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全体版(P24からP112まで) [PDFファイル/6.23MB]

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全体版(P24からP112まで) [PDFファイル/6.23MB]
6 HIV に関する偏見や差別について考えよう
ワーク1
あなたはエイズや HIV についてどのようなことを知っていますか。
ワーク2
エイズや HIV に関して、次の文が正しいと思う場合は○を、誤っていると思う場合は×
を( )の中に書きましょう。
ア)
HIV には、HIV 陽性者やエイズ患者と接触して感染する。
( )
イ)
HIV には、HIV 陽性者との性行為でのみ感染する。
( )
ウ)
HIV に感染すると、完治させる治療薬がないため必ず発病し、死に至る。
( )
エ)
母親が HIV 陽性者の場合、生まれてきた子どもは必ず感染する。
( )
オ)
避妊具を使用すれば、感染を100%防ぐことができる。
( )
カ)
HIV 検査は、保健所では無料でしかも匿名で受けられ、結果は本人にだけ
( )
知らされる。
40
ワーク3
(1)平成12年度に内閣府大臣官房政府広報室が行った「エイズに関する世論調査」(平
成12年12月実施)の中から、次の2つの質問に答えてみましょう。
問1 「エイズ患者またはエイズの原因となるウィルスの感染者に対する社会的偏見や差
別があってはならない」という見方にあなたは同感しますか、それとも同感しませ
んか。この中から1つだけあげてください。
(ア)同感する。
(イ)どちらかといえば同感する。
(ウ)どちらかといえば同感しない。
(エ)同感しない。
(オ)わからない。
問2 あなたの職場(学校)で、エイズ患者やエイズの原因となるウィルスの感染者が
一緒に働くことについて、
あなたはどう思いますか。この中から一つあげてください。
(ア)好ましい。
(イ)どちらかといえば好ましい。
(ウ)どちらかといえば好ましくない。
(エ)好ましくない。
(オ)わからない。
*平成12年度「エイズに関する世論調査」内閣府大臣官房政府広報室(平成12年12月実施)より
(2) 問1 ・ 問2 に対する自分の答えから、どういうことに気づきますか。またそれは
なぜでしょうか。自由に書いてみましょう。
(3)
(2)で気づいたことから、あなたはどうしていけばいいと思いますか。
41
ワーク4
以下の手記を担任もしくは生徒の代表が全体の前で朗読したあと、感じたこと・思った
こと・考えたことなどを書いてください。
KOSUKE・31歳・DJ
スゴク感動した話があったんです。
友達にスゴク好きな人ができてね、
つきあう事になったんだけど。
ある日、※検査の話になったらしいんです。
相手の人は定期的に検査をしてる人なんだけど、
ぼくの友達は最近まったく受けてなかった。
だから、受けておいでよって言われて
すぐに受けに行ったんだけど。
でね、その検査の結果が出る日にその相手の人から、
「2通メールを送ったから」っていわれたらしいんですね。
そのうちの一通は、「陰性だったときに読んで」って
いうメールで、もう一通は陽性だったときの。
結果によって、「どっちかのメールを見て」って
言われたらしいんです。
で・・・結果は陰性だったので、
その「陰性だったとき」のメールを見たんですね。
そのメールは
「好きだよ。これからもずっといっしょにいられたらいいね」っ
て内容だったんです。
ところが、その子は気になったから、
もう一通のメールも見てみたらしいんです。
そしたら、それが全く同じ内容だったんですって。
「好きだよ、これからもずっといっしょにいれたらいいね」
それを聞いて、ぼくは、恋人同士が検査を受けるって
いうのは、必ずしも疑うって意味じゃないんだなあ。
より信じあうために検査を受けるって
コトだってあるんだなあって思ったんです。
※検査…HIV抗体検査のこと
*特定非営利活動法人ぷれいす東京ホームページhttp://www.thinkaboutaids.jp/
「Think About AIDS∼ラジオが届けたHIV陽性者たちの声」より
42
43
解説6 HIVに関する偏見や差別について考えよう
1 ねらい
中学校において、生徒たちは HIV 感染や後天性免疫不全症候群(エイズ)について正し
い理解と予防法を学ぶよう※学習指導要領により定められている(中学校学習指導要領(平
成10年12月告示、平成15年12月一部改正)「保健体育」及び中学校学習指導要領(平成
20年3月改訂)「保健体育」)。また、特にエイズの予防に関する取扱いについては、高等
学校においても引き続き取り上げられ(高等学校学習指導要領(平成21年3月告示)「保
健体育」
)
、さらに中学校及び高等学校の「特別活動」においても記載されている(中学校
学習指導要領(平成20年3月改訂)「特別活動」、高等学校学習指導要領(平成21年3月
告示)
「特別活動」)。
HIV 感染は、現在、効果ある治療法の開発により感染者を取り巻く環境が大きく変わり、
かつてのように「死に至る病」ではなくなっている。にも関わらず、以前と同じような差
別や偏見が現在も残り、HIV 感染者は病気そのものよりもそういった差別や偏見への不安
に悩み、感染を隠し続けるという精神的苦痛を強いられている。
ここでは、今まで学習してきた HIV 感染に関する知識・理解の確認をするとともに、性
に対する正しい理解を基盤に、適切な行動がとれるよう人権尊重の精神に基づき、HIV 感
染者に対して偏見や差別を持たずに望ましい人間関係を築くことについて考えさせたい。
また、早期の検査・発見によりエイズの発症を抑えられるため、検査の重要性についても
認識させたい。
2 進め方
◎3∼5人のグループをつくる。
(1)ワーク1について
保健体育等で学習した既知情報についてブレインストームさせる。生徒がエイズ・
HIV 感染についてどのようなことを知っているかについて、
① 個人で記入させる。
② グループごとにあげさせる。
③ ワーク2にはない HIV とエイズの違い(※)等基本的なものについては、全体で確
認するとよい。グループ内発表で議論になる部分があれば、後で確認できるよう
記録させる。
※ HIV とエイズは違うもの。HIV というウィルスが粘膜などをとおして体内に入り、
そのまま放置していると、体の免疫機能が徐々に破壊される。その結果、特定の疾
患を発症した状態を「エイズ(後天性免疫不全症候群)」という。
(2)ワーク2について
○×チェックによって、エイズ・HIV 感染について正しい知識が身についているか
44
確認させる。
① ひととおり、生徒に取り組ませた後、答え合わせをする。その際、丁寧な解説
や理由の説明を必ず行う。
② その場で一つひとつの設問に対して挙手させ、正答率を発表する。
③ 7つの設問全体の正答率を算出し、発表する。
④ 全体の正答率からエイズ・HIV 感染に関して必要な正しい知識が身についてい
るか確認させる。
3 解説
(1)ワーク2について
ア)HIV には、HIV 陽性者やエイズ患者と接触して感染する。(×)
…HIV は大変感染力が弱く、熱や消毒液にも弱いウィルスである。粘膜や血管に達
するような皮膚の傷に HIV を含む体液が直接触れることにより、感染の可能性があ
るが、傷のない皮膚からは感染しない。また、唾液、涙、尿などの体液には他の人
に感染させるだけの十分なウィルスが含まれていない。よって、キス、せき、くしゃ
み、握手など日常生活の接触では感染しない。
イ)HIV には、HIV 陽性者との性行為でのみ感染する。(×)
…性的接触による感染に比べれば感染ルートの割合としては低いが、注射器・針の
共用による感染と母子感染がある。
平成24年9月30日現在のHIV感染者の性別、国籍別、感染経路別報告数の累計
男
女
計
HIV 感染者合計
11,025
802
11,827
異性間の性的接触
2,359
650
3,009
同性間の性的接触
7,489
3
7,492
静 注 薬 物 使 用
35
2
37
母
染
14
9
23
他
235
38
273
明
893
100
993
そ
不
子
感
の
「厚生労働省エイズ動向委員会報告」(平成24年9月30日現在)より作成
ウ)HIV に感染すると、完治させる治療薬がないため必ず発病し、死に至る。(×)
…必ずしも発病するとは限らない。治療の進歩により発病を遅らせる薬の開発など
があり、HIV に感染していることを早く知って治療を開始すれば、エイズの発症を
防ぐことが可能になった。「HIV=死」と捉えるのは誤った認識である。
エ)母親が HIV 陽性者の場合、生まれてきた子どもは必ず感染する。(×)
…HIV に感染している母親の子宮内、出産時、母乳から感染するケースは多いが、
帝王切開を行い母乳を与えないようにすれば、感染はかなり防げる。
45
オ)避妊具を使用すれば、感染を100%防ぐことができる。(×)
…HIV 予防には全ての避妊具が有効なのではないが、コンドームを正しく装着し使
用することはかなり有効である。
カ)HIV 検査は、保健所では無料でしかも匿名で受けられ、結果は本人にだけ知らさ
れる。(〇)
…ワーク4の手記にも登場するが、HIV 検査は無料かつ匿名で受けられる。無料で
受 け ら れ る 機 関 を、 ホ ー ム ペ ー ジ【「HIV 検 査 相 談 マ ッ プ 」//www.hivkensa.
com/】で調べることができる。
(2)ワーク3について
1 内閣府大臣官房政府広報室で行った「エイズに関する世論調査」のうち、2つの
問いに答えさせる。ここでは、「エイズの原因となるウィルスの感染者」とは「HIV
陽性者」である。
2 問1 により学習している事柄からの「建前」、 問2 で実際どう行動するかとい
う「本音」の食い違いが生じるであろうことを狙っている。
3 (3)において、「なぜ抵抗を感じるのか?」について掘り下げて考えさせ、その
上で自分がどうしていけばいいかを考えさせたい。
(3)ワーク4について
手記を全体に対して朗読する。この手記は相手のことを思いやった行動の一つの例
である。手記の内容を理解し、HIV やエイズに関して正しい知識を身につけ、自己の
行動に責任を持って生きることの大切さや、人間尊重の精神に基づく望ましい人間関
係の在り方について考えさせ、行動できる一助としたい。
なお、ワーク2のカ)やワーク4の手記にもあるとおり、HIV 検査を無料でしかも
匿名で受けられる。無料で受検できる検査機関は、ホームページ【「HIV 検査相談マッ
プ」//www.hivkensa.com/】で調べることができる。検査機関によって検査日時が
異なり、予約が必要かどうかの違い、結果が即日わかるかあるいは1週間後予約して
聞きに行ってわかるかどうかの違いなどがあり、事前に調べてから受検する方がよい。
<引用文献>
HIV マップ
http://www.hiv-map.net/
データで見る、ゲイ・バイセクシャルとHIV/エイズ情報ファイル2010
http://www.hiv-map.net/works/pdf/file.pdf
「Think About AIDS∼ラジオが届けたHIV陽性者たちの声」ホームページ
http://www.thinkaboutaids.jp/(特定非営利活動法人「ぷれいす東京」)より引用
46
<参考文献>
中学校学習指導要領(平成10年12月告示、平成15年12月一部改正)「保健体育」
中学校学習指導要領(平成20年3月改訂)「保健体育」
高等学校学習指導要領(平成21年3月告示)「保健体育」
中学校学習指導要領(平成20年3月改訂)「特別活動」
高等学校学習指導要領(平成21年3月告示)「特別活動」
特定非営利活動法人SHIP http://www.ship-web.com/Top.html
神奈川県・神奈川県教育委員会「HUMAN RIGHTS −人権を考える−」
平成23年3月発行
厚生労働省エイズ動向委員会報告(平成24年9月30日現在)
47
7 同和問題について考えよう【教職員用】
このワークでは、まず教職員が同和問題について考えます。特に、最近の学術研究の成
果をふまえた、大きく変わりつつある部落史について理解し、生徒に対する今後の同和教
育につなげていくことを目的としています。
ワーク1
あなた自身について(1)、(2)の問いに答えましょう。
(1)あなたが同和問題(部落問題)をはじめて知ったのはいつ頃ですか。
ア 小学校入学以前
イ 小学校時代
ウ 中学校時代
エ 高等学校時代
オ 大学・短期大学時代
カ 社会人になって
キ はっきりと覚えていない
ク 同和問題(部落問題)を知らない
※エ・オの経歴にあてはまらない方は、「カ」とお答え下さい。
(2)あなたは同和問題(部落問題)をどのようにして知りましたか。
ア 家族から聞いて知った
イ 友達から聞いて知った
ウ 学校の授業で知った
エ 職場や近所の人から聞いて知った
オ テレビ・ラジオ・新聞・本などで知った
カ インターネットで知った
キ 同和問題の集会や研修会で知った
ク 県や市町村の広報誌や冊子で知った
(3)
「同和問題」についてはじめて知ったとき、どのようなイメージをもちましたか。
(4)「同和問題」について、現在どのようなイメージをもっていますか。もし(3)で答
えたイメージと変わっていたら、なぜ変わったのでしょうか。
48
ワーク2
次の問1∼問4に答えましょう。
問1 部落差別は、いつごろからはじまったと考えられますか。
ア 鎌倉時代 イ 室町時代 ウ 江戸時代
問2 江戸時代の身分制度はどのようになっていたと考えられますか。
ア 士農工商・えた非人とされ、部落の人々は他の人よりも下に位置づけられていた。
イ 武士や百姓・町人とは別な身分を制度化し、それ以前よりも強固な身分制度を確
立していた。
ウ 「士と農工商」という、武士が農民と町人を支配する身分制度をつくりあげていた。
問3 江戸時代の被差別部落の人々の生活はどのようなものであったと考えられますか。
ア 居住地や服装を決められ、村や町の祭りなどには参加できなかった。
イ 河原や荒地など生活条件の悪いところに住まわされたり、村や町の祭りなどへの
参加を禁止されていた。
ウ 貧しく、厳しいものであった。
問4 江戸時代の被差別部落の人々はどのような仕事をしていたと考えられますか。
ア 農業を営んで年貢を納めたり、牛馬の皮革加工や草履・雪駄づくり、医療・医薬
品製造に携わったりした。
イ 少ない土地の耕作や日用品の加工、死んだ牛馬の処理や皮革加工などの仕事を
行った。
ウ 当時の人々の好まないつらい役目を負わされていた。
ワーク3
生徒や卒業生等が同和問題で悩んでいたり、同和問題について相談を受けた例があれば
それらをあげ、考慮すべき点や課題を話し合いましょう。
49
解説7 同和問題について考えよう【教職員用】
1 ねらい
同和問題とは、日本の歴史の中で人為的・政治的につくられたもので、同和地区(被差
別部落)出身であるというだけの理由で就職や結婚において不当な差別を受け、社会的不
利益を受けているという人権問題である。
被差別部落に関する研究については、近年、多くの新しい成果が次々と発表され、被差
別部落の歴史に関する文献も数多く出版された。そこでは、これまで当然のように語られ
てきた部落差別の成り立ちを単純に「近世の政治体制による分裂支配」に求める考え方や、
「被差別部落の生活はつねに貧困で悲惨であった」といった見方などに、大きな修正と見
直しが求められている。こうした中で、教育現場でも、「被差別部落史の見直し及び転換」
が大きな課題となっている。
生徒に対して同和問題を語る前に、教職員自身が正しい認識を持っているか、肩書きや
住んでいる場所などで人を判断してしまってはいないか、ふりかえってみる必要がある。
話し手である大人の偏見が生徒に刷り込まれてしまうことを避けるのが本ワークシートの
ねらいである。
2 進め方
(1)ワーク1について
進行役がアンケートの(1)(2)を読み上げ、参加者は選択肢ごとに挙手する。挙
手により、部落史に関する認識の実態を全体で把握する。
(2)ワーク2について
問1∼問4について、各自が解答を選ぶ。その後、次の解説をもとに、認識を修正
する必要のある点を確認する。その際、DVD「部落の歴史(中世∼江戸時代)∼差別
の源流を探る」(字幕入り)の視聴が効果的である。
(3)ワーク3について
現在や過去の事例について、個人情報の扱いを慎重にした上で、2名∼5名のグルー
プ内で共有する。複数のグループがある場合は、最後に全体に発表し、課題を明らか
にする。
(解答、解説は「3 解説」を参照)
3 解説
被差別部落の歴史的起源には、近世政治起源説・異民族起源説・職業起源説・宗教起源
説などがあり、これまでの部落史学習においては、近世政治起源説に基づいて他の起源説
の誤りを正すという目的や、被差別部落の人々には差別されるいわれはないことを明確に
50
するという目的があった。しかし、近年多くの研究者たちによる様々な領域からのアプロー
チにより、被差別部落の人々の多様な姿が明らかにされてきた。また、近世政治起源説の
見直しも進められ、現在小中高等学校で使用されている社会科・歴史教科書の記述も改め
られた。さらに、部落史だけではなく、江戸時代への評価も大きく変わってきている。そ
のため、新しい部落史や江戸時代への評価の変化を積極的に取り入れる必要がこれまで以
上に求められている。
部落史の参考となる最近の研究成果などを次のように例示する(「人権学習ワークシー
ト集Ⅲ」参照)。なお、これらの知識の整理は、あくまでも人権を尊重し差別を許さない
態度を培うために必要である、ということを理解する。
(1)近世政治起源説の見直し(問1:(答)イ)
かつて、被差別民の起源について、近世政治起源説と言われる考えが中心的であった。
しかし、現在は、被差別民の起源については、中世か古代末期にまでさかのぼると考
えられている。かつて、特に死・出産・血などを非日常的なものとして「ケガレ」と
考える意識があり、その「ケガレ」を清める役割(「葬送」
「死牛馬の処理」
「行刑」
「造
園」
「掃除」)を担う人々への畏怖の念が、次第に「ケガレ」に関わる者への賤視観に
つながったと考えられている。このような差別意識の底流を権力が利用し、江戸時代
中期になって制度的に確立していったと考えられるようになっている。
(2)江戸時代の身分制についての見直し(問2:(答)イ、問4:(答)ア)
被差別部落の人々は、「武士・町人・百姓」とは別な身分とされて、地域社会から排
除と差別を受けていた(必ずしも身分の序列で最底辺におかれたわけではない)。特に
江戸時代中期から被差別部落の人々への差別が強化されてきたと言われている。しか
し、実際には、(1)にあげた「ケガレを清める役割」以外にも雪駄の販売や皮革製品、
医薬品の生産・販売、治安維持などで社会的・経済的に被差別部落の人々と他の身分
の人々との多様な交流が日常的にあったことが明らかになっている。
(3)江戸時代の被差別部落の生活の見直し(問3:(答)ア)
被差別部落の人々が一様に「貧しかった」という見方は、否定されている。被差別
部落の人々の中には、富裕な人も、貧しい人もいた。ある被差別部落の周辺の農村では、
18世紀以降に人口が停滞していった。しかし、その被差別部落では、人口が増加して
いたことが実証されている。その理由として、さまざまな手工業品や医薬品などの生産・
販売を行っていたことや、諸役を行うことによって経済力があったことなどが考えら
れている。だからといって、被差別部落の全ての人々が豊かであったとは見られてい
ない。また、生活条件の悪い地域に住まわされた事例もあるが、全国的ではないと見
られている。注意すべきことは、被差別部落の人々は貧しいことが原因で差別されて
いたのではないということである。
(4)被差別民の文化への貢献
中世における猿楽をはじめとする諸芸能や、慈照寺・鹿苑寺の庭園や優れた石塀な
どが、被差別民によって生み出された。また、「蘭学事始」に記載されている人体解剖
を実際に行い、内臓について正確な知識をもって説明をした人物は被差別民である。
51
さらに、医者や医薬品製造などに従事していた人もいた。このように、被差別民は、
日本の文化や医学の発展に功績を残している。
(5)
「解放令」について
明治4(1871)年にいわゆる「解放令」が出たことによって、それまで被差別身分
とされていた人々は、制度上は多くの武士や百姓・町人とともに平民となった。その
一方で、それまで与えられていた特権が奪われたために、経済的基盤を失い、社会的・
経済的な差別が強められてしまった。だが、解放令には、以後、各地で起きた多くの人々
の差別に反対する運動のよりどころとなったという意義もある。
(6)部落解放運動について
解放令以後、全国各地で被差別部落の生活状況を改善することで差別をなくそうと
する運動が行われていた。その中で、被差別部落の人々による自主的な解放運動を行
う全国水平社が大正11(1922)年に創立された。これ以後、各地で水平社が設立され、
差別をなくす活動を展開した。神奈川県では、水平社は設立されなかったが、青和会
が設立され、差別をなくすための活動を展開した。
戦後、基本的人権の尊重をうたった日本国憲法が施行された後も、部落差別は続いた。
そのために、昭和40(1965)年、国の同和対策審議会から「同和問題の早急な解決は国
の責務であり、同時に国民的課題である。」とした答申が出された。この答申などに基づき、
さまざまな同和対策を行う特別措置法が平成14年(2002)年3月まで施行され、生活環
境面などの改善において成果を上げたといえる。
しかし、現在でも、公共物への落書きやインターネットへの差別的な書き込みが絶えな
いなど、同和地区関係者への差別意識や偏見はまだ解消された状況とは言えない。一人ひ
とりが同和問題について正しい理解と認識を深め、差別を許さない心をもって、差別の連
鎖を断ち切ることが教育に求められていることを十分に認識した上で、生徒に同和問題に
ついて考えさせたい。
なお、同和問題に関する認識を確実なものとし、より豊富な情報を得るために各県立学
校に配付されている次の図書を参照していただきたい。
<配付図書>
「これでわかった!部落の歴史 私のダイガク講座」
「ビジュアル部落史 第1巻∼第5巻」
「神奈川の部落史」
<引用文献>
「人権学習ワークシート集Ⅲ−人権教育実践事例・指導の手引き(高校編第12集)−」
神奈川県・神奈川県教育委員会
「同和問題の正しい理解のために」神奈川県・神奈川県教育委員会
52
<参考文献>
DVD「部落の歴史(中世∼江戸時代)∼差別の源流を探る」(字幕入り)
「転採・新採教職員対象同和教育研修(A研修)」栃木県大平町教育研究所研究収録
http://www.cc9.ne.jp/~kenkyujo/kiyou/h13y/tyousa13/t13-09.htm
「同和教育の手びき 第34集 同和教育指導資料集部落問題学習の充実を目指して―部
落史の見直しと教育内容の創造(抄)」奈良県教育委員会(平成4年3月20日)
http://www.pref.nara.jp/dd_aspx_menuid-9206.htm
「Ⅲ『部落差別』は『つくられたもの』です」大分市教育委員会
https://www.city.oita.oita.jp/www/contents/1214983340750/activesqr/
common/other/burakusabetuha.pdf
53
8 同和問題について考えよう
このワークでは、同和問題(部落差別)について考えます。同和問題は、日本固有の重
大な人権問題です。日本の歴史の歩みの中で、人為的、政治的につくられたものです。現
在でも、同和地区関係者への差別意識や偏見は、解消された状況にあるとは言えません。
偏見や誤った考えが伝えられて差別が繰り返されるという差別の連鎖があったからです。
同和問題と向き合って、正しく理解し、差別を許さない心をしっかりともちましょう。
ワーク1
【調べ学習】被差別部落の歴史の見直しが進んでいます。その結果、次の事項がどのよ
うに説明されているか、教科書や歴史書などを調べてみましょう。
(1)室町時代の「河原者」とは、どのような場面で何をしていた人だと説明されていま
すか。調べましょう。
(2)江戸時代の被差別部落の人々の身分について、どのように説明されていますか。調
べましょう。
(3)江戸時代の被差別部落の人々の生活について、どのように説明されていますか。調
べましょう。
(4)江戸時代以降の被差別部落の人々の社会的役割について、どのように説明されてい
ますか。調べましょう。
54
(5)(1)∼(4)で調べたことをクラスに発表しましょう。他のグループの発表で気に
なる視点があれば、書きましょう。
(先生の説明)
ワーク2
次の表は、神奈川県が平成5年と平成13年に行った「人権と同和問題についての意識
調査報告書」のうち、結婚にかかわる項目の質問と調査結果を示したものです。
問 かりに、あなたが同和地区の人と恋愛し、結婚しようとしたとき、親や親戚から強い
反対を受けたら、あなたはどうしますか。(未婚者のみ)
選 択 肢
平成5年
平成13年
自分の意志を貫いて結婚する
20.7%
26.5%
67.2%
61.2%
家族の者や親戚の反対があれば、結婚しない
9.1%
9.1%
絶対に結婚しない
3.0%
1.9%
無回答
0.0%
1.3%
親の説得に全力を傾けたのちに、自分の意志を
貫いて結婚する
*神奈川県教育委員会「HUMAN RIGHTS」より作成
55
(1)前ページの調査結果をもとに、考えましょう。
① 「家族の者や親戚の反対があれば、結婚しない」「絶対に結婚しない」と回答した人の
理由を想像してみましょう。
② 平成5年と平成13年とで「家族の者や親戚の反対があれば、結婚しない」の数字が
変わっていない理由を考えてみましょう。
(2)グループで、(1)で考えた各自の意見を発表して、グループの中でどのような意見
があるかを確認しましょう。
ワーク3
ワーク1で調べたことと、ワーク2で話し合ったことをもとにして、誰もが差別されな
い、差別しない社会を作るために、自分たちでできることについて、各自の考えをグルー
プで発表し合いましょう。
56
解説8 同和問題について考えよう
1 ねらい
同和問題とは、日本の歴史の中で人為的・政治的につくられたものである。同和地区(被
差別部落)出身というだけの理由で就職や結婚などで不当に差別され、社会的な不利益を
受けているという人権問題である。
同和地区関係者への偏見や差別意識がいまだに解消されたとはいえない状況で、この
ワークが差別してしまうかもしれない自分に気づき、どのように行動するのか考えるきっ
かけになるようにする。また、被差別部落や被差別身分の起源、江戸時代までの被差別身
分の人々の生活に関する研究は、最近大きく進展している。その影響は、小・中・高等学
校の教科書の記述内容の変化にまで及んでいることを、このワークでは考慮している。
2 進め方
(1)ワーク全体に関わる配慮事項
グループの人数は5∼6人程度。
生徒が互いの意見に対して、否定をしないように配慮する。
人権についての配慮がない発言があった場合でも、その場で注意したり、否定し
たりしないが、看過せず生徒自身で気づき合えるように示唆する。
ワーク全ての最後に、まとめの時間を設けて、参加者全員が、差別をしない、許
さないことについて確認できるようにする。また、人権に配慮のない発言があった
場合、その問題性を生徒たちが気づかない場合は、必ず指摘する。
(2)ワーク1
同和問題について、ワークの前文の内容程度の説明を行う。
ワークシートを配付し、(1)∼(4)の課題をグループ別に分担して調べる。
調査方法としては、小・中・高等学校の教科書の記述内容を比較してみる。図書
館等で最近の歴史書等を参考にして調べることを薦める。
また、次の各県教育委員会のインターネット上の人権教育資料を参考にこのワー
クと解説を作成した。このワークを行う時は、参照することを薦める。
長野県教育委員会「人権教育指導の手引∼ヒューマンライツ イン ながの(社会教育編)∼」
http://www.pref.nagano.lg.jp/kyouiku/jinken/jinken42.htm
高知県教育委員会人権教育課 人権教育資料集のサイト
http://www.pref.kochi.lg.jp/%7Ejinkyou/jinnkenn/gakkou/tunagari/tunagari-top.html
和歌山県教育委員会 人権教育のサイト
http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/500100/koumoku2/sub7_2.html
57
(3)
(先生の説明)
ワーク1を元に、解説をする。
(例)その地域に住んでいるというだけで、何のいわれもないのに差別され、偏見を
持たれた人がいる。
(4)ワーク2
生徒がそれぞれに自由に思ったことを書くようにする。
グループとして意見を統一する必要がないことを伝える。
(5)ワーク3
生徒ができるだけ多様な意見を発表できる雰囲気を作るようにする。
3 解説
教師は生徒に「差別や偏見はいけない」等、人権尊重の理念や人権に関する知識につい
て話をするが、実は教師自身も服装や外見や肩書きや住んでいる場所で人を判断している
場合があるかもしれない。話し手である教師(大人)の偏見が生徒に刷り込まれしまうこ
とも十分考えられる。生徒の差別意識の背景に大人がいる可能性を考えて、大人から子ど
もへの差別の連鎖を、教育の力で断つことが求められている。
同和問題について取り上げる場合、地理歴史科や公民科の教科書に記載されている同和
問題に関連する歴史の諸問題についての知識を教えるだけでなく、いまだに同和地区関係
者への偏見や差別意識が解消されていない状況にあることを認識して、生徒一人ひとりの
心の中に差別を許さない心をしっかりと育むことが大切である。
(1)平等について
憲法14条には「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的
身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」とあ
る。そして、平等とは、「人を分け隔てなく、等しいものは等しく扱う」ことである。
これらのことから、かながわ人権施策推進指針では「誰もが機会の平等を保障され、
能力が発揮できる社会づくりをめざす」ことが基本理念に述べられている。この「機
会の平等」を保障するためには、あらゆる人々が互いに違っていることを認め合うこ
とが前提になる。例えば、日本語を母語としない児童・生徒に対して、個別に日本語
授業を行うことなどは、能力の発揮の機会を保障し、教育を受ける権利の保障のため
に必要なことになると考えられる。他と異なった扱いであっても、それが状況によっ
ては、平等を保障することにつながるのである。
(2)
「差別」とは?
「差別」とは、「特定の人々(個人や集団)に対する偏見をもとに、その人々に対し
て不利益・不平等な扱いをすること」と考えられる。たとえば、採用選考において本
58
籍地や家族の職業などを理由に不採用にすることは、不採用の理由が本人の能力・適
性とは関係のない予断と偏見に基づくものであり、「差別」といえる。
なぜ「差別」は生まれるのか?
「差別」は、「偏見」から生まれるという。十分な根拠のないマイナスイメージ(偏見)
を、個々の差異を無視してその集団に当てはめ、それが「ことば」や「態度・行動」
として表に出ると「差別」を生むと考えられる。
「差別」をしない、させないためには?
「自分の偏見に気づくこと」「偏見をなくそうと努力すること」が大切である。その
ためには、人権に関する知的理解を深めるとともに、人権感覚を養うことで、自他の
人権を守ろうとする意識・意欲・態度を向上させ、それらを実際の行為に結びつける
実践力や行動力を育成することが求められる。
(3)被差別部落の歴史の転換
同和地区(被差別部落)の歴史を学ぶ場合に留意すべきことは、知識を増やすこと
が最終目標ではなく、民主的、平和的な国家・社会の一員として、有為な社会の形成
者として必要な自覚と資質を養うために、人権を尊重し差別を許さないようになるこ
とが、この学習の最終的な目標になっていることを忘れないことである。
被差別部落の歴史について指導する場合に、参考となる最近の研究成果などとして
次のことを例示する。また、前章教師用解説により補足する。
日本の歴史の中で、人為的に形作られてきた身分制度により、一部の人々が住居や職業、
結婚などを制限される差別を受けてきました。特定の地域の出身であることやそこに住んで
いることを理由に差別される我が国固有の人権問題を、同和問題といいます。
こうした身分による差別は、すでに室町時代には一部の職業の人々が差別されていたこと
にはじまると考えられています。江戸幕府は、武士や百姓・町人とは別な身分を制度化し、
それ以前よりも強固な身分制度を確立しました。この制度の下で厳しい差別を受けていた
人々は、農業を営んで年貢を納めたり、優れた技術で牛馬の皮革加工や草履・雪駄づくり、
医療・医薬品製造に携わったりするなどしたほか、城や寺社の清掃、幕府や藩の役人のもと
で町や村の警備を行うなどして、社会を支えてきました。また、猿楽などの古くから伝わる
芸能を継承発展させて、日本文化に大きく貢献しました。
明治4(1871)年に「解放令」が出て江戸時代の身分制度は廃止され、それまで被差別
身分とされていた人々は、制度上は多くの武士や百姓・町人とともに平民となりました。し
かし、多くの人々に身分差別の意識が残っている中で、被差別身分だった人々は、身分に伴っ
て認められていた皮革加工などの権利が否定され、経済的に厳しい状況に置かれました。そ
うした状況の中で、差別から解放を求める運動が各地ではじまりました。
∼「同和問題の正しい理解のために」神奈川県教育委員会(p.3)∼
59
(4)今後の課題
インターネットへの差別的な書き込みが絶えないなど、同和地区関係者への差別意
識や偏見はまだ解消された状況とは言えない。これからも、一人ひとりが同和問題に
ついて正しい理解と認識を深め、差別を許さない心をもって、差別の連鎖を断ち切る
ことが、教育に求められている。
<引用文献>
「人権学習ワークシート集Ⅲ−人権教育実践事例・指導の手引き(高校編 第12集)」
『9 同和問題について考える』(教材編p.33∼p.34,解説編p.72∼p.75)神奈川県教
育委員会 平成20年3月
<参考文献>
「神奈川の部落史」 編・著者「神奈川の部落史」編集委員会
「神奈川県史」(政治・経済篇)
60
9 異文化を体験してみよう①
ワーク1
(1)次の動作(習慣)を、「①いつも自分でやっている方法」でやってみましょう。そし
て、次に「②いつもと違う方法」でやってみましょう。
そしてまた、もとの「①いつも自分でやっている方法」でやってみましょう。
A 腕を組む。
B 肩にカバンをかける。
C 「あいうえお」と書く。
D 消しゴムで字を消す。
(2)それぞれの動作を、「②いつもと違う方法」でやってみたときの感想を書いてみま
しょう。
A
B
C
D
(3)それぞれの動作を、再度「①いつも自分でやっている方法」でやってみたときの感
想を書いてみましょう。
A
B
C
D
61
ワーク2
(1)次の文字を書き写してみましょう。
(2)アラビア文字の「書き方の基本」を聞いてもう一回書いてみましょう。
(3)(1)
・
(2)を体験した感想を書いてみましょう。
(4)次の①∼④の文をルビを参考に読んでみましょう。
また、下の単語の意味の説明を参考に訳してみましょう。
①
①訳)
ンゥトヤッニーバーヤ −ナア
②
②訳)
ンゥトザーミルィテ −ナア
③
③訳)
ンユーィビラア タンア
④
④訳)
ンムリッアム タンア
私 あなた 日本人 アラビア人 生徒 先生
62
(5)次の①・②の文字を、指示に従って書き写してみましょう。
①
②
朝食の後、私の父は事務所に行く。
彼は、石油会社の社員である。
私の妹は、学校で昼まで勉強する。
それから彼女の友達と遊ぶために、公園に行く。
63
(6)
(1)∼(5)でアラビア文字を書き写したときの感想を書いてみましょう。
(7)漢字を使わない国から来た人が、漢字と仮名ばかりの黒板の文字をノートに写そう
としています。アラビア文字を書き写す体験を参考に、その人の気持ちを想像して
書いてみましょう。
ワーク3
(1)他の言語と比べて、
「日本語の難しさ」にはどのようなことがあるか考えてみましょう。
(2)高校生活の中の規則(学則、生徒心得、生徒会会則など)に使われている言葉を5
つ書き出し、日本語を母語としない人にもわかるように説明を考えてみましょう。
言 葉
説 明
1
2
3
4
5
全体をとおして… このワークを行った感想を自由に書いてみましょう。
64
解説9 異文化を体験してみよう①
1 ねらい
外国につながりのある生徒が増えているにもかかわらず、文化や習慣の違いから、彼ら
は戸惑いや暮らしにくさを感じ、他の生徒との交流も誤解や無理解によってなかなか進ま
ない状況にある。
日常的に異文化の中で暮らす困難さを体験し、他者の文化を理解しようとする姿勢を育
成する。
2 進め方
(1)ワーク1について
「①いつも自分でやっている方法」「②いつもと違う方法」とは…
例えば、A ①右手が上で腕を組む。 ②左手が上で腕を組む。
B ①左肩にカバンをかける。 ②右肩にカバンをかける。
C ①普通の書き順で「あいうえお」と書く。
②全く逆(下から上、右から左)の書き順で「あいうえお」と書く。
D ①右手で消しゴムを使う。 ②左手で消しゴムを使う。
感想記入後、意見を出し合って共有するとよい。
その他、「腕時計を違う手にする」「利手ではない方の手でトランプを切る(紙を
数える)」「右脚と右手を同時に出す歩き方をする」など、様々な方法が考えられる。
(2)ワーク1
(1)は、「書き方の基本」を知らずに書き写す作業を想定して行わせる。
(2)の「書き方の基本」は、文字は「右→左へ」「線は上→下へ」「点は後で」。
点は後からふるが、1文字ごとにふってもよいし、1つの単語が書き終わってか
らまとめてふってもよい。(英語の筆記体を右から逆に書くイメージ)
65
(3)の感想記入後、意見を出し合って共有するとよい。
(4)では、アラビア語は文字を右から左に書くため、ルビも右から左にふってあ
る。例えば、①の読みは「アナー ヤーバーニッヤトゥン」となる。
なお、男性形の「あなた」は「アンタ」と読む。
(4)の訳は、
①「私(女性)は、日本人です。」
②「私(女性)は、生徒です。」
③「あなた(男性)は、アラビア人です。」
④「あなた(男性)は、先生です。」
となる。 なお、アラビア語には多くの言葉に男性形と女性形があり、ワーク2の例文で
用いられているそれぞれの言葉の形は次のとおりである。
私(女性形)
日本人(女性形) 生徒(女性形)
あなた
(男性形)
アラビア人(男性形) 先生(男性形)
(5)は、クラスの列ごとに交互に「A班」「B班」とする。
・1回目は、「A班」に①(アラビア語)を、「B班」に②(日本語)を書かせる。
・2回目は、交替して各々やっていない方を書かせる。
・2回とも、書くときは一斉に作業を開始させて、終わったら筆記用具を置くよう
に指示しておく。
(6)・(7)は、感想記入後、意見を出し合って共有するとよい。
(3)ワーク3について (1)の例;「漢字が複雑」
「漢字の読みが何とおりもある(その時によって変化する)」
「擬音語・擬態語が多い」
「ニュアンスが少し違う言葉が多い」など
(2)の例;「教科」「科目」「単位」「学期」「休業日」「開校記念日」
「祝日」「生徒証」「日課表」「公欠」「生徒心得」「遅延証明」
「部・同好会」など
また、(2)の説明には、できるだけわかりやすい日本語を使う。
66
3 解説
(1)ワーク1について
それぞれの国や地域にはそれぞれの文化や習慣があり、日常的に行っている習慣と
違うことをすることだけでも、違和感やストレスを感じることを体験させたい。
(2)ワーク2について
文字などは、幼い頃から少しずつ自然に書き方の基本的なルールを身につけている
ものである。それが獲得されていない場合(例えば、非漢字圏からきた生徒が日本の
漢字を習う場合など)には、文字を「絵」として「写す」ことになる。
ここでは、アラビア語という日常的にはあまり接することのない言葉を使って、そ
の大変さと、書き間違いなどの多さなど(日常会話が獲得できていても「書く」とい
うことを習得することの難しさ)を体験することによって、異文化の中で暮らすこと
について考えさせたい。
また、日本語とアラビア語を同時に書き写す作業では、作業のスピードに差異が出
ることが容易に想像できる。周囲の人たちが作業を終えていく中で慣れない作業を行
うという体験をとおして、異文化の中での暮らしにくさを想像し、日常生活の中で互
いにどのようなアプローチができるかなどについても考えを深めさせたい。
アラビア語は、西アジア・北アフリカのアラブ諸国を中心に、世界の言語の中でも
広く用いられている言語の一つである。このアラビア語を公用語としている主な国に
は、アラブ首長国連邦、アルジェリア、イスラエル、イラク、エジプト、クウェート、
サウジアラビア、シリア、チュニジア、バーレーン、モロッコ、ヨルダン、リビア、
レバノンなどがある。
(3)ワーク3について
ワーク2の体験をベースに私たちが日常的に使っている「日本語」について見つめ
直し、日本語を母語としない人にどう説明したらよいか(どう接したらよいか)につ
いて考えを深めさせたい。知らない言語を話す者同士が、互いに知らないことを理由
に誤解し合うこともあるため、伝える手段として「わかりやすい言葉」に言い換える
すべを会得し、交流する態度を育成したい。
これは、「子どもに対して」「障害(知的障害や発達障害)がある方に対して」「高齢
者に対して」の言葉掛けの際にも同様に言えることではないだろうか。
67
10 異文化を体験してみよう②
ワーク1
(1)次のルールでジャンケンゲームをやってみましょう。
① グループの中で、リーダーを1人、訪問者を3人決める。
② 訪問者は一旦退出し、その間にジャンケンのルールを確認する。
③ 訪問者を招き入れ、リーダーのかけ声でジャンケンを繰り返す。訪問者が入っ
てからは、リーダーのジャンケンのかけ声以外は、喋ってはいけない。
但し、言葉以外の方法ならば、訪問者にルールを教えてもよい。
④ 訪問者は、どのようなルールでジャンケンをしていたかをあてる。
(2)ゲームの感想を書きましょう。
私は…〔 リーダー ・ 訪問者 ・ その他の人 〕(自分の役割に○)
ワーク2
(1)グループにわかれてトランプゲームを行いましょう。
① A・Bの2グループにわかれる。
② それぞれのグループで、配付されたシートを黙読し、
ゲームのルールを確認する。(ここからは指定の言葉以
外一切話してはいけない。)
③ 1回戦:それぞれのグループでルールを確認しなが
らゲームを行う。
④ 1回戦のそれぞれのグループの勝者(1位)の人は、
特命大使としてもう一方のグループに視察に行く。
⑤ 2回戦:それぞれのグループのルールでゲームを行
い、もう一方のグループの特命大使はその
様子を視察する。
⑥ 2回戦のそれぞれのグループの勝者2名(1・2位)
の人は、自分のグループが派遣した特命大使から他の
グループのルールの説明をうけ(筆談のみ)、特命大使
とともにもう一方のグループへ行く。
⑦ 3回戦:それぞれのグループのルールでゲームを行
い、もう一方のグループの特命大使と2名
はその国のルールに従ってゲームに参加する。
68
⑧ 3回戦目のルールをワークシートの(2)に記入する。(元のグループに残った
人は、元のルールを記入。グループ特命大使と2名は、もう一方のグループのルー
ルを記入。)
⑨ それぞれのグループのルールが正しかったかどうかについて、答え合わせをす
る。
(2)3回戦目のゲームのルールを書いてみましょう。
カード交換の方法;
「ピー」という言葉の意味;
「ポー」という言葉の意味;
ゲームの「勝ち」
;
勝った人はどうするか;
普段の表情;
(3)このゲームを行った感想を書き、互いに意見を発表しましょう。
○ 特命大使になった人:最初にもう一方のグループに行ったときの感想と、3回戦の
ときの感想
○ 3回戦でもう一方のグループに行った人:もう一方のグループでのゲームの感想
○ ずっと最初のグループにいた人:特命大使や他の2人がもう一方のグループに行っ
てしまったときの感想と、自分がずっと同じグループにいたことについての感想
(自分の役割に○)
私は…〔 特命大使・もう一方のグループに行った人・ずっと最初のグループにいた人 〕
(4)
他のグループの人や他の立場だった人の意見を聞いて、気づいたことを書きましょう。
(5)全体をとおして… このワークを行った感想を自由に書いてみましょう。
69
解説10 異文化を体験してみよう②
1 ねらい
外国につながりのある生徒が増えているにもかかわらず、文化や習慣の違いから、彼ら
は戸惑いや暮らしにくさを感じ、他の生徒との交流も誤解や無理解によってなかなか進ま
ない状況にある。
異文化シミュレーションゲームを行うことによって、日常的に異文化の中で暮らすこと
や言葉を用いない文化理解の困難さを体験し、他者の文化を理解しようとする姿勢や異文
化を受け入れようとする姿勢を育成する。
なお、このゲームは異文化シミュレーションゲーム「バーンガ※1」と「バファバファ※2」
をもとに考案した。
※1 バーンガ … 神奈川県教育委員会「人権学習ワークシート集Ⅳ 人
権教育実践事例・指導の手引き(高校編第13集)」(p.8∼p.9)参照
※2 バファバファ … 2つの文化を作り出し、擬似的に異文化体験を作
り出すことによって自分たちと異なる文化に対する感じ方、行動を
振り返り、異文化間の交流のあり方を考えるゲーム。
2 進め方
(1)ワーク1について
① グループ・訪問者の人数は7人以上であれば適宜でよい。
② リーダーは立っていて、他の人から見えやすい方がやりやすい。
訪問者を含め、ジャンケンをする人は車座(いすを用いても良い)になる。
訪問者は、固まって座っても離れて座ってもよい。
③ ジャンケンルールは、リーダーの指示で全員が同じものを出す。
例えばリーダーが…
口を大きく開けたら「パー」、縦に開けたら「チョキ」、結んだら「グー」
足を開いたら「パー」、片方前に出したら「チョキ」、閉じたら「グー」
ジャンケンの掛け声の前に、「じゃあ始めるよ」というジェスチャーで、手を
頭に当てたら「パー」、鼻に当てたら「チョキ」、口に当てたら「グー」
④ 感想記入後、それぞれの役で意見を出し合って共有するとよい。
(2)ワーク2について
① ゲームはA・Bの2グループで対戦する。
1グループあたりの人数は、最低6人必要(できれば10人程度)である。
1クラスの人数が多いときは、クラス全体を4グループにわけ、A・Bのグルー
プを2つずつ作ることもできる。
70
② Aグループ、Bグループにそれぞれゲームのルール(<別紙>参照)を配付する。
【*シート*】はAグループ用、【**シート**】はBグループ用である。
異なるシートを配付することを生徒に気づかれないようにする。
各シート内の 『ゲームの進め方』
は、AグループとBグループの共通のルー
ルである。
各シート内の 『ルール』
はAグループ・Bグループで異なるルールである。
各シートは生徒それぞれに配付し、1回戦が終わるころ生徒に意識させない
ようにそれとなく回収する。
③ Aグループ・Bグループでの一回戦の各勝者が、「特命大使」として、相手チー
ム(Aグループの特命大使はBグループ、Bグループの特命大使はAグループ)
を視察する。その際、あらかじめ<別紙>
【メモ用紙】を渡し、記入してよい。(1)
⑥の説明の際には、見ながら説明してもよい。
④ それぞれの回にかかる時間が長い場合は、2人があがって終了としてもよい。
⑤ 3回戦終了後、(2)を記入させる。その際、3回戦目のルールなので、「特命
大使」と「もう一方のグループに行った人(2回戦の1・2位)」はもう一方のグ
ループのルールを記入し、「ずっと最初のグループにいた人」は自分たちのグルー
プのルールを記入して、答え合わせの際に使用する。
⑥ (3)感想記入後、それぞれの役で意見を出し合い、(4)に気づきをまとめさ
せる。
⑦ 時間があれば、1回戦(それぞれのルールの下でのゲーム)を2回行ってもよい。
3 解説
(1)ワーク1について
異文化の中でどのように行動してよいかわからないときの不安感を体験するととも
に、言葉を介さずに伝える方法について考える。
(2)ワーク2について
特命大使や2名の訪問者によって文化が伝わるということと、ルールがよくわから
ないという不安感などを体験する。互いのルールへの誤解など、現実に異文化理解の
場面で起こりうることも、ゲームの進行状況によっては体験可能である。
ゲーム中は、特定の言葉以外話してはいけないが、アイコンタクトやボディランゲー
ジは可能なので、言葉を介さない意思疎通の体験も行うことができる。
2回戦目では、特命大使は1人で別の環境に入って行くが、3回戦目は仲間が一緒
である。それぞれの時の気持ちや互いの感情についても考えてもらいたい。マイノリ
ティの人たちが固まる(グループ化する)ことは、批判的に捉えられがちであるが、
文化(立場)を同じくする者同士が互いに結びつき合う気持ちについても考えるきっ
かけとしたい。
71
<別紙>(コピー用シート)
【*シート*】
72
【**シート**】
73
【メモ用紙】
74
カード交換の方法: 「ピー」という言葉の意味: 「ポー」という言葉の意味: ゲームの「勝ち」: 勝った人はどうするか: 普段の表情: 11 犯罪被害者とその家族の人権について考えよう
Aさんのお兄さんは、昨日の夕方、通りがかりの人に暴行されて意識不明となり、病院
で手当を受けています。Aさんなど家族の人たちは、交代でお兄さんに付き添うことにし、
Aさんは先ほど自宅に戻ってきました。
先ほど朝のニュースで事件のことが報道され、事件の概要とお兄さんの名前、自宅の住
所が町名まで伝えられていました。すると…
ワーク1
ニュースで報道されたためか、報道陣や近所の人がAさんの自宅の前に集まってきまし
た。その人たちは、何を話していると思いますか。3つあげてみましょう。
●
●
●
75
ワーク2
Aさんの自宅の電話やインターホンが何度も鳴りました。どのような人が、どのような
用事で電話をしてきたり、訪ねてきたと思いますか。3つあげてみましょう。
●
●
●
ワーク3
(1)2人一組のペアグループを作り、「話す人」と「聞く人」に分かれましょう。
(2)「話す人」は、自分が考えたワーク1・ワーク2の内容を「聞く人」に伝えましょう。
「聞く人」は、Aさんの家族の立場に立って「話す人」の言葉を聞きましょう。
(3)
「聞く人」は、「話す人」の言葉を聞いて感じたことを下に書きましょう。
(4)
「話す人」と「聞く人」を交代し、(1)∼(3)を行いましょう。
ワーク4
ワーク1∼3をもとに、事件の被害者の家族が本当にしてほしいと思う「周囲の人々の
支えや協力」とは、どのようなことだと思うか、自分で考えてみましょう。
ワーク5
ワーク4で考えたことをグループ内でお互いに発表した上で、事件の被害者の家族が本当に
してほしいと思う「周囲の人々の支えや協力」について話し合い、3つにまとめてみましょう。
●
●
●
76
解説11 犯罪被害者とその家族の人権について考えよう
1 ねらい
犯罪被害者やその家族は、犯罪そのものによる被害だけでなく、第三者から「二次被害」
を受けることも多い。シミュレーションを通じて犯罪被害者の家族の立場や気持ちを想像
させ、将来二次被害を作り出さないようにすることをねらいとしている。
2 進め方
ワーク1・2については平常の机配置で行い、生徒は各自自分の考えを記入する。ワー
ク3・4はペアワーク、ワーク5はグループワークとし、考えを共有させる。
(1)ワーク1について
自宅前に集まってきた人々が何を話しているかを想像させ、3つ以上記入させる。
この時点では、相談せずに自分の力で考えるように指導する。
(2)ワーク2について
自宅の電話やインターホンで誰がどのような言葉を発するのかを想像させ、3つ以
上記入させる。(1)と同様に、相談せずに自分の力で考えるように指導する。
(3)ワーク3について
最小グループである2名で「犯罪被害者の家族」の側に立って考えることで、(2)
で第三者が特に意図せずに発した言葉や行為、またその繰り返しが、当事者にとって
大きな痛手となりうることを理解させる。
ワーク3の取組みの際には、生徒の中に犯罪被害者やその家族としての体験を持つ
生徒がいる可能性もあることに十分配慮し、そういったことを配慮しない不適切な発
言が生徒に見られた際にはその時間内に正すよう留意する。また、教員側からの言葉
として、「犯罪被害者やその家族は、犯罪そのものの心の痛手のみならず、時として、
周囲の人々やマスメディア、またはそれらを通じて間接的に事件を知った人々からの
好奇の目や心無い言葉に苦しめられ、事件が忘れ去られたあとも、後遺症として苦し
むことにもなりかねないのだ」ということ伝えたい。
(4)ワーク4
ワーク3で、家族の気持ちになって聞いた感想や、教員から説明されたことをもとに、
犯罪被害者の家族にとって必要なこととは何かを、引き続きペアで考えさせる。
77
(5)ワーク5
ペアグループ2つを合体させ、4人程度のグループを作る。ワーク4で書いたこと
をもとに、グループで話し合いをさせ、重要だと思われることを3つにまとめさせる。
その際にはいろいろな考え方があることを尊重し、他の人の意見や感想を一方的に否
定しないよう配慮させるとともに、犯罪被害者の家族にとって必要かどうかという観
点から精査する方向で話し合いを進めるように助言する。最後にまとめとして、各グ
ループから全体に対して発表させる。
(6)まとめ
犯罪被害者やその家族というと、生徒は遠い存在だと思ってしまうかもしれないが、
実際には予期せずにその立場に置かれるものであることを説明することで、犯罪被害
者等の置かれている立場を生徒に理解させたい。また、二次被害に関しては、生徒た
ちが場合によっては加害者になる可能性もあることをふまえ、どういうことをされた
ら嫌な気持ちになるか、どんな支援をしたらよいかを考えさせたい。特に場面Aで示
したような近所の人が自宅前で話している中に、うわさ話のようなものが出てくる可
能性がある。その際には、うわさ話をされて嫌な思いをするケースは日常の中にもあ
るので、身近なことから気をつけることが大切であり、自分が加害者になっているこ
とはないかということについても考えさせたい。
3 解説
犯罪の被害者は、命を奪われる、けがをする、物を盗まれるなどの生命、身体、財産上
の被害だけではなく、さまざまな二次被害を受けることが多い。その被害は家族や知人に
も及ぶことから、犯罪被害者等と「等」をつけていることも生徒に理解させたい。
犯罪被害者等は、犯罪そのもので大きな被害を受けているにも関わらず、場合によって
は近隣の人々、マスメディアやそれを通じて犯罪被害を知った者から好奇の目で見られた
り、根拠のない誹謗や中傷を受け、二次的に大きな精神的打撃を受けることがある。
二次被害には、次のようなものがあげられる。
事件に遭ったことによる精神的ショックや身体の不調
医療費の負担や失職、転職による経済的困窮
捜査や裁判の過程における精神的、時間的負担
周囲の人々の無責任なうわさ話やマスコミの取材、報道によるストレス、不快感
これらの中でも精神的な被害は深刻で、犯罪による著しいストレス障害を抱え、精神的、
経済的支援を求めている犯罪被害者等が多数認められる。
平成12(2000)年には、犯罪被害者や遺族は優先的に裁判を傍聴することや、裁判中
でも捜査記録などの公判記録をコピーすることができるようになった。また平成16
(2004)年には※犯罪被害者等基本法が制定され、犯罪被害者等は個人の尊厳が重んぜら
れ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有することなどが定められ、犯罪被害
者等への支援を手厚くする動きが見られる。
78
犯罪被害者等によって作られている団体の中には、犯罪被害者等へのカウンセリングの
実施など、さらなる支援を国などに求めている団体もある。
●犯罪被害者等の主な相談窓口
*かながわ犯罪被害者サポートステーション(かながわ県民センター14階)
(045)311−4727
*犯罪被害者等早期援助団体 NPO法人 神奈川被害者支援センター
(ハートライン神奈川)
(045)328−3725
※ 「犯罪被害者等基本法」
(平成16年(2004)年12月8日制定)
この法律は、犯罪被害者等(犯罪やこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為の被害者及びそ
の家族又は遺族)のための施策を総合的かつ計画的に推進することによって、犯罪被害者等の権利
利益の保護を図ることを目的としており、その基本理念として、犯罪被害者等は、個人の尊厳が重
んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有することなどが定められています。(神
奈川県・神奈川県教育委員会「HUMAN RIGHTS」より)
<参考資料>
神奈川県・神奈川県教育委員会「HUMAN RIGHTS−人権を考える−」
平成23年3月発行
内閣府・犯罪被害者等施策「犯罪被害者等基本法」
ホームページhttp://www8.cao.go.jp/hanzai/kihon/hou.html
79
12 「普通」って何?∼多様な性を考えよう∼
あなたは「男」ですか「女」ですか、それとも、そのどちらでもないと思うことがあり
ますか。
人を好きになるということは単に「男」が「女」を、あるいは「女」が「男」を好きに
なることだけではないかもしれないと考えたことがありますか。
あなたは戸籍上は「男」あるいは「女」ということになっているはずです。公式な文書
であるか否かを問わず、いろいろな書類には必ずといっていいほど「男・女」のどちらか
にチェックする項目があります。でも、このことに戸惑いを感じる人がいるかもしれない
と考えたことがありますか。
ワーク1
「LGBT」という言葉を知っていますか?
「L」
「G」「B」「T」はそれぞれある言葉の頭文字です。その言葉とは何でしょうか?
考えてみましょう。
「L」… ( )
→ 女性同性愛者。女性で女性を愛する人
「G」… ( )
→ 男性同性愛者。男性で男性を愛する人
「B」… ( )
→ 両性愛者。好きになる人が同性の場合も異性の場合
もある人。
「T」… ( )
→ 生まれたときに法律的社会的に割り当てられたその
人の性別とは異なる性別を生きる人。
80
ワーク2
次の【
『性』の地図】を完成させてみましょう。
①∼⑫の空欄には「男」「女」のどちらが入るでしょうか。記入してみましょう。
【
『性』の地図】
生物学的性
からだの性
A
一般女性
B
一般男性
C
性転換者
女→男
D
性転換者
男→女
XX
(女性)
XY
(男性)
XX
(女性)
XY
(男性)
性 指 向
性 役 割
こ
こ
ろ
の
性
性 自 認
①
②
③
E
ゲイ
F
レズビアン
XY
(男性)
XX
(女性)
④
女
女
⑤
⑥
⑦
⑧
男
女
⑨
⑩
⑪
女
⑫
女
***用語説明***
「性自認」
:人間が有している自己の性別に関する確信。「自分は男(女)である」と
いう確信。
「性指向」
:性的魅力や欲望を男に感じるのか、女に感じるのか。異性に対して感じる
のか、同性に感じるのか。そのどちらにも感じるのか、あるいはどちらに
も感じないのか、自分の性的好みがいずれに向いているのかを示すこと。
「性役割」
:その性別に、社会的に期待されている役割のこと。「男だからめそめそし
ない」
「女だから、おしとやかにする」などの行動規範に従って行動する
とき、その人物は性役割を演じているとされる。
81
ワーク3
(1)あなたが【『性』の地図】のうちC「性転換者 女→男」であり、まだ周囲から女だ
と思われていると仮定します。次のような言葉を聞いたとき、あなたはどう感じる
でしょうか。下の欄に記入してみましょう。
① 「どうしてそんな男の子みたいな服を
着ているの?」
② 「女の子は女の子と遊びなさい。
」
③ 「着替えは女子更衣室でしなさい。
」
④ 「同性愛ってキモいよね。
」
(2)では、どうすればそういう気持ちにならないと思いますか。自分の考えを下の欄に
記入し、グループで話し合ってみましょう。
82
解説12 「普通」って何?∼多様な性を考えよう∼
これは、
「『性』は『グラデーション』である」、つまり、「性」とは、色調が徐々に段階
的に変化するように、二者択一ではない、ということを伝えるためのワークシートである。
1 ねらい
男は男らしく、女は女らしくあって、そういった男女がステディな関係(特定の相手と
のみ交際する関係)を築き、幸せな結婚をすることが理想的な生き方であるというのはご
く「普通」の常識であると考えられている。
しかし、理論的にも現実的にも、私たちのセクシュアリティ(性的指向性、性について
の関心)とジェンダー(男らしさ、女らしさといった、社会的・文化的につくられた性別)
の結びつきはきわめて多様である。そういった「性的マイノリティ」の存在について理解
を深め、多様な生き方を認めて共生していくための視点の獲得をめざす。
2 進め方
(1)ワーク1について
まず、基本的な知識の確認として、指名し、それぞれの言葉を答えさせる。L・G
はマスコミなどでも取り上げられることが多いので比較的簡単に答えられると思われ
るが、B・Tについては知らない生徒が多いことが予想されるので、説明を加える。
(2)ワーク2について
ワーク1で確認した「LGBT」について、より詳細に理解するためのワークである。
空欄には「女」あるいは「男」の文字を記入させる。
実際はこれほど単純ではなく、よりグラデーションに近い多様なものになるはずで、
これはかなり簡略化された表である。
「性自認」「性指向」「性役割」については、分かりにくい語なので、〔用語説明〕を
参照させる。
〔解答〕
性指向 性役割
こころの性
生物学的性 性自認
からだの性
A
一般女性
B
一般男性
C
性転換者
女→男
D
性転換者
男→女
XX
(女性)
XY
(男性)
XX
(女性)
XY
(男性)
女
男
女
①
⑤
⑨
男
女
男
②
⑥
⑩
男
女
男
③
⑦
⑪
女
男
女
E
ゲイ
F
レズビアン
XY
(男性)
XX
(女性)
④
⑧
⑫
男
女
男
女
男
女
「高校生のジェンダーとセクシュアリティ」(須藤廣編著 明石書店)より
83
(3)ワーク3について
実際に自分が「性的マイノリティ」だったらどうなのか、ということを当事者の立
場で想像させるワークである。それに基づき、どうすればお互いを尊重しながら生き
ていくことができるのかを考えさせる。3∼4人のグループに分かれて話し合わせ、
その結果を発表させてもよい。
3 解説
(1)ワーク1について
「LGBT」は当事者が自分のことをポジティブに語る言葉として、1990年代以降
北米やヨーロッパで使い始められ、最近では日本でも使われるようになってきている。
L、G、B、Tはそれぞれレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー
の頭文字であるが、それぞれを指すだけではなく、「LGBT」として広く性的少数者
を指す表現として用いられることも多い言葉である。生徒に伝える前に、まず教員が
知識を持っておきたい。
L:レズビアン。女性同性愛者。女性で女性を愛する人。「レズ」という略称は侮蔑的
に感じる人も少なくなく、当事者の間では、「ビアン」と略称することも多い。レ
ズビアンのイメージを男性的な格好をした女性と考えている人も少なくないが、
女性的な服装をしているレズビアンも多く、異性愛者の女性と同じように、その
あり方は多様である。
G:ゲイ。男性同性愛者。男性で男性を愛する人。(欧米では“ g a y(ゲイ)”は、性
別を問わずすべての同性愛者を含む言葉として用いられることが多いが、日本で
はレズビアンと区別して男性同性愛者のみをさすことがほとんどである。)テレビ
などメディアで露出している人の傾向から女装したりオネエ言葉を使うのがゲイ
だと思われがちだが、そうではない人も多い。「ホモ」や「おかま」という表現は
侮蔑的なニュアンスが含まれていると感じる当事者も多い。
B:バイセクシュアル。両性愛者。好きになる人が同性の場合も異性の場合もある人
のこと。「バイ」は「2」を意味する接頭語。「男性か女性か」の二者択一ではなく、
「性別に関係なく」人を愛するという意味でパンセクシュアル(「パン=すべての」
という意味)という言葉を好む人もいる。なお自分のことをバイセクシュアルだ
と思っていない人の中にも、
「異性愛者であると思っているが、同性にも興味を持っ
たことがある」「同性愛者と思っているが、異性にも興味を持ったことがある」と
いう人はいる。
T:トランスジェンダー。生まれたときに法律的社会的に割り当てられたその人の性
別とは異なる性別を生きる人のことを言う。心の性別と身体の性別が一致しない
84
人のことを指す医学上の診断名「性同一性障害」より広い概念で、トランスジェ
ンダーの人の中には、性同一性障害の診断を受けていない人もいる。「障害」とい
う言葉に違和感を覚える当事者も少なくなく、社会的文化的な性別越境者という
意味でこのトランスジェンダーという言葉を好んで使う人も多い。
<引用文献>
須藤廣編著「高校生のジェンダーとセクシュアリティ」明石書店
性の問題研究会「図解 性転換マニュアル」同文書院
房
松尾寿子著「トランスジェンダリズム―性別の彼岸」世織書店
「NHK『ハートをつなごう』LGBT BOOK」 太田出版
85
13 一枚の絵から考えよう
ワーク1
次の絵を見て下さい。
この絵は、2011年3月11日に東日本大震災が発生した後に、海外の新聞に掲載された
漫画をモチーフに描かれています。
この絵は、何を表しているのでしょうか。想像してみましょう。
ワーク2
この絵を見て、どのような感想を持ちましたか。
自由に話し合い、感想を書きましょう。
86
解説13 一枚の絵から考えよう
1 ねらい
平成23年(2011年)3月11日14時46分、宮城県牡鹿半島の東南東約130㎞付近、深さ
24kmを震源として発生した東日本大震災は、日本における観測史上最大のマグニチュード
9.0、最大震度7を記録した。
気象庁が発表した震源過程の解析によると、断層の長さは約450㎞、幅は約150㎞に及んだ。
この地震により、場所によっては波高10m以上にも上る大津波が発生し、東北地方と関東地
方の太平洋沿岸部に甚大な被害をもたらした。
地震と津波による被害を受けた東京電力福島第一原子力発電所では、交流電源の喪失に
より原子炉と使用済燃料プールの冷却機能を失い、大量の放射性物質が漏洩する事態に発展
した。その結果生じた被害は計り知れず、土地の産業や人々の生活が脅かされ続けている。
被害が長期化する一つの原因は、無責任な憶測などによる風評である。海外を含めた各地
で放射性物質に関する風評などが発生し、人々を苦しめ続けている。ワークシートの絵は、
風評の対象が日本であることを示している。
上記の背景を説明する前と後で、どのように認識が異なるか考えさせたい。
2 進め方
(1)ワーク1について
ワークシートの絵を見て想像したことを自由に書かせる。
(2)ワーク2について
マスメディアなどを通じて日々大量にさらされている「情報」について、どのよ
うに立ち向かっていけばよいか、自由に考えを述べさせる。
3 解説
風評は物理的な被害をもたらすのみならず、人に対する差別意識を作り出し、重大な人権
侵害に至る恐れがある。また、いわれのない風評から生じた「いじめ」は、他のいじめと同様、
決して許されない。被災地復興のために力を合わせようと全国から人々が被災地に向かう一
方で、暗い一面としてこのような「排除」
「自分は別」という空気が存在することもまた残念
ながら事実である。
被災地から距離があればあるほど、直接情報が入らないため、ややもすると他人事になり
かねない。しかし、海外に視点を据えれば、我々は当事者である。この大震災を経験したこと、
それによって見聞きしたことをきちんと整理し、伝えられる立場でなければならない。
かねてから人は、何か大きな事故や事件が起こる度に、一部のマスメディアの報道に考え
を左右され、恐怖感だけが煽られるということを繰り返してきた。ワーク2をとおして、一
部の一元的な情報を鵜呑みにするのではなく、何が真実かを見極めようとすることの大切さ
や、風評により人は加害者にも被害者にもなりうる、という考えを引き出したい。
87
14 拉致問題について考えよう①
映画「めぐみ―引き裂かれた家族の30年」を活用して
ワーク1
映画「めぐみ―引き裂かれた家族の30年」を視聴してみましょう。
〈北朝鮮当局による拉致問題とは〉
1970年代から80年代にかけて北朝鮮当局(注)による日本人拉致が多発し、平成23年
10月現在、政府は17名を拉致被害者として認定しています。また、政府が認定した拉致
被害者以外にも、拉致の可能性を排除できない人たちがいます。
平成14年9月の第1回日朝首脳会談において、北朝鮮当局は日本人を拉致したことを
認め、謝罪しました。その後、5人の拉致被害者が帰国しましたが、残りの拉致被害者に
ついては、いまだ、問題の解決に向けた具体的な行動がとられていません。
(注)日本は、朝鮮民主主義人民共和国(通称:北朝鮮)を国家承認していないため、北朝鮮政府
を「北朝鮮当局」と表現しています。
ワーク2
拉致問題について考えてみましょう。
(1)突然めぐみさんが家族のもとからいなくなったときの両親の気持ちはどのようであっ
たと思いますか。
(2)街頭で娘の救出を呼びかける両親に対する周りの人々の反応をあなたはどのように
感じましたか。
88
(3)拉致されたことで奪われためぐみさんの権利をあげ、なぜ人権が大切なのか考えて
みましょう。
(4)5人とともに帰国することができなかった被害者の家族の思いについて考えをまと
めてみましょう。
(5)拉致問題を解決するためにわたしたちはどのように行動したらよいでしょうか。自
分の考えをまとめてみましょう。
89
14 拉致問題について考えよう②
アニメ「めぐみ」を活用して
ワーク1
アニメ「めぐみ」を視聴して、拉致問題について考えてみましょう。
〈北朝鮮当局による拉致問題とは〉
1970年代から80年代にかけて北朝鮮当局(注)による日本人拉致が多発し、平成23年
10月現在、政府は17名を拉致被害者として認定しています。また、政府が認定した拉致
被害者以外にも、拉致の可能性を排除できない人たちがいます。
平成14年9月の第1回日朝首脳会談において、北朝鮮当局は日本人を拉致したことを
認め、謝罪しました。その後、5人の拉致被害者が帰国しましたが、残りの拉致被害者に
ついては、いまだ、問題の解決に向けた具体的な行動がとられていません。
(注)日本は、朝鮮民主主義人民共和国(通称:北朝鮮)を国家承認していないため、北朝鮮政府
を「北朝鮮当局」と表現しています。
(1)突然めぐみさんが家族のもとからいなくなったときの両親の気持ちはどのようであっ
たと思いますか。
(グループ内での話し合いメモ)
(例)親と一緒に暮らす権利
(2)街頭で娘の救出を呼びかける両親に対する周りの人々の反応をあなたはどのように
感じましたか。
(グループ内での話し合いメモ)
90
(3)どうして人権を大切にしなければならないのでしょうか。グループ内で話し合って
みましょう。
(グループ内での話し合いメモ)
(4)拉致問題を解決するために私たちはどのように行動したらよいでしょうか。グルー
プ内で話し合ってみましょう。
(グループ内での話し合いメモ)
(5)グループ内で話し合った内容をクラス全体に発表しましょう。
(他のグループの発表メモ)
(6)あなたがめぐみさんの家族だとしたら、どのように考え、どのような行動をとると
思いますか。自分の考えをまとめてみましょう。
91
解説14 拉致問題について考えよう①・②
1 ねらい
(1)映画「めぐみ−引き裂かれた家族の30年」(以下「映画『めぐみ』」という。)や拉
致問題啓発アニメ「めぐみ」
(以下「アニメ『めぐみ』」という。)の視聴をとおして、
人権の意義やその重要性について理解し、人権尊重のための人権感覚を醸成する。
(2)相手の立場に立って、気持ちを受け止め、共感的に理解し、人権が尊重される社会
に向けて、自ら行動していこうとする意欲や態度を育成する。
(3)拉致問題を我が国が抱える未解決の人権課題として捉え、その解決のためには、幅
広い国民各層の理解と支持が不可欠であり、わたしたち一人ひとりに関心と認識を
深めることが求められていることを理解する。
2 進め方
映画「めぐみ」とアニメ「めぐみ」の内容及び指導の手立て
映画「めぐみ」
映画「めぐみ」は、昭和52年、当時中学1年生だった横田めぐみさんが、学校か
らの帰宅途中に北朝鮮当局により拉致された事件とその被害者家族の救出活動を中心
に描いたドキュメンタリー映画である。報道映像や横田さん夫妻を始めとした関係者
の証言映像などにより構成され、視聴者にとって拉致問題を追体験するような内容と
なっており、高校生の視聴に適している。
映画「めぐみ」は、約90分と長時間であるが、前半部分(チャプター①∼⑧の約
42分)の視聴で拉致問題の概要や被害者家族の心情などを理解することができる。
※ 北朝鮮がめぐみさんのものだと渡してきた遺骨が別人と判明する場面に対して、
映画の最後には「イギリス科学誌が、DNA 鑑定結果の不確実性を指摘」とキャプ
ションが流れるシーンがあるが(84分09秒)、「遺骨から検出された DNA は、め
ぐみさん本人のものとは異なる」というのが日本政府の見解である。
アニメ「めぐみ」
アニメ「めぐみ」は、横田めぐみさん拉致事件を題材に、残された家族の苦悩を中
心に描いた25分のドキュメンタリー・アニメで、小・中学生にも分かりやすい内容
となっている。
小・中学校においてもアニメ「めぐみ」の視聴を促進しているため、視聴したこと
がある生徒もいると思われるが、生徒の発達段階に応じた感じ方の違いや新たな発見
への気づきの視点からアニメ「めぐみ」を活用することも考えられる。
92
拉致問題について考えよう① 映画「めぐみ」を活用した指導例
(1)各チャプターの概要(視聴する際の参考としてください。)
① 突然いなくなっためぐみさんを捜す家族
0:00(5:41)
② テレビ番組でめぐみさんに呼びかける両親と相次いで起きた不可解な失踪事件
5:41(5:22)
③ いなくなった日のめぐみさんの足どりを振り返る両親
11:03(3:47)
④ 20年後に元工作員の証言から分かった事実
14:50(5:59)
⑤ 工作活動のための日本人化教育と大韓航空機爆破事件
20:49(4:45)
⑥ 拉致被害者家族の苦悩
25:34(6:59)
⑦ 聖書に救いを求める母親とめぐみさんの歌声
32:33(3:57)
⑧ 被害者家族の街頭活動と政府への働きかけ
36:30(6:24)
⑨ 両親からめぐみさんへのビデオレターと史上初の日朝首脳会談
42:54(4:02)
⑩ 北朝鮮当局による拉致被害者の生死の公表
46:56(5:43)
⑪ 生死公表後の家族の様々な思い
52:39(4:46)
⑫ 拉致被害者5人の帰国とめぐみさんの娘
57:25(5:24)
⑬ 5人とともに帰国を果たせなかった被害者の家族の思い
62:49(5:57)
⑭ 終わらない被害者家族の闘い
68:46(6:57)
⑮ 渡された遺骨と写真に対する家族の思い
75:43(5:51)
⑯ 虚偽の資料とめぐみさんの帰国を待ちわびる家族
81:34(3:44)
⑰ エンドクレジット
85:18(2:16)
(2)展開例1(50分×3 事前にグループ分けをする)
学習活動
指導上の留意点
1 拉致問題の概要を理解する。
(10分)
○ ワークシートの冒頭にある概要説明、解説にある
「拉致問題の主な動き(背景)」、政府の拉致問題対
策 本 部 の ホ ー ム ペ ー ジ(http://www.rachi.
go.jp/)などを参考に拉致問題の概要を正しく理解
させる。
2 ワーク1 映画「めぐみ」を視
聴する。
(約90分)
○ 視聴をとおして、拉致されためぐみさんや、めぐ
みさんの家族の思いを想像し、拉致問題とはどのよ
うな問題なのかを認識させる。
3 ワーク2(1)∼(4)につい
てグループ内で話し合う。
(30分)
93
学習活動
指導上の留意点
(1)
「突然めぐみさんが家族のも
○ 自分の生活と重ねて考えさせることで、自己の問
とからいなくなったときの
題として受け止めさせるとともに、何が大切にされ
両親の気持ちはどのようで
なければならないかを考えさせる。(ワーク2(1))
あったと思いますか。
」
(チャ
プター①参照)
(2)
「街頭で娘の救出を呼びかけ
○ 拉致問題の解決に向けて、自ら立ち上がった両親
る両親に対する周りの人々
の姿に共感させるとともに、その活動に対する人々
の反応をあなたはどのよう
の反応は様々であったことに着目させる。また、そ
に感じましたか。
」
(チャプ
の解決に向けては、幅広い支持が必要であることを
ター⑧参照)
理解させる。(ワーク2(2))
○ 拉致された後のめぐみさんがどのような生活を
送ったかは分からないので、あくまで奪われた可能
性のある権利として考えさせ、自分たちの言葉で表
現させる。(自由権、教育を受ける権利、親と一緒
に暮らす権利等)さらに、それが数多くあることに
気づかせるとともに、人権の大切さに気づかせる。
(ワーク2(2))
(3)
「拉致されたことで奪われた
めぐみさんの権利をあげ、
なぜ人権が大切なのか考え
てみましょう。
」
○ 自分の人権とともに他の人の人権も大切にしなけ
ればならないことについて触れる。(ワーク2(3)、
(4))
○ グループ内で話し合わせる際、また、全体発表の
(4)
「5人とともに帰国すること
際には、他者の意見を共感的に受け止めさせる。
ができなかった被害者の家
○ 拉致問題は、韓国・朝鮮につながりのある在日外
族の思いについて考えをま
国人などに責任を帰する問題ではないことに留意
とめてみましょう。
」
(チャ
し、拉致問題を正しく理解させることをとおして人
プター⑬∼⑯参照)
権についての理解を深めさせ、この問題を理由にし
た差別や偏見は人権上の視点から誤りであることに
気づかせる。
○ この問題を風化させてはならない人権課題として
捉えさせる。
4 グループ内で話し合った内容を
クラス全体に発表する。 (10分)
5 ワーク2(5)について自分の
考えをまとめる。
○ 話し合った内容をグループ内で振り返り、全体に
発表することによりクラスで共有する。
○ 拉致被害者家族の様々な思いに共感させるととも
(10分)
に、家族の思いが国や多くの人の心を動かし、拉致
(5)
「拉致問題を解決するために
問題の解決に向けて、様々な取組みが行われるよう
わたしたちはどのように行
になったことを理解させる。また、その解決に向け
動したらよいでしょうか。
ては、幅広い支持が必要であることを理解させる。
自分の考えをまとめてみま
○ 人権の意義やその重要性について理解させるだけ
しょう。
」
でなく、人権感覚を磨き、自ら行動していこうとす
る意欲や態度を育てる。
94
(3)展開例2(50分)
学習活動
指導上の留意点
1 拉致問題の概要を理解する。
(3分)
○ ワークシートの冒頭にある概要説明、解説にある
「拉致問題の主な動き(背景)」、政府の拉致問題対
策 本 部 の ホ ー ム ペ ー ジ(http://www.rachi.
go.jp/)などを参考に拉致問題の概要を正しく理解
させる。
2 ワーク1 映画「めぐみ」の前
半を視聴する。
チャプター①∼⑧
○ 視聴をとおして、拉致されためぐみさんや、めぐ
みさんの家族の思いを想像し、拉致問題とはどのよ
(約42分)
うな問題なのかを確認させる。
3 前半の視聴後、ワーク2(1)
∼(3)
、
(5)に自分の考えを記
入する。
(5分)
(1)
「突然めぐみさんが家族のも
○ 自分の生活と重ねて考えさせることで、自己の問
とからいなくなったときの
題として受け止めさせるとともに、何が大切にされ
両親の気持ちはどのようで
なければならないかを考えさせる。(ワーク2(1)
)
あったと思いますか。
」
(チャ
プター①参照)
(2)
「街頭で娘の救出を呼びかけ
○ 拉致問題の解決に向けて、自ら立ち上がった両親
る両親に対する周りの人々
の姿に共感させるとともに、その活動に対する人々
の反応をあなたはどのよう
の反応は様々であったことに着目させる。また、そ
に感じましたか。
」
(チャプ
の解決に向けては、幅広い支持が必要であることを
ター⑧参照)
理解させる。(ワーク2(2))
(3)
「拉致されたことで奪われた
○ 拉致された後のめぐみさんがどのような生活を
めぐみさんの権利をあげ、
送ったかは分からないので、あくまで奪われた可能
なぜ人権が大切なのか考え
性のある権利として考えさせ、自分たちの言葉で表
てみましょう。
」
現させる。(自由権、教育を受ける権利、親と一緒
に暮らす権利等)さらに、それが数多くあることに
気づかせるとともに、人権の大切さに気づかせる。
(ワーク2(3))
○ 自分の人権とともに他の人の人権も大切にしなけ
ればならないことについて触れる。(ワーク2(3)
)
(5)
「拉致問題を解決するために
○ 拉致被害者家族の様々な思いに共感させるととも
わたしたちはどのように行
に、家族の思いが国や多くの人の心を動かし、拉致
動したらよいでしょうか。
問題の解決に向けて様々な取組みが行われるように
自分の考えをまとめてみま
なったことを理解させる。また、その解決に向けて
しょう。
」
は、幅広い支持が必要であることを理解させる。
(ワーク2(5))
95
学習活動
指導上の留意点
○ 人権の意義やその重要性について理解させるだけ
でなく、人権感覚を磨き、自ら行動していこうとす
る意欲や態度を育てる。(ワーク2(5))
○ 拉致問題は、韓国・朝鮮につながりのある在日外
国人などに責任を帰する問題ではないことに留意
し、拉致問題を正しく理解させることをとおして人
権についての理解を深めさせ、この問題を理由にし
た差別や偏見は人権上の視点から誤りであることに
気づかせる。
○ この問題を風化させてはならない人権課題として
捉えさせる。
○ 各チャプターの概要を参考にするなどして、映画
の後半部分について触れる。
(4)評価
人権の意義やその重要性について理解し、人権尊重のための人権感覚を醸成する
ともに、相手の立場に立って気持ちを受け止め、共感的に理解し、人権が尊重され
る社会に向けて自ら行動していこうとする意欲や態度を育てることができたか。
96
拉致問題について考えよう② アニメ「めぐみ」を活用した指導例
(1)展開例(50分 事前にグループ分けをする)
学習活動
指導上の留意点
1 拉致問題の概要を理解する。
(3分)
○ ワークシートの冒頭にある概要説明、解説にある
「拉致問題の主な動き(背景)」、政府の拉致問題対
策 本 部 の ホ ー ム ペ ー ジ(http://www.rachi.
go.jp/)などを参考に拉致問題の概要を正しく理解
させる。
2 ワーク1 アニメ「めぐみ」を
視聴する。
(25分)
○ 視聴をとおして、拉致されためぐみさんや、めぐ
みさんの家族の思いを想像し、拉致問題とはどのよ
うな問題なのかを確認させる。
3 ワーク2(1)∼(4)につい
てグループ内で話し合う。
(12分)
(1)
「拉致されたことで奪われた
○ 拉致された後のめぐみさんがどのような生活を
めぐみさんの権利にはどの
送ったかは分からないので、あくまで奪われた可能
ようなものがあったでしょ
性のある権利として考えさせ、自分たちの言葉で表
うか。
」
現させる。(自由権、教育を受ける権利、親と一緒
に暮らす権利等)さらに、それが数多くあることに
気づかせるとともに、人権の大切さに気づかせる。
(ワーク2(1))
(2)
「突然めぐみさんが家族のも
○ 自分の生活と重ねて考えさせることで、自己の問
とからいなくなったときの
題として受け止めさせるとともに、何が大切にされ
両親の気持ちはどのようで
なければならないかを考えさせる。(ワーク2(2)
)
あったと思いますか。
」
○ めぐみさんへの両親の思いに共感させることをと
おして、家族の絆を大切にしていこうとする気持ち
を育てる。(ワーク2(2)
(3)
「どうして人権を大切にしな
ければならないのでしょう
○ 自分の人権とともに他の人の人権も大切にしなけ
ればならないことについて触れる。(ワーク2(3)
)
か。
」
(4)
「拉致問題を解決するために
○ 拉致問題の解決のためには、幅広い支持が必要で
私たちはどのように行動し
あることを理解させるとともに、その解決に向けて、
たらよいでしょうか。
」
様々な取組みが行われるようになったことを理解さ
せる。(ワーク2(4))
○ グループ内で話し合わせる際、また、全体発表の
際には、他者の意見を共感的に受け止めさせる。
○ この問題を風化させてはならない人権課題として
捉えさせる。
97
学習活動
指導上の留意点
(5)グループ内で話し合った内
○ 話し合った内容をグループ内で振り返り、全体に
容をクラス全体に発表する。
発表することにより共有する。
(5分)
(6)自分がめぐみさんの家族だ
としたら、どのように考え、
○ 家族が突然いなくなった時の気持ちを想像し、共
感する心を育てる。
どのような行動をとると思
○ 人権の意義やその重要性について理解させるだけ
うか。自分の考えをまとめ
でなく、人権感覚を磨き、自ら行動していこうとす
る。
る意欲や態度を育てる。
(5分)
○ 拉致問題は、韓国・朝鮮につながりのある在日外
国人などに責任を帰する問題ではないことに留意
し、拉致問題を正しく理解させることをとおして人
権についての理解を深めさせ、この問題を理由にし
た差別や偏見は人権上の視点から誤りであることに
気づかせる。
(2)評価
人権の意義やその重要性について理解し、人権尊重のための人権感覚を醸成する
とともに、相手の立場に立って気持ちを受け止め、共感的に理解し、人権が尊重
される社会に向けて自ら行動していこうとする意欲や態度を育てることができた
か。
98
3 解説
拉致問題の主な動き(背景)
1970∼1980年代
多くの日本人が不自然な形で行方不明となった。
政府は、機会あるごとに北朝鮮当局に対して拉致問題を
1990年代
提起したが、北朝鮮当局側は頑なに否定し続けた。
1997年(平成9年)3月
2002年(平成14年)
9月、10月
2003年(平成15年)1月
2004年(平成16年)5月
拉致被害者の家族により「北朝鮮による拉致被害者家族
連絡会(家族会)」が結成された。
第1回日朝首脳会談において、北朝鮮当局は日本人を拉
致したことを認め、謝罪した。
拉致被害者5人が帰国した。
「北朝鮮当局によって拉致された被害者等の支援に関す
る法律(拉致被害者支援法)」が施行された。
第2回日朝首脳会談が開催され、拉致被害者の家族5名
が帰国した。
国連総会本会議において北朝鮮人権状況決議(拉致被害
2005年(平成17年)12月
者の即時帰国などを要求する決議)が採択され、以後、7
年連続で採択される。
「拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対
処に関する法律(北朝鮮人権法)」が施行され、国及び地方
2006年(平成18年)6月
公共団体の責務等が定められるとともに、毎年12月10日か
ら同月16日までを「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」とする
こととされた。
2008年(平成20年)7月
2011年(平成23年)
2月、4月
北海道洞爺湖サミットの成果文書に拉致問題が明記され
た。
「拉致問題を考える国民大集会 in 神奈川」が開催された。
閣議決定により国の基本計画における人権課題として、
新たに「北朝鮮当局による拉致問題等」が加えられた。
(参考 政府 拉致問題対策本部ホームページ)
99
拉致問題の指導における留意事項
拉致問題は、他の人権課題とは異なる国際的な問題であるために、簡単に解決できな
い状況にある。そこで、基本計画では、「拉致問題の解決のためには、幅広い国民各層
と国際社会の理解と支持が不可欠であり、その関心と認識を深めることが求められてい
る。
」としており、学校教育においては、人権の観点から生徒が拉致問題についての理
解を深めていくことを求めている。
一方、本県には朝鮮半島につながりのある生徒が在籍している場合もあることから、
拉致問題を学習することにより、これらの生徒に対する差別、偏見などが生じないよう
に十分に配慮する必要がある。
生徒一人ひとりを大切にするとともに、生徒が拉致問題に関心を持ち続け、この問題
が今後とも風化しないように、次のことに留意しながら指導してほしい。
ア 拉致問題は北朝鮮当局による人権侵害行為ではあるが、北朝鮮当局に対する非難
に主眼を置くのではなく、人権課題の一つとしてこの問題を捉えさせる。
イ 拉致被害者やその家族の心の痛みや叫びなどを中心に取り上げ、そのつらい気持
ちに共感する心情を育てるようにする。また、拉致問題を学習することにより育ま
れた共感する心は、他の人権課題について考える際にも大切であるという点に気づ
かせ、今後の人権学習に生かす。
ウ 拉致問題は、北朝鮮当局以外の北朝鮮の人々をはじめとした朝鮮半島の人々や日
本で生活する朝鮮半島につながりのある人々に責任を帰する問題ではないことを押
さえる。また、この点を踏まえて、差別や偏見についての学習を深めることも考え
られる。
エ 拉致問題を学習する時間として、各教科(地理歴史科、公民科等)・科目、総合
的な学習の時間及び特別活動(ホームルーム活動、生徒会活動、学校行事)が考え
られる。また、北朝鮮人権侵害問題啓発週間(12月10日∼16日)が設けられてい
ることを踏まえ、この時期に合わせて学習の機会を設けることも考えられる。
オ 北朝鮮当局による拉致問題の詳細については、政府の拉致問題対策本部のホーム
ページ(http://www.rachi.go.jp/)を参照する。
100
資料編
102
●エイズ問題総合対策大綱
昭 和 62 年 2 月 24 日
エイズ対策関係閣僚会議決定
( 平 成 4 年 3 月19日 改 正 )
エイズのまん延は、欧米及びアジア諸国をはじめ世界的に深刻な状況にあるが、我が国
では、エイズ患者の発生は今なお少数にとどまっている。しかしながら、HIV(ヒト免疫
不全ウイルス)感染者の急増、異性間感染の増加、在日外国人感染者の増加など、新たな
局面を迎えており、現段階において、積極的かつ重点的な対策を講じ、エイズのまん延の
防止を図ることが必要である。
このため、後天性免疫不全症候群の予防に関する法律(平成元年法律第2号)の円滑な
運用を図りつつ、当面、次の事項を重点として、総合的な対策の推進を図る。
なお、対策の椎進に当たっては、同法の趣旨に則り、プライバシーと人権の保護に十分
な配慮を払う。
Ⅰ.重点対策
1.正しい知識の普及
現段階におけるエイズ対策の基本は、国民がエイズに関する正しい知識を持ち、感
染の危険を回避することである。
このため、エイズ予防のための正しい知識の普及を図る。
(1)
政府広報等においてエイズ問題を重点的に取り上げるとともに、地域、職域等
あらゆるルートを通じ、国をあげて啓発運動を展開する。
(2)
学校教育における啓発等若い世代のエイズの予防の徹底を図る。
(3)
海外旅行者、在留邦人及び海外からの入国者に対する啓発を強化する。
2.検査・医療の体制の充実
(1)
国民が迅速にエイズに関する適正な検査が受けられるように、スクリーニング
検査(第一次検査)及び確認検査(第二次検査)について各都道府県に所要の
検査機関を確保する。
(2)
プライバシー及び人権の保護に配慮し、国民が安心してエイズに関する検査が
受けられるよう、保健所等における匿名検査体制の整備の推進を図る。
(3)
増加する患者及び感染者が安心して医療が受けられる医療機関を確保するため
の方策を検討する。
3.相談・指導体制の充実及び二次感染防上対策の強化
(1)
国民及び在日外国人の不安の解消を図るため、エイズに関する相談が容易にで
きるよう、保健所、公私の医療機関等に相談窓口を整備するとともに、電話相
談等を実施する。
(2)
HIV に感染するおそれが大きい、いわゆるハイリスク・グループに対しては、
103
関係省庁が協力して、健康診断の勧奨、保健相談・指導の徹底を図る。
(3)
患者、感染者及び不安を持つ者に対するカウンセリング体制の充実を図るため、
カウンセラーの養成を推進する。
(4)
血液対策については、既に実施されている全献血への抗体検査を引き続き実施
するほか、献血時の問診の強化等を図り、安全確保の一層の徹底を期する。
4.国際協力及び研究の推進
(1)
エイズ対策に関し、諸外国との情報交換を強化するとともに、国際的なエイズ
のまん延の防止対策に参加し、積極的に推進する。
(2)
エイズについては、未解明、未確率の部分が多いので、国公立及び民間の試験
研究機関、大学等を通じ、基礎研究及び予防、検査、治療等に関する研究の組
織化、積極的な推進を図るほか、諸外国との研究の交流を行う。
Ⅱ.推進体制
1.国における推進体制
(1)
エイズ対策関係閣僚会議の下に関係省庁からなる幹事会を設置し、関係省庁相
互の連携を図りつつ、医療関係者、関係団体等の協力を得て、総合的な対策の
推進を図る。
(2)
エイズ対策に関し、専門的事項について意見を求めるため、エイズ対策関係閣
僚会議の下に学識経験者をもって構成するエイズ対策専門家会議を置く。
(3)
円滑かつ効率的研究の推進を図るため、国際的及び関係省庁間におけるエイズ
研究に関する研究協力体制を充実する。
2.地方公共団体における推進体制
地方公共団体に対し、国の体制に応じた推進体制の整備を要請する。
3.エイズに関する医療・情報センター機能の整備
エイズに関する情報の集積、研究の連絡調整、広報啓発活動の支援等を行う、エイ
ズ対策推進のためのセンター機能を持つ組織の整備を図る。
104
【学習指導要領における後天性免疫不全症候群(エイズ)に係る記載】
●中学校学習指導要領(平成20年3月改訂)
「第2章 各教科 第7節 保健体育」
[保健分野]
2 内容
(4)
健康な生活と疾病の予防について理解を深めることができるようにする。
エ 感染症は,病原体が主な要因となって発生すること。また,感染症の多くは,発生源
をなくすこと,感染経路を遮断すること,主体の抵抗力を高めることによって予防でき
ること。
3 内容の取扱い
(9)
内容の(4)のエについては,後天性免疫不全症候群(エイズ)及び性感染症につい
ても取り扱うものとする。
●中学校学習指導要領解説 保健体育編(平成20年9月改訂)
[保健分野]
2 内容
(4)
健康な生活と疾病の予防
エ 感染症の予防
エイズ及び性感染症の予防
エイズ及び性感染症の増加傾向とその低年齢化が社会問題になっていることから,
その疾病概念や感染経路について理解できるようにする。また,予防方法を身につけ
る必要があることを理解できるようにする。例えば,エイズの病原体はヒト免疫不全
ウィルス(HIV)であり,その主な感染経路は性的接触であることから,感染を予防
するには性的接触をしないこと,コンドームを使うことなどが有効であることにも触
れるようにする。
なお、指導に当たっては,発達の段階を踏まえること,学校全体で共通理解を図る
こと,保護者の理解を得ることなどに配慮することが大切である。
3 内容の取扱い
(9)
内容の(4)のエについては,後天性免疫不全症候群(エイズ)及び性感染症につい
ても取り扱うものとする。
105
●中学校学習指導要領解説 特別活動編(平成20年9月改訂)
第3章 第1節 学級活動
2 学級活動の内容
(2)
適応と成長及び健康安全
ク 性的な発達への適応
中学生にとっては,性を考えることは,あこがれ,怖さや不安,羞恥など様々な感情
を引き起こすものである。また,この時期は性的な発達も著しく,情緒が不安定になる
ようなこともある。こうした感情や不安定さは,大人として自立するための大切な過程
かっとう
であるが,自分の存在に価値や自信がもてないなど,時には様々な心の葛藤や遊びに傾
斜する心と結び付き,性的な逸脱行動として表れることもある。
ここでは,性に対する正しい理解を基盤に,身体的な成熟に伴う性的な発達に対応し,
適切な行動がとれるように指導・援助を行うことが大切である。特に,性に関する情報
があふれる現代社会にあっては,自己の行動に責任をもって生きることの大切さや,人
間尊重の精神に基づく男女相互の望ましい人間関係の在り方などと結び付けて指導して
いくことが大切である。
具体的には,思春期の心と体の発育・発達に関すること,性情報への対応や性の逸脱
行動に関すること,エイズや性感染症などの予防に関すること,友情と恋愛と結婚など
について,生徒の発達の段階等を踏まえた題材を設定し,資料等をもとにした話合いや
討論,専門家の講話を聞くなどの活動の展開が考えられる。その際,生徒が率直に意見
を言えるとともに,自分の将来と結び付けてしっかりと考えていくような取組が期待さ
れる。なお,保健体育をはじめとした各教科,道徳等の学習との関連,学級活動の他の
活動との関連について学校全体で共通理解した上で,教育の内容や方法について保護者
の理解を得ることが重要である。また,性については,個々の生徒間で,発達の段階や
置かれた状況の差異が大きいことから,事前に,集団指導として行う内容と個別指導と
の内容を区別しておくなど計画性をもって実施する必要がある。また,指導の効果を高
めるため養護教諭などの協力を得ながら指導することも大切である。
●高等学校学習指導要領解説 保健体育編(平成21年7月改訂)
第2章 第2節 保健
3 内容
(1)
現代社会と健康
イ 健康の保持増進と疾病の予防
感染症とその予防
感染症は,時代や地域によって自然環境や社会環境の影響を受け,発生や流行に違
いが見られることを理解できるようにする。その際,交通網の発達により短時間で広
がりやすくなっていること,また,新たな病原体の出現,感染症に対する社会の意識
の変化等によって,エイズ,結核などの新興感染症や再興感染症の発生や流行が見ら
れることを理解できるようにする。これらの感染症の予防には,衛生的な環境の整備
や検疫,正しい情報の発信,予防接種の普及など,社会的な対策とともに,それらを
前提とした個人の取組が必要であることを理解できるようにする。
106
●高等学校学習指導要領解説 特別活動編(平成21年12月改訂)
第3章 第1節 ホームルーム活動
2 ホームルーム活動の内容
(2)
適応と成長及び健康安全
ク 心身の健康と健全な生活態度や規律ある習慣の確立
高校生の心身の発達は目覚ましい。中学生の時期に比べ落ち着いてきてはいるが,身
体的な発達に心理的な発達が十分に伴わず,心身のバランスを崩し不適応に陥ってしま
うこともあることを考え,自己の心身の健康状態や生活態度についての理解と関心を深
め,生涯を通じて積極的に健康の保持増進を目指すような態度や規律ある習慣の育成に
努めることが大切である。特に,生活習慣の乱れ,ストレス及び不安感が高まっている
現状を踏まえ,心の健康を含め自らの健康を維持し,改善することができるように指導・
助言することが重要である。
また,性に対する正しい理解を基盤に,身体的な成熟に伴う性的な発達に対応し,適
切な行動がとれるように指導・援助を行うことも大切であり,性的情報の氾濫する現代
社会において,自己の行動に責任をもって生きることの大切さや,人間尊重の精神に基
づく男女相互の望ましい人間関係の在り方などと結び付けて指導していくことが重要で
ある。
さらに近年,高校生の飲酒や喫煙の問題の深刻化,さらには薬物乱用なども指摘され
ている。これらの問題については,心身の健康とのかかわりや薬物乱用等に陥る心理や
背景などについて具体性に富んだ取り上げ方をすることが大切であり,特に,薬物乱用
については,その有害性,違法性について正しく理解させ,薬物乱用は絶対に行っては
ならないし,許されることではないという認識を身に付けさせることが必要である。
具体的には,心の健康や体力の向上に関すること,口腔の衛生,生活習慣病とその予
防,望ましい食習慣の確立など食育に関すること,運動・休養の効用と余暇の活用,喫
煙,飲酒,薬物乱用などの害や対処方法に関すること,性情報への対応や性の逸脱行動
に関すること,エイズや性感染症などの予防に関すること,ストレスヘの対処と自己管
理や規律ある習慣などについて生徒の発達の段階やホームルームの実態を踏まえて題材
を設定し,身近な視点からこれらの問題を考え意見を交換できるような話合いや討論,
実践力の育成につながるロールプレイングなどの方法を活用して展開していくことや,
専門家の講話やビデオ視聴を通しての話合いなどの活動の展開も考えられる。こうした
活動を通して,自らの健康状態についての理解と関心を深め,望ましい生活態度や規律
ある習慣の確立を生徒自らが図っていくことが望まれる。
なお,心身の健康と健全な生活態度や規律ある習慣の確立にかかわる指導は,保健体
育科の「保健」をはじめとした各教科・科目の学習との関連,ホームルーム活動の他の
活動内容との関連について学校全体で共通理解を図ることが大切である。また,個々の
生徒の状況に応じた個別指導が必要となる場合もあることを踏まえ,指導内容によって
は集団指導と個別指導との内容を区別しておくなど計画性をもつとともに,保護者の理
解を得ながら実施することも必要である。さらに,指導の効果を高めるため養護教諭な
どの協力を得ながら指導することも大切である。
107
人権教育及び人権啓発の推進に関する法律
平成12年12月6日施行
(目的)
第1条 この法律は、人権の尊重の緊要性に関する認識の高まり、社会的身分、門地、人
種、信条又は性別による不当な差別の発生等の人権侵害の現状その他人権の擁護に関す
る内外の情勢にかんがみ、人権教育及び人権啓発に関する施策の推進について、国、地
方公共団体及び国民の責務を明らかにするとともに、必要な措置を定め、もって人権の
擁護に資することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において、人権教育とは、人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活
動をいい、人権啓発とは、国民の間に人権尊重の理念を普及させ、及びそれに対する
国民の理解を深めることを目的とする広報その他の啓発活動(人権教育を除く。)をい
う。
(基本理念)
第3条 国及び地方公共団体が行う人権教育及び人権啓発は、学校、地域、家庭、職域
その他の様々な場を通じて、国民が、その発達段階に応じ、人権尊重の理念に対する
理解を深め、これを体得することができるよう、多様な機会の提供、効果的な手法の
採用、国民の自主性の尊重及び実施機関の中立性の確保を旨として行われなければな
らない。
(国の責務)
第4条 国は、前条に定める人権教育及び人権啓発の基本理念(以下「基本理念」という。
)
にのっとり、人権教育及び人権啓発に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第5条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情
を踏まえ、人権教育及び人権啓発に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(国民の責務)
第6条 国民は、人権尊重の精神の涵養に努めるとともに、人権が尊重される社会の実現
に寄与するよう努めなければならない。
(基本計画の策定)
第7条 国は、人権教育及び人権啓発に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、
人権教育及び人権啓発に関する基本的な計画を策定しなければならない。
(年次報告)
第8条 政府は、毎年、国会に、政府が講じた人権教育及び人権啓発に関する施策につい
ての報告を提出しなければならない。
(財政上の措置)
第9条 国は、人権教育及び人権啓発に関する施策を実施する地方公共団体に対し、当該
施策に係る事業の委託その他の方法により、財政上の措置を講ずることができる。
108
附 則
(施行期日)
第1条 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第8条の規定は、この法律の施行
の日の属する年度の翌年度以後に講じる人権教育及び人権啓発に関する施策について適
用する。
(見直し)
第2条 この法律は、この法律の施行の日から3年以内に、人権擁護施策推進法(平成8
年法律第120号)第3条第2項に基づく人権が侵害された場合における被害者の救済に
関する施策の充実に関する基本的事項についての人権擁護推進審議会の調査審議の結果
をも踏まえ、見直しを行うものとする。
人権教育・啓発に関する基本計画(概要)
策定 平成14年3月、変更 平成23年4月[閣議決定]
基本計画は、人権教育・啓発の総合的かつ計画的な推進に関する施策の大綱として、ま
ず、第1章「はじめに」において、人権教育・啓発推進法制定までの経緯と計画の策定方
針及びその構成を明らかにするとともに、第2章「人権教育・啓発の現状」及び第3章「人
権教育・啓発の基本的在り方」において、我が国における人権教育・啓発の現状とその基
本的な在り方について言及した後、第4章「人権教育・啓発の推進方策」において、人権
教育・啓発を総合的かつ計画的に推進するための方策やその体制などについて進むべき方
向性などを盛り込んでいる。そして、最後に、第5章「計画の推進」において、計画の着
実かつ効果的な推進を図るための体制やフォローアップなどについて記述している。
このうち、第2章及び第4章において、人権教育、中でも学校教育に関して記載されて
いる部分を抜粋すると次のとおりである。
まず、第2章では人権教育の現状について、学校種ごとの教育目標の実現を目指して、
幼児・児童・生徒、学生の発達段階に応じ、自ら学び自ら考える力や豊かな人間性などを
培う教育活動を組織的・計画的に実施することとしているが、一方、こうした学校教育は、
知的理解にとどまり、人権感覚が十分に身についていないなど、指導方法の問題があるこ
と、また、教職員に人権尊重の理念について十分な認識が必ずしもいきわたっていないと
指摘している。
第4章では人権教育の推進方策について、学校教育においては、それぞれの学校種の教
育目的や目標の実現を目指した教育活動が展開される中で、幼児・児童・生徒、学生が、
社会生活を営む上で必要な知識・技能・態度などを確実に身につけることを通じて、人権
尊重の精神の涵養が図られるようにしていく必要があるとされ、以下のような施策を推進
していくこととしている。
109
① 学校における指導方法の改善を図るため、効果的な教育実践や学習教材などについ
て情報収集や調査研究を行い、その成果を学校等に提供していく。また、心に響く道
徳教育を推進するため、地域の人材の配置、指導資料の作成などの支援策を講じてい
く。
② 社会教育との連携を図りつつ、社会性や豊かな人間性をはぐくむため多様な体験活
動の機会の充実を図っていく。学校教育法の改正の趣旨等を踏まえ、ボランティア活
動など社会奉仕体験活動、自然体験活動を始め、勤労生産活動、職業体験活動、芸術
文化体験活動、高齢者や障害者等との交流などを積極的に推進するため、モデルとな
る地域や学校を設け、その先駆的な取組を全国のすべての学校に普及・展開していく。
③ 子どもたちに人権尊重の精神を涵養していくためにも、各学校が、人権に配慮した
教育指導や学校運営に努める。特に、校内暴力やいじめなどが憂慮すべき状況にある
中、規範意識を培い、こうした行為が許されないという指導を徹底するなど子どもた
ちが安心して楽しく学ぶことのできる環境を確保する。
④ 高等教育については、大学等の主体的判断により、法学教育など様々な分野におい
て、人権教育に関する取組に一層配慮がなされるよう促していく。
⑤ 養成・採用・研修を通じて学校教育の担い手である教職員の資質向上を図り、人権
尊重の理念について十分な認識を持ち、子どもへの愛情や教育への使命感、教科等の
実践的な指導力を持った人材を確保していく。その際、教職員自身が様々な体験を通
じて視野を広げるような機会の充実を図っていく。また、教職員自身が学校の場等に
おいて子どもの人権を侵害するような行為を行うことは断じてあってはならず、その
ような行為が行われることのないよう厳しい指導・対応を行っていく。さらに、個に
応じたきめ細かな指導が一層可能となるよう、教職員配置の改善を進めていく。
また、各人権課題に対する取組として、次の各項目があげられている。
(1)女性
(2)子ども
(3)高齢者
(4)障害者
(5)同和問題
(6)アイヌの人々
(7)外国人
(8)HIV感染者・ハンセン病患者等
(9)刑を終えて出所した人
(10)犯罪被害者等
(11)インターネットによる人権侵害
なお、平成23年4月に新たに次の項目が加えられた。
(12)北朝鮮当局による拉致問題等
110
事 務 連 絡
平成22年4月23日
各都道府県教育委員会担当課
各 指 定 都 市 教 育 委 員 会 担 当 課 御中
各 都 道 府 県 担 当 課
附属学校を置く各国立大学法人担当課
初 等 中 等 教 育 局 児 童 生 徒 課
スポーツ・青少年局 学校健康教育課
児童生徒が抱える問題に対しての教育相談の徹底について(通知)
児童生徒に対する教育相談に関しては、これまでも、児童生徒一人一人の心情に最大限
配慮した取組をお願いしているところであり、各学校等においては、様々な取組がなされ
ているところですが、児童生徒が抱える問題は多様化し、ますます複雑になっております。
こうした中、先日、性同一性障害のある児童生徒に係る対応も報道等で取り上げられま
した(別添参照)。性同一性障害のある児童生徒は、生物学的には性別が明らかであるに
もかかわらず、心理的にはそれとは別の性別であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己
を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であり、学校での活
動を含め日常の活動に悩みを抱え、心身への負担が過大なものとなることが懸念されます。
こうした問題に関しては、個別の事案に応じたきめ細やかな対応が必要であり、学校関係
者においては、児童生徒の不安や悩みをしっかり受け止め、児童生徒の立場から教育相談
を行うことが求められております。
したがって、各学校においては、学級担任や管理職を始めとして、養護教諭、スクール
カウンセラーなど教職員等が協力して、保護者の意向にも配慮しつつ、児童生徒の実情を
把握した上で相談に応じるとともに、必要に応じて関係医療機関とも連携するなど、児童
生徒の心情に十分配慮した対応をお願いいたします。
また、都道府県・指定都市教育委員会にあっては所管の学校及び域内の市区町村教育委
員会等に対して、都道府県知事にあっては所轄の私立学校に対して、この趣旨について周
知徹底を図るとともに、性同一性障害を始めとする新たな課題についても学校において適
切に対応ができるよう、必要な情報提供を行うことを含め指導・助言をお願いします。
本件担当:児童生徒課 企画係 電話 03-5253-4111(内線2559)
111
(別添)
男の子を女の子として受け入れることとなった性同一性障害の事例について
【受入れまでの経緯】
平成20年10月、小学1年生の男子児童の母親が自治体の家庭児童相談室を通じて市
の教育委員会に相談を行ったところ、市教委から専門医への受診の提案を行った。平成
21年2月専門医において初診を受け、その後、同年4月にその診断書を学校に提出し、
配慮を求めた。学校長及び市町村教育委員会は相談・連携の下、同年7月、校長より専
門医へ相談を行い、その結果、同年9月2学期より、女の子として受け入れを決定した。
【関係者への説明】
○ 平成21年9月、校長より全職員に対して当該児童への配慮事項について指示。
○ 9月1日全校朝会にて、校長より児童への説明。さらに、同日、全学級において、
担任より説明。
○ また学校 PTA 会長及び当該児童が在籍する2年生の学年委員の保護者には、学校
長が説明。
○ 当該児童の在籍する学級では、同年9月保護者会の席上で当該児童の保護者が、他
の保護者に説明。
【現状】
平成21年9月以降、服装・トイレ等についても女の子として学校生活を送っており、
特段の問題は生じていない。
112
編集委員
平成24年度 神奈川県高等学校教育課程研究会
(人権教育部門)研究推進委員
・小田原高等学校 能勢 弘之
博
・磯子高等学校 笠井 裕
・横浜修悠館高等学校 井上 惠
・追浜高等学校 松野 可奈子
・鶴見総合高等学校 木谷 美佐子
・教育局行政課 石塚 昭司
・教育局高校教育指導課 宇喜多 宣穂
平成22年度・平成23年度人権教育部門の研究推進
委員として人権学習ワークシート作成に参加しま
した。
・藤沢総合高等学校 桜井 弘子
・川崎北高等学校 八木沼 勤
人権学習ワークシート集Ⅴ
人権教育実践事例・指導の手引き(高校編第14集)
発行年月日 平成25年2月
発 行 神奈川県教育委員会
編集責任者 神奈川県教育委員会教育局
総務部行政課長 遠山 至
教育指導部高校教育指導課長
久保田 啓一
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