始めるだろう。そ
して,雑草を抜きながら,雨が降らなくてもたくましく育つ雑草の生命力の強さを感
じるだろう。と同時に,雑草に覆われながらもしぶとく生きるサツマイモからも植物
の生命力を感じるだろう。そこから,植物どうしの関係や,植物が育つしくみにつな
がるさまざまな気づきをもつだろう。
9月,雑草だらけのサツマイモ畑に出会ったA男は,まず雑草の成長に驚いている。
その量や草丈は,想像を超えるものだったことが「すごい」の繰り返しからわかる。
また,「一しゅるいかと」と,草丈だけでなく雑草の種類の多さに「びっくり」と記
している。雑草の量,草丈,種類に圧倒されたことが学習記録からうかがえる。
- 3 -
今日,さつまいも畑に行って,最初に思ったことは,まず雑草がすごい
量ということです。だからまず,僕は草取りをすることにしました。そしたら,
まさき君やゆうま君たちも来て,一緒に草を抜きました。抜きながら,僕は
雑草ってすごいなあと思いました。僕たちが,遊んだり,勉強したりしている
1ヶ月半で,僕の胸ぐらいまでのびていました。また,雑草でも一しゅるい
かと思っていたら,色々なしゅるいがあったのでびっくりしました。
-〈略〉-
C男君が「薬を使って草を全部抜きたい」と言って,先生が
エリアに分けて,一人ずつ自分のエリアを責任もってやるというアイデアを
すごい雑草だ
出してくれました。もし,本当にそうしたら,僕は雑草をぬきます。なぜかというと,いもが見えないからです。いもが
見えないとしゅうかくするとき不便だからです。
(9月3日
A男の学習記録)
※雑草の種類の多さに目が向いたんだね。それから,草をとる理由は,いもが見えないと,収穫するとき不便だ
からだと思ったからなんだね。
教師は,「本当にそうしたら」という子どもの求めに応じ,杭とロープで10区画に
分けた。翌週の月曜日,区画に分けたサツマイモ畑に出会った子どもは,雑草の草取
りを再び始めた。どうして草取りを始めたのか尋ねると「見えない」(A男)とサツ
マイモの蔓を探すことから始めたA男の姿があった。3日の「いもが見えないとしゅ
うかくするとき不便」という学習記録と合わせても,まだ,「雑草を抜くと,サツマ
イモがよく育つ」「雑草によって,サツマイモの成長が影響をうける」といった植物
どうしの関係に対する見方や考え方につながる気づきをもてていないことがわかる。
教師は,「サツマイモ畑で思ったこと,気づいたこと」を出し合う場を設けることで,
植物のつくりやはたらき,成長という視点をもってほしいと考えた。
C
5
私は,草を抜いているときに,すぐ抜けるものもあったけど,すぐ抜けるものとすごい引っぱらないと抜
けない雑草の違いは,そんなになくって,茎の太さもそんなに変わらないのに,どうしてそんなに強い
のかなあと思って,私は草によって根のはり方が 違うんじゃないかなと考えました 。
-〈略〉-
C
12
夏休み前までには,雑草は本当に短かったけど,(T:(掲示を確認しながら)6月21日のところ,そう
だなあ)夏休みが終わってから農園に行ったら,僕の身長も超えてしまうくらいになっていたから,
(T:(9月3日の写真を掲示しながら)ひとつ貼っときましょうと思ってもってきました)すごい早さで伸び
ていたので,びっくりしました。
T
13
まあ,確かに,大きさでいうと,悠介君の背はこれぐらいだもんね。伸びる速さや背の高さがすごい。
これが○○君の言っている生命力とつながってくるのかな。
C
14
私は,雑草とサツマイモの苗は,同じ植物なのに,水がなかったら植物は枯れるけど,サツマイモは
枯れてて,雑草はすごい元気だったから,水をあげなくても雑草は伸びるのかなと思いました。
(9月16日
「サツマイモ畑で思ったこと,気づいたこと」)
C5は,「違うんじゃないかなと考えました」と,根の強さの不思議さを感じるだ
けでなく,見えない根のはり方に対して予想を立ている。C12は,成長の早さへの
驚きを語っている。こうした根について気づいたり思ったことや雑草の成長の早さに
- 4 -
対する驚きを発表させた後,用意しておいた雑草の成長を過去の様子(6月21日の草
取りの様子の教室掲示)と9月の様子を比較するため,9月の様子を黒板に掲示した。
そうすることで,植物のつくりやはたらき,成長いう視点をもてるよう意図し,A
男を指名した。
A男 18
僕は,同じ環境なのに,なんかすごい種類が違ったので,すごいなあと思いました。
T
19
同じ環境なのに種類がいろいろ違うことが気になった。はいどうでしょう。
C
20
響子さんが雑草は栄養をとってるって言ったけど, 雑草は,どうやってサツマイモの栄養をとってるの
かな と思いました。
(9月16日
「サツマイモ畑で思ったこと,気づいたこと」)
しかし,A男は,これらの発言にかかわることなく,「すごい種類が違ったので,
すごい」と種類について語っており,9月3日の学習記録にある内容の一部を述べて
いる。A男は,同じ環境なら同じ雑草が生えていると思っており,畑には様々な種類
の雑草が生えていることに驚いている。それが,A男の自然の事象に対する素朴な見
方や考え方のようだ。A男は対話のなかでも,「雑草は一種類だと思っていた」と語
っていた。かかわり合った発言や,変容する姿はみられなかったが,この日の学習記
録からは,A男が仲間の気づきをよく聴いていたことがわかる。
雑草が栄養を取っているのか?という質問はよくわからないけど,根の強さとか,水をやらないでも成長すると
いうのは,誰も雑草が好きではないので,雑草が強く進化したと思います。
(9月16日
A男の学習記録)
※進化というのはどういうことかな?雑草の進化について,考えていることを教えてほしいな。
僕は,根が強い雑草と普通の雑草をぬいてみたら,根が強い方が,根っこが長かったです。根が強いのは
そのせいかなと思います。
(9月22日
A男の学習記録)
※同じ種類?違う種類?根が強い(抜きにくい)のは,根が長いことがわかったんだね。
「雑草が栄養を取っているのか」はC20を受けた内容であり,「水をやらないでも
成長するのか」というのは,C14を受けた内容である。一つは「よくわからない」と,
自分がわからないことを自覚し,もう一つは「進化したと思う」と華子の疑問に対し
て自分なりの答えをもったA男の姿が見られる。これらは,事実から仮説を立て考え
ようとするA男らしさの表れと考える。
さらに,22日の畑での活動後の学習記録には,「根が」の繰り返しが見られる。A
男が,16日の仲間の発言や,発言を聴いた後のサツマイモ畑での草取りや整備の活動
のなかで,根を雑草の水や栄養をとる部分として,また,根をなかなか抜けない植物
のからだを支える役割のある部分ととらえ,目を向け始めていることがわかる。
- 5 -
(2) 自然の事象を認識する気づきのちがいから,問題意識を明らかにする
子どもが不思議に感じたことや思ったことを整理し,それらを集めると,サツマイモや雑草
の各部のつながり,畑のなかのサツマイモと雑草の関係が見えてきたりするという見通しをも
たせたい。そして,一人一人が不思議に思ったことを調べていくと,生命力の秘密がわかっ
てくるという見通しをもたせたいと考え,かかわり合いを設定した。
まず,サツマイモ畑での子どもの気づきを
座席表に落とす。その時,植物の各部(根,
茎,葉)のつくりやつながりについての気づき
と植物どうし(サツマイモと雑草)の関係につ
いての気づきに色分けして分類しておく。
また,理科部には従来から自然の事象に
対する気づきには,階層(現象的な気づき,
実態的な気づき,本質的な気づき)があると
いう主張がある。気づきの階層の深まりを気
づきを問題意識に高めるという観点で見直し
てみる。本時では,学級のなかで数の少ない
葉に対する現象的な気づき(五官で得た現象を表現するだけの気づき)をもつ子どもから指
名し,数の多い根に対する実体的な気づきをもつ子どもを指名していく。次に実態的な気づ
き(因果関係を解釈しようとする気づき)をもつ子どもを指名していくことで,本質的な気づき
(今までの知識では解釈できない場合に疑問で表される気づき)が生まれ,それをかかわら
せることで問題意識へと高まるのではないかと考えた。授業前の教師の読みは,次のようで
ある。
B男は,5年生の社会科で,ぶどう農家が行っている葉の剪定について学んだ経験
から「サツマイモを大きくするにはくさった葉をとった方がよい」という考えをもっ
ている。そこで,「サツマイモは土のなかにあり,葉とつながっているかはわからな
い」と考えているC子の考えがかかわれば,各部のつながりについて意識できるだろ
う。さらに,草取りをしたらサツマイモが成長した事実から,養分が原因と考えるD
子,日光が原因と考えるE子を対立的に位置づけることで,サツマイモと雑草の関係
から,子どもはサツマイモの成長に勢いがついた原因に目を向けるのではないか。
B男
7
えっと,ぼくは,あの,サツマイモの葉が,あの,腐っている葉には,あの,余分なのがあって,養分が
いくともったいないから,その腐っているサツマイモの葉をとって,そいで,葉に養分がいくようにした
ら,生き生きとするんじゃないかなと思いました。
-〈略〉-
C
30
えっと,B男君は腐った葉を取るっていったけど,ほんとに腐った葉に 養分がいってるかどうか が,あ
- 6 -
の,わからないから,ほんとに行ってるのかなっていうところで反対です。
T
31
本当かっていうのは大事なことだよね。はい。
-〈略〉-
D子 34
私もB男君の意見に反対で,葉っぱが腐っていったら,あの取っちゃっていいのかなって言うのが,
あの思ってて,あのサツマイモは土から出てくるから,葉っぱは関係ないかもしれないけど,腐ってて
取っちゃったら,なんかだめだったみたいなことがあるかもしれないから,あのなんか反対意見です。
T
35
ここがつながっとるかどうか,わかんないってこと?今のところね。はい,どうでしょう?
-〈略〉-
B男 37
えっと,まだ,わかんないんだけど,えっと,ヨウ素液とかたらせば,わかるんじゃないかな,と思いまし
た。あと,真由さんのことで,えっと,土と葉は,ちがう,根と葉はつながっているんじゃないかなと思
いました。つながっているというか,そこから養分とかいってるんじゃないかなと思いました。
T
38
そこからっていうの,どこから?
そこからっていうか, 土からいったり, ていうか,あの,なんていうのかな,光合成しているのかどうかわ
B男 39
からないけど,なんか, 太陽からも ,養分きてるんじゃないかなと。 わかんないけど。予想で。
(9月29日
問いを生むかかわり合い)
実際には,B男のくさった葉をとった方がよいという発言の後,根についての現象
的な気づきの発言が続いた後,とった方がよいとは限らないと考えているC30,D子
34を指名した。まず「本当にそうか」という実証性を求める発言をT31で認め,T35
で葉と根のつながりがはっきりしないということを鮮明にしようとした。教師の出に
対して,B男は,「土からいったり」「太陽からも」と養分で葉と根のつながりを説
明しようとしているが,自分のもっている知識では解釈しきれていないことが「わか
んないけど」の発言に表れている。これは,B男の実体的な気づきが本質的な気づき
に近づいた発言であるといえる。
さらに,根の細かな部分のつくりに目を向け,多くの子どもがもつ根に対する気づ
きを鮮明にさせたいと考え,根に対する気づきを絵で説明させた。そして,草取りを
したら,サツマイモが成長したという事実から,根から吸収する養分が原因,日光が
原因という違いを板書に位置づけ,サツマイモの成長に勢いがついたわけに目を向け
させようと考えた。
T
51 -〈略〉-
A男くんや雅志くんは,とっちゃったら,そこを治そうとして,逆に養分がいくんじゃないか
なということね。なるほどね。これが本当かどうかはまだわからないですね。はい,あと,どうですか?
A子
52
-〈略〉-双眼実態顕微鏡で,根の先を拡大してみたら,あの,根の先から,すごく細かくて,小さ
い毛がいっぱい生えてて,じゃ,私は,その毛から,土の中の 養分や水を吸収しちゃうから ,この前み
たいに,サツマイモの苗がひょろひょろで,なんか,あの,草だけ立派に,強く育っているんじゃないか
なと思いました。あと,サツマイモの根は,そうやって,草みたいに強,強いっていうか,なんていう
か,ちゃんと毛が生えてて,土の養分とか水を吸収できる根になっていないのかなと思って,調べた
いんだけど,私の班は,サツマイモの苗が3つしかないから,実験できなくて,いっぱい生えているとこ
で,あの,余っていたらください。
-〈略〉-
- 7 -
T
55 ちょっとそこら辺を,根っこの絵をちょっと描いてもらってもい
いですか?どんな感じか。
A子
56 (描きながら)①ふつうに根があって,(図中②③④)
T
57 で,これが養分をとっちゃうんじゃないかってことね。はい,
毛。なるほど,はい,どうですか?
B子
58 えっと,-〈略〉-
雑草を抜くと,サツマイモの成長がよ
くなったのかなと思ったら,たぶん,あの,雑草に栄養をと
られていて,サツマイモに栄養がいかなくって,あまりサツ
マイモが育たなかったんだと思って,で,抜いたことで,サ
ツマイモがちょっとずつ栄養を,もっていって,なんかちょっと大きくなったんじゃないかなと思ったんだ
けど, あの,思ったんだけど, ええと,そこで,なんか,その,栄養っていうのは,何なのかなと思って,
みんな,栄養栄養って言ってるんだけど,その,サツマイモとか雑草が 吸ってる栄養って何なのかな
と思いました。
(9月29日
問いを生むかかわり合い)
根毛を観察し,根毛と養分や水の吸収を結びつけた発言をした響子に根の図を描か
せた。そこに挙手をしてかかわってきたB子を指名した。このB子の発言と22日のB
子の学習記録を比べてみる。
-〈略〉-
私は雑草を抜いたらどんないいことがあるのかな?と思ったけど,草をぬくだけで,さつまいもの大き
さがぐぐっと大きくなったので,雑草をぬくのはとても大切で,さつまいもとかの成長にかかわるなと思いました。な
ぜ,さつまいもだけがぐぐと大きくなって,雑草はなんでそのままだったのかなと思ったら,とるまで雑草にさつまいも
の栄養をとられていて,雑草の成長がよくて,-〈略〉-
私たちががんばって草取りをしたので,これが反対に
なったんじゃないかな?まだ,本当にそうなのかはわからないからもっとくわしくしらべたい。
※本当にそうか,調べていきたいね。
(9月22日
B子の学習記録)
B子58「えっと……思ったんだけど」は,22日の学習記録にある内容を述べた発言
であることがわかる。これは,事象の因果関係を解釈しようとする気づき(実体的な
気づき)である。それにつなげた「あの,思ったんだけど」以降の発言は,これまで
の仲間の発言を聴いて,B子のなかに新たに生まれたものである。これまでのC30
「養分がいってるかどうか」B男37「土からいったり」「太陽から」A男47「養分を
いっぱい送っちゃう」響子52「養分や水を吸収しちゃう」などの発言から,養分その
ものとは何かが気になりだしたのだろう。これは,B子が,今もっている知識では解
釈できない疑問で表される気づき(本質的な気づき)をもった場面といえる。
C
60
私はB子ちゃんに似てて,雑草をと,えっと,この前サツマイモ畑に行ったら,サツマイモがすごい成
長して,雑草が,あの,草取りをして,それよりも減っているような気がして,気のせいかなと思ってい
たんだけど,あの,雑草を草,草取りで雑草を取ったことによって,サツマイモが,あの,その分の 栄
養をとる ようになったんじゃないかなと思いました。
-〈略〉-
C
65
あの私は,えっと,サツマイモの葉が雑草で,あの,日影になるのを見て,植物は日光がないと生き
生きと伸びないと思っていたから,あの,雑草を取ると日光がいくようになるから,雑草を取るってこと
- 8 -
は養分にも関係あると思うけど, 光にも関係あるんだなと思いました。
-〈略〉-
C
69
私はE子さんと似ていて,栄養を取られるっていうよりも,日光が当たるから栄養が作れるんだから,
だから,雑草を抜くことによって, 日光が当たって,それで栄養を作っていく んだから,雑草が,まあ,
日なたにあるっていうか,日光に当たってる状態だったから,養分が,あの,作れて,育ってただけ
で,多分サツマイモも日光が,さえ当たれば,まあ,栄養を作っていくから,あの,草取りをするってい
うことは,日光が当たるっていうことになると思います。
T
70
日光が当たると栄養が作れる。ここの(B子の発言の)栄養といっしょ?違うね。ほいじゃ。ここの(A
子の描いた絵の部分)栄養といっしょ?ここの栄養とここの栄養はわかる?
C
71
わかんない。
(9月29日
問いを生むかかわり合い)
さらに,授業の前半から挙手をしていた眞緒を指名した。C60「栄養をとる」は,
根から吸収する養分をイメージした発言である。しかし,この発言は22日の学習記録
の内容とほぼ同じ内容であり,かかわり合いのなかで気づきの階層の深まりが見られ
た発言とはいえない。さらに,教師は,日光のあたり方が原因という考えを対立的に
位置づけるための指名を行った。C65「光にも関係ある」,C69「日光が当たって,
それで栄養が作っていく」は,光合成につながる発言である。それを受けて,T70で,
栄養(養分)のちがいを明らかにしようと教師は,二つの栄養を「いっしょ?」と板
書で結んだ。子どもたちの発言に見られる栄養に焦点をあてることで,子どもたちの
もっている植物の栄養に対する素朴な見方や考え方の違いを鮮明にしたいと考えたか
らである。C71からは,根から吸収される養分と日光によってできる栄養の違いまで
は説明できていないことがわかる。B子58以降,仲間の発言を聴いていたB子は,か
かわり合いを終えた学習記録を次のように記している。
今日話し合いをして,気になったことは,栄養(養分)のことで,人間が食べ物を食べたりして,いろんな栄養
をとって生きているみたいに,植物も栄養をいろんな事からとっているんじゃないかなと思いました。なので,日光
や水も,○○さんがいっていたみたいに,栄養として植物はとっているんじゃないかなと思いました。なので,水を
あげるサツマイモと水をあげないサツマイモをつくってどっちが大きく成長するかみたいです。
(9月29日
B子の学習記録)
※条件を変えて比べて実験をしてみるとよくわかるね。どんなふうに比べるかよく考えて実験できるといいですね。
どこをそろえる,どこを変える,そこをはっきりさせて。
B子は,植物が成長するための栄養(養分)は,日光や水ではないかと考え,さら
に「どっちが大きく成長するか」と今後の見通しを述べている。B子は,このかかわ
り合いで,仲間の発言を聴くことで,自分の知識では解釈できない疑問に表される気
づきをもち,それを発言という形で仲間に拡げた。さらに,自分の発言につながる仲
間の発言を聴きながら,今度は自分が追究すべき内容を見出し,学習記録にまとめた
といえるだろう。これは,B子が仲間とのかかわり合いのなかで気づきの階層を深め,
問題意識を明らかにしていく姿といえる。これは,気づきの階層をとらえることの重
- 9 -
要性を示唆している。
(3) 朱記と対話でひとり調べを支える
かかわり合いの後,子どもたちが,どんなひとり調べに動き出したかを記しておく。
A男
日光によってサツマイモの葉で養分はできるか
養分はサツマイモにつながっているか
B子
発芽させたカイワレ大根の,水の有無,日光の有無による成長のちがい
D男
ホームセンターで買ったパンジーの養分(市販の液肥)の有無,日光の有無による成長のちがい
E男
雑草は光合成するかを,葉のでんぷん,気体検知管を使った気体の濃度の増減から調べる
植物が育つための栄養とは何かをはっきりさせたいというB子。雑草も光合成する
のか,また,光合成するなら,酸素や二酸化炭素の出入りがあるのかが気になるE男。
A男は,葉のはたらきについて,自分の問題を解決しようと動き出した。
僕は,葉っぱが,(サツマイモの)どんな働きをしているのかなと思い,サツマイモの葉を全部抜いてみました。
結果は,たぶんイモがあまり成長しないと思います。
(10月20日
A男の学習記録)
※どんな結果が出るか楽しみだね。くきにはでんぷんがあるのか。ある。結果がわかったら教えてね。
「たぶん」からは,A男が光合成の仕組みに迫る見通しをもった実験をしていること
がうかがわれる。学習記録には,「どんな結果が出るか楽しみだね」と朱記し,励ま
した。学習記録を返すときに,葉からイモにデンプンが移動すると考えているのかを
対話で確認し,その通り道が茎であると考えていることを確認したうえで,「じゃあ,
茎にもデンプンはあるのか」と,さらに朱記し,予想させた。「ある」の返事に,
「結果がわかったら教えてね」と励ました。葉にあるデンプンの行き先にも目が向き
始めたことがわかる。そして,これまで調べてきたことをまとめ,今わかってきたこ
とやまだはっきりしないことを明らかにするため,追究を見直すかかわり合いを設定
した。
B男 36
えっと,僕は昌明君と調べたことが似ていて,-〈略〉-
元気な葉には,元気な葉にヨウ素液を
つけたら,すごいまっ黒になったんだけど,枯れた葉は,まあ黒くは,反応は出たんだけど,ちょっとし
か黒くなくて,それで,あのう,僕は,枯れた葉は,枯れた葉にも養分が行っているから,枯れた葉は
取った方が,元気な葉に養分が行っているから,そっちの方がいいんじゃないかなと思いました。
T
37
B男 38
A男 39
枯れた葉は取るべきだっていうことね。
はい。
えっと,僕も○○君に似ていて,それをやってみたんだけど,光合成でできたんじゃないかって言った
んだけど,僕もそう思って, そのできた栄養はどこに行くのかなって考えてみたら,やっぱりイモに行く と
思って,だから,あのう,葉っぱを取ったら,サツマイモにどんな影響がでるのかっていうのを今調べて
います。
(10月26日
追究を見直すかかわり合い①)
今日の話しあいをして,○○さんたちの実験から植物は光がいることがわかり,光をきゅうしゅうする場所は葉だ
- 10 -
から,葉をとると成長しなくなると思います。実験の結果が早く知りたいです。 (10月26日
A男の学習記録)
※どん植物にとっては,光がとても大事だということがはっきりしてきたね
葉でデンプンは作られること。作るときには光がいることが,かかわり合うなかで
わかってきた。次にA男が目を向けたところは,A男39「そのできた栄養はどこに行
くのかなって考えてみたら,やっぱりイモに行くと思って」から,葉にあるデンプン
の行き先であることがわかる。学習記録には,「植物にとっては,光がとても大事だ
ということがはっきりしてきたね」と朱記し,まだ掘っていないイモがどうなってい
るかを早く知りたいという気持ちを支えた。
(4)
ひとり調べでつかんだことと自然の事象とを比べさせる
土に養分があると思って,空気中に養分を作る材料みたいなものがあって,それと水と二酸化炭素を使い光
合成としていると思います。
(11月4日
A男の学習記録 )
4日の学習記録からは,知識と,実感をともなった理解が同居していることがうか
がわれる。4日の「水と二酸化炭素を使い光合成」は,知識としてもっていることで
あろう。葉でできたデンプンの通り道を意識するだけでなく,デンプンの材料にも目
を向けており,光合成による物資の変化,移動を意識し始めている。しかし,「材
料」からは,その物質が何かがはっきりしていないことがわかる。
サツマイモは日光をあびて光合成をしてでんぷんを作りだす。そして,光だけだと枯れてしまうので水を吸い出し
て育っていく。できあがった養分は根にためられる。サツマイモの根はひょろひょろで役目がないようにみえるが,
土の中の水分をとったり,できた養分をためたり,根はああ見えてすごいと思った。
(11月4日
A子の学習記録)
一方で,A子は,葉でできたデンプンは根に蓄えられるということを書籍で調べき
た。しかし,根とイモが結びついていなかった。細い根に養分をためており,イモと
根は別のものだと考えている。そこで,葉できた養分はイモにいくと予想しているA
男とひとり調べの前に二人組で対話をするとで,根とイモの関係についてと見直させ
たいと考えた。
T
31
もう一回自分の言ってること整理して。サツマイモの養分は,どこにたくわえているの?
A子
32
えっと,たとえば,サツマイモの葉とか根から養分をもらって,で,そこで作り上げたものを根にためる。
T
33
根にためるんでしょ。でも,A男君はためた養分は,イモにためるって言ってたでしょ。-〈略〉-
A子
34
ね,なんでそれイモだと思ったの,君?
A男
35
だって,じゃあ,どこにためてるの?
A子
36
根。
- 11 -
A男
37
じゃあ,そっから根っこにいって,そっからイモにいくの?
A子
38
じゃないの?
(11月5日
A男とA子との対話)
対話を通して,もう一度自分の調べたことを見つめ直そうとしたA子。この件子は
さらに調べ,サツマイモは側根であるということを調べ,後日「すっきりした」とま
とめている。
根や気孔からとった「材料」を使い,光合成してデンプン(養分)を作る。それを根にためる。時間がたつとイモ
ができる。イモ=側根=養分を根にためる。
(11月5日
A男の学習記録)
※イモ=根の一部なんだね。はっきりしたね。
これまでの一人一人の追究を出し合い,光合成による,酸素,二酸化炭素,水,デ
ンプンの動きや光というキーワードでつなげることで,核心と位置づけた植物の共通
性(光合成や蒸散をする)に近づいていった。
4
成果と課題
子どもの生活のなかにある自然の事象からの気づきを問題意識に高めることが,後
の子どもの追究に勢いをつける。ここをていねいに行っておかないと,やらされる観
察,実験になってしまう。では,子どもが自然の事象に向き合ったときの気づきが,
教師のねらいにそうかどうかの見極めができたか。A男は,当初,雑草の種類の多さ
や,手を切る雑草の葉についての目を向けている。これは,教師のねらいにそうもの
ではない。仲間とサツマイモ畑に繰り返し行くなかで,雑草の根に目を向けていく。
根に目を向けたA男であるが,9月29日のかかわり合いをきっかけにして,今度は葉
に目を向けるようになる。ここでは,「植物が育つ栄養とは何か」と疑問に思ったこ
とを語るB子の発言が大きい。仲間と共に学ぶ価値がここにあると言える。また,子
どもが十分に活動できる学習園の環境があればこそ,子どもの生活のなかから子ども
にとっての問題が生まれる。こうした問題の解決は,教師が与える課題を短期間に解
くものではないため,子どもの記憶に長期にわたり残る。卒業間近になってこれまで
の学習を振り返るとき,思い出となって語られるのは,こうした問題を解決していく
授業の場面である。A男のようにサツマイモ畑に生えている雑草は1種類だと思って
いたり,D男のように雑草は光合成をしないのではと考えている子どももいる。この
ような,子どもたちの自然の事象に対する素朴な見方には,そう見る何らかの理由が
ある。例えば,D男が「雑草は光合成をしないのでは」と考える理由は,「雑草はす
ぐ抜かれるから,他の植物の栄養を奪って生きているのではないか」であった。その
時々に,教師が「なぜ子どもはそう考えるのだろう」とどこまで感じ,対話で明らか
にしていけるかが重要であることもあらためて感じた。
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